== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
結局、振り出しに戻る。
ヤオ子の中忍試験までの修行内容は、未だ白紙状態だ。
ヤマトの話を聞いて新しい性質変化を身につけるよりもやることは理解できた。
しかし、中忍試験までの期間、一体、何を向上させるべきなのか?
明確な回答を得ぬまま、ヤオ子はナルト達の下を後にすることになった。
「困りましたね……。
久しぶりに秘密基地に行きますか……」
ヤオ子は、自分の練習場も兼ねる秘密基地へと向かう。
第69話 ヤオ子の自主修行・予定は未定③
サスケに大事なエロ本を処分され、自宅に本棚が出来てから秘密基地にエロ本は置いていない。
代わりに、秘密基地には簡易的な生活道具などが置かれている。
雨水を飲み水に変えるろ過装置とタンク。
料理道具一式。
寝袋。
etc...。
それが地上部分。
地下は拡張した空間に、忍具と乾燥させた薬草の置き場所になっている。
理由はある。
時空間忍術で巻物を利用して口寄せするためである。
忍具は、敵から奪ったものを整備して保管。
薬草は、日持ちさせるために乾燥させ、地下に置くことで温度の変化に気を付けている。
「貧乏性で捨てられないことから出来た空間。
自宅に置いとくわけにもいかないですしね。
そして、テンテンさんは、あの巻物の武器を何処に保管しているのか?
・
・
まあ、どっちにしろ。
こういう広い空間が必要ということです」
ヤオ子は地下室に置いてある忍具を眺める。
「手裏剣、クナイ、起爆札、炸裂弾、閃光弾、煙玉、ワイヤーなどなど……。
これらを臨機応変に使えるようにもならないと。
まずは、もう一度、本を読んで使い道をおさらいです」
続いて薬草を見る。
「遠出をする度に、地味に集めて来た薬草……。
使ったことのないものも沢山あります。
でも、こうして置けば、いざって時に対応できます。
もう、あんな思いは御免ですからね」
ヤオ子は腰の後ろの道具入れから巻物二つ取り出す。
「これでいつでも取り出し可能です。
ここの場所は、誰も知りません」
ヤオ子自身、利便性優先で忘れているが、忍具や薬草を口寄せするという新しい技術をしっかりと習得していた。
これは間違いなく、サスケが去ってから得た力だ。
ヤオ子は自分自身について、鈍いところがある。
そして、巻物二つを腰の道具入れに仕舞う。
「道具は問題ないです。
次は、基礎の確認です」
ヤオ子は秘密基地の外に出た。
…
今まで得た技術を思い出しながら、ヤオ子は自然体で目を閉じる。
自分の歩んできた日々を振り返って、現在の戦力を確認する。
「投擲術、体術、忍術。
大まかには、この三通りでしょう。
投擲は毎日練習して、命中率と射程距離は、随分と上がりました。
結構、自信あります。
・
・
次に体術。
これは、今や独自の複合体術になりました。
基本はガイ先生とリーさん仕込みの体術。
これにネジさんの柔術を少し加えました。
腕だけの回天が使えるようになっています。
更に直角動作を会得しました。
これは忍犬の赤丸さんと忍猫のタスケさんを真似して、キバさんに擬獣忍法を叩き込んで貰いました。
そして、両親の強引チャクラ吸着……。
・
・
次に忍術。
アカデミーでの基本忍術。
サスケさん直伝(?)のラブ・ブレス(豪火球の術)。
必殺技・ヤオ子フィンガー。
おいろけの術。
おいろけ・ハーレムの術。
おいろけ・部分変化の術。
おいろけ・走馬灯の術。
・
・
やっぱり忍術だけが強化できていないです。
増えたのがおいろけだけって……。
あたし、何してたんだろう?
・
・
いや……。
身体エネルギーを向上させるために、投擲と体術に特化した修行をしていたんだから仕方ないです。
寧ろ、今回の時間は、置き去りにした忍術に充てればいいんです」
ヤオ子は目を開けると、ストンと腰を下ろして胡坐を掻いて考える。
「忍術……。
何を強化するべきか?
何を補うべきか?
おいろけと基本を除いて攻撃が二つしかないのが問題です。
・
・
ラブ・ブレスは、遠距離攻撃。
必殺技は、近距離攻撃。
中距離攻撃がない。
威力が中途半端。
・
・
新たな術を加えるべきか?
応用を加えるべきか?
応用で四点爆撃術を追加したけど、威力は変わらないです。
それに……火属性だけで防がれないか?
・
・
でも……。
そこは問題なさそうなんですよね。
あたしの必殺技……。
サスケさんに指摘されたけど、
属性関係なしにダメージ与えられそうなんですよね。
・
・
ん?
だったら、威力を上げればいいんじゃないの?」
ヤオ子が腕組みをする。
「必殺技の爆発の威力を槍の射程ぐらいまで上げられれば中距離攻撃が可能になって、
近・中・遠を全てカバー出来るんですよね~。
・
・
距離を上げるのか……」
ヤオ子は眉間に皺を寄せる。
「こういう時は、原点に戻るべき。
あたしの術はリトルフラワーを基にして、ゴッドフィンガーの名前を貰った必殺技です。
ゲンスルーは、これを強化した技を持っていません。
ドモンは? 東方不敗マスター・アジアは?]
ヤオ子が跳ね起きる。
「石破天驚拳に昇華してる……。
そうです!
両手撃ち!
両手の爆撃による相乗効果を利用するんです!
応用技で四点装填が可能なんですから、両腕の二点装填なら可能です!」
思い立ったら、直ぐ実行。
ヤオ子はチャクラを練り上げ、印を結び、両手にチャクラの装填を終える。
「いっけェ!」
いつもと違う片手ではない、両手の付け根を揃えて突き出す構え。
付け根の部分の行き場をなくした爆発の威力は、前方と技を支える自身へ向かう。
「うわ!」
予想外の爆発の威力。
手に変える反動は末端の足まで伝わり、足のふんばりが耐え切れずにヤオ子は吹っ飛んだ。
そして、しこたま背中を地面に打ち付けたあと、よろよろと立ち上がる。
「こんなに術の威力があがるなんて思わなかった……。
威力が上がって盾の形成が弱過ぎるし、反動を押さえ切れなかった……。
・
・
というか……。
いった~い!
両手を火傷した!」
ヤオ子は俯き、両手を下げる。
両手を襲う激痛に脂汗を流して耐える。
「綱手さんのところに行かないと!」
ヤオ子は綱手の元へと走って行った。
…
ヤオ子は綱手の火影専用の部屋を蹴飛ばす。
両手を使えないから、何度もガンガンと蹴飛ばす。
そのあまりに酷くてしつこい音に、何事かとシズネが扉を開けた。
「ヤオ子ちゃん?
どうしたの?」
「これ」
「あひィーッ!」
ヤオ子の両の掌を見て、シズネが悲鳴を上げた。
「どうした!?」
「ヤオ子ちゃんの両手が!」
「火傷したから治して」
綱手が席を立ち、シズネの横でヤオ子の両手を見ると、直ぐ様、ヤオ子にグーを炸裂させた。
「何で、午前中に休暇を貰って、
午後になったら大怪我して来るんだ!」
「いいから、治して!
やたら痛いんです!」
「当たり前だ!
馬鹿者が! 全く!」
綱手は医療忍術をヤオ子の両手に掛け始めた。
~ 数分後 ~
ヤオ子の両手は綺麗に治り、怪我をする前と違わない状態に戻った。
「あ~、痛かった……。
さすがに泣こうかと思いましたよ」
「何で、こうなるんだ!」
「術に失敗したから」
「少しは気をつけろ!」
「面目ない……」
シズネがヤオ子に質問する。
「それにしても……。
何で、病院に行かないの?
あっちの方が近いから、ここまで我慢することもないでしょう?」
「だって、医療忍者としては綱手さんが一番優秀なんでしょう?」
「つまり……。
綱手様を利用したんですか?」
「その通りです。
偶には、あたしが顎で使ってもバチは当たらないと思います」
(この子……。
ある意味、大物よね……)
ヤオ子が手を上げて回れ右をする。
「じゃあ。
また、失敗したら来ます」
「ちょっと、待て!
お前、何をしているんだ!」
「修行ですよ」
「どんな修行をすれば、そうなる!」
「失敗を恐れずにやるとこうなるんです」
「…………」
綱手とシズネは螺旋丸を習得したナルトの姿を思い出していた。
あの時、ナルトはチャクラの練り過ぎで経絡系にとんでもない負荷を掛け、自身の両手を火傷させていた。
それ以上に、今回のヤオ子の怪我は不注意な点が多すぎるので、比べるのもおこがましいが……。
「ったく……。
この世代のガキは、どいつもこいつも……」
「そうですね」
意味ありげな綱手とシズネの言葉に、ヤオ子は首をかしげた。
「ほどほどにしろよ。
治す方の身にもなれ」
「気をつけます。
なるべく……。
・
・
ありがとね」
ヤオ子は礼も早々に切り上げ、去って行った。
「ナルトだけが特殊かと思ったが、大間違いだな」
「ええ。
うちはサスケ奪還の時に、皆、大怪我をして。
風影奪還の時にはサクラも無茶して。
今度は、ヤオ子ちゃん……。
この里の子は無茶し過ぎです」
「本当に……。
でも、勇気があるとも言える……。
・
・
まあ、無謀とも言えるものもあったがな」
「先が思いやられますね」
綱手とシズネが溜息を吐いた後に微笑む。
そして、少し未来に思いを向けた。
…
ヤオ子は町中を走り、自分の修行場へと急ぐ。
一度、思いついたことは、さっさと仕上げてしまいたい。
今は好奇心によって突き動かされている。
「さっさと中距離の忍術を完成させて、別の修行をしないと!」
ヤオ子は民家の屋根を飛び移るり、途中、すれ違う中忍と挨拶を交わす。
任務でお世話した駄菓子屋でお菓子を貰う。
ケーキを貰う。
雨樋を直すのを手伝う。
壁板の張替えを手伝う。
連行中の下手人の脱走追跡を手伝わされる。
腹痛のお婆さんを木ノ葉病院に運ぶ。
切れた電線を修繕する。
そして、自分の修行場に戻った。
「何これ?
呪われているんですか?」
ヤオ子は地面に手を着いて項垂れた。
トラブルを引き込む、何らかの迷惑なスキルが発動したのかもしれない。
「と、とりあえず……。
修行の続きを……」
ヤオ子は修行を再開することにした。
先ほどは失敗したが、両手を使って術の威力を上げるという事実だけは得ることが出来た。
つまり、この術の応用には先があるということだ。
ヤオ子はチャクラを練り込み、印を結ぶ。
両手に送るチャクラをコントロールして、術発動に使うチャクラは少なく、盾に使うチャクラは同じに保つ。
「爆殺! ヤオ子フィンガー! ×2!」
新しい術の応用技が爆発する。
早速、どれだけ威力が上がったか検討しようとする。
しかし……。
「ふ……。
最初に技の威力を落とした必殺技を確認していなかった……」
検討できなかった。
比較対象の威力を抑えた必殺技の威力の情報がなかったので比較のしようがない。
ヤオ子はチャクラを練り込み、印を結び、片手を突き出して弱めた必殺技を発動する。
「さっきの両手うちと比較して、大体、1.7倍~2倍ぐらいかな?
二回当てるのより、少し無駄かな?
でも、威力だけなら……」
そうチャクラの消費と比例していないが、威力は確実に上がっていた。
「考え物ですね……。
二回使うよりも無駄なんて。
・
・
射程はクリア。
でも、威力は二倍弱か」
ヤオ子は、再び考え込む。
威力を上げるために、いろいろと補強しなければいけないものが多すぎる。
「う~ん……。
瞬間的にでも威力が上がればいいか……。
詰まるところ、盾の威力も二倍にすれば問題なしで使えますからね。
・
・
でも……。
一番チャクラを使う、盾に二倍の消費量を使うのか……。
H×Hの制約と誓約みたいですね。
鋼の錬金術師の等価交換は成立していませんが……」
悩んで愚痴を言っても仕方ないと、ヤオ子は修正した応用技を試すことにした。
チャクラを練り上げて、印を結ぶ。
前屈みになり、両手を腰に構え、綿密なチャクラコントロールの末、盾に二倍のチャクラを装填する。
「爆殺! ヤオ子フィンガー! ×2!」
大爆発が起きて、再びヤオ子が吹っ飛んだ。
「また致命的な欠点が……。
腕の補強ができたと思ったら、今度は体を支え切れない……」
ヤオ子は立ち上がって、大きく息を吐く。
「なら、チャクラ吸着で踏ん張りを強化するまで!」
チャクラを練り上げて、印を結び、今度は術の発動と同時に足にチャクラ吸着を追加。
「爆殺! ヤオ子フィンガー! ×2!」
大爆発が起きて、再びヤオ子が吹っ飛ぶ。
「…………」
ヤオ子は地面に手を着く。
「扱え切れない……。
チャクラ吸着に回すチャクラが間に合わない」
ヤオ子はバタリと仰向けになると、空を見上げる。
「瞬間的に発生出来るチャクラが足りない。
だから、足に回せるチャクラが少ないんだ……」
ヤオ子の頭には、ネジの回天が浮かぶ。
「ネジさんみたいに全身からチャクラを噴出できるぐらいに、瞬間的にチャクラを生成できないとダメです……。
今まで忍術を蔑ろにしてたから、術の強化を図っただけでボロが出ました……」
ヤオ子は溜息を吐く。
「あたし、思い上がってたな……。
チャクラ量が増えて……。
術の使用回数も増えて……。
調子に乗ってチャクラ性質を増やそうなんて……。
・
・
術に必要なチャクラ生成の瞬発力が疎かになっていました」
「…………」
暫く空を見上げて反省する。
「ヤマト先生の言った通りです。
見つめ直したら、早速、欠点が出て来ました。
手持ちの術を扱え切れていないのに、次に行けるはずがありません。
手持ちの技を納得いくまで活かせるようになってから、次のステップへと進むべきですね」
ヤオ子は立ち上がる。
「基本修行は、そのまま。
ただし、時間を短縮して行うようにして、チャクラ生成の瞬発力をつけましょう。
そして、短縮した時間の分だけ、疎かになっていた術の応用に回します。
新しいことは、それからです」
結局、ヤオ子の中忍試験までの修行は、内容が濃くなっただけであった。
とはいえ、ヤオ子は、やっとサスケがアカデミーを卒業した時と同じ歳に近づいたばっかり。
何をするにしても、まだまだ土台が出来ていない状態には変わらない。
そして、修行の密度を濃くして数日後、訃報が届くのであった。
…
※※※※※ 番外編・ヤオ子の去ったナルトの修行場で ※※※※※
ナルトの修行をサクラとカカシは見守り、ヤマトは九尾のコントロールを継続中。
そして、この静かになった雰囲気は、ヤオ子が去ったからに他ならない。
故に、ヤオ子が如何に場を乱していたのかがよく分かる。
ここでサクラにはある疑問が浮かんだ。
「ヤマト隊長」
「ん?」
「ヤマト隊長は、ヤオ子に甘くないですか?」
「どういうことかな?」
「私達……。
サイと揉めた時に恐怖で支配されかけたんですけど……」
「はは……。
あの時は、悪かったよ」
「まあ、私達に非があったから、文句も言えないですけど……。
・
・
ただ、何でヤオ子に同じことをしないのかなって?」
カカシがサクラ達の会話を聞いて話す。
「そんなことがあったのか……。
・
・
恐怖で支配したの? お前?」
「成り行きです!
どうしようもないぐらいに、三人が険悪だったんです!」
「そうなんだ……。
だが、サクラの言う通りなら、ヤオ子もそれで制御できないか?」
ヤマトは、複雑な顔をしながら溜息を吐く。
「先輩達は、何も分かっていない……」
「?」
「あの子は、そういうの大好物です……」
「「は?」」
「そんなことで縛ろうものなら、どんな変態的な反応が返ってくるか……。
・
・
『あたし、ヤマト先生のためにドMに目覚めます』とか……。
『そういうプレイが好きなんですか? 合わせます♪』とか……。
そういうことを言うに決まっている……」
カカシとサクラが同情を含んだ苦笑いを浮かべる。
「あの子と会ってから、そんなことばかりです……。
正直、恐怖で縛ったぐらいで言うことを聞いてくれたサクラ達に感動すら覚えましたよ……」
((苦労してるな……))
カカシがヤマトの背中をポンと叩く。
「まあ、元気出せ。
オレは、お前を羨ましいと思う時もあるんだから」
「……本当ですか?」
「ああ……。
あの子、反応がいいだろ?」
「「は?」」
ヤマトとサクラが首を傾げる。
「最近、ナルトとサクラの反応が悪くてな……。
昔は、どんな些細なことにもイチイチ反応してくれる奴等だったのに……」
(カカシ先生……。
かまって欲しかったんだ……)
「そういうことですか……」
「あの子、どんな些細なことでも100%反応するだろう?」
「ええ……。
確かに……」
「そういうコミュニケーションが大事だと思うんだ」
(この二人は、何の話をしているの……)
「でも、大変ですよ……。
普通の返しじゃないですからね。
四割まともな回答が返れば大成功って感じですから」
「六割が失敗か……。
よくそれで会話が成立するな」
「まあ、こちらが叩きのめされた後に、用件は聞いてくれるんで……」
「はは……」
((本当に苦労してるな……))
ヤマトは少し俯いた後で、笑みを浮かべる。
「でも、いい面もあるのは確かですね」
「例えば?」
「普段、鍛えられているせいか、
ナルトとサクラとサイを相手する時に、精神的ダメージが思ったより多くないんですよ」
「ヤマト隊長!
私も含まれるんですか!?」
「自覚がないってのは恐いな……」
「カカシ先生まで!」
ヤオ子が去った後で、こんな会話があったとかなかったとか……。