== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
それは素晴らしい踵落としだった。
軽く地面を蹴り、浮き上がる体。
柔軟に振り上がる右足。
修行で培ったチャクラコントロールの粋を極めた怪力。
目にも止まらぬ高速の振り抜き。
サクラの踵落しは、ヤオ子を縦に地面に減り込ませた。
実にアンコを怒らせて以来の出来事だった。
第68話 ヤオ子の自主修行・予定は未定②
地面から生えるポニーテールがピクピクと痙攣している。
サクラを除く三人が死を予感する。
「し、死んだんじゃないの?」
「髪の毛しか出てないってばよ……」
「まるで杭でも打ち込んだみたいだ……」
「…………」
サクラが腕を組んで吐き捨てる。
「こんなことで死にゃーしないわよ!」
「で、でも──」
「この子は綱手師匠に本気で殴られてもピンピンしてんだから!」
「サクラちゃん……。
もう、師匠越えしたんじゃないの?」
「それなら、確実に死んでるな」
「…………」
サクラが地面を蹴る。
「いつまで、しらばっくれてんのよ!」
サクラの態度に怯えながら、ナルトがカカシ達に話し掛ける。
「オレ……これで生きてたら、
ヤオ子の方が気持ち悪いんだけど……」
「いや、でも……。
死人が出るのは、もっと拙い……」
「医療班を呼ばないと!」
ヤマトの言葉にナルトとカカシがサクラを指差す。
命を助ける医療忍者が命を刈り取った……。
「…………」
暫しの沈黙のあと、地面から両手が這い出る。
さながら、墓場から出てくるゾンビのように……。
そして、ひょっこりとヤオ子が顔を出した。
「あ~……。
しんど~……」
「本当に生きてたってばよ……」
ヤオ子がチャクラを練り上げ、印を結ぶと地面で爆発が起こる。
それと同時にヤオ子が飛び出した。
「あ~あ……。
泥だらけになっちゃった」
「あの攻撃を食らったら、そんな言葉じゃ済まないでしょ……」
服に付いた泥を叩き落としながら、ヤオ子がカカシに答える。
「今のあたしにはギャグ体質の加護がついているので、
ちょっとやそっとの攻撃は効きません」
「体が減り込むほどの攻撃の、何処がちょっとやそっとなんだ?」
「さあ?
それはギャグをする上での鉄板なんで、突っ込まれても困ります」
「だから、言ったじゃない」
フンとサクラは、鼻を鳴らす。
「でも……いい術でしょ?」
「アァ!?」
サクラがヤオ子を睨みつける。
「ブラにパット入れるよりも全然いいじゃないですか」
「あんたね……」
ヤオ子は地面を踏みしめ、ビシッ!とサクラを指差す。
「まだ成長途中なんだから、夢見たっていいじゃないですか!
サスケさんが巨乳好きなら、どうするんですか!?」
サクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。
「変な例えにサスケ君を使うな!」
「じゃあ、ナルトさんが巨乳好きなら、どうするんですか!」
「何もしないわよ!」
「何言ってんだ!」
ナルトとサクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。
ナルト達を見て、カカシは苦笑いを浮かべる。
「何か懐かしいな……。
ヤオ子の服がサスケを思い出させる。
ただ……。
オレの中のサスケのイメージを、これ以上、壊さないでくれ……」
項垂れるカカシを見て、ヤマトが苦笑いを浮かべる。
「あの子、掴みどころがないんですよね……」
「お前も苦労してるよな」
「ええ。
先輩は、ずっとですよね?」
「ああ。
大変だぞ……アイツらの化学反応は」
「うちのは常時反応しっぱなしですけどね」
「どっちがいいんだろうな」
「混ぜなきゃいいんじゃないですか?
混ぜるな危険ですからね」
「アイツら、液体洗剤か?」
「いい例えですね」
「…………」
目の前では、ヤオ子がまた埋まった。
「そろそろ修行を再開するか……」
「そうですね……」
カカシとヤマトがナルト達に近づく。
「そろそろ始めるぞ」
「オウ!」
「頑張ってください」
地面の中から声がするとカカシは溜息を吐き、続いてサクラに質問する。
「サクラは、何をしに来たんだ?」
「様子を見に来たんです。
そうしたら、ヤオ子が!」
「サクラさんの夢を叶えただけなのに」
サクラがヤオ子の頭を問答無用に踏みつける。
「あなたは残虐超人ですか?」
「まだ言うの?」
「ヤマト先生。
このまま土遁の地中移動術を伝授してくれませんか?」
「性質変化も覚えずに無理だよ」
「カカシさん。
あなたの生徒を引き離してくれませんか?」
「反省した方がいいんじゃない?」
「頼りにならない大人達です。
自分で何とかします」
直後、サクラの足元で煙が上がった。
「消えた……」
そして、地面がモコモコと盛り上がり、一匹のモグラが姿を現す。
「わざわざ土遁なんて使わなくても、変化すればいいんですよね」
ヤオ子が変化を解いて、元の姿に戻る。
「まあ、無駄にチャクラを使うし、実戦じゃ、何の役にも立ちませんがね」
ヤオ子が服を叩いて、再び土を落とす。
「やっぱり、ここで一番まともなのはナルトさんだけです」
「ナルト?」
「もう、修行始めてますよ。
あんたら、何してんですか?」
全員から、ヤオ子にグーが炸裂する。
「「「お前が乱してんだ!」」」
ヤオ子が頭を擦る。
「こんな時だけ、息ピッタリに……。
・
・
ところで。
あたしの修行は、どうすればいいですかね?」
サクラが腕を組んで、ヤオ子に聞き返す。
「何?
あんた、修行するの?」
「ええ。
中忍試験を受けるみたいなんで」
「何で、言い方が人事なのよ?」
「まだ時間あるし……。
・
・
兎に角、修行をしようと思ってます」
「修行ねぇ……」
「半年近くもあるし、どうせなら性質変化を一つ増やそうかと」
「思い切ったことをするわね」
「そうですか?」
「ん?
そういえば……」
ヤオ子の『修行』という言葉を聞いて、サクラはふと思い付いた。
「あんた、頭いい方よね?」
「性の知識に関しては、右に出る者はいません」
「真面目に答えろ!」
サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「え~と……。
任務の関係上、色々と覚えていますけど……」
「ヤオ子、医療忍者目指さない?」
「ヤダ」
ヤオ子、即答。
「何でよ?」
「あんな格好悪い服なんか着たくないです!」
「……服?」
「何ですか!?
医療部隊のあの全身タイツみたいな白いの!
いくら清潔な状態を維持しないといけないとはいえ!
あんなの嫌だーーーっ!」
(また、何て理由よ……。
形から入るのかい……)
「大体、綱手さんとシズネさんとサクラさんに、これ以上、関わりを持ちたくないんですよ!」
「どういう意味だ!」
サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「こういう意味だ!
ポンポンポンポン殴って!」
「それは、あんたのせいでしょ!」
「ちっが~う!
木ノ葉のツッコミの率が多いの!
ボケが少ないから、あたし達ボケ組が苦労するんです!
ネプチューンの逆です!」
「また、訳の分からないことを……。
もう、いいわ……。
あんたは、どんな忍者になりたいのよ?」
「ヤマト先生かイビキさんみたいな忍者」
カカシとサクラが吹いた。
「ヤオ子、おかしいぞ!
何で、あのサディストが候補に入っているんだ!?」
「そうよ!
あたし、中忍試験で怒鳴られて吃驚したわよ!」
「あたしだって!
ファーストコンタクトで気絶させられましたよ!」
「「え? それ、ありえないって……」」
事情を知っているヤマトは苦笑いを浮かべる。
ちなみに、ヤマトは既にナルトの九尾のコントロールに取り掛かっている。
「でも、いい人ですよ」
「分かんない!?
ヤオ子の頭って、おかしいわ!」
カカシがサクラの方に手を置く。
「サクラ……。
イビキは置いて考えよう」
「そうですね」
(先輩もサクラも酷い……)
「とりあえず、オレ達の情報にはヤマトの情報がある。
そこから、ヤオ子の目指す忍者を予測するんだ」
「なるほど」
「変な師弟ですね」
ヤオ子は首を傾げ、カカシは指を立ててサクラに続きの質問する。
「ヤマトと言えば?」
「木遁忍術。
隊長。
冷静な判断。
気前がいい。
そして、カカシ先生よりも常識があります」
「そうだな。
最後のは少し傷ついたぞ」
「カカシ先生が遅刻しなければ。取り消しますけど?」
「…………」
カカシは空を見上げる。
「それでだ……」
(((無視した……)))
「今、あげた中でヤオ子が興味を持ちそうなのは?」
「…………」
サクラが少し考える。
「ありません」
「いや、あるだろう……」
「…………」
あらためて、サクラが少し考える。
「そうですねぇ……。
やはり、木遁忍術でしょうか?」
「オレも、それが一番だと思う」
ヤオ子はチョコチョコと頬を掻く。
「あたし、人格的にもヤマト先生を尊敬していますよ?
この中じゃ、一番まともだし」
「…………」
カカシとサクラは、空を見上げる。
「それでだ……」
((無視した……))
「ヤオ子は特別なものに憧れ易いんじゃないかと思う」
「なるほど。
ヤマト隊長の木遁忍術は血継限界。
十分に有り得ますね」
「これ突っ込んだら負けなのかな?」
「そうなると……。
将来的には血継限界に手を出しそうですね?」
「そう思う。
現に、さっき木遁に手を出そうとしていた」
「お笑いですね」
「何でしょう?
ふつふつと怒りが蓄積されていきます」
「後、絶対に触るなと言うものに触りそうですよね?」
「そういえば……」
「絶対に危険なものを混ぜ合わせますよ」
「一瞬、大蛇丸が頭を過ぎったな……」
「大変!
このままだと第二の悲劇が!」
「本当に突っ込んでいい?」
「纏めると……。
好奇心旺盛で自ら滅ぼすタイプ……かな?」
「そんなところじゃないですか?」
「お前ら、歯を喰いしばって並べ!」
ヤオ子は、キレた。
「あたしのあだ名を教えましょうか!?
キレたナイフですよ!」
「出川か!」
サクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。
「ぐぐぐ……。
ネプチューンは知らなかったくせに……」
蹲るヤオ子に、カカシがパタパタと手を振る。
「ヤオ子。
冗談だから」
「カカシさん。
あなたも大概にしてください。
教え子と一緒に仲良くからかいやがってです」
カカシがヤオ子の頭を撫でる。
「まあ、そこまで焦ることはないと思うぞ」
「そうですか?」
「ボクもそう思うよ」
ヤマトがカカシの話を引き継ぐ。
「焦って適当に性質変化を覚えるのは良くないよ。
まず、自分の特性を研究してからでいい。
そして、じっくり考えて強化するのか補うのかを考えるべきだよ」
ヤオ子は頭に手を当てる。
「……そうですね。
少し焦り過ぎたかもしれません。
自分を見つめ直してみます」
ヤマトが微笑む。
その様子を見て、サクラがカカシに呟いた。
「負けてますね……」
「どういうこと?」
「ヤマト隊長の方が先生しているってことです」
「…………」
カカシは少し切なくなった。