== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
あの日以来、サスケは常にヤオ子を朝修行に付き合わせている。
最初はサボり癖のあるヤオ子を引っ張っていくことが目的だったが、理由は少しずつ変わりつつある……。
ヤオ子は疲れた顔で朝修行から帰宅すると項垂れた。
「要するにあたしは、サスケさんの投げた手裏剣やクナイを取りに行く
都合のいいお手伝いさんというわけです……。
あの野郎は『いいパシリ見つけたぜ』とほくそ笑んでるに違いありません……。
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まあ、サスケさんの近くに投げ返すのが修行と言えば修行なんですけど……」
しかし、ただ投げ返すだけなら、ここまで疲れない。
疲れる理由は、サスケの修行場の的が一箇所ではないことだ。
前後左右オールレンジに配置されてあるため、的を全部巡るだけでも大変な作業なのだ。
「あのドSは、あたしという都合のいい下僕が欲しかったに違いない……」
本日、延長して行なわれた朝修行のせいで、時刻は午後になっていた。
ヤオ子は、居間に遅い昼食を食べに向かった。
第5話 ヤオ子と第二の師匠
居間に入るとテーブルの上に置き手紙がある。
ヤオ子は、それを手に取り首を傾げる。
「ん? 何これ?」
『昼食は、終わりました。』
「は? だから?」
テーブルの上には何もない。
ということは……。
「お昼抜けってのか!?
あいつら、あたしがサスケさんに連れてかれてんの見てただろ!
しかも、和やかに挨拶まで交わして!
あたしのエサは!?」
ヤオ子は店先に走り、引き戸を乱暴に開くと叫ぶ。
「あたしのエサは!」
「勝手に食って来い!」
接客中の父親は店の金を掴み、ヤオ子に投げつけた。
ヤオ子は、それをダイレクトキャッチして呆然とする。
「ありえない……。
しかも、お金少ないし……」
ヤオ子を無視して接客に精を出す父親の後姿を眺めると、ヤオ子は生まれの不幸を呪いながら店を後にした。
…
行くところは一軒しかない。
『うまい』『安い』『早い』の札の貼ってある店、一楽である。
ヤオ子が、一楽の暖簾を潜る。
「おじさ~ん。
安くて腹持ちのいいヤツ~」
ヤオ子が先客の隣に座ると、一楽の主人は方眉を曲げて言葉を返す。
「お嬢ちゃん……。
メニュー見て頼んでくれないか?」
「予算は、これだけで」
一楽の主人の言葉を無視して、ヤオ子は自分の都合を押し付けてお金を先にカウンターに置いた。
「仕方ねぇな。
あそこの子なら……」
(また、貧乏って思われた……)
一楽の主人は代金を取ると、ラーメンを作り始めた。
ラーメンの出来るまでの待ち時間。ヤオ子は隣の子に目を向ける。
「何だよ?」
「いや、同類かと思って……」
「一緒にすんな!
オレってば、自分で働いて払ってるんだから!」
「働いてんの? その歳で?
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あ、額当て。
忍者の方ですか」
「そうだってばよ」
「サスケさんと同じか」
ヤオ子の言葉に、金髪でオレンジの服の少年が反応する。
「お前、サスケを知ってんのか?」
「はい」
「お前ってば……。
やっぱり、サスケが好きなの?」
サスケは、くノ一達に人気がある。
少年は、それが気に入らないため質問した。
「ありえませんよ、あんなドS。
あんなのがいいなんて、皆、目が腐ってんじゃないですか?」
「やっぱり!
お前、見所あるってばよ!」
「当然の見解です」
ヤオ子と少年は数分で打ち解けた。
「オレ、うずまきナルト。
え~っと……」
「八百屋のヤオです」
「そうか! ヤオ子か!」
「いや……。
ヤオですって」
「で。
ヤオ子は、何で、サスケを知ってんだ?」
(何で、誰もあたしの本名を呼んでくれないの?
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・
まあ、この人馬鹿そうだし……)
ヤオ子は自分の中で自己完結すると答えを返す。
「まあ、ちょっと道で会って。
それからの関係ですね」
「ふ~ん」
「うずまきさんは、どういった知り合いなんですか?」
「名前でいいってばよ。
オレは、第七班の同じ班」
「最悪の人と一緒になっちゃいましたね」
「分かる?
そうなんだってばよ!
アイツ、いつもすかしてカッコつけて!」
「分かりますね。
本人、きっとカッコイイと思ってますが
根暗なだけですからね」
「そう!
お前、本当に見所あるな!」
ヤオ子は、少年の名前である事を思い出す。
「ナルト……?
・
・
ナルトさんって、おいろけの術を開発した……あのナルトさん?」
「知ってんの?」
「ええ。
あたしが最初に発動して、
サスケさんに見せたのがその術です」
「ヤオ子も出来るの?」
「はい」
一楽の主人は変な会話に首を傾げながら、ヤオ子の前にラーメンを置く。
「おじさん、ありがとう」
ヤオ子は美味しそうにラーメンを食べ始める。
「ナルトさん。
でも、サスケさんに見せたら殴られちゃいましたよ」
「オレもだってばよ。
ついでにサクラちゃんにも……」
「何で、あの術の価値が分からないんですかね?」
「オレも同じ気持ちだってばよ」
一楽に馬鹿が二人。
「あの術でオレってば、火影の爺ちゃんを倒したんだぞ」
「凄いですね。
でも、老い先短い老人にはキツイ術なんじゃないですか?」
「そうかもしれない……。
少し使うのを控えよう」
ナルトは丼のスープを啜り、ヤオ子はラーメンを啜る。
「あたしは、まだ術を覚え始めたばかりなんですけど、
ナルトさんは他にも術を開発しているんですか?」
ナルトの顔がパッと輝く。
自分に興味を示す人間は久しぶりのことだった。
「聞きたい!?
本当に聞きたい!?」
「聞きたいですね。
特にエロ系の忍術は全部」
(この子達、頭大丈夫なのか?)
一楽の主人は二人の会話を聞いて、本気でヤオ子達の将来を心配し始めた。
やがて、ヤオ子とナルトが食べ終わる。
「おじさん、ごちそう様でした。
美味しかったです」
「また、来るってばよ」
意気投合した二人が一楽を出て行くと、その後ろ姿を見て一楽の主人は呟いた。
「あの子……言葉遣いは丁寧なのにな。
ナルトと性格が合う時点で終わりかもしれねぇな」
一楽の主人は、二人を諦めた顔で見送った。
…
ナルトに連れられて、ヤオ子はちょっとした広場に移動する。
ここは木の葉の里から少し離れた演習場の一つだった。
そこでナルトが胸を張って咳払いを入れる。
「この術は、おいろけの術を超える高等エロ忍術だってばよ」
「高等なんですか?」
ナルトが力強く頷く。
今、ナルトが披露しようとしているのはハーレムの術というものである。
この術で使用される影分身の術は、確かに高等な上位忍術である。
「いくってばよ!
多重影分身の術!」
ヤオ子の前で、印を結んだナルトが幾人にも増える。
「続いて! おいろけの術!」
更に幾人ものナルトが美女に変化する。
それを見たヤオ子は驚愕する。
「ま、まさかこれほどまでの強烈忍術とは……」
ヤオ子は方膝をつくと、ナルトは腕組みをして自慢げに術を解いた。
ヤオ子はナルトのズボンにヒシッとしがみ付いた。
「ナルトさん!
あなたを師匠と呼ばせてください!」
「師匠……。
いい! それ、いいってばよ!」
「じゃあ──」
「弟子にしてやるってばよ!」
「えへへ……。
弟子入りしちゃった」
ここにサスケが一番恐れていた接触による悲劇が完成した。
ナルトが威張りながら話し掛ける。
「まず、師匠としてヤオ子の実力を見てやる。
おいろけの術をやるってばよ。
やれェーーーっ!」
「分かりました! 師匠!
・
・
猛れ! あたしの妄想力!」
ヤオ子はチャクラを練り始める。
「何かお前のチャクラってば……。
禍々しいってばよ……」
ナルトが一筋の汗を流している中で、ヤオ子が印を組んで術を完成させる。
そして、煙と共に現れたのは、金髪のセクシーギャルだった。
「うっふ~ん☆」
「おお!
中々の高得点だってばよ!」
「やっぱり? やっぱり!」
「だけど、ちょっと残念だ……」
「え?」
「エロの基本は『ボン! キュッ! ボン!』だ!
それじゃ始めの『ボン!』が威力不足だってばよ!」
ヤオ子が不適に笑う。
「ふふふ……」
「な、何だよ?」
「師匠、一つ生意気を許してください。
あたしは、体のラインのバランスを大事にしています。
巨乳もいいですが美乳も捨てがたい……」
「そう来たか……」
師匠もといナルトが感動している。
ナルトはヤオ子に親指を立てた。
「分かった!
合格をやるってばよ!」
「ありがとうございます!」
「では、ハーレムの術に必要な影分身の術を教える!」
「はい!」
「これはオレも苦労して覚えた術だから
難易度もかなり高いってばよ!」
「大丈夫です!
ことエロが付く忍術に関しては妥協しませんし、
失敗をした事もありません!」
「何か、お前とは似た臭いを感じるってばよ。
じゃあ、行くぞーっ!」
ナルトとヤオ子の影分身の修行が始まった。
…
夕方、日が暮れだした頃に影分身の修行は終了する。
チャクラもかなり浪費し、ナルトとヤオ子の息は上がっていた。
「はあ、はあ……。
じゃ、じゃあ、やってみるってばよ」
「分かりました。
体力はギリギリでも、妄想力で補います!
猛れ! あたしの妄想力!」
ヤオ子が禍々しいチャクラを練り込み、印を結ぶ。
「影分身の術!」
ヤオ子が四人に増えた。
四人のヤオ子は続けざまに印を結ぶ。
「続いて!
ハーレムの術! ヤオ、バージョン!」
ボンッ!と音がすると美女が四人現れる。
「成功だってばよ!」
「ありがとうございます! 師匠!」
「ヤオ子ってば、天才かもしれないってばよ!」
まさしく才能の無駄使いである。
ヤオ子は自分の分身に手を掛け、まるでキャッチセールスのような言葉でナルトに話し掛ける。
「どうです? 師匠?
この子なんか師匠の好みに合わせて、
完璧な『ボン! キュッ! ボン!』ですよ?」
「いいってばよ!
いいってばよ!!」
「えへへ……」
「もう、教えることはないってばよ」
「そうですか?
じゃあ、今度、新しいエロ忍術を開発したら教えてくださいね。
あたしも、どんどん開発しますから」
「ああ! 約束だってばよ!」
ここに毒々しい友情の華が咲いたことを、サスケはまだ知らない。