== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
フリフリと腰まで伸びるポニーテールが右に左に揺れる。
本日も、ヤオ子はサスケカラーの服を纏って、元気よく紹介場の扉を開けた。
そこには……本当の桃源郷があった。
「あはぁ~♪
火影様~♪」
一瞬で全てを忘れて、欲望が行動理念のトップに躍り出る。
ヤオ子は綱手にダイブした。
第47話 ヤオ子と綱手とシズネと
付き人のシズネが固まっている。
綱手も固まっている。
ここまで子供に好かれた経験はない。
否……。
「えへへ……。
巨乳です♪
ボンッ キュッ ボンッ です♪」
ただのセクハラだった。
ヤオ子は綱手の大きな胸の中に顔を埋め、涎を垂らして両の頬を擦り付けていた。
当然のように綱手の怪力入りのデコピンが炸裂した。
「ハウッ!」
入り口の扉まで吹っ飛ばされたヤオ子に、綱手はキレ気味に指を差した。
「何だ! コイツは!」
「や…八百屋……の…ヤオ子…です」
「どうやら件の人物のようですね」
綱手とシズネが新種の生き物でも見るような視線を向ける中、ヤオ子はのそのそと立ち上がる。
そして、視線をシズネにロックする。
「こっちの人も中々……。
でも、火影様には適いません」
ヤオ子は新たなリストに追加した二人に、喜びの余りクネクネと悶えていた。
綱手は目を座らせて呟く。
「ただの変態ではないか」
「そうですね……」
その言葉に、へんた──ヤオ子は憤慨する。
「違います!
あたしはドスケベです!
変態と一緒にしないでください!」
(どっかで聞いたセリフだな……)
綱手は嫌な懐かしさを感じていた。
そんな中、ヤオ子が綱手とシズネを指差す。
「ところで、あの……お二人は?」
「さっき、火影と認識していただろう」
「すいません。
セクハラしたくて適当なことを言いました。
お二人が誰かなんて確証はありません」
「シズネ。
・
・
とりあえず、殴れ!」
「はい!」
シズネのグーがヤオ子に炸裂すると、ヤオ子は頭を両手で擦る。
「痛いな~」
「全然効いてないではないか。
もっと、本気で殴れ」
「かなり力を入れましたよ?」
「いや、かなりいい線、いってましたよ。
ただアンコさんは地面に減り込むまで殴りますからね~」
「無理……。
私には、そこまで強く殴れない……」
(変なヤツだな……)
ヤオ子はシズネを指差す。
「シズネさん?」
シズネが頷く。
ヤオ子が綱手を指差す。
「火影様?」
「そうだ」
「名前は?」
「綱手だ」
「覚えました。
一生忘れません」
「…………」
綱手とシズネは顔を見合わせると溜息を吐いた。
…
綱手がシズネの淹れてくれたお茶を啜る。
「いくつか質問したい」
「何ですか?」
「この報告書は、何だ?」
「Dランク任務の報告書」
「違う!
そうではない!」
ヤオ子が首を傾げる。
「内容のことだ」
「虐待の歴史……」
「…………」
綱手が紙を丸めるとヤオ子に向かって指で弾く。
「イタッ!」
「真面目に答えろ!」
「真面目も何も……。
コハルさんにでも聞けばいいでしょ?」
「本人に聞いて、何が悪い!」
「だって、その仕事を選択するのコハルさん達ですよ?
あたしが、どういう意図で依頼を受けてるかなんて分かる訳ないでしょ?」
「それも……そうだな」
(綱手様が納得させられた……)
綱手が溜息を吐き、リストの書類をポンと叩く。
「このリストの仕事……。
全部やったのか?」
「そういう任務ですから」
「こんなの出来るのか?」
「一緒に本をくれます」
「本?」
「例えば、経理の仕事なら簿記の本とか」
「それを見てやっているのか?」
「まあ……」
「よくそれで任務が出来るな?」
「あたしも『よくこんな酷いことが出来るな』と思いますよ。
きっと、木ノ葉の半分はドSで出来ているんです」
「また、訳の分からないことを……。
・
・
しかし、困ったな。
本当にどうやって任務を与えればいいんだ?」
「何で、悩むの?」
「お前が訳の分からない存在だからだ」
悩む綱手を見兼ねて、シズネが気を利かせる。
「綱手様。
私が、ご意見番のお二人に聞いてきましょうか?」
「頼む」
シズネが部屋を出て行くと、ヤオ子は綱手に近づき話し掛ける。
「密室で二人きりですね♪」
「その卑猥な言い方を止めないか」
「無理!」
綱手は溜息を吐く。
「お前、何で、その歳で変態なんだ?」
「変態じゃないって言ってるのに……。
まあ、理由をあげるならば、ある名作に出会ったせいですね」
「名作?」
「『イチャイチャパラダイス』です!」
「……………」
(自来也のヤロウ……!)
今は居ない知り合いに、綱手は拳を握った。
「そんなくだらない本なんか読むな」
「くだらない?
ということは、知ってるんですね?」
「まあ……。
色々、あってな」
「読みました?」
「読むか!」
「名作ですよ?
試しに読んでみてくださいよ」
「お前は、何処かのセールスマンか!」
「任務で何件かやりましたね」
「突っ込むことも出来んとは……」
綱手が項垂れたところで、シズネが戻る。
「聞いてきました。
・
・
綱手様……。
何か、疲れてませんか?」
「お前がのろくさしてるから、
ガキの相手をさせられて疲れたんだ。
・
・
で?」
シズネは微妙な顔で答える。
「え~……。
他の子が出来なさそうなのをやらせるか、
指名が入っているのをびっちり入れろと……」
「「ハァ!?」」
「何だ、それは?」
「あのお達者コンビ!
何言ってんの!?」
シズネはヤオ子を指差す。
「その子、何だかんだで仕事をするらしいんで、
多少の無理は問題ないそうです」
「何ですか!
その多少の無理って!」
「壊れ難い昔の電化製品……みたいな?
多少の荒い使い方はOK?」
「ううう……。
あんまりだ……」
項垂れたヤオ子を見て、綱手はフッと息を吐き出す。
「まあ、納得だな。
さっきから会話をしているがタフそうだ」
「そう理解できるってことは、
綱手さんに代わっても、あたしの仕事量に変化なしってことじゃないですか~」
「そうとも言うな」
「シズネさん。
あんたのご主人、あんなこと言ってますよ?」
「いつも通りです」
「…………」
(この人も苦労しているんですね……)
ヤオ子とシズネの前で、綱手が任務を見繕ってリストを作り始める。
ご意見番の意見どおり、今ある任務の依頼の中からビッチリと本日の依頼を巻物に書き込んだ。
「こんなもんか?
・
・
ほれ」
ヤオ子が受け取って中身を確認する。
「素晴らしい適応能力ですね……。
ご意見番の二人と寸分違わぬ仕事量です……」
「そうか?
人をイジメるのは慣れているからな」
「シズネさんで?」
「そうだ。
・
・
ハッ!
嘘だぞ!? シズネ!」
シズネはズーンと黒い影を背負っていた。
「じゃあ、あたしは行きます」
「ヤオ子!
貴様、最後に余計な一言を!」
「人間油断すると本音が出るもんです。
これからも、よろしくお願いしますね♪」
ヤオ子はスキップしてその場を去り、扉の奥からは綱手のシズネを立ち直させる会話が響いた。