== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
サスケと音の四人衆の争いが終わったあと、残されたサスケを見ながら、ヤオ子は困っていた。
全てが終わって、改めて頭に思い浮かぶのは、サスケにも音の四人衆にも出ていた呪印である。
ヤオ子は呪印のことを知らないし、知らされていない。
そのため、呪印発動状態を毒かもしれないと勘違いしている。
つまり、さっきのサスケ達に浮き出ていた原因が、撒かれた毒だったら一刻を争うことになると困っていた。
あの音の四人衆が、さっさと去って行ったことが毒を撒いた証拠じゃないか……と、ヤオ子は難しい顔になる。
「どうしよう……」
ヤオ子は分からないなりに考えようと、冷静になるため、深呼吸を一つ入れる。
そして、考えを言葉にすることにした。
「まず、状況分析をしないといけません。
でも……。
サスケさんを含め、全員に変なのが浮き出たのをどう説明すればいいんだろう?」
そう、状況を順に追っていけば、先に呪印を発動したのがサスケで、次に音の四人衆に呪印が発動した。
全員に呪印が発生したため、毒だと思っているヤオ子は、毒の発生源をどう判断していいか困っている。
「エロテロリスト達の毒に、サスケさんが侵されたとも考えられるんですけど……。
考え方を変えれば、サスケさんが毒を撒いたとも考えられなくないんです……。
・
・
そうなると……自爆?
だけど、サスケさんは奥の手の電気技を持っているんだから、
そういう戦い方をするとは思えないし……。
第一、木ノ葉の里の中に居るんだから、
大声出せば仲間が来るサスケさんが不利とも思えないし……」
ヤオ子は言葉を止め、暫し考える。
「ここからサスケさんの家まで遠くないですし、
万が一にも毒なら、近づいたあたしが死にます。
よって……。
サスケさんの家の前で待ちましょう。
サスケさんが無事に家に辿り着ければセーフ。
途中で野垂れ死んだら、アウトということで里に報告。
・
・
あたしのドSレーダーで生死は確認出来るので、
サスケさん……死んだ時は許してください」
サスケが動き出す前に、ヤオ子はサスケの家へと向かった。
第45話 ヤオ子とサスケの別れ道
サスケの家の前の扉に寄り掛かりながら、ヤオ子はサスケを待つ。
そして、暫くしてサスケが現れると、ヤオ子はサスケの様子を慎重に伺う。
サスケが健康体に見えると、ヤオ子はホッと息を吐き出した。
しかし、毒の危機は去ったが、ヤオ子は新たに別の危機を感じていた。
サスケの不機嫌が目に取れる。
(何かまた、とばっちりを受けそうな気がします)
ヤオ子が警戒する中、一方のサスケもヤオ子に気付いた。
サスケはヤオ子の前で立ち止まる。
「……何しに来た?」
(怖い……)
サスケの目は、今まで見たことがないぐらいに鋭い。
「聞きたいことと話したいことがあって来ました」
「…………」
ヤオ子はサスケの視線に怯えながらも質問する。
「あの人達は、誰ですか?」
「見ていたのか?」
「はい」
「お前には関係ない」
「答えてくださいよ」
「オレは、今、機嫌が悪いんだ」
「それも分かっています。
でも、聞かなければいけません」
「何でだ?」
サスケが、更にヤオ子を睨む。
しかし、ヤオ子もここは引けなかった。
「あの人達……。
毒を散布したんじゃないですか?」
「毒?」
「サスケさんとあの人達に変なものが浮き出ていました。
細菌兵器か何かじゃないんですか?」
サスケは溜息を吐く。
やはり、コイツはいつも何処かズレていると。
「そんなものじゃない」
「本当ですか?」
「ああ」
嘘ではなさそうなサスケの返答に、ヤオ子は安堵する。
緊張の原因の一つは無くなった。
ヤオ子はサスケの横を通り過ぎながら話し掛ける。
「じゃあ、いいです。
何かあったら、知らせないといけなかっただけですから」
「一端の忍者気取りか……」
サスケの言葉にヤオ子は足を止め、左腕に巻いてある額当てに目を落とす。
そして、それを解くと額当てを覆うように布を巻き直し、左腕に縛り直した。
「何だ、それは?」
「あたし、任務失敗して『忍者じゃない』って言われたんですよ。
願懸けして忍者だって認められたら、
額当てを晒そうって、今、決めました」
「相変わらず、おかしなヤツだ」
気を張った戦いの後なのに、ヤオ子との会話でサスケは少し毒気を抜かれた気分だった。
そのサスケに、ヤオ子は足を止めたついでに話し掛ける。
「ねぇ。
少しお話ししたいんですけど、いいですか?」
「ダメだ」
「何で?」
「時間がない」
「見たいテレビでも?」
「そうじゃない」
「じゃあ、明日は?」
「ダメだ」
「明後日は?」
「ダメだ」
「じゃあ、いつなら?」
「…………」
サスケは目を閉じる。
音の四人衆との会話を思い出し、一方では、木の葉で過ごしたヤオ子とのやりとりを思い返す。
そして、質問の答えを心に用意すると返事を返した。
「会うことがあったらな……」
「……どういうこと?」
「里を出る……」
ヤオ子は、一瞬、分からないという顔をする。
しかし、直にサスケの目的を思い出し、頭に過ぎる。
(復讐……)
「そんな……行っちゃうんですか?」
「ああ……」
「じゃあ、さっきの人達は……。
サスケさんを迎えに?」
「…………」
「どうすればいいんですか?」
「…………」
「あたし、まだサスケさんにワンパンチ入れてないのに……」
「…………」
「復讐……しなきゃいけないんですよね?」
「…………」
サスケの目標とサスケを目標にしてきたことが、ヤオ子の頭で交錯する。
そして、その中で強く思い出されるのが、下忍になってからサスケとした会話だった。
ヤオ子は、あの時の通りにサスケを認める形で話す。
「あたしの気持ちは変わっていないから……。
・
・
頑張ってください」
サスケは予想外の言葉に会話を止める。
誰もがサスケの復讐を反対していたのに……。
「お前だけは反対しないんだよな」
ヤオ子らしいと、サスケは苦笑いを浮かべる。
「本当は──何でもないです……」
ヤオ子は自ら言葉を遮り、気付いてしまう。
いつもの行動は好意の裏返し……。
口では悪口を言っても、サスケに対して嫌悪感がないことを改めて認識してしまった。
(だって、こんなにも行って欲しくない……)
ヤオ子は本音を押し殺し、サスケに最後になる会話を続ける。
「ごめんね……。
あたし……サスケさんに色々教わったのに役立たずでした」
「謝るな。
そんなつもりで忍術を教えたんじゃない」
「…………」
ヤオ子は俯き、何も言えなかった。
「悪くなかったぞ……。
お前の世話を焼くのも……」
サスケが最後にヤオ子の頭に手を置く。
「立派な忍になれ……」
ヤオ子は頷く。
「約束します……。
その代わり……。
あの時のあたしの思いを……約束にしてください」
「ああ……。
・
・
何だったか忘れちまったがな……」
「酷い……」
大事な人が居なくなってしまう。
二人で過ごした日々は、きっと宝物だった。
「オレは、もう用意しないといけないからな」
「はい……」
通り過ぎようとするサスケを正面から止めるようにヤオ子が抱きつく。
「今度、会うまでに腕を磨いておきます……。
その時には『ぎゃふん』と言わせます……」
「ああ……」
ヤオ子は別れることが辛かった。
でも、これ以上、引き止められなかった。
(あたしは、サスケさんの味方だから……。
これはサスケさんの戦いだから……。
・
・
信じて待つしか出来ない……)
「今日……。
あたしは、サスケさんに会っていません」
サスケはヤオ子の言葉の意味を汲み取り、小さく笑みを浮かべる。
「ヤオ子……。
縁があったらな」
「はい……」
(ヤオ子……。
少し変わったな……)
サスケの知らないところで、ヤオ子は少し成長した。
その時、復讐について初めて真剣に考えた。
きっと、その差が出たのだろう。
ヤオ子は、最後に強くサスケに抱きつく。
ヤオ子のすすり泣く声は、サスケの耳にも届いた。
そして、暫くしてヤオ子がサスケを放す。
「オイ……」
「あれ……?」
ヤオ子の顔とサスケの服の間に橋が出来ていた。
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。
これも最後になるであろう。
「これから出るのに鼻水をつけるな!」
「ううう……。
すいません……」
(やっぱり!
変わってねーっ!)
台無しだった……。
サスケが里抜けする時、服が変わっていたのは、このせいかもしれない。
…
用意のあるサスケを置いて、ヤオ子は自宅に向かって歩いていた。
振り返って見えるサスケの家を見て、ヤオ子は言葉を漏らす。
「お別れ……か。
・
・
あっけなかったな……。
これで……終わり?」
ヤオ子は首を振る。
「違いますよね……。
でも、始まりでもありません。
サスケさんは始めてたんです。
そして、きっと戻って来てくれる。
・
・
あたしだけが、何も始まっていなかったんです。
何もかも中途半端で……。
・
・
サスケさんが忍者の道を開いてくれた。
ヤマト先生とイビキさんが子供でいられる時間と考える時間をくれた。
あたしは、あたしのことを始めなければいけません……。
・
・
きっと、あたしとサスケさんの未来は、もう一度、交わるはずだから」
その日、ヤオ子は何もなかったように自宅の仮設住宅へと戻った。
…
次の日……。
ヤオ子が目覚めた時、サスケは里に居なかった。
そして、街をふらつくヤオ子の耳にも、サスケを追ってナルト達が向かったことが耳に入った。
「ナルトさん……。
サクラさん……。
カカシさん……。
・
・
皆、止めたんですね……。
あたしだけが裏切り者かな……」
ヤオ子は、サスケが向かった先を知らない。
そして、向かった先の大蛇丸がサスケの体を次の転生の器にしようとしていることなど知らなかった。
こうして、サスケとヤオ子の小さな物語は終わりを迎えた。