== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
Cランクの任務以降、ヤオ子はDランクの任務をひたすらこなす毎日を送っている。
それ自体は嫌いではないし、自分で望んだことでもある。
仕事の量も多くて、必死になることで自分が頑張っていると認識出来て気持ちも楽になった。
しかし……。
「本当に全部受ける必要あるの~……」
最近は、ややお疲れ気味。
ちなみに、今日も副担当の中忍は死に掛けている。
その中忍の首根っ子を持って、ヤオ子はズルズルと引き摺っている。
「途中まではいいんですよ。
あたしの1時間おきの任務が終わると勝手に交代するから。
・
・
ただ最近、最後の中忍が末期で必ず運ばなきゃいけないんですよ。
股間蹴り上げても動かないし……。
休ませるなら、点滴が必要なんじゃないの?
ここまでして任務をこなす必要があるのか……ってーのっ!」
紹介場に着くと、ヤオ子は中忍を投げ捨てた。
第44話 ヤオ子の憂鬱とサスケの復活
今日の紹介場の担当は、ご意見番のホムラだった。
中忍は床の上に死んだように転がり、ピクリとも動かない。
「ご苦労だったな」
「もう、副担当の中忍いらない!
コイツら、あたしの足しか引っ張らないじゃないですか!」
「そう言うな。
忙しい任務で体を休めることが出来るのは、お前の担当の時だけなんだから」
「それ……激しく間違っていません?
他の子の担当を見ましたけど、ちゃんと動いてましたよ」
「将来有望な忍になるかもしれんのだ。
ちゃんとした忍を着けるのが当然だろう」
「あたしは?」
「いつ辞めるか分からんのだろう?」
「今、辞めましょうか?」
「里の力が回復してからという約束だ」
ヤオ子は額に手を置きながらイライラを噛み殺す。
そして、暫くして冷静になると腰に手を置いてホムラに質問する。
「自分で言うのも変ですが、
あたしって馬車馬みたいに働いてません?」
「そうだな……。
同じ同期の6.7倍ぐらいか?」
「ろ……そんなに!?」
「一年後ぐらいには百倍ぐらいの差が出るかもな。
お前の仕事量は、日々右肩上がりで増えているからな」
(笑えない……)
「いい人材を手に入れたもんだ。
死ぬまで扱き使ってやるからな」
「木ノ葉って、ドSで構成されてるんじゃないの?
バファリンですら、半分はYASASHISAなのに……」
「まあ、いいではないか。
ヤオ子に支払ってる額は凄いぞ」
「ああ……。
この前、作った通帳に振り込まれてるっていう……」
「見とらんのか?」
「はい」
「では、どうやって生活しているんだ?」
「まあ、大抵のものは任務先で拾ったり貰ったりですね。
電化製品は、ほとんど直せるし」
「お前は、どんどん忍者から離れるな……」
「うち貧乏ですからね。
冷蔵庫もラジオも風呂釜も蛍光灯も、
皆、あたしが直した中古品でした」
「直るものなのか?」
「まあ、知ってる技術が応用されていれば」
「そうか……。
今度は電化製品の修理工の助手を追加するか」
「誘導尋問!?」
「とは、言ったものの……。
最近、お前の指名が増えて来たからな」
「木ノ葉おかしいって……。
出来ないなら断りなよ……」
「そうは言っても、
大名直属の依頼も入るからなぁ……」
「ああ……。
この前の家庭教師ですか」
「そうだ」
「あれ、結局のところ、
忍者を見たいだけでしたよ?」
「そうなのか?」
「はい。
だって、『勉強したら、忍術を見せてやるからな』って、依頼主のパパが言ってました」
「じゃあ、他の忍でも良かったのか」
「ええ。
簡単な因数分解が出来れば問題ありません」
「ちょっと待て。
変な単語が出た。
・
・
因数分解を解けなければ、ダメではないか」
「あんなもん。
教科書の公式を暗記すればいいだけですよ」
「絶対違う……。
引き続き、ヤオ子にお願いしよう」
ヤオ子は腕を組む。
「あたしじゃなくてもいいでしょ?
もっとインテリ系忍者が居るでしょ?
日陰の忍者みたいのがさ」
「何だ? それは?」
「まあ、いいです。
あたしがやりますよ」
(気になるな……)
ホムラは咳払いを入れる。
「後、他にあるか?」
「もっと、言ってもいいんですか?
明日の朝まで、しゃべり倒しますよ?」
「やめてくれ……」
「じゃあ、聞かないでくださいよ。
これ、本日の結果です」
ヤオ子が巻物をホムラに渡す。
「確かに預かった。
・
・
また、巻物を新調するか。
もう、後が書けん」
ホムラは巻物を確認すると巻き直す。
「では、ご苦労様」
「はい。
失礼します」
ヤオ子が退室すると、ホムラは呟く。
「本当にいい拾い物だったな。
あれだけ働かせて発狂しないんだから」
ホムラは巻物を置くと、椅子に深く腰掛け直した。
…
辺りは既に夕闇に覆われ、帰り道でヤオ子は大きく伸びをする。
「最近、デスクワークが多くて困りますね。
瞬身の術を使いこなすことがサスケさん打倒の鍵と踏んだんですけど、練習不足だな……。
変わり身の術とは、また別のスキルなんですよね。
最終的にはカカシさんが現れるみたいに、木の葉を巻き上げて現れたりしたいですね。
一回一回煙玉は使いたくないので。
・
・
やっぱり、早く動くにはサスケさんみたいにチャクラを足で爆発させるようにして、
高速移動しないといけないんでしょうね」
時期的には雑用中心の下忍になって、そろそろ一ヵ月が経とうとしている。
ヤオ子は一人暮らしと両親の八百屋の建て直しを考える。
「引越しは、いつにしようかな?」
そんなことを考えているうちに、ヤオ子は仮設住宅の自宅へと帰宅した。
…
次の日……。
ピーンとヤオ子のレーダーが反応した。
(それは午前中の何ともない任務中に起きました。
忘れていた旋律……。
マスター・サスケのフォース……。
そう、この背中を走る悪寒──)
ヤオ子は半田ごてを落とし、そのせいで工場のベルトコンベアが止まる。
隣のおじさんが半田ごてを拾いあげる。
「どうしたの? ヤオ子ちゃん?」
「ド……」
「ど?」
「ドSの復活だーっ!」
「何!? どうしたの!?」
工場中の職員がヤオ子に注目した。
そして、暫し後にヤオ子は我に返る。
「すいません。
取り乱しました。
・
・
半田ごて、ありがとうございます」
ヤオ子はおじさんから半田ごてを受け取り、周りの人達に頭を下げた。
隣のおじさんは、心配そうにヤオ子に声を掛ける。
「しっかり頼むよ。
熟練の技術者さんがぎっくり腰になっちゃって、
ここの細かい半田を当てるのは、ヤオ子ちゃんにしか出来ないんだから」
「任せてください。
きっちりとこなします。
・
・
それはそうと……。
退屈な日々にも飽きていたんです。
そろそろ真のドSの刺激が欲しいと思っていたところです」
ヤオ子は『ククク』と凶悪な笑みを浮かべると、テキパキと流れるベルトコンベアの電子部品に半田ごてを当て始めた。
(この子……。
ちょっと怖いな……)
おじさんは、幼い女の子に恐怖を覚えた。
…
工場のおじさん達とヤオ子の仕事が終わった頃……。
サスケは木ノ葉病院の屋上でナルトとの一騎打ちをカカシにより、お流れにされていた。
ヤオ子のレーダーが、更に強く反応する。
ヤオ子は中忍を引き摺りながら、道の真ん中で立ち止まる。
「……拙いですよ。
目覚めたばかりなのにいきなり不機嫌になってます。
何で?
・
・
誰かいきなりあのドSの尻尾でも踏みつけたの?
もしかして……あたし? あたしか!?
やっぱり、あの時、起きてた!?」
そして……。
サスケはカカシの前から逃げ出したあと、ナルトの螺旋丸の威力を目の当たりにしてイライラが頂点に達した。
「拙いよ!
拙いよ拙いよ!
拙いってーっ!」
ヤオ子は、何処かの芸人のように叫ぶ。
「と、とりあえず!
任務を急いで報告して身を隠さなくては!」
ヤオ子は中忍を引き摺り、さっさと任務報告を終えると街の中に消えて行った。
…
普段、あまり来ない餡蜜屋。
ヤオ子は、お団子とお茶で気持ちを落ち着けていた。
「おかしいです。
何で、サスケさんが急に目覚めたんでしょうか?」
答え:ナルトと自来也が綱手を連れ帰った。
「しかも、怒り狂ってます。
何故でしょうか?」
答え:強さに対してフラストレーションを溜め込んでいます。
「誰か何とかしてくれないかな……」
カカシがサスケのところに向かっています。
「少し冷静になるまで待ちましょう。
偶には、お茶飲んでお団子食べて……。
・
・
しかし、こんな雰囲気で食べたくないな……」
ヤオ子はお茶を啜り、事態を見守った。
…
夕刻……。
レーダーのドS反応が弱くなる。
「何が起きたんだろう?
怒りが弱くなってる気がする」
答え:カカシの説得により、現在、サスケ思考中。
「サスケさんの気配がウロウロしてたってことは、
無事に退院出来たってことですよね?
・
・
会っておいた方がいいはずです。
今なら、前と違った会話が出来る気がします。
前の任務の話……。
聞いて欲しいな……。
・
・
まあ、ドSの火種が燻ったままだから、
油を注いでしまうだけかもしれませんが」
お会計を持って、ヤオ子はレジへ向かう。
「すいません。
安い注文で長い時間居座って」
「気にしないでいいよ。
また、来てね」
「はい。
ありがとうございます」
(今度は、いつ来れるか分かりませんけど)
ヤオ子はサスケの元へと向かうことにした。
しかし、同時に大蛇丸の部下である音の四人衆も動き出していた。
…
ヤオ子が向かう途中で、既にサスケと音の四人衆の接触は始まっていた。
ヤオ子の視力が音の四人衆をかなり遠くから捉え、その場で立ち止まる。
「…………」
ヤオ子は額を押さえる。
「何で、こんなことに……。
あたしはサスケさんに会いに来ただけなのに……。
サスケさんが、エロテロリストに襲われている……」
ヤオ子は溜息を吐いて、視線を逸らす。
「前々から、思ってたんです。
複数いてこそテロリストですよね……って。
・
・
ハッ!
思わず現実逃避を!」
ヤオ子はサスケの居る木の上を凝視すると、そこにはサスケを囲むように四人が居座っている。
「集団リンチか……。
それにしても、何で横一列で戦隊もののヒーローのようにサスケさんを見下しているんでしょう?
サスケさが悪役なら、仕方ありませんけど……。
・
・
しかし、変な人達ばっかりですねぇ。
まともそうなのは、あの女の子ぐらいじゃないですか。
・
・
固有名称がないと呼び難いですね。
仕方ない借りの名前をつけるか……。
・
・
あの手が一杯ある人をエロテロリスト・レッド(東門の鬼童丸)。
あのポッチャリ系のモヒカンをエロテロリスト・イエロー(南門の次郎坊)。
頭二つの根暗そうなのをエロテロリスト・ブルー(西門の左近)。
あたし好みの女の子をエロテロリスト・ピンク(北門の多由也)。
全員合わせてエロテロリストとしましょう。
・
・
ヤバイです。
敵なのに何かカッコイイ……。
・
・
ん?
あの人達、本当に敵なのかな?」
ヤオ子は音の四人衆を観察する。
「何で、同じ服のデザインなんだろう?
兄弟なのかな?
でも、木ノ葉も中忍以上は似たようなもんか……。
・
・
あれ、余所の里の忍ですよね?
額当ては……音だ。
この前、大暴れした里ですよ」
ヤオ子に一抹の不安が過ぎる。
しかし、またエロテロリスト達のデザインが気になりだした。
「あの、横綱がつけてる綱みたいの何だろう?
デザイン的には、あたしは装備したくない類のものですね。
色も毒々しいし……。
装備したら教会に行かないと呪いが解けなくなるんじゃないの?
ピンクは、絶対にあのデザイン嫌ってますよ。
でも、妙な帽子被ってるしな……。
実は気に入ってるのかも……」
そして、サスケ達が少し話し合った後に戦いが始まってしまった。
「サスケさん……。
四対一でやり合おうなんて……。
・
・
若気の至りですかね?
『認めたくないものだな。
若さ故の自分自身の過ちというものを……』とかって、
後々、語らないでくださいよ」
視線の先でサスケは戦いを優勢に進め、相手を投げ飛ばす。
「やっぱ、ハンパないです。
あのドS……。
あたしは、もう手を出せないですね。
ここから観戦させて貰います。
助けに入れるレベルじゃない……。
・
・
あれ?
さっきの変わり身か……。
エロテロリストもやりますね。
・
・
ところで……。
あたしは人を呼ぶべきなんでしょうか?
というか、あれだけ派手な音を立てて誰も気付かないんでしょうか?」
戦いは激化していく。
サスケと四人衆の戦いで周囲の建物が壊れ始めた。
そして、優勢と思われたサスケが徐々に痛めつけられていく。
「袋叩きにされるサスケさんを見るのも悦なんですが……拙いですね。
・
・
冗談抜きに殺されかねません」
様子を見ていたヤオ子の顔が真剣なものに変わる。
「初めからチャクラを練り込んで接近しますか……」
ヤオ子はチャクラを少し練り上げ、自分の状態を確認する。
状態は悪くない……。
チャクラも、まだかなり残っている。
戦いへ乱入する前に、ヤオ子は戦闘のおさらいを口にする。
「ブルーには物理攻撃が効いていないようでした。
何かネタがあります。
イエローは力がありそうです。
レッドは蜘蛛を擬人化したものでしょう。
手の数と糸が注意です。
・
・
ピンクは行動していません。
止めを刺す役か、戦闘補助に使える術があるため、
引いていると考えるべきですね」
ヤオ子は、再度サスケを見る。
「サスケさんは、まともな忍具すら持っていない状態です」
両足にあるホルスターを触り、戦力の分配が頭で整理される。
「どちらかを渡せれば……。
・
・
まず、煙玉で視界を奪ってからサスケさんに接触しましょう。
それからはサスケさんの指示に従います」
ヤオ子は腰の道具入れから煙玉を取り出し、微弱なチャクラを流す状態を維持する。
足にはチャクラ吸着による摩擦力を付加して飛び込む準備も整った。
そして、行動を起こそうとした瞬間、また事態が変わる。
「何ですか? あれは?」
サスケを含め、全員に呪印が浮き出していた。
「っ!
迂闊に近づけなくなりました。
・
・
まさか……細菌兵器でも撒いた?
だとしたら、里全体にバイオハザード警報発令です。
ここは一回引いて、ヤマト先生か誰かを──」
ヤオ子が応援を呼ぼうと行動を切り替えた時、サスケと音の四人衆の会話は終わり、音の四人衆が去る。
「どう…しましょうか……」
辺りは閑静を取り戻し始め、ヤオ子は、どう行動をすればいいか余計に分からなくなった。