== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
道なりの進路を無視し、広大な森林を飛び進む影がある。
ヤマトは医療部隊の待機場所へと、瞬身の術で移動していた。
「医療部隊は、まだ到着していないだろうな。
薬も数が足りると思っているだろうから、予備にどれだけ持って来てくれているか……。
・
・
足りない場合は、現地で調達するしかないか」
依頼の情報が古いために起きた食い違い。
必要な薬は予想よりも多く必要で、患者の様態も良くはない。
ヤマトは依頼を途中で止めていたことに苛立ちを覚えながらも、可能な限りの速さで風のように木々の間を走り抜けた。
第41話 ヤオ子の初Cランク任務③
一方のヤオ子は、子供達の居る長屋を訪れていた。
子供達は布団に苦しそうに臥せっていて、ヤオ子は今回の任務がただの任務ではないことを改めて理解した
そのヤオ子の近くに、子供達の親達が近づき声を掛ける。
「木の葉の方ですよね?」
親の一人は、ヤオ子の腕の額当てを見て確認を取る。
「はい。
依頼を受けて来ました。
あたしの先生が、既に別行動で医療部隊の方達と接触する手筈になっています。
あたしは、皆さんがお仕事に出ている間、代わりを務めさせて貰います」
Dランク任務が続き過ぎたせいか、元々が客商売を生業とする家のためか、ヤオ子の受け答えはしっかりとしたものだった。
年齢と言葉遣いのギャップがあるが、今はこの言葉遣いが村の親達を安心させた。
子供達の親から、次々と声を掛けられる。
「後をお願いします」
「うちの娘をお願いします」
ヤオ子が『分かりました』と声を返すと、大人達は仕事に出て行った。
入り口付近に残されたヤオ子は気合いを入れる。
(さて、掴みが肝心ですね)
ヤオ子は土間で靴を脱いで上がると、咳払いを一つ入れる。
ヤオ子には子供達の好奇の目が集まっていた。
「え~。
お姉ちゃんは、皆さんを看病するために来た忍者です。
はっきり言って凄いです」
「…………」
反応は、今一だった。
「いえ、エロカッコイイです」
「……ふ」
子供達の誰かが声を漏らすと、ヤオ子はここで取っ掛かりから掴みに入る。
「というわけで見てください」
チャクラを練り上げ、ヤオ子は印を結ぶ。
「影分身の術!」
ヤオ子が五人に増え、同じ動きで会釈をすると、『お~』という声が響いた。
影分身の術は、子供受けするらしい。
「何でも言ってくださいね」
影分身達が子供達の中に散ると、看病の任務が始まった。
…
影分身達は子供達のタオルを変えたり、トイレに付き添ったり、話し相手になったりと徐々に打ち解け始めた。
やはり年齢が近い方が安心できる部分が大きいのだろう。
大人達には遠慮して話せないことでも、ヤオ子になら話せるようだった。
ヤオ子よりも、ずっと小さい子達は影分身のヤオ子を離さないでいた。
(昔、弟の看病をしたのを思い出しますね。
両親が八百屋の仕事をしている間、ずっとあたしが面倒を看たんです。
病気になって、気が弱くなってるから甘えたがるんですよね)
影分身のヤオ子の一人は、小さい子達に囲まれて完全に行動不能に陥っていた。
そして、ヤオ子本体は子供達の中で一番年長の子の側に来ていた。
「初めまして。
あたしは木ノ葉に住む美少女、八百屋のヤオ子です」
ヤオ子と同じ位の背に長い黒い髪の女の子は、上半身を起こすと微笑む。
「美少女なの?」
「はい。
八歳です」
「同い年だね。
わたしは、サチ」
「じゃあ、さっちゃんですね?」
「うん。
じゃあ、ヤオ子ちゃんだね?」
「はい」
ヤオ子とサチが笑い合う。
「さっちゃんは退屈しませんか?」
「病気で寝てばっかりで退屈。
本当は、外でお花を見たいのに……」
サチの言葉を聞いて、ヤオ子はポケットから毛糸の輪っかを取り出す。
「こんなのは、どうですか?」
ヤオ子の手の中で毛糸が何回か編まれると、サチに向けた掌の中に朝顔が咲いていた。
「すごい……。
とっても綺麗ね」
「そうですか?
もっと、出来ますよ」
『フフフ……』と不適な笑い声を持たすと、ヤオ子は調子に乗り始める。
ヤオ子の手の中で蠢く毛糸は、次々と花を咲かす。
百合、チューリップ、薔薇、クロッカス、etc...。
「ヤオ子ちゃんって器用なのね」
「えへへ……。
得意なんですよ」
だが、この現象が起きているのはここだけではない。
他の影分身のところでも同じ様に、あやとりに対する賛美の声がしていた。
(やはり、同じ思考のコピー人間……。
やるネタも同じです。
しかし……。
・
・
例え、影分身のあたしが相手でも!
ここで一番の評価を得る!)
ヤオ子の目がキュピーン!と光ると、更にグニグニと指が激しく動く。
そして、釣られるように他の影分身四体の指も激しく動いていた。
「さっちゃん!
見てください!
・
・
百花繚乱!」
「何それ!?」
『ストライク・フリーダムガンダム!』
「お姉ちゃん、わからない!」
『ネオ・ノーチラス号!』
「それもわからない!」
『エスターク!』
「怪獣!?」
『ラオウ!』
「我が生涯に一片の悔いなし!」
「『『『『ラオウは、知ってた!?』』』』」
ラオウを作った影分身がガッツポーズをし、他の面々はがっくりと膝をついた。
自分に負けたヤオ子に、励ますようにサチが声を掛ける。
ヤオ子は励ます立場のはずだったのに……。
「ヤ、ヤオ子ちゃん……。
百花繚乱って?」
「凄いんですよ……。
季節関係なしに花が咲き乱れるんです……」
ヤオ子が手の中のあやとりを見せる。
「本当だ。
桜と向日葵が一緒に咲いてる。
・
・
何か分からない花も……」
「ラフレシアです」
「何それ?」
「世界一臭い花です」
「…………」
サチが苦笑いを浮かべたあと、ヤオ子に手を開く。
「私にも教えて」
「いいですよ」
ヤオ子が毛糸の輪っかを指から外した時、サチが咳き込む。
ヤオ子は急いでサチの背中を擦った。
「大丈夫ですか?」
「……ごめんね」
「謝らなくていいです。
温かくしておきましょう」
サチを寝かせて、ヤオ子が布団を掛け直す。
「あやとり……。
教えて欲しかったな」
「病気が治ったら、いつでも」
「約束ね」
「はい。
指切りです」
ヤオ子が小指を差し出すと、サチは自分の小指を絡め、二人は指切りをする。
指切りを終えるとヤオ子は辺りを見回し、他の子供達の様子を確認する。
(さっちゃんに堰が出たということは、そろそろお薬の時間なのかな?
容量用法っていうのがあるから、適当にお薬をあげるわけにはいかないです)
ヤオ子はサチに訊ねる。
「さっちゃん。
お薬は飲んでいますか?」
サチは、首を振る。
「いつからですか?」
「もう、随分飲んでないわ」
「どうして!?」
「薬屋さんが処方してくれた薬を飲むと良くなるんだけど、
その薬屋さんが、1ヶ月間を空けて来てないの。
それに薬を飲むと良くなるんだけど、
また暫くして体調が悪くなって薬屋さんを呼ぶことになるの」
(薬は飲んでた……。
そして、薬売りが去ってから悪くなる……。
・
・
それって変じゃないですか?
だって、薬売りは居ないんですよ?
・
・
じゃあ、村の中に仲間が居て毒を……。
もう少し情報が必要です)
「薬屋さんは、どんな人なんですか?」
「初めて会う子には、お菓子をくれるの」
「お菓子?」
(それに毒が?
でも……)
「初めしかくれないんですか?」
「うん。
子供って苦い薬が嫌いでしょ?
最初の……餌付け?」
ヤオ子は項垂れる。
「さっちゃん。
餌付けとは言わないですよ……。
・
・
まあ、苦手意識を取るために最初は薬とお菓子をあげると」
「そう」
(別に怪しくないか……)
「本当は、お菓子も必要ないんだけどね。
お薬は椎茸の味でしょ?
だから、皆、飲めるの。
・
・
まあ、中にはキノコ嫌いの子も居るけど」
「薬屋さんは工夫しているんですね」
「うん。
わたしは、好きだな。
あの薬屋さん」
「そうですか」
サチの話を聞くだけだと、特にその薬売りに怪しそうな点は見つからない。
ヤオ子は、今度は病気になった時期を確認することにした。
「ここに居る子は、皆、同じ時期に病気になったんですか?」
「ううん。
あたしを含めた五人が最初」
(これが依頼書の情報源ですか)
「次に十八人……」
「そんなに?」
(一気に増えた……)
が、子供達から『ちがーう』『そんなにいな~い』という声がする。
「何人だったっけ?」
「覚えてな~い」
「…………」
(やっぱり、子供ですね……)
サチは、結構、天然だった。
そして、ヤオ子の情報収集は、ここで終了した。
…
ヤオ子の看病が一段楽した頃……。
待機場所で、ヤマトは無事に医療部隊と会うことが出来ていた。
今回、接触はもう少し後になるはずのヤマトを不思議に思いながら、医療部隊の隊長が声を掛ける。
「どうかなさいましたか?」
「ちょっと、予想外の事態になりまして」
「と、言いますと?」
「持参した解毒薬では足りませんでした。
情報と違い五人ではなく二十三人もの患者が居たんです」
「そんなに……。
予想以上の人数です。
コハル様に、既に二倍の量を渡していたので事足りると……」
「では、予備は……」
「三つだけです」
「そうですか。
病人が全員子供なので2/3の量でいいのですが……。
・
・
残りの1/3個とこれを合わせて五人分追加か。
あと二人分足りない……」
「どうしますか?」
ヤマトは腕を組んで、顎の下に手を持っていく。
「木ノ葉に戻るのが早いか……。
新たな薬草を探すのが早いか……」
悩むヤマトに、医療部隊の隊長が意見を述べる。
「両方、行いましょう」
ヤマトは顔をあげる。
「我々の部隊の一人を木ノ葉に向かわせます。
薬草の方をお願い出来ますか?」
「だったら、皆さんも村に──。
そうか……急に多人数が押しかけたら、気付かれるかもしれないか」
「はい。
相手が本当にただの薬売りならいいのですが、
もしも、忍だった場合は……」
「分かりました。
部下に影分身を使える者が居ます。
現地で手数を増やして対応します」
「ええ、お願いします。
では」
医療部隊の隊長は部下達の居る方に戻り、木の葉へ新たな薬の手配の支持を始める。
新たな方針が決まったヤマトは、医療部隊の持つ解毒薬を受け取って村へと走った。
…
夕方近く……。
村で看病しているヤオ子は困っていた。
解毒薬はあるが、数が足りていないのである。
均等に配れない以上、誰かに行き渡らないことになる。
その誰かを決めることが、ヤオ子は出来ないでいた。
(困った……。
困りました……。
どうしよう……。
どうしよう……。
どうしようーっ!)
ヤオ子が悶絶して悩んでいると、仕事を終えた大人達が長屋へと戻って来た。
大人達は自分達の子供のところへと駆け寄り、邪魔になると思ったヤオ子は影分身を解いた。
「あれ?」
(担当した子供以外の情報が頭に入ってる……。
へ~。
影分身ってこんな利点があるんだ。
今更ながら、気が付きました。
・
・
と、そんなことよりも薬!
薬売りは、来てないし……。
どうせ捕まえるんだから、薬売りが来れば、ふん縛って奪い取れるのに!)
ヤオ子の考えは、山賊まがいである。
内面で焦り、眉間に皺を寄せるヤオ子に声が掛かる。
「今日一日、ありがとうございました」
「ん?」
仕事から帰った大人達が、ヤオ子にお礼を言ってくれた。
「気にしないでください」
「ですが……。
何か、美味しいものを貰ったって」
「蜂蜜と金柑を合わせたヤツをお湯でといただけです。
堰してたから……喉痛いでしょ?」
「効くんですか?」
「うちの弟には効きました。
本を見て作ってやったんですけどね。
味は、子供好みの味なんですよ」
「そうなんですか」
「こうなると思って用意してたんです。
・
・
これです」
ヤオ子は金柑の蜂蜜漬けのビンを取り出した。
「へ~」
大人達が珍しそうに見る。
「ここ置いとくんで、喉痛がったらお湯に溶いてください」
「ええ。
そうします」
「うちの弟の場合ですけど、
ジュース代わりに飲みたがるんで、嘘は見破ってくださいね」
大人達は笑いながら了解の返事を返す。
「では、あたしは、村長さんのところに行って結果報告しますね」
去り際にヤオ子はサチに手を振ると、サチも手を振り返す。
ヤオ子は、村長宅へと向かった。
…
夕闇が迫る中で、ヤオ子は村長宅に到着する。
「こんばんは~。
お邪魔しま~す」
扉を開けて上がり込むと、朝、通された部屋までヤオ子は歩く。
村長は笑顔で迎えてくれた。
「おお、確かヤオ子ちゃん」
「はい」
「ご苦労様でした」
「いえいえ。
薬売り……来ませんでしたね」
「いや、いつも来るのは夜だよ」
「まだ夕方か……って、あれ!?
先生は!?
うっかり薬売りが来てたら、あたしと鉢合わせですよ!」
「それも、予定のうちでは?」
ヤオ子は、頭に手を当てる。
「まあ、そうなんですけど……。
薬売りを捕まえるのはヤマト先生なんで、
あたしが鉢合わせても、どうしていいか……」
「困りましたね」
「ええ、本当に……。
ヤマト先生だけは、
木ノ葉でも真っ当な人間だと思っていたのに……」
「何の話だい?」
ヤオ子のぼやきに後ろから声が返った。
「ヤマト先生!
何をのんびりと!」
「のんびりしてたわけじゃないよ。
薬を手に入れて来たんだ」
ヤオ子はヤマトを指差す。
「偉い!
それ、困ってました!
薬をあげたくてもあげれなかったんです!
誰にあげていいか分かんないし!」
「それがね……。
あと、二人分足りなくて……」
「オー マイ ガー!
どうすんのーっ!?」
ヤオ子が頭を抱えて絶叫した。
「まず、落ち着いて。
作戦を話すから」
「チャキチャキお願いします」
「分かってるよ。
そろそろ薬売りが来るしね」
「何で、夜来るって知ってんの?」
「ボクは依頼書を読んだんだ」
「そこまで、あたしに隠し立てする理由ある?」
ヤマトは溜息を吐く。
「全部、君のせいなんだけどね……。
君が真面目に試験を受けてくれれば、
実力を測るための隠し立てをする必要もなかったのに……」
「何か今回の任務って、色々と含みがありますね?」
「予想外の事態も、君が関わったからじゃないかと思えてしまうんだよな……。
何かを悪化させるのが君の特徴みたいだし……」
「いや、先生……。
そんな言い方ないですよ……。
まるであたしが死を呼ぶ死神みたいじゃないですか」
「そういうつもりじゃないんだけどね。
それはさて置き、作戦を言うよ」
「はい」
場に少し緊張した空気が流れる。
「まず、薬について。
今、医療部隊の一人が木ノ葉に戻っている」
「じゃあ、直に数は揃う?」
「ああ。
でも、病の苦しみからは早く救ってあげたい」
「うんうん」
「そこで第一に薬売りを捕獲。
そして、薬を奪取する」
「薬草を採りに行かないの?」
「症状が悪化しているようなら優先するけど……。
そうでないなら、薬売りを捕まえてから取りに行っても大丈夫じゃないか?」
ヤオ子は不満を顔に浮かべて否定する。
「ヤダ」
「……何で?」
「確実性を優先するべきです。
万が一が起きたら、どうするんですか?」
「じゃあ、どうするの?」
「あたしの影分身を取りに行かせます。
今のチャクラの残量なら、影分身は五人出せます」
「なるほど。
いい判断だ。
ボクも分身を出すから、その指示に従って」
「はい。
・
・
あ、もう一個いいですか?」
「何だい?」
「影分身って術を解くと、
その子の情報があたしに還元されるみたいなんです」
「そうなのかい?」
ヤオ子は頷く。
「目的の薬草を見つけたら、現地の何処かを拠点として術を解きます。
そうすれば、あたしの影分身の見つけた薬草の数は、あたしからヤマト先生に伝わります。
ヤマト先生から、ヤマト先生の分身に連絡出来ませんか?」
「なるほど。
そうすれば、ボクの分身の見つけた薬草の数を合わせて、
無駄な時間を掛けずに戻れるわけだ」
「はい」
「でも、そんな面倒臭いことしなくても無線を使えば一発だ」
「……あたし、無線持ってないです」
「どうして?」
「必要ないから支給されてません」
(そうか……。
雑用に無線はいらないか)
「了解。
ボクとボクの分身で無線のやり取りは出来るから、
ヤオ子の連絡は、さっき言った手筈で行って」
「分かりました」
「じゃあ、薬草を採りに行かせよう」
ヤマトは木分身で自分の分身を作り出し、ヤオ子は影分身を五体作り出す。
「行動開始!」
分身達は、村長宅を飛び出して薬草を取りに向かった。
そこでヤオ子が手を突いてへたり込む。
「どうしたの?」
「少し無茶しました。
身体エネルギーが足りなくなってきました……。
子供達の相手するんで影分身を出したり消したりしてたから」
村長がヤオ子を見て笑う。
「さあ、夕飯にしましょう。
そのままだと、薬売りが来た時に何も出来ませんよ」
「あたしは大丈夫です。
頑張るのはヤマト先生だから」
「君ねぇ……」
「でも、ご飯はいただきます」
村長は可笑しそうに笑うと、夕飯の支度を始めた。
…
夕飯が始まり、純和風の食事をしながら会話が流れる。
村長は賑やかな食事に、ほのぼのと呟く。
「皆で食事をするのも久しぶりですな」
「村長さんは、いつも一人なんですか?」
「もう、爺ですからな。
妻にも先立たれて一人です」
「そうなんですか」
「でも、一年前まではサチと一緒に食事をしていました。
病気になってから、村の子供達と食事をしているんで、
私は一人になってしまいましたが」
「さっちゃんのところへ、押しかければいいのに」
お茶碗を片手にヤマトが横槍の質問を入れる。
「ヤオ子には、デリカシーがないのかい?」
「何言ってんですか?
尻の青いガキ相手に遠慮して、どうするんですか?」
「君ねぇ……」
「ん? でも……。
何で、さっちゃんは村長さんと?」
「あの子の両親は早くに亡くなって、私が面倒を見ていたんです」
「へ~。
だったら、やっぱり無理してでも会うべきですよ」
「そうかね?」
「はい。
村長さんに甘えたいはずです」
「そうか……」
「ヤオ子。
君もそういう時期なのかい?」
ヤマトが、からかうつもりで質問する。
「あたしは卒業しました。
もう、親離れOKです」
「本当かい?」
「ええ。
お父さんに甘えたあげく、
コブラツイストを掛けられて意識を失ってからは、スキンシップを辞めました」
「…………」
(何で、いつも予想と違う変な答えが返ってくるんだ?)
「スキンシップを辞めたせいか、うちの親は弟に甘いですね。
過保護と言ってもいいかもしれません。
あたしに嫌われたもんだから、弟に媚を売ってます」
「どんな親子関係なんだ……」
「仲が悪いのかい?」
「いいえ。
一年前にちゃんと腹割って話して和解してます」
「君、八歳だよね?
変に大人びてないか?」
「親が馬鹿だと、子は育つもんなんです。
前にも、うちの親が如何にアホか説明したでしょ?」
「…………」
ヤマトも村長も微妙な表情をしている。
二人を置いて、ヤオ子は大切なことを思い出す。
「そうだ。
情報を交換しないと」
「何の情報かね?」
「ヤオ子が子供達と会話した情報です」
ヤマトが村長に補足すると、ヤオ子が説明を始める。
「薬売りについてですが、評判はいいです。
さっちゃんは、薬売りが好きだって言ってました。
他の子も同じ様に」
「そうか。
病気になった時期は?」
「報告書にあった五人の病人というのが、最初に毒に侵された子供の数です。
他は子供達の記憶が曖昧で分かりませんでした」
「おかしいな」
「報告、変でしたか?」
「違う。
やっぱり、子供しか毒に侵されていないことが、だ」
ヤオ子は顎の下に指を立てる。
「そうですね。
報告以外に追加で毒に侵されたのが、子供だけっていうのも変だし……」
「毒を盛る方法で子供だけ狙うなんて出来るのか?」
「そういえば、一つ。
興味深いことを聞きました」
「ん?」
「薬売りは、初めて会う子供達にはお菓子をあげるんです」
「お菓子?」
「子供って、大抵、薬嫌いだから、
苦手意識をなくすための手段の一つみたいですけど」
ヤマトは腕を組む。
「う~ん。
でも、その時だけは子供達の口に入るのか……」
「でもね。
さっちゃんの話だと、同じように口に入る、薬売りが処方した薬を飲んで治るんです。
そして、去って暫くして体調が悪くなるんです」
「どういうことかな?
仲間が居て、薬売りが去った後に毒を盛るのか?
もしくは、薬売りが何らかの仕掛けを残して子供達だけに毒を盛るのか?」
「前者は、無理じゃないかと思うんですよね」
「どうして?」
「全国を回っているんでしょ?
他でも同じ方法を取るなら、その村ごとに同じ仕込みが必要です。
各村ごとの村人に成りすますって大変過ぎません?」
「そうだね。
仕掛けがあると考えるのが普通だ」
「そこの調査が全然進んでないんです」
「直ぐに問題が発生しちゃったから、調査する時間が確保できていないんだ。
それは仕方ない。
・
・
でも、薬売りを捕まえれば全て分かるはずだ」
ヤオ子が箸を加えたまま少し考えたあと、ヤマトに質問する。
「今更ですけど。
薬売りが犯人じゃないってこと……ありませんよね?」
「どうして?」
「いや、あたし達って里の予想の下に動いているんですけど、
もし、それが間違いだったら、
薬売りは無実の罪で捕まえたことになります。
・
・
冤罪事件発生?」
「しかし、薬売りが確認された村で、同じ症状が出るのは変だろう?」
「分かりませんねぇ」
「証拠も見つけないといけないしね」
「この際、子供達が優先ですから、
薬売りのジジイ一人、間違いで痛い目を見てもいいんじゃないんですか?」
「君、悪魔みたいな奴だな」
「ヤマト先生って、
あたしの悪口ばっかしか言いませんよね?」
「君が包み隠さずに平然と言い切るからだよ」
村長は、ヤオ子とヤマトの会話を可笑しそうに聞いていた。
「お二人は、変わった師弟関係ですな」
「そうなんです」
ヤマトが疲れた顔で答えた。
一方のヤオ子は、ケラケラと笑っている。
「嫌ですね~。
先生ったら」
ヤマトが溜息を吐いた。
「そろそろ夕闇が降りる。
準備をするよ」
「はい。
作戦をお願いします」
「君は、看病を続ける」
「はい」
「ボクは子供達の居る長屋の入り口の死角──つまり、薬売りから見えない場所から木遁忍術で拘束する」
ヤオ子が片手をあげる。
「あの……。
薬売りから死角になってたら、ヤマト先生も見えないんじゃ……」
「そうだ。
だから、君がボクの目になってくれ」
「あたしが合図を出すの!?」
「君、ハンドシグナルを出せるだろう」
「何で、知ってんの!?」
「アンコさんと話してたよ」
(そうか……。
あの試験の結果報告の時にヤマト先生も居たんだった……)
ヤオ子は納得すると、改めて話を続ける。
「ところで……。
ヤマト先生の木遁忍術? 見せてください。
訳の分からないものに合図なんて出せないです」
「そうだね。
ヤオ子には僕の木遁忍術を見せておこう。
・
・
じゃあ、君を拘束するよ」
印を結ぼうとしたヤマトに、ヤオ子は手で待ったを掛けた。
「食べ終わったからいいですけど……。
お膳を下げてから縛ってくださいよ」
ヤマトは村長が居るのを思い出すと、照れ笑いを浮かべた。
「そうだったね。
忘れてたよ」
夕飯の後片付けは、ヤオ子が三人分のお膳を台所に下げた。
村長は『自分がやる』と言ったが、ヤオ子は笑いながら自分で受け持った。
そして、回復した身体エネルギーを使い、早速、影分身を一体出すと洗い物を任せて戻る。
「じゃあ、さっきの続きをお願いします」
「うん。
行くよ」
ヤマトが印を結ぶと、体から木が伸びてヤオ子にからみつく。
「おお!」
木は意思を持つようにヤオ子の周りを一周して拘束した。
「凄い。
これ、後ろで手もガッチリ縛ってますよ」
「伸びた先に対象が居れば拘束出来るから」
「本当に合図だけで何とかなりそうです。
木遁か……。
あたしも覚えようかな?」
「無理だと思うよ」
微笑むヤマトに、ヤオ子は首を傾げる。
「何で?」
「まだ、早いということだ」
ヤオ子は溜息を吐く。
「サスケさんは写輪眼を持ってるし……。
何か周りがエリートだらけで嫌になりますね」
(君も相当特殊だと思うけどね……。
いい意味でも悪い意味でも……)
ヤオ子の拘束を解いて、ヤマトがヤオ子を見る。
「じゃあ、作戦を開始しようか」
「はい!
・
・
村長さん、ご馳走様。
ご飯、ありがとうございました。
ほら、先生もお礼言わないと」
「そうだっだ。
ご馳走様です。
ありがとうございました」
「いえいえ。
お粗末様。
これから、よろしくお願いしますね」
ヤマトとヤオ子は薬売り捕獲のため、子供達の居る長屋へと向かった。