== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
精神力ではなく、妄想力を混ぜ合わせるヤオ子のチャクラ練成。
何故、そんな得体のしれないものを混ぜてチャクラが練ることが出来るのかは原因不明。
一応、印を組んだ忍術が発動した以上、間違いなくチャクラの一種なのだろう。
そして、そのヤオ子は暇な時間があれば印を結び、チャクラを練っている。
これは、いつも行動を共にしていないサスケの言いつけだった。
(実はサスケさんが、いきなりチャクラを練らせるように仕向けたのには理由があったのです。
チャクラの絶対量を増やすには日々の積み重ねが必要なので、
早めに覚えさせる必要があったからです。
そして、印を結ぶ練習も日々の積み重ねが必要なので、
同様に早めに練習させたかったみたいです。
サスケさんは、ドSですがいい師匠です。
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ですが、やっぱり、あたしは忍者になどなりたくないのです)
ヤオ子は店番をしながら、印を結ぶ練習に精を出していた。
第4話 ヤオ子の投擲修行
ヤオ子の印を結ぶ早さは格段に上がっている。
そもそも、この手のものはヤオ子の得意分野だった。
「あやとりは、昔からやってたもんね。
それに比べたら、この程度の指の動き……。
毛糸は、お金掛からないからって、うちの両親が唯一くれた遊び道具だし。
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そういえば、ここ何年か誕生日には
色違いの毛糸しか貰っていないような……」
(やはり、うちは貧乏なのか……)
それは紛れのない事実だった。
とはいえ、いくら得意だからと言って、単純作業の同じことを延々と繰り返すには限度がある。
「あ~あ、飽きたな。
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そうだ!」
ヤオ子はポケットからあやとり用の毛糸の輪っかを取り出す。
「行きますよ!」
ヤオ子は、印を結びながら同時にあやとりをする。
ヤオ子の胸の前では指と毛糸がグネグネと絡み合い生き物のように蠢く。
そして、寅の印でフィニッシュを決めると真ん中に蝶の図が形成されていた。
『お~!』
『器用なもんねぇ』
その超絶手技の前に、いつの間にか主婦連のギャラリーが出来ていた。
(これもしかして、客寄せに使える?)
ヤオ子は店の前に椅子を置き、その上に乗ると高速で印を結びながらあやとりを始めた。
形成される図形が出来上がる度に歓声があがり、拍手が起きる。
そして、誰が置いたのか空の缶詰の中に小銭がどんどん放り込まれる。
本日の客は、閉店まで絶えることはなかった。
「ふっ……。
自分の才能が怖い……」
ヤオ子は椅子を片付けたあと、小銭で満タンになった空き缶を手に持って店に戻る。
……が、そこで足が止まる。
「しまった……。
店の商品を売るのを忘れてた……」
次の日、鮮度の落ちた野菜が店先に並び、売り上げが落ちた。
結局、この二日の累計の売り上げは、一日の平均と変わらなかった。
ヤオ子の努力……意味なし。
…
八百屋の朝は早い。
主婦達に鮮度のいい野菜を買って貰おうと、朝食の前に商品を並べるからだ。
故に朝食用の野菜を買いに来る客の目も高い。
先日のヤオ子の偽装工作など瞬時に見抜かれ、一日前の野菜は、ほぼ売れ残った。
(恐るべし……。
木ノ葉の主婦連……)
そして、朝の忙しい時間が終わるとサスケが現れた。
そのサスケにヤオ子が声を掛ける。
「おはようございます、サスケさん」
「ああ」
「『ああ』って……。
挨拶返してくださいよ」
「ああ……おはよう」
(そんな、いかにも面倒臭いって態度しなくたって……)
ヤオ子は不満を心の中だけに留め、話を続ける。
「早いですね。
何か用ですか?」
「今から手裏剣術の朝修行をするから、来い」
「んん?
何か変な言葉遣いですね?」
「行くぞ」
ヤオ子は手で待ったを掛ける。
「はい! ストーップ!
何で、命令形?
あたしの意思は!?」
「ない」
(この人、いつもこうだ。
ふらっと現れたと思ったら、横暴を押し付ける。
大体、うちの親もこういう子には、
大人の義務を果たす上で注意して欲しいです)
そこへ、丁度良くヤオ子の両親が現れる。
「娘をよろしくお願いします」
「分かった」
ヤオ子の期待は、即行で裏切られた。
「このゆとり教育がーっ!」
「うるさいぞ」
「もういい……。
自分の未来は、自分で切り開く。
貧乏で社会の敗北者のうちの両親に、
お客様に文句言えるスキルなんて皆無なんだ……」
ヤオ子は、先を歩くサスケにふらふらと項垂れて着いて行った。
…
近くの森の中に練習場はあった。
何処となくオリジナリティが漂うその場所は、サスケの秘密の練習場であった。
「あの~……。
あたしは、何をすれば?」
「クナイや手裏剣を使ったことはあるか?」
サスケの言葉は、いつも唐突に始まる。
「だから……。
あたしは、そんなデンジャーな忍的家業はしたことないんですって」
「そうか」
サスケが右足のホルスターから手裏剣を抜き、腰の後ろからクナイを取り出す。
そして、正面の的に目掛けてクナイと手裏剣を投げつけると、どちらも的の真ん中を捉えて突き刺さった。
「凄い……。
全部、真ん中ですよ!」
「狙って投げてんだから、当たり前だ」
「いや……。
狙ったからって、簡単に真ん中に行かないでしょ」
「これを教えてやる」
「え?」
ヤオ子は両手を振って否定する。
「止めてくださいよ!
このままじゃ、本当に忍者になっちゃうじゃないですか!」
「お前には才能がある」
「話、聞いてます?」
「一日でチャクラを練り、
術を発動するなんて、普通は出来ない」
「家焼かれるかもしれないなんて、普通の状況下じゃないでしょ?
死を感じて地獄で触れた魔法の粉が奇跡を起こしたんですよ」
「このまま精進すれば、下忍にも直ぐになれるだろう」
「アカデミーを卒業しないと下忍になれないんですよね?
つまり、あたしの努力は一生報われない」
「だから、精進を怠るな」
「まるっきり、話を聞いてませんよね?」
サスケがクナイを反対に持ち、ヤオ子に突き付ける。
「これを掴んで投げろと?」
サスケが無言で頷くと、ヤオ子は諦めてクナイを受け取る。
そして、改めて遠くにある的を見る。
「届かないんじゃないですか?」
「とりあえず、適当に投げてみろ」
「アバウトな……。
教科書通りでいいんですよね?」
「あの投げ方以外は投げ難いだろう」
「それはそうなんですけど……。
もう少しアドバイスを貰えません?」
「…………」
サスケが目を閉じて、何かを思い出す。
そして、ゆっくりと目を開けると呟く。
「憎い相手……」
「え?」
「殺してしまいたいほど、憎い相手だと思って投げつけろ……」
(何だろう?
サスケさんが急に怖くなった……)
「わ、分かりました。
やってみます」
ヤオ子は的を真剣に睨むと、目を閉じ深呼吸をする。
そして、一時の間を開けて、ヤオ子が目を見開く。
体を開き、足から腰へとスムーズに体の回転を伝える。
「うおぉぉぉ!
死ねーっ! サスケーっ!」
ヤオ子の掛け声と共に上半身で引き絞った腕が、足からの回転力を加えて振り抜かれる。
クナイは、一直線に的に向かいど真ん中を打ち抜いた。
「見てください!
真ん中ですよ!」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
そして、サスケは、ヤオ子にアイアンクローを掛ける。
「……お前が殺したいほど憎い相手は、オレか?」
「へ?
・
・
あ~! つい、本音が!」
サスケの握力が強くなる。
「ちょっと! 嘘です! 冗談!
プリティな女の子が、おちゃらけただけじゃないですか!?」
サスケの手の中で、ヤオ子がバタバタともがく。
「放して!
痛い! 痛いって!」
サスケは、無言で握力を込め続ける。
「いい加減にしないと、ぶっ飛ばしますよ!?」
「やってみろ!」
「股間を蹴り上げてやる!」
ヤオ子が足をバタつかせるも、足は虚しく空を切る。
「こうなったら!」
ヤオ子は、掴んでいるサスケの掌をペロリと舐めた。
「うわ! 汚ねェ!」
気持ち悪さに、サスケは思わず手を放す。
ようやくアイアンクローから開放されると、ヤオ子は自分の手で顔を揉み解す。
「死ぬかと思った……」
サスケは、掌の唾液を近くの木に擦り付ける。
「お前、何でもありだな……」
「当たり前じゃないですか!
殺されそうになってんのに!
・
・
あ、貴重な美少女の唾液ですから、
良かったら舐めても構いませんよ?」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「そんな変態が居るか!」
「あたしは、美少年だったら二の足を踏みません。」
サスケは、今のヤオ子の言葉に後退りする。
もしかしたら、生まれてきて一番の悪寒を感じているかもしれない。
そのサスケにパタパタとヤオ子は手を振る。
「大丈夫ですよ~。
あたしの捕獲テリトリーは、年下ですから」
「毎年、テリトリーが広がっていくのか……。
最悪だな……」
「と、馬鹿な事をカミングアウトしている場合じゃないですね」
「ああ。
寧ろ、永遠に心の中に封印していて欲しかった……」
(ある意味、最大級の仕返しをされた気分だ……)
サスケは、本気で頭痛を起こしている。
そして、こういう日に限って、ナルトとサクラが任務で追い討ちを掛ける失態をする確率が高い。
…
その後は、サスケが任務に行くまで真面目に修行が続けられた。
今回の事は、サスケが遠出をした時、ヤオ子に自主的な修行をさせるため、サスケが気を利かせてくれたものだった。
しかし、そのせいで多大な精神的苦痛を味わうことになるとは、サスケ自身大誤算だった。
そして、これから暫く経ってから、サスケの予想した通りに波の国への長期任務が二人を暫く引き離すことになるのであった。