== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
イビキ、カカシ、ヤマトは、未だに精神的ダメージから立ち直れない。
ヤオ子の考えは斜め上を行っていた。
教壇の前で拳を握って俯くイビキが、ギリリッ!と奥歯を噛み締める。
「この馬鹿……。
この馬鹿……!
この馬鹿がーっ!」
イビキの怒号が教室に響いた。
第32話 ヤオ子の下忍試験・実技試験編
ヤオ子は座った目でイビキを見る。
「何で、馬鹿扱いされなきゃいけないんですか?
あたしは、ちゃんと試験受けたんですよ。
・
・
ほら、回答だってバッチリ!」
ヤオ子が頬杖を突きながら、イビキに試験用紙を見せる。
「くそっ!
こんなガキのカンニングも見破れんとは!」
イビキが苦々しく呟く。
「例え神様でも見破れませんよ。
あたしはカンニングしないで解いたんだから」
「「「何?」」」
イビキ達がヤオ子を見ると、ヤマトが代表して質問する。
「じゃあ、あの印は?」
「イビキさんの態度が頭に来たから、
カンニングするように思わせたんです」
「つまり……」
「からかってやったんですよ」
イビキのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「大馬鹿ヤローが!
お前のせいで受験生が居なくなっただろうが!」
「アァ!? 何言ってんですか!?
あたしのせいじゃないでしょ!
失格にしたのは、イビキさんじゃないですか!」
(あ~……。
この空気……。
第七班でよく流れてるなぁ……)
ビシバシッ!と火花を散らして睨みあうヤオ子とイビキを見て、カカシは溜息を吐く。
「で……。
どうすんのよ? イビキ?」
カカシの言葉に我に返ると、イビキは咳払いを入れる。
「……明日、再試験する」
「はぁ……。
やっぱりね」
ヤオ子が自分を指差す。
「あたしも、再試験?」
「お前は絶対に来るな!
合格したから、次に行け!」
「次?」
ヤオ子が首を傾げると、カカシが立ち上がる。
「第三演習場で
オレが実技を見ることになっている」
「あの……。
あたしだけ?」
「君のせいで他の子は失格しちゃったから」
「やっぱり、あたしのせいなの?」
「そりゃそうでしょう……」
カカシがヤオ子を手招きする。
「着いて来て」
「は~い」
ヤオ子がカカシの後に着いて行く。
そして、カカシはすれ違い様にヤマトに囁く。
「アンコ呼んで。
試験するのに人数足りないから。
下忍に変化して来てくれ」
「分かりました。
では、後ほど……」
カカシとヤオ子が教室を出るとヤマトも姿を消した。
残されたイビキがヤオ子の答案用紙を見る。
「答え……本当に全部あってるな。
何で、全部解けるんだ?」
サスケのドS的指導のせいに他ならない。
…
第三演習場……。
今日のために用意した演習場だが、ここには二人しか居ない。
カカシとヤオ子が向かい合っている。
「あと二人来るから、待っててくれ」
「二人?」
「本当は受験生同士を組ませるはずだったんだけどね。
誰かのせいで居なくなちゃったから、代わりを用意してんの」
「誰かって……。
ここには、あたししかいないじゃん……」
「…………」
沈黙して時間を待つのもおかしいので、カカシがヤオ子に話し掛ける。
「自己紹介してくれる?」
「試験で普通します?」
「一人しか居ないからな。
それに時間もあるし」
「別にいいですよ。
八百屋のヤオ子です」
ヤオ子の名前を聞いて、カカシが首を傾げる。
「ヤオ子……どっかで聞いたような?」
「サスケさんじゃないですか?」
「え?」
「名前は存じませんが中忍試験の本戦の時に、
サスケさんと一緒に現れた忍者さんですよね?」
「そうだけど……」
「あたしは、サスケさんと濃密な関係で結びついてます」
「濃密って……。
まあ、確かにサスケがぼやいてた名かな?」
「そういうことです。
・
・
ところで、お名前を伺っても?」
「ああ。
オレは、はたけカカシだ。
第七班……サスケの担当上忍だ」
「サスケさんの……。
ということは、ナルトさんとサクラさんも?」
「そうだ。
知ってるの? 三人とも?」
「ええ。
大変ですね」
「何で、大変?」
「あの三人……。
キャラ濃いでしょ?」
(……否定出来ない)
カカシが苦笑いを浮かべた時、下忍に変化したヤマトとみたらしアンコが現れる。
それを合図にカカシが咳払いを一つする。
「準備出来たな。
今から第二試験を始める。
第二試験は、さっき言ったように実技だ」
ヤオ子が首を傾げる。
「三人も要らないんじゃないの?」
「まあ、待て。
ただ実技を見てもつまらんだろう?
ゲーム性を持たせる」
「よかった……。
カカシさんは、イビキさんみたいにドSじゃないみたいです」
カカシが腰の道具入れから鈴を二つ取り出すと、それをヤオ子に見せる。
「忍術・体術……何を使ってもいいからオレから鈴を取れ。
鈴を取れなければ失格だ」
にこりと笑うカカシに、ヤオ子が鈴を指差す。
「一個足りない……」
「ゲーム性……。
椅子取りゲームと同じだ」
「…………」
ヤオ子は視線を斜め下に向けて、腰に手を当て呟く。
「ふっ……。
間違いなくコイツもドSです」
ヤオ子が項垂れた。
「じゃあ、始めるぞ?」
「待った!」
ヤオ子が手を上げる。
((またか……))
カカシとヤマトは少し警戒する。
この質問攻めのせいで、イビキが壊された。
「作戦タイムが欲しいです」
「作戦タイム?」
「知ってますよ。
カカシさんが只者ではないのは。
あのサスケさんに電気系の技を教えたんでしょ?」
「雷な……」
「だから、この人達と作戦を立てさせてください」
カカシがヤマトとアンコを見て、ヤオ子に視線を戻す。
(へェ……。
面白いことを考える奴だな……)
「構わんよ」
「ありがとうございます。
・
・
では、あっちで」
ヤオ子の提案でヤマトとアンコがヤオ子に連れられカカシから離れる。
ヤオ子達が離れていくと、カカシは腰の道具入れから『イチャイチャパラダイス・中巻』を出して読み始めた。
ヤオ子は、それに気付くと唇の端を吊り上げた。
…
会話の聞かれない一定の距離を置くと、ヤオ子は頭を下げる。
「あたしのために
わざわざ、すいません」
(謙虚な子ね)
(さっきと様子が180度違う……)
「お二人の経歴を教えて貰っていいですか?」
「経歴?」
「下忍歴XX年みたいのでいいです」
ヤマトがアンコを見るとアンコは両手を軽くあげる。
(適当でいいんじゃない?)
「ボクは、下忍になって三年だ」
「私は、二年」
ヤマトとアンコの返答に、ヤオ子の頭で不等号が並び変わる。
(サスケさん:下忍一年目 > あたし。
・
・
つまり……。
男の子の下忍 > 女の子の下忍 > サスケさん > あたし
・
・
格付けでいうとあたしは、かなり最下層ですね。
これはお零れを狙うしかありません)
「お二人は、上忍を知っていますか?」
「「……知ってるけど」」
ヤマトとアンコに疑問符が浮かぶ。
「間違いなく下忍じゃ、上忍に太刀打ち出来ません」
「諦めたのかい?」
「いえ……。
手を組みませんか?」
「「は?」」
「あたしは、全く勝てる気がしません。
しかし、あの上忍の両手を塞ぐ方法を考えました」
アンコがニヤニヤと笑う。
「へ~。
面白いじゃない」
(何だろう……。
あんまりいい予感がしない……)
警戒心を植えつけられているヤマトは、ヤオ子の作戦というのに同意しかねていた。
ヤオ子が話を続ける。
「そこで取り引きです。
あたしがカカシさんの両手を塞いで、その隙にお二人が鈴を取れたら……。
ジャンケンで鈴の所有者を決めさせてください」
「そういうことね」
アンコが軽く笑う。
「あんた、取れる気しないから、
私らを利用して少しでも鈴を取れる可能性に懸けるんでしょ?」
「うっ……!」
(せこい……)
ヤオ子がタラタラと汗を流すと項垂れる。
「バレた……」
アンコは可笑しそうに笑っている。
「ダメですか?」
ヤオ子は駄目元で聞いてみる。
「いいわよ。
面白そうだから♪」
(アンコさん!?
カカシ先輩に確認も取らずに!)
ヤマトはヤオ子とアンコに同じ臭いを感じて不安になる。
一方のアンコは面白そうに質問する。
「で? 手筈は?」
「あたしがカカシさんの前で囮になります」
「ん?
どうやって両手を塞ぐのよ?」
「企業秘密です。
しかし、効果抜群の自信作です」
「ヤマト。
面白そうだからやろうよ!」
(ダメだ……。
手が付けられない……。
『やろうよ』が『やるわよ』に聞こえる)
ヤマトは無言で頷くと、ヤオ子が右手の人差し指を立てる。
「作戦は至ってシンプルです。
あたしがカカシさんの前で囮になって仕掛けますんで、
カカシさんが両手を塞いだら、二人は鈴を取ってください」
「いいわよ」
「分かった」
「では、お二人は開始直後に身を潜めてくださいね。
身を潜めたら開始します。
・
・
あと、失敗したら、あたしは無視してください。
多分、実力からいって役に立たないんで」
「「了解」」
…
長い打ち合わせの後で、ヤオ子達はカカシの前に戻る。
「終わった?
始めていいか?」
三人が頷く。
「じゃあ、スタート」
カカシの合図に、ヤマトとアンコが姿を隠して気配を消す。
それを見たヤオ子は動けなくなった。
「あの人達……ほんとに凄い。
一瞬で姿消して気配が消えた」
(ヤマト、アンコ……やり過ぎ。
もう少し抑えて……変化がバレるから)
しかし、今はそのことを置いておく。
ヤオ子はカカシの前で堂々と腕を組む。
「いざ! 勝負!」
「あ。
デジャヴ……」
カカシが本を持っていない空いてる手で額を押さえる。
(そうだ……。
この子、何処となくナルトに似てるんだ……)
カカシは懐かしさを感じつつ溜息を吐く。
その様子を見ながら、ヤオ子はカカシを指を差す。
「その本は?」
「下忍前のガキに本気もないでしょ?」
カカシはヤオ子を無視して本を読み耽っていた。
…
アンコはヤオ子の様子を面白そうに見つめている。
「ダメだわ。
あの子、面白過ぎる……く…くくく」
一頻り笑い終えると、今度は冷静になってヤオ子に監視し続ける。
「それにしてもカカシ相手に、一体、どうするのかしら?
幻術でも使うのかしら?」
…
一方のヤマトは、別の場所で頭を抱えていた。
「おかしいよ……。
こんな忍者いないって……」
第一試験に続いて頭痛がする。
「先輩相手に堂々と術なんて掛けれるわけがない」
ヤマトは黙って様子を伺うことにした。
…
ヤオ子がゆっくりカカシに近づく。
それをチラリと見ただけで、カカシは無視して『イチャイチャパラダイス・中巻』を読み続けていた。
そして、ヤオ子が足を止めるとボソリと呟いた。
その耳に入った言葉に、カカシがゆっくりとヤオ子に顔を向けさせられる。
「何……だと?」
更にヤオ子は何かを呟き続ける。
「どうしてだ?
どうして内容を知っているんだ!?」
カカシの叫び声に、ヤオ子はニヤリと唇を吊り上げるだけだった。
遠く離れているヤマトとアンコにはヤオ子の声は聞こえず、カカシの声だけが届く。
「「まさか、幻術に掛かった?」」
しかし、ヤオ子は印の類を結んでいなければ、チャクラを練った形跡も見えない。
ヤオ子の呟きが続く。
「やめろーっ!
それを変えるなーっ!」
((変えるって、何だ?))
ヤオ子が呟き続ける。
「それ以上、主人公とヒロインを穢すなーっ!」
カカシが思わず耳を塞いだ。
「「あ」」
ヤオ子の予想通りになると、ヤマトとアンコが木の陰から飛び出した。
絶叫して耳を塞いき続けるカカシから鈴を取るのは、あまりに簡単だった。
「やめろ~!
やめてくれ~!」
カカシは絶叫し続け、ヤオ子は卑下た笑いを浮かべて呟き続ける。
ヤマトとアンコがヤオ子の言葉に耳を澄ます。
そして、間髪入れずに二人はヤオ子にグーを炸裂させた。
「「何、下品な言葉を囁いている!」」
ヤオ子が地面に減り込むとヤオ子の呟き止り、カカシは額の汗を拭う。
「何て恐ろしい精神攻撃だ……」
「何処がですか! 先輩!」
「そうよ!
ガキがエロい言葉を羅列していただけでしょ!」
「…………」
アンコがヤオ子のポニーテールを引っ掴むと、地面から人参でも引き抜くようにして吊るし上げる。
「あんた!
何したの!」
「囮……」
「嘘をつくな!」
アンコのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「痛いじゃないですか……。
鈴取れたんだし、いいでしょ?
ジャンケンしましょうよ」
「納得いくか!
あんな下品な言葉で耳を汚された挙句に
鈴が取れるなんて!」
「カカシさんに聞けばいいでしょ?」
「無理……。
カカシ先輩のHPは0だよ。
回復に時間が掛かる」
消耗しきったカカシを見て、ヤマトはそう答えた。
ポニーテールを引っ掴まれて吊るされたまま、ヤオ子は両方の掌を上に向ける。
「もう、どうだっていいじゃん。
鈴取れたんだし。
・
・
ハウッ!」
空中にぶら下がってんのは変わらないが、ポニーテールから顔面のアイアン・クローに位置が変わった。
「死ぬのと説明するのどっちがいい?」
「聞き流すの選択肢はないんですか!?」
「ないわよ!」
「……じゃあ、説明するで」
アンコがヤオ子を開放すると、ヤオ子はいつものように顔を揉み解す。
(何かこのパターン多いですよね……)
「で?」
「ああ、カカシさんが廃人になった件ですね?
・
・
原因は、それです」
ヤオ子が地面に落ちている『イチャイチャパラダイス・中巻』を指差す。
「このエロ小説がなんなのよ?」
「適当にページを開けてみてください」
「イヤよ!
こんな本!」
「知りたくないんですか?」
「っ! し、仕方ないわね!」
アンコが適当に『イチャイチャパラダイス・中巻』を開く。
「主人公は、Pi─────に
Pi──────────をして
嫌がるヒロインにPi─────をした」
ヤオ子の朗読にヤマトは額を押さえる。
(この子、何言ってんの……。
もう、帰りたい……)
一方のアンコは驚いている。
「内容が…合ってる……」
「……え?」
「この子の言った内容と、
この本に書かれている内容が丸っきり同じなの!」
「嘘!?」
「種を明かしましょう」
ヤマトとアンコが唾を飲み込み、ヤオ子を見る。
「あたし、『イチャイチャパラダイス』は、全部暗記しているんです!」
「…………」
開いた口が塞がらない。
何という無駄な能力の使い方。
何という無駄なメモリの使用方法。
「だから?」
「カカシさんが、何処を読んでいるか一目で分かります」
「それで?」
「カカシさんが読もうとしたところを先に朗読しました」
「……それで先輩が驚いてたのか」
「そりゃ驚くでしょ?
子供が十八禁を朗読したら」
「……いや、それだけじゃない」
カカシ復活。
効果は、FFのリジェネぐらい。
「この子は主人公の気持ちもヒロインの気持ちも理解して、
感情移入して朗読するんだ」
「十八禁エロ小説を感情移入の上に朗読……」
((アホだな……))
アンコが左手の掌を返す。
「それだけでしょ?
何で、耳塞ぐほど精神をやられるのよ?」
「ここまで言って、まだ分かんないんですか?」
「分かるわけないでしょ!」
ヤオ子とカカシが溜息を吐く。
「ダメだな……コイツら」
「全くです」
((無性に腹が立つ……))
「ヤオ子。
仕方ないから、例を出して説明してやれ」
「分かりました」
(短い間で随分と打ち解けたじゃない……)
(何だろう……。
先輩が酷く馬鹿に見える……)
「え~と……あなた!」
ヤオ子がアンコを指差す。
「私?
ああ、名前言ってなかったわね。
アンコでいいわよ」
「分かりました。
・
・
では、あらためて。
アンコさんは、何が好きですか?」
「は?
・
・
まあ、お団子かな?」
「団子にウスターソースをかけたら?」
「殺すわ!」
「…………」
ヤオ子は顔の前で手を振る。
「そうじゃないです。
ウスターソースをかけた団子を無理やり食べさせられたら?」
「殺すわ!」
「そうじゃないです!
食べさせられた時の気分です!」
「殺すわ!」
「お前、黙れ!」
アンコのグーが、ヤオ子に炸裂する。
ヤマトがフォローを入れる。
「アンコさん。
そうじゃないですよ。
きっと、酷く気持ち悪いということを言って欲しいんですよ」
「そう!
・
・
あなたに質問すれば良かった……」
「フン!」
アンコはそっぽを向き、ヤオ子は殴られた頭を擦る。
そして、説明を続ける。
「つまり、その嫌なことをカカシさんにしたんです」
「どうやって?」
「あたしの分析です。
カカシさんは『イチャイチャパラダイス』をかなり愛読しています。
きっと、あたしと同じ位のエロレベルです」
「エロレベルが分からない……」
「きっと、内容を神の様に崇拝しているはずです」
「たかがエロ小説で?」
ヤオ子が地団太を踏む。
「アンコさん!
さっきから失礼ですよ!
エロを舐めんなです!
・
・
ちゃんとエロいところに持って行くのに練り込まれたストーリーがあるんです!
ちゃんとした設定があるから、メインのエロいところで盛り上がり、
読者を感情移入させ熱くさせるんです!」
「エロ小説の長所を力説されても……」
「まったく! さっきからアンコさんは!
ちゃんとエロ小説を理解する気があるんですか!?」
「ないわよ!」
アンコのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「ヤオ子……。
話がずれてるぞ」
「すいません。
大人気ないところを……」
(((子供だけどな……)))
「え~と……。
だから、あたしは『イチャイチャパラダイス』の内容を改竄して、
カカシさんに聞かせたんです」
「…………」
アンコとヤマトが首を傾げる。
「それで……何で、絶叫?」
「二次小説って知ってますか?」
「知らない」
「まあ、簡単に言うと原作のIFの話です。
その中に結構な確立で嫌われるジャンルがあります。
まあ、それが好きだという人も居るんですが……。
・
・
良作の原作を徹底的に批判し貶めるジャンルです。
あたしは、これを実行しました」
カカシがシリアスな顔で語る。
「そう……。
それをやられたオレはあまりの酷い内容に絶叫し、
思わず耳を塞いでしまったのだ」
(馬鹿だ……)
(馬鹿ね……)
「それにしてもあの内容は酷かった……」
「あたしも心で泣きました……とても辛かったです。
『イチャイチャパラダイス』の原作の内容がいいだけに」
「心で泣いていたんだな……」
「はい。
・
・
『イチャイチャパラダイス』に出会うまでに数多のエロ小説や二次小説を読みました。
その中には、本当に酷いものもあります。
怖いもの見たさで書いたようなものもあります。
あたしは、その中でも後者の衝撃を受けた理想郷のチラシ的裏にある
宇宙系支配者のボクっ娘系絶叫小説を掛け合わせました」
アンコが頭が痛そうに、ヤマトに話し掛ける。
「ヤマト……。
私、何言ってるか分かんないんだけど」
「ボクもです……」
ヤマトとアンコの前では、イチャイチャパラダイスで打ち解けたヤオ子とカカシに少し友情のようなものが芽生えていた。
そのアホな光景に水を差すように、ヤマトが訊ねる。
「あの……。
感動に浸っているところ悪いんですが……。
先輩、試験の結果は?」
「え?」
「『え?』じゃないわよ。
あんたが試験官で合否を決めるんでしょ!」
「……合格になるのかな?
オレは、してやられたし」
ヤオ子は首を傾げる。
「鈴は?」
ヤオ子は訳が分からぬまま第二試験もパスした。