== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
ヤオ子はシカマルの活躍を見逃した。
何も分からずに見逃した。
故にいきなり『ギブアップ』をした理由も分からない。
試合会場の真ん中を指差し、砂の忍テマリを指差しながらヤオ子は訊ねる。
「あの女の人の幻術ですかね?」
「違うんじゃないか?
納得いかない顔してるし……」
「まあ、いっか……。
次は、お待ちかねのうちはの試合だ」
「お待ちかね?」
ヤオ子は首を傾げた。
第24話 ヤオ子の中忍試験本戦・崩壊編
ヤオ子は知識があっても、今一、ウチハ一族の価値というものが分かっていない。
何故なら、ガイはサスケ以上の実力者だったからだ。
つまり、一族の秘伝も一般忍者もそんなに差がない。
使える忍術が特殊なだけ。
それは得意なチャクラ性質が個々に違うのだから、それと同じ程度にしか考えていない。
「何で、ドS──じゃなくてサスケさんが特別なんですか?」
「ウチハ一族を知らないのか?」
「知ってますよ。
写輪眼を使えるんでしょ?
あと……火遁が得意な一族でしたっけ?」
「それだけじゃない」
ヤオ子は『他にも何かあるの?』と視線を投げ掛ける。
「木ノ葉の隠れ里のエリート一族がウチハ一族だ」
「エリート?
あのサスケさんが……。
・
・
あ~。
だから、あんなスカした陰険な態度を取ってんですか。
道理で、どっかの惑星王子みたいなプライドの高さです。
まあ、キュイみたいに汚い花火にされないだけマシですけどね」
忍者A,Bは、ヤオ子の意味不明な言葉に首を傾げる。
ヤオ子は、あれらの漫画を本当に木ノ葉の何処から拾って来たのか。
「しかし、そのエリート忍者は何処ですかね?
まだ、見えないようですが?」
「まさか……棄権?」
ヤオ子が目を閉じると、トラウマによって覚醒した副産物でサスケの位置を探る。
「いや、もう近くに来てます」
「分かるのか? お嬢ちゃん?」
「ええ。
あたしは、サスケさんの気配が分かります。
トラウマによって……」
((何故、トラウマ?))
そして、会場中央で木の葉を巻き上げ旋風が起きる。
それを見て、ヤオ子は唇の端を吊り上げる。
「あの派手好きが……。
やっぱり、新手のギャグです。
ネタ元は、あの白髪眼帯忍者ですね」
会場中央の審判がサスケに近づくと訊ねる。
「名は?」
「うちは……サスケ」
サスケの登場に、会場中が盛り上がる。
「皆、この試合を
目的に来たようなもんだからな」
「そうだな」
(何か……。
あたしだけ勘違いしてる?
ひょっとしてサスケさんって凄いの?
・
・
あ、装備が変わってる……。
黒で統一しましたか……。
それに……何か少し姿勢が良くなった?)
服を黒一色に新調したサスケの周りには、ナルトやシカマルも居る。
遠目にも何か話しているのが分かる。
会場は、熱気が覚めやらない。
(何で、こんなに盛り上がるんだろ?)
『オイ!
あれがウチハの末裔か!?』
「え?」
ヤオ子の耳に思いもよらない観客の声が耳に入る。
ヤオ子は忍者Aに質問する。
「末裔って、サスケさんは一人なんですか?」
「そうだが?」
「サスケさんのお父さんやお母さんは?」
「……ちょっと、辛い事件があってな」
「あたしは……。
ウチハ一族が全滅したっぽいのは知ってたけど。
サスケさんの家族が居ないなんて知らなかった……。
てっきり、サスケさんの家族は助かったものと……」
「あの子だけが生き残ったんだ」
「…………」
(言ってくれなきゃ、
分からないじゃないですか……。
・
・
あたしは、今頃になってこんな事実を知って……。
今度、どんな顔して会えばいいんですか?)
ヤオ子は少し暗い気分になる。
(だから……。
火遁の話を聞こうとして、
サスケさんの家族を探しても見つからなかったんだ。
里の人に聞いても渋い顔してたし。
・
・
無責任な人は、ああいうことを叫ぶんですね。
サスケさんは……怒ってないように見えるけど、
一体、どんな気分なんだろう?
・
・
ここの人達は、最後の生き残りを見に来たの?
サスケさんは……。
サスケさんは見世物じゃないのに……)
ヤオ子はサスケを見続ける。
しかし、サスケはヤオ子の思っているような不快な感情を感じているようには見えない。
(そうでしたね。
あのドSは、その位のことは鼻で笑うタイプでした。
だからこそ、あたしが一発かます目標なんです)
「サスケさん!
頑張れーっ!」
ヤオ子の声援に、忍者Aが話し掛ける。
「お嬢ちゃんは知り合い多いな」
「ふっ……。
あたしの色香に男共が誘われて来るのです」
「はははっ!
その歳でか?」
「魔性の女というヤツです」
「本当に面白いな」
「もちろんギャグですよ?」
「分かってるさ」
忍者Aは、可笑しそうに笑った。
そして、試合と関係ない者が去り、対戦者の我愛羅が姿を現す。
「変わった格好ですね。
あの大きな瓢箪は、どう使うんですかね?」
「瓢箪ねぇ……。
想像出来るのは液体が入ってそうな位かな?」
「硫酸とかですか?」
「ああ」
ヤオ子と忍者Aの会話に忍者Bが割り込む。
「でも、砂漠の我愛羅って字名は、
水なんて思い起こさせないけど?」
「そうですね……。
水遁系の忍者なら霧隠れの里とか水関係の出身でしょう。
砂漠なんて水の貴重な国では……」
「じゃあ、あの瓢箪には
何が入ってるんだ?」
「う~ん……。
暗器の類じゃないですか?」
「なるほど」
「あの形状からは何が入っているか、
パッと見では分からないからな」
ヤオ子達が見守る中で、試合は開始される。
そして、ヤオ子達の予想していた瓢箪の中からは、砂が噴出した。
「砂?」
「あの……。
あれ浮いてません?
どうなってんの?」
「砂にチャクラを練り込んで操ってるんだ」
「変わってますね。
狙いは目潰しですか?」
「さあ?」
戦いは直ぐに始まり、距離を取ってサスケが手裏剣を投げる。
それを砂が防ぎ、砂分身となり手裏剣を掴む。
「ただの砂じゃない。
あれで防御しているんだ」
「便利かもしれませんね。
砂なら幾らでも形を変えられますし、
圧縮すれば硬度も変わりますからね。
・
・
まあ、使っている砂の原石にもよりますが……」
サスケの動きが少しずつ変わってくる。
手裏剣術をやめて体術に移行していく。
「ん? あの動き……」
そして、体術で我愛羅の顔面に拳を入れた瞬間、ヤオ子はキレた。
「あのヤロー!
リーさんの体術をパクリやがった!」
ヤオ子が思わず叫ぶ。
「しかも、ちゃんと使いこなしてる!
あたしが散々練習しても出来ないことを!」
ヤオ子は、がーっ!と吼えまくる。
忍者A,Bは、何事かとヤオ子を見ている。
「あの人、退院して約二週間でしょ!?
その間にリーさんの体術をマスターしたの!?」
ヤオ子は写輪眼の特性のコピーについて知らない。
また、サスケが中忍試験の間にリーの体術を見ていたことも知らない。
そして、これは受け継がれた血やセンスだけではない。
サスケの努力があったからこそ、付いてきた結果である。
「あ~~~! 困った!
あたしの野望が遠のいていく!
折角、体術覚えてサスケさんに近づいたのに!
更に化け物みたいに早く動かれたら、
一体、いつになったら、あたしはワンパンチ入れられるんだ!
・
・
こんなの行動移す前の予備動作しか目で追えないよ……。
あたし、筋力足りないから、
絶対にサスケさんより早く動けないし……」
「君……。
ウチハ一族にワンパンチ入れる気だったの?」
「そうですけど?」
((それは無理だろう……))
忍者A,Bは、忍者でもない無謀な一般人のヤオ子に呆れた目を向ける。
「君……下忍?」
「いいえ」
「アカデミーに行ってるの?」
「いいえ」
「「諦めろ……」」
「何で!?」
ヤオ子のことは関係なしに、試合は進む。
サスケの攻撃に業を煮やしたのか、我愛羅が自分を砂で覆い絶対防御に入る。
「閉じ篭もっちゃった……」
サスケの高速体術からの突きに絶対防御からの角のような反撃が入り、サスケの左足に血が滲む。
「自動で反撃するのか?」
「砂の忍も凄いな」
「っていうか……。
あんなのどうやって壊すの?
サスケさんのパンチなんて効いてないじゃないですか」
「俺だったら、起爆札でも仕掛けるかな?」
「なるほど」
「あの防御姿勢は、動けるようには見えないからな」
(さすが中忍の人です。
知りたいことに、直ぐに答えが返って来ます)
「ただ……起爆札で壊せるかだが」
「硬そうですもんね……」
サスケが我愛羅から離れると距離を取り、チャクラ吸着で壁に張り付く。
「……勢いをつけて攻撃するのか?」
「あのドS……。
カウンター食らいますよ?」
「写輪眼がある。
それで動きを予想出来る」
ヤオ子はチョコチョコと頬を掻く。
「あの~……。
写輪眼って、そんなに色々な機能があるんですか?
幻術使ったり、体術見切ったり……」
「だから、皆、うちはに興味を持つ」
「サスケさんって他のウチハ一族と比べて、どうなんですか?
あんな強い一族が滅んだって信じられないんですけど……」
「う~ん……。
比較の方は分からない。
俺はウチハ一族を彼以外じっくり見たことがないから。
そして、滅んだ理由は言いたくない」
「何で?」
「凄惨だからだ。
君が忍者で覚悟があるなら話してもいいかもしれないが、
一般人の子供が興味本位で知ることではないと思う。
まあ、俺の勝手な判断だが……」
「いえ。
皆さん、同じ様に言いました。
辛いことなら聞かないでおきます。
サスケさんとは友達ですからね。
・
・
ふふ……。
まあ、一部は憎しみで繋がっているんですけど……」
(本当によく分からない子だよな……)
ヤオ子達の会話の間にサスケはチャクラを練り上げ、印を結び終える。
そして、サスケの手からは目に見えるほどチャクラが集中し放電し始めた。
「何ですか!? あれ!?」
「知らない……」
「知らない忍術!?
サスケさん……また、強くなったの!?
・
・
ちょっとちょっと!
体術以外にこれも覚えたの!?
二週間で雷の性質変化も!?
・
・
が~~~!
あたし、絶対に報復出来ない!」
サスケの速度が我愛羅に近づく度に上がっていく。
そして、我愛羅の絶対防御をすり抜けて突きが刺さる。
「貫きやがった……」
「しかも、素手で……」
「…………」
(あたし、もうサスケさんには逆らえないな……。
だって人間じゃないもん……。
動きは見えないし……。
凄い硬いもの貫くし……。
写輪眼持ってるし……。
・
・
でも、一つ対抗出来る手段を考えました。
サスケさん自身で自爆させるんです。
あの早い動きでは慣性ついたら避けれないと思うんです。
もちろん、普通にやったらぶつかりません。
写輪眼で躱されます。
そこで考えたのが影分身です。
あれ近距離でですが自分の分身出す場所をコントロール出来るんです。
ノーモーションの予備動作なしだから、突然前に現れれば回避出来ないと思います。
印を盗み見られてもオッケーです。
・
・
ただ……本当に効くか試す勇気がありません。
失敗したら、きっと十倍返しですから……)
我愛羅の絶対防御が抵抗する。
サスケの貫いた左手を締め付け、サスケは新術の千鳥にチャクラを回し左手を引き抜いた。
そして、手傷を負わされた我愛羅が絶対防御を解いて現れた瞬間に会場中を鳥の羽が覆う。
鳥の羽にヤオ子は、ハッとする。
「この感覚……。
サスケさんの幻術の時みたいにチャクラで操られるような……。
・
・
拙い! 解!」
ヤオ子は幻術を解除しようとチャクラを練り上げる。
(チャクラが足りない?
このままじゃ操られる!)
「猛れ! あたしの妄想力!」
ヤオ子が禍々しいチャクラを追加で練り上げる。
「再び! 解!」
ヤオ子は幻術を解くと、大きく息を吐き出した。
「しんど~……。
何で、幻術なんて……ん?」
周りの人間は、ほとんどが動かない。
「あれ?
ちょっと! お兄さん!」
ヤオ子が隣の忍者Aを揺する。
「ダメだ……。
幻術が効いてる」
周りでは金属同士がぶつかる甲高い音が響く。
ヤオ子は慌てて周りの人達と同じ姿勢を取って目立たないようにする。
そして、目だけで右を見て左を見る。
(皆、寝てる?
この音は鉄のぶつかる音……クナイに手裏剣。
戦ってるのは木ノ葉の忍者と他里の忍者!?
・
・
何で、いきなり修羅場に!?)
何かが崩れる大きな音が試合会場の外──里のあちこちでもする。
(拙いですよ……これは!
あたしの城……もとい!
店が危ないです!
戻らないといけません!)
既に木ノ葉の忍者と音の忍者の戦いは始まっている。
忍ではないヤオ子がウロウロすれば、狙い撃ちされるの必至だった。
(戦ってるの……皆、強い。
バレないように脱出しないと。
・
・
変化!)
ヤオ子はチャクラを練り上げ印を結ぶと、猫に変化する。
(便利ですよね~。
体積無視して変身出来るんだから。
・
・
さて、行こ行こ。
ととっ! 四足歩行は難しいですね)
ヤオ子は猫になり、こそこそと会場を抜け出すと自分の店へと向かった。