== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
中忍試験の本戦が始まるまでの約二週間。
ヤオ子は基本的な体術をリーに教わることになった。
修行内容は朝修行を手裏剣術、お昼までをチャクラ吸着による木登りと忍術のおさらいに充て、お昼をリーと一緒にしてから午後は体術の修行に充てる。
お昼はガイも時々加わり、そのまま一緒に修行を見て貰うこともあった。
話は、体術修行初日に戻る……。
「問題ありません。
綺麗に手が伸び切っています」
ヤオ子の突きを見て、リーが感想を述べる。
「こんな、ゆっくりでいいんですか?
ほとんどビデオのコマ送りみたいですけど……」
「何事も基本が肝心です。
足運びからゆっくりと確認していきましょう」
「分かりました」
リーの丁寧な教えに比べて、自分の取った愚かな行動がヤオ子の頭を過ぎる。
いきなり影分身の自分との組み手……。
組み手開始直後に同士討ちの自爆……。
(あれは酷かったです……)
ヤオ子は自己嫌悪しながら、体術の基礎の足運びを復讐した。
第21話 ヤオ子の体術修行①
リーに体術を見て貰ってから、数十分……。
ヤオ子は複雑な顔をして基本の動作を繰り返していた。
「リーさん。
体術って、こんなにめんどいの?」
「面倒臭いですか?」
「はい。
だって、パンチ一発出すのに……。
歩法、体幹、型、その他諸々の条件がいるなんて、思いもしませんでしたよ。
はっきり言いますが、
体を動かすより頭の方がフル回転している感じです」
「最初は、そんなものです。
しかし、繰り返し練習することで、それが当たり前になります」
(……どんだけ練習すれば、
当たり前なんてことになるの?)
ヤオ子は直ぐに成果の出ない練習に不満を持ちつつも、一方では楽観的な考えを持っていた。
「まあ、やってることは簡単なんで、
全然平気なんですけどね。
体術の修行と言うより、ダンスのレッスンみたいだし」
「全然ですか……。
明日が楽しみですね」
ヤオ子の軽口に、リーは微笑んでいた。
「さあ、基本を忘れないうちに続けましょう」
「はい」
その日は暗くなるまで、ヤオ子は病院の中庭で基本の動作を繰り返した。
…
次の日……。
「体調は、どうですか? ヤオ子さん」
ヤオ子はプルプルと震える右手をあげる。
「痛いです……。
特に体の変な箇所が無性に……」
リーは笑いながら右手を返す。
「ヤオ子さんは、全然筋力がありませんからね。
普段使わない筋肉が悲鳴をあげているんです」
「そうなんですか?
あたし、木登りとかしてるから、
筋力ある方かと思ってたんですけど……」
「それは、ここ最近の話じゃないですか?」
「ここ最近です」
「急に筋力がついたり、
体力がついたりは絶対にしません」
「そうですよね……」
(甘かった……。
あたしは、激甘だった……。
たった一日でサスケさんとの修行の日々を
無に返されるなんて……)
「では、昨日の続きをしましょう」
体術の型をしようとして、右手の掌を向ける。
「すいません。
待って貰っていいですか?」
「どうしました?」
首を傾げるリーに対して、ヤオ子は腰の後ろの道具入れからメモ帳と鉛筆を取り出す。
「メモを取らせてください」
「構いませんが……何のメモですか?」
「あたしの筋肉痛の位置です」
「そんなものをどうするんですか?」
ヤオ子はメモ帳に簡単な体の絵を書きながら話を続ける。
「今、あたしはリーさんの基本動作を
確認しながら修行してますよね?」
「はい」
「と、いうことは、あたしの筋肉痛の位置は、
リーさんが良く使う筋肉でもあります」
「?」
「これをガイ先生と病院の人に見て貰って、
リーさんのリハビリのメニューを作って貰うんです」
「ボクの……?」
「はい。
あたしは専門家じゃないので、リハビリのメニューなんて作れません。
ただで教えて貰っているわけだし、少しでも役に立たないと」
「ヤオ子さん……。
分かりました。
ボクもお手伝いします」
「じゃあ、メモを取ってデータを集めましょう」
「…………」
ヤオ子がメモに筋肉痛の位置を書こうと鉛筆を持ったまま止まる。
「どうしました?」
「結局、動かないと筋肉痛の痛い位置が分かりませんでした」
「…………」
(この子、的を射た事も言いますが
何処か抜けてもいますね……)
「で、では、昨日の続きをしながらメモを取るということで……」
「お願いします」
こうしてヤオ子とリーは、日々のデータを取りつつ体術の修行に明け暮れるのであった。
…
数日後のお昼……。
病室には、リーの他にガイも居る。
その病室でガイが一筋の汗を流す。
「ヤオ子君……。
これは何かね?」
「野菜です」
「これがお昼かね?」
「ご飯は病院の調理場から拝借して来ました」
(それは泥棒なのでは……)
色々と突っ込みどころがあるが、ガイは話を続けることにした。
目の前にある野菜の塊が気になって仕方ない。
そう、お昼時の病室には大量の野菜があった。
「私は、生野菜をおかずにご飯を食べるということを
あまりしたことがないのだが……」
「嫌ですね~。
ガイ先生ったら。
そんなわけないじゃないですか。
これから調理するんですよ」
「何?」
リーが補足する。
「ガイ先生。
きっと、驚きますよ。
ボクも驚かされました」
(リーは体験済みか……。
一体、何をする気なんだ?)
ヤオ子が黄色のピーマンを握る。
「あたしの右手が真っ赤に燃える!
勝利を掴めと轟き叫ぶ!」
黄色のピーマンを空中に投げるとチャクラを練り、印を結ぶ。
そして、左手には皿を用意する。
パシッ!と右手で黄色のピーマンをキャッチするとバフンッ!と煙が上がる。
「一丁、あがりです」
ヤオ子が皿にホカホカの焼き黄色ピーマンを置き、オリーブ油を少し掛ける。
「どうぞ」
「う、うむ」
ガイが黄色のピーマンに箸を突き刺し、一口。
「こっ、これは……!
う~ま~い~ぞーーーっ!」
(味皇のようなリアクションです。
ガイ先生は期待を裏切りませんね)
「あたしが開発した焼き野菜を
作るための忍術です」
「ガイ先生! どうですか!」
「まさか野菜にこれほどのポテンシャルが
隠されているとは思わなかった」
「ですよね。
あたしは八百屋の子なんで色々試すんですよ」
「イケる……。
確かにイケるが動物性淡白が欲しい……」
「まあ、それはあたしもリーさんも、
ここ数日で身に染みましたね。
なので……ついでに調理場から肉も拝借して来ました」
(この子、やりたい放題だな……)
「あたしの忍術の弱点は、
味付けしながら焼けないところなんですよね。
仕方ないから調理済みのものです」
ヤオ子が拝借して来た焼き肉を置くと、リーは疑問を口にする。
「ガイ先生……。
入院しているボクは治療費を払っているから、兎も角。
ヤオ子さんやガイ先生が食べてるものって……いいんですかね?」
「いけない気がする……」
「問題ないですよ。
ちゃんと事前調査して、
余る分の量のご飯とお肉を拝借して来てますから」
「そうか」
「いや、ガイ先生……。
そこで納得しないでください」
貴重なリーのガイに対する突っ込み。
「リーさんもそんな小さなことを気にして、どうするんですか?
忍は、大胆かつ繊細な行動を要求されるんですよ。
これは大事の前の小事。
大胆な行動の一つです」
リーは、しみじみと呟く。
「ガイ先生。
最近、ボクはヤオ子さんの言動にまったく勝てません」
「リーよ。
オレもだ。
何を言っても躱される。
悪が正義になり、白が黒に塗り替えられる。
この腹黒さは、カカシでも手に負えんかもしれない」
「まあまあ。
本来なら捨てられ残飯になる哀れな食材を、
あたし達が無駄なく処分するエコですよ。
さっさと食べましょう」
お昼は、複雑な心境で終始する。
そして、リーもガイもヤオ子の勢いに飲まれるしかなかった。
…
昼食が終わり、午後の修行に入る前にリーがメモ帳を取り出す。
「ガイ先生。
少し見て貰っていいですか?」
「うん? 何だ?」
「ヤオ子さんと修行をして取ったデータです」
「データ?」
ガイがリーからメモ帳を受け取ると、目を見開く。
「これは……!
お前らって奴は!
本当に青春してるなーっ!」
「どうでしょう?」
(ああ……。
ここから暑苦しくなるんですよね……)
ヤオ子は、ここ数日で慣らされたガイの欠点的性格に溜息を吐く。
「リーよ!
これは青春の宝の一つだ!
努力し集めたこれらのデータは、
きっと無駄になることはないだろう!」
「はい! ガイ先生!」
「オレもこういう具合に研究したのは初めて見た。
そして、これにより新たな修行方法も思いついた!」
「本当ですか!? ガイ先生!
……しかし、残念です。
ボクは、それを試すことが出来ない!」
リーとガイの視線がヤオ子に移る。
「ちょうどいい!
ヤオ子君!
試してみないか?」
「は?」
「羨ましいです!
ガイ先生、直々に教えて貰えるなんて!」
「危なくないですよね?」
「当然だ!
失敗しても肉離れ程度だ!」
「さあ! ヤオ子さん!」
ズズイ!と迫るガイとリーに、ヤオ子は吼える。
「はい! ストーップ!
おかしなこと言いましたよ?
何ですか! 今のサスケさんを彷彿とさせるノリは!」
「だから、新しい修行だ!」
「そうです!」
「『肉離れ』ってキーワードは、どこいった!」
「ヤオ子君!
忍は、大胆かつ繊細な行動を要求される。
これは大事の前の小事。
大胆な行動の一つだ!」
「さっき、あたしが言った売り文句じゃないですか!」
「そうだ!
自分の発言には責任を持たねばな!」
ガイはナイスガイポーズを取り、ティーン!と歯を光らせる。
(口は、山葵の元──いや、災いの元です……)
「ヤオ子さん!
頑張ってください!」
(こっちはこっちで期待の目を……。
ああ、暑苦しい……)
ヤオ子はガシガシと頭を掻く。
「分かりました!
あたしも女の中の女です!
やってやろうじゃないですか!」
「よく言った!」
「ヤオ子さん!
青春パワーです!」
そして……。
「ぎゃ~~~!
やっぱり、こいつらも加減ってもんが分かってねー!
捻れる! 捻れ切れるって!」
ヤオ子の凄惨な叫び声が院内に響いた。