== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
体術修行をして貰うはずのサスケに逃げられた翌日……。
午前中のノルマを終えて、ヤオ子は自宅の八百屋に顔を出す。
「お父さん」
「何だ?」
「お昼、外で食べたいんだけど」
「金なら、やらんぞ」
「うん、いらない。
その代わり、店の野菜持って行っていいかな?」
「どうするんだ?」
「お見舞いに持って行くの」
「またか?」
「うん。
一緒にお昼食べようと思って」
「仕方ねぇな……持ってけ。
原価で仕入れた野菜の方が昼飯代より安いからな」
「しっかりしてるよね」
「当然だ」
店先に並ぶ白菜とエリンギと春菊をヤオ子は袋に詰める。
そして、台所に向かうと市販の出し汁と卵と糸こんにゃくとお肉を冷蔵庫から拝借する。
「あとは、鍋とコンロと器ですね。
いきなり押し掛けるんだから、
これぐらいの用意は必要条件ですよね。
・
・
あ、箸もか」
大きな荷物を用意し終わるとヤオ子はそれらを背負い、サスケから聞いたロック・リーに会うべく、ヤオ子は木ノ葉病院へと向かうのであった。
第20話 ヤオ子のお見舞い③
今日もやって来ました木の葉病院……。
ヤオ子は病院に入ると、驚異的な視力で看護婦さんの持つ病室名簿を読み取る。
「あっちの棟ですか」
ロック・リーの病室へと、ヤオ子は向かう。
そして、病室に着くとドアを二回ノックする。
『どうぞ』という声がすると、ヤオ子はゆっくりドアを開ける。
病室の中では左手と左足に包帯を巻いたロック・リーがベッドの上で上半身を起こしていた。
「……誰ですか?」
大量の荷物を持ったヤオ子に、疑問符を浮かべてリーが質問する。
「えへへ……。
あなたが、ロック・リーさんですか?」
「そうですけど……」
「あ。
これ、お見舞いの品です」
「……ご丁寧にどうも」
「今、セットしちゃいますね」
ヤオ子は手頃な台を引っ張り出すとコンロをセットし鍋を置き、手際よくすき焼きの準備を始める。
「具は、お肉から~♪」
「あ、あの……」
「ん? 何ですか?」
「君は、誰ですか?」
「すいません。
同じ質問を二度もさせて」
「ああ……構いません」
「あたしは、八百屋のヤオ子です」
「はあ……」
「サスケさんの紹介で、ここに来ました」
「サスケ君ですか。
・
・
話が見えないんですが……」
ヤオ子は菜箸で鍋の肉をつつきながら、野菜を入れるタイミングを計る。
鍋の中の食材が取り易いように煮え始めた肉を鍋の左端に寄せると、ヤオ子は野菜を切りながら話を続ける。
「実はですね。
あたし、体術を練習したいんです」
「はい」
「そこでサスケさんに教えてくださいと
せがんだんですが……冷たくあしらわれて」
「そうなんですか」
「そうしたら、ロック・リーさんを紹介されて……教えて貰えと」
「…………」
リーが右手で待ったを掛ける。
「すみません。
全然、話が見えて来ません」
「…………」
ヤオ子はチョコチョコと頬を掻く。
「あの~。
サスケさんから、お話は通っているんですよね?」
「いいえ」
「…………」
ヤオ子は額をトントンと指で叩くと、質問を続ける。
「では、サスケさんと無類の親友同士とか?」
「会ったのは、中忍試験の時が初めてです」
「…………」
今度は、ヤオ子が右手で待ったを掛ける。
「どういうこと?」
「さあ?」
「…………」
気まずい沈黙が流れる中、ヤオ子は沸々と怒りを蓄積させる。
そして、ついにプチッ!とキレた。
「あのドSが~~~っ!
適当なこと言って、あたしを追い払ったのか!?」
ヤオ子は病室で絶叫した。
「騙されたのか!?
じゃあ、リーさんは体術の手練れじゃないんですか!?」
「体術には自信がありますが……。
今は、この通り怪我をしている身です」
「あの馬鹿は、あたしにどうしろってんだ!?」
「…………」
ヤオ子は鍋に切った野菜を投入すると、リーを凝視する。
「リーさん……」
「な、何でしょう?」
ヤオ子は鍋に蓋をして溜息を吐く。
「とりあえず……。
二人の出会いを祝して、すき焼き食べませんか?」
(何か……酷く可哀そうですね)
「分かりました。
お付き合いします」
「ううう……。
いい人だ……。
リーさんは、いい人だ……」
ヤオ子は感動の涙を拭うと、グツグツと音を立てる鍋の様子を見る。
そして、頃合になるまで暫く待つと、二人分の器に卵を落としてかき混ぜる。
「リーさんは、左手使えないんですよね?」
「お恥ずかしい限りです」
「では」
ヤオ子は印を結び、影分身を一体作り出す。
「その子に命令してください」
「君は……影分身が使えるんですか?」
「はい。
ナルトさんに教えて貰いました」
「そういうことですか。
影分身は、ナルト君の得意忍術でしたね」
(あれ? エロ忍術じゃないの?
・
・
まあ、いっか)
影分身のヤオ子がリーに質問する。
「適当に盛り付けちゃっていいですか?」
「お願いします。
・
・
しかし、病室ですき焼きをするとは思いませんでした」
「長い人生には、そういうこともありますよ」
「はは……」
リーは右手は使えるので影分身のヤオ子が持っている器から箸で食べることが出来る。
ヤオ子の影分身はグツグツと煮える鍋から適当に盛り付けると、リーの前にそっと差し出す。
リーは、その中から白菜を摘まんで口に運ぶ。
「ヤオ子さん。
とっても美味しいです」
「八百屋やってるんで新鮮だからですよ」
「はい。
・
・
ところで……。
ヤオ子さんは、何故、体術を?」
ヤオ子は蓄積されたサスケへの殺意を抑え、落ち着いた口調で話す。
「あたしは、忍術を覚え初めて間もないんですけど。
開発した忍術が近距離でしか使い物にならなくて、
どうしても体術を覚えないといけないんです」
「なるほど」
「でも、サスケさんは次の本戦の修行とか言って、
あたしをほったらかしにして……。
リーさんの名前を言って、どっか行っちゃったんです」
「酷いですね」
「そうなんです!
あのドSは、毎回毎回!」
「しかし、サスケ君の気持ちも分かります。
本戦は、そう簡単に勝ち抜けるものではないでしょうから」
「そうなんですか?」
「はい」
ヤオ子は腕を組む。
「う~ん……。
じゃあ、サスケさんに我が侭を通すのは拙いのかな?
どうしよう?
・
・
あの……リーさんがご迷惑じゃなければ、少し教えて貰えませんか?」
「ボクがですか?」
「はい」
「しかし……。
ボクも修行をしなくては──」
「リーさん、怪我をしているじゃないですか!?」
「それでもです!」
リーの目は真剣そのものだった。
「ボクは……まだ終わっていません」
「……怪我は軽いんですか?」
「いいえ……」
口にエリンギを運びながら、ヤオ子は考える。
そして、ピキーン!と目を光らせる。
何かを思いついたようだ。
「君は、青葉 茂という人物を知っているか?」
ヤオ子は、ある漫画の金髪でグラサンをかけた赤い服の人の真似をした。
突然の口調の変化に、リーは少し驚く。
「知りませんが……」
「そうか……。
では、説明するとしよう」
「待ってください」
「何か?」
「ボクの怪我と何か関係があるんですか?」
「大有りです。
これを聞くか聞かないかで、
リーさんが強くなれるかどうかも関係します」
「ボクが強く……」
「聞きますか?」
「お願いします!」
「いいでしょう」
ヤオ子は、偉そうに胸を張り講釈を垂れる。
「彼──青葉 茂は、プロのサッカー選手です。
コアな月刊ジャンプ読者なら知っているかもしれません」
「月刊ジャンプ?」
「気になさらず……。
その青葉が、ある日怪我をします」
「怪我……ですか?」
「はい。
靭帯、腱、骨、全てを損傷し、立っているのも不思議でした。
しかし、彼は日々の特訓で鍛え上げた筋肉で立てていたため、
自分の怪我の重体さに気付きませんでした」
「…………」
「そして、手術をしてリハビリを迎えます。
足は、自分のもののように動きません。
彼がリハビリをしている間にかつての仲間やライバルは、目まぐるしい活躍をします。
本当に治るかどうか分からない不安。
練習出来ず、差がつくのではないかという焦り。
そして、彼との契約を願っていたプロチームからの契約破棄の連絡……」
「……その方は、それから?」
「もちろん、返り咲きます」
「どうやってですか!?」
ヤオ子は頷く。
「彼がしたのは、練習や特訓では出来ないことです」
「?」
「彼が怪我をした一番の原因は、
未完成ながらも身につけた特殊なドリブルでした。
まあ、怪我のダメージが蓄積していたのは確かですが、
最終的な引き金になったのは相手選手の反則まがいのタックルです」
「卑怯な!」
「あたしも、そう思います。
しかし、彼はプロならそういう状況でも怪我をしないのが条件と努力を続けます」
「なんて凄い人なんだ……」
(まあ、漫画の中の話なんですけどね)
ヤオ子は右手の人差し指を立てる。
「彼は怪我をして動けないリハビリの間、
何をしたと思いますか?」
「何でしょう?
やはり、筋トレでしょうか?」
「何が『やはり』なんですか……。
研究です。
自分を見つめ直していたのです」
「研究?」
「はい。
多くのプロプレイヤーのビデオを見て、
自分との違いを研究したのです。
つまり、リーさんも体が動かないなら、
自分を見つめ直すといいと思います」
「ですが……」
「まさか、今の自分が一番だとでも思っているんですか?」
「そんなことはありません!」
「そうでしょう。
リーさんにも尊敬出来る体術の達人が居るはずです。
その人を研究して自分の技に磨きをかけるのです!」
「なるほど……。
確かにそういうことに時間を掛けるには
いい機会かもしれません」
ヤオ子は、もう一度右手の人差し指を立てる。
「もう、一つ」
「まだ、何か?」
「彼は自分の弱点を克服する上で、
狙われた足を筋肉の鎧で強化していました。
リハビリの期間に意識して筋肉をつけたのです。
リーさんもリハビリ中は、筋力をアップさせたいところを
しっかりと科学的に考えるといいと思います」
「そうか……。
やることは、まだまだ残されているようですね」
「そう思いますよ。
そこで……自分を見つめ直すということで、
あたしに体術を教えてみませんか?
意外と人に教えることで見えないものが見えたりしますよ」
「なるほど……。
しかし、ボクが教える立場ですか……。
う~ん……」
リーが悩み出すと、ヤオ子は唇の端を吊り上げる。
(ふふふ……。
悩んでますね。
心が揺れてますね。
あと一息で教えてくれるでしょう。
さあ! リーさん!
あたしに体術を教えてください!)
その時、病室のドアが勢いよく開いた。
「お前ら!
青春してるな!」
「……はい?」
「ガイ先生!」
激おかっぱに激眉毛……。
マイト・ガイの登場である。
「リーよ!
何を悩む必要があるのだ?
いい機会ではないか!」
「しかし、先生!」
「あの……誰?」
二人の視線がヤオ子に移る。
「すまんな。
オレは、マイト・ガイ。
リーの担当上忍だ」
ガイはナイスガイポーズを取り、ティーン!と歯を光らせる。
「はあ……。
つまり、リーさんの先生ですか。
あたしは、八百屋のヤオ子です。
・
・
あ。
すき焼き食べます?」
「おお。
すまんな」
「人数多い方が、すき焼きは美味しいですから」
ヤオ子は器に卵を落としてかき混ぜ、ガイの分のすき焼きの具を器に盛る。
「どうぞ」
「では、いただこう。
・
・
うん! 旨いな!」
「ありがとうございます」
「ところで……。
さっきの話、実に興味深い」
「そうですか?」
「リーよ。
お前は、どう思う?」
「ボクですか?
・
・
そうですね。
リハビリ中にもめげない熱い心を感じました」
「うむ」
(そんな話じゃない……)
ヤオ子はどこかずれた話をする師弟を見て、疲れた気分がした。
「オレも入院中に、お前に何をやらすか常々考えていた」
(この先生……。
重症の自分の生徒に修行させるつもりだったの?)
「この機会に技の確認をするのはいいかもしれない。
例えば、知らず知らずに変なクセがついていて、
相手に何の技が来るか悟られているかもしれない」
「なるほど。
さすがガイ先生です!」
(案外簡単に教えてくれるんじゃないの?)
「そういうわけで……ヤオ子君!」
「は、はい」
「リーの修行に付き合ってやってくれ」
「あ、ええ。
あたしの方から、お願いしたことでもありますし」
「ハッハッハッ! ありがとう!
君は、女にしておくのが勿体ないな!」
(どんな理由と褒め言葉なんですか?)
「まったくです!」
(あ。
リーさんも乗るんだ……。
・
・
っていうか、この先生が来てから、
リーさんがおかしくなった?)
ヤオ子はコリコリと額を掻くと、鍋に目を移す。
鍋には、まだまだすき焼きが残っている。
「さあ、もっと食べてください。
肉体が復讐するには、栄養は大事ですよ」
「お?
また、変わった例えだな?」
「気になりますね? ガイ先生!」
(何か……暑苦しいです。
これは、すき焼きだけのせいではありません)
「ヤオ子君! 続きを!」
「ああ、はい……。
ぶっ壊された肉体は復讐を誓うんです。
次には破壊されないように……。
今度、このようなことが起きた時は対処出来るように……。
・
・
そして、復讐を誓った肉体に活力を与えるのは食です!
喰らうのです!
栄養を!
エネルギーを!
力の源を!
破壊された肉体を再生させる材料を喰らうのです!」
(何か違う……。
けど、これっぽい内容だった……かな?
あの漫画は……)
ガイとリーが顔を見合す。
「随分と過激な表現だな」
「そうですね」
「間違いはありません!
再生させる肉体に再生させるための材料がなければ、
肉体は復讐を果たせません!
・
・
いいですか? リーさん……喰らうのです!」
ヤオ子がリーにズズイ!と顔を近づける。
「りょ、了解です」
(何か……今、一瞬テンテンが頭を過ぎりました)
(う~ん……。
リーは、あの手の押し切り方に弱いからな……。
・
・
まあ、間違ってはいないな。
しかし、栄養か……)
この時、ガイが漢方薬入りの団子を思いついたかどうかは定かではない。
そして、ヤオ子はサスケの居ない期間の臨時の先生を見つけるのであった。