== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
新術を完成させ、サスケが中忍試験を受けて以来、ヤオ子はずっと放置状態である。
「中忍試験って、いつまでやってんの?
サスケさんと別れてから、もう直ぐ三週間になります」
中忍試験の予選までの期間が五日。
そして、サスケが面会謝絶の入院状態になってから二週間。
サスケが入院したことも知らなければ、中忍試験に出ていた忍者にも会うこともできないため、ヤオ子には何の情報も入ってこなかったのである。
「まさか……。
サスケさん、本当に死んだんですかね?」
『一体、どうなってんのか?』と首を傾げながらも、本日の午前中のノルマを律儀に終える。
時刻はお昼時……。
ヤオ子は昼食を取るため、一楽に向かうことにした。
第18話 ヤオ子のお見舞い①
月に何度か無性に一楽のラーメンを食べたくなる日がある。
ヤオ子は、それが今日だった。
本日は、お昼のお金を父親にせがんで久々の来店である。
「先客が居る……。
師匠とでっかいお爺さん?」
一楽の暖簾を潜ると、ヤオ子は目的のものを注文する。
「ラーメンを一つお願いします」
「あいよ!」
いつもの一楽の主人の元気な声が返ると、その声が先客のナルトにヤオ子を気付かせた。
「あーっ!
お前ってば……誰だっけ?」
「酷いですよ、師匠。
あたしのことを忘れたんですか?
ヤオ子ですよ」
「そうそう!
ヤオ子!
久しぶりだってばよ」
「誰だ?」
ナルトの隣に居る大柄の老人(?)がナルトに声を掛ける。
「オレの弟子!」
老人に対して、ナルトは胸を張った。
「弟子ィ~!?
お前、実力もないのに弟子がおるのか?」
「ちょっと! エロ仙人!
居ちゃ悪いのかよ!」
老人がヤオ子を見る。
「まあ、ガキ同士だからのォ。
ちょうどいいんじゃないか?」
ナルトがヤオ子に話し掛ける。
「エロ仙人は、ほっとくってばよ!
ところで、何しに来たんだ?」
「一楽に来たら、することは決まっているじゃないですか。
ラーメンを食べに来たんです。
・
・
そちらは、自来也さんですよね?」
ヤオ子の言葉に、ナルトは意外そうに自来也を見た。
「ヤオ子……エロ仙人のこと知ってんの?」
「ええ」
「当然だな。
寧ろ、忍者のお前が三忍と呼ばれたワシを知らんのが、
どうかしとるんじゃ」
フンとそっぽを向くナルトの横で、ヤオ子は首を傾げる
「三忍? 何ですか、それ?」
「やっぱ……知らねーじゃんよ」
「…………」
自来也は眉を顰め、頬を掻く。
「お主……。
何で、ワシを知っとるんだ?」
「有名な作家さんでしょ?
イチャイチャパラダイスの」
ヤオ子の答えにナルトが異を唱える。
「ハァ!?
何言ってんだってばよ!
あんなクソ面白くない本のどこが有名なんだってばよ!」
「黙れ! ナルト!
あの本は、大人が見れば価値が分かる偉大な本なのだ!」
「ヤオ子は、オレよりも子供だっつーの!」
「……そう言えば。
・
・
お主、一体……」
自来也が珍獣でも見るようにヤオ子を見る。
「どうやらお二人は、あたしに興味が出て来たようですね」
「まあ、今のところはただの好奇心だがの……」
「いいでしょう!
お答えします!
あたしは、イチャイチャパラダイスのファンの一人です!」
「お前……碌な人間じゃないってばよ」
「ワシも同意じゃな……。
十八禁の本をその歳で……」
「ガーン!
まさかの作者からの批判!」
「だって……のォ。
普通に引いたし……」
「何言ってんですか!?
いい本はいい本です!
あれはいい本です!
キシリア様に届けなくちゃいけないぐらいの!」
「意味が分かんないってばよ……」
ヤオ子がダンッ!と足を踏みしめる。
「ナルトさん!
あの本の良さが分かんなくてエロを極められると思うんですか!?
その人は、変態界の頂点に立つキング・オブ・エロなんですよ!」
ヤオ子がビシッ!と自来也を指差す。
「変態……。
最悪だってっばよ……」
自来也が声を大に否定する。
「娘! そういう言い方をするな!
ワシは、変態ではない!
ただのドスケベだ!」
「違いがあるんですか?」
「当たり前じゃ!
変態とスケベを一緒にするな!
スケベは、エロを突き詰める哲学者じゃ!」
「そうだったんですか……」
ヤオ子が感慨深げに目を瞑り、拳を握る。
一楽の主人は、頭が痛かった。
「あのさ! あのさ!
何で、お前ってば、イチャイチャパラダイス知ってんの?」
「そんなの読んだからに決まってるじゃないですか」
((読んだのか……))
「お主……。
あれを全部読めたのか?
子供が読むには難解な漢字や言葉遣いもあっただろうに?」
「エロの道を極めるためには、難解な壁であっても
乗り越えなければならない時があるんです!
そう!
あたしは、エロという哲学を極めんとする探求者なんです!
漢字も意味も全て調べ尽くしました!」
「気に入った!」
(ヤオ子もドスケベの仲間入りだってばよ……)
ナルトがヤオ子に対して呆れた。
ヤオ子……ナルト越え?
「しかし、いかんのォ。
子供が十八禁の小説を読むなど」
「そんなのはエロに目覚めるのが早いか遅いかの差でしょ?
探究心に目覚めた思春期男子なら、もう覗きの一つでもしていますよ」
「…………」
ナルトと自来也には、心当たりがあった。
「まあ、今回は不問にするとしよう」
「子供に言い負かされるなって……」
「うるさい!
この子は、子供ではない!
言わば同士だ!」
「えへへ……。
イチャイチャパラダイスの作者さんに
同士って認められちゃった♪」
一楽の主人は、ヤオ子の将来にとてつもない暗雲が陰っているような気がした。
「ところで、自来也さん。
サイン貰っていいですか?」
「ほう。
良い心掛けじゃ」
「ヤオ子……。
間違ってるって……」
ヤオ子は、腰の後ろの道具入れからイチャイチャパラダイスを取り出す。
それをナルトは複雑な目で見る。
「カカシ先生も、そこに入れてた……」
自来也はヤオ子からイチャイチャパラダイスを受け取ると、上機嫌でサインをするためにマジックのキャップを開けた。
「『ヤオ子ちゃんへ』でお願いしますね」
「分かった分かった♪」
「頭痛くなって来た……」
一楽の主人は、ナルトが普通の人に見えて来た。
そして、一楽の主人は、黙ってヤオ子の前にラーメンを置く。
「ありがとう」
ヤオ子はサインして貰ったイチャイチャパラダイスを大事そうに腰の後ろの道具入れに戻す。
そして、改めて椅子に座り直すと、早速、ラーメンを啜る。
「あれ?
おじさん、スープの味変わった?」
「分かるか?」
「うん。
少しコクが強くなった」
「嬉しいねぇ。
この違いが分かるのは、ナルトとヤオ子ぐらいだ」
「あたし、八百屋の娘だから、
野菜を最良に加えたスープの味は、よく分かるんですよ。
師匠も分かったんですか?」
「当然!」
「さすがですね~」
「お前も、さすがオレの弟子だってばよ!」
「えへへ……」
自来也は、自分のラーメンを啜りながら奇妙な関係に質問する。
「何で、ナルトが師匠なんだ?」
「エロ忍術の師匠です」
自来也が吹く。
「お前、人のこと言えんではないか!」
「え……そう?」
ナルトが笑って誤魔化す。
「でもさ! でもさ!
エロ仙人には効果抜群だったじゃん!」
「…………」
自来也は無言で視線を逸らした。
「何したんですか?」
「おいろけの術を掛けたんだってばよ」
「自来也さん……」
ヤオ子は軽蔑の目で自来也を見る。
「何だ! その目は!」
「仮にもイチャイチャパラダイスの作者さんが、あの程度の術で……。
あれは、まだエロ忍術の初歩ですよ?
ね、師匠?」
「そうだってばよ」
「まだ、上があるのか!?」
「ありますね」
「あるってばよ」
「み、見せてくれんか?」
「…………」
自来也の期待の目をヤオ子とナルトは一心に受ける。
「判断は師匠にお任せします」
「ダメ!」
「何でだ!?」
「エロ仙人ってば……。
全っ然! 修行を真面目に見てくれないじゃんか!
そんな奴に貴重なハーレムの術を見せられるかーっ!」
「何を言っておる!
ちゃんと修行を見てやっておるだろう!」
「いつも水着のねーちゃんばっか見てんじゃんか!」
「それは取材だ!」
「妙な主従関係ですね」
『お前が言うな』と、一楽の主人は心の中でヤオ子に呟く。
「師匠、見せてあげたら?」
「おお!
やはり、お主は見所あるのォ!」
「何でだよ!?」
「ただし、修行をちゃんと見てくれたらっていう、
結果を出した後の条件で」
「何っ!?」
「おお!
やっぱり、お前は見所あるってばよ!」
「一件落着ですね」
自来也はナルトを指差す。
「チッ!
絶対じゃぞ!
修行が終わったら、ちゃんと見せるんだぞ!」
「分かったってばよ。
輸血パック持って期待しとけってばよ」
「そ、そこまでの術か……」
「そこまでの術ですね」
「楽しみが出来たのォ」
一楽の主人は、エロの三忍に溜息を吐いた。
そして、三人の器のラーメンが半分になった頃、ヤオ子が質問する。
「ところで……。
師匠は、サスケさんと同じチームで中忍試験を受けたんですよね?」
「そうだけど?」
「中忍試験は、どうなったんですか?
サスケさんを見掛けないんですけど……。
もしかして、死んだの?」
「殺すなよ……。
生きてるから……」
「何だ……。
生きてたんですか……」
「死んで欲しいのか?」
「まあ」
「お前って……」
「どういう娘なんじゃ?」
ヤオ子は、笑って誤魔化す。
「それは置いといて……。
あのドSは、何処に行ったんですか?」
「入院してるってばよ」
「入院?
師匠の足でも引っ張ったんですか?」
「そうなんだってばよ」
「まったく……。
どうしようもない奴ですね」
「本当だってばよ」
サスケが居ないことをいいことに、言いたい放題の二人。
ヤオ子は『むふふ』と笑いながら手を口に当てる。
「しかし……。
あのドSがへばった姿を見るのも一興ですね」
「歪んどるのォ……」
「根暗な奴……」
「ふふふ……。
積年の恨みを晴らすのは、今しかないですね」
「「?」」
「お見舞いを装って寝込みを襲います!
・
・
やってやりますよ~!
あんなことやこんなことを!」
「「最悪だ……」」
「だって!
普通にやったって返り討ちにあうんだもん!
仕方ないじゃないですか!
・
・
ふふふ……。
やってやります……。
絶対にやってやりますよ!」
「この娘、どういう性格をしとるんじゃ?」
「オレも詳しく知らない……」
ヤオ子はグイッ!と器のスープを飲み干すと立ち上がる。
「では、師匠。
自来也さん、ありがとうございました」
「ああ」
「またの」
手を振って、ヤオ子は一楽を去って行った。
一楽の主人は、ヤオ子の器を下げる。
「いいところありますね」
「?」
「あの子のお代。
払ってあげるなんて」
「何!?」
「だって……。
あの子……『ありがとう』って」
「あのガキ……!」
まんまと奢らされた自来也は、箸をベキッ!と握り潰した。
…
一楽でお腹を満腹にしたヤオ子は自宅の八百屋に戻る。
そして、店番をしていた父親に話し掛ける。
「お父さん」
「何だ?」
「お見舞いに行きたいんだけど」
「誰の?」
「サスケさん」
「そういえば……最近、見てないな。
入院しているのか?」
「うん。
さっき、ナルトさんに聞いた」
「そうか」
「何か持って行った方がいいかな?」
「そうだな……。
店のものを適当に持ってけ」
「こういう時は、フルーツ類かな?」
「そうだろうな」
「じゃあ、野菜にしよう」
「…………」
父親は我が娘に呆れた視線を送る。
「お前、馬鹿か?」
「違いますよ。
あの人、きっと顔がいいから、
女の一人や二人、連れ込んでるんですよ」
「連れ込むって……。
あの子も、まだ子供だろう?」
「関係ありません。
くノ一に『ワー』『キャー』言われてるみたいです。
だから、きっとお見舞いのフルーツは食べ飽きてると思うんです」
「なるほど」
「病院の萎れた野菜より、
うちの新鮮な野菜を食べさせてやる方が、きっと喜びますよ」
「そうかねぇ?」
「間違いありません」
「まあ、任せるわ」
ヤオ子の父親は、再び接客に戻る。
ヤオ子は野菜を袋に詰め、白菜を背中に背負うと自宅の店を後にした。