== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
その日、日向ヒナタはいつも以上に怯えていた。
弱気な性格で体を小さくするのは変わらない。
しかし、さっきから自分のショートカットの後ろ髪に何かをひしひしと感じる。
振り向くが、そこには誰も居ない。
「ふふふ……。
ヒナタさん……。
何処までも……何処までも……着いて行きますよ……。
油断した時があなたの捕食される時です。
寝てる時も食事をしている時も油断をしてはいけません」
ヤオ子のストーキングの開始された日だった。
ヒナタの白いパーカーを怯えた白兎のように、ヤオ子は凝視する。
「特にお風呂に入っている時は、油断しちゃいけません。
あたしのエンペラータイム発動時刻です。
・
・
ふふふ……。
食べてしまいたいですね」
恐怖に耐えかねたヒナタは白眼を発動した。
第13話 ヤオ子の自主修行・必殺技編③
ヒナタの白眼発動で、ヤオ子のストーキング行為は七分で終わりを迎えた。
ヒナタが恐る恐る近づき、曲がり角でヤオ子に声を掛ける。
彼女自身、ヤオ子の子供の姿に少し安心したためである。
「あの……」
「ギャーーーッ!」
ヒナタの突然の声に、ヤオ子が奇声をあげた。
ヤオ子は小学生の通信簿の先生の感想欄に『時々、奇声をあげる』と書かれるタイプの人間だ。
ヤオ子は固まると、汗をタラタラと流す。
(しまった……。
いきなり姿を見られた!)
「お嬢さん……。
今日は、いい天気ですね?」
ヤオ子の頭は逝っている。
「え?
・
・
うん、そうだね」
「…………」
捕食者と捕食される側の立場が入れ替わった。
ヤオ子は観念すると、正座をして背筋を伸ばす。
そして、体を前に倒し、肘を90度に曲げ、頭を地面に擦りつける。
「内蔵を破壊しないでください!」
「え!?
・
・
ちょ、ちょっと……!
困るよ……そういうの!」
ヒナタは慌てて周囲を気にしてあたふたする。
「日向の人は誰も彼もが暗殺人間で、
姿見た人を柔拳で内蔵をぶちまけるんでしょ!?
それこそ津村斗貴子のように
『ハラワタをぶちまけろーっ!』って叫んで!」
「し、しないよ! そんなこと!」
「嘘です!
誓いなんて嘘です!
真っ赤は真っ赤でも、
血塗られた悪魔の契約書による誓いなんだーっ!」
「落ち着いて!」
「あたしもヒナタさんのバルキリースカートとという
柔拳技でバラバラにされちゃうんです!」
「柔拳にそんな技はないよ!」
「殺るなら痛くない方法で!
苦しむ殺し方はしないでください!」
ヒナタのグーが、ヤオ子に炸裂する。
初対面でヒナタに突っ込みを入れさせる人間も珍しい。
「私の話を聞いて!」
「…………」
ヤオ子が停止する。
「聞いたら殺さないでくれますか?」
「初めから、そんなことしないよ!」
(そう言えば……。
この人、弱気な日向家代表でしたね。
いきなり、トチ狂う必要もありませんでした)
ヤオ子がパンパンと膝の砂を落として立ち上がる。
「お見苦しいところを見せて、すいません」
「……うん」
「あたしは、怪しい人じゃありません」
怪しさ爆発中である。
ヒナタは固まっている。
(拙いですね。
いらない恐怖心を植えつけてしまったようです。
仕方ありません……)
「あたしは、サスケさんの使いの者です」
「え? サスケ君?」
「はい」
ヤオ子は、サスケとの約束をなかったことにした。
「実は、ヒナタさんに聞きたいことがあるんです」
「何かな?
え、と……その前に」
「何か?」
「お名前、教えてくれる?」
「すいません。
死の恐怖で錯乱したため、名乗り忘れてました。
八百屋のヤオです」
(私って……皆に死神みたいに思われてたのかな?
見ただけで死の恐怖を感じるなんて……)
ヒナタは少しショックを受け、肩を落とした。
「あの……ヒナタさん?」
「あ、ごめんね。
何? ヤオちゃん?」
ヤオ子は拳を握り締める。
「あなたが初めてです。
あたしの名前をまともに呼んだのは……」
「はい?」
「すいません。
最近、ドS的なイベントの受け身役しかしていなかったので、つい……感動を」
(何なんだろう、この子?
本当にあのサスケ君の知り合いなのかな?)
「それで、ですね。
あのドS……ではなく。
サスケさんに頼まれて少しヒナタさんに質問したいんです」
(ドS?)
ヤオ子は、既成事実を捏造してヒナタに質問を続ける。
「柔拳で使われる、掌からのチャクラ放出を教えて欲しいんです」
「柔拳の?」
「はい」
ヒナタは少し考えると、ヤオ子に質問する。
「ヤオちゃんは、経絡系のこと分かる?」
「はい。
チャクラを流す血管のようなものですよね?」
「うん。
小さいのによく知ってたね」
「えへへ……。
ありがとう」
(笑った顔は、普通の子供だ。
ちょっと安心したな)
「それでね。
その経絡系には、チャクラ穴というツボがあって点穴って言うの」
「ツボ……ですか?」
「うん。
針の穴を通すぐらいの。
そこからチャクラを放出するんだよ」
ヤオ子は自分の両手を開くと、マジマジと掌を見る。
「あたし、目はいい方なんですけど……。
穴なんて見えないですよ?」
「普通の人には無理だよ」
「そうですか……。
向こうのおじさんの黒子から出てる毛の数が
四本だというぐらいの視力なんですがね」
ヒナタは、ヤオ子の指差す遠くのおじさんを見る。
(見えないんだけど……。
・
・
白眼!
・
・
本当だ……。
この子、人間なのかな?)
ヤオ子は、不思議そうにヒナタを見ている。
(突然、白眼使ったから、吃驚させちゃったかな?)
ヒナタがヤオ子の手を取る。
そして、指でチョンチョンと触る。
「ここら辺に点穴があるんだよ。
私は、まだ正確に見切れないけど」
「そうなんですか?
ヒナタさんは凄いですね」
「そんなことないよ。
この目のお陰だよ」
(あれが白眼ですか……)
「その指差して貰ったところから、
チャクラを放出するんですね?」
「そう」
「ヒナタさんは出来るんですか?」
「未熟だけど……」
「見せて貰えませんか?」
「……どうしようかな?」
ヒナタは恥ずかしがっているのか戸惑っているのか分からない素振りでモジモジしている。
(気弱な日向家か……。
この人、脅せば教えてくれるんじゃないの?
・
・
でも、初めて会った真人間な気がしますし……。
もう一度、土下座しますか。
ああいうの弱そうだし)
ヤオ子は正座をして背筋を伸ばす。
そして、体を前に倒し、肘を90度に曲げ、頭を地面に擦りつける。
「見せてください!
何の収穫もなしに帰ったら、
サスケさんにウチハ一族に伝わる四十八種の拷問技を掛けられるんです!」
「ええっ!?」
「特に女の子にはきついエロいヤツを!」
ヒナタの顔が上気し、目がクルクルと回っている。
この時、ヒナタにサスケへの変態度↑がインプットされた。
「だから、見せてください!
エロいことされちゃうんです!」
ヒナタの思考回路はショートし、『きゅう~』と言って座り込んでしまった。
「あれ?
ヒナタさん? ヒナタさん!
・
・
しまった……。
本当の真人間な上に箱入り娘でしたか。
どうしよう?」
ヤオ子はヒナタを日陰に引っ張り、壁に寄りかからせる。
そして、パタパタとハンカチで風を送る。
「ヒナタさ~ん。
大丈夫ですか~?」
「…………」
「さて、どうしたもんか?
あの手でいきますか」
…
暫くしてヒナタが目を覚ます。
「う、う~ん……」
「大丈夫ですか?」
「ヤオちゃん?」
「はい」
「私……」
「あたしにチャクラの放出を見せてくれるところで、
急に貧血に……」
「…………」
「そうだったね。
じゃあ、見せるね」
「ゆっくりでいいですよ」
『あの手』は、悪質な洗脳だった。
そうとも知らず、ヒナタはヤオ子のために日向流の型の構えから左手を突き出し、掌からのチャクラ放出を見せてくれた。
「あ! 見えた!
見えましたよ! ヒナタさん!
確かに視認出来るほど、チャクラが出てました! 凄いです!」
「ありがとう」
(私、本当に見せようとしてたっけ?)
ヤオ子はうんうんと頷いて納得する。
「コツとかってありますか?」
ヒナタは首を振る。
「修行を積み重ねるしかないよ」
ヒナタの優しい笑顔を見て、ヤオ子は納得する。
今、見せてくれたものはヒナタの努力の積み重ねなのだと。
「分かりました。
あとは自分で頑張ってみます。
最後にお願いしていいですか?」
「うん、いいよ」
「あたしの両手の点穴に、
マジックで印をつけて貰えますか?」
「え? 両手?」
「はい、肘まで」
「結構、あるよ?」
「面倒臭いですか?」
「そうじゃなくて……。
多分、凄いことになる……」
「?」
ヤオ子は分からないままヒナタにお願いして、点穴にマジックを塗って貰う。
最初は首を傾げていたヤオ子だが、直にヒナタの言っていた『凄いことになる』の意味を理解して顔を引き攣かせる。
「そりゃそうです……。
針の穴からチャクラ出すんだから、一個や二個のわけがない」
ヤオ子は両手を見て呟く。
「新手の病気みたい……」
使ったマジックの色が緑だったから余計に気持ち悪い。
「こ、これでいいかな?」
「ありがとうございます。
すいませんでした。
ご面倒をおかけして」
「気にしなくていいから」
「ヒナタさんっていい人だ……。
何だろう?
今まで会って来た人達のキャラクターの濃度は……。
あたしが男だったら直ぐ落ちるよ。
こんないい子居ないって……」
「はは……」
ヒナタは、何故、べた褒めなのか分からない。
「では。
ありがとうございました」
ヒナタは、ヤオ子に手を振る。
「何と言うか……。
変な子だったな……」
ヒナタは苦笑いを浮かべた。