== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
中忍試験本戦……。
新しく建築された試験会場が初めて使われ、試験会場の中には五影の姿もある。
あの戦争は多くのものを失ったが、大事なものが何かも気付かせた。
故に、五影が必ず顔を合わすことが条件にも加わっている。
五代目風影・我愛羅 。
五代目水影・照美 メイ。
三代目土影・オオノキ。
四代目雷影・エー 。
その中で、主催国の五代目火影・綱手だけが肩身が狭い……。
中忍試験において、ヤオ子がやらかした試験場破壊……。
各国の影の名を持つ者の耳に入らないわけがない。
早速、雷影から皮肉が飛ぶ。
「木ノ葉では、例の娘が大暴れをしたようだな」
(ヤオ子の奴……)
「ワシも聞いておる。
何でも土遁を使って試験場を破壊したようじゃぜ」
(両天秤のジジイが……)
「ナルト以外にも注意しないといけない人物が居るようだな」
(その通りだ……。
そして、今回の暴走の引き金になっているのが、ナルトなんだよ……)
「火影様も大変なようで……。
ただ、そのせいでうちの里の中忍試験を受けた者達が、本戦に出られなくなったことが残念です」
(水影……怒ってる?
青筋が浮かんでる……)
自国で行われる中忍試験で、何故、こんなに肩身の狭い仕打ちを受けなければいけないのか。
中忍試験開催の綱手の前説は、非常に謙虚で静かなものだった。
第115話 ヤオ子とサスケとナルトの中忍試験・本戦編
本戦を迎える少し前……。
ヤオ子は安堵して、ホッと息を吐いていた。
本戦のルールはナルト達が受けた時と同じで、その戦いぶりが評価され、勝ち進むほどアピールできる機会が増える。
そして、トーナメント方式で、決勝まで行かなければナルトかサスケと当たらない。
これなら、気を緩めて本戦を戦える。
「ヤオ子。
お前が一番手だってばよ」
「派手に決めます!」
気合いを入れたヤオ子に、サスケが声を掛ける。
「やめておけ……」
ヤオ子はサスケに振り返ると、首を傾げる。
本戦を頑張るのが、何で、いけないのか?
「お前、目付けられてるぞ……。
試験場壊しって……」
「そういえば……。
綱手のばーちゃんも元気なかったな」
ヤオ子は両手をあげて、首を振る。
「高々、試験場の一つや二つで」
「「お前な……」」
「まあ、いいや。
行ってくるね」
ヤオ子は、本戦の会場に向けて歩き出した。
…
本戦の審判役は、キバ。
闘技場にヤオ子が登場すると歓声が上がる。
「お前、人気者だな」
「よく聞いてください」
「ん?」
…
『ヤオ子ちゃーん!
がんばれー!』
『この変態がー!』
『サスケとその後、どーなったんだ!』
『オレの中忍試験合格を返せ!』
『おねーちゃん!
がんばれー!』
『負けちまえ!
このヤロー!』
…
キバが頬を掻く。
「……何で、罵声と歓声が混ざっているんだ?」
「人気者は辛いです……。
試験場を破壊した犯人だと、知れ渡ってますね」
「あれ! お前だったのか!?」
「えへへ……。
意外と爽快ですよ」
「悪役の感想じゃねーか……」
そして、ヤオ子の相手が闘技場に現れる。
ヤオ子とは違い、黄色い歓声だけが上がる。
「おお、美形」
「岩隠れの一番人気だ」
「ほう……。
身長182、適度な筋力、股下も長い……悪くないです。
・
・
だけど、あたしの好みじゃないですね」
「そうなのか?」
「ええ。
ワイルドなキバさんになら、抱かれてもいいですよ」
キバが吹いた。
「お断りだ!」
「おや、連れない」
相手の観客へのアピールが終わり、ゆっくりと対戦相手がヤオ子に近づく。
「随分、若いね」
「十二です」
「本当に若い……?
背高くないか?」
「母方の遺伝です」
「そうか。
・
・
いい試合をしようね」
手を差し出してくる相手に、ヤオ子は笑顔で握り返す。
「一瞬で終わっちゃいますけどね」
ヤオ子の言葉に相手の顔が険しくなるが、直ぐに笑顔になる。
「いい勉強をさせてあげるよ」
ヤオ子と相手の忍が距離を取ると、キバが手を上げる。
「始め!」
本戦の第一試合が始まった。
…
開始直後、相手の忍が印を組む。
「迷彩隠れの術!」
術の発動と共に徐々に姿が透け始め、相手の忍が風景に溶け込んでいく。
ヤオ子は足元の足跡を見ながら、警戒だけは強める。
(いい術ですね……。
こんなに歓声があったら、足音も聞こえない……。
・
・
写輪眼みたいな瞳術もない。
派手な術も禁止。
禁止されてなきゃ、囲まれた狭い空間だから必殺技を連発して炙り出すのに……)
ヤオ子は五影の席に居る綱手を見ると、手で暴れていいかとサインを出す。
綱手は、両手で×を作った。
(ですよね。
・
・
じゃあ)
ヤオ子は、チャクラを練り上げると印を結ぶ。
「水遁・霧隠れの術!」
相手と同じく、視界を奪う作戦に出る。
高い塀に囲まれた本戦会場は直ぐに霧に覆われ、逃げ場のない霧が濃霧となって溜まっていく。
相手も見えないが、自分も見えない状況が作られる。
「これに雷遁を流して……霧を通して感電するかな?
でも、こんなに少ないと電導しないか……。
電圧あげて、試してみよ」
ヤオ子は雷遁の鎧を発動して見るが、電導率は今一のようだ。
何の反応も返って来ない。
「やっぱり、感電しないか」
ヤオ子は、更にもう一つの術を使うと、霧に隠れた。
…
濃霧の中を相手の忍がヤオ子を探す。
お互いがお互いを探す展開で、先に相手を見つけたのは対戦相手の忍だった。
ヤオ子の背後に回り、クナイを振り被ると斬りつける。
「っ!
・
・
水分身!?」
しかし、ヤオ子が水になって爆ぜた。
対戦相手の忍は、その場でクナイを構え直して警戒する。
水分身を斬らされたということは、おびき出されたということになる。
その警戒を続ける対戦相手の忍の足元に、ソロリとチャクラ糸が伸びる。
大戦相手の忍の下には水分身が消えた際の水溜りが残っていた。
「雷遁発動!」
チャクラ糸が水溜りに触れると、えげつないヤオ子の電撃攻撃が発動した。
対戦相手の忍は、警戒してなかった足元からの攻撃に感電してたたらを踏む。
「やっぱり、岩隠れの忍。
性質は、土遁で正解かな?」
「このガキ!」
怒りに任せた相手の手裏剣の投擲をヤオ子は余裕を持って躱すと、霧隠れの術を解除する。
(二枚目の本性が見えましたね?
・
・
じゃあ、そろそろ……)
ヤオ子が攻撃に移るために、構えを取った。
…
雷影が綱手に声を掛ける。
「あれは、何処の一族の構えだ?」
「そういえば、見たことがないな」
勇ましく両手を掲げた構えに、我愛羅も興味を示す。
しかし、綱手は、またしても複雑な顔をしていた。
「どうした?」
「……流派東方不敗」
「何だそれは?」
「あの馬鹿が読んでる漫画だ……」
綱手以外の五影がこけた。
「い、一見すると勇ましい構えだがな……」
「アイツ、漫画だと動きが分からないから、
最初に描かれてる構えだけを出だしの動きに入れているんだ」
「本当に変な忍だな……」
「我が里の恥だ……」
綱手は、更に肩身が狭くなる気分だった。
…
ヤオ子が動く。
体が沈み相手の足を払うと、相手が体勢を崩すと同時に印を結ぶ。
「気絶させるのも面倒臭いんですよ!」
倒れ掛ける相手の股間を右足で踏みつけ、究極の痛みで相手の目を見開かせるとチャクラを練る。
そして、ここぞというタイミングで術を発動する。
「おいろけ・走馬灯の術!」
ヤオ子の目から叩き込まれる禁術の幻術。
相手の忍は、鼻血を撒き散らして気絶した。
…
綱手が震えている。
そして、他の五影との体面も考えずにキレた。
「あ、あ、あ、あの馬鹿が~~~っ!
あの術は使うなと言ったのに!
・
・
シズネ!
あの馬鹿をここに連れて来い!」
「あヒィーッ!」
綱手の剣幕に悲鳴をあげると、シズネは本戦の闘技場へ走った。
…
十分後……。
ヤオ子は正座させられ、その前で仁王立ちの綱手の説教が響く。
「何を考えているんだ!
各国首脳の五影と大名の前で、おいろけの術だと!?」
(何かホーク戦を終えた高村さんみたい……)
「だって~。
派手めの術使うの禁止だし~」
「語尾を延ばすな!
反省してるのか!」
「してます」
「嘘をつくな!」
「そんなことより、いいんですか?」
「何がだ!」
「あたしがおいろけ系の術を使ったんだから、同じく刺激を受けた人物が居るでしょ?」
「何?
・
・
ハッ!」
会場でナルトの声が響く。
「おいろけ・ハーレムの術!」
会場中に血の雨が降った。
「シズネ!
ナルトも、ここに連れて来い!」
五影達は、綱手を見て心底同情する。
似たような弟を持つ雷影には、特にその事情が痛いほど分かる。
更に十分後……。
ナルトが追加されて、ヤオ子と正座する。
「お前らは、中忍試験を何だと思っているんだ!」
「でもさ。
綱手のばーちゃん……」
「いい加減にしろ!
このアナウンスをよく聞け!」
『会場で出血してしまい、血が足りなくなったお客様は、入り口までお越しください。
増血丸を配布しております』
「…………」
確かに、やり過ぎの気があった。
このままでは綱手の沸点が下がったままだと、ナルトとヤオ子がアイコンタクトをする。
「綱手のばーちゃん。
確かにオレも調子に乗り過ぎたってばよ。
でも、あんな術でやられる、相手の精神修行もどうなんだ?」
「そうです。
こんな子供騙しの術で倒れるのは、おかしいです」
「何がおかしい!
会場中の男共が軒並みぶっ倒れるほどのエロい術だろうが!
・
・
それに!
その言い訳は、この前聞いたわ!」
ヤオ子がナルトに小声で話す。
「言ったじゃないですか。
綱手さんが前の言い訳を忘れるまで、
三ヶ月のインターバルを開けないといけないって」
「そうだっけ?
この言い訳、三ヶ月経ってないっけ?」
綱手が青筋を浮かべ、腕を組む。
「ほう……。
お前らは、そうやって誤魔化してたのか……」
「いや~。
このサイクルを見つけるまでは、本当に大へ──」
「…………」
「お前ら!
ずっと正座!」
「「え~~~っ!」」
「ここコンクリートですよ!?」
「そうだってばよ!
次の試合に響くってばよ!」
「聞く耳もたん!」
沸点をあげるどころか、更に火に油を注ぐ結果……。
綱手は、二人をそのままに、五影の席へ戻って行ってしまった。
「どうすれば……」
「影分身で身代わり作ればいいんじゃないか?」
「なるほど」
ナルトとヤオ子が印を結ぼうと指を合わせると、綱手の視線が突き刺さった。
「指のささくれが気になりますね……」
「ああ……。
指のささくれがな……」
((失敗か……))
そして、暫くして歓声が上がると、綱手の声が響く。
「サスケのように、スマートに戦って貰いたいもんだな」
「「あのスかしヤロー……」」
中忍試験の本戦は、ナルトとヤオ子の大暴走。
そして、その半面で、うちはの名は悪名から名声に変わる。
「作戦通りです」
「うんうん」
「あたし達がワザとダメなところを見せて、サスケさんの評判をあげる頭脳作戦」
「その通り!」
などと妄言をほざく二人が居たが、簡単に無視される。
だが、この三人が頭一つ分飛び抜けて実力が高いのは明らかだった。
この中忍試験で、サスケ、ナルト、ヤオ子は、中忍に昇格するのだった。