== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
数日後……。
砂の国から模擬戦の許可が下り、砂漠に張られた結界でサスケとナルトの模擬戦が始まろうとしている。
結界内には綱手、シズネ、カカシ、ヤマト、サクラ、サイ、ヤオ子と結界を張る暗部が六人。
ルールは殺し合いではないので、殺傷能力の高い『風遁・螺旋丸(手裏剣)』『天照』は使用禁止。
それ以外は、基本自由にしてある。
ナルトが笑みを浮かべる。
「本当は、こういう風に戦ってみたかったんだってばよ。
中忍試験の時から、ずっとはぐらかされて来たからな」
「ご託はいい……。
暁のペインを倒したという強さ……見せて貰うぞ」
「ああ!」
ナルトの影分身二体が自然チャクラを集め始め、自身にもクマドリが浮かぶ。
戦いは、ナルトが地面を蹴って開始された。
第108話 ヤオ子と砂漠の模擬戦
ヤオ子の前で特殊系の力を得た者の戦いが繰り広げられる。
ナルトの仙人モード。
サスケの写輪眼。
何よりも、驚かされるのがスピード。
スピードを極めたと思ったヤオ子の上を二人は行っている。
「あれが里を救った英雄の力……。
そして、そのスピードのついていくサスケさんの技術……」
サスケの体に千鳥が流れている。
要領は、雷影の雷遁の鎧と同じで反射神経の底上げだ。
「凄いのはナルトさんもだ……。
仙人モードだと写輪眼がないのにサスケさんの動きについていけるんだ」
ヤオ子の中で、雷遁の鎧の会得が必須事項に組み込まれる。
そして、戦いは、徐々にナルトが有利に進め始めた。
カカシが、今までの状況を溢す。
「やはり、仙人モードがあるナルトの方が、若干有利か……」
綱手がカカシを睨む。
「解説をしないか!
お前だけ写輪眼を使って、戦いを見ていてどうする!」
「そうでしたね……。
・
・
ただ、もう一人見えている奴が居るようですけどね」
「ん?」
カカシの視線の先で、ヤオ子が雷遁の鎧を発動している。
対応し切れなくなった動体視力を補うために無意識で雷遁の鎧を利用していた。
綱手が呆れて一言溢す。
「あれは雷影の──まったくコイツは……」
カカシは苦笑いを浮かべると解説を始める。
「仙人モードで全ての身体能力が上がっているナルトが、サスケの動きを凌駕していますね。
スピードは互角……。
しかし、根本の力が底上げされた分だけナルトが有利に見えます。
・
・
ただ、サスケは万華鏡写輪眼を使っていない。
恐らくは、探りを入れている状態でしょう」
「あれだけ立ち回ってか……」
「サスケは、元来センスが飛び抜けていますから、写輪眼だけでも戦えるんです。
・
・
そろそろですかね。
お互いの挨拶も終わったところです」
ナルトの影分身が一体消えると、自然チャクラが補給される。
そして、サスケの両目に万華鏡写輪眼が現れる。
サクラが質問する。
「カカシ先生。
サスケ君の万華鏡写輪眼って、どんな能力が?」
「さあな。
ただ、天照を使えないとなると、目に宿る力の一つが使えないということだ。
・
・
そうなると反対側の目に宿る力を使うわけだが、それが何なのか分からない。
オレの目に宿る力も、イタチと全く別の能力だったからな」
「そう……」
「ただ、万華鏡写輪眼は多用できない……。
リスクが大きいんだ」
ナルトの攻撃は、仙術を用いて激しさを増す。
螺旋丸の連発。
大玉螺旋丸。
超大玉螺旋丸。
サスケは、躱しきれなくなってくる。
その攻防を見ながら、ヤオ子の頭の中では目まぐるしく分析が行なわれている。
(ナルトさんの武器には近距離のものが多い……。
でも、それを負担に感じさせないスピードと相手に当たり易くなった大きな螺旋丸。
これで自分の弱点を補っている。
そして、これが大軍系忍術を無視した特殊系の戦い。
・
・
ただ、サスケさんの特殊は、まだ出ていない。
あの戦いの時に見えた大きな影が……)
そして、遂に決定的な瞬間が訪れる。
ナルトの超大玉螺旋丸が、躱しきれないタイミングでサスケに向かう。
ここであのプレッシャーをヤオ子は感じた。
…
サスケの両目から、血が流れる。
そして、ナルトの超大玉螺旋丸を巨大な肋骨のようなものが防いだ。
それと同時に肋骨が消える。
ナルトは距離を取ると、自然チャクラを集めながら警戒する。
「あれだ……。
・
・
あのプレッシャー……」
サスケからチャクラが吹き上がると、それは実態を表していく。
骨だけの体に筋が現れ、骸骨を思わせていた顔面に人の顔が形成されていく。
そして、面と外套を付けると左手に弓を構える。
「あれが須佐能乎か……」
カカシの言葉に全員が振り向く。
綱手が質問する。
「須佐能乎とは何だ?」
「うちはの万華鏡写輪眼を開眼した者が扱えるという──。
・
・
詳しくは、今度ということで」
(カカシがはぐらかした……。
何かあるのか?)
綱手は戦いに視線を戻す。
戦いは暫しの睨み合いが続いていた。
…
サスケは須佐能乎による副作用である全身の痛みに耐えながら、ナルトに話し掛ける。
「ナルト……。
これからの攻撃は加減が利かない……。
スピードについて来れないと思った時点で、模擬戦は中止だ……」
「それだけの技ってことかよ……。
・
・
なら、影分身で試させて貰う!」
ナルトの影分身が三体現れると須佐能乎に向かう。
しかし、射出される矢を躱せずに全ての影分身が煙に消える。
「そういうことかよ……。
・
・
なら、量で攻めるしかねー!」
影分身が一気に増える。
矢で仕留めるという方法から、全てを射ることは不可能。
しかし、弓は一点に狙いを絞る。
「今のオレの眼は……影分身すら見切る」
本体を狙われたと知ると影分身が集まり、盾になる。
一気に影分身の数は減り、ナルトは仙術チャクラを集めている最後の影分身を還元する。
「小細工はいらねー!」
「ああ……。
これで決める!」
それからは、血みどろの戦い……。
須佐能乎に何度も叩き付けられる螺旋丸。
サスケの豪火球を受けても立ち上がるナルト。
一見、絶対防御に守られているように見えながらも、全身の細胞に負担が掛かっているサスケ。
消耗戦を繰り返しながら、お互いが磨り減っていく。
綱手が声をあげる。
「そこまでだ!」
ナルトが尻餅を付いて息を切らし、サスケも草薙の剣を杖に息を切らす。
サクラが二人に駆け寄る。
「ナルト!
サスケ君!」
ナルトは手を振ると先にサスケを診るように促す。
サクラは、サスケを見て驚く。
「サスケ君……」
サスケは目を押さえていた。
「っ……。
少し力を使い過ぎた……」
サクラが振り返る。
「サスケ君の目が!」
綱手も駆け寄り、手で押えるサスケの目を見る。
「……これは。
・
・
お前、何故、万華鏡写輪眼を使った!」
「使わなきゃ……。
使いこなせない……」
「このまま使えば──」
「失明するだろうな……」
サクラが口を押さえる。
「そ…そんな……」
失明という言葉に、サクラは涙を流す。
「折角、戻って来たのに……。
今度は、目が見えなくなっちゃうなんて……」
ナルトもサスケに近づく。
「お前……」
「大丈夫だ……。
対応策はあ──」
「ぞんなのイヤだ~~~!」
ヤオ子が、サスケにしがみ付いた。
「また、お前か!
このウスラトンカチ!」
「イヤだ~~~!
ザズケざ~~ん!」
「放せ! この馬鹿!」
サスケは、しがみ付くヤオ子の隙間に足を入れるとヤオ子の顔面に足の裏をくっつけて、引き剥がしに掛かる。
「まず、話を聞け!」
「そんな女を騙す常套手段に騙されません!
サスケさんが捨てて来た女みたいに、あたしも誤魔化すつもりなんだ!」
「そんな女は居ない!」
「サスケさんの目で、日々、エロい体に成長するあたしを見て~~~!」
「見るか!
いい加減に放せ!」
「放さない!」
ナルトとサクラが項垂れている。
「どんな状況だってばよ……」
「サスケ君……。
女の子の顔を足蹴にするなんて……」
「お前らも黙ってないで手伝え!
それと!
変態に性別は関係ないんだよ!」
「何か……。
昔、サスケとヤオ子に何があったか分かるってばよ……」
「日々、こんな状態が続いてたのね……」
「だから、サスケは、いつもイライラしてたんだってばよ……」
「そうね……」
「お前らも原因の一つだ!
・
・
いい加減に離れろ!」
サスケの蹴りでヤオ子は、飛ばされると砂の中に減り込んだ。
「容赦ねーな……」
「これが正しいヤオ子の制御法だ!」
綱手は納得している。
シズネも納得している。
カカシはサスケのドSっぷりに固まっている。
ヤマトもサスケのドSっぷりに固まっている。
サイは首を傾げている。
サスケは、ヤオ子のせいで息を切らしている。
そして、話の続きを聞くためにカカシが質問する。
「続きがあるんだろ?
対応策?」
「ああ……」
サスケは、少しぶっきら棒に話し出す。
「マダラの話だと、
『永遠の万華鏡写輪眼』というのがあるらしい」
「何だそれは?」
「万華鏡写輪眼は、一族の他者の万華鏡写輪眼を自分の目に取り込むことで、
視力が低下しない『永遠の万華鏡写輪眼』になるらしい。
マダラの目は、弟の万華鏡写輪眼を移植したもののようだ」
ヤオ子が砂の中から顔を引っこ抜くと、サスケに詰め寄る。
「じゃあ!
イタチさんの体を取り戻した時点で、移植のことは考えてたの!?」
「当然だ」
「何で、言ってくれないんですか!」
「今、言おうとして、お前が邪魔したんだよ!」
「……まあ、いいです」
「何で、お前が許した形になるんだ……」
サスケは、この後、もう少しマダラとイタチから聞いた万華鏡写輪眼の話をする。
ヤオ子は、その話を聞いて少し疑問が浮かぶ。
「ねぇ。
少し質問していいですか?」
「ああ」
「マダラさんの弟さんは、その後、どうなったんですか?」
「さあな。
聞いたのはここまでだ」
「変ですね?」
「何がだ?」
「マダラさんのお話だと、マダラさんの弟さんがマダラさんに目を差し出したって話ですよね?」
「あれはマダラの嘘だ……」
「はい。
あたしも、そう思うんです。
だって、兄弟で交換こすれば、どっちも失明しません。
その後、弟さんの話が出て来ない時点でおかしな気がします」
「……言われてみれば」
「それに移植って自分一人じゃ出来ないでしょ?
他に移植を手助けした協力者が居たんじゃないですか?」
ヤマトがヤオ子の意見に反応する。
「待ってくれ。
そうなると敵は、マダラ以外にもう一人いることになるじゃないか」
「最低でもです。
弟さんの目を奪い取った協力者が一人とは限りません」
「ここに来て嫌なことが分かって来た……」
「でも、まだ予想の範疇じゃないですか。
だって、戦争を仕掛けたんでしょ?
暁以外の仲間が居てもおかしくないですよ」
「ああ……。
その通りだ……」
「最悪のシナリオは……。
マダラさんの弟さんも生きている……。
そして、この計画が
『マダラさんと弟さんの二人の計画だった』
ですかね?」
ヤオ子の予想に全員が押し黙る。
今まで、黙っていたサイが口を開く。
「よくそんな予想がつくね?」
「……里を出てから得た情報が、どれも予想外のことばかりなんで、あたしも予想の枠を一つ外したんです。
・
・
そうなると最悪のシナリオってのが、少しだけ見えたんです」
「凄いな……」
「日々、頭ん中では妄想が駆け巡っていますからね。
そして、見当ハズレの妄想をすることも多々あるんですけどね。
フフフ……」
「?」
サイが再び首を傾げると、綱手がサスケを見る。
「さっきの万華鏡写輪眼移植の話……。
実行させて貰うぞ。
うちはの力に対抗できる力は、うちはにしか期待できない」
「そのつもりだ。
片目しか写輪眼のないカカシでは、須佐能乎は扱えないからな。
何より、アイツはオレの手で葬ると決めている。
・
・
後……。
もう一つ頼みたい」
「何だ?」
「手術で取り出したオレの目を……。
イタチに戻してくれ……」
サスケの表情が少し悲しみを見せる。
ヤオ子は、サスケが木ノ葉に戻った本当の理由に気付いた。
「木ノ葉に来たのは……。
抜き取られたイタチさんの目を体に戻して貰うためでもあったんですね……」
「……ああ」
「天国で目が見えないと困りますもんね……」
「……ああ」
イタチの真実を知らされていないサクラとサイは、少し混乱する。
綱手は、それに気付くとフォローと了承を合わせた答えを返す。
「憎んでいても尊敬する兄だったということだ。
イタチの体を綺麗にして、お前の目を入れてやる。
・
・
そして、盛大にとはいかないが、ここに居る全員が葬儀に参加する。
いいな?」
「……すまない」
(本当に不器用な奴だな……。
もう少し上手く立ち振る舞うことも出来るだろうに……)
綱手が溜息を吐く。
「他に問題はないな?」
「あります」
「また、お前か?」
「すいませんね。
でも、忘れる前にやっておかないと」
「何をだ?」
「今の模擬戦の検討ですよ」
「木ノ葉に戻ってからでもよくないか?」
ヤオ子は満身創痍のナルトとサスケを見る。
「それもそうですね」
「そういうことだ。
シズネ! サクラ!
さっさと治療を済ませろ!」
「「はい!」」
「綱手さんは?」
「移植は、私が行なう。
だが、病み上がりなんで医療忍術に使うチャクラを少し温存しておきたいんだ」
「なるほど。
ただ、面倒臭がっていたわけじゃないんですね」
「お前、一言多いな……」
こうして、砂漠での戦いのあと、木ノ葉にてサスケとイタチの目の交換の手術が行なわれた。