7月24日 1800時(日本標準時)
泉川駅前 喫茶「マザーリーフ」
この日、「マザーリーフ」店長の山本は苦悩していた。
理由は店内の空気が張り詰めているからだ。
「店長!何とかしてください!!」
「あの人たちおかしいですよ!」
あの人たちとは店の一番奥の席に座っている三人組。
初めは中年の男性と女子高生の二人組だった。
女子高生はメニューを片っぱしから食べまくるし、男の方はそれを見てニヤニヤしてるし、どう見ても援助交際にしか見えないがその光景になんら問題はなかった。
しかし、そこにもう一人若い男が現れてから空気が一変する。
あきらかにキレてる若い男は席に着くとメニューを見もせず中年の男性を凝視している。
(エンコーが彼氏にバレた……かな?)
明人が知ったら怒り狂うような事を店長は考えていた。
もっとも、今の三人を見ていれば誰でも思うかもしれない。
(揉め事はやめてほしいな……)
そんな思いも知らず明人はガウルンに殺気を放っていた。
「ラピスを誘拐して俺を呼び出すとはいい度胸だ」
「悪いね。会社か自宅の方に直接出向こうとしたんだが……」
ここで紅茶を一口。
「あの警備網は俺一人じゃきつくてねえ」
ガウルンは明人の殺気を軽く流していた。
その姿を見て明人の殺気はさらに増大した。
「おいおいおい、そう焦るなよ。今日はいい話を持ってきたんだ」
「……話?」
「ああ」
「くだらんな。貴様はやってはいけないことをした。貴様にあるのは死だ」
「……そうかい。なら殺れよ。見物客もたくさんいる」
言いながら店内を見渡す。
店内には結構人がいる。サラリーマンや学生、カップル、それに店員。
「明日は、ネルガルトップの殺人が一面だな。権力者ってのは不便だねえ」
また紅茶を一口。ガウルンには余裕がある。
「言ってみろ……」
ガウルンはニヤリと笑う。
「俺を雇わないか?」
それは明人にとって思ってもみない言葉だった。
「俺は今ある組織にいるんだが、どうも反りが合わん。そんなときにあんたを知ってね」
「……」
「正直、ネルガルには驚いた。M9やシャドウ以上のAS、<トゥアハー・デ・ダナン>以上の潜水艦、そして今まで誰も思いつかなかった人型以外の機動兵器。ラムダドライバに関しちゃ遅れてるみたいだが……俺が今いる組織やミスリル以上の技術を持ってるのは確かだ。それに……」
「……」
「今まで俺は、数えちゃいないが千人近く殺してる……」
「……」
「……だがお前は俺以上殺してる」
世界中のありとあらゆる場所でテロを行ってきたガウルン。
そんなガウルンに自分以上の存在が現れた。
それが明人であることにガウルンは気づいたのである。
「偽善者ぶってるがお前の目は人殺しの目だ……俺には分かる。類は友を呼ぶって言うだろ」
「……」
「どうだ?俺は腕が立つぜ?」
無言でガウルンの話を聞いていた明人はゆっくり口を開いた。
「ずいぶん持ち上げるんだな。残念だが俺は偽善者じゃない」
「?」
「俺は自己中心的な人間だ。もしラピスの命とそれ以外の人間の命を天秤にかけたら、俺はラピスの命をとる。俺にとってはラピスが全てだからだ」
明人の言葉は、この世に優先順位があるのは当然だ、と言っているようだった。
「だからラピスを誘拐した奴と肩を並べる気はない」
ガウルンは明人の言葉にあっけに取られたが、紅茶の残りを飲み干すと笑い出した。
「面白い。こんなに面白いのはカシム以来だ」
「カシ……何だ?」
「気にするな……まぁ、もう少し考えてくれ。それから迷惑かけた奢りだ」
立ち上がり、代金を置く。
「俺はこれから米軍基地を潰さなきゃならんのだが……」
「勝手にしろ。俺には関係ない」
「……良い返事を期待してるよ」
こうして、ガウルンは店を出て行った。
「……ラピス。すまん」
ガウルンの姿がなくなると明人はラピスに頭を下げる。
ラピスの護衛が手薄だったのは自分の責任だからだ。
「気にしないで、私は明人を信じてるから」
しかし、言葉とは裏腹にラピスは不安を抱いていた。
明人が他人を見捨てるような発言をしたのである。
『もしラピスの命とそれ以外の人間の命を天秤にかけたら、俺はラピスの命をとる』
『それ以外の人間』の中にはかなめや恭子、高校の皆が含まれているのだろうか?
もし、含まれていたのなら明人はどうするのだろう?
(見殺し……)
ラピスはそのような考えを必死に振り払った。
あるはずがない。
明人がそんなことをするはずがない。
順安でも、お台場でも、明人はかなめを助けた。
ついでだけど相良やミスリルの人間も助けた。
(私は明人を信じる。今までも、これからも……)
そうして、彼女はその不安を頭の中から消し去った。
あとがき(いいわけ)
日本決勝進出祝い!
でもうまく書けん……
『性格に問題があっても腕は一流』
ガウルンにも当て嵌まる言葉だね……
p.s
明人の言葉には元ネタがあります。