7月24日 1745時(日本標準時)
ネルガル本社 会長室
『ざ~んねん。生憎俺はかわいらしいお嬢さんじゃない』
その声を聞いた途端に明人の雰囲気が豹変する。
「誰だ貴様!!」
『おいおい、前に一度会っただろう?』
「質問に答えろ!!!」
『まあ、直接話したわけじゃないからな。ヒントをやろう、順安だ』
「……あの時のハイジャック犯か」
ラピスとかなめを連れて行った男と同じ声である事を明人は思い出した。
『正解だ』
「ラピスをどうした!!」
『お嬢さんは俺の目の前にいる。そう怒鳴るな』
「ラピスに危害を加えたら殺すぞ!!」
『お~、怖い怖い』
この男、ガウルンはからかう様に答える。
明人は激昂していたが、次第に冷静になっていった。
「…何が目的だ!」
『なあに、簡単な事さ。あんたと話がしたいだけだ』
「俺と?」
『ああ、泉川駅前の喫茶「マザーリーフ」に来るんだ』
「待て、ラピスの……」
声を聞かせろ。と言う前に携帯は切れてしまった。
「くっ!ラピス」
『マスター。直に車の用意を!!』
「必要ない。直接向かう」
そして明人はジャンプフィールド発生装置を手にした。
同時刻
泉川駅前 喫茶「マザーリーフ」
「さて、あの男は来るか?それとも来ないか?」
楽しむように携帯を切りつぶやくガウルン。
「来るに決まってんでしょ」
そんなガウルンに強気で言い放つラピス。
「お嬢ちゃん、強気だね~」
「当然」
と言いながら、チーズワッフルを食べるラピス。
「もし来なかったら?」
「明人が来ないわけがない」
今度はストロベリーワッフルを一口。
「ふむ。しかし来たとしてもどうする?俺はお嬢ちゃんを人質にしてるんだけどな」
「関係ない。順安でもあんたから助けたし…」
ストロベリーワッフルを片付けたラピスはチョコバナナワッフルに手を伸ばす。
「あの時とは状況が違う。君は俺の手元に居たわけじゃないからな。今なら何時でも殺れる」
「店内で殺るわけない」
手に付いたチョコレートソースをぺロリと舐めると彼女の中でメインであるブルーベリーチーズワッフル攻略に取り掛かった。
「殺るよ…俺は……それがプロだからな。殺ると言ったら殺る」
不気味な笑みを浮かべながらガウルンは殺気を放つ。
「まあ、私を殺したら明人と話なんてできないから。一言も話せずに殺されるよ」
ラピスは殺気にも気にせずブルーベリーを飲み込む。
最後のシメは抹茶あずきワッフルである。
「クククッ……確かに」
他の人が聞いたら恐ろしい内容なのだが、その光景は見事にマッチしていなかった。
「お待たせしました。焼きたてアップルパイです」
「そこ置いといて」
抹茶あずきワッフルをミルクティー(ウバ)で流し込むとデザートの焼きたてアップルパイを口に運ぶ。
「まだ食うのか?」
「デザートは別腹」
さすがのガウルンもその光景には唖然としている。
しかし、ラピスは気が気ではなかった。
本心はこの場から逃げ出したいのだ。
それだけ、目の前の男を恐れているのである。
なぜなら、ガウルンはかつて自分をさらった北辰に雰囲気が似ていたからだ。
正確には匂いだろうか。
もしラピスが何らかの抵抗をするならガウルンは躊躇なく自分と店内の人間を皆殺しにするだろう。
今彼女にできる事は、弱味を見せない事しかない。
先ほどからメニューを平らげているのも、相手に余裕である事を見せ付けるためだ。
(明人……早く来て………)
『いらっしゃいませ~』
『人を待たせてるのだが…』
『あちらの奥の席です』
「来たみたいだな…」
ラピスの願いが届いたのか、天河明人が到着した。
あとがき(いいわけ)
ガウルンが明人に接触しました。
タイミング的にこの時期しかなかったので…
前まではガウルンがネルガル本社に侵入し会長室に居る明人に会いに行くものなのでしたが、『ガウルンにネルガルへ侵入する力があるか?』と思いこのような形となりました。
本社にはバッタにNSS、ダッシュの目もある。何より明人が問答無用で殺してしまうでしょう。
ちなみに『Re[2]:ナデシコ・パニック その2』はこの後の話となります。