10月13日 0010時(ヨーロッパ標準時)
地中海 シチリナ島南部 バルベーラの屋敷
「こんな醜態ははじめてだ!」
全身に怒りをみなぎらせ、バルベーラは叫んだ。
彼はシチリナを代表するマフィアのボスである。マフィア史上、例を見ないほどの凶悪さで知られている。
「わしの娘の誕生日だぞ!? その会場で、客人がさらわれるどころか、賊の侵入を許している」
「下がってください、『ボスの中のボス』」
マフィアの警備隊長は、必要以上にかしこまって言った。
彼らがいる屋敷の一室には数人の私兵があたりを警戒している。
「何のために高い金を払っているのだ! なんとかしろ!」
バルベーラの私兵が流した血であたりには血なまぐさい匂いがただよっていた。
2人の賊は車で逃走を計っているが、残っていた賊は、なんと屋敷を堂々と闊歩している。
屋敷に残っていた兵を総動員し賊を始末しようとするが、それらは全て返り討ちにあったのだ。
「ボス! 奴が……がぁ!」
それが部下が叫んだ最後の言葉だった。
今部屋にいるのは警備隊長とバルベーラだけである。
「抵抗はやめろ」
その言葉は実にシンプルだった。侵入者は、ドア越しに透き通るような声で威圧すると、2人に向けて殺気を放つ。
「き、貴様! いったい誰に雇われた!」
「ボス! 頭を下げていてください……隠れてないで姿を現したらどうだ!」
あまりにも非常識な侵入者に対し、警備隊長は賭けにでた。
「こちらには私しかいない。サシの勝負といこう!」
もちろん嘘である。ドアを開けた瞬間、弾丸の雨を叩き込もうと、彼は考えていたのだ。
しばらくの沈黙の後、ドアがゆっくりと開けられて、隙間から影が入る。
(もらった!)
警備隊長は開かれたドアに渾身の力でトリガーを引いた。サブマシンガンから放たれた弾丸が、侵入者の体を踊らせる。
殺った――そう思った瞬間、警備隊長の体は後方に吹き飛ばされた。
なにが起こったのか、ふと体を見ると右肩がえぐれて吹き飛んでいる。血まみれになる自分の体が信じられない。
なにより、侵入者は蜂の巣にした筈にもかかわらず。
「バカな……」
侵入者の姿を見ると、まさに蜂の巣だった。そしてその顔が見慣れた部下である事に気が付く。
ドアの前に立っていた部下は、糸が切れた人形のように崩れ落ちると、後ろから本当の侵入者が現れた。
顔をバイザーで隠し、その右手にはスミス&ウェッソン社製のリボルバーをぶら下げている。まだ市場には出回っていないモデルで、拳銃では世界一の破壊力を持つ一品だ。
「見え見えの罠にかかると思うか?」
侵入者――天河明人は静かに言うと、銃をバルベーラにむける。
「言え。ブルーノは何処だ」
「ふざけるな貴様ッ!!」
鼓膜がやぶれるかのような銃声があたりに響きわたる。
一瞬の静けさの後、バルベーラが悲鳴を上げた。明人が放った弾丸は、バルベーラの右耳を撃ち抜いていたのだ。
「もう一度聞く。ブルーノは何処だ」
胸倉を掴み、眉間に銃身を突きつけるが、バルベーラは痛みと恐怖で騒ぎ立てるだけだった。
「……どうやら、もう片方の耳もいらんようだな」
「ま、待て! 撃たないでくれ! なんでも言う!」
息も絶え絶えに、なんとかその言葉を吐いたバルベーラは、懇願するように舌を捲くし立てた。
「ブルーノが、何処にいるかは知らない!」
「嘘をつくな」
「待てってくれ! お、お前は賊の仲間なのか!?」
「マオとクルツか……そうだと言ったらどうする。人質にとるか? 止めておけ、あいつらとは、ただ一緒にいるだけだ。知り合いだが仲間じゃない……」
「そ、そうか! ならば話は早い、ブルーノはその賊達が連れて行った。後は知らん」
拍子抜けするように明人はバルベーラの目を見た。その怯えた瞳は嘘を言っているようには見えない。
「……あいつら」
舌打ち交じりにそうつぶやくと、明人は銃を下ろし身をひるがえした。明人は完全に置いてきぼりをくったのだ。
「邪魔したな」
それだけ告げると明人は部屋から立ち去ろうとした。
だが、バルベーラからしてみれば面白くない。明人の言動は勘違いで自分の組織を潰されたことを意味する。
バルベーラはチラリ、と目を床に向けると、警備隊長が使っていたサブマシンガンが落ちている。
(わしの……わしの組織を! 許さん! 絶対許さんぞ!)
ドアから出ようとしている明人に悪意をぶつけると、サブマシンガンを拾い構えた。
「死ね……!」
だが、それだけであった。トリガーに指をかけるより早く、彼の頭を明人の持つM500が吹き飛ばした。
当のバルベーラは、自分に何が起きたのかも気付かずに死んだ。
明人は駐車場に戻る際、道中で愚痴をこぼしていた。自分を置き去りにしたマオとクルツに対してである。
「こんなところに取り残してどうしろと……?」
ひとまず、当初の予定にあった合流場所に移動しなければならない。おかげでレンタルしたフェラーリF40は返せそうにないが、元々はマオが借りたものだ。何かあってもミスリルが対処するだろう。
明人は一通りの思考を行なうと、突然歩みを止める。駐車場に入りフェラーリまで後少しといったところだが、何者かの気配を感じ取ったのである。
目を瞑り、全神経を集中させる。
次の瞬間、明人は停めてあったジャガー目掛けて引き金を引いた。ジャガーの窓ガラスは砕かれ、あたりに破片を撒き散らす。
「……そっちか」
ベンツ、ロータス、ポルシェと停めてある高級車を次々に撃ってゆく。一通り撃った後、弾を込めなおすと明人は何者かに向かって叫んだ。
「いるのはわかっている! 出て来い!」
その返答は銃弾であった。明人はロールスロイスの影に身を潜めて場を凌ぐと、周囲をうかがった。
辺りが静けさを取り戻す。逃げたのか、と思い始めた瞬間、明人は咄嗟に地面にしゃがみこんだ。それと同時に一発の弾丸が明人の頬をかすめる。
振り返ると、10歩ほど離れた位置に男が立っていた。
あとがき
明人の銃は何がいいでしょうかね?
今回出したのはS&W社のM500ですが、コルト社の蛇シリーズもいい
今のところリボルバー限定にしてるが、どうなる事やら・・・