9月13日 1610時(日本標準時)
ネルガル社 会長室
「よくここまで登ってこれたな。賞賛に値する。そうだろレミング博士」
「そのとおりですわ会長」
イスにふんぞり返りながら、明人は悪役のお約束な台詞を言った。その横ではレミング博士が秘書のように佇んでいる。着替えたのか例のコスチュームではなかった。
「吊り天井、大岩、落とし穴、猫……後は何があった?」
「トリモチ」
「そうソレ」
二人はここまでにあった罠の数々を思い出していた。どれもコレも映画やコミックなどに出てくるもので、物理的ダメージは殆ど無いが精神的なダメージを食らうものばかりだった。
他には、床一面にボタンが敷き詰められ踏むと壁に開いてある穴から矢(吸盤付き)が飛んでくる部屋(by.DB)や目の錯覚を利用し平衡感覚を狂わせる部屋(by.日光Ed村)等である。
マオは明人の姿を見ると、頭を抱えながら疑問を口にする。
「天河会長。一つよろしいですか?」
「何だ?」
「その格好は何ですか?」
「総統だ。……もしかして変か?地獄○使の方が良かったかな。もしくはドン・ホ○ー……」
「そうじゃありま……」
言い切る所で携帯の着信が鳴った。明人のである。
「あ、ちょっとタイム。……俺だ……うん…………分かった。そのままでいいぞ」
携帯を切ると、薄く微笑みながら電話の内容を話した。
「いや、すまない。お宅のウェーバー軍曹が家の前をウロチョロしていたらしくてね」
「!!」
クルツ・ウェーバーを捕まえたと言う明人の言葉にマオは驚きを隠せない。
「貴様!クルツに何をした!」
「大丈夫だ。彼なら丁重に出迎えるよう言ってある」
同時刻
天河邸
明人の言葉どおりクルツはバッタ達に歓迎されていた。
『ねえねえクルツ君。紅茶はホットがいい?それともアイス?』
「気を使わなくてもいいぜ」
『そうはいかないよ。会長からミスリルの人間が来たら丁重に出迎えるよう言われてるから』
『そうそう。だからクルツ君はゆっくりしててよ』
「ゆっくりと言ってもね……」
言いながら自身を見る。クルツは縄で両手両足を縛られていた。
「どうやってくつろげと?縛られたままか?」
『そうだよ』
いざとなったら縄抜けできるが、先程バッタから――『縄から抜けたら亀甲縛りするから』――と脅され、できずにいる。
『大丈夫!大丈夫!僕とクルツ君の仲じゃないか』
「何の仲だよ」
『共にヘベモスと戦った……戦友みたいなものさ』
感傷に浸るように、バッタは遠くの空を眺め始めた。
しかしもう一体のバッタが異議を唱える。
『ちょっと待って!あの日は僕が一緒に居たんだよ!』
『何言ってるんだよ。あの日は僕と会長が救出に向かったんだろ』
『違うよ!僕だよ!!』
口論が始まるとそこへ紅茶を持ったバッタが戻ってきた。
『お待たせ~。紅茶が……って何やってんのさ!?』
『ねぇ、クルツ君がベヘモスを狙撃した時、一緒にいたのは僕だよね?』
『い~や!!僕だよ僕ッ!!』
『何言ってんだ二人(二機)とも。あの時一緒にいたのは僕。二人(二機)の筈がないじゃないか!』
『『そんなはずはない!!!』』
この場にいるバッタが一斉に“自分だ!”と叫びだした。クルツとしては訳が分からない。
「何だ?どうなってるんだ、一体?」
『おかしいな。こんな事は……って、しまったあぁぁっっ!!』
暫らくすると紅茶を持っているバッタがあることに気付く。
『僕達の記憶データは並列化されたんだった!!!』
バッタ達の記憶データは必要と思われるデータを並列化するようにしている。特に戦闘データはあらゆる面で役に立つためだ。
『そういやそうだっけ!?』
『じゃあ誰が言ったのかわからないよ。どうしよう』
『『『う~ん……』』』
(何か嫌な予感がする)
『そうだ!あの日一緒にいたクルツ君に聞いてみよう!』
くしくもクルツの予感は当たってしまった。
『君ィ!ナイスアイディアだよ!!』
『頭いいなお前!』
バッタは常に修理・整備されている。そのため三体のバッタを見分けるのは難しい。
『そんな訳でクルツ君……』
『あの日一緒に戦ったのは……』
『僕達の中の誰だった?』
クルツは、いただいた紅茶を飲みながら三体のバッタを眺める。
そして思った。
(わかんねえって……)
ネルガル社 会長室
「そう……全て予測した上でからかっていたのね」
「ああ。なかなか面白かったろ?」
「いい加減にしな!!」
目の前にある机に拳を叩きつけ明人を睨みつける。遂にマオがキレた。
「人が下手に出ればいい気になって!冗談も休み休みにっ……!!」
その瞬間、部屋の空気が一変した。明人の雰囲気が変わったのである。
「じゃあ、冗談抜きで話をしようか」
一見、明人の表情は先程と同じ笑みを浮かべているように見えるが、明人の目は、目だけは笑っていなかった。
「……なっ……」
殺気すら含んだその視線にマオは思わずたじろいでしまう。
「お前達にとってテレサ・テスタロッサが大事なのは知っている……だが、それと同じように、俺や、特にラピスにとってかなめちゃんは大切な存在なんだ。だからこそ、順安で彼女を救出させるのに全力を尽くした。あの時の犯人は彼女の拉致が目的だったしな……しかしだ!お台場での一軒はどうだった?彼女を狙った事件だったのか?」
「それは……」
「答えは“NO”だ。あれはミスリルは関わっていたがかなめちゃんとは無関係の事件だ」
結局のところ、かなめは巻き込まれた形になる。
「そして先日の<ダナン>占拠事件……別に招待するなとは言わない。だが作戦行動中に招待するのはどうかな?……まあ作戦自体は上手くいったみたいだが、捕虜に艦を占領された挙げ句、人質に捕られるなど……」
「……クッ……!」
その事を言われるとマオは何も言えなくなってしまう。
「ミスリルの都合で毎回彼女を危ない目に合わせるわけにはいかないんだよ」
マオは自分が言った言葉に後悔する。先程までの明人を見て、ここまでブチギレてるとは思っていなかったからだ。今まで悪ふざけは彼なりの譲歩だったのかもしれない。自分達にイヤガラセをする事によりキレるのを耐えていたのだ。
重苦しい雰囲気の中、今度は宗介が口を開いた。
「待て!確かに千鳥を巻き込んだのは謝罪しよう。しかし、その事と大佐殿を誘拐する事は別問題だ」
珍しく正論を言う。しかし……
「誘拐?俺は誘拐などしていない。招待しただけだ。お前がかなめちゃんを招待したようにな」
「大佐殿が自らっ!?」
「ああ。反論しなかった」
正確には反論する暇がなかっただけなのだが。
「お前たちが誘拐と思いたければそう思えばいい。だが彼女は最低でも2週間はここに居てもらう」
「…………何故?」
「罰だな。かなめちゃんを巻き込んだ罰。そして自分の艦を占拠された事に対する罰。後は……」
マオの質問に明人の最後の答えに、その場にいる誰もが唖然とした。
「ミスリルがかなめちゃんだけを呼んでパーティーをしたからだ」
マオは何が起きたのか分からないといった表情で固まり動かない。宗介も同様に動かないが、なにやら考え込むような仕草をしている。明人の言葉を何か暗号のように思っているようだ。レミングは困ったように明人の顔をじっと見ている。
「……………………はい?」
明人の理解不能な思考にマオは思わず疑問系で返事をする。
「何故俺を呼ばん?」
「………」
「順安でもお台場でも俺は事件に関わったぞ」
「……呼んでほしかったの?」
「当然だろう」
先程までの殺気に満ち溢れた明人は一体何だったのだろう。明人はいつの間にか殺気を消し、恨めしそうにマオを見ている。まるで拗ねた子供のように。
「俺を除け者にしたペナルティだ。彼女には2週間、陣代高校に留学してもらう」
「!!……ちょっ……じゃあテッサは……」
「陣代高校だ」
「「………………………………………………………………」」
二人はあきれて何も言えなかった。
「ネルガルの警備体制に疑問があるというのなら、そちらも好きにしてかまわない。彼女の世話をするなら、一人くらいは俺の家に泊まらせられるけど……」
もはやマオに反論する気力はなかった。一方の宗介は携帯を取り出し、まだ生徒会室に残っていたかなめに連絡を取った。
30分後
『マジなんですか?』
「何がだ」
『パーティーに御呼ばれされなかったから誘拐というのです』
「さあな」
『……マスター。コレは私の推測です。確固たる証拠があるわけではありません。気にせずお聞きください』
「………」
『マスターはお茶を濁したのではないですか?』
「………」
『あのまま話を続けていたら交渉は決裂していたでしょう。そうなるとミスリルとの全面戦争、もしくはソレに近い形になるのは必然。だからマスターはわざと道化を演じた。ミスリル側が呆れるほどに……』
「……さあな」
おまけ
ラピスは不機嫌だった。言うまでも無くテッサの所為である。
彼女に会ったのは3ヶ月前。その時は一時的に居ただけだったので問題は無かった。しかし先日明人がテッサを連れてくると2週間も家に住ませると言う。ルリに似た印象を持つ彼女にラピスは警戒心を強めていた。
一方のテッサもラピスに対する印象はあまり良いものではなかった。明らかな敵対心を一日中浴びせ続けられたら誰だってそうなるだろう。
「………」
帰りは一言も会話をすることなく、二人は家路に着いた。すると……
「おかえりー」
ラピスにとって聞き覚えの無い返事が返ってきた。しかも女の……
「!?」
リビングからやってきたのはメリッサ・マオである。彼女の事を知っているテッサにとっては青天の霹靂であった。
「メリッサ!?どうして?」
「……色々あってね。今日からここに住むことになったのよ」
「貴方が!?」
旧知の仲である二人がそのような会話をしている最中、ラピスは別のことを考えていた。
(胸が大きい、しかもチャイナ系……)
ユリカ(元本妻)とエリナ(元愛人)の要素を併せ持ったメリッサ・マオ。
そんな彼女が一緒に住むという。これらの要素からラピスが出した結論は……あえて語るまでも無いだろう。
あとがき(いいわけ)
シリアスを書きたかったのだが、結局ギャグに・・・
オチもなんか微妙だし・・・
>WEEDさん
修正しました。
ご指摘ありがとうございます。