9月13日 0940時(日本標準時)
陣代高校 2年4組
「ねえねえ!今は何所に住んでるの?」
「日本語上手だよねー!」
「放課後ヒマ?カラオケのタダ券が……」
「お父さんって、どんな人?」
「かわいー!お人形さんみたい!」
「あの、テッサさん。ぜひ一度写真部のモデルに……」
休み時間に入るなり、テッサの周りには黒山の人だかりができた。恭子を中心とした女子グループと小野寺孝太郎を中心とした男子グループが、質問や誘いの集中砲火を浴びせる。
一方でかなめはその光景を首を傾げながら見つめていた。
(何でテッサがこんな所に?)
彼女がミスリルの戦隊長であることを知っているかなめにとって、ありえない光景が目の前に広がっているからだ。
(もしかして宗介がいないのって、これの所為?)
そんな時、テッサが感極まったように目頭を熱くする。
「…………?どしたの、テッサちゃん?」
「いえ……。ここまで同い年の皆さんに、歓迎されるとは思ってもいなかったので……その、なんだか、嬉しくて……」
突然明人に拉致され、訳も分からず高校に通わされている。テッサとしてみれば、今の今まで不安で仕方がなかった。
「…………。そうなんだー」
一同は腕組みをして、神妙な顔でうんうんとうなずいた。
「まぁ、とにかく元気だしなよ。困ったことがあったら、なんでも聞いてくれていいし。ね、カナちゃんラピちゃん?」
「へ?」
離れた席で首を傾げていたかなめは目を丸くする。一方のラピスは無表情。
「テッサちゃん。あの人がね、学級委員長の千鳥かなめさん。生徒会副会長もやってるの。英語もペラペラ出し、頼りになるから、なんかあったら彼女に相談するといいよ」
「えー……。ま、まぁよろしくね」
「よろしくお願いしますカナメさん」
「で、隣に座ってるのが天河・ラピス・ラズリさん。護身術習ってるから強いんだよー。変な人に絡まれたら彼女に相談するといいよ」
「……変な人に絡まれたら呼んでね。飽く迄“絡まれたら”の話だけど」
「……ありがとうございます、ラピスさん。護身術だなんて、へたな男子より“腕っ節”があるんですね?」
なにやら異様な空気が辺りを覆う。
「そりゃあ、ね。うふふ……」
「たすかります。ほほほ……」
同時刻
メリダ島基地
「これは由々しき事態だ!!」
マデューカスは激怒していた。頭に血が上って血管が浮き出てるし、その背後からはドス黒いオーラが出ている。普段の冷静な彼とは見違えるようだった。
それも其の筈。ミスリルの最重要人物であるテレサ・テスタロッサの誘拐。ミスリル発足以来の大事件である。この事態に日本にいた宗介、休暇中のクルツ、そしてマオの三人が緊急招集された。
「このメリダ島でっ!西太平洋戦隊の基地内部でっ!!大佐を拉致されるとはっ!!!今は亡きカール氏に何と御詫びすればいいか……」
カール・テスタロッサ。
テッサの父親でマデューカスに帽子を贈った人物である。潜水艦USSダラスの元艦長で、英国海軍に所属していた時のマデューカスを助けた過去がある。彼の死後、マデューカスはテッサのことを我が子のように見守っていた。
そんなテッサが白昼堂々とさらわれた。しかも彼自身が侵入者に会っている。マデューカスにとっては一生の不覚だ。
「しかし、部屋に残された張り紙と基地内部の監視カメラから犯人が分かった!!」
あの時、明人が残した張り紙。
『テレサ姫はいただいた。これはバビロニアの神の罰である。 by黒い王子様』
これから『バビロニアの神』は『ネルガル』を、『黒い王子様』は『天河明人』を指していることに気付いたのだ。
なぜならバビロニアの神を示した言葉の中に『ネルガル』という言葉がある。また、マオとクルツの証言から明人が黒ずくめの格好をしていたこと、そして監視カメラの映像を解析した結果から、犯人がネルガル会長天河明人であることが決定的となった。
「本来ならば戦隊の全戦力をもって救出作戦を実行しなければならないのだが、知ってのとおり<デ・ダナン>および<アーバレスト>は修理中、カリーニン少佐も1週間は戻って来れない。大佐の身の安全が第一に考えると下手な事はできん。そこでだ曹長!!」
「ハッ!!」
「君に天河氏と交渉してもらう」
「!!……了解しました」
思ってもみない大役にマオは驚くも、それを承諾する。
「相良軍曹とウェーバー軍曹は彼女の補佐をしてもらう。……特に、相良軍曹は天河氏に『信頼』されているらしいからな」
「……恐縮です」
「もっとも、どうやって『信頼』を築いたのかは知らんがね……」
「………」
「いいかね。もちろん君達も認識しているだろうが、テスタロッサ大佐は非常に貴重な人材だ」
「「「ハッ!!」」」
「彼女なしでは<デ・ダナン>は母親を亡くした乳飲み子同然といっていい。私は生命に価値に上下はないと考えているが、それでもあえてこう言おう。君達のような下士官100人よりも、彼女一人の方が、はるかに重要な存在なのだと。わかるな相良軍曹!!」
そこで何故か宗介の名前が出る。どうやら、この件の主犯と交友関係がある宗介に良い感情を持っていないらしい。
「こ、肯定であります、サー」
「唯でさえ先日の事件で、彼女は心の底に大きな痛手を負ったと考えられる。部下の死は、最初の頃は誰でもこたえるものだ。それが彼女のような、お優しい心根の持ち主ならなおのこと……。そんな彼女に、もし……万一。なんらかの物理的・心理的な苦痛を被っていた場合――」
目が正気ではない。もはや自分を見失ってるのだろう。
「――私は神と女王陛下に誓って、君を八つ裂きにしてやる。魚雷発射管に君を詰めて、3000キロの爆薬と一緒に射出する。それだけではない。精神の均衡を失うまで『バカ歩き』で基地内を行進させてから、訓練キャンプで『バナナやラズベリーで武装した敵からの護身術』の教官をやらせた挙げ句、最後は『カミカゼ・スコットランド兵』としてクレムリンに特攻させてやる。わかったな!?」
「了解いたしました、サー!」
あとがき(いいわけ)
4月からは1or2週ペースで書くことになります。