「――――どうか地球の皆様、希望を捨てないで下さい。今までも私たちはどんな困難も乗り越えてきたはずです。私たち、地球連合及びネルガルは、決して木星蜥蜴に負けることはありません。この1年以上もの間、どれだけの血が流れたでしょうか? どれだけの涙が流れたでしょうか? 今こそ、立ち上がってください。みんなのチカラを、いや、私たち人類のチカラを合わせ、この苦境を乗り越えていきましょう」
うやうやしく一礼をする私に、歓喜の声と拍手が沸きあがる。
そんな人々の歓声に応えるように、私は笑顔という仮面を被り力強く手を振った。
私の後ろでミスマル・コウイチロウ氏がウムと頷いた。
パレードは続く。英雄であるナデシコを称えるが如く、歓声は鳴り止むことが無い。
そんな中、ルリは私を見つめていた。
私はそんなルリの視線に気付くと、軽く微笑んで隣に行き、
「どうした? 疲れたのか?」
と声をかけた。
ルリは「いえ、別に」と小さく応えると、無表情のまま歓声に手を振って応えた。
凄い熱気だ。
私は今、歴史が動く瞬間に立ち会っている。
私は今、歴史の真ん中に陣取っている。
そう、私の知る未来はすでにやってはこないものとなったのだ。
火星を脱出してから、ガイが死んでからすでに2ヶ月が経過していた。
最大の難関であるチューリップを無事突破できたナデシコは、そのまま軌道に乗り火星を脱出。
いかに木星蜥蜴の技術が高かろうと、ナデシコの最大戦速に追いつけるわけもなく、私たちは辛くもスキャパレリプロジェクトを成功させた。
それは今まで木星蜥蜴にやられっぱなしだった人類にとって、大きな希望となった。
生き延びた火星の人々は、木星蜥蜴に故郷を滅ぼされた無念を説くと同時に、これから反攻にでることを宣言。
それに伴い、絶大な戦火をあげたネルガルのナデシコとエステバリスは、地球連合軍に民間協力という形で編入されることとなった。
私たちは、反攻のプロバガンダとして祭り上げられることになる。
特に、火星の民の信頼を集め、著しい戦果を挙げたということで私はすでに英雄という扱いになりつつあった。
「……………ハハハ」
これが笑わずにはいられるか?
すべてを利用し、偽り、かつての親友を見殺しに、私は英雄になった。
私が外見15歳に満たぬ若い女ということも手伝ってだろう。
そうさ。私は自身の存在すらも偽っているのだ。
それでも世界は回る。
戦争は激化し、木星蜥蜴……いや、木連との戦いは最早避けては通れないだろう。
たくさんの火星関係者が生き残ったこの時代。
相手が昔地球を追放された人類だとしても、それでも私たちは停戦という方法を選べるだろうか?
最早、私の当初の望みどおりの展開になりつつある。
スピード解決した前回とは違い、血で血を洗う長い戦いになるかもしれない。
悔やんでも時は巻き戻らない。進むのみ。
だったら、私も進もう。
始めに描いた通り、ユリカを、誰を敵に回しても彼女だけを幸せにするという誓いを護って。
――――私の知る未来は、もう帰ってはこないのだから。
第一章エピローグ『英雄誕生』~end~
第2章『偽りの英雄、偽りの戦争、偽りの自分』に続く。
あとがき
大変遅くなりましたが、これにて第一章は終了。
次回より、ほぼオリジナル展開の第2章がスタートします。
当初のノリと違い若干暗めの話になりましたが、それでもノリは基本変えないでいこうと思っています。
第2章で主人公について色々触れていければいいなと思っています。
それでは、また次回で。