「スミマセン、大丈夫ですか!?」
懐かしい愛しき人の声。
好きだった人。護りたかったが、護れなかった女性の元気な声。
その声を聞くだけで私の目にはうっすらと涙が溜まっていく。
「だ、大丈夫だけど……。大体、アンタら物詰め込むの下手過ぎるんだよ。もっとまとめるものはまとめてさ……ってうわ、パ、パンティ……………いや、これはその……」
「あの…………失礼ですが、もしかしてどこかで会ったことありませんか?」
「へ……? いや、別に……」
愛しかった女性は、運命の再会を果たし、そして物語はここから始まるのだ。
私も、もう一度あの船へと乗り込むことになる。
今度は、第三者として。当事者でなく、外から愛しかった人を見つめることになる。
「本当にスミマセンでした。では、それじゃあ」
愛しかった人は、あの時の記憶そのままに花が咲くような笑顔を見せて車に乗り込み姿を消していく。
地面に腰を下ろしたままの少年は呆然とその車を見送っていた。
さて、見ているだけではしょうがない。今度こそ、私はあなたを護ろう。
「――――少年、この写真立てはキミの物ではないかい?」
――――たとえ隣に立つことが、もう訪れないものだとしても。
機動戦艦ナデシコ~もう一回ナデシコ~
私が一度目に『死んだ』のは今から15年程前のこととなる。
いや、正確には二度目の生を受けたのが15年前ということであって、年数に直すと私は今から10年程後に死んだことになっているのだ。
何を言っているのか分からないだろうが、私にも分からない。でも、私は未来から還ってきてしまったのだ。過去に。それも別人として。
私の未来での名前は天河明人。『闇の王子』なんて言われていた時期もありました。ハイ。
そんな私ですが、未来で火星の後継者の事件後、結局愛しき妻と会うことなく死んでしまいました。
理由? なんかテロでした。A級ジャンパーを脅威に思った地球連合の仕業じゃないだろうかなんて今更思っていたりします。
つかね、結局ジャンパーって幸せになれないんだと思うんですよ。誰から見てもじゃまだし、個人で戦況変えられるし、便利過ぎるし。
あの遺跡がある以上、結局戦争の種は消えないし、私たちの未来もありません。
ですから私、考えました。どうしたら私たちが幸せになれるだろうか、ということを。
と、ここで遅れましたが自己紹介。
私、如月凛と申します。みんなにはリンとかキサラギなんて呼ばれたりしています。
そんな私ですが、先ほども申したとおり前世は男。しかし今は女。なんとも、変な感じでありますね。
正直、慣れるのには時間が掛かりました。幸せ一杯の家族に、愛される資格などない私がここにいていいのかと何回も自問自答を繰り返しました。
意味もなく黒い衣装に身を包み、笑えと言われれば口角を片側だけ吊り上げてニヤァ。さらには「俺には幸せになる資格なんてない」と両親に言ったりしてこっ酷く叱られたりなんかもしました。
しかし、男と女の違いなのか、大体10年くらい「俺は幸せになる資格なんてない」をやっていたら、そのうちその考えが実に痛いものだったのか気付くようになりました。
昔はかなり自分を責めたものです。自分の力が足りなかったから妻であるユリカを護れなかった、とかもう色々と。
でも、それって違いますよね? あの状況じゃあ護れなかったことを反省するよりも、私にはやるべきことがあったハズなのです。そう、ユリカの側にいてやることです。
ユリカが傷ついたのなら、ずっと側にいてやるべき。ユリカが殺されるのなら、せめて少しでも抱き合っているべきだったんだと最近思うようになってしまいました。
いや、これも女に生まれ変わった影響でしょうか? 当時では考えられなかったことが今では当たり前のように思えてしまうから時間の経過ってのは恐ろしいです。
さて、話が少々逸れましたが、生まれ変わった私が何をすべきなのかを考えました。
まずは、歴史上にジャンパーという存在を目立たせてしまってはいけません。狙い撃ちにされます。
次に、遺跡の行き先。できればぶっ壊したいですね。思い出よりも未来に生きたいです。今の私。
最後に、木星の人たち。ぶっちゃけ、全滅してもらうのがベストですね。彼らが生き残る以上、どうせ何回も戦争になります。実際、火星の後継者の後もテロ続いたし。
ということで、私の目的は3つ。
・ナデシコに乗り、ジャンプと木星の人間の存在を知らせないようにすること。
・火星の人間の生き残りの数を増やすこと。これでもしもの時の独占を防ぎます。
・最後に、遺跡の削除。これが一番大事。ぶっちゃけこれが目的といっても過言でない。
とりあえず、この3つを目標にこれから頑張っていこうかな、なんて考えていました。
そして、いざ行動へと移します。
まず、ナデシコに乗りたいです。そのためにはどうしたらいいか?
そりゃもちろん、世紀のテロリストとして活躍した腕を生かすためにパイロットになるのが一番でしょ? でもこれがうまくいかなかった。
まず私、この計画を思いついたのが10歳の時。それも私、女の子としてもかなり小柄に入る部類だったらしく、入隊させてはもらえたものの、パイロットなんて夢のまた夢だったよ。
当時火星在留軍はどこも人手不足で少年、少女兵は募集していたもののさすがに10歳のチビっこい女の子にパイロットをさせる人間などおらず、させてもらえたのはおままごとのような交通整備に軽い訓練。あと雑用。
それでもパイロットを夢見て上官に頭を下げること3年。ついに私はパイロット養成コースへと足を踏み入れることができたのだが、その次の年には第一次火星大戦が勃発。
んで、最初に与えられた命令は地球への退避。いやいや、私未来知ってるのに何もできてなくね?
でもこれはしょうがないのだよ小林君。こんなチビっこい女の子の言うことなんて誰も信じないし、下手すりゃスパイ扱いされちゃうし。ネルガルとのコネもないし、できたのは両親を地球に無理矢理送ったことぐらい。ダダコネまくってやった。
そもそも絶望的な戦力差。戦艦の主砲が効かない相手に機動兵器でペチペチやったってたかが知れてる。はっきりいって、戦況は何一つ変わらない。
それでも私は出撃した。隊の先輩を気絶させ、機体を奪取し猛然と敵の大群の中へと突っ込んだ。
いやね、わかっていても火星が滅ぼされる様を冷静に見てることなんてできなかったのよ。やっぱり火星、好きだったからさ。
誰もが驚くスーパーテクニックを披露して私は戦場を踊るようにかけめぐる。
雨のようなミサイルをかわし、滝のようなレーザーを受け流し、時には撃ち、時には避け。まるで、映画のヒーローのように。
その結果、撃墜数はバッタ3機。その後普通に撃墜された。
いやね、戦力差がきつくてね。後、この身体ちっこいし、筋力ないし動きにくいし……ってそりゃIFS使ってるんだから関係ないなんてツッコミはなしで。
その結果、私は泣く泣く故郷である火星にチューリップが落ちるのを見届けて地球に逃げ帰ることしかできなかったというわけである。
あ、ちなみに私の故郷、火星です。ですから、遺跡をどうにかしないと私も脳をクチュクチュされてしまうかもしれないので必死です。
しかししかし、何という因果なのか。
私の無謀ともいえる突撃は、決して無駄ではありませんでした。
火星でのパイロットとしての活躍が認められ、何と私ネルガルにスカウトされたではありませんか!?
これで自分を売り込みにいくことなく、ナデシコに乗れることとなりました。とてもめでたい。
さて、色々ありましたが今日は運命の日。
そう。昔の私……アキトとユリカが再会する日です。
料理屋を追い出されてチャリを漕ぐアキト君をストーキングすること5分。
なんということでしょう!! 車のトランクからキャリーバッグが零れ落ち、アキト君の顔面へ!!
……端から見ると、よく死ななかったものですね。冷や汗でましたよ。ってか昔の自分よ。頑丈だったんだな、と感慨深く思います。
おっと、そんなことを思っている場合ではありません。
これからやることが色々あってその第一歩がこれから始まるのだから気合を入れていきましょう。
「――――少年、この写真立てキミの物ではないかい?」
若干おかしなテンションになってしまったが、気にしないでもらえるとありがたい。