アキトはウィンドウに映った年端もいかない少女の顔を見つめる。
『て…テンカワさん…』
『アキト…君?君…そう言う趣味の人なの?』
『はぁ~…やっぱり戦艦にいい男っていないんですねぇ…』
ルリは、なんとも言いがたい表情で絶句している。
アキトは絶望にかられ、うつむいた。
そんな彼に、ジュンはおずおずと声をかけた。
いや、正確には『かけようとした』のだ。
「て、テンカワ…」
アキトは涙ぐんでいた。
肩を落した彼の姿はあまりに憐れをさそい、ジュンは声をかけられなかったのだ。
おどろ線を背負った彼は、ジュンの映ったウィンドウに目を向ける。
「…俺は…俺は…まだ彼女に知られたくなかったんだ…。彼女とお付き合いしてもおかしくない年齢に彼女がなったら…そしたら自分で…きちんと告白するつもりだったんだ。それまで我慢するつもりだったんだ…」
アキトはどんより濁った瞳でジュンを見つめる。
その口から、苦痛に満ちた声が吐き出された。
「…これじゃ…これじゃきっと○リコンの変態さんだと思われたよ…。ダメだ…もう嫌われた…ぐふっ…ひっく…えぐ…」
「テンカ…ひっ!?」
「お前が…お前がナデシコ止めようとするから…お前がよけいな事言うからあああぁぁぁああぁぁああああっ!!」
アキトのエステバリスはいきなりジュンのデルフィニウム目掛け、急加速した。
ジュンがアキトの機体を避けられたのは、奇跡としか言いようが無い。
「て、テンカワっ!!いきなり何をするんだっ!」
ナデシコを攻撃しようとしておいて、『何をする」もクソも無いものだが、ジュンは叫んだ。
あわてて部下のデルフィニウムがアキト機を防ごうとするが、アキトは先程までの逃げ腰が嘘のような機動で彼らを叩き潰した。
彼らのデルフィニウムはどの機体も最低小破、運が悪いものは撃墜されてしまっている。
脱出したアサルトピットは、まだ動ける機体がなんとか回収したようだ。
アキトは彼らにはもはや目もくれず、ジュンの機体を狙撃した。
ジュンのデルフィニウムは腕やミサイルポッドなどを次から次へと破壊される。
アキトが彼をなぶっているのは見た目に明らかであった。
アキトの声がジュンのコックピットに響く。
「くくく…一夜にて…天津国まで伸び逝くは…瓢の如き宇宙の螺旋…ユリカの前で死ぬか?」