「ここ...は?」
目を覚ますと知らない所で寝ていた。
シェルターにいて、伏せると同時に物凄い力に押された気がした...
でも一度ここで...
そう、娘は?アイはどこ?
鎮静剤の副作用で覚束ない考えを振り払うように頭を振ると、マナカはベッドから降りる。
ふらつく足取りで個室から出ようとすると、医者と看護師が飛んできた。
ベッド下の圧力センサーが反応して人を呼んだようだ。
「ツキノさん、どうしましたか?まだふらついてるじゃないですか、もう少し休んで下さい」
「あの、アイは?娘はどこですか?」
「ツキノさん落ち着いて聞いて下さい。ツキノさんが目を覚ましたら伝えて欲しいとの伝言をテンカワ・アオさんから預かっています。
テンカワ・アオさんです。覚えてますか?」
娘の安否を流されて眉を顰めたが、その名前には反応した。
「アオさん?アオさんがいるんですか?」
「はい、彼女が貴女を連れてきたそうです。それと伝言はこちらになります」
そう言って手渡された紙片を読む。
『一人にさせてすいません。色々とわからない事だらけでしょうが、マナカさんが起きたら連絡を頂く事になっています。
連絡を頂き次第、アイちゃんの事を含めて説明しに伺います。どうか安静にしていて下さい』
説明?何故あの子が?どうして?そんな疑問が頭の中を駆け巡るが、知り合いがいてくれる事すぐ来てくれる事に安堵した。
「...わかりました。こちらで待たせて頂ければいいんですね?」
「はい。身体でおかしな所はないですか?」
「少し頭がぼ~っとします。身体自体は問題ありません」
「鎮静剤で少しの間はぼ~っとしてると思います。ですが1時間も経たずに落ち着きますので安心して下さい。
衝撃で気を失ってただけですし、身体自体に異常はありませんでしたから差し入れなどは自由にお食べ下さい」
「はい、ありがとうございます」
「では、ゆっくりしていて下さいね」
個室で一人になると一息ついた。
ため息をつきベッドサイドに座り、ふと窓を見ると見知らぬ景色が広がっていた。
(遠くの山が、緑...?火星じゃない...?ありえないわ。でも確かに緑だわ...)
本当に分からない事だらけだった。
火星で気絶して次の日には地球にいる。夢でも見ているかのようだ。
マナカは頭が覚束ないのをいい事にこれ以上考えるのを放棄する。
(アオさんに全部聞こう)
そう決めた。
しばらくの間ベッドサイドでぼ~っと過ごしていると扉がノックされた。
「はい?」
「テンカワ・アオです。入りますね」
「はい、どうぞ」
入ってきたアオを見て驚いてしまった。
落ち着いた色合いのドレスにケープをあわせていて、遠目からでも値が張りそうだとわかる。
差し入れでも持ってきたのだろうか、手には籠を持っている。
どこの英国お嬢様ですか?と言わんばかりの服装だが、精巧な作りの顔立ちに違和感が全くない。
彼女の後ろを通り過ぎる看護師や入院患者も一様に彼女から視線が外せないようだ。
「アオさん...ですよね?」
「そうですよ、どうかしましたか?」
「い、いえ、服装が変わったので見違えてしまって...」
「一緒にいる子にコーディネートされてしまって、大変でした」
「そうですか...」
「えっと、お腹空いてると思って、これ作ってきたのでよかったら食べて下さい」
「わざわざすいません」
アオが籠から出したのはリゾットとカスタードケーキだった。
アオが「先に食べます?」と尋ねるが、マナカは話しを先にすると断った。
調子はどうだといった簡単な質問が続いた後、アオが切り出した。
「マナカさんが気になっている事は、アイちゃんの事、そしてここがどこだという2点だと思います」
「えぇ、アオさんにはわかるんですか?」
「アイちゃんの事をお伝えする前に、まずはここがどこかという事から説明しないといけません。
驚かれると思いますが、ここは地球です」
その答えに驚くが、同時にやっぱりという思いも浮かんでくる。
何故かは知らないが、外の景色は見間違いではなかったという事だ。
「遠くの山が緑なのは見間違いではなかったんですね」
「失礼ですが、マナカさんは地球には来た事が?」
「えぇ、私は日本生まれですよ」
「そうですか、今回マナカさんが地球に来たのはそれが原因になります」
「...どういう事ですか?」
「それについては私とアキトの両親が行っていた研究に答えがあります。
少し長くなりますが、お付き合いをお願いします」
実際はマナカを連れてきたのはアオである。
そして、ボソンジャンプは火星"生まれ"でないと不可能だ。
だが、今そこまで話してしまうとマナカがジャンプしたのが不自然になってしまい、アオの事も話さなくてはいけなくなる。
そうなると、必然とイネスがアイだという事まで話す事になる。
マナカが今それを知ってしまうと与えるショックが大きすぎると考えたアオは、アキトが行ったジャンプに巻き込まれた事にした。
「そんな...」
「信じられないかも知れません。ですが、今地球にいる事がその証拠です」
「その話しを信じると、アイは...」
「そこで聞きたい事があります。アイちゃんはユートピアコロニー以外に出た事はありますか?」
「いえ、あの子が生まれてすぐに旦那も亡くなりましたし、私も忙しかったものですから...」
「そうなるとユートピアコロニーのどこかにいる可能性が高いです。
ジャンプに際してですが、飛ぶ先は頭で強くイメージする事が必要になるんです」
「そんな!それじゃあの子は!!」
「正直なところはわかりません。でも生きてる可能性もまだまだあります。
そこで、マナカさんを勧誘に伺いました」
「勧誘ですか?」
「はい、火星へ行きませんか?」
それからアオは自分の状況について話し出した。
両親のツテを頼りに今はネルガルへ身を寄せている事。
同じIFS強化体質者であるルリ・ラピスと一緒に住んでいる事。
自分の能力を生かして火星へ向かう戦艦の研究・開発及び監修を行う事。
それを聞いていく内にマナカは驚きを通り越して呆れてしまっていた。
「1日でよくもそこまで...」
「ふふふふ、色々と手札はありましたからね、交渉術もばっちりです♪」
「クスクス。頼もしい限りですね。あ、そういえばアキトさんは?」
「あの子は火星と地球どちらの可能性もありますからね、地球の方は今探して貰うように頼んであります。
悪運だけは強い子ですから、大丈夫ですよ」
「信頼してるんですね」
「ずっと見てましたから♪」
「?見てた?」
火星で聞いた限りは18年研究所から出た事がなかったはずである。
その矛盾にマナカは首を傾げる。
「はい、IFSを通じて監視カメラをハッキングしてずっと見てました」
「凄い...」
「内緒ですよ?」
「私もアイが生きてると信じてます。絶対に探し出して見せますわ!」
「その意気です♪」
個室の中に二人の楽しげな笑い声が響く。
マナカは幾分縋っているような様子はあったが、希望が持てた事で目に力が出てきた。
目的も持てた事で笑う余裕も出たようだった。
「それで、私にお手伝いできる事は?」
「多分ですが、ナノマシンの研究になると思います」
「ナノマシン?」
「はい、両親の研究内容に遺跡ナノマシンの研究もあったんです。
研究所出る時に色々とデータを取ってきたのでその研究になると思いますよ」
「そうですか、ナノマシンと医療は私の領分ですし精一杯勤めますわ」
「明日には退院できるような事を言ってたので、また明日来ますね。
あ、そうだ忘れてた。マナカさん住む所ありませんよね、一緒に住みませんか?」
席を立とうとしたアオが思い出したようにマナカに尋ねた。
だが、そこまで世話になるのは心苦しいのか返答に困ってしまう。
「一緒に...ですか?そこまでお世話になる訳には...」
「いえ、3人で住んでますが無駄に広くて余ってるんです。1部屋空いてますしマナカさんさえよければ是非」
「そう...です...ね。わかりました、お言葉に甘えます」
「はい、ではまた明日来ますね」
「えぇ、何から何までありがとうございます」
「でわでわ~」
そうしてアオはぱたぱたと手を振ると部屋から出ていった。
それを見送ったマナカはしばらく扉を眺めていたが、膝を抱えるように身体を折ると胸の前で祈るように手を組んだ。
「アイ、一人にして御免ね。寂しい思いさせて御免ね。お母さんが必ず迎えに行くからね。少しだけ待っててね」
火星にいる娘へ届けとばかりに思いを込めていた。
病院を出たアオは自宅へと戻っていた。
リビングに抜けると、キッチンでルリとラピスがお昼ご飯を作っていたので、自分も加わる。
お昼を食べながらマナカの事について話し、一緒に住む事になったことも伝えた。
一緒に住む件は朝の時点で話をしていた。
元々アイというラピスと同年代の女の子の母親という事もあり、ラピスへいい影響を与えるだろうと考えての決定だった。
ルリとラピスはネットに潜って調べた事やアオが持ってきたデータで発見した事などを話していた。
食事が終わるとアオはルリとラピスに後片付けを任せ、出かける準備をする。
マナカへの差し入れを作る際に焼いたカスタードケーキを籠へ詰めていく。
「それじゃ、二人とも行ってくるね~」
「アカツキさんの所でしたよね?」
「そそ、マナカさんの件だけだからすぐ終わると思う」
「はい、お気をつけて」
「アオ、いってらっしゃい」
「あ~い、いってきま~す」
アオはパタパタと足音を響かせて出ていった。
その頃会長室ではアカツキが書類に目を走らせていた。
ざっと確認し判を押していく。
いつにも増して真剣なのは早く終わらしてアオに会いに行きたいからだった。
そこにカウンターからコールが入る。
「なんだい?」
「テンカワ・アオさんが見えています。『カスタードケーキ焼いてきたよ』だそうです」
「すぐ通してくれ」
心の中でガッツポーズをすると、通して貰った。
すぐにエリナへアオが来たからお茶を用意するように伝える。
普段は何かとさぼろうとする会長をやる気にさせる相手が来たのだ、煩くは言わなかった。
すぐに扉がノックされ、アオが中に通された。
「やっほ、頑張ってる?」
「あぁ、早く君に会いに行く為にね」
ほんと?とエリナに目を向けると「珍しくね」と認めた。
アオは幾分驚くと「珍しい」と漏らした。
「私なんかに会う為に頑張るなんてナガレって酔狂だね?」
「...アオ君、君は自分というものがわかってない」
「そう?十分わかってると思うけど...」
「私からはノーコメントです」
そのままここ数日常連になっている応接室へと向かう。
エリナがお茶を入れる間にアオが焼いてきたカスタードケーキを取り出す。
アカツキはつまみ食いしようとするが、少しくらい待ちなさいとアオに手を叩かれた。
それを見てクスクスと笑いながらエリナが戻ってくると、恒例のお茶会が始まる。
3人はカスタードケーキに舌鼓を打ち、マナカの事を含めて雑談をしていた。
「一緒に?」
「そ、ラピスの情緒教育にいいと思ったの。8歳の女の子のお母さんですから」
「まぁ、研究にも参加してくれるのなら問題はないよ」
「そうね、医療用の研究してたなら身体への影響などにも詳しいでしょうし、その辺も細かくやってくれそうね」
「あ、そうそう。ナノマシンといえばルリちゃんが面白い事言ってたよ」
「「面白い事?」」
「うん、研究所のデータ見てて発見したそうなんだけど、私の身体って実年齢と肉体年齢があってないじゃない?
かなり最初の方に投与されたナノマシンの影響らしくって、徐々に成長が遅くなってるみたいなのよ。
このままいくと、肉体年齢が20超えた辺りで成長が止まり老化しなく...」
そこまで言った時、目の前のエリナが物凄い形相で睨んでいるのに気付きアオは停止した。
アカツキは早くからそれに気付いていたようで、少しでも離れようとしている。
当のエリナは顔を真っ赤に紅潮させて親の仇でも見るような憎々しい目つきでアオを凝視していた。
「え、エリナさん?」
呼びかけても全く反応せず「敵、敵がいるわ、元が良いくせに言うに事欠いて老化が止まるですって?敵よ、こいつは敵」などと物騒な事をぶつぶつと呟いている。
アオは余りの怖さに思わずひいていると、エリナが突然立ち上がる。
思わずアオは「ひっ!」と情けない声を上げてしまう。
アカツキも身体をビクッと震わせるがソファーの角で小さくなっていない振りをしていた。
アオは勇気を振り絞ってなんとかなだめようと声をかけるがエリナは全く取り合う気配がない。
しばらくすると何かを悟ったような顔になり、笑い出した。
「ふふふふふ、そうね、そうよ。アオさん?私のお肌...いえ、全女性の為の礎になって貰うわ」
そう言いだすとアオの腕を掴み引きずり出した。
その恐ろしさはあの人を外れた外道と自称する北辰でさえ逃げ出すと思える程のモノがあった。
「ひぃっ!待って!エリナさん!ちゃんとデータがありますから!資料も残ってます!マナカさんにも手伝って貰いますから!だから待って!待って!や~~だぁ~~~!」
必死に逃れようと暴れ、言葉を重ねるがエリナにがっちりと握りしめられた腕は解けそうにない。
しかし、腕を掴まれつつもいやいやと逃げようとするアオにはいじめたくなるような可愛らしさがあった。
そして、アオが言った言葉を聞いてエリナの動きがピタリと止まる。
ギギギギと音がしそうにゆっくりとアオを振り返ると凍えそうに冷たい目で見下ろした。
「それ、本当?」
泣きながらエリナの目を見つめて何度も頷く。
エリナは満面の笑みを浮かべるとアオをそっと持ち上げ席へと戻し、自身も座っていた席へ戻った。
「アオさんも人が悪いわね。最初からそう言って下さればよかったのに。会長、ツキノさんとの契約へは私が"直接"伺います。
アオさん、ツキノさんの病室へ伺う際は私に"必ず"連絡を下さい。"必ず"ですよ。忘れないようにして下さい。」
「わ、わかったよ。エリナ君」
「ワカリマシタ、エリナサン」
その後、応接室の中ではいつにもまして柔らかい雰囲気のエリナと声をかけられるたびにビクッと身体を震わすアオ、アカツキの姿があった。
次の日、マナカの病室にルリとエリナの姿があった。
マナカとの契約に訪れたのだ。
「初めまして、ネルガル会長秘書をしております。エリナ・キンジョウ・ウォンと申します」
「え!会長秘書さん?」
マナカが思わずアオを見るが当人は困ったような顔で頬を掻いていた。
「はい、今回私が伺ったのは私の肌...いえ、全女性の未来の為に是非ともツキノ・マナカさんのお力を貸して頂きたいが為なんです!!」
「え?えっと、あの?」
「先日、こちらのテンカワ・アオから話を伺っていると聞いておりますが、間違いはないですね?」
「あ、はい。間違いないです」
「そして、ツキノさんは火星でナノマシンの研究をなさっていたというのも間違いはないですね?」
「はい、治療用ナノマシンになりますが、間違いないです」
「結構です。それでは全女性の未来の為というその内容を説明致します」
そしてエリナが熱い口調でマナカへ語りだす。
話しが進むうちにマナカにも熱が移って来たのか、どんどんと返事に力が入ってくる。
そしてアオが20超えた辺りで成長が止まるという話しになるとエリナとマナカの両名から刺すような視線を感じる。
アオは目線を逸らしながらそれは気のせいだと思い込んだ。
そして説明が終わる頃、マナカの目にも炎が宿っていた。
「えぇ、よ~くわかりました!私とエリナさんのお肌...いえ、全女性の未来の為にこの力存分にお使い下さい!
微力ながら全力を尽くさせて頂きますわ!!」
「わかってくれると思ってましたわ、マナカさん!」
二人は友情を確かめ合うようにお互いを抱き締めあう。
いつの間にか下の名前で呼び合っていた。
アオはそんな二人を遠巻きにうわぁ...と微妙な表情で眺めていた。
それからはトントン拍子に契約をしていき、マナカは「明日からでも!」と息巻いていた。
だが、エリナから病み上がりだからという事や研究所の手配があるという理由で週明けからの勤務となった。
それから退院の手続きを済ませ病院を出るとエリナが乗ってきた車に同乗し、マンションまで送って貰った。
車から降りる際もエリナとマナカは必ず成功させましょう!と意気込んでいた。
そして二人はエントランスホールへ入ると、まずはカウンターでマナカの静脈データを登録し、カードキーを貰った。
それが終わると部屋へと戻っていく。
「ルリちゃん、ラピスただいま~。マナカさん連れて来たよ」
「お邪魔します」
「アオさん、お帰りなさい」
「アオ、お帰り~」
奥から出てきた二人を見てマナカは驚いた。
話には聞いていたが二人ともIFS強化体質者の印でもある金色の目をしていたからだ。
その上アオに負けず劣らずの美少女である。
二人はマナカの前まで来るとぺこりと頭を下げた。
「初めまして、ツキノ・マナカさん。ホシノ・ルリです」
「初めまして、マナカ。ラピス・ラズリです」
「えっと、初めましてルリちゃん、ラピスちゃん。ツキノ・マナカです」
「マナカさん、見てもわかると思いますがルリちゃんもラピスもIFS強化体質者です。
ルリちゃんに関しては知ってらっしゃったと思いますが、ラピスは私と同じような身の上です。
年齢はルリちゃんが11歳で、ラピスが8歳になります」
「そう...アイと同じ歳なのね...」
自分の娘と同じ年齢の女の子が非合法の実験体として扱われていたという事実。
ラピスにアイを重ねて苦い顔をするが、心配そうな顔をしたラピスに気付くとすぐに表情を変えラピスの頭をゆっくりと撫でた。
マナカに頭を撫でて貰うラピスはすぐに満面の笑みを浮かべる。
「ね、ラピスちゃん。アオさんとルリちゃんと一緒にいて楽しい?」
「アオもルリも優しいし暖かくて好き」
「そう、よかったわ。ラピスちゃん、これからよろしくね?」
恥ずかしそうに頬を染めながら、でも口調はしっかりと言い切るラピスを見てマナカは微笑む。
それからラピスを柔らかく抱きしめた。
「マナカも暖かい。それに柔らかい。好きになれると思う」
「一杯好きになってくれるように頑張るわ」
アオとルリは二人の様子を眩しそうに眺めていた。
それから3人がかりでマナカを案内していく。
部屋の大きさ、そして3人で暮らしていたのにベッドが一つだけな事、書斎にあるコンピュータの凄さ、キッチンの広さと終始驚きっぱなしだった。
「色々と凄過ぎてびっくりよ。アオさんって何者なの?」
「私は至って普通の女の子なつもりなんですが...」
「アオさん、それで普通って言ってたら一般の方に怒られますよ?」
「うん、アオは凄い」
「クスクス。二人にかかるとアオさんも肩なしね。それで、私はどこで寝ればいいのかしら?」
「一緒にって考えてましたけど...駄目でした?」
確認するのを忘れてたと思いつつ、恐る恐るマナカに尋ねる。
それを受けて少し考える素振りをしたマナカは逆にアオへと尋ねた。
「お邪魔じゃないかしら?」
「私は構いませんよ」
「マナカは邪魔じゃない」
「だそうですが、どうでしょう?」
「それじゃお言葉に甘えちゃいますね」
その後夕ご飯を作る際、ルリだけではなくラピスも手伝う事にマナカは驚いていた。
主婦であった事もあり、見てるだけという状況は我慢出来なかったマナカもなし崩し的に手伝う事となり、4人で料理を作る事となった。
アオはルリへ細かい味付け方法やコツを教えながら、マナカはラピスへ基本的な事を伝えながら和気あいあいと進んでいく。
4人で初めて作るにしてはかなり手際よく出来、かなり豪勢な夕ご飯となった。
食事をしながら病院での一件や昨日のエリナの怖さについて話したり、ルリとラピスが調べた結果などを話し合う。
そんな中アオがルリとラピスを見ると思い付いたように言った。
「ね、ルリちゃん、ラピス。明日から私と一緒にトレーニングしない?」
「「トレーニング?」」
「うんうん、二人ともほとんど運動した事ないでしょ?
そのままじゃ体力も力も少ないから不審者から逃げられないよ」
「そうね、二人とも凄い可愛いし、狙われやすいわね」
アオとマナカから言われるが、身体を動かすという事に面倒臭さを感じいい顔をしない。
「無理にとは言わないよ。だけどある程度身体動かさないとあんまり成長しないよ?
ルリちゃんは特に気にしてたじゃん?ラピスもぺたんこはイヤでしょ?」
「「うっ...」」
アオのぺたんこ発言に思わず胸を確認してしまうルリとラピス。
二人して恨めしそうな目でアオを睨む。
「そんな睨まなくても...」
「わかりました、そこまでけなされてやらなきゃ女が廃ります」
「私もやる」
「そ、そっか、よかった」
「ただ、もし成長しなかったらアオさんが責任取ってくれるんですよね?」
「えっ!?」
「アオは運動しないと成長しないって言った。なら運動すれば成長するって事だよ」
「それは、揚げ足取りって言うんじゃ...」
「「なにか言いました?」」
「何でもありません...」
そんな3人を微笑ましそうに見ていたマナカがアオに声をかける。
「身体の事を言うなら、アオさんの身体って本当に羨ましいわ。
老いなくなるってある意味で全人類の憧れよ?」
その言葉を受けたアオだったが不用意な一言を言ってしまった。
「でも、老化が止まるってそこまで大層な事じゃないと思うんだけど?」
「...アオさん、口は災いの元って知ってますか?」
横に座っているルリと向かいのラピスから白い目で見られてしまった。
そして斜向かいには...
エリナと同じような修羅がいた。
「いいわ、アオさん。貴女がどれだけ恵まれているのかわかってないようなので説明しましょう」
ぐったりしたアオは「間違いなくアイちゃんの母親だった」と言っていたとか。
その後お風呂はアオとルリ、マナカとラピスでつかる事となった。
ラピスがマナカと入ろうと言い出したのだ。
母という雰囲気が安心するのか、初日にも関わらずかなり懐いていた。
お風呂から上がり、寝支度を整えると寝室へ向かう。
お休みのキスをしているのを見たマナカは幾分驚いていたが、幸せそうなルリとラピスの表情に何か勘付いたようだった。
「アオさんってキスする時だけ男性みたいな表情になるんですね♪
ルリちゃんとラピスちゃんが羨ましいわ♪」
鋭い突っ込みに焦る3人だった。
そんな3人を見たマナカは逆に3人の味方だから心配しないでと深読みをする。
それを受けて必死に弁解しようとするが、全て逆効果になり最終的に3人の関係を応援して貰う事になった。