サセボドックでナデシコの習熟訓練が始まってからは一気に活気が増していた。
日に日に乗員が増えていき、物資の搬入や艦体、機体の再チェック再々チェックと慌ただしいのである。
しかし、本来であればそんな中でさえ一際五月蠅いはずの某パイロットは未到着だった。
「アオさん。そういえば真っ先に来そうなヤマダ・ジロウさんが来てないんですけど何かあったんですか?」
「あぁ、ガイには手違いで乗艦の日を3日って送っちゃってるから大丈夫。ほんとうっかり間違えちゃったんだよね」
「アオ、それは故意って言うと思う」
「ラピス。建前っていうのは大事なものなのよ?」
ちなみにプロスもしっかりとグルだったりする。
高価なエステバリスを転ばされて傷物にされたくはないそうだ。
習熟訓練もかなり順調に進んでいた。
ユリカも初日のアオからの発破が効いているのか、業務中にアキトの所へ走り去る事もなく書類関係をジュンへ丸投げしたりもしなかった。
その事に何より驚いたのがジュンであった。
訓練2日目に出て来てみれば妙にユリカがアオと仲が良くなっており、以前なら面倒臭いからとお願いされていたであろう書類関係もしっかりしているのだ。
余りの事にどんな魔法を使ったのか気になってしまい、ジュンはアオに尋ねていた。
「あの、アオ統括官。不躾な質問で申し訳ありませんが、ユリカ...艦長と何を話されたんですか?」
「え、話?どうしてそんな事を?」
「はい、私が言うべき事ではないのでしょうが、艦長としての意識が私の知っている物よりも高いんです。
人間が1日2日で急に意識の持ちようを変えたんですから、それ相応の何かがあったと思ったんです。
そしてこの訓練の初日で初対面だったアオ統括官と2日目にはとても仲良くされてましたから、統括官が何か話されたのだと思いました」
アオはその話を聞きながら、流石ジュンだなと感じていた。
影の薄さで損をしているが、副艦長に選ばれたのは伊達ではない。
その上アオの知る未来では若いながらも地球連合宇宙軍の中佐を務めているのだからかなり力はあるのだ。
「そうね、その事についてはジュンさんに言っておかないといけない事があるわね」
「僕にですか?」
「えぇ、ジュンさんから見てユリカはどんな風に見える?個人的な感情は抜きにして客観的に答えてね」
「客観的...」
上官から聞かれているという事もあり、自分の特別な想いを抜きにしてユリカの事を考えていた。
浮かんできたのは自分にはない才能や周りを巻き込んでいく行動力、一度決めたら曲げない意志。
「凄い才能だと思います。そして行動力もあるし、それを成し遂げる意志もある」
どれも自分には眩しくて、そんなユリカの助けになりたくて一緒にいたそんな事も考えていた。
その考えを見透かしたようにアオは問いかける。
「では、ジュンさんは何故いつもユリカさんと一緒に行動して来たんですか?」
「そ、それは...」
「友人として?憧れ?それとも利用する為?」
「違う!!いえ...すいません、違います。僕は彼女の助けになりたかっただけなんです」
利用する為?と聞かれた瞬間自分の想いを汚された気がして思わず声を荒げてしまった。
すぐに上官である事を思い出して謝るが、顔には苦々しい表情を貼り付けている。
「ごめんね、こんな事言って。ただ、ジュンさんはユリカさんのいい所ばかり見過ぎているのよ。
そして危うい所にも気付いてるのに見ないようにしている」
「それは、どういう事ですか?」
「力になりたいのではなくて助けになりたいんでしょ?
本当にユリカさんがジュンさんが言うような人なら助けなんていらないと思うのよね。
どこかで欠点があるから助けになりたいって思えるんじゃない?」
「...欠点?」
ジュンは今までそんな事を考えた事はなかった。
いつも眩しくて、一人でどんどんと前へ進んでいく彼女に必死についてきたと思っていたからだ。
そしてそんなジュンに取って普段のユリカの行動はお茶目で可愛らしいとは映っても欠点になりえないのである。
「というか、私に言わせると彼女欠点だらけよ?」
「へ?」
「時間にはルーズ。面倒臭い事はジュンさん頼み。今は落ち着いているけど公私混同は激しい。
社会人としての自覚がない。周りへの配慮が足りない。自分の事を客観的に見れてない。
まだまだあるけど、全部聞く?」
「あ、いえ、大丈夫です」
アオから羅列されていく事にはいちいち思い当たる事があった。
でもそれはジュンに取って可愛らしい所である。
自分の中のどこかで確かになと納得している事に戸惑っていた。
「それで、一番の大きな欠点。というか弱点があるのよ」
「弱点ですか?」
「えぇ、これに関してはジュンさんの方が優れてるわよ。それも格段にね?」
「そ、そんな事は...」
それこそジュンは全く見当がつかなかった。
しかし、アオの雰囲気は真剣そのものである。
ジュンは仕切りに考えているが全く見当がつかなかった。
それを見たアオは口を開いた。
「それは、挫折をした事がない所よ」
「...!」
ジュンの心臓が大きく跳ねた。
ジュン自身わからないが、それを聞いた瞬間嫌な予感が止まらなくなってしまった。
確かに、ユリカはジュンが知る限り挫折をした事がない。
そしてユリカと長い間一緒にいたジュンには彼女が挫折を経験した時の事が想像つかなかった。
「相手は無人兵器だけどこれも戦争である事は間違いないの。そして戦場というのはどこで何が起こるかはわからない。
だからこそユリカさんは、自身の采配の結果、戦場のど真ん中で大きな過ちを犯す可能性があるのよ。
そしてそれによって彼女が使い物にならなくなる事も考えられる」
ジュンは声を上げようとした。
したのだが、舌の根が乾ききっているのか声が全く出ない。
そんなジュンにアオは柔らかく微笑みかけると優しく声をかけた。
「そしてそうさせない為にこの訓練をしているの。これでも万全とは言えないけどね。
だから、ジュンさんもただ憧れて背中を追うのではなくてユリカさん自身の事をしっかりと考えてみて。
そしてユリカさんの為になるなら厳しい事も言わないといけないし叱ってやらないといけない。
本当に友人として想っているなら、ましてや恋人になろうとするならそれくらいしないと無理よ?」
「なっ!!」
「ちなみにブリッジでわかってないのはユリカさん本人だけよ?」
「うそ...」
「え、あれで隠せてると思ってたの?」
アオの言葉にジュンは今日一番のショックを受けていた。
そして訓練の様相が変わったのは訓練開始から5日目の事だった。
パイロットのシミュレーションも兼ねてという事で、アキトも訓練に参加したのだ。
その事に何より喜んだのは、やはりユリカだった。
「わ~い!アキ...」
「ユリカさん減点」
「うっ...」
アオがぼそっと言った一言でユリカは止まった。
また一歩アオをお姉さんと呼べる日が遠のいたらしい。
「正規のパイロットであるヤマダ・ジロウさんはちょっと手続きの不備があってまだ到着されていません。
そこで、コック兼パイロットであるテンカワ・アキトさんに来て頂きました」
プロスがアキトを紹介すると、サダアキとジュンが反応した。
そしてミナトとメグミは別の所に反応していた。
「「テンカワ...?」」
「「コック兼パイロット?」」
「そういえば、ご存じ無い方もいらっしゃいましたな。まず、彼はテンカワ・アオ統括官の弟さんです。
それと先程紹介した通りパイロットも兼任して貰う形になっております。腕前は保証しますよ」
「「「「へぇ~~~」」」」
プロスの説明に4人は仕切りに驚いていた。
「とはいっても全力戦闘に入る程危機的なシミュレーションはしないから安心してね。
ちなみに、これからの訓練は私もパイロットとして参加する事になるからよろしくです。
じゃ、アキトいこっか?」
「あ、わかったよ。姉さん」
そうしてアキトの紹介が終わると、アオとアキトはシミュレータールームへと向かっていった。
ユリカはアキトの戦う姿が初めて見れる為に期待で挙動不審になっていた。
ミナトやメグミ、ジュンも興味あるのか幾分そわそわと落ち着きがない。
サダアキに関しては軍のエステバリス部隊の教官を務めている者がサセボドックで教練を受けているという噂を聞いていた。
それが本当なのか、本当だとしたら教官への教練を行う程の実力というものを見極めようと真剣な目をしていた。
アオとアキトはシミュレータールームへと歩きながら打ち合わせをしていた。
その間にはちゃっかりルリとラピスもウィンドウ通信で参加している。
アオとアキトを二人っきりにしないようにである。
「アキト。普段通りしちゃうと訓練にならないから、敵を倒しちゃ駄目よ?」
「え!?」
『はい、アオさんの言う通りです。普段通りですと、アキトさん一機で訓練が終わってしまいます』
『相手はバッタ50機。目的は市街地から遠ざけてグラビティブラストの範囲内に誘導する事だから倒しては駄目』
「そゆことなの。だから、武器は何も持たないようにね。私も持ってると撃ちそうだからそうするしね」
「わかったよ。何か逆にストレス溜まりそうだな...」
「訓練だからしょうがないの」
バッタ1機倒すのに苦労しているデルフィニウムの部隊員が聞いたら烈火の如く怒りそうな事を話していた。
実際それ程の操縦技術を身につけているのだからしょうがないだろう。
そしてサセボドックでの教練を行っているエステバリス部隊の教官達なら50機程度問題なく落とせる程の技術を身につけている。
ピースランド王国軍についても同じで、トップクラスのパイロットならば問題なく落とせる。
アオとアキトはパイロットスーツへ着替えるとそれぞれのシミュレーターへと入っていった。
そしてアオとアキトの用意が出来ると、ブリッジへとウィンドウ通信が繋がった。
「それじゃ、訓練の内容を説明するね」
そしてアオの説明が進んでいく。
状況はサセボへバッタ50機が接近しており、目標は市街地である可能性が高い。
作戦としてはアオとアキトのエステバリスが先行して発進し市街地から遠ざける。
その間にナデシコが弓張岳頂上口から出て海上に集めたバッタをグラビティブラストで一掃するというものだった。
「用意したシナリオだし、お世辞にもうまい作戦ではないんだけど、簡単な機動戦の感覚を掴む為のものだから勘弁してね」
「あの、アオ統括官。何故エステバリスは戦わないという事になってるんですか?」
「それをすると訓練じゃなくなっちゃうからよ?」
「へ?」
「言葉のままだからこれ以上説明しようがないかなぁ」
肝心な事は言わずに結果だけを伝えていた。
アオとアキトの実力を知ってる者以外はさっぱりといった感じできょとんとしていた。
「それじゃ、訓練開始しようか。ダイア、好きなタイミングで始めてね」
『アオさん、わかりました』
そうして訓練が始まった。
最初の数分は緊張した面持ちだったのだが、5分10分と経過していくにつれ、緊張が解れていく。
そして30分近く経ち、待ちくたびれて本当に始まるの?と頭に浮かび始めた頃にサイレンが鳴りだした。
全員の様子を伺って緊張が緩んだ瞬間を狙ってサイレンを鳴らすダイアはかなり意地悪だろう。
とはいっても、最初からリラックスしてIFSを介して今日の夕飯の事を話しあっていたアオとルリ、ラピスは流石である。
サイレンが鳴りだして頬杖をついていたユリカは身体をビクッと反応させるとすかさずルリへ問い掛けた。
「ルリちゃん。状況をお願い」
「はい、サセボから南西におよそ50km、江島の付近にバッタを確認。数はおよそ50機です」
「目標はわかる?」
「進行方向からすると連合軍佐世保基地の可能性が高いです」
「メグミさん、すぐに佐世保基地へ通達。同じく佐世保市役所へも通達して緊急避難警報の発令を依頼して」
「はい!」
先程まで頬杖をついてぼ~っとしていたとは思えない程の迅速な判断だった。
ちなみに、通信などもダイアがすべてシミュレーションしていて実際と変わらない状況になっている。
ブリッジからの景色も同じく、ウィンドウを駆使して宇宙を想定しての訓練の際も違和感がないような景色を作りだしていた。
「市役所は避難警報の依頼を受諾、すぐに流すそうです。
あ、軍からの返答が入りました。『我々は把握していない。本当にいるというのならそちらで対処しろ』だそうです」
「うわ。そこまでしっかり真似しなくても...」
「本当に言いそうだから怖いんだよな...」
「いつもながら、アオ統括官って恐ろしい程軍の体質わかってるわよね」
「彼女なりに色々思う物があるんじゃろう」
メグミが疲れたように伝えた報告に思わずユリカとジュン、サダアキ、フクベ提督が愚痴をこぼす。
ユリカとジュンはミスマル提督の傍にいたおかげでミスマル提督の目を盗んで子供達にまでおべっかを使う軍の汚い所を見ていた。
そしてサダアキとフクベ提督は中にいたからこそ、その体質はよく知っているのだ。
だからこそ本当にメグミが伝えたような事を言い出しかねない事を重々承知していた。
「では、メグミさんはアオさんとアキトにエステバリスへの搭乗を通達して下さい。
装備は空戦フレームで、準備が出来次第こちらへ通信を入れるように伝えておいて下さい」
「はい!」
「ルリちゃんとラピスちゃんはナデシコに火を入れて下さい。同時に弓張岳頂上口までの通路をお願いします」
「「はい」」
「ミナトさんはいつでも発進出来るようにしておいて下さい。状況によっては狭い中を突っ切る事になりかねません」
「わかったわよ」
それから5分とかからずアキトとアオから通信が入った。
「ユリカさん、準備出来たわよ」
「ユリカ、こっちも大丈夫だ」
「アオさん、アキト。状況は聞いてると思います。
すぐにエレベーターを使って地上へ上がって下さい。
地上へ出たら南西へ直行し、金重島と桂島との間へバッタを誘導しその場で喰いとめて下さい。
その後は追って指示を出します」
「うん、りょ~かい」
「あぁ、わかった」
そうしてアオとアキトはエレベーターへ搭乗、地上へ上がるとサセボから南西へと飛んでいった。
「艦長。ナデシコ発進準備完了いつでもいけます。それとエステバリスまで重力波ビームが届きませんが大丈夫ですか?」
「はい、これからすぐに弓張岳頂上口を抜けてナデシコも向かいますから大丈夫です。
では、ミナトさんお願いしますね」
「えぇ、いつでもいけるわよ」
「それでは、ナデシコ発進!」
「はい、ナデシコ発進します」
ルリが答えると、ブリッジに映る景色が変わっていく。
実際に動かしているのと勘違いする程の映像なので自ずと緊張感も増していく。
ミナトの操舵で弓張岳頂上口を抜けたナデシコは南西へと艦首を向けると全速力で向かっていく。
「エステバリスへのエネルギー供給再開しました。
エステバリス2機は既にバッタと交戦を開始しています」
「え...うそ.....なにあれ」
「すごぉ...」
「綺麗」
ブリッジに映し出された映像があまりに想像とかけ離れていた為、ユリカ達は呆然としてしまった。
なぜならアオとアキトの機体はじゃれるようにひらひらと50機のバッタの中を飛びまわっているのだ。
50機総出で取り囲んでいるはずなのに傷一つつけられず、逆にミサイルに当たりそうなバッタを投げ飛ばして助けたりもしていた。
傍目には本当に遊んでいるとしか思えなかった。
そして実際アオとアキトは遊んでいた。
「危な!バッタが1機同士討ちしちゃうところだったよ」
「姉さん遊びすぎだって、わざとミサイル撃たせてればそうなるよ」
そんな事を話しながらふわふわひらひらと攻撃を避けていっている。
散々ユリカに公私混同するなといっているのに自分が訓練中に遊んでいては説得力のかけらもない。
その為にブリッジとの通信はルリとラピス以外にはカットしていたりもする。
そしてその光景に魅入ってしまった者はいまだこちらの世界に帰ってこなかった。
そんな中ため息交じりにルリがユリカへと声をかけた。
「艦長。グラビティブラストの射程内に入っています。どうしますか?」
「え?あ、そうだ。えっと、メグミさん、すぐにアオさんとアキトへグラビティブラストを撃つので射線から外れるように通達して下さい!」
「あ、は、はい!わかりました」
「ルリちゃん、すぐにグラビティブラストの準備を!」
「いつでも撃てますよ、かんちょ?」
「はぅ」
ルリはユリカが呆けている間にしっかりと充填を完了していた。
そして、アオとアキトがバッタを混乱させて一気に離脱するとすかさずルリがユリカへ伝える。
「アオ機、アキト機、グラビティブラスト射線から離脱完了、いつでもいけます」
「グラビティブラスト射てぇ~~~!」
そうして訓練が終わり、アオとアキトがブリッジへ戻ってくると反省会が始まった。
そこでアオは厳しい顔をユリカへと向けていた。
「それで、海域に到着してからえらいぼ~っとしてたけど、あれなに?」
「え!あ、あの...すいません...」
「理由を聞いてるんだけど...」
「あ、はい。えっと...見惚れてました.....」
「へ?」
その見惚れてたという言葉は予想していなかったのかアオは素っ頓狂な声をあげていた。
そして見惚れていた人達は全員気まずそうに顔を逸らしていた。
それはルリとラピス以外全員だった。
「え~~、フクベ提督もですか...」
「すまんな。アオ君とアキト君の戦闘シミュレーションを見るのは初めてだったからな」
「うぅん...」
流石にほぼ全員とは思っていなかった為にどう言おうか迷っていた。
しかし、普段叱っていて今回叱らない訳にもいかない為ため息交じりに疲れたような声を出した。
「えっとですね、あれくらいならしっかりトレーニングすれば誰でも出来るんです。
事実、ここで訓練してる軍の教官10人とかピースランド王国軍でトップクラスの人達なら余裕で出来ます。
ですから、今後は冗談でも味方が戦ってるのに見惚れるなんて事は止めて下さいね。
これが訓練じゃなかったらと思うと恐ろしくて涙が出てきちゃいます」
「「「「「すいませんでした」」」」」
その場にいたアオ、ルリ、ラピスとアキト以外がアオへと頭を下げていた。
そしてアオは一旦みんなの事を許した。
それからアオとアキトはユリカやジュン、ミナトにメグミ、更にはサダアキから質問攻めにあってしまった。
曰くどれだけの事が出来るのか。
曰く本気で戦った所を見てみたい。
そんな事をみんなから畳みかけられたアオはどんどんと不機嫌になっていった。
「少し黙りなさい」
そんな冷たい声に質問攻めをしていた全員が硬直した。
隣にいたアキトも条件反射で硬直している。
「どれだけの事が出来るかは今は教えないし、トレーニングの見学も許さない。
理由はあるわよ。ユリカさん、貴女が私達に依存しない為に今は教えない」
「え...私ですか?」
ユリカはそこで自分の名前が出るとは思ってなかった。
思わずアオへと聞き返すとアオはすぐさまユリカへと言葉を返して来た。
「例えば私とアキトが貴女の想定以上の戦力が見込めるとします。
そうね...それぞれ単機で無人戦艦10艦落とせる程の戦力があったとします。
ユリカさん、貴女は艦長として私達をどう扱いますか?」
「それは...」
「常に私達に出撃して全部殲滅?」
「う...」
頭に浮かんだ事をそのまま言われてしまった。
だが、ユリカにはそうなってしまった時の戦略の狭まりも同時に感じていた。
「私達も人間だから突然原因不明の病気で立てなくなるかもしれない。
それに何らかの理由で艦を降りる事があるかもしれない」
「...はい」
「それを理解しようともせずに私達に全部被せてしまうような艦長にはなって欲しくないの。
だから、今は教えないし見せない。これはみんなにも同じ事よ。わかった?」
「「「「「わかりました」」」」」
アオからきつく叱責された事もあり、ユリカ達は納得していた。
だが、この事があってからユリカの中にアキトは私の王子様という想いが次第に膨らんでいった。
実際に恋らしい恋を経験した事がないユリカには好きと恋と愛の違いなんてものはわからない。
その為に好きになった人が守ってくれるという幻想が拭えないのだ。
そして実際にアキトはエステバリスで艦を守ってくれる。
ユリカからすればまさに白馬の王子様である。
それからの訓練でも、ユリカは無意識にどこかアキトに見せ場を作るような作戦を立て始める事となる。
アオとルリ、ラピスの3人はその事に頭を悩ませていた。
「ルリちゃん、ラピス...どうすればいいかな?」
「すいません。私にも妙案は浮かびません」
「ごめん、アオ。私にもわからない」
そうして妙案が浮かばないまま習熟訓練の7日間が過ぎていった。