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No.19794の一覧
[0] 天河くんの家庭の事情(逆行・TS・百合・ハーレム?)[裕ちゃん](2010/07/24 18:18)
[1] 天河くんの家庭の事情_00話[裕ちゃん](2010/07/23 17:46)
[2] 天河くんの家庭の事情_01話[裕ちゃん](2010/06/26 12:59)
[3] 天河くんの家庭の事情_02話[裕ちゃん](2010/06/24 07:53)
[4] 天河くんの家庭の事情_03話[裕ちゃん](2010/06/24 07:53)
[5] 天河くんの家庭の事情_04話[裕ちゃん](2010/06/24 07:54)
[6] 天河くんの家庭の事情_05話[裕ちゃん](2010/07/10 22:31)
[7] 天河くんの家庭の事情_06話[裕ちゃん](2010/06/24 07:55)
[8] 天河くんの家庭の事情_07話[裕ちゃん](2010/06/24 07:55)
[9] 天河くんの家庭の事情_08話[裕ちゃん](2010/06/24 07:55)
[10] 天河くんの家庭の事情_09話[裕ちゃん](2010/06/24 07:56)
[11] 天河くんの家庭の事情_10話[裕ちゃん](2010/06/24 07:56)
[12] 天河くんの家庭の事情_11話[裕ちゃん](2010/06/24 07:57)
[13] 天河くんの家庭の事情_12話[裕ちゃん](2010/06/24 07:57)
[14] 天河くんの家庭の事情_13話[裕ちゃん](2010/06/26 02:01)
[15] 天河くんの家庭の事情_14話[裕ちゃん](2010/06/26 11:24)
[16] 天河くんの家庭の事情_15話[裕ちゃん](2010/06/26 23:40)
[17] 天河くんの家庭の事情_16話[裕ちゃん](2010/06/27 16:35)
[18] 天河くんの家庭の事情_17話[裕ちゃん](2010/06/28 08:57)
[19] 天河くんの家庭の事情_18話[裕ちゃん](2010/06/29 14:42)
[20] 天河くんの家庭の事情_19話[裕ちゃん](2010/07/04 17:21)
[21] 天河くんの家庭の事情_20話[裕ちゃん](2010/07/04 17:14)
[22] 天河くんの家庭の事情_21話[裕ちゃん](2010/07/05 09:30)
[23] 天河くんの家庭の事情_22話[裕ちゃん](2010/07/08 08:50)
[24] 天河くんの家庭の事情_23話[裕ちゃん](2010/07/10 15:38)
[25] 天河くんの家庭の事情_24話[裕ちゃん](2010/07/11 07:03)
[26] 天河くんの家庭の事情_25話[裕ちゃん](2010/07/12 19:19)
[27] 天河くんの家庭の事情_26話[裕ちゃん](2010/07/13 18:42)
[29] 天河くんの家庭の事情_27話[裕ちゃん](2010/07/15 00:46)
[30] 天河くんの家庭の事情_28話[裕ちゃん](2010/07/15 14:17)
[31] 天河くんの家庭の事情_29話[裕ちゃん](2010/07/16 17:35)
[32] 天河くんの家庭の事情_30話[裕ちゃん](2010/07/16 22:08)
[33] 天河くんの家庭の事情_31話[裕ちゃん](2010/07/17 01:50)
[34] 天河くんの家庭の事情_32話[裕ちゃん](2010/07/21 01:43)
[35] 天河くんの家庭の事情_33話[裕ちゃん](2010/07/21 23:39)
[36] 天河くんの家庭の事情_34話[裕ちゃん](2010/07/22 04:13)
[37] 天河くんの家庭の事情_35話[裕ちゃん](2010/07/24 18:16)
[38] 天河くんの家庭の事情_小話_01話[裕ちゃん](2010/06/25 20:30)
[39] 天河くんの家庭の事情_小話_02話[裕ちゃん](2010/07/07 03:26)
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[19794] 天河くんの家庭の事情_01話
Name: 裕ちゃん◆1f57e0f7 ID:326b293b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/26 12:59
「コレもご苦労だよな」
「どうした?突然」

白衣を着た男が二人話している。
彼らのいる場所は真っ白い病院の様な部屋で、清潔ではあるがこもったような空気をしている。
二人が目を向ける先には人間がすっぽり入る大きさのポットが鎮座している。
何かの液体で満たされたその中に13歳ほどだろうか、150半ばの少女が浮かんでいる。
癖もなくまっすぐ伸びた黒髪で肌が白く、可愛らしさと美しさを兼ね備えた精巧な日本人形のような雰囲気をしている。
誰もが羨むような、見惚れてしまうような美貌を持った彼女、見る人が彼女を見れば『ホシノルリ』に似ていると思うだろう。

「いやな、コレがナノマシンの親和性が高かったおかげで、俺たちは研究を出来る訳だ。
その身を削って寝ながらでもうちらの研究のために尽くしてくれるからさ。ありがたいなと」
「確かにな。だけど、測定の為やらなんやらで綺麗な身体をしっかりとおがめないのは寂しいな」

彼女の身体にはポット内の天井部分から伸びた何本ものコードが身体中に貼りついているのだ。
それらはすべて脳波や脈拍の測定、IFSや肉体調整、ナノマシン注入などの実験に使われている。

「.....おまえ、まさかロリコンか?」
「違うわ!それに興味持ったとしてもコレは18だろ?そもそも作品に手をつけるような趣味はないわ」

本当ならば付き合いを変えないといけないと眉を顰める男に対し、その相方がムキになって否定する。

「そこは実年齢よりも見た目だと思うが。まぁ、作品か。電気信号による身体改造だっけ、今も続けてるんだろ?」
「EMS(Electrical Muscle Stimulation)だ。肉体への悪影響を省みず筋肉増強するだけなら馬鹿でも出来る。
理想のスタイルを維持しつつやるのにどれだけ苦労してるか」
「さながら粘土細工か、俺には理解出来んな。しかし、そうなると今のこいつはどれくらいの事が出来るんだ?」
「そうだな。高校の国体でなら全種目で決勝に残るくらいはいけると思う」
「それは、凄いのか?」
「強いて言うなら器用貧乏の凄い版だ」
「そうか、その上IFS強化体質ね。」
「あぁ、肉体的にはまだ中学生だから上出来だ。その上知識もインストール済みだから実践すればすぐにモノになる。
可愛くてスタイル良くて勉強出来て運動も出来て知識もあって、ほら、いい嫁になりそうだろ?」
「............ちなみに、どんな知識をインストールしたんだ?」

子供が一生懸命作ったプラモデルを友達に自慢するように、彼女の事を自分が作り上げた作品と豪語する。
そして得てしてこういう自慢は歯止めが効かないものだ、聞いた以上の事をどんどん自分の方から暴露していく。
しかしそれも総て人間相手に行った行為であり、一般的には最低、外道の所業と言える。
しかしここにそういう感性の持ち主はいない。
その相方もその例に漏れず俺の嫁発言や趣味全開な行動の方に眉を顰める。

「手始めに一般教養全般に学業の知識としては大学レベル。
後は料理、裁縫に整理整頓、男から女まで悦ばせる技術もばっちりだ!」
「そうか、よかったな...」
「いや~、ほんと早く目が覚めて欲しいぜ。こんないい子他にいないぜ?お前もそう思うだろ?」
「ま、まぁ個人の自由だしな」

聞くのも疲れたのか適当に相槌を返すが、相方はその遠回しな拒否の意には全く気付かずどんどん話を暴走させていった。
しばらくして落ち着いた頃に、手持無沙汰に周りを見ていた男は脳波計を見ると反応した。

「ん?おい、見ろよ。また夢を見てるぜ」
「あ?何だよ。...おい、いつもとパターンが違ってないか?」

先ほど自慢していた男に呼ばれた男が計器のデータに不自然さを感じ取ったのか、確認するようにつぶやく。

「脳波へ干渉?ナノマシンの影響か?なんだこれは...」
「わからんな。計器の故障かもしれん、すぐデータ洗ってみるからみんなを呼んできてくれ」
「わかった、頼む」

今までに計測されてない状況に憶測を述べていても解決にはならないと踏むと、それを聞いた相方が他の研究員をを呼びに行く。
すぐに研究員が集めって来て数日前からのデータを洗い出していく。

「脳波に反応があっただと!?」
「はい。確認途中ですが4日前に投与したナノマシンが要因の可能性が高いです。
それもそのナノマシン以降はナノマシン投与は行っておらず、遺跡のナノマシンが親和したと見られる12時間程前から脳波に異常が出ています」
「ふむ.....ではナノマシンが親和した1時間前から現在までのデータで脳波以外の数値も全て確認しろ」
「はい!」
「遺跡のナノマシンは精神にも作用するのか?そうなるとボソンジャンプに関しても...」

所長が到着し、状況が説明されるとすぐにそれを把握し指示を出していく。
指示しながらも所長の顔にはボソンジャンプに繋がる何かを手にした事への醜い愉悦の表情が貼りついていた。
しかし、そんな慌ただしさの原因になった少女にボソンジャンプが何をもたらしたのかまでわかる者は誰一人いなかった。

(なんだ、これは?)

彼が意識を取り戻した時、最初に感じた事は違和感だった。

(身体が足りない?小さい?)
(私?俺?なんだ?どういう事だ?)

自分はテンカワアキト、それは間違いない。
今まで生きてきたテンカワアキトという記憶、そして未来からのボソンジャンプを行った結果という確信はある。
だが、それと同時に自分は何かの実験体でその上女性体であるという記憶も残っている。
ありえない、ボソンジャンプというオーバーテクノロジーを自由に行える事があったにしろ受け入れがたい事だった。
頭の中で何度も何度も「何故?どうして?」と自問自答を繰り返し続ける。
延々と繰り返していくと次第に混乱も落ち着き、ある事を思い出した。
10年以上前、IFSにて無意識に研究所内のデータを掌握していた私はあるデータを見つけていた。
それは自分の基になった精子と卵子の提供元である二人の研究者、そしてその子供であるテンカワアキトのデータである。
テンカワアキトの精神が入るまで自我というものがなかった自分がその時に何を感じたのかは自身でさえわからない。
だが、それ以降私はずっと父親と母親、そしてテンカワアキトを見続けていた。

(俺は、俺の記憶は火星で産まれて両親が死んで戦争が起こってナデシコに乗って。三人で一緒の生活、実験、復讐、そして三人でのジャンプ...)

ひとつひとつ丁寧に、彼の記憶を自分に言い聞かせるように確認していく。

(私は..ここは研究所で、造られて、IFS強化体質の実験体...そして、私は、テンカワアキトの.....姉?。ずっと、ずっとテンカワアキトを見てきた)

そして彼女の記憶も同じくひとつひとつ丁寧に確認していく。
そのままかなりの時間をそれに費やしていった。

「脳波が落ち着いてきたようですよ。それで、原因は特定出来そうですか?」

脳波を見ていた研究員が所長に問いかける。

「そうか、ご苦労だった。まだ関連は不明だが、ナノマシンが親和した辺りの時間でボース粒子の増大が観測された」
「ボソンジャンプですか?」
「それに関するナノマシンだった可能性は高いな、その方面で細かく調べるとしようか」
「えぇ、そうだとしたら大発見ですね」

所長はその研究員の言葉には答えず、しかしそれがもたらす名声、動く金額などを考えてほくそ笑む。
研究員たちに至っては浮足立ってるといっても過言ではなかった。

そんな中次第にテンカワアキトの考えもまとまっていった。
テンカワアキトが過去に来た理由。
ルリ、ラピス、そしてユリカ、火星の人たちや仲間がただ平穏に暮らせる世界にする。
そのために歴史に介入する事。
これは絶対に外せない。
だが。
そこに一人加わった。
テンカワアキトがジャンプアウトしたこの身体、これは彼の姉の身体である。
家族の誰にも知られず、モノと扱われ、自分さえ知らずに消えていった。
正真正銘無かった存在である姉。
そんなのは認めない、認めたくなかった。
頑張るという事さえ知らない、ただただ何もない俺の姉も幸せにしないといけない。
だから、その為に私も幸せにならないといけない。
テンカワアキトにそういう考えをさせた事は、未来で誰も出来なかった事だった。
ただ我武者羅に自分を犠牲にして周りを省みずに自分などいなくても大丈夫だと思い込んだテンカワアキト。
そんな彼が姉の身体に入った、だからこそ生まれた考えだろう。
20年近くもモノとして扱われた彼女が、確固たる自我などない機械同然だったはずの彼女の弟への想いだったのかもしれない。

(私もルリちゃんもラピスもユリカもこの世界のアキトも仲間も火星、木星、地球の人も平穏に笑えるような世界)

正義の味方じゃないんだからと苦笑した。

(とにかくもまず身内からだね)

自分で自分にうんうんと言い聞かせる。

(ひとまずわかったのは、過去みたいだね。この世界のアキトはまだ火星みたいだし)
(それで、今の私はテンカワアキトの姉)

実際はテンカワアキトよりも受精が後なのだが、あえて無視した。

(感情がなかったから、いやわからなかったになるのかな?)
(何が原因かはわからないけど、テンカワアキトの姉である私の身体にテンカワアキトである俺の記憶、精神が入って私の記憶と混ざりあった)
(そのおかげで私が感じてることさえわからなかった微かな感情についてもわかるようになったのは嬉しいな)

そうやって少しずつ状況を整理した事で大分現状を把握していった。
自分では気付いていないがIFS強化体質である身体の影響で、その思考や理論の展開も早くなっている。

(さて、この身体はテンカワアキトの姉だ。なら姉として生きなければならない)
(記憶の影響か私というのも違和感がないのは行動する上でプラスになりそう)
(私を前面に出していけば言葉も時期落ち着くだろうし。後はルリちゃんとラピスの事か...)
(ひとまずここを出て、二人と連絡取らないとな。あ、とりあえず今の細かい日時は?)
(2195年...9月29日...7時34分...)

日にちまで調べると、改めて困惑と歓喜、悲哀が入り混じった感情が胸を渦巻く。
ギリギリではあるが、木蓮侵攻までまだ2日猶予がある、まだ火星の人を救うために何か出来る事があるかもしれない。

(何が出来るか考えないとな。まずは周りを確認しないと)

感情に囚われそうな思考をなんとか抑えつけ、周りを見ようと目を開けようとする。
だが、頭に飛び込んできたのは目からではなく全館のカメラ映像だった。

(な!?どうして?目を開けた事がないからか?今まで目を使ってこなかったから?)

いきなり全館の映像がイメージとして頭に飛び込んできて吃驚したが、所内が慌ただしい事に気付いた。

(色々と慌ただしいな。何を調べてるんだろ?)

そう考えると研究員たちが調べているデータを無意識にIFSを通じて取ってくる。

(ふむ...IFSを無意識に使ってるのか、使い方覚える必要ないけどなんか変な感じだな)
(ん、調べてるのは私の事か。遺跡からのナノマシン注入。ナノマシンが親和・定着後にボース粒子増大。それから脳波に異常か)
(ナノマシンがボソンジャンプに関係するものだったみたいだな。だけど、このままじゃマズイ)

データを見ておおまかな予想をたてるとそれが外に漏れた際の危機感を募らす。
何故ならボソンジャンプ・遺跡はテンカワアキトがここに来るはめになった原因だからだ。
そしてそれがもたらした戦争の犠牲はとてつもない数だ。
これから自分がしようとする事を考えると出来る限りデータは手元に置き、不確定要素は少ない方がいい。

(...全員消すか)

そう心に決めた。
その瞬間に総ては動いた。

─研究所の回線を総て切断し外部との通信をカット。
─研究所内外にいる研究員の場所を把握、研究所の敷地内に全員いる事を把握、建物外は2名、他総て建物内。
─研究所全体の隔壁を閉鎖し、警備ロボットを出動する。
─建物外の2名を消去確認、外の警備ロボットを内部へ、鎮圧に加える。
─...建物内も研究員の消去を確認、掃除ロボットを起動し清掃開始。

そうやって、蟻を閉じ込めてひとつひとつペンで潰していくように、慣れたゲームをしているかのように的確に研究員を殺していった。
断末魔は煩わしいのか音は消して、管理カメラ越しの映像をただただつまらないものでも見るように見ていた。
一方的な虐殺が終わると掃除用ロボットを操作して所内を綺麗にするよう命令する。

(さて、掃除も終わったし。外に出てみようかな)

そういうとようやく彼女は目を開けた。
そこに現れたのはやはり金色の双眸。その容姿、黒い髪や白い肌と相まってさながら日本に古来伝わる鬼のような、そんな人外染みた美しさがそこにあった。
IFSを通じてポット内の液体を総て抜き、その隔壁を下すように操作をする。
静かに液体が抜けていいくと、肺に残った液体を吐きだそうと激しくえづく。
それが落ち着くころには隔壁は全部降りていた。

「うぅ...気持悪い...」

目の端に涙を浮かべつつ悪態をつく姿はとても可愛らしい。見る者はいないが。

「んっと...」

タオルは、と探しているといまだに身体に繋がっているIFSを通じたんだろう、掃除ロボットのひとつがタオルを沢山持ってやってきた。
きょとんとした表情でみつめながら便利だなぁと考えていたが、気を取り直して身体に繋がるコードを全部外し、ロボットからタオルを受け取り身体を拭いていく。
身体を拭き終わると濡れてないタオルを身体に巻くと髪も無造作にタオルを巻いていく。

「シャワーと更衣室はある?」

掃除ロボットに向かって言うが、今度は反応しない。

「あれ?あぁ、これか」

IFSに気付き、近くにあるコンソールに手を置くと掃除ロボットが案内するように動きだす。
後についていきながら自嘲するように軽くごちる。

「便利だけど、不便だ」

改めてシャワーを浴び、一息つくと研究所内のデータを虱潰しに調べていく。
それによるとこの研究所は所長がかなりテンカワ夫妻の事を妬んでおり、IFS強化に夫妻の受精卵を使ったのも自己満足にわざわざ盗んできた為だった。
テンカワ夫妻暗殺の騒ぎに便乗して研究データや資料を盗み、それを元にネルガルの社長派に売り込みをかけたものだという事がわかった。
その際にかなり無理をしてテンカワ夫妻の持つパテントや資産も根こそぎ自分名義にして食い物したようだ。
彼女は所長の持つ資産も調べていく。

「うわ、こんなに持ってたのかこいつ。
研究所の資金も着服してるしほんとあくどいな、元の遺産よりだいぶ増えてる。
せっかくだパテントと資産は利子付けて返してもらおう」

使ってる分より貯まる方が多い程着服している所長に思わず呆れてしまった。
そこには新品のエステバリスが2台、予備部品付きで買えるくらいの金額が貯まっていた。

それからアキトは所長が持つ全ての銀行のデータを自分の名義に改竄していく。
戸籍がないので、住所は火星でのアキトと同じにする。
口座も今日付けで地球のネルガル系列銀行の口座へと移すようにしておく。
口座に関してはちゃんとした戸籍が出来た後、アカツキにお願いすればいいだろう。

自分の妬む相手の子供を弄り、研究データや資産を自分の物にしてその醜い虚栄心を満足させていたのだろう。
その子供に殺されるのだ、因果応報というものだろう。

「しかし、こいつがいたからここに来れて私も助けられた訳か、それにデータはかなり使えるな...」
「精々有効活用させて貰おうか」

所長のやっていた事を見ていくにつれこの研究所をデータ事潰したいと思ったが、意味のない事だと思い直し、改めてデータの整理を続けた。

「こんな物かな。ルリちゃんとラピスに連絡取るか。この時期はAKATUKI電算開発研究所だね」

そういうとIFSコンソールの上に両手を置きアクセスを開始する。
この時期はルリがネルガルに引き取られていた時期だと思い出し。火星のネルガル支社を通じてネルガル本社へと探していく。

「...どなたですか?」
「ルリちゃん?わかんないかもしれないけど、アキトだよ」

ルリのいる場所を突き止め、その施設へと繋げると突然ルリからのアクセスがあった。
送られてくるイメージの中には11歳当時のホシノルリの姿があった。

「アキトさん!? アキトさんなんですか!?」
「わ!ルリちゃん!落ち着いて!!」
「え、あ、はい、アキトさん?ですよね?あれ?その姿は?」

アキトの名前を出すと堰を切ったように確認して来たので、それを落ちつけようと声をかけると、焦ったように息を落ち着かせこちらの姿について聞いてきた。

「それも含めて説明したいんだけど、ラピスの事は知ってる?」
「はい、いる場所は突き止めてよく話をしてます。今呼んできますね」
「うん、お願いするよ」

質問に答える前にもう一人の相方の事を聞くと、既に知っているらしく呼びに行ってくれた。
イメージではルリの姿が消えた代わりに呼び出し中というポップ調になった可愛らしいルリが扉を叩いている。

「アキト!アキト!!会いたかった!!...アキト?」
「うん、そうだよ。久しぶりだね」

突然イメージが切り替わったと思ったらどアップのラピスが飛び出してきた。
だが、アキトの姿を見止めると、途端に嬉しさに困惑を混ぜたようななんとも言えない表情になった。言われた本人が認めてもその表情は変わらない。

「うん、やっぱり二人とも混乱してるな。一から説明すると結構長いけど大丈夫?」

苦笑しつつ問いかけると二人とも無言で頷く。

「それじゃお二人さん、まずはこのデータを見て下さいな」

そういうと自分のデータ、そして今いる研究所や所長のデータを渡す。
二人は渡されたデータを素直に確認していくが、読み進めるうちに少しずつ眉を顰めていく。

「これって...」
「.....」

読み終えたルリはそう問いかける。
ラピスも聞きたい事は同じなようだ、表情も辛そうに目線だけで訴えかける。

「見て貰ってわかったと思う。この身体は私、テンカワアキトの姉の身体になってるんだ。
そして生かされた相手は私の両親を妬んでアキトから両親の遺産全てを奪った男」

そういうと二人とも肩を震わせる。
なんでいつもアキトばかりが理不尽にそういう目に会うのだろう、そう思って悔しくて涙を流す。

「二人とも私の為に怒ってくれてありがとう。でも大丈夫だよ?こっちのアキトもいるしね」
「...ほんと?」

ラピスが泣きそうな声で、不安な気持ちを隠そうともせずに問いかける。
ルリとラピスに向かって柔らかく、安心するように微笑みかけると答える。

「今の私なんだけど、生まれてからずっと覚醒してこなかった。そのせいで感情がわからなかったみたいなんだんだ。
だけどその間もずっとこっちのアキトがどこか気になってたんだろうねIFSで監視カメラをハッキングしていつも見てた。
だから、こっちのアキトの事が本当に大事な弟に思えるんだ。それに、ルリちゃんやラピスもいるからね」

アキトがルリとラピスにウィンクすると、二人とも安心したように笑顔になる。

「それで、なんでこっちの身体に跳んだのかなんだけど、最近入れられたナノマシンがボソンジャンプに関係するモノだったらしくてね。
それにひかれたのかアキトの精神がこの身体の中にジャンプしてきたみたい。
で、跳んだ先の私である自意識になりかけたような微かなモノと記憶がアキトの自意識と記憶と混ざり合って今の私がいます。」

そこまでで一旦区切ると二人にここまでは大丈夫?と尋ねる。
少し時間をかけ、消化すると二人ともゆっくりと頷く。

「最初はやっぱり混乱したんだよ、私でもあって俺でもある訳だから。
そこで時間をかけてゆっくり考えをまとめていった。
それでわかった事は、私の身体になる訳だから私になろうって事。
だからといって俺にとっても私にとってもルリちゃんとラピスは何よりも大事なんだ。
そんな二人を守るというのは絶対に破らない。」

そこまで言うと理解した?と二人をみつめる。
二人はその瞳を見つめると、次第に表情を崩し安心したと涙を流した。

「約束もしてたしね、真っ先に二人を探したよ」
「「約束?」」
「ジャンプ後は何が起こるかわからないしどういう状況かもわからない。離ればなれになる可能性もある。
だけど、絶対に諦めないで。あんな絶望の中にいた俺だけど、今はこうして二人と一緒にいられるんだから、それに俺がなんとかなる。
...覚えてない?」
「「あ...」」
「はぁ...落ち込んじゃうなぁ」

二人して茫然としてるのを見咎めて、さも傷ついてますといったように目頭を押さえうつむく。

「そ、そんな事言われても!まさか男じゃなくなるなんて想像するはずないですよ!それは不可抗力です!
アキトさんは時間あったからいいでしょうけど、私達は知ったのさっきですよ?」
「うん、アキトが女だなんて誰も考えない。無理!アキトは理不尽!」

安心したのか、そのあからさまな挑発にノッてルリもラピスも力一杯言い返す。

「ふぅん?となると、二人は男がいいのか。そうなると私捨てられちゃうのかな...」
「「え?」」
「ごめんね、二人とも。二人が大きくなっても満足させてあげられない不甲斐ない身体で...」

あからさまな泣き真似なのだが、二人の知ってるアキトはそういう事をしなかった。
しかもアキトを疑うような二人ではないので簡単に引っ掛かってしまう。
そんな二人の様子が可愛く嗜虐心をくすぐられたのかどんどんいじめていく。

「あ!いや!そういう意味じゃなくて、私は女性でもアキトさんがアキトさんなら...」
「私はアキトがいい。他の人はイヤ...」
「.....二人ともありがとう」

二人がおかしいのか目じりに涙を浮かべながらも自分がいいと本気で言ってくれる可愛い二人にお礼を言う。
焦ったルリと泣きそうな声で必死に訴えるラピスはそれを見てしばし呆気に取られていた。

「...なんか、アキトさんいじわるです。性格変わってませんか?」

そういじけるように言うルリを見てラピスはしきりに頷いている。

「いや、二人見てたら可愛くてついね。でも、確かに昔ならしなかったか...」
「姉として生きていく事を決めたから身体に引っ張られてる?イネスさんに相談出来るようになったら聞いてみよう」
「そうですね」
「さて、私がこれから姉として生きていくのに名前を考えないと。どんな名前がいいかな?」

仮説は建てられてもメンタル面の専門家ではないので問題を先送りにすると、思いついたように口に出す。
そして何も考えてなかったのかルリとラピスに投げるが、二人もすぐには思いつかず困ったような顔をする。

「アキトさんが好きなようにつければいいですよ」
「ルリちゃんの瑠璃・その和名がラピスのラピス・ラズリ」
「「はい(うん)」」
「同じIFS強化体質だから二人の姉妹でもある訳だし、それにちなんでつけたいな」

それを聞いた二人は嬉しそうに目を輝かせる。

「...ラピス・ラズリはラピスが石、ラズリは語源がラズワルド、日本語に訳すと天、空、青」
「瑠璃はガラスっていう意味も持ちますね。色としては群青、青になります」
「青、青か。テンカワ・アオ...慣れれば問題ないかな。うん、二人ともこれからはテンカワ・アオでお願い」

何度も呟くように確認すると二人に向かって微笑む。

「はい、アオさん」
「わかった、アオ」
「漢字はどうしようか、青、蒼、藍、碧ってあるけど」
「意味合いとしては青と藍がより近いみたいですが」
「青だとそのまま過ぎるから、藍にしようか。読み間違いは多そうだけどね」

その後しばらくルリとラピスから練習の為アオアオと連呼される事になった。

「そういえば、ルリちゃんとラピスも昔の姿だよね」
「はい」
「私も姉の身体になってる」
「えぇ、そうですね」

二人が落ち着くと自分とは違い昔の姿になっている事について尋ねた。
だが、そこで一つ思いつく。
今の自分達は全員この時代にあった身体をしている。
なら以前の身体はどこに行ったんだろう?
自分達が乗っていたユーチャリスもない。

「そういえば元の身体とユーチャリス、オモイカネってどうなったかわかる?」
「...あ、考えてませんでした。ラピスは?」
「私も考えてなかった...」

一緒にジャンプしたはずの船だったのだが、検討もつかずに困り思わず考え込む。
二人もテンカワアキトの心配ばかりをしてそこまで考えていなかったようだ。
二人にしては珍しい失敗である。

「オモイカネだから、下手な事はしないと思う。でも、私達が死んでたら悪用されない為に自爆するかもしれない」
「...そうですね、オモイカネがいつこっちに来たかわからないですが、すぐに探した方がよさそうです」
「そうだね、ユーチャリスについてはそうしよう。それで、これからについてなんだけどいいかな?」
「「はい(うん)」」

状況についてある程度まとまってきた所で本題に入る。

「今一番思うのは出来る限りみんなが平穏に暮らせるような未来にしたいって事。歴史を変えるっていうのは傲慢だろうけど、でもあの未来は許容出来ない」
「全世界なんておこがましいからね、私やルリちゃん、ラピス、こっちのアキト、ユリカやナデシコのみんなだけはどんな事をしても守る」
「でも出来る事なら火星の人達、それに木蓮や地球に住んでる一般の人も守れたらとは考えてる。余裕次第だけどね」
「「はい」」
「そして、二人に確認しておかないといけない事がある」

そこで言葉を切って二人を見据える。
これから確認する事は過去を変えようと考えついた時から覚悟していた事だった。
それは未来でこちらに跳ぶ少し前、ユーチャリスの調整が行われる月ドックの医務室でイネス・フレサンジュから伝えられた。

「ねえ、お兄ちゃん?」
「なんだ?」

イネスはたまにアキトの事をお兄ちゃんと呼ぶ。
年齢でいえば逆なのだが、火星会戦で当時8歳だったアイがアキトのボソンジャンプに巻き込まれ、紆余曲折の結果蜥蜴戦争終結間際の火星極冠遺跡へ。
そこでまた遺跡の反応増大によるボソンジャンプに遭い、過去の火星へジャンプした為である。
そんな彼女ではあるが、科学、医療、心理など幅広い分野にまたがる識者であり、天才と呼ばれる程の知能の持ち主でもある。
だからこそ彼女には好きなアキトが何を考えているかがよくわかった。

「たとえ話をするわね」
「あぁ」

悲しそうな瞳でアキトを見ながら伝える。

「ある男の人がいました。その人は生まれてからずっと不幸ばかりでした。だけど、そんなある日彼の元に悪魔が現れてこう言いました」
「『お前に過去へ行ける能力を授けられるがどうする?』そう悪魔から言われた彼は一も二もなく飛び付きました。そして思ったのです『これで過去を変えてやる!』」
「彼はその言葉通りに過去へ行き、自分が覚えてる中から自分に有利になるようなるように変えていきました」
「そして彼は大金持ちになり幸せな時を送っていましたが、そんなある日また彼の前に悪魔が現れこう言いました」
「『楽しんだか?』悪魔がこう言うと、彼は満面の笑みで答えます。『あぁ、お前のおかげで幸せだ!お前は俺にとっては天使だ』」
「それを見た悪魔はさもおかしそうに笑って言いました。『そうか、楽しかったか。それは結構だ』その言葉が聞こえた瞬間男の意識は無くなりました」
「男が気がつくとそこは、また過去でした。男の目の前には悪魔がいてこう言いました。『お前は楽しめるぞ、幸せになれるぞ。永遠にな』」

そこまで言うとイネスは一息つくと目の前にいるアキトを見据える。
そのアキトは何かを深く考えるようにうつむき、その手は力一杯握り締められていた。

「お兄ちゃんがどうしたいかはなんとなく想像つくわ」
「.....」
「でも、歴史を変える事は禁忌よ。それをするとある時間以降は時間軸から外される事になってしまうのよ」
「本当にした人はいないわ。でも、可能性が高い事には間違いはないの」
「だから...いえ、なんでもないわ.....」

止めてとは言えなかった。
しばらく沈黙が続いたが、ふとアキトが立ち上がり医務室から出ていく。
その背中をただ辛そうに寂しそうにイネスが見つめていた。

「アイちゃん」

医務室の扉を開けた所でアキトから声がかかった。
顔を上げたイネスの目に入ったのはバイザーを外したアキトだった。

「ありがとう」

本当に久しぶりに見た笑顔だった。
アキトはそれだけ言うとバイザーをかけ、医務室から出て行った。

研究所でルリとラピスに向かってアキトが言った『確認したいこと』。
アキトはその時の親に見捨てられた迷子のような表情をしたイネスを思い出しながらそれを伝えていた。

「これから歴史を変え、私たちが知っている未来とは違い火星の後継者の拉致もなく平穏な世界になったとする」
「そうなると、私達三人.....それとこちらのテンカワアキトも過去にジャンプをする必要がなくなる」
「それでジャンプをしなかった場合は.....どうなると思う?」
「「前と同じ未来.....?」」
「そうだね。過去に誰も行かないから過去は変わらない。だから、本当に未来を変えようとするなら...ずっとこの時代まで戻って歴史を変え続けないといけない」
「私は正直に言って二人に関わって欲しくない。ルリちゃんやラピス、それにここのユリカやアキトが幸せになるなら私は独りでだってどんな事でも出来るんだ」

二人に確認するように、心の中の気持ちを表に出さないように気をつけながら伝えていく。
そんなアオに対して、二人はお互いに顔を向けて頷きあうと、こう言った。

「私とラピスの二人でも相談していたんです。それで、アオさんならそうするって未来を変えようとするって予想してました」
「私達は手伝う。ずっとアオと一緒」
「それと、私は相談してくれた事自体嬉しいです。前のアキトさんだったら、絶対に独りでやろうとしてました」
「やっと一人前に認めて貰えたのかなって、私とラピスに頼ってくれるのかなって思って嬉しいんです」
「だから私達にも手伝わせて下さい。それに、三人寄れば文殊の知恵って言いますから、何とかなりますよ♪」
「私も頑張る」

二人で一気にそこまで言うと、優しく大丈夫と微笑んだ。

「ありがとう。二人とも.....ありがとう」

そんな二人にアオも笑顔で返した。

「それじゃあ、これからどう行動していけばいいかシミュレーションしようか」
「「はい♪」」

それからしばらく三人の声が途切れる事がなかった。


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