その部屋で眼鏡をかけた壮年の男性が一人と金の眼を持つ少女が3人こそこそと話し合いをしていた。
「この状態だと、こうなるんですよ...」
「えぇ、それでこれを流用してこうしてしまえば...」
「おぉ、面白いなそれ。それじゃ余ったのを使う為にこういうのをつけるとか...」
「あ、それならこう出来ますね...」
誰も覗く者がいないのだが、何故か周りを伺うように話をしている。
時折ちらちらと扉の方を向くのは何を気にしての事なんだろうか。
しばらく話しこんでいた4人だったが、うまく話がまとまったようでそれぞれが立ち上がる。
「面白い話をありがとな。これからしっかりご希望通りに仕上げるさ」
「はい。期待しています」
言葉をかけられた男性はとても楽しそうに部屋を出て行った。
その後ろ姿が閉まる扉の向こうに消えて行ったのを見た少女の1人はふと漏らした。
「相変わらずですね...」
サセボドックでナデシコの建造が始まってから数日経った日に量産化されたコバッタが大量導入された。
形は変わってるように見えないのだが、本体部分が白地になっており背中にでっかくネルガルマークがついている。
建造建築に特化させた物らしく、どこにでも張りつく事が出来る。
基本は技術者1人について工具の受け渡しなどのフォローをするが、人手の足りない所や危険な場所での作業も行っていた。
技術者達は日にちが経つにつれドックや同僚の雰囲気を掴み、業務も円滑にまわっていく事となる。
それに伴い、ドックを統括する位置に立つ3人の少女の人気も上がっていく事になっていった。
そして、ナデシコ建造開始から1週間後の今日、アオの部屋をウリバタケが訪れた!
「よし!アオちゃん全部頭の中入ってるぜ!」
開口一番そんな事を口走っていた。
一週間前にナデシコやエステバリスの資料を粗方渡して覚えてきて!と言っていたのだ。
ウリバタケならやりかねないとは思っていたが、本当にやった事にアオは驚いた。
とても得意げな顔をしたウリバタケは何でも聞いてくれ!と言わんばかりだった。
「そこまで自信たっぷりなら本当なんでしょう。わかりました、今日から自由に動いて下さい」
「いよっしゃ!それじゃ早速...」
「その前に...」
そして飛びだそうとしたウリバタケをアオは呼びとめる。
「お願いしたい事があるので、ちょっと待ってて下さいね」
そう言うとアオはルリとラピスを呼んだ。
二人が揃うとアオが切りだす。
「お願いしたいのはこれなんです」
「これは...エステのIFSコンソール?」
アオが出したデータを眺めていたウリバタケは怪訝な表情をしてアオへと問いかける。
どう考えてもパイロット用のIFSコンソールなのだが、むしろオペレーター用IFSコンソールに近い。
「はい。シミュレーターの6番をこの仕様にして欲しいんです」
「そりゃまたなんで?」
こんな物を作っても乗れる物がいないのだ。
そんな物は無駄でしかないので理由を問いかける。
「それは私が乗るからですよ?」
「はぁ!?」
ウリバタケは驚いた声を上げた。
目の前の見た目中学生くらいの少女がエステバリスに乗ると言ったのだ。
身長は150cm半ばあるのでまだ大丈夫だろうが、線が細く乗りこなせるとは思わなかった。
「アオさん。いきなりそれだけ言っても信じられる訳ありませんよ?」
ルリがそれをフォローするように口を挟むと、ウリバタケへデータを渡す。
アオがシミュレーションを行ってる際のIFS伝導率のデータだ。
「これは...」
「はい。アオさんの使い方が特殊なのかパイロット用のIFSコンソールでは処理が追いつかないんです。
そこで、オペレータ用のIFSコンソールを応用した物を図面に上げました」
「あぁ、このデータが本当ならいくらパイロット用を改造した所で無理だろうな」
「お願い...出来ますか?」
アオが少し不安そうにウリバタケへ問いかけた。
ルリとラピスも懇願するような目を向ける。
「...わかった!わかった!パイロットの要望に答える物に仕上げるのも整備士の仕事だ」
「「「ありがとうございます」」」
「だがな」
「「「だが?」」」
「あぁ、ここなんだが。こうした方が...」
そうしてウリバタケを加えて4人でアオ専用のIFSコンソール案を改修していく。
出来あがった改修案を見たウリバタケは、満足げに頷いた。
「おし、これならオペレーター用のIFSコンソールも流用できるから組込自体は2週間もかからず出来るぞ。
だが、エステのOSも改良しなきゃならん。そこはアオちゃん達の本領だから任せてもいいだろ?」
「はい、大丈夫です」
そうしてウリバタケはシミュレータールームの方へすっ飛んで行った。
その後、アオのデータ処理能力を活用する為にアカツキカスタムを改良したアオ専用機が出来る事になる。
それから数日後、部屋で書類を処理していたアオへアカツキから連絡が入った。
「やぁ、アオ君。久しぶりだねぇ」
「ねぇ、ナガレ。毎日話してるでしょ?」
「君の顔を24時間見れないと寂しくなってしまうんだよ」
「はいはい。寂しがり屋のナガレさんのご用件はなんですか?」
アオは呆れたような顔でアカツキに先を進めさせる。
それに対してアカツキは嬉しそうな顔を隠そうともせずに答えた。
「それが君とボクにとっての朗報があってね」
「朗報?」
「そうさ。昨夜で社長派が隠していた総ての非合法な研究所や施設を潰せたからね」
「本当!?」
「あぁ、昨夜の所はIFS強化体質とは違う施設みたいだけどね。
だから、こちらで助け出せた子達が全員となるよ」
「...そっか。よかった」
アオは心底安堵したように表情を緩めた。
アオの安心した顔を見れたアカツキもニコニコとその表情を楽しんでいる。
「それじゃ、全部で28人だっけ?」
「あぁ、最後に助け出された子も1週間程になるからね。大分落ち着いてきてるみたいだよ?」
「そか。...じゃ、今からそっちへ行くよ」
「ん?いいのかい?」
「うん。順調に進んでるから大丈夫」
「わかった。病院への手配をしておくよ」
アカツキが通信を切ってからすぐにアオはルリとラピスに連絡を入れ、アカツキと通信した内容を伝えた。
ルリもラピスもその内容にとても喜んだ。
それから保護してる少女たちに会ってくる旨をルリとラピスへ伝えると、彼女たちは二つ返事で了承した。
アオは通信を切るとすぐにネルガルの会長室をイメージする。
すぐに、ジャンプユニット反応しアオの周りにジャンプフィールドを発生させた。
そしてアオはネルガルの会長室へ跳んだ。
「実際会うのは久しぶりだね。外に車の用意はしてあるよ」
「うん、ありがとね。じゃ、すぐ行ってくるよ」
「帰りに用事があるから戻って来てよ?」
アオが来たのを確認すると、アカツキはいつものように軽い挨拶をしてきた。
それに答えると、かなり気が急いているのかすぐに会長室から出て行った。
「久しぶりなんだし、もう少し居てくれても罰は当たらない気もするんだが...」
「暇にかこつけて1日に何回も連絡するからでは?」
アカツキの言葉にエリナが突っ込みを入れた。
ネルガルが救助した28人のIFS強化体質者は全員が少女であった。
少女たちはみんなラピスと同じか、それ以下の年の女の子である。
そんな彼女たちだが、ルリやラピスのように金目を持ち得る程高度のIFS強化を受けた子はいなかった。
アオは救助されたという連絡が入る度、すぐにアカツキの元へジャンプし少女達の所へ向かっていた。
そして状況がわからずに呆けてる彼女達を抱き締め一人一人名前をつけていったのである。
そして安心させた後は体調やナノマシンの検査の為にネルガル系列の病院で保護をしたいた。
病院では普段の世話の為にプロスペクターが選んできた、数人の保母がついていた。
彼女たちやアオの温かい態度のおかげで少女たちは次第に心を開いていった。
しかし、救助されてから間もない者はそうもいかずまだまだ硬い所が多い。
全員健康面で問題ない事が確認され、アオも大丈夫だと判断した後に彼女達はピースランドへと移される事になっている。
「さて、1週間振りか」
病院へついたアオは、少女たちがいる広間の前で息を整える。
よしっと気合いを入れると扉を開けた。
「やっほ~。みんな元気だった♪」
扉が開いた事に何人かはびくっと身体を震わせるが、聞き覚えのある信頼している声が聞こえると弾かれたように振り向いた。
そしてアオの姿を認めた少女たちはみんなでアオの方へ突っ込んでいく。
「わっ!ちょっと!待って!倒れるから!わ~!」
数人ならまだしも28人に突進されてはどうしようもなく、アオはもみくちゃにされていた。
その光景を見て保母さん達も楽しげに笑っている。
しばらくもみくちゃにされた後、ようやくみんなを落ち着けたアオは少女達を集めた。
「さて、今日はみんなにお話しがあります」
そうして一度区切ると少女たちがちゃんと聞いてるかを確認する。
みんなが真剣に話を聞こうとしてるのを見て笑顔を浮かべると続けて行く。
「もう少ししたら、みんなで一緒に引っ越しをします」
「どこにですか?」
「フランスやドイツの中にあるピースランドって場所で、外国になります。
そこもここと同じで、私の知り合いの所なのでばっちり安全です」
「そこも病院?」
「ううん。もうみんなの検査も終わるし病院じゃないよ。
そこでは普通に生活して学校に行って勉強をして貰います」
「勉強?」
「うん。先生から話聞いて、友達と遊んで、一緒に騒いで、喧嘩したりもしてとっても楽しいんだよ」
「へぇ...」
「ちなみに、私も先生の1人になります」
「ほんと!?」
「うん。みんなIFS強化体質でしょ?みんなが選んでそれを持ってる訳じゃないけど。
でもどうせ持ってるなら使い方を知らないとね。だからといって将来そういう事をしろって言ってる訳じゃないんだけどね」
「よくわかんない...」
「今はそれでいいよ。少しずつでいいから色んな事勉強して一杯遊びましょう」
「は~い」
そしてアオは少女たちにピースランドがどんな所かなど色々と話していった。
彼女たちはしっかりと話を聞いていたが、その中の一人の子が言い辛そうに声を上げた。
「あの、アオ姉さま...」
「ん、なぁに?」
「あの...保母さん達とはお別れなんですか...?」
それに保母の内の一人が答えた。
「いいえ、私達も行く事になりますよ?」
その一言に驚いたのはむしろアオの方だった。
「え!?ほんとですか?」
「はい。私を雇って頂いた方からそう言われていたんです。
この子達と仲良くなった後に希望するなら保護者としてこの子達を預かれるという風に。
私以外の4人もそうなっていますよ」
プロスペクター、本当に侮れない男である。
その事を知って、アオは何時までたってもあの人の事はわからないとうなだれていた。
それからは、保母さんを含めてわいわいと話をして希望を聞いていった。
その結果、みんなで住めるような寄宿舎の様な建物で保護して欲しいという事。
住む場所は学校の近くにして欲しいという事がわかった。
「わかりました。それじゃ、そういう風に伝えておきますね」
「はい」
「さて、私も仕事を途中で放り投げてきたので戻らないと...」
「え~~~!!!」
口々に早い!やだ!などと言われるが、これ以上引き延ばすとまずいアオは冷や汗を流して困る。
周りの保母さん達と協力してなんとかなだめすかしてなんとか退散した。
病院前で待っていた車に乗り込むと、一度ネルガルへ戻りまたアカツキの元へ向かう。
出る直前に用事があると言われてた事を思い出したのだ。
会長室の扉を開けると戻ってきた事を伝える。
「ただいま~」
「アオ君、お帰り。どうだった?」
「ん、離してくれそうにないから逃げてきた」
アオは苦笑しつつ答えた。
それに相変わらずだなという顔でアカツキは笑う。
「それで、用事だっけ?」
「そう、そうなんだよ。ここでもなんだし、また応接室へ行こうか」
「説明はエリナ君がしてくれるかい?」
「はい」
そして3人で応接室へ入っていく。
今日はアオがお土産を持ってきてないので、来客用の茶菓子が出てきた。
エリナは紅茶を出し終わると書類を持って来てソファーへ座る。
「アオさん。貴女がサセボへ行く前にマナカの方から貴女のナノマシンの件で伺ってると思うけど覚えてる?」
「他のナノマシンを調整する機能があるってやつ?」
「えぇ、その事よ」
それはアオがサセボへと移る1週間程前にマナカがオペレーター用ナノマシンをいれた事を指していた。
アオの体内にある異常な量のナノマシンが正常に動いているという事実はこのナノマシンがあるからこそなりたっている。
その事を思い出しながら、アオは頷いた。
エリナは覚えてるなら話は早いと書類を並べて行く。
アカツキは話を知ってるらしく、書類を確認しようとはしなかった。
「あの後、細かい調整も済んで実用化出来るレベルにまで持ってこれてるのね」
「うん、それで?」
「それで、これを売り出そうと思うんだけど貴女の了解を取りたいの」
そこまで聞いてアオは怪訝な表情をする。
「どうしてそれを私に?」
「えぇ、これは医療用として売り出そうと思ってるわ。これがあればもしもという可能性が激減する訳だからね。
だけど、これを使うとオペレーター用のナノマシンを手に出来るという事はわかるわよね?
そうなると地球側にオペレーターが量産される可能性があるのよ」
そこまで聞いて納得したような顔をするとアオは少し悩む。
下手をすると地球側が戦力拡大する事になりかねないのだ。
だが...とアオはそこまで悩むと考えを改めた。
「エリナ。それはないわ」
逆にエリナが怪訝な顔をする。
「えっとね、頭の中をいじられてるIFS強化体質者とそうじゃない普通の人はそれ以外にも違う所があるの。
特にこの眼を持っている私達、私とルリちゃんとラピスの事ね。私達は普通の人じゃ難しい事が出来るの」
「それは?」
「例えば、エリナ。右手と絵を描きつつ、左手は文章を書いて、テレビを見る。エリナは全部を正確に出来る?」
ん~と悩む素振りをしたエリナは頭を振った。
軽く手を動かして出来るかやってみるが、諦めたようだった。
「無理よ、そんなの」
「普通は出来ないよね。でも、私達は出来るのよ。マルチタスクって言うんだけどね。
例えばルリちゃん、あの子はボソンジャンプが終わった瞬間に数十の施設に数百機の戦艦、それ以上の機動兵器を同時にハッキングして掌握した。
ラピスはラピスで、戦艦の全制御をしつつ戦闘機動とバッタの操作に私の戦闘フォローをしていた。
同時にそれだけの処理を行えるのよ。だから、例えイネスさんレベルの天才が使っても、頭の処理方法になるから私達ほどは無理だと思うよ。
後天的な遺伝子処理なんてそれこそ許されないし、例えやったとしても私達ほどまでは無理ね」
「だから言っただろ、エリナ君?大丈夫だって」
アカツキは元々大丈夫だと言っていたらしい、とても得意げに声をかけた。
それを恨めしそうにエリナが睨む。
「ん?ナガレ、でもこの疑問はもっともだわ。言われて気付いたけど、木星の奴らなら後天的な遺伝子処理やるもの。確実にね。
だからエリナの疑問は正しいし、出来る事ならそれはネルガル系列の病院での処方箋が必要とかしないと悪用されるわね」
「そら見なさい」
今度はエリナが偉そうだ。
それに対抗したのか、アカツキも意見を出してくる。
「ふむ。そこで、アオ君。逆に素質があるならある程度はある程度は大丈夫という事になるよね?」
「うん。そうなるけど...?」
「そうか、ではボクからの提案だ。オペレーター用IFSナノマシンをピースランドと火星の人へ投与する。
勿論、素質があるかどうか調べる上に投与するかはその人に決めて貰おう」
「...へぇ。ナデシコでも量産するの?」
「実際困ってたんだよ。1000万人少々じゃ戦艦をそれ程動かせないからね」
「そうだね...ワンマンオペレーションは無理としても乗員数二桁以下にも出来るかもしれないね。
その上A級ジャンパーが乗っていれば艦隊クラスでの強襲が可能になって抑止力にもなるかな...
いや、それだと反発が起こって総力挙げて潰されかねない...」
「アオ君。今それ以上考えても答えは出ないさ」
「ん?あ、ナガレごめんね。ありがと」
アオが思考の中に沈んだのを見てアカツキがそれを掬いあげる。
それに気付くと照れながらアオが答える。
「アオ君は了解してくれると見ていいかい?」
「うん。頼んじゃっても大丈夫?」
「あぁ、実はプレミア氏にも火星の市長方とイネス博士へも話はしてあってね、後は君の了解だけだった」
「あれ、そうだったんだ。呼んでくれればよかったのに...」
「忙しそうだったからねぇ。ま、こちらでやっておくから安心してくれ」
「ん、ありがと」
今度は素直にアカツキへ感謝する。
そして次にアオはエリナへと質問をしていく。
「そいえば、エリナ。さっき見た時気になったけどナノマシンは調整出来るけど私ほど数は行かないの?」
「あ、そうね。そこも説明するわ」
アオはデータで気になる点を質問した。
アオの身体にはあり得ない量のナノマシンが入っているが、データでは許容量が若干増える程度と書いてあったのだ。
「実際私達がやった豚での実験ではナノマシンの許容量は若干増える程度で変わらなかった。
アオが入れられたのは受精から1ヶ月も経ってなかったから、豚の受精卵でもやってみたけど変わらなかったわ。
人間での実験なんてしてないからわからないけど、恐らく人間でも結果は変わらないわね。
アオのナノマシンは量が多すぎてどれがどう相互作用してるか判別つかないからサンプルにならないし...」
「そうだねぇ。違和感無いから自分じゃ特にそんな凄いとは思わないけどさ」
もうお手上げよというエリナに向かって、そんな凄いのかな?とアオは身体を見渡してみる。
そんなアオに凄いのよ~とどうでもいいような口調でエリナは返した。
「それでね、アオ。今度ルリちゃんとラピスを検査したいのよ」
「...エリナ?」
エリナの突然の言葉にアオの目が鋭くなる。
特に理由がないのに検査と言われてまた何か企んでいるのかとその目線に怒気が孕んでいく。
そんなアオに焦ったエリナは書類の一つを指差して言い放つ。
「待って、アオ、怒らないで。ここを見てくれればわかるから」
「何?...え」
「このナノマシン親和性高すぎて粘膜経由して他の身体にも移動するみたいなの。
貴女いつもルリちゃんとラピスにキスしてるでしょ。もしかしたらあの子達にも入ってるかも知れないのよ」
その言葉にアオは落ち込んだ。
しきりに『私のせいで私のせいで...』とぶつぶつ呟いている。
そんなアオを見たエリナはこれは『しばらく駄目ね...』と呟いた。
後日検査を受けたルリとラピスの身体にはやっぱりナノマシンがあったそうだ。
これを聞いたアオはまた落ち込みかけるが、それを横目にルリとラピスはむしろ喜んだ。
アオから貰ったナノマシンという響きが気に入ったらしい。
ただ、頬を染めつつアオのが身体の中にと言って自分の身体を抱き締める二人にアオはかなり引いていたが。
それ以降二人がアオにキスをねだる回数が激増する事になり、アオは更に困る事になる。
アオはしばらくすると回復し、ふと息をついた。
そして今度はアオから報告がある事を思い出した。
「そうだ、ナガレ。お願いしたい事があるんだけど」
「なんだい?」
「私専用のエステバリス欲しいな~って」
「「え!?」」
いきなりのおねだりにアカツキとエリナが驚いた。
そんな二人を見ながらアオは楽しそうにシミュレーションでの件を報告していった。
「それでね、今ウリバタケさんにシミュレーターのIFS装置を改造して貰ってるの」
「これは凄いな...」
「IFSリンクが振り切りっぱなしじゃない、これ」
「ブラックサレナの時はセンサー関係もIFSで見てたから、どうしてもその癖が出ちゃってね。
それにブラックサレナとフローラをリンクさせてたからラピスともIFS経由で話せてタイムラグ無かったのよ。
それで、これが私専用機の案なんだけど。ナガレ専用機を更に改造して使わせて貰おうかな♪」
「なっ!まだ誰にも言ってないのに...」
「未来から来た人にそんな事言われてもね...」
「ぐっ...」
「はい、これです」
その案ではアカツキカスタムに各種高性能センサーや中継機能、そしてダイアとのリンク機能を付加した機体だった。
それによりダイアや、ダイアを経由してルリ・ラピスとタイムラグなしで連携が可能になり、詳細なデータもやり取りが出来るようになる。
更にIFS強化体質になり余裕もあるので、ナデシコからの通信を中継する事も出来るようにした。
ちなみに、そこまでしてもまだまだ余力はあったりする。
「ここまで来ると完全に隊長機ね」
「ううん。むしろ狙ったのは管制機かな?1対多が多かったせいか戦い方が隊長なんて柄じゃないのよ。
だから私は遠近関係なく動きまわってフォローに回ろうかなって思ってる。痒い所に手を届かせちゃう感じ」
「アオ君のイメージそのままだな。わかった、アオ君の実力が出し切れるような物を作って貰うよ」
アカツキからの了解が得られたアオは嬉しそうに笑う。
それから3人は近況を含めて談笑を始めた。
それからしばらくして...
「あれ?通信だ。はい?」
「「アオ(さん)!!」」
「わ!どうしたの、ルリちゃん、ラピス?」
「...アオさん、今何時ですか?」
「...え?.....あ!」
時計を確認したら、サセボの終業時間をかなり過ぎていた。
思わず冷や汗を流しながらアオは弁解する。
「あのね、これはね?色々と報告したい事とかあってね」
「そうでしょうね。私とラピスを放っておいてこんなにかかるんですから、とても大事な事なんでしょうね。
アオさんの事ですから、まさか話が終わった後にケーキを食べつつ談笑なんて事はしてないでしょうし」
すべてお見通しらしい。
アオから冷や汗が止まらない。
助けを求めようとしたが、アカツキもエリナもいつの間にか部屋から退散していた。
「あ、あの...」
「ルリ、先帰ろ」
「そうですね、ラピス。時間を忘れてぐだぐだしてる人なんて放っておいて先帰りましょう」
「ま、待って!すぐ帰るから!」
「いいえ、いいんですよ。好きなだけお喋りなさって下さいな」
「アオ、ばいばい」
「わ~~~~!待って待って!」
『─プッ─』
「あ.....」
そうして通信が切れた。
それからアオは慌ててアカツキとエリナにそういう事だから帰る!と言い残してジャンプしていった。
その後何度も許して貰おうとするのだが、素っ気なく返されて次第にアオは落ち込んでいった。
アキトも今日は一人な上落ち込んでるアオを見て何事かと思ったが、声をかけれなかったようである。
最終的に仲直り出来たのは寝る直前になってからだった。
実際はもっと前から許していたのだが、一所懸命謝るアオが可愛くてしょうがなくもっと見たい為に我慢していたのだ。
最後にはアオは半泣きになっていて、涙声で謝るアオに二人の我慢は限界を迎えた。
二人掛かりで可愛いともみくちゃにされたアオは嫌われてないという安堵にまた泣き出してしまい、更に可愛いともみくちゃにされてしまった。