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No.8836の一覧
[0] 【マブラヴ・ACFA・オリ主・ネタ】ちーとはじめました【チラ裏より移転】[ちーたー](2016/12/24 22:35)
[1] 第一話『白い部屋』[ちーたー](2009/05/23 21:10)
[2] 第二話『出撃準備』[ちーたー](2011/04/04 01:50)
[3] 第三話『初陣』[ちーたー](2009/05/23 21:10)
[4] 第四話『交渉』[ちーたー](2009/05/23 21:11)
[5] 第五話『食料調達』[ちーたー](2009/05/23 21:12)
[6] 第六話『対BETA戦闘(初陣)』[ちーたー](2009/05/23 21:14)
[7] 第七話『BETA=資源』[ちーたー](2009/05/25 21:21)
[8] 第八話『新仕様発覚』[ちーたー](2009/06/01 01:56)
[9] 第九話『コマンダーレベル』[ちーたー](2009/06/08 03:00)
[10] 第十話『新潟戦線チートあり 前編』[ちーたー](2010/01/11 01:46)
[11] 第十一話『新潟戦線チートあり 後編』[ちーたー](2009/06/17 02:43)
[12] 第十二話『鳴り止まない、電話』[ちーたー](2009/07/07 02:38)
[13] 第十三話『月月火水木金金』[ちーたー](2009/07/18 22:31)
[14] 第十四話『三周目白銀武颯爽登場!』[ちーたー](2009/07/20 03:17)
[15] 第十五話『2001年度第二次新潟防衛作戦(チートもあるよ!)前編』[ちーたー](2009/07/20 03:18)
[16] 第十六話『2001年度第二次新潟防衛作戦(チートもあるよ!)中編』[ちーたー](2009/07/20 03:15)
[17] 第十七話『2001年度第二次新潟防衛作戦(チートもあるよ!)後編』[ちーたー](2009/08/14 00:56)
[18] 第十八話『査問会』[ちーたー](2009/09/24 00:56)
[19] 第十九話『新潟地区防衛担当者』[ちーたー](2010/01/11 01:48)
[20] 第二十話『佐渡島奪還準備』[ちーたー](2009/11/19 02:09)
[21] 第二十一話『出師準備』[ちーたー](2010/01/01 02:20)
[22] 第二十二話『上陸』[ちーたー](2010/01/17 21:36)
[23] 第二十三話『横槍』[ちーたー](2010/01/15 23:24)
[24] 外伝1『とある合衆国軍将校の証言』[ちーたー](2010/01/17 21:36)
[25] 第二十四話『決戦!佐渡島ハイヴ 前編』[ちーたー](2010/02/15 01:51)
[26] 第二十五話『決戦!佐渡島ハイヴ 中編』[ちーたー](2010/03/21 10:51)
[27] 第二十六話『決戦!佐渡島ハイヴ 後編』[ちーたー](2010/04/06 00:44)
[28] 第二十七話『LevelUp』[ちーたー](2010/05/17 01:40)
[29] 第二十八話『遠足』[ちーたー](2010/05/24 01:48)
[30] 第二十九話『敵襲』[ちーたー](2010/06/14 01:43)
[31] 第三十話『反撃』[ちーたー](2010/07/18 06:35)
[32] 第三十一話『諜報担当者爆誕!』[ちーたー](2010/09/03 01:01)
[33] 第三十二話『状況開始』[ちーたー](2010/12/23 17:14)
[34] 第三十三話『戦闘開始』[ちーたー](2011/01/04 22:25)
[35] 第三十四話『防空戦闘開始』[ちーたー](2011/01/14 22:21)
[36] 第三十五話『戦場の情景 1』[ちーたー](2011/04/04 01:51)
[37] 第三十六話『戦場の情景 2』[ちーたー](2011/04/04 00:29)
[38] 第三十七話『戦場の情景 3』[ちーたー](2011/04/26 01:57)
[39] 第三十八話『宇宙での密談』[ちーたー](2012/01/04 21:46)
[40] 第三十九話『終わらない会議』※2/5 14:30一部修正[ちーたー](2012/02/05 14:29)
[41] 第四十話『最後の会議』[ちーたー](2012/02/13 00:53)
[42] 第四十一話『反撃!』[ちーたー](2012/02/23 23:11)
[43] 第四十二話『応戦』[ちーたー](2012/07/05 00:11)
[44] 第四十三話『ユーラシア方面作戦』[ちーたー](2013/05/14 00:02)
[45] 第四十四話『決戦兵器』[ちーたー](2016/08/26 00:35)
[46] 第四十五話『喪失』[ちーたー](2020/08/31 00:40)
[47] 第四十六話『物量』[ちーたー](2017/09/05 02:19)
[48] 第四十七話『桜花作戦の現在』[ちーたー](2020/08/31 01:09)
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[8836] 第四十七話『桜花作戦の現在』
Name: ちーたー◆7e5f3190 ID:afa16b85 前を表示する
Date: 2020/08/31 01:09
2002年3月13日水曜日 10:00 ソビエト連邦 極東連邦管区 祖国解放戦線司令部 旧称『H26 エヴェンスクハイヴ』

 祖国解放戦線とは、怪しげなテロ組織の名前などではなく、以前はカムチャッカ戦線と呼ばれていた地域を、ソビエト政府が改名したものである。
 国際協調の名のもとに国連加盟国がそれぞれの軍を置き、8492戦闘団の膨大な戦力が主戦力となっているが、それでもソビエト地上軍の管轄となっていた。
 司令部が置かれている場所は、かつてはH26エヴェンスクハイヴと呼ばれていた地だ。
 そこは世界中に点在する人類の絶望の象徴の一つであり、今作戦においては過去形ながら最大の激戦地でもあった。
 だが、3月13日現在、破壊されたモニュメントを切り出して作られた会議卓が見どころの、人類の軍事拠点に過ぎない。
 ちなみに、会議室が使用されていない時であれば1,200ルーブルを支払う事で見学をすることができるが、保安上の理由から、無許可での撮影は禁止となっている。


「最前線でも戦意高揚の余裕がある。感激です」

 撮影を終えた軍広報官が万感の思いを込めて言葉を発する。
 彼は、肩を組んで笑みを浮かべた佐官たちの記念撮影を終えたところであった。
 今までの職務は、出撃していない後方の部隊を対象とした“現地での取材”が主であった。
 だが、この日の彼の仕事は、無事を本国に伝えたい人々を撮影し、最低限の事実確認を受けただけで発信する事だ。
 それは、ソビエト地上軍が民主的な軍隊に生まれ変わったからではない。
 ただ単純に、隠すどころか大いに主張したいほどに人的損害が少なかったことが理由である。
 この戦線で発生した損害は、記載ミスか数え間違いにしか思えないほど膨大であったが、その大半が8492戦闘団のものであった。
 ソビエト地上軍の派遣戦力が極度に少なかったり、あるいは安全な後方で待機していたというわけではないのだが、それでも被害の大半は彼らのものではなかったのだ。

「派遣が決まった当初は死にたくないって毎晩泣いていた坊やが、随分と明るくなったものね」

 退出していく佐官たちに笑みを振りまいていた色気の強い女性士官が彼をからかう。
 
「よく言いますよ、一緒になってウォトカの空き瓶を毎晩作っていたのは誰でしたっけ?」

 からかわれてもなお、彼の笑みは消えない。
 彼女が言っている事は事実であったが、最前線に来て受けた衝撃は、それを笑い話にするだけの力があった。

 当然ながら、彼はこの部屋だけを切り取ってこのような会話をしているわけではない。
 100年前から発展を続ける軍港だと言われても信じそうな新ウラジオストク軍港からここまでに見た光景がその理由だ。

 入港する輸送船には物資や車両、戦術機が満載されており、撮影を許可された倉庫群は全てが満杯で、置ききれない物資が野積みまでされていた。
 整備された舗装道路。
 すれ違う輸送車両には、かなりの高速で走っていてもわかるぐらいに陽気な兵士たちしか乗っていなかった。
 途中で合流した護衛部隊。
 どうみても定数を満たしており、整備も行き届いていた。

 そしてやってきた祖国解放戦線司令部。

 会う者すべてが笑顔で、力強く、陽気だった。
 当然ながら戦死者や戦友を失い悲しむ生存者、あるいは痛々しい姿の負傷兵がいなかったわけではない。
 だが、史上空前規模の大攻勢の中で見れるものとしては、驚くほどにその数は少なかったのだ。
 このご時世に軍の報道官を務める彼にはわかる、本物の勝っている軍隊の姿だった。
 さすがに本当に戦闘中の現地へは案内されなかったが、それはむしろありがたいので何の問題もない。

「次を入れても宜しいでしょうか?」

 丁寧に訪ねてきた案内役のゴドロフという軍曹の声音も柔らかい。
 彼の立っている場所からは、次の撮影順番を待つ無数の将兵が見えていた。
 決死の戦いを日々続けてきた彼が今日ぐらいは気を抜こうと思ったとしても、それを咎める者はこの場にはいなかった。


 2月の大攻勢により欧州の大半、中国東部、東南アジアに位置する各ハイヴを落とし、同月末にはH26ハイヴを落とせたことによって、人類は司令部をユーラシア大陸に設置する余裕が生まれていた。
 欧州方面に続々と上陸を続ける米・欧州連合軍は、8492戦闘団遣欧部隊と共に東進を続け、その勢いは増すことはあっても衰えることはない。
 アフリカ方面に至っては、さすがに戦線の位置が進みすぎたために南欧戦線と名称を変えられており、主目的が防衛から攻勢へと切り替わって久しい。

 現在の状況を乱暴にまとめるのであれば、人類は全戦線において攻勢に出ていた。

 そして、H26を落とした8492戦闘団主力部隊は、数個師団におよぶ犠牲を出してなお、損耗は想定の範囲内だとしてH25ヴェルホヤンスクハイヴへの無停止攻撃を敢行していた。
 反応路破壊を受けて撤退するBETAたちを追撃し、さらに接近を感知してH25から寄ってきた迎撃部隊に突撃し、そのままハイヴ内への突入まで開始している。
 これは、Г標的と正面から撃ちあう事で発生する損害を避けるためには、通常のBETA達と敢えての接近戦を行いつつ突撃することで、相対的には損害を抑えることができるという嫌な計算がなされたからだ。
 もちろん、人命の損失が無い8492戦闘団ならではの考え方であり、彼らは通常の人類をそれにつき合わせるつもりは毛頭なかったが。



2002年3月21日木曜日 08:15 日本海上 桜花作戦北方軍支援艦隊 旗艦『空母リガ』
 
「報告!H25ヴェルホヤンスクハイヴの反応炉破壊を確認しましたっ!!」

 オペレーターの報告に司令部中から寄せられた歓声が応える。
 アイリーン作戦は、立案段階からH25への連戦を想定に入れてはいた。
 だが、普通に考えてハイヴ攻略の後に、そのまま次のハイヴへ突撃することなどできるはずもない。
 ところが、陸上艦隊を持つ8492戦闘団だけは、そのできるはずもない事が行えた。
 そのため、H26の反応炉破壊と地上部分の安全宣言を待って、彼らは国連軍などの友軍を置いて、全部隊喪失を覚悟しての無停止攻撃を敢行したのだ。
 普通に考えて自殺行為としか評せない試みは成功し、撤退するBETA達と混交しつつ突き進んだ先鋒は、そのまま迎撃部隊を押し返してH25への突入に成功。
 通常の国家であれば軍の消滅を意味するほどの損害を出しつつも、強引にこれを制圧した。

 結果として、制圧した事で最終的にГ標的がいないと判明したH25は、普通に攻めて、やっている事からすれば普通と称される範囲の損害で勝利することができた。
 呆れた事に、陸上艦隊は既に搭載兵力の収容を開始しているらしく、そのままH23オリョクミンスクハイヴへの攻勢を開始するつもりらしい。
 H24ハタンガハイヴへの戦線維持を目的とした守勢防御の留守部隊が残る事は決まっている、これは最低限の警戒部隊を除いては後からやってくる増援と、H18、H19ハイヴを陥落させた部隊との連携で補うとされていた。

 そう、北方戦線が凄惨な消耗戦に持ち込まれている間に、他の戦線では複数のハイヴの制圧に成功していたのだ。
 大幅な遅延が発生していた桜花作戦であるが、振り返ってみれば、欧州戦線、旧アフリカ戦線、日本海から始まった中国戦線の全てで大幅な進捗がある。
 これらの戦果によって、当初の予想とは異なる形であるものの、概ね満足できる進捗となっていた。

「桜花作戦司令部より入電、H13攻略戦は予定通り実施と決まりました。
 本艦隊も補給完了後、当初の作戦通りに行動せよとのことです」

 発進した無人機は全て撃墜される結果にはなっているが、無人機故に人的損失は皆無であるこの艦隊は、補給のために呉および舞鶴を目指している。
 艦隊を分けている理由は単純で、日本海上で複数の艦隊が合流し、そして一隻たりとも、一人たりとも失われていない彼女たちをまとめて受け入れることのできる軍港が存在しなかったのだ。
 とはいえ、あくまでも一時的な寄港であり、搭載機および対地誘導弾を補充し、補給完了後に与えられた三日間の休息の後にインド洋へと派遣されることとなっていた。
 回航にかかる時間は相当なものがあるが、H13ボパールハイヴは最低でもフェイズ5が想定されており、有効性が証明された海からの戦力投射は必須のものとみなされている。
 ついでに言えば、日本では無償供与される燃料ほかあらゆる物資が艦隊を待っており、寄港地を挙げたハイヴ攻略記念式典の開催予定まであるというという。
 世界中から集まった記者団による寄港のライブ中継もあると聞き、各艦のランドリーはフル回転をしているらしい。

「これで、極東方面はアジア太平洋地域と繋がったな」

 司令官の言葉に、指揮所内に笑みが広がる。
 桜花作戦は、人類にとって最後の希望であるとみなされていた。
 そこでの失敗や遅延は、希望の大きさに比例した絶望を生み出す。
 報道管制や軍事機密の壁によって一般への無制限の情報公開は行われていないが、逆に、最前線の司令部では全てが無条件に情報公開されていたのだ。
 つまり、最終的には全てうまくいっているという情報を、ここでは全員が共有しているのだ。
 
「司令、本日2000時からの式典は予定通り開催でよろしいでしょうか?」

 副官の表情も明るい。
 もちろん地上部隊に損害は出ているが、この艦隊に限って言えば、人的損害は皆無だ。
 失われたのは、8492戦闘団から供与された無人機と、それに付随する物資。
 あとは消耗品を予定通りに使ったぐらいのものだ。
 我の損害は皆無、作戦への貢献は大。
 軍人として、胸を張って凱旋できる。
 


2002年3月29日金曜日21:50 国連第11軍8492戦闘団 桜花作戦司令部 コードネーム“シャンツェ”

「地球軌道上の通信情報艦アンドロメダより入電、H23攻略戦の損害は想定の27%で推移中。
 現在までのところ、Г標的は確認できず。ケースホワイトの可能性大」

 ケースホワイトとは、各ハイヴ攻略戦において個別に設定されている想定状況の一つである。
 今の状況は、Г標的の不在を表している。
 配備が間に合わなかったのか、数に限りがありここにはいないだけなのか、希少資源などが不足してもう生産できないのか。
 どれかはわからないが、とにかくここにはいない、という事実だけを指している用語だ。

 モニター上の地球全域の表示は、どこもかしこも人類の優勢を伝えていた。
 桜花作戦は、その第二段階で大きく当初の予定を外れ、北方戦線を除くすべてが勝利を重ねていた。
 そして、周囲のハイヴから増援を受けたと思われる異常な量に加え、Г標的まで現れ、それでもようやく北方戦線での進撃も開始された。
 作戦開始以来、一進一退を繰り返した時期もあったが、この日までにH5、H8、H9、H11、H12、H16、H17、H18、H25、そしてH26と、十箇所のハイヴを落としている。
 桜花作戦前を入れれば、H22横浜ハイヴ、その次に落とされたH21佐渡島ハイヴ、H20鉄原ハイヴがここに加わり、なんと人類は十三箇所のハイヴを落としたのだ。
 これは、もはや地球上の半分以上のハイヴが落ちているという事を意味していた。
 ユーラシアの東西で、H2、H4、そしてH23の三箇所を攻撃中であることを勘定に入れれば、既に大勢は決したと言いたくなる。

「H23攻略部隊より入電、陸上戦艦主砲の砲身命数が間もなく終了とのこと。
 予定通り、攻略後に交換作業を行います」

 生み出すまでの経緯は異常であったが、一旦この世界に現れてしまえば、陸上艦艇たちも物理法則の制限を受ける。
 今までにも撃破されたり、故障する艦艇がいたために理解していたはずであったが、こうした本格的な整備の必要性があることに世界は衝撃を受けていた。
 彼女たちは、広大なユーラシア大陸での作戦行動に必須の存在とみなされており、アメリカではマザーシップ、日本ではオカンと呼ばれ、前線の兵士たちを火力と安心感で支えていたのだ。
 それに本格的な整備を行う計画を伝えた時、誰もが替わりの陸上戦艦がやってくるのだろうと考えていたが、いないと聞いて絶望することとなる。
 H26での大量消耗により、さすがに予備の艦艇が尽きてしまったからだ。
 だが、8492戦闘団は多連装ロケット砲システム搭載陸上艦や、陸上巡洋艦、陸上戦術機母艦に陸上輸送艦といった通常の艦艇をその分用意する約束した。
 さらに、この問題は国連安全保障理事会の緊急会合で議題として取り上げられ、結果として整備が終わるまでは三か所のハイヴ"しか"攻略しないという計画の再検討がなされた。
 おまけに、その一つは洋上艦隊からの攻撃圏内であり、ここには水上艦艇を増派するという補足説明もあり、ここに至って人類はようやく立ち直ることができた。

「XG-70bは、専属護衛部隊と共に引き続き待機を命じます」

 当初の想定では、これに乗り込んだ00ユニットをH26に突入させ、オルタネイティブ第四計画の成果としてオリジナルハイヴと『あ号標的』の情報を入手したことにする計画だった。
 しかしながら、余りにもBETAの抵抗が強く、とてもではないが貴重な彼女を投入できる状況ではなくなってしまったのだ。
 そうこうしているうちにH25の攻略が終わり、H23での戦闘も始まっている。
 今からでも間に合わなくはないだろうが、敵がГ標的を持ち出してくる危険性を考えると、前進させることに躊躇してしまう。
 ましてや、知りたい情報は既に把握済みであり、裏付けを取ることは重要ではあるが、別にそうでなくともオリジナルハイヴ攻略は専用に用意した軌道上からの集中砲火で対処する準備が整っている。
 これを一時的優勢で生まれた慢心とするか、はたまた、こちらからの情報流出を最低限に抑えるための措置と見るかは難しいが、とにかく今のところ、投入の予定は無かった。

「北方戦線へ合衆国派遣軍第三陣が移動を開始しました。
 観測結果では7個師団。合衆国政府からの通達と一致しています」

 本気を出した合衆国は、やはり異常だった。
 橋頭堡の確保から始めないとならなかった欧州戦線で、上陸した勢いのまま攻勢に入った第一陣。
 それを支えるどころか加速させた第二陣を出しておいて、今度はユーラシア東岸で、8492戦闘団によるH23攻略後に、H10およびH24に向かうための第三陣を予定通り出してきたのだ。
 この状況下で、既に第四陣が本国で編成を開始したというのだから恐れ入る。
 おまけに、さすがにタンカーや輸送船の融通以来はこちらにしてきているが、積載される物資や運航自体は自前でやれると言ってきた。

「合衆国資源戦略省より入電、資源定期便の増発要請です」

 とはいえ、さすがの合衆国も無から有は作り出せない。
 必要な資源の大半を自国内で用意できると言っても、掘り出した資源を製品に変えるまでの間には膨大な工程と、時間が必要だった。
 
「資源定期便、フィラデルフィア・エクスプレス173便、間もなくノーフォーク港に到着予定、続いて174および175便、サンフランシスコ港沖にて入港許可待機中」

 8492戦闘団と個別に話したいと要望されて秘密裏に設置したホットラインで加工済みの資源の提供を申し出た時、合衆国政府の反応は二つに割れた。
 賛成派は、貨物船ごとそこに満載された加工済み資源を貰えるのであれば、これを断る理由は無いと断言した。
 まして無料だぞ、と付け加えもした。
 反対派は、国内企業を守るため、そんな事はできないと叫んだ。
 日本帝国には無料より高価なものはないという格言もあるそうじゃないか、と付け加えた。
 だが、第二陣の準備が進んでいた当時、大統領命令によって受け入れが決定される事となる。

 理由は単純だった。
 当初の想定よりも驚くほど損害が少なく、さらに勝ち続けているために、凄まじい量の補給物資が必要となったからである。
 当然ながら、アメリカ軍は高度な教育を受けた将兵によって構成される軍隊であり、大陸派遣軍が大損害を受けて補給が不要になるなどといったふざけた想定はしていない。
 というよりも、そのような想定が出たのであれば、いかなる手段をもってしても軍の派遣を撤回している。
 損害はあるにしても勝って橋頭堡を確立できると考えていたし、戦線構築のためには膨大な物資が必要だという計算がされていた。
 桜花作戦とは全人類の力を結集し、勝つか滅ぶまで止められない大作戦であり、今後数年にわたって天文学的ともいえる量の資源が必要だという事も正しく認識されていた。
 それを供給するためには、無理に無理を重ね、国民すべての協力を受けて、さらに世界中で相互に支援しあう体制が必須であるという事もわかっていた。
 国連を通してそれは全ての国で共有された認識であり、8492戦闘団も全力での支援を表明していた。

 だが、それでもこのまま勝ち続けると不足すると判明したのだ。
 正確には、桜花作戦に必要な量を、必要な期間中に、必要な場所に届けるためには、という但し書きは付くあたり、さすがの合衆国ではあったが。

 それでも、いまだに得体のしれないところのある8492戦闘団からの無償提供を受け入れることは危険であるという反対派の意見は根強かった。
 とはいえ、反対派であっても合衆国の政治家や役人、もしくは軍人であり、決まった以上は従う事になる。
 そういうわけで、フィラデルフィア・エクスプレスと名付けられた秘密輸送船が、合衆国に無償供与されている。
 合衆国戦時量産貨物船標準型Aというどうしようもない艦種名が付けられた彼女たちは、ノーフォーク海軍工廠生まれとされ、今日も増え続けていた。
 余談であるが、8492戦闘団はネーミングセンスだけは持っていないという定評がある。


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