2001年12月8日土曜日08:38 佐渡島ハイヴ主縦口 地下387m地点 日本帝国軍第8492戦闘団
「前進!前進!」
遂にハイヴ内に突入した我々は止まらなかった。
次々と押し寄せるBETAたちに大量のお土産を投げつけつつ、立ち止まる事無く前進を継続する。
既に地上から地下254mまでの区間は安全が確保されており、有線通信網の敷設や輸送用多脚車両が行き来を始めようとしていた。
あとは山のような増援を受け取りつつ、歩みを止めずに進めばいいだけだ。
<<有澤重工、雷電、行くぞ>>
すっかり調子を取り戻した社長が、自慢の大口径火器を発射する。
閃光。
火球としか言いようの無い物体が射出され、それは高速で敵集団へと突き刺さる。
爆発。
この世界の人類の常識を超えた速度と火力で行われるネクストの戦闘において、社長の火力は圧倒的だった。
ハイヴにおいて、一番恐ろしいのは通路を埋めるようにして殺到するBETAたちである。
瞬間的に押し寄せる数は100や200ではなく、1000や2000という単位に達している。
多少の戦術機がいたところで、何かが出来るはずも無い。
強力な自決兵器を用いて辛うじて時間稼ぎが出来る程度である。
今まで、ハイヴへと突入した人類は、この数の暴力に対しての回答を持っていなかった。
飲み込まれて全滅するか、全速力で後退するか。
その場で全滅か後で全滅か。
そんな後ろ向きの二者択一しか存在していなかった。
この日、一つの新しい回答が生まれた。
<<なぎ払え!>>
社長の喜色に溢れた号令が飛び込み、次々と放たれた砲弾たちが前方のBETA集団を吹き飛ばしていく。
長距離を雷電、中距離をスティレットとガンタンクⅡ、近距離を強襲型ガンタンクと、大艦巨砲主義者が泣いて喜ぶ突撃砲兵部隊が前進する。
左右を固める第四世代戦術機たちも十分強力な兵器のはずだが、猛烈な勢いで弾幕を展開する護衛対象と比べると、随分と大人しい印象を受けてしまう。
異常な密度の火力が絶える事無く投射され、8492戦闘団は進撃を継続する。
ハイヴ攻略の基本は、戦術機による高速機動での最深部到達である。
しかし、それは突入部隊が最終的に全滅してでもハイヴの機能を止める事が目的の場合である。
そこまで悲壮な覚悟を固めずとも作戦目標の達成が見込める俺は、もう少し余裕を持った手段を選ぶことができた。
<<地中観測班より報告、下層より更に大量のBETA出現、こちらへ向けて接近しつつあり。全部隊へ観測データ送信中>>
複数個所で展開しているホバートラックから通信が入る。
地上を歩くザクたちの足音から距離・方角・数を算出できる優れた地中集音機を装備しているだけある。
ネクスト、戦術機、ガンタンク、輸送車両、BETAたち。
それらが織り成す戦場音楽の中で、確実に敵の情報を探知できるのだから驚く事しかできない。
「全部隊に警報。ガンタンク大隊は前進を継続。
後続の戦術機甲部隊はこれを援護」
総勢二個連隊の大所帯である我々は、中隊単位で固まりつつ長蛇の列を作っていた。
これは左右からの挟撃や、上下からの奇襲に対して極めて弱い陣形なのだが、ハイヴの地形がそれを強要する。
実は終わらせようと思えば、一瞬で終わらせる方法がいくらでもあるのだが、それを今使うわけにもいかない。
かくして8492戦闘団は、遥かな先輩であるヴォールグ連隊と規模は違えど隊列は同じようにハイヴ奥地へと侵入していく。
***8492戦闘団ハイヴ突入部隊陣形***
↑進行方向
○ △ □□□ △ ○
△ H △
△ □□□ △
△ 只 △
△ □□□ △
△ △
○ △ □□□ △ ○
只:雷電
H:スティレット
○:ホバートラック
△:戦術機
□:ガンタンク
※以下繰り返しだが、ネクストは先頭の部隊のみに配備
「警報。先行する第一大隊の前方500mにBETA集団多数を探知。
前衛部隊弾幕を展開中」
強襲型ガンタンクの火力は過剰の一言に尽きる。
両腕に装備された重機関砲とでも呼ぶべきそれ、肩に取り付けられた巨大なキャノン砲。
これが火を噴くだけでも十分な破壊力である。
それに加え、各機に装備された多連装無誘導噴進弾や戦術機による支援攻撃が行われる。
大隊規模であろうが連隊規模であろうが、狭い空間を固まって進むBETAたちに成すすべはなかった。
撃ち砕かれ、叩き潰され、焼き尽くされる。
補給も増援もたっぷりとあるこちらとしては、現状が目的地まで続いてくれても一向に構わない。
「閣下、救助した国連軍部隊から通信が入っています」
二個師団しかつけなかったために途中で立ち往生していた部隊だ。
幸いな事に犠牲者は出ていなかったが、随分と打ちのめされていた。
まあ、人類史上最大規模の火力投射と支援部隊を持ってしても足踏みをせざるを得なかったのだから無理も無い。
「繋いでくれ」
機体の操縦を副官に任せ、通信回線を開く。
ついでに事務処理もしておこう。
新潟戦区防衛担当者などという軍政官としての任務も与えられた以上、俺には決済せねばならない事がいくらでも存在する。
例えば避難所へのトイレットペーパーの配給だ。
ん?避難所への配給?
おいおい、新潟を離れても、新潟から出た者へは責任を持たなきゃいけないのかよ。
しかもこれ、間違いなくほかの地区の避難所の分も出させて、経費削減とこちらの能力の把握を目的としているだろう。
そうじゃなければ280万ロールもの量がどうして必要となるんだよ。
別に倍の量でも用意は出来るが、こっちの世界の軍需産業や工業を壊滅させるつもりは無いんだがな。
無料で好きなだけ入手できる物資は、この世界の産業構造を壊滅させかねない。
日本帝国の連中、そのあたりを分かっているのかね?
<<国連第十一軍臨編特務大隊のフォルクス・モルダウ大尉であります>>
やや疲れた様子の実直そうな大尉がモニターに現れる。
彼は哀れな臨時編成大隊の現場責任者をやらされている。
普段は平和な横浜基地のモブキャラを主任務としているのに可哀想な事だ。
まあ、ラダビノット司令に現場責任者を申し付けられるぐらいなのだから、少なくとも有能なのだろう。
「コールサイン・グラーバク1です。
何か御用でしょうか?」
さすがはぶったるんでいる横浜基地。
まさか最前線でフルネームを言われるとは思わなかった。
周りが気心知れた部下と無人機しかいないので油断しているのだろう。
<<え、ええ、失礼しました。
補給と再編成が済んだので前進を再開したいと考えております。
閣下の部隊の後衛を任せて頂けないでしょうか?>>
先陣は我々がとか言い出さないだけマシなんだろうなきっと。
現在地上から突入中のA-01中隊はそうはいかないんだろうが。
「よろしくお願いします。
戦術機一個大隊を任せます。
使い捨てで構わないので、自分の部下の生還を最優先するように。
グラーバク1、以上」
無人機はいくらでも交換できるが、訓練を積んだ衛士は有限であり、高価である。
兵の命は出来る限り有効活用しなければならない。
<<了解いたしました。
オメガ11、作戦行動に復帰します>>
また凄いコールサインでやってきたものだ。
ベイルアウトしてもハイヴの中では死を待つしかない。
頑張ってくれとしかいいようがないな。
「至急、至急。
師団規模のBETA集団が接近中。
火力のみでの対処は困難と予測されます」
突然の報告を聞き、戦術モニターへ視線を向ける。
おお、画面が真っ赤だな。
巨大な通路を埋め尽くすようにしてBETAたちが駆け上がってくる様が見える。
だが、そんな事で諦めきれるほどこちらの兵力は少なくはない。
「強襲型ガンタンクは全機全弾をここで使い尽くせ。
ネクスト全機前進、空中機動を許可するが、突破はするな。
中間広間聞こえるか?」
地下へ侵攻する途中で確保した広間へ通信を入れる。
そこにはプラントとその守備隊が待機していた。
「あるだけの部隊を国連軍に同行させろ。
視界から消え次第増産を開始。
そこらへんのBETAを全て回収し、クレートを使って増援部隊と物資を作成しろ。
小隊単位で完成次第こちらの増援として送り込め。以上」
これで後ろのことを気にする必要は無い。
地上部隊はSS大隊指揮官に代行として生産自由の権限を与えて任せているので、気に掛ける必要は無い。
ハイヴ特有の通信妨害で連絡が付きにくくはなっているが、連絡線のパトロール部隊に通信をリレーさせているので、定期的にやり取りが出来ている。
無人機隊のデータ共有サービスで随分と帯域を使っているが、戦域情報や現状の確認は圧縮データでやり取りしているため、問題にはならない。
「直衛部隊弾薬受領完了、再編成を終えました」
準備が整ったようだな。
それでは行こうか。
「後続と補給は手配した。
グラーバク1よりネクスト全機へ。
国連軍を護衛しつつ前進する。
全兵器使用自由、戦闘機動自由」
英語で言うところのオールウェポンズフリー、レッツダンスというわけだ。
ネクストたちは、好き好んで魔改造旧式戦術機に乗り込んでいる俺よりもよほど強力である。
各人が多対一の閉所戦闘に特化しており、乗り込んでいる機体はこの世界の誰よりも高性能。
おまけに保有する装備は遠未来で最先端だったものであり、というかなんか説明している間に激戦が開始されたよ。
「有澤重工、雷電だ。行くぞ」
先陣を切ったのは社長である。
長距離砲を放ちつつ、ガンタンク部隊を引き連れて弾幕を展開する。
高速機動を行うネクスト相手に火力戦を敢行する彼は、BETAに対しては死神である。
無誘導のロケットも砲弾も、高性能なFCSと歴戦の勇士が操れば一撃必殺の精密誘導兵器となる。
彼と大変に相性の合う無人機部隊は、持てる最大の火力を投射しつつ前線を支えている。
「警報、後方にBETA集団出現。
通路を破って続々と流入中。移動中だった国連軍部隊と接触しています」
こちらの増援部隊に影響されたのだろうか?
無数のBETAたちが中間広間と我々の間に出現しつつある。
通信リレーを兼ねたパトロールを置いていなければ、もっと発見が遅れていただろう。
「迎撃しろ!雷電以外の全ネクストは連絡線確保に回れ!
接近中の国連軍に警報!A-01はハイヴに入ったのか!?」
おかしい。
既にこのレベルのハイヴにいるであろうBETAの総数は十分に超えている。
原作でもここまでは出てきていない。
下手をしたら、原作で直接的に登場した全BETAよりも多いかもしれない。
「A-01部隊は現在地上にて補給作業中。増援部隊と共に進入予定です」
気が急いている時に冷静に返されると頭がよく冷える。
それだけでも副官を支援AIにした事は正解だったな。
「ひとまず、状況が確認できるまでハイヴ内部での増援部隊の建設は中止。
以後の増援は、い号海岸から送って寄越させろ」
この時、俺は一つの仮説を持っていた。
それは、BETAたちはこちらがチート的行為を行った場合、それに見合った増援を得ているのではないかというものだ。
強襲上陸第一波は日本本土で用意した部隊と火砲によるものである。
確かに対応して出現した数は多かったが、これは想定の範囲内の数量であり、火力で圧倒できている。
しかし、上陸以後、具体的には海岸堡で増援部隊の生産を開始してからは違う。
師団と言う言葉が小さく感じるほどの増援。
叩いても叩いても現れ続ける後続。
そして今、ハイヴの狭苦しい穴の中で出現を続ける増援集団。
俺の仮説は、極めて遺憾な事に正解に近いと思われる。
<<こっこちらセレブリティアッシュ!多数のBETAを確認!
地面が一分にBETAが九分!国連軍部隊と接近するも敵が多すぎる!>>
ダンから悲鳴のような報告が入る。
なるほど、ネクストの動員もダメか。
しかし、これでは俺の持つメリットの大半が失われてしまうのだが。
「ネクスト各機は国連軍部隊を抜けて中間広間まで下がれ。
敵の増援が押し寄せた場合には地上まで退避。
増援がこなかった場合には補給の後に戻って来い。以上」
イチかバチかだ。
ネクスト各機および彼らに期待している国連軍将兵には申し訳ないが、一時的に戦域を離脱してもらおう。
今後に比べれば随分と楽な今こそ、あれこれと試すべき時だ。
<<オメガ11到着、戦闘行動に参加します>>
「護衛の戦術機甲大隊も戦闘行動へ参加。
後方からの流れ弾に注意」
国連軍およびそれを護衛してきた増援部隊が戦闘を開始する。
人間が多いと言う事もあり、通路は何時に無く賑やかな戦場へと変わった。
2001年12月8日土曜日08:59 佐渡島ハイヴ主縦口 地下450m地点 日本帝国軍第8492戦闘団
<<こちらオメガ14!要撃級三体に後ろを取られたっ!誰か援護してくれ!>>
僚機から離れすぎた一体のF-15から悲鳴が発せられる。
ハイヴ内部は自由な跳躍噴射が出来るほど広大ではないが、仲間とはぐれてしまう程度の広さは有している。
彼と彼を支援すべき友軍機との間には、無数の要撃級および戦車級が溢れかえっており、何をどうしても支援のしようがない。
いつもならば。
<<こっこちらオメガ13!畜生、誰かこっちの要塞級をなんとかしてくれ!>>
別の有人機から悲鳴が上がる。
見れば要塞級に不必要に接近しすぎ、群がる戦車級と振り回される触角から回避する事で手一杯になっていた。
「オメガ19と21は13を援護、要塞級の尻尾を潰せ。
誰か14を援護できないのか!?」
自身も忙しなく回避機動を取りつつ、モルダウ大尉は苛立たしげに怒鳴った。
政治的中立とそれなりの戦闘能力、さらに実戦経験を持っている事からこのたびハイヴへ突撃する破目にあった彼は、実は有能だった。
確かに若干腑抜けているところはある。
しかしそれは軍組織の一員として見た場合の話であり、士官、衛士としての能力に不足は無い。
「クソッ!無人機部隊援護してくれ!」
ここに来るまでに無人機というものがいかに役に立つかは体で理解している。
彼らはこちらを遥かに上回る機体性能と火力を有しており、コクピットを開けて無人を確認したくなるほどに優れた戦闘技術を見せ付けてきた。
おまけにこちらの護衛が命令らしく、突撃に付いてきてはくれるが、戦果拡張ではなく後方支援に徹している。
そのおかげで、ハイヴ突入から現在まで損害ゼロという信じられない戦果をたたき出しているのだが、さすがの無人機たちもそろそろ限界らしい。
「おっと」
至近距離で発生した爆発から距離を取る。
いつの間にか直ぐ隣まで来ていた要撃級を、無人機が排除してくれたようだ。
戦闘中にこれだけ別の事を考えるほど、我々は疲れきっている。
そして、まさに今のように、無人機たちは動きが鈍りだした我々のお守りで手一杯になりつつある。
<<畜生!大尉殿!誰か!助けてくれ!>>
オメガ14から再び悲鳴が発せられる。
もはや手遅れだ。
すぐさま支援できる位置に友軍機は無い。
無人機隊は孤立している彼を助ける前に、それ以外の全員、つまり本隊を支援することで手一杯になっている。
スマン。
心の中でモルダウ大尉が短く詫びた直後、要撃級たちに無数の砲弾が突き刺さった。
腕が飛び、頭らしい部位が弾け、足が砕け散る。
なんだ?何があったんだ?
「こちらグラーバク1、オメガ14へ、指示した方位に退避しろ」
魔改造撃震を操る俺にとって、支援要請聞いてから救出完了余裕でした。
まあ、実際には後ろに付き従う無人第四世代戦術機一個小隊が主に仕事をしてくれたわけなのだが。
それはともかくとして、通路内は乱戦の様相を呈してきた。
<<こちらオメガ18!戦車級が邪魔だ!足元に注意!>>
僚機が危機を脱した事を確認し、国連軍衛士たちの士気があがる。
ここは確かにハイヴかもしれないが、戦闘能力はこちらの方が上なんだ。
強力な友軍が付いている今、恐れる事は何も無い。
<<オメガ18は後方へ退避しろ!19と21は私に続け!行くぞ!>>
精神に余裕が戻った今、国連軍衛士たちはその名に恥じない働きを見せる。
<<<<うぉぉぉぉぉぉぉ!!>>>>
這い寄る戦車級の群れに一機のF-15が包囲されそうになり、彼は直後に駆け寄った三機の仲間達によって救い出される。
その過程で少なからぬ弾薬が消費されるが、訓練を積んだ衛士が一人戦死するよりはよほどお得だ。
「そこの三機!支援するから後ろに下がって補給しろ!
第二小隊はこれを援護!」
戦場に開きかけた穴を素早く塞ぐ。
さすがに第四世代機だけあり、無人機部隊の戦闘能力はなかなかのものである。
おまけに、内部に搭載された統合情報通報システムは、互いの戦闘経験を共有し、検索し、改善し、自分たちの戦闘能力を更なる段階へと押し上げていく。
後で成長させた部隊と旧バージョンの部隊を並べてBETAの食いつき方を見ておかなければならないな。
もしソフト面での差異に奴らが反応しないのであれば、これは大きな意味を持ってくれる。
「少佐、ネクストたちの調子はどうだ?」
跳躍噴射で最寄の要塞級へ飛び掛りつつ退避したネクストたちへ語りかける。
<<現在位置は中間広間、敵の増援はなく、静かなものだ>>
彼女の報告を否定するように、中間広間の防衛部隊から警報が入る。
敵軍脅威接近中。数量は師団規模以上、総数不明。
<<簡単に終わらせるつもりは無いらしい。
全機戦闘モード、連絡線の維持を最優先するぞ。以上>>
やるつもりはなかったのだが、高速機動による一転突破が必要らしい。
手持ちの駒は自分と雷電、無人機一個大隊。
厳しくはあるが、俺の作戦に参加した友軍も戦っている。
正直なところ死にたくないのだが、やって見せねばならない。
「8492戦闘団指揮官より戦闘団各機、義務を果たせ。
これより当機は敵軍中枢へ突撃する。以上」
俺は後方へ下がるようにと翻意を促す通信が入る前に機体を前進させる。
歴戦のネクストである有澤社長操る雷電は、急な突撃を始めたにも関わらず、僅かな遅れも無く追随してくる。
もちろん、俺の機体の制御電算機と連動している無人機部隊も同様だ。
「システムチェック、異常なし。推進剤残量、戦闘機動に支障なし。
弾薬残量、最大で三十分の高速突破戦闘が可能」
機体と電子的に接続されている俺の機動に狂いは無い。
全てのパーツの状況を具体的に把握しつつ、文字通り人馬一体となり戦闘機動を続行し続ける。
<<なるほど、さすがは指揮官殿だ>>
長刀で要塞級に切りつけ、要撃級を踏み越え、戦車級を飛び越えて前進する俺に社長が声をかけてくる。
指揮官先頭を実施するつもりなど毛頭無かったのだが、仕方が無い。
俺につき従う無人機部隊は、俺との物理的な距離に応じて行動能力が上がるという迷惑な仕様だ。
作戦の成功確立を上げるためにはこれしかない。
更に別の要塞級を足場としつつ、俺は前進を継続する。
<<脆いな>>
俺が足場にした要塞級に社長の砲弾が突き刺さる。
巨大な胴体に巨大な火球が飲み込まれ、一瞬の後に爆発する。
その危害半径は大きく、足元に蠢いていた無数の戦車級たちも巻き込まれている。
<<8492戦闘団は前進を継続せよ!>>
突破開始から一分も経たないうちに少佐が追いついてきた。
中間広間からここまでの間のBETAたちを蹴散らしつつ突撃して来たらしい。
「広間はどうした?」
当然の疑問だ。
あそこには生産自由を命じたプラントと無数の護衛部隊を置いてはいたが、人間はそれほど多く配置していない。
<<ハンス=ウルリッヒ・ルーデル大佐に指揮権を譲りました。
現在中間広間周辺の安全は確保されつつあります>>
どうやら無意識に呼び出していたようだ。
帰ってから呼び出すつもりだったのだが、まあいい。
とにかく、この世に戦術機に乗った魔王が光臨してしまった。
BETAたちには悪い事をしてしまったな。
「しかし、彼に防衛任務とはもったいない事をさせてしまったかもしれんな」
また別の要塞級を足場にしつつ俺は答えた。
<<現在地上部隊から新城少佐と南郷少佐の部隊が急行中。
ルーデル大佐は中間広間の防衛を引き継いだ後にこちらへ向かう予定です>>
なるほど、俺が指揮どころではなくなったので、地上の包囲部隊を率いるSS大隊指揮官殿が独断で動いてくれたか。
しかし、師団を率いる大隊指揮官というのも変な話だな。
この作戦が終わったら、全員の階級をきちんと見直さなければならん。
「この作戦が終わったら全員昇進だ、誰も彼も少佐ではわけがわからん。
嫌でも受けてもらうからな」
視界の端からこちらに迫ってくる要塞級の触角を回避し、お返しに二発の120mm砲弾を撃ち込む。
装甲の材質から用いられる技術まで、コスト度外視、チート無制限の魔改造撃震にとって、これは全く苦にならない戦闘機動である。
<<そもそも私は少佐ではないのだが>>
ウィン・D・ファンションの呟きと共に強力なレーザーが飛来する。
それはもちろん光線級の放った攻撃ではなく、彼女の持つ強力な武器から放たれた必殺の支援射撃だ。
「こっちの話だ、気にしないでくれ。
オメガ11は生きているな?」
苦笑しつつ国連軍機に呼びかける。
戦術モニターを見ると、強力な護衛部隊のおかげで有人機に損害は出ていないようだ。
その代償として、こちらの動きに全く追随できていないが、それはまあ仕方が無い。
彼らには、ここ佐渡島ハイヴで実弾演習を行い、今後に活かしてもらおう。
<<こちらオメガ11です。申し訳ありません、全機健在ですが、突破がどうしても>>
荒い息のモルダウ大尉から応答が入る。
突破できるわけが無いのだから、そこは気にしないで貰いたい。
彼らの直衛に当たっている部隊は、あくまでも有人機の生存を最優先に行動させている。
その護衛対象の有人機部隊が攻め方を悩んでいるのであれば、当然全部隊がそこで足踏みすることになる。
「いや、そのまま連絡線の維持を続行してくれ。
現在地上に増援部隊を要請している。既にこちらへ向かっているそうだ。
我々は、ちょっと最深部まで行ってくる。グラーバク1、以上」
我々もまだ行けますなどと駄々をこねられては困る。
実態はどうあれ、日本帝国領内のハイヴは、書類上だけでも帝国軍の手で排除しなければならない。
世界に対して発言力を持つには、その事実が必要なのだ。