<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


No.8836の一覧
[0] 【マブラヴ・ACFA・オリ主・ネタ】ちーとはじめました【チラ裏より移転】[ちーたー](2016/12/24 22:35)
[1] 第一話『白い部屋』[ちーたー](2009/05/23 21:10)
[2] 第二話『出撃準備』[ちーたー](2011/04/04 01:50)
[3] 第三話『初陣』[ちーたー](2009/05/23 21:10)
[4] 第四話『交渉』[ちーたー](2009/05/23 21:11)
[5] 第五話『食料調達』[ちーたー](2009/05/23 21:12)
[6] 第六話『対BETA戦闘(初陣)』[ちーたー](2009/05/23 21:14)
[7] 第七話『BETA=資源』[ちーたー](2009/05/25 21:21)
[8] 第八話『新仕様発覚』[ちーたー](2009/06/01 01:56)
[9] 第九話『コマンダーレベル』[ちーたー](2009/06/08 03:00)
[10] 第十話『新潟戦線チートあり 前編』[ちーたー](2010/01/11 01:46)
[11] 第十一話『新潟戦線チートあり 後編』[ちーたー](2009/06/17 02:43)
[12] 第十二話『鳴り止まない、電話』[ちーたー](2009/07/07 02:38)
[13] 第十三話『月月火水木金金』[ちーたー](2009/07/18 22:31)
[14] 第十四話『三周目白銀武颯爽登場!』[ちーたー](2009/07/20 03:17)
[15] 第十五話『2001年度第二次新潟防衛作戦(チートもあるよ!)前編』[ちーたー](2009/07/20 03:18)
[16] 第十六話『2001年度第二次新潟防衛作戦(チートもあるよ!)中編』[ちーたー](2009/07/20 03:15)
[17] 第十七話『2001年度第二次新潟防衛作戦(チートもあるよ!)後編』[ちーたー](2009/08/14 00:56)
[18] 第十八話『査問会』[ちーたー](2009/09/24 00:56)
[19] 第十九話『新潟地区防衛担当者』[ちーたー](2010/01/11 01:48)
[20] 第二十話『佐渡島奪還準備』[ちーたー](2009/11/19 02:09)
[21] 第二十一話『出師準備』[ちーたー](2010/01/01 02:20)
[22] 第二十二話『上陸』[ちーたー](2010/01/17 21:36)
[23] 第二十三話『横槍』[ちーたー](2010/01/15 23:24)
[24] 外伝1『とある合衆国軍将校の証言』[ちーたー](2010/01/17 21:36)
[25] 第二十四話『決戦!佐渡島ハイヴ 前編』[ちーたー](2010/02/15 01:51)
[26] 第二十五話『決戦!佐渡島ハイヴ 中編』[ちーたー](2010/03/21 10:51)
[27] 第二十六話『決戦!佐渡島ハイヴ 後編』[ちーたー](2010/04/06 00:44)
[28] 第二十七話『LevelUp』[ちーたー](2010/05/17 01:40)
[29] 第二十八話『遠足』[ちーたー](2010/05/24 01:48)
[30] 第二十九話『敵襲』[ちーたー](2010/06/14 01:43)
[31] 第三十話『反撃』[ちーたー](2010/07/18 06:35)
[32] 第三十一話『諜報担当者爆誕!』[ちーたー](2010/09/03 01:01)
[33] 第三十二話『状況開始』[ちーたー](2010/12/23 17:14)
[34] 第三十三話『戦闘開始』[ちーたー](2011/01/04 22:25)
[35] 第三十四話『防空戦闘開始』[ちーたー](2011/01/14 22:21)
[36] 第三十五話『戦場の情景 1』[ちーたー](2011/04/04 01:51)
[37] 第三十六話『戦場の情景 2』[ちーたー](2011/04/04 00:29)
[38] 第三十七話『戦場の情景 3』[ちーたー](2011/04/26 01:57)
[39] 第三十八話『宇宙での密談』[ちーたー](2012/01/04 21:46)
[40] 第三十九話『終わらない会議』※2/5 14:30一部修正[ちーたー](2012/02/05 14:29)
[41] 第四十話『最後の会議』[ちーたー](2012/02/13 00:53)
[42] 第四十一話『反撃!』[ちーたー](2012/02/23 23:11)
[43] 第四十二話『応戦』[ちーたー](2012/07/05 00:11)
[44] 第四十三話『ユーラシア方面作戦』[ちーたー](2013/05/14 00:02)
[45] 第四十四話『決戦兵器』[ちーたー](2016/08/26 00:35)
[46] 第四十五話『喪失』[ちーたー](2020/08/31 00:40)
[47] 第四十六話『物量』[ちーたー](2017/09/05 02:19)
[48] 第四十七話『桜花作戦の現在』[ちーたー](2020/08/31 01:09)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[8836] 第二十三話『横槍』
Name: ちーたー◆7e5f3190 ID:4019fd70 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/15 23:24

2001年12月8日土曜日05:31 日本帝国 佐渡島真野湾沿岸部 作戦符牒「い号海岸」

 作戦開始から三十分が経過してもなお降り注ぎ続ける巡航誘導弾および砲弾により、い号海岸は月面よりもクレーターの多い場所となっていた。
 もちろん非常識な物量を誇るBETAたちはそれでも生存していたが、その数は最早小隊規模と言ったところである。
 BETAの残骸、パンジャンドラムの破片、巻き上げられた土砂。
 それらを破壊しようとする砲撃が、遂に停止した。
 弾切れではない。
 発射機や艦艇が破壊されたわけでもない。
 誤射を防ぐため、上陸第一波が海岸に接近すると同時に準備砲撃は一旦停止されるのだ。
 しかし、砲撃は止んでも上陸船艇の姿は見えない。
 ここで人間の軍隊であれば、この後に何が起こるかがわかっただろう。
 しかし、彼らはBETAだった。
 上陸作戦の基本など知るはずも無い。

 その答えは、海中からやってきた。
 海岸付近の海面が泡立ち、特徴的なシルエットが浮上する。
 水陸両用戦術機「海神」一個大隊。
 その先遣隊の一個戦術機甲中隊。
 同中隊の先陣を切る二個小隊が、分隊単位で固まりつつ上陸を開始したのだ。

 海神とは、上陸作戦において最初に海岸へ足を下ろすべく準備された、重武装の可潜型戦術機である。
 彼らの任務は、陸上戦力が上陸するための海岸堡の確保。
 後続の部隊が到着するまで海岸堡を確保しなければならないため、航続距離や機動性を犠牲にして武器弾薬を溜め込んでいる。
 抵抗が皆無に等しい上陸海岸で、海神たちは僅かに存在するBETAたちの反応を確認した。
 機関砲が、無反動砲が、誘導弾が、次々と放たれ、BETAの僅かな生き残り達を虐殺する。

 準備砲撃でその大半を吹き飛ばされたBETAたちに、それを推し留める事はできない。
 それを幸いと、上陸部隊は瞬くうちに大隊戦力の大半を上陸させ、更に後続を受け入れるために前進を開始した。
 この時点で、既にい号海岸での勝利は約束されたようなものだった。
 彼らは合計で四派四個大隊で構成されており、そのうちの三個大隊までは全滅する見積もりとなっている。
 それが既に一個大隊、それも損害なしで上陸に成功しているのだ。


「い号海岸へ第一大隊の上陸成功。損害なし。
 敵の抵抗は軽微のため、海岸周辺の確保へ移行」
「第二大隊は上陸を開始、現在のところ損害なし」

 うん、いいね。
 すごくいい。
 圧倒的ではないか、我が軍は。

「第二大隊よりの支援砲撃要請。座標データ受信中。第一戦艦戦隊は支援砲撃を開始」
「対地攻撃艦第一から第四戦隊は統制射撃を開始」
「真野湾北部および東部のBETA対空脅威消滅」
「マザーウィル第十九次砲撃終了。以後の砲撃は通常弾頭へ切り替え」
「巡航誘導弾第九次砲撃開始」

 現在のところ、作戦は順調に推移している。
 い号海岸こと真野湾沿岸部への海岸堡確保は時間の問題だろう。
 ここさえ確保できれば、極端な事を言えば残り全ての海岸に上陸を失敗したとしてもなんとでもなる。
 しかし、作戦を遂行するからには安全を確保した上でできるだけの戦果拡張をしたいものだ。

「第二大隊上陸完了、内陸部への戦果拡張を開始。
 第三大隊上陸中。損害なし」
「後続の上陸部隊は移動を開始。上陸準備」
「第一海兵師団は強襲上陸を開始。全LCAC移動開始」

 余りにも順調に事態が推移していく中、遂に内陸部への進撃を目的とした部隊が上陸を開始した。
 今回の作戦のために大量に用意させた強襲揚陸艦。
 その内部に納められた戦術機や戦車を載せたホバークラフト式揚陸艇が続々と発艦していく姿がモニターに映る。

「すごい」

 感情をどこかに置き忘れたかのような声音で、背後から声が聞こえる。
 振り返ると、沈黙しきっている部下達を放置し、伊隅大尉が呆けたような表情でモニターに見入っているのが見えた。

「帝国軍の底力、お気に召したようですね?」

 実際のところ、俺はただ与えられた能力を駆使して命じているだけだ。
 もちろんの事ながら、彼女達にはそんな事はわからないし、知ってもらっては困る。
 
「え、ええ、いえ、はい」

 素の回答を返し、慌てて「はい、いいえ」式に言い直してくる姿は大変に萌える。
 これはもう、重要無形文化財として保護しなければならないだろう。
 くだらない事を考えつつ、傍らに駆け寄ってきたオペ子に注意を向ける。

「緊急です」

 アンドロイドゆえに表情は変わらないが、錯覚だとしてもその言葉には若干の焦りを感じた。

「何だ?」
「日本帝国軍日本海艦隊の残存兵力が、徴用船舶と思われる貨客船を連れて本海域に接近しています。
 貨客船のコードは国連軍のものです」

 モニターを見ると、確かに艦隊が接近してきている。
 戦艦三隻、巡洋艦五隻、駆逐艦二隻と貨客船が二十五隻。
 コードを見ると、どうやら作戦開始前から監視をさせていた艦隊のようだ。

「想像以上に順調だったので手柄を分けて欲しくなったわけか」

 小声で呟き、自軍の状況を再確認する。
 揚陸艇第一波はい号海岸に取り付いたらしい。
 敵の抵抗は皆無。
 既に二個戦術機甲大隊と一個戦車大隊を揚陸したらしい。
 戦車は師団規模になるまでは海岸堡の防衛に当たるので、これは問題ない。
 ジオン軍のモビルスーツ「ザク」を相手に勝利できる61式戦車5型をベースにしたものなので、そう簡単にはやられないだろう。
 戦術機の方は一緒に持ち込んだ補給コンテナで何とかなるし、最悪の場合は飛んで空母まで戻せばいい。

「戦術機母艦前進を開始。陽動の誘導弾連続射撃開始」

 本来ならば陽動の誘導弾は全て破壊される事が想定されていたのだが、現状だと戦果拡張に繋がるだろう。
 何もかもが怖いほど順調に推移している。
 好事魔多しと言うし、ここは最大限の警戒をしておくべきだ。
 物量は確かに全てを叩き潰す絶対の力だが、敵も物量は得意技だからな。

「あの、閣下」

 恐縮しきった様子で伊隅大尉が声をかけてくる。
 用件は既に傍受し、解析済みのために理解しているが、礼儀として尋ねておこう。

「なんでしょうか?ああ、先ほどの言葉遣いでしたら、私は気にしませんよ」

 今後を考え、にこやかに答える。
 多少罪悪感を持って接してもらったほうが、いざという時にこちらの要望を聞いてもらいやすい。

「あの、実は、接近中の艦隊ですが、私どもの機体を運んでいまして」
「ふむふむ、帝国軍と国連軍の、人類の未来のための共同作戦と言うわけですな?」

 皆まで言わせず、俺は一人で早合点をして見せた。
 まあ、事情を知った上でだが。

「えっ?あの、はい、仰る通りであります」

 随分とキャラクターが違って見えるが、まあそれはいい。
 それよりも、彼女は本当に国連軍の暗部に関係する部署の人間なのだろうか?
 もう少し、なんというか図太く生きてほしいのだが。
 それはともかく、帝国軍艦隊はなおもこちらへ向けて接近しつつある。
 ここは礼儀として、誰何をしておくべきだろう。

「マイクをくれ、帝国軍および国連軍の有志諸君に挨拶がしたい」

 素早くオペ子がマイクを手渡してくる。
 当然のことながら、接近中の艦隊が使用している周波数の確認および司令部へ直接呼びかけるための準備は完了している。
 ネットワークに常時接続されている彼女達は、その程度の事など声に出さずとも実行できる。
 どうでもいいが、ネットワーク常時接続というと格好いいが、事実とはいえ、接続方式は無線LANというと途端に低スペックに感じてしまうな。

「当方は日本帝国軍第8492戦闘団上陸支援船舶隊である。
 接近中の艦隊へ、所属と目的を知らせよ。
 貴艦隊は、新潟防衛のために実施中の作戦海域に接近しつつある。
 危険を避けるため、可能であれば針路を変更されたし」

 さて、何といってくるかな。
 出来ればこちらが気持ちよく協力を受け入れられる表現をしてくれるとありがたい。

<<当方は日本帝国本土防衛軍、日本海艦隊である。
 現在防衛協定に基づき、国連第11軍佐渡島攻略部隊を護衛中である。
 国連軍は、い号海岸に上陸を希望しているとの事だ。
 なお、第十四師団長より伝言を言付かっている>>

 こちらの呼びかけを待っていたらしく、すぐさま回答が帰ってくる。
 なるほど、あの方も随分と苦労なされているらしいな。
 大方、血気盛んな帝国軍将校達と高圧的な国連軍将校達に囲まれて、断腸の思いで伝言を預けたのだろう。

<<すまない、頼む。以上だ。
 私には何の事だか良く分からないが、同感である。
 そちらの海岸堡確立を待って国連軍の揚陸を開始する。
 本艦隊は間もなく停止し、連絡を待つ。以上>>

 中間管理職の哀愁が漂う、しかし艦隊司令官に出来るであろう最大限の配慮を感じる通信だった。
 
「了解しました。現在い号海岸は上陸戦闘中のため、その場にて待機願います。
 進展があり次第後連絡します。以上」

 通信を終え、俺は主モニターを見た。
 相変わらず画面上は誘導弾の大群が放たれ続けている事を示す忙しない現実を映し出している。
 作戦開始からそれなりに時間が経過しているだけあり、徐々にこちらの損害が増加し始めている。
 とはいえ、本作戦においては参加艦艇全てと二個軍の全滅までが許容範囲に入る。
 しかし、現在のところ五隻の重巡洋艦、二十八隻の潜水艦、戦術機八機、9594発の巡航誘導弾および38119発の砲弾が破壊されたが、全ては想定以下の損害だ。
 俺が思っていたよりも、随分とBETAは脆弱だったらしい。
 何しろ、AL弾頭を一切使用せずにでこの程度の損害である。

「い号海岸への後続部隊揚陸開始、現在のところ問題なし」
「二個機械化戦闘工兵大隊揚陸成功。現在後続部隊の受け入れ準備中」

 続々と海岸へ到着するホバークラフトたちは、工作車両や武装した戦闘工兵たちを続々と吐き出しては沖合いの揚陸艦へと戻っていく。
 既に海岸堡周辺には一個連隊の戦術機および二個戦車大隊が展開している。
 これに続々と上陸しつつある増援部隊の戦力と沖合いの艦隊からの支援を考えれば、い号海岸の陥落は最早考えられない。

「い号海岸海岸堡確保率四十%。後続部隊の受け入れ準備完了」
「マザーウィル第二十六次砲撃終了」
「巡航誘導弾第十二次砲撃終了」

 作戦は気味が悪いほどに順調に推移している。
 このままいけば、い号海岸への揚陸は予定よりも早く終わるだろう。
 これから先、ろ号海岸への強襲上陸が成功すれば、作戦の成功は確実だな。



2001年12月8日土曜日05:59 日本帝国 佐渡島真野湾沿岸部 日本海艦隊

「上陸支援船舶隊より入電、い号海岸の受け入れ準備完了。以上です」
「上陸部隊が艦隊を離れていきます」

 陸兵だけの臨時編成船団など、所詮はこの程度か。
 護衛部隊に何も告げずに上陸船団が突出していくなど、通常では考えられる事ではない。
 日本海艦隊司令官は、刻々と離れていく国連軍を見送りつつ鼻を鳴らした。
 苦戦した場合に備えて待機はしていたが、まさか国連軍、いや、合衆国軍の水先案内人にされるとはな。

「閣下、上陸まで付き合わなくて本当によろしかったのですか?」

 艦長が尋ねてくる。
 真意を尋ねるような質問ではあるが、その声音に何かの意味は含まれていない。
 
「わかってて聞いているな?
 向こうが何も言わないで進んでいくんだから、いいじゃないか」

 突き放すように答え、そして更なる質問を防ぐために言葉を続ける。

「アメリカさんが何を考えているかは良く分かっているが、知ったことか。
 高度に政治的な判断の大好きな上の連中が何をしたいのかも知ったことか。
 まったく、貴重な燃料を消費して、残存艦艇全艦でお散歩とはな。
 帝国海軍は、俺の知らないうちに随分と金持ちになったようだ」

 日本帝国は産油国ではない。
 それは、船舶を動かすのに必要な燃料を全て外国から購入しなければならない事を意味する。
 人類史上初めての大戦争、終わりの見えない長期戦を実施している現状で、無駄は極力避けなければならない。
 例えば、戦闘を行う必要が無いのに艦隊全力で出撃するなど、常識的に考えて無駄でしかない。

「直ちに新潟港へ帰還する。
 全艦増速準備!」

 司令官の終わりの見えない愚痴が始まった事を察知した彼は、素早く部下達に指示を下しだした。
 彼らの上官は大変に軍事的才能に恵まれていたが、少しばかり上司としての資質に欠けるところがあった。
 
「緊急!師団規模のBETA多数出現!」

 それは、彼らが完全に油断しきった瞬間に入った凶報だった。

「待て!」
「回頭中止!最大戦速即時待機、戦闘準備!」

 それまで延々と愚痴を垂れ流していた司令官が声を張り上げる。

「舵戻します」
「最大戦速即時待機了解」
「戦闘準備!」

 報告が乱れ飛び、ブザーが鳴らされ、日本海艦隊は戦闘準備を次々に完成させていった。

「BETAの増援は?」

 8492戦闘団からのデータ提供を受けているため、彼らの手元には佐渡島全域の情報がある。
 主モニターに映し出されている状況は、なかなかに苦しいものだった。

「師団規模のBETAが少なくとも五個、他に連隊規模の増援も多数沸いているようです。
 光線級もかなりの数です」
「かなりではわからん」

 曖昧な報告をする参謀を叱りつける。
 もっとも、参謀も別に無能ゆえにそのような表現をしたわけではない。
 上陸支援を視野に入れた教育は受けているが、彼はあくまでも海軍の参謀である。
 佐渡島という沖縄本島の次に巨大な島での大規模戦闘を完全に把握するための教育は受けていない。
 
「最低でも五百体以上が確認されていますが、ああ、どうやら誘導弾の攻撃を受け壊滅したようです。
 他のBETA増援部隊も同様です。まったく、あの8492戦闘団という連中はどこか狂っているとしか思えません」

 本来であれば個人的な感情は必要ないのだが、それを咎める者はいない。
 現在展開されている激烈な戦闘は、人類の持つ常識を超えすぎている。
 こうして艦艇の中からデータとして情報を受け取っているうちはいいが、接近し、目視している合衆国軍の連中はどうだろうな。
 人の悪い笑みを浮かべつつ、司令官は刻々と変動する戦況を眺め続けた。
 あれだけの戦力を投入しているのだ。
 できれば、こちらの戦力が必要となる状況は避けたいものだが。
 彼の頭の中では、艦隊をいかに消耗させないで済むかの対策が練られ続けていた。
 8492戦闘団のこれだけの戦力、当然佐渡島より先を見据えての動員だろう。
 つまり、朝鮮半島、あるいは中国への強襲上陸と、それによる大陸への橋頭堡確保。
 絶対にそこまで考えているはずだ。
 この艦隊は、その時まで残しておかなければならない。

「ろ号海岸への強襲上陸始まりました!」

 このような状況下でありながら、第二次上陸作戦が始まった。
 中隊規模の戦術機部隊が続々と海岸へ取り付いていく様がモニターに表示される。
 
「どう考えるね?」

 先ほど叱責した参謀に尋ねる。
 せっかくの機会に勉強して欲しいだけであり、別に嫌っているわけではない。
 その証拠に、先ほどのやり取りは考査表には反映させないつもりである。

「準備砲撃の後に海神による強襲上陸という展開は、セオリー通りの展開です。
 敵も味方も規模が異常なために把握しづらいですが、現状を維持したまま上陸に成功すれば、こちらの勝利かと」

 BETAの抵抗はここでも皆無に近く、既に三個中隊が上陸に成功しつつある。
 飛び交う砲弾、吹き飛ぶ戦術機、損害を無視しつつ上陸支援に当たる戦艦群。
 誰もが興奮し、味方の勝利を願うような光景はそこには無い。
 確認された脅威に砲弾が降り注ぎ、整地された大地を戦術機が前進する。
 今までの人類が経験した事の無い戦闘が展開されている。
 
「現状を維持したまま、と言うことは、本土からの誘導弾が途絶えた時が危険だな」

 無限に降り注ぐ誘導弾の雨。
 ひょっとしたら、彼らの弾庫は本当に無限なのかもしれない。
 だが、弾庫は無限だとしても、発射機は無限には使用できない。
 例え連続射撃を想定して作ったとしても、人間が作るものに無限や絶対はありえない。
 
「誘導弾の砲撃がなくなったとして、一番弾幕が薄くなる場所はわかるか?」

 こうして来てしまった以上、観測だけで帰る訳にはいかないな。
 動き始めた艦隊司令部の中で、彼はそう呟いた。



2001年12月8日土曜日06:24 日本帝国 佐渡島真野湾沿岸部 作戦符牒『い号海岸』

「運搬ご苦労。
 さっそくだが直ぐに出撃したい。準備してくれ」

 揚陸艇からようやく全ての物資を下ろした整備班に対し、伊隅は冷酷に命令した。
 疲労困憊の極みにあるが、整備班も軍人である。
 生真面目に敬礼し、直ちに機体の展開に入る。
 もっとも、戦闘地域に持ち込むだけあり、既に基本的な整備作業は全て終了している。

「全機搭乗!チェックの後に出撃する!」

 声を掛け合いつつ、伊隅戦乙女中隊は戦闘準備に突入した。
 実戦を経験している軍隊は行動に無駄が無い。
 自己診断だけで出撃できる段階まで整備が済んでいた事もあり、彼女達は直ちに戦闘行動を開始した。

「我々の目的は、彼らから入手した技術情報で開発された新OSの検証である。
 各機、無理をするな。
 今回の我々は、死ぬ気で戦い、必ず生還する事が目的だ」

 傍受した通信からは、こちらが安堵できる内容が伝わってくる。
 どうやら、以前に傍受した内容と変わりはないようだ。
 安心して監視を続行させると、俺は通信用のコンソールに向き直った。

「それにしても、いきなりの乱入に肝を冷やしましたよ、香月副司令?」

 映し出された副司令に軽く嫌味を言ってしまう。
 今回は、それくらい許されるだろう。

「たかだか大隊レベルが乱入したぐらいで、アンタたちの作戦は狂わないと思ったんだけど?」

 この先のやり取りを予測した上で、そんな挑発するような事を言われても困るのだが。
 まあ、事情とやらを聞かせてもらおうか。

「仰るとおり、誤差の範囲ですがね。
 それで、どこの合衆国が横槍を入れてきたんですか?」

 思ったとおりだな。
 表情こそ平然としているが、何も発しない。
 まったく、ちょっかいを出したいのならばせめて軍規模の遠征軍ぐらい持ってきてほしいものだ。

「アンタたちの残骸やら何やらを回収したいらしい連中が、現地の国連軍に『支援活動』を命じたのよ。
 相当な圧力をかけたようで、止める間も無かったわ。
 それで、あるだけの部隊をかき集めて送り込んだワケ」

 なんともはや、無茶をしてくれる。
 軍団規模が殴りあう激戦地。
 それも敵地への強襲上陸が行われている場所へ、政治的な目的で事前準備も無しに部隊を送り込むのか。
 この世界はそれを可能とし、そして許容するというのか。

「それでお目付け役として日本海艦隊を引っ張り出したわけですか」

 先日の戦闘から立ち直っていないというのに、無理やり動員されるとは哀れな事だ。
 だが、現実は俺の想像以上に狂っていた。

「あれは違うわよ。
 日本の独自性が云々とか言う連中が、せめて護衛部隊だけでもつけるとか言い出したのよ。
 本土奪還作戦が、言い方は悪いけど余所者だけで行われる事に我慢がならなかったんでしょうね」

 だったら師団を連れて来い。
 そもそもが、一人でやってみろと言っておきながらそれはどうなんだ?
 余りにも非常識だと思うのだが。

「面白い国ですね、この国は」

 ここで喚き散らしても始まらない。
 それに、感謝されようが憎まれようが、俺の仕事はBETAの殲滅だ。
 それ以上でも以下でもない。

「それで、合衆国第一主義へのせめてもの嫌がらせとしてそちらの部隊を派遣してきたわけですね」

 別に謝罪の言葉が聞きたいわけではないため、先を促す。
 それに、モニターの向こうの彼女は、どちらかと言えば被害者的な立場だ。
 彼女に謝罪を求めるというのもおかしな話だからな。

「よく分かっているじゃない。
 それと、アンタから貰った技術情報、使わせてもらってるわよ」

 先ほど聞いたとおり、技術試験が目的か。
 あるいは傍受されている事を想定しつつの欺瞞情報かもしれないが、まあなんでもいい。
 作戦を失敗させる事か俺の暗殺でも企んでいない限りは何をしてくれても構わん。

「それとなく、支援しておきます。
 まずい時には機密保持より友軍との合流を命じていただけると幸いですね」

 支援は、戦術機と戦車の混成大隊でも当てておけばいいだろう。
 整備班の方は、まあ海岸堡にいる限りは放っておけば問題あるまい。
 海岸堡の整備班がやられるときは、この作戦が失敗で終わるときだ。

「それでは失礼しますよ」

 通信を切り、戦況を確認する。
 誘導弾は後二回斉射をしたら、一度整備のために攻撃を中止しなければならない。

「ろ号海岸への上陸は順調だな?」

 主モニターの表示を見る限りでは、特別な問題は何も生じていない。
 強いて言えば、BETAたちの抵抗が弱すぎ、輸送スケジュールに大幅な前倒しが必要になっている事ぐらいだろう。

「進捗率は現在32%です。
 間もなく海岸堡の防御は問題が無いレベルになります」

 非常識な戦力を整えたが、まさかここまでとはな。
 海神の大隊が気持ちが良いほどに戦果を拡張してくれている。
 おかげで後続の戦闘工兵たちが速やかな受け入れ準備を整えつつある。

「い号海岸集団内陸部への進撃を開始。
 大隊レベルのBETAと遭遇、戦闘中」

 手元の副モニターに現地からのライブ映像が届く。
 土煙を上げて味方に殺到しようとするBETA集団。
 観測機の手前に位置する戦術機部隊が、小隊単位に分散しつつ左右へと散っていく。
 それに吊られてBETAたちもバラバラに方向転換を始めた。
 愚かしい事に、彼らには戦術行動というものが全く無い。
 今の状況であれば、先頭集団はそのまま突進を続けつつ、後続を左右に振り分けるべきだ。
 そうでなければ、ほら、突進力を失った先頭集団が戦車に蹴散らされてしまったではないか。

 61式5型改の活躍は想像以上だった。
 飛び込んでくる突撃級を前に一歩も怯まず、必殺の155ミリ自動装填式連装砲を放つ。
 使用弾種はHEAT。
 冗談のようなサイズの戦車砲から放たれたそれは、命中と同時に一撃で突撃級を絶命させる。

 実用レベルの人型機動兵器を含む大規模軍事組織との戦闘を前提にした戦車。
 地球圏統一国家が国運をかけた総力戦の中で戦訓を取り入れ、最新技術を注ぎ込み、その上で改良に改良を重ねた、発展途上での最高がそこにある。
 戦術機に比べると使用されるクレート量が多いことが難点だが、別にいいじゃないか。
 戦車は男のロマンだし、軍事組織とはあらゆる要素を揃えて初めて完成品として機能できる。
 戦術機は確かに強力な陸戦兵器であり、戦車の仕事をさせることが出来る。
 だが、戦術機はどこまでいっても戦術機であり、戦車ではないのだ。
 それでは現在揚陸中の陸戦型強襲ガンタンク大隊はなんなのかとなるが、これは趣味だ。
 その証拠に、大隊規模で止めているだろう?

「緊急です」

 余裕の表情を浮かべていた俺を叱りつける様に、悪夢のような問題が報告された。
 朝鮮半島に存在する帝国呼称『甲20号目標』鉄原ハイヴより軍団規模のBETA集団の出撃を確認。
 佐渡島ハイヴの支援を目的とする可能性大。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.02597188949585