2001年11月20日月曜日 18:36 日本帝国 神奈川県 国連軍横浜基地 作戦司令室
溜まりに溜まったポイントを盛大に消費し、俺は軍備の増強を決定した。
現在の新潟地区は、建設中のものも含めて四つの要塞、十八の火力陣地、全海岸線を覆う地雷・機雷原によって防衛されている。
これら固定の戦力に加え、四個戦術機甲師団、二個独立砲兵師団、一個機械化戦闘工兵師団が即応体制で警戒中だ。
原作を見た限りでは佐渡島占領には不足する戦力だが、同じく原作から考えるに、新潟の防衛には十分すぎる戦力と言えるだろう。
既に十分チート極まりない状況だが、俺の目標からすれば完全充足には程遠い。
何しろ、最終的には十個の要塞からなる要塞地帯と、その隙間を埋める陣地、外周を守る地雷原を構築する事を第一目標としているのだから。
もちろん、入れ物だけを作って満足するほど愚かではない。
これら身動きの取れない戦力を機動防御すべく、十六個戦術機甲師団および八個独立砲兵師団、二個地上機動艦隊を添えて、俺の新潟防衛構想は初めて完成する。
言い忘れていたが、要塞を除く戦力の半数はこの地域に貼り付けの防衛戦力として今後も活用していくつもりだ。
危険な日本海沿岸を我々が担当する事により、その間の時間で日本帝国には戦力の回復と増強を行ってもらわなければならない。
「こんにちわSS大隊指揮官殿」
俺はナチス式の敬礼をしつつ、笑顔で挨拶をする。
作戦以上戦略未満を担当する立場になった以上、いつまでも前線指揮を楽しみ続けるわけにもいかない。
「こんにちわ国連軍戦闘団指揮官殿。いや、今の場合は日本帝国本土防衛軍少将閣下とお呼びするべきかな?」
目の前にはあの懐かしきSS大隊指揮官が立っている。
一騎当千の吸血鬼一個大隊はついていないが、まあそれはいい。
こちらには文字通り一個軍団規模の戦術機甲部隊がいるからな。
「どちらでも構いませんよ」
俺は苦笑しながら答えた。
この世界での階級など、この世界の人間相手に使うとき以外は必要ない。
「一心不乱の大戦争ですよSS大隊指揮官殿。
軍団を率いて軍団とぶつかり合い、憎むべき敵を打ち倒す、本当の戦争ですよ」
俺の言葉に大隊指揮官が喉を鳴らして愉快そうに笑う。
彼は間違えても人類の守り手ではないが、戦争をこよなく愛する人物である。
一心不乱の大戦争ができると言われ、さらにBETA相手ならば何をしても良いと言われるのだ。
彼にそれをあえて断る理由は無い。
「閣下のような方の下で戦争ができることは実に喜ばしい。
何なりと、ご命令を」
しかし、最初に思いついた指揮官が彼というのもなかなかだな。
俺の脳はいい具合にだめになっているらしい。
「それで、私が指揮すべき部下たちはどこに?
まさか無人兵器だけではないでしょう」
ご明察である。
今の部下たちはAIとしては大変に有能な存在だが、ありとあらゆる物語が示すように、無人機は有人機には勝てない。
まあ、正しく表現するならば、高性能な無人機は、そのスペック以上に強力な相手には勝てない。
現実ではどうだか分からないが、ここは物語の世界である。
優秀な軍人たちを数多く抱えたとしても、問題は無かろう。
「ひとまず、貴方には六個大隊編成の増強師団を一つ預けます。
各大隊長は別室で待機しています。
ご安心ください、全員が有能で、そして大隊規模の戦力を率いた実績と、活躍した経歴を持っています。
日独混合ですが、そのあたりはご容赦ください。
詳細はこの資料に」
ポイント制限的な意味で、中隊指揮官や小隊指揮官まで自由には出来ない。
俺にはやるべき事、手に入れるべき物、作り上げるべき状況が数多く存在している。
無人兵器で事足りている現状では、頼もしい仲間たちよりもそれらを優先しなければならないからだ。
「了解いたしました。それでは合流後に新潟に向かいます」
SS大隊指揮官は敬礼すると、不気味な笑みを浮かべたまま退室していった。
創作物に出てくる有能な指揮官たち、それらと肩を並べて戦うことができるというのは実に心強い。
新潟地区の防衛および後の佐渡島への反抗作戦はこれで大丈夫だろう。
「報告します。本土防衛軍総司令部より命令書が来ました」
退出を待っていたかのようなタイミングで一体のオペレーターが口を開く。
「メインモニターに出してくれ」
俺の完全な趣味で用意させた無駄に凝った作りの巨大なディスプレイに、拡大されたA4の書類が表示される。
いいじゃないか、男ならば一度は言ってみたいセリフの一つなんだ。
そんな個人的な趣味はさておき、表示された書類にはこう書かれていた。
発:本土防衛軍総司令部
宛:新潟地区防衛担当者
本文:貴官担当地域の不法滞在難民および疎開対象地域住民に対し、速やかなる避難活動を実施せよ。
委細についてはよろしく検討されたし。
避難先および輸送ルートについては添付のデータを参照せよ。
現在の新潟県には三種類の民間人がいる。
ひとつは政府の避難命令を聞かずに不法滞在状態となっているもの。
次に、先の新潟防衛作戦にて戦闘地域になることが確認されたエリアから疎開を命じられたもの。
最後に、居住地域的に疎開対象とはならず、さらに軍に関係する職業についている居住許可者である。
居住許可者については今後も身の安全を考えてやるだけでいいが、問題は不法滞在者と新規に疎開を命じられた人々である。
その数五万人。
数だけで言えば三個師団ほどであるが、この大半が老人や子供、兵役に適さない病人や負傷者である。
単なる前線指揮官として意見をするのであれば、彼らは全く不要な存在である。
しかし、新潟地区防衛担当者としては全く別の意見が出てくる。
俺は、国土防衛という崇高な任務のほかに、被災地の復興、民間人の生活の保障までもが責務として与えられているのだ。
どうやら進言を行った香月副司令は、俺がある程度以上に自由自在に使える物資を持っていると睨んでいるのだろう。
そうでなければ、策源地を持たない地方勢力である俺に対してこのような命令が来るはずが無い。
「避難民たちが今回配給分の食事を食べ終わるまでにどれくらいかかる?
余裕を持った時間で構わん」
具体的に見えて、非常にあやふやな事をシステムに尋ねる。
到着予定時刻ならば最後に出発した部隊に尋ねれば直ぐに答えが返ってくるが、何時食べ終わるのかなど知るはずも無い。
「最西端拠点の自警団のパトロールパターンからして、全員が食べ終わるのは恐らく1850時ごろと予測されます」
さすがは神様印のスーパーシステムだ。
あらゆるパラメーターを勝手に収集し、抽象的な質問にも答えられるようにしている。
これはこれでチートだよな。
「避難民には申し訳ないが、直ぐに済ませてしまおう。
本日1900をもって避難警報を発令、事情は何も説明しなくていい。
ああ、一応周辺部隊および本土防衛軍にだけは説明しておくように」
避難を拒む民間人たちに銃口を向けて無理やり狩り立てるのは趣味ではない。
ここはあくまでも自主的に避難してもらおう。
避難警報は基本的にBETAの襲撃か大規模自然災害が発生した場合にのみ発令される。
もちろん、その音色を脳裏に刻むため、避難訓練でも実際と同じサイレンが鳴らされるわけだ。
ここは戦場で、そして人々は疲れきっている。
突発的な避難訓練実施に当たり“うっかり”訓練放送であるアナウンスを忘れてしまっても仕方が無いだろう。
まあ、こんな事をしてしまえば、避難民たちは二度と警報を素直には聞いてくれなくなる。
しかし、彼らの疎開先である青森県太平洋沿岸部でこの警報が鳴り響いたときには、日本帝国は終焉を迎えようとしている。
避難しようにも行き先が無いという状況だろう。
「佐渡島のBETAたちに反応は?」
「攻撃の兆候を示すデータはありません」
哨戒部隊からの報告、衛星からの情報、聴音による観測結果、あらゆる角度からの情報を総合した回答が返ってくる。
データに基づく作業をしている分には、コンピュータはとても信用できる。
それらの情報から判断する場合に、初めて人間の出番が回ってくる。
もちろん経験豊富な参謀団がいてくれればそれに越したことは無いが、我が軍にはそこまでの余裕はない。
「本当は無理に疎開させる必要も無いんだがな
疎開先の情報は?」
直ぐにモニターへ回答が表示される。
災害援助用大型天幕二十、陸軍野営用テント三百人分、食料は未到着。
四万人を避難させるに当たって現時点でこれというのは酷すぎるのではないか?
「全員分の仮設住宅ぐらいは用意しておいてやれ。
ああ、それとインフラ系の整備も怠るな。
嘘をついて追い出すんだ、それくらいしてやってもかまわんだろう」
他の避難所がうるさいだろうが、そこまでは知らん。
日本政府がやめてくれと言うまで、文句をつけてくる避難所にはあらゆるものを用意してやる。
身分や立場を気にする必要がなくなったチーターを無礼るな。
「他の難民キャンプから苦情が入ったらそこにも送りつけてやれ。
日本政府から苦情が入ったら俺に回せ。この件は以上だ」
部下たちに命じ、佐渡島周辺の軍事地図を見る。
現在の新潟県は海岸に間隔を開けた無人兵器による警戒陣地を構築し、その後ろに国連軍と撤収中の帝国軍が防衛線を引いている。
民間人の撤収作戦の完了をもって、県東部の一部陣地以外から全ての人間がいなくなることになる。
その分の戦力は後方へ下げられ、休養と補充の後に北海道戦線の増援部隊となるための転進が決定している。
「これで一息つけるだろう」
別に俺だけの言葉ではなく、撤退中の新潟方面防衛戦力、日本海艦隊残存兵力、北海道方面の帝国軍将兵たち、国家を運営する政治家や官僚たち。
全ての人々が俺と同じ趣旨の発言をしているはずだ。
限界を超える一歩手前まで追い詰められていた日本帝国は、遂に反抗のための予備戦力に手を付けずに防衛線の再構築に着手できた。
これは後の佐渡島攻略作戦および横浜基地防衛、桜花作戦に大きな影響を与えるだろう。
横浜基地で大暴れをしてしまったときにはどうなる事かと思ったが、よかったよかった。
「司令、撤退中の帝国軍指揮官から通信が入っています」
感慨深げに一人で頷いていると、オペレーターが話しかけてくる。
「用件を聞いてくれ」
さて、何が起きたかな。
こちらの警戒線を超えたBETAはいるはずが無いから、あるとすれば、アレを見つけたか。
「警戒活動中に所属不明のトレーラー五台を発見。内部には五十トンの精錬された純チタニウムインゴットが保管されており、心当たりはあるかとの問い合わせです」
最初のお土産を見つけてくれたようだ。
「全く完全に知らない。新潟に拠点を持つ民間企業の物かもしれないので、こちらで照会する。
それまでは申し訳ないが帝国軍で保管してくれと伝えろ」
「了解しました」
視界の端で行われるやり取りを眺めつつ、俺は手元のディスプレイに映し出されたお土産作戦物資配置図を見る。
お土産作戦とは、素直に国連軍の旗を掲げた輸送艦隊で物資を供給した場合、それをどこから持ってきたと言われてしまうために考えた、あまり冴えていないやり方だ。
この世界の経済システムを破壊しない程度に日本帝国に肩入れをするための手段として実行している。
「司令、市街地を警戒中の新潟県警より、所属不明のタンクローリー複数を発見との報告が入りました」
「第十一難民キャンプ自治会より、持ち主の分からないトラックの一団があるとの通報があります」
「撤退準備中の帝国軍第十二師団司令部より、所属の分からない帝国軍輸送車両を多数発見との報告があります」
「第十四師団司令部より入電、師団長が愉快そうに笑っている。と伝えてほしいとの事です」
全ては順調に進んでいるようだ。
難民たちが好きなだけ物を詰め込んで移住できるように、撤退中の帝国軍が空薬莢一つ残さないように。
そして、この度の防衛戦と再編成で消費される国力を僅かばかりでも補えるように、この作戦は完遂されなければならない。
幸いな事に、帝国軍の諸君および難民たちはただ単純に喜び困惑しているようだ。
まあ、第十四師団の師団長閣下は何か感じるものがあったようだが。
「閣下、避難作戦の準備完了しました。
いつでも始められます」
近い席のオペレーターがこちらを振り向いて報告する。
大変よろしい、これで安心して要塞建設を加速させることが出来る。
「避難訓練を開始する。付近の帝国軍に通報の後、全ての警報を鳴らせ」
「了解、通報完了後、警報を鳴らします」
短い復唱の後に、全てのオペレーターたちが一斉に帝国軍への通報を開始した。
避難民たちには申し訳ないが、敵の奇襲が考えられる地域に必要以上の民間人を置いておくわけにはいかない。
佐渡島ハイブを落とすまでの短い期間、彼らには太平洋側での生活を耐え忍んでもらわなければな。
「通報終わりました。近隣の全部隊より復唱を確認しています。
BETA襲来警報を鳴らします。なお、避難民たちにはうっかり訓練である事を告げ忘れました」
あくまでも真面目な声で報告するオペレーターに苦笑しそうになる。
住み慣れた故郷から追い出される人々には申し訳ないが、これは人命を守るための必要なうっかりだ。
正当な評価とやらは事情を知っている連中と後世の歴史家に任せるとして、ここは一つ、大嘘つきで無能な指揮官を演じよう。
「警報を鳴らします」
最後の報告の後に、この基地はもちろんの事、新潟県内の全ての放送設備が生き残っている場所でBETA襲来警報が鳴り響いた。
そこから先の事は詳しく記載する必要はないが、とにかくこの地域にいた全ての民間人たちは避難した。
装甲列車と連結された客車、あるいは観光バス、路線バス、軍用輸送車両その他諸々に分乗して。
当然の事ながら、彼らの周囲には無数の戦術機、戦闘車両、および完全武装のG.E.S.Uたちが付き添っている。
全ての避難所に余るほどの輸送車両が送りつけられていたため、大きな混乱は無く、避難民たちは好きなだけの物資を持って旅立つことが出来たようだ。
後の報告では、仮設住宅や取り外し不可能なインフラを除いてあらゆる物が運び出されたらしい。
嘘と知りつつも顔面を恐怖に歪める演技をしつつ避難活動を指揮してくれた新潟県職員および市職員たちに敬礼だな。
新潟地区防衛担当者名義で謝罪文でも出しておくとして、彼らが帰ってきたときのために復興作業もある程度はやっておこう。
もう二度と、新潟の市街地が戦場になることは無いだろうからな。
「デザインルームに行ってくる。帝都から何か連絡が来たら内線に回してくれ」
オペレーターに命じ、俺は部屋を後にした。
宙対地兵器、陸海両用艦艇、より高性能な戦術機、戦車、強化装甲服、携行兵器などなど。
最終決戦どころか目前に迫りつつある佐渡島侵攻作戦に向けて、用意しなければならない兵器はいくらでもある。
第18次BETA殲滅作戦途中経過
2001年11月20日火曜日 20:05:01
コマンダーレベル:11
パイロットレベル:9
プラント発展度 :5
現在所持ポイント:150,000 → 50,000
クレート数 :8,509,753t → 8,001,001t