「手順はあるのでしょうか?」
ありがたくメモ帳を手に取りつつ俺は尋ねた。
「基本としてはまず、君の立場をどうするかを考えるべきだな。
その身一つで登場することも可能だし、この世界に戸籍と履歴、立場を用意することも可能だ。
さまざまな能力を持って登場する事もできるし、強力な友軍を率いて参戦も出来る。
だが、ルールがある」
「どのようなルールでしょうか?」
ある程度予測は付くが尋ねてみる。
「どちらも、ということは出来ない。
君を強力にするのならば仲間は連れて行けないし、仮に特別な存在として出現するのであればこの世界に君はいなかった者としてしか無理だ。
元々いた存在としてであれば、例えばこの世界の将軍家のような、絶大な権力を握る人物としては駄目だ」
なかなかにルールは厳しいらしい。
つまり、俺TUEEEEをするのであれば仲間を連れて行くことは禁止で、一人で行くにしても世界経済を闇から操る“機関”の最高司令長官みたいな設定も禁止なわけか。
「仲間を連れて行かない、という仮定の場合、つまり自分を強化する場合にもやはり制限が?」
「衛士としての基本的な能力、知識は自動的に付与される。
これは君が生きていくために必要なものなのでサービスだ。それ以外については見てもらったほうが早いだろう」
俺の質問に目の前の存在は画面を指差す。
誰も操作していないにもかかわらず、メニュー画面が勝手に進んでいく。
人物→自分→能力。
と勝手にカーソルが進んでいく。
容姿・身体能力・特殊能力・精神力・知識と項目が並んでいる。
なかなかに手が込んでいるな。
身体能力の項目にカーソルが合うと、プルダウンメニューが現れる。
不老不死:全ポイント、人類もしくはBETAの攻撃のみ無効:全ポイント中半分、一度だけ復活:全ポイント中四分の一。
その他にも色々とあるが、なかなかにポイント消費量が大きい。
特に、全ポイントに対しての割合で求められるのが厳しい。
「様々なルールが存在している。
適時質問したまえ」
それだけ言うと、目の前の存在は沈黙した。
とりあえずやってみるかとマウスを手に取る。
画面右上の表示によると、俺の持ち点は十四万点。
サービスで四万ポイント貰ったという事は、元々十万ポイント持っていたと考えるべきか。
各項目を見て、自分が取りえる選択肢を確認する。
「なるほどねぇ」
約二時間、たっぷりと吟味した俺は思わず声を漏らした。
自分自身に関しての項目は、他者に対するそれよりも消費量が大きいことが判明した。
また、友軍として連れて行ける仲間や兵器は、あくまでも自分自身の知っているものだけである事もわかった。
この知っているという点が面白く、別に会社の同僚や友人のみ、という意味ではなく、知識として見聞きしただけのものも含まれる。
つまり、ハンス=ウルリッヒ・ルーデルを筆頭に最強軍人軍団を作る事もできるし、アムロ・レイを隊長にロンドベル隊を呼び出す事も可能なのだ。
兵器についても、Hi-νガンダム師団も作れるし、戦艦大和を旗艦とする聨合艦隊を思いつく限りの艦艇を加えて作り上げる事もできる。
「君のたどり着いた結論は間違っていないよ」
念のため尋ねたところ、目の前の存在は俺の考えを肯定してくれた。
おまけでさらに一万ポイントもくれた。
どうやら理知的な言動をするとポイントをくれるらしい。
俺の前任者たちは一体どれだけの醜態を晒していたのだろうか。
とにかくこれで十五万ポイント。
増える事は確かに嬉しいが、それで何でも好きな望みが叶うようになったわけではない。
多数の選択肢の一つ、あ号標的、つまり敵の地球上における最高指揮官を倒した後に、元の世界へ帰還できる。
これを選ぶと、全ポイントを消費してしまうのだ。
選ばないのであれば、少なくともルール上では元の世界へ戻れない。
だが、味方も戸籍もなしにあの世界に放り出されれば、最悪の場合誰に会うことも出来ずに焼死・窒息死・墜落死・圧迫死・かべのなかにいる・BETAに喰われるといったオープニングになってしまう。
これだけいやらしいルールを作る存在だ。
ランダムに出現場所を任せれば、きっとろくでもないことになる。
ここまで言えばわかるように、自分の出現場所についてもランダム・もしくは任意で決めなければいけないのだ。
BETA支配地域の場合は消費ポイントはゼロ、人類支配地域の場合では、安全度に応じてポイントが上がっていく。
出現場所について消費される上限は一万ポイント。
「好きなだけ悩んでくれ。だが時間は有限だよ」
画面右上、持ち点の下にはタイマーがある。
残り時間は7時間52分31秒。
止めるのならば一万ポイントが必要だ。
「まあ、仲間がいない事にはどうしようもないな」
人物の項目から、仲間を連れて行くを選択する。
メニュー上の、自分についての項目が消えてしまうが、悔いは無い。
ちなみに、選択した結果として使用できなくなった選択肢は消滅する。
ひとつ前の状態に戻すのにはやはり一万ポイント必要だが、どちらにせよ自身を不老不死にするという選択肢は選べない。
不老不死と、最強の力(超能力なり非人間的な戦闘能力)は、どちらかしか選べないのだ。
つまり、不老不死だがその他は普通の人間か、空前絶後の戦闘能力を持ってはいるが被弾すれば死ぬ英雄か、どちらかになる。
だが、俺は一般的な日本人男性である。
前線で戦い方を覚える前に死ぬ可能性が非常に高いし、不老不死、という表現にとても不吉な響きを覚える。
不老不死と肉体的な意味での無敵は、果たしてイコールで結ばれているのだろうか?という事である。
それならば、頼れる仲間たちを呼び出して、俺は原作知識を元に代表者を務めるのが良いだろうと考えたのだ。
それ以前に、いかに有能であろうとも、一人で出来る事など短時間の局地戦闘が限界だ。
例え戦術レベルであろうとも、地図上に記号として表示できる程度の戦力規模は必須だ。
「現実かアニメか、それが問題だな」
これも選択なのだ。
俺が知っている現実世界の軍人は、稀代の英雄か歴史に残る無能者だけである。
まあ、これはその他大勢に分類される将校や下士官兵の名前を記憶するほど見聞きする機会に恵まれていないから仕方がない。
例外もいるといえばいるが、それは第二次世界大戦と冷戦時代の一握りの存在に限られる。
「どちらにするべきなんだろうな」
架空の存在については、もちろん大量に知っている。
総司令官レベルから訓練兵まで、なんでもござれだ。
「無難にいくならばガンダムになるのかな」
もちろん人型二足歩行兵器で集団戦を行う作品は無数にある。
だが、自分が知る中で一番知っているのはガンダムになる。
初代から最近までテレビでやっていたものまで、種類は豊富にある。
しかし、問題点としてガンダムの登場人物、それも優秀な人物は信じられない程にポイント消費量が多い。
例えば、初代からZZガンダムまで、主人公のみオールスターとすれば、なんとそれだけで十万ポイントを消費してしまう。
対して現実に存在していた軍人たちは、伝説級の人物でも一人最高五千ポイント。
「まてまて、ひょいと与えて直ぐに使えるのか?」
念のために質問してみると、答えはNOだった。
一万ポイント使えば機種転換できるらしいが、ただでは出来ないらしい。
それならば簡単だ。
現実にしろアニメにしろ、自分に従ってもらうためには一人千ポイントが必要になる。
ここは、架空の存在で固める事にしよう。
架空の人物を使用する、をクリックすると、現実の人物の選択肢が消滅する。
さようならハンス=ウルリッヒ・ルーデル大佐殿、貴方は偉大な人物でしたが、航空機が活躍できない世界がいけなかった。
俺は架空の人物を選択してから、用いるべき兵器についての思考を始める。
「人型兵器といえば、エヴァにアーマードコア、ウァンツァーにヘビーメタル。
量産が効くものは少ないな」
その後も思いつく限り並べてみたが、ある程度の量産性を保ったこの世界に適正のある機体は少ない。
ワンオフ機の類は除外すると、ガンダム、ヴァルキリー、レイバー、ボトムズ、ヴァンツァー、エルガイム、ドラグナー、アーマードコア。
ざっと考えて俺が思い出せるのはこのあたりになる。
ガンダムとヘビーメタル、ヴァルキリーとアーマードコアは技術レベルからいって製造ラインが高すぎるので却下。
逆にレイバーやボトムズについては戦闘能力からいって死亡率が酷い事になりそうなのでこれまた却下。
残るはヴァンツァーとドラグナーになるが、後者は空を飛べず、電子戦も意味がない戦場では厳しい。
主人公機の量産型であるドラグーンは強いと聞いているが、あいにくと俺は見た事がない。
丁寧に候補を消していき、そして最後に残ったのはヴァンツァーだった。
しかし、これは三次元機動ができない。
それでは最終決戦で役に立つことが出来ないし、普通の防衛戦でも地中からBETAが現れればなすすべがない。
悩んで悩んで悩みぬいた挙句、俺はアーマードコア、通称ACを持ち込むことにした。
製造ラインが死ぬほど高いが、持ち込む機数を減らす事で対抗しよう。
「さて、パイロットだ」
これがまた問題だった。
一言でいうならば高い。
散々戦ったおかげで各リンクス達の名前は覚えているが、使える連中は軒並み高価だ。
かといって、低レベルな連中を連れて行ったところで意味はない。
中距離射撃主体のウィン・D・ファンションと癒し役のダン・モロ、火力重視の有澤隆文は個人的な趣味として外せないとして、誰を連れて行くべきか。
既に用意されている結論として、俺は主人公たる白銀武と巨大機動兵器凄乃皇(スサノオ)弐型を護衛できる戦力が必要だ。
敵要塞に突入する最終決戦に参加できないのであれば、軍団規模でも連れて行かない限りはストーリーの引き立て役にしかなれない。
機動力を重視するか、火力を取るか。
少しばかり悩み、俺は火力を選んだ。
敵は呆れるほどの物量と、百発百中の対空レーザーを持つBETAだ。
地上戦においては、少しばかり綺麗な軌道を描いて見せたところで、レーザーで焼かれておしまいだろう。
戦車型のスティレットも連れて行くとして、ポイント的にこれが限界だな。
残りは八万五千点。
「主人公たちを補佐できるメンバーを集めたというところだね。
さて、兵器については注意点が一つだけある」
俺が兵器の項目を選択したところで、目の前の存在は突然口を開いた。
無言で先を促すと、彼は説明を始めた。
「君はアーマード・コアを選択した。
このタイプは、本体であるコア部分を含めてパーツ換装が出来る事が特長だ。
しかし、君が行く世界ではショップは無い。
もちろん整備保守は持ち込むプラントで生成可能だが、自由度は失われる」
ここまで選択したところでそのような事は覚悟済みだ。
それに、パイロットには彼らが扱う機体も付属している。
戦闘中に撃墜されて失われない限りは大丈夫だろう。
「ちなみに、ラインはポイント消費で持ち込めるようですが、それを動かす人員はどうなるのでしょうか?」
「保守部材と人員については必要ない。
無人で製造から保守までこなす無敵プラントを用意しよう。
だが、君はそれらを維持運営できる資源を何とかして入手しなければならない」
嫌らしいルールだ。
何が何でも現地の人間たちと交渉を行わないといけないようになっているらしい。
ああ、俺用の機体も用意しないと駄目か。
「サービスで私は戦術機を操れるという事ですが、これは機体を選ぶのでしょうか?」
「いや、君が選択した搭乗機に最適化される。
好きな機体を選ぶといい」
ありがたいお言葉だ。
メニューを選ぶと、差分も含めた様々な機体が表示される。
まあここは、後々の事を考えて撃震ブロック215だろう。
これは旧式の77式戦術歩行戦闘機撃震を近代化改修し、そこへXM3という高性能OSを搭載した新鋭機だ。
機体性能自体は後の新機種たちに劣るが、この機体のOSが持つ優位性はそれを用意に覆す。
俺の搭乗機自体を交渉材料の一つとできるだろう。
「俺の予備機とACのためのプラント、あとは拠点についてか」
拠点、それは出現場所を含めて多くのポイントを必要としている。
現在の持ち点は、俺の予備機とAC用の整備プラントを購入したために残り三万七千ポイント。
出現場所を選択するために一万ポイントを予め差し引いておき、事実上二万七千ポイントだ。
強化コンクリートによる整地と格納庫、管制室、滑走路、福利厚生施設、宿舎。
これらは信じられない程に安い。
現状に倍する戦力を収容できるようにしたにも関わらず、七千ポイントしか消費しない。
残りは二万ポイント。
「ここでポイントを余らせたのは君が初めてだよ」
目の前の存在は、やはり抑揚の無い声で驚いたかのような言葉を発する。
実際には驚いているのかもしれない。
「残り二万ポイント、誰か手ごろな英雄を選ぶか」
カーソルを移動させようとして、小さなボタンを発見する。
何か別の項目があるようだ。
現れた文字を朗読する。
「技術開発、だとぅ?」
プルダウンメニューには様々な文字が記載されている。
新型合金開発、エンジンの効率化、火砲の強化、無人防衛システム開発、強化型歩兵装備開発。
魅惑的な言葉が並べられている。
「そこを見つけたのは二人目だよ」
目の前の存在はどうでも良い情報を伝えてくる。
俺は、目の前に並べられた文字に心を奪われ、満足な回答が出来ない。
XM3と同じく、これらの技術情報は人類全体の生存確率を向上させる役に立つ。
もちろん、現地勢力との交渉のカードにもなるが。
「千ポイント!全部千ポイントだ!」
思わず歓声を発してしまったとしてもバチは当たらないだろう。
ずらずらと並ぶ新技術開発に必要なポイントは、全て千ポイント。
数は全部で20個。
狙ったかのような数量である。
迷うことなく全項目を選択し、そして終了をクリックする。
「準備は終わったようだね」
目の前の存在は確認するように言った。
全てのポイントを使いきり、俺はある種の達成感に近いものを覚えていた。
仮に俺がいなくとも、これだけのメンバーと装備、それに技術情報を持っていけば、人類の勝利は確実だろう。
それも、原作のように主人公を取り巻くヒロイン全てが死ぬような悲惨なものではなく、よりよい形で。
「準備はいいね?もっとも、ここでこれ以上何かできる事はないはずだが」
この世界では圧倒的戦力を誇る部隊を用意した。
最強に近いOSを搭載した戦術機も準備完了だ。
多くの技術情報を引っさげ、世界の命運を握る基地の隣に拠点を構える。
しかし、目の前の存在が言うとおり、これは準備段階に過ぎない。
俺は、これらを率いてマヴラブオルタネイティブの世界に登場しなければならないのだ。
自分の命を賭け、人類のより良い勝利に貢献しなければならない。
「それでは、私の世界をよろしく頼みます」
目の前の存在は最後の最後で正体を明かし、そして俺の視界は白い光に包まれた。
行く先はわかっている。
平行世界の2001年10月22日月曜日。
国連軍横浜基地、そこへ繋がる桜並木の先。
日本国神奈川県横浜市柊町跡地である。
第18次BETA殲滅作戦開始
現在所持ポイント:0
保有技術:
01:XM3開発データ
02:新型合金開発
03:エンジンの効率化
04:戦術機携行火器の強化
05:スラスターの改良
06:ブースターの改良
07:発展型不知火
08:第四世代戦術機基礎理論
09:戦車級用近距離防護火器開発
10:発展型不知火改良型
11:生産の効率化技術
12:AL(アンチ・レーザー)弾頭の改良
13:発展型AL弾頭
14:長距離火砲の改良
15:無人防衛システム開発
16:発展型無人防衛システム
17:地中振動監視技術の改良
18:発展型地中振動監視技術
19:G弾(BETA固有の元素使用の大量破壊兵器)の改良
20:発展型G弾技術