2001年11月11日日曜日 06:20 日本帝国 新潟県第十五防衛ライン
<<戦域司令部より警戒中の各隊へ通達。沖合いを警戒中の日本海艦隊より連絡、佐渡島ハイヴよりBETA集団の移動を確認。
現在阻止攻撃を実施中。全ての部隊は直ちに出動、増援部隊申請中、到着予定時刻は未定。以上>>
「始まったぞ」
既に出動中の機体の中で、俺は全員に戦闘開始を告げた。
<<有澤重工、雷電だ。
第一特殊戦術機甲大隊、ええい、ネクストは全機突撃、海岸の帝国軍を確保する>>
言い慣れない言葉に珍しく苛立った様子の社長が手短に指示をする。
気持ちは分かるが、こちらは国連軍部隊として行動中なのだから、耐え忍んでほしいところだ。
まあ、正しい言い回しをすれば目の前のBETAたちが消し飛ぶわけではないのだからどうでも良いといえばそうだが。
「こちらは8492戦闘団、指揮官のグラーバク01だ。
戦域司令部に通達、当地の国連軍部隊は支援を開始する」
帝国軍の周波数にあわせ、手短に用件を告げる。
<<こちらは戦域司令部。
グラーバク01へ、そちらの戦力を報告せよ>>
「当方には定数を満たした三個大隊編成の一個戦術機甲連隊および一個砲兵連隊がある。
108機の新型実験機と155mm自走砲が288門だ。
これに加え、特殊実験機一個中隊相当が現在突撃中。
最大で十二時間の戦闘活動が可能な見込み。
なお、補給物資は当方の基地より自給可能だ」
我ながら反則的な戦力である。
半日かけて構築した組織図を使って現有戦力を説明すると、以下のようになる。
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国連軍第11軍極東方面軍第8492戦闘団(定数なし・方面軍直属)
同第901司令部連隊(無人戦術機一個大隊・G.E.S.U一個大隊、無人兵器部隊)
同第101戦術機甲連隊(三個大隊編成)
同第301自走砲連隊(四個大隊編成)
同第501特殊戦術機甲大隊(ネクスト部隊)
同第1後方支援大隊(G.E.S.U部隊)
同第1001戦略補給隊(恒星系外探査部隊・非公開)
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最後の一つは特殊な上に非公開だが、対外的に公表できる戦力だけでもかなりのものである。
これだけの戦力を持ち込んで、史実と同等かそれ以上の損害を帝国軍に出させたら、白銀に合わせる顔がない。
<<了解、まずは移動中の支援部隊の展開を援護してもらいたい>>
データリンク経由で支援部隊の位置が送られてくる。
なるほど、熊野神社付近に砲兵部隊を集中させて阻止砲撃を加えるわけか。
海軍からの情報では、BETAは佐渡島東岸の松ヶ崎付近から本土の角田浜へ向けて移動中との事なので、妥当な作戦といえる。
「了解、二個大隊を支援に向かわせる、全て無人機だが、音声で指示を受けるようになっているので使い潰してくれ。
当方は一個大隊を率いて角田浜付近の友軍支援にあたる。
なお、我々の自走砲連隊もそちらの隣に陣を張らせてもらうぞ」
戦力の分散使用は賢い戦い方ではない。
海岸全域を射程に収める場所に友軍が陣を張るのであれば、こちらもご一緒させてもらうのが一番だ。
そうする事により、こちらの二個戦術機大隊だけではなく、友軍砲兵部隊を防衛する戦力も利用することが出来る。
<<了解。支援に感謝します。
戦域司令部、以上>>
さてさて、絶望的な防衛戦闘っていうやつを開始しますか。
操縦桿を握りなおした俺は、網膜に投影された戦場を睨んだ。
既に最前線へ突撃していったネクストたちは、レーダーマップ上の光点でしか確認できない。
「こちらは国連軍第8492戦闘団、角田浜付近の帝国軍部隊へ通告する。
当方はこれより支援活動を開始する。支援が必要な場合にはいつでも声をかけてくれ」
腕のPipBoyを擦る。
俺が乗っているのはOSを入れ替えたXM3搭載型だ。
だが、あくまでも撃震は撃震であり、機体のハード的な意味での戦闘能力はたかが知れている。
そこでこいつの出番なわけだ。
最大出力で跳躍噴射を実施し、最前線へ突入する。
「ええと、キーボードのVを押す、と」
突然戦場に飛び込んできた俺を、無数のBETAたちが歓迎してくれる。
腕を振り上げる要撃級、角をこちらに向ける突撃級、這い寄る戦車級たち。
その全ての動きが、突然遅くなる。
別に俺の脳が人生の最後を感知したわけではない。
PipBoy3000に搭載されたV.A.T.Sが起動したのだ。
このシステムは、人間の反応速度を極限まで高める事が出来る。
それによって、武装の攻撃範囲全ての敵に極めて効率的な攻撃を仕掛けることが可能なのだ。
(武装選択、37mm機関砲、照準は前方の要撃級二体、狙いは頭部)
声帯を機能させて声を出しているほど時間はゆっくりとは流れていない。
一瞬だけ指の筋肉を動かし、発砲する。
どう考えても目の前の要撃級は死ぬだろう。
高速で機能している俺の脳は、近い将来に撃ち抜かれて絶命する要撃級の姿を思い描いている。
V.A.T.Sを解除せず、続けて突撃級の左前足に五発撃ち込む。
移動速度を考えても、奴は最低二発は命中して転倒するだろう。
まだ俺のバトルフェイズは終了していないぜ。
戦車級たちに向かって、一気に二十発の機関砲弾をプレゼントする。
奴らの耐久力は戦術機の火力から考えれば無きに等しいので、問題はこれで解決する。
敵に何もされずに留まっていられる時間に若干の余裕があるので、射程内の前方敵集団に時間の許す限り放てる全弾を撃ち込んでV.A.T.Sを終了しよう。
<<そこの撃震!なっえっ!?>>
解除するなり無線が飛び込んでくる。
BETAの群れに跳躍噴射で飛び込むという明らかな自殺行為を行った俺に対して、帝国軍衛士が警告を発しようとしてくれたのだろう。
しかし、声から察するに女性らしい衛士が見たものは普通には理解できない現象だ。
彼女が見たものを時系列的に並べると以下のようになる。
突然国連軍カラーの撃震がBETA集団の目前に跳躍噴射で飛び込んでくる。
撃震は一瞬だけ動きを止めたように見えるが、次の瞬間、機体強度の限界に挑戦するかのような速さで短い発砲を繰り返す。
放たれた砲弾を追う間もなく、撃震は機体を横滑りさせる。
直後、二体の要撃級が腕を振り上げた状態のまま撃ち抜かれて倒れ、続けて足を破壊された突撃級が地面へ向けて飛び込む。
至近距離まで迫っていたはずの戦車級の群れは、いつの間にか大量のミンチに変わっていた。
この間およそ五秒。
慌てて下がるように声を出したとき、既に危機は去り、撃震も視界から消えている。
<<そんな、えっ?今のは?>>
新兵なのだろうか。
無線から流れる声はひたすらに混乱している。
だが、何しろここは戦場であり、のんびりはできないのだ。
そんな彼女の目前に、無数のBETAが迫る。
要塞級十五体、要撃級三十体、突撃級二十八体、戦車級およそ二百体ほど。
<<だっ弾幕を!誰か助けて!!>>
後方に向けて跳躍すればいいものを、彼女はシステムが冷静に告げた敵情報でパニックに陥ったらしい。
ろくに照準もつけずに機関砲を乱射している。
「無人機隊は帝国軍を援護、孤立している機体を優先、武器使用自由」
俺の指示に、先ほどまで最低限の自衛戦闘だけしていた無人機隊が行動を開始する。
第四世代戦術機の特長は、従来型よりも重装備であり、それでいて高い機動性を持っている点にある。
中隊単位で固まって行動を開始した彼らは、まず軽装な前衛型の突入から開始した。
国連軍機である事を示すスカイブルーの機体が、高速でなだれ込んでいく。
長刀で要撃級を切り裂き、機関砲で突撃級の足を撃ちぬく。
XM3改初期型の能力は絶大で、彼らは一瞬も停止せずにそれらの作業を継続し続けた。
BETAの前衛に穴が開いたところで、後続の重装備タイプが戦果を拡張する。
二機に一門の割合で装備している30mm電磁速射砲がプラズマと同時に超音速に加速された砲弾を無数に吐き出す。
頑丈なはずの突撃級の前面が叩き割られ、さらに胴体を貫通した砲弾によって後ろにいた別の突撃級も絶命する。
一発の砲弾でこれなのだから、その超音速弾を毎分150発の勢いで、しかも数十機の戦術機がばら撒けばどうなるのかは明白だ。
結果として、無人機隊の突入から一分もせずに友軍の撤退経路が確保される事となる。
全体としてはそうなのだが、何時の世の中にも不運な人間というものは存在する。
先ほど俺に声をかけてきた女性衛士もそうだ。
<<せっ戦車級が!誰か助けて!いやぁあああああああああああああああ!!!!!>>
凄まじい絶叫が耳に飛び込んでくる。
発信者を見ると、先ほどの女性衛士が乗った陽炎に五体の戦車級が取り付いている。
パニックに陥った彼女は、機関砲を乱射しつつ周囲に助けを求めているようだ。
だが、そんな危険な事では救助は出来ない。
V.A.T.Sを起動し、機関砲と側面に取り付き射殺しても機体に影響がない一体へ攻撃する。
解除した瞬間、友軍を危険に晒していた彼女は、少なくとも自分自身だけの犠牲しか発生させない存在になる。
「無人機はあの陽炎を援護、助けろ!」
こんなファジーな命令を的確に実行できるAIがあるとすれば凄い。
そして、俺はその凄いAIを保有していた。
三体の戦術機が素早く陽炎へ駆け寄り、胸の辺りから何か黒いボールのようなものを射出する。
それらは一秒ほど空中を移動した後に爆発、周囲に12.7mmホローポイント弾という恐ろしい存在を振り撒く。
無人機たちは取りこぼしに備えてナイフを装備していたが、それを使う機会はなかった。
近距離防御装備である空中散布式散弾発射機は、陽炎に取り付いた戦車級四体の全身に風穴を開けて救助を完了させていたからだ。
「こちらは国連軍第8492戦闘団だ。
角田浜周辺の部隊は一時後退し、補給作業に入ってくれ」
このあたりの中隊名には見覚えがある。
確か、先日の戦闘で我々が救出した部隊だったはずだ。
<<我々は栄えある日本帝国陸軍第132戦術機甲中隊である。
国連軍の指図は受けん。援護がしたければ勝手にしろ。どうせ途中で逃げ出すくせに>>
なかなかに友好的な言葉を返される。
確かこの中隊は初対面のはずだ。
内容からして、日本本土にBETAが襲来した際に見捨てられた経験があるのだろう。
とはいえ、それは俺の命令で実施された事でも、俺がその指揮を執った事でもない。
全く面倒な話だ。
<<こちらは帝国陸軍第195中隊、聞き覚えのある声だな。
了解した、我々はこれより後退を開始する>>
どう説得するか悩んでいる間に、別の中隊から通信が入る。
<<189中隊も同様だ。また世話になる。
石垣少佐、貴官の個人的な意見は結構だが、部下を巻き込むな>>
こちらは第189戦術機中隊だ。
おまけに、撤退のついでに話を聞かない中隊長を説得しようとすらしてくれる。
ありがたいことだ。
<<戦域司令部より第15防衛ライン各隊へ通達。
三十秒後に支援砲撃を実施する。直ちに後退、補給を実施せよ。
当面は国連軍第8492戦闘団第一大隊が現地を防衛する。
繰り返す、直ちに後退、補給を実施せよ>>
空気を呼んだらしい戦域司令部からの通信が後押しをする。
ありがたいことだ。
<<132中隊了解、そこの国連軍、今度は逃げるなよ>>
未だに納得していない口調だが、自分たちが最前線で踏ん張ってはいけないと命令され、彼も後退に同意してくれたようだ。
「当然の事ですよ。私は国連軍ですが日本人です。
これだけでは信用してもらうには不足かもしれませんが、とにかくご理解ください」
どうせ無理だろうと内心で苦笑しつつも返答をする。
何はともあれ、帝国軍各隊は後退していき、戦場には我々とBETAだけが残された。
「ネクスト各機は戦闘を続行、支援砲撃に注意。
こちらの砲兵連隊も帝国軍の攻撃に合わせてここへ砲弾を撃ち込め。
砲撃実施時間は二十分、委細は任せる。観測データ送信中」
この短い通信で、角田浜周辺のBETAの運命は決した。
2001年11月11日日曜日 07:00 日本帝国 新潟県第十五防衛ライン
<<戦域司令部より8492戦闘団へ通達。
角田浜周辺のBETA殲滅を確認。増援の恐れなし。
他方面の防衛に参加し、内陸部への侵攻を阻止せよ>>
なんとも胸が奮い立つ通達だ。
もう少し具体的に指示を出してほしいものなのだがな。
<<雷電よりグラーバク01、角田浜周辺の確保完了>>
周辺の制圧は完了している。
BETAの増援が沸いて出てこないという事は、ここは主要進撃路ではないのだろう。
周囲では補給を終えた帝国軍部隊が、BETA回収作業に勤しむ回収車たちを不審そうに見守っている。
「グラーバク01より戦域司令部、次の指示をくれ」
上級司令部を持たない俺たちは、作戦レベルで活躍するには帝国軍の指揮統制システムをそのまま利用させてもらうしかない。
権限だのプライドだのといった言葉に興味を持たない俺としては、非常にやりやすくて助かるがな。
<<戦域司令部よりグラーバク01へ。
国道402号線沿い、浦浜付近に多数のBETA上陸を確認、警戒中だった206、208および104中隊が後退中だ。
直ちに急行されたし>>
なるほど、広域マップによると、第34艦隊および第55艦隊が踏ん張っているようだ。
そのおかげでBETAの進撃ルートが大きく狂い、わざわざ山がある地域に上陸してきている。
奴らの進撃速度が落ちるのはありがたいが、一番南の戦線もカバーするとなると自走砲連隊の位置が悪いな。
「グラーバク01了解、敵の予測ルートがちょっと遠いな。我々の砲兵部隊を現在地から南東の66号線と218号線の接するあたりに移動させる。
なお、我々はこれより移動を開始する、以上」
通信を切り、リンクスたちへチャンネルを合わせる。
「聞いていたと思うが、敵の進撃ルートはもっと南だ。
各自最大速度で基地へ帰還、補給の後に近いほうの集団から叩くぞ。
俺は推進剤を補給しつつ先に向かう。またあとでな」
機体コンディションは良好だ。
弾薬もまだまだ余裕がある。
高速で基地へと向かうリンクスたちの後を追うようにして、俺と無人機大隊も後退を開始した。
現在のところ帝国軍も我々も、全滅した部隊はない。
願わくば、今回も最低限の犠牲で終わらせたいものだ。
<<戦域司令部より各隊。
BETA集団は残り二つ、いずれも旅団規模。
新たな増援の反応なし。第14師団より二個戦術機甲大隊が南端の戦闘に参加。
国連軍第8492戦闘団は、国道116号線と68号線合流路へ向かってください>>
なるほど、燕市と三条市に防衛線を再構築し、北は第12師団の予備兵力と我々、南は第14師団の増援を投入して上下から狭めていくわけか。
多宝山、弥彦山と雨乞山が天然の障害物として機能してくれているおかげでBETAの進撃は遅い。
遅滞防御戦闘をうまいことやってやれば、再構築中の防衛線が完成するまでにはこちらの自走砲連隊が阻止砲撃を開始できるだろう。
「グラーバク01了解。指示されたポイントへ向かう」
移動を続ける機内で、PipBoyを使ってチート行為を実施する。
大量に保管されているクレートを使って、我が戦闘団の予備兵力を作り上げるのだ。
とりあえず物資や車両込みでG.E.S.U機械化戦闘工兵大隊をあと二つ、これで一万八千トン。
予備機や格納庫も含めてで第四世代戦術機甲連隊をもう一つ、これが千九百四十四トン。
角田浜周辺から回収されたBETAによってクレートの保管量は増える一方だが、ひとまずここまでにしておこう。
「ん?」
操作を終えると、PipBoyのモニターに何かが表示されている事に気づいた。
なんだろう?
「なになに?Level UP、うん、レベルアップね。
またコマンダーレベルがあがったのかな?」
筐体についているキーボードを操作して詳細を呼び出す。
「パイロットレベル1から7まで一気にレベルアップしたわけか。
ほうほう、なるほどねぇ」
落ち着いて機体を自動移動に切り替える。
無線を受信のみに切り替え、意識を落ち着かせる。
操作していくと、パイロットレベルなるものが上昇したときに何ができるのかが表示された。
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第18次BETA殲滅作戦途中経過
2001年11月10日土曜日 19:49:56
コマンダーレベル:7
パイロットレベル:7
プラント発展度 :3
現在所持ポイント:0
クレート数 :201,587t
保有技術:
01:XM3開発データ
02:新型合金開発
03:エンジンの効率化
04:戦術機携行火器の強化
05:スラスターの改良
06:ブースターの改良
07:発展型不知火
08:第四世代戦術機基礎理論
09:戦車級用近距離防護火器開発
10:発展型不知火改良型
11:生産の効率化技術
12:AL(アンチ・レーザー)弾頭の改良
13:発展型AL弾頭
14:長距離火砲の改良
15:無人防衛システム開発
16:発展型無人防衛システム
17:地中振動監視技術の改良
18:発展型地中振動監視技術
19:G弾(BETA固有の元素使用の大量破壊兵器)の改良
20:発展型G弾技術
21:超光速恒星系間移動技術
22:第四世代戦術機開発技術01:軽量高密度装甲
23:第四世代戦術機開発技術02:発展型FCS
24:第四世代戦術機開発技術03:XM3改初期型
25:第四世代戦術機開発技術04:高初速側面スラスター
26:第四世代戦術機開発技術05:戦術機用重火器
※新兵器開発は関連技術01~05を取得で完了
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