2001年11月10日土曜日 19:36 日本帝国 新潟県第十五防衛ライン 海岸より24km地点 国連軍新潟駐屯地
「まあ、ようするに、我々はBETAを地球からたたき出せれば何でもいいんですよ」
ジャガイモや人参が形を失うほどに煮込まれたカレーを食べつつ、俺は言った。
護衛部隊と共にこの基地へやってきた香月副司令は、二人の子供を左右に座らせつつ同じ料理を食べている。
この世界の合成食品というものは本当に酷い味らしい。
重要な会話をしているにもかかわらず、先ほどから料理に意識が向いていることが分かる。
まあ、隙を見て何らかの言質を取ろうとしている訳ではないのだから、好きなだけ料理を味わってもらいたいところだ。
「それについてはもう聞いているわ。
私が知りたいのは、アンタがどうやって第四計画を完遂する手伝いをしてくれるかよ」
随分と直接的な物言いをしてくるものだ。
その方がやりやすいのだし、ありがたいのだが。
「前にも言った記憶がありますが、全般的な支援ですよ。
我々の持つ戦力の提供、技術の提供、物資の提供。
あらゆる支援を惜しみません」
大抵の人間ならば親しみを覚えるであろう笑みを浮かべる。
政治家として長年過ごした経験から、顔面の筋肉を制御する事は容易い。
チートさまさまだな。
まあ、チートなのはあくまでも様々な機会を与えられるところまでで、それを切り抜けたのは俺の実力だが。
「技術と物資、それはわかるわ。
アンタから貰った技術情報のおかげで、最近では随分と風当たりが弱くなったしね。
新潟の一件もあるしね。
あれのおかげで、帝国軍との関係改善が随分進んだと司令が喜んでいたわよ」
不可能を可能に変える事が出来るのが科学技術の素晴らしいところである。
しかし、完成に至るまでには長い道のりが必要であり、実は可能だとしても、そこへたどり着けなければ不可能なままだ。
俺は、その完成形をいきなり持ち込んできたのだ。
これでこちらに技術力がないのではと疑われたのではやっていられない。
そして、劣勢におかれた帝国軍が出来るだけ兵力を消耗しないように行われた支援。
感謝されないはずがない。
もっとも、無言で整備活動を行うG.E.S.Uに帝国軍衛士たちは親しみを覚えづらかったようだが、
「よくわからないのが戦力についてよ。
確かにアンタたちの第一大隊とかいう新型機の集団は強いわ。
でも、量産できない兵器に意味はない。
あれが一個連隊でも沸いてくるのならば別として、それはないんでしょ?」
首を縦に振って肯定する。
厳密に言えば、ネクストは量産できる。
だが、リンクスを大量に呼び込むことが出来ないのだ。
それはルールや何らかの制約が原因なのではなく、純粋にそれだけ多数のリンクスを俺が覚えていないからである。
「まぁあれは特別な機体ですからね。
その代わりと言ってはなんですが、増強戦術機連隊を用意可能です。
当面の新潟の防備は、これを当てる事により何とかなると思いますよ」
夕食を楽しみつつ考えた残る五万ポイントの使い道を伝える。
第四世代戦術機一個連隊(108機)三万ポイント。
99式自走砲二型一個連隊(244門)二万ポイント。
合計五万ポイントのお買い上げになるが、即応戦力の増強としてはこれでも足りない。
出来る事ならば、もう二個連隊ほど戦術機を用意し、そこに大隊規模の戦車や歩兵をつけて一個師団が欲しいところだ。
「まあ、増強連隊なんていう中途半端な戦力を用意するという事は、それが今の限界って言う事なんでしょうね。
とはいえ、完全編成の戦術機甲連隊が手に入るのであれば、帝国軍も今以上に友好的になるわね」
中途半端な戦力、といいつつも、香月副司令の表情は明るい。
先の戦闘でもそれなりの損害を負った日本帝国軍は、自分たちの損耗を回復する事すら困難なのだ。
全ての部隊の充足率が満たされているというのは軍人の夢だが、戦時において前線部隊すら満たされていないというのは悪夢でしかない。
もちろん、世界中の歴史書をかき集めたところで、そのような理想的状況の軍隊は数少ない。
だが、BETAに対して敗戦を繰り返した歴史から何も変わっていないと言うことは、近い将来に日本帝国が消滅する事を意味している。
そんな中、補充に必要な資源や施設無しで、文字通り湧き出してきたかのように完全編成の一個連隊が現れる。
いかに帝国軍が国連軍を嫌っているとはいえ、表面的なところだけでもここは喜ぶところだろう。
「それで?今度は何が出てくるのかしら?
また撃震?それとも不知火?まさかとは思うけど、ラファールやラプターだと困るわよ。
これから話し合うつもりだけど、この間出撃していたアンタの一個大隊分だけでも保守部材の準備が厳しいんだから」
彼女が伝えたい事はわかる。
日本帝国には、既存の部隊の維持以上の事をする余裕はない。
生産能力の関係から現有戦力の補充以上の事をできる余裕がないはずなのだ。
当然ながら、第四計画は絶大な権力を有しており、既存の部隊向けの生産分を分捕る事はできるだろう。
しかし、そんな事をすれば、我々が手に入れた分を補給される予定だった部隊に迷惑がかかる。
それならば他国の兵器であれば良いのかといえば、もちろんそんな事もないだろう。
予算で動いているオルタネイティブ第四計画にも、世界中から物資をかき集め続けるほどの余裕はないはずだ。
あの巨大な横浜基地の運営費、香月副司令の裁量の範囲内で使われるA-01連隊や、その他の計画に関連する研究機材や試作品の部材。
これらを今までどおり支払った上で、加えて我々の支援ができるとは思えない。
「一つ確認ですが、我々の第二大隊分の保守部材は発注前ですか?」
色々と思うところはあるが、取り急ぎ目の前の問題を解決する必要がある。
「アンタの大隊の総数も分からないし、損耗率も分からないから発注前よ。
この素敵な夕食を頂いた後にそのあたりの打ち合わせをするつもりだったんだけど、その聞き方だと何かあるみたいね」
危ないところだった。
基本的に8492戦闘団はBETAの回収さえ出来れば、完全に自立して行動が出来る。
無人機が大半のために人員の補充は必要ないし、プラントさえ無事ならばなんでも用意できる。
もちろん、戦術機本体も、その保守部材も、武器弾薬燃料もだ。
「アンタのために準備してきてあげたのに、ぜぇーんぶ無駄になっちゃったわけね」
俺の説明を聞いた香月副司令は、愉快そうにそう答えた。
何故完全に自立できるのかという根本的な問題は、あえてこの場では問わないらしい。
ありがたいことだ。
「まぁ大体分かったわ。それで、もう一つの話題なんだけど、白銀?」
我々の会話の間、一言も発さずにこちらを見ていた白銀が口を開く。
「貴方は、誰ですか?」
挨拶も無しでいきなりストレートな質問である。
彼が二周目なのか三周目なのかはわからないが、このような質問が出てくる以上、この世界に初めて来たわけではないようだ。
初めてこの世界に来たばかりの彼ならば、一部の例外を除いて周囲は見知らぬ人間ばかりである。
その場合、このような質問は出てこない。
「明日、新潟で何が起こるかを知っている人間ですよ。
私の言っている意味はわかりますね?」
俺の言葉に白銀は黙って頷く。
やはり間違いないようだ。
問題は、彼がこの世界で二周目なのか、三周目なのかだ。
二周目ならば、今後の展開について精神面でのケアに注力するよう香月副司令に進言する必要がある。
また、8492戦闘団という友軍に心を持っていかれ、彼の事を軽視しないようにこちらが注意する事も重要だ。
だが、彼が三周目ならば話は変わる。
厳密に言えば、一周目で第五計画への移行を経験し、そしてその間に原作での分岐の分だけ人生を経験し、第四計画を完了させた後の便宜上での呼称だが。
細かい話はさておき、親しい人物を相次いで失い、戦略レベルでの圧倒的劣勢を味わった三周目の彼ならば、今回もきっとうまくやってくれる。
「あ号にまた勝てますか?」
俺の質問に、白銀は表情を強張らせつつも頷く。
桜花作戦も経験済みだな。
まあ、今回はあそこに行ってもらう必要がないようにするつもりだが、何事にも保険は必要だ。
「それならば後は任せてください」
話はこれでおしまいだ。
簡潔すぎたが、取り交わされた情報量は十分なものだ。
「そんな二人だけでわかりあってもらっても困るんだけど?
まあ、いいわ。
白銀の話は終わったのね?それなら帰らしてもらうわよ」
立ち上がった香月副司令に、左右の二人も続く。
その後基地の入り口まで見送り、今日の会談はお開きとなった。
「あの連中、何を話し合いに来たんですかね?」
いつの間にか後ろに来ていたダンが不思議そうに言う。
「あの三人が、というよりも、白銀武が私に確認したいことがあったのだろう。
そして、満足のいく答えを貰い、帰ることにした。
そういうわけだよ」
営門を閉めるG.E.S.Uたちを眺めつつ、俺は今後の展開について思考をめぐらせた。
戦闘があったばかりだが、一応正史では11月11日にBETAによる奇襲攻撃が発生している。
我々が何か作用して早まったのか、それとも記載がなかっただけで実際には11日前にも襲撃があったのかはわからない。
だが、BETAの行動原理が理解できない以上、備えなければならない。
早速全員を集め、今後の方針を伝える。
「11月11日午前零時より翌12日までの期間、我々は即応体制にて待機する。
絶対に何かが起こる、という保証はないが、BETAの奇襲がある可能性が高いらしい。
周囲の帝国軍部隊も同様に、現在緊急展開訓練という名目で展開中だ。
何かあった場合には、新設の第二連隊および我々が海岸へ速やかに急行し、現地の部隊と協同で水際防御に当たる。
G.E.S.U機械化戦闘工兵第一大隊は我々に続行し、現地で全般支援。
機械化戦闘工兵第二大隊は基地守備隊として、旧第一連隊第二戦術機甲大隊と共にここを守る。以上だ」
思えば随分と大所帯になったものだ。
機体へ向かって駆け出していくリンクスたちを見送りつつ、俺は感慨深げにそう思った。
現在、国連軍横浜基地第8492戦闘団は、一個戦術機甲連隊を基幹とする増強連隊という戦力を保有している。
増強連隊と一言で言ってしまうと分かりづらいが、これを詳細に表すと以下のようになる。
・改良型XM3搭載第四世代戦術機:108機
・旧OS搭載撃震:36機
・99式自走砲二型:288門
・機械化戦闘工兵(軽装G.E.S.U):280体
どの最前線に持ち込んでも恥ずかしくない戦闘集団である。
これに加えて基地固有の砲台や、星系外遠征中の恒星系間往復船まであるのだからたまらない。
とはいえ、まず我々に必要なのは佐渡島から襲来するかもしれないBETAに備える事だ。
約二十万トンのクレートを使って、出来る限りの事をしよう。
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第18次BETA殲滅作戦途中経過
2001年11月10日土曜日 19:49:56
コマンダーレベル:7
プラント発展度 :3
現在所持ポイント:0
クレート数 :208,533t
保有技術:
01:XM3開発データ
02:新型合金開発
03:エンジンの効率化
04:戦術機携行火器の強化
05:スラスターの改良
06:ブースターの改良
07:発展型不知火
08:第四世代戦術機基礎理論
09:戦車級用近距離防護火器開発
10:発展型不知火改良型
11:生産の効率化技術
12:AL(アンチ・レーザー)弾頭の改良
13:発展型AL弾頭
14:長距離火砲の改良
15:無人防衛システム開発
16:発展型無人防衛システム
17:地中振動監視技術の改良
18:発展型地中振動監視技術
19:G弾(BETA固有の元素使用の大量破壊兵器)の改良
20:発展型G弾技術
21:超光速恒星系間移動技術
22:第四世代戦術機開発技術01:軽量高密度装甲
23:第四世代戦術機開発技術02:発展型FCS
24:第四世代戦術機開発技術03:XM3改初期型
25:第四世代戦術機開発技術04:高初速側面スラスター
26:第四世代戦術機開発技術05:戦術機用重火器
※新兵器開発は関連技術01~05を取得で完了
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