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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 北満洲編6話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:e178b4cc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/04/11 02:17
1992年8月16日 1015 黒竜江省 依安基地 戦術機第5ハンガー


「おい! 119-13Aから、31Bまでの全戦術機! フレームの歪チェックかけとけっ!」
「119-41A01とA04! アビオニクスチェック完了!」
「脚周りの油圧チェックっ! 念入りにやっとけよ?」
「おい! そこの新入りっ! 馬鹿! そこはループチェック完了してから接続しろっ!」
「予備パーツ、B011からD023コンテナ、搬入しまぁすっ」
「搬入、まて! おいこらっ!? 誰だ、こんな所にログモニターセット置きっぱなしにしてる奴はっ!!」


ハンガー内は整備大隊の喧騒で溢れ返っている。
だが、それは真剣な熱意と、職務に精勤する者たちの発する喧騒だ。
この旅団は、一概に士気も錬度も高い。 成程、派遣軍の切り札、と言うやつか。

「河惣少佐、これが第119旅団全戦術機の整備記録になります。
一応、要点は纏めて最初に記載させて頂いております。」

整備大隊の戦術機整備主任・饗庭中尉から分厚い書類を渡される。
ふむ。戦車の装甲程は厚みが有るな・・・

「ああ、済まない、饗庭主任。
で、どうだ? 92式の実戦運用評価は。 整備面から見て。」

「流石は、米国製がベース、と言った所でしょうか。
特にベースとなったF-16は、F-20(タイガーシャーク)との競争に勝った機体ですが。
F-20自体、F-5直系の機体です。 F-5系の機体は、整備のし易さ、環境耐性と言った整備運用面での
『武人の蛮用』には、F-4系より優れております。」

「ふむ・・・」

「F-20もその直系で、すぐれた素質の機体だったのですが。
F-16はその面でもライバルに引けを取りません。
92式はそう言う意味でも、整備運用面で戦場での運用に優れた機体ですな。」

「ふむ。では、撃震よりそう言った面では優れる、か。」

「F-4系の機体は、冗長性が有って優れた設計なのですが、整備運用面ではF-5系に軍配が上がります。
それに、言いにくいですが撃震は、如何にも日本的と申しますか、細かい改良が加えられ過ぎております。
整備運用面では、他のF-4系の機体。 ソ連のMiG-21バラライカ、中国軍の殲撃8型(J-8)と比べると、明らかに劣ります。」

「・・・・」

「・・・海外の技術者・整備関係者は、撃震を『F-4モデルのクラシック・カー』と呼んでおります。
斯衛の『瑞鶴』を見たマクダエル社の技術者など、『これは工芸品かっ!?』と絶句したそうです。」

「むぅ・・・」

「また、メーカー色、と言う要素も無視できません。
光菱、富嶽、河崎の3社は、我が国の3大重工メーカーであり、戦術機生産メーカーですが。
いかんせん、軍の要求を全て反映しようとし過ぎるきらいが有ります。
言わば、優等生的、と言いましょうか・・・」

「・・・それで?」

「・・・逆に、今回92式を作った河西、石河嶋、九州航空、愛知飛空の4社は。
重工業シェアでは大手3社に劣りますが、その反面、社風が野武士的と申しますか。
要求値の概略さえ達成すれば、後は自分達が良いと判断した点は、軍の意向など無視してしまいます。
それが却って、性能向上の冗長性や、汎用性、機体の信頼性の向上、等々に繋がる。
前の大戦での航空機開発では、そう言った面が多々ありました。
最も、軍の技術本部や参謀本部の高級将校には、そう言った面が我慢ならないのか、嫌われておりますが・・・」

「・・・・全くだ。 
連中は自分達の言う事がすべて正しい、自分達の意見さえ聞いていれば良い、そんな連中ばかりだからな。
メーカーなど所詮、自分達の丁稚位にしか考えておらん、度し難い大馬鹿者達だ。」

「は・・・」

流石に、陸軍兵器行政本部の少佐の前で言いすぎたか? とも思っていた饗庭中尉は、意外な言葉を聞いたと思った。
何せ、当の兵器行政本部の技術将校で、かつ、高級将校自身が自らを『大馬鹿者』と断じたのだ。
いや、それとも何か裏でもあるのか?

「・・・中尉。 私は今でこそ、兵器行政本部に籍を置く身だが。
昨年まではこの大陸で、衛士としてBETAと戦っていた身だよ。
前線の切望は、理解しているつもりだ。」

「っ! そうでしたか・・・ いや、失礼しました、少佐殿。」

「ん・・・ 兎に角、92式の評価は理解した。 そのポテンシャルもな。
大変に有意義な話だった。 感謝する、中尉。」

「はっ! お役に立てたようで、光栄であります。 少佐殿。」








1992年8月16日 2230 黒竜江省 依安基地 佐官用宿舎


「ふぅ・・・」

河惣 巽少佐は固いベッドに寝転がって、軽く溜息をつく。
これで、後は明日からの機動性実証試験のデータさえ取れれば、すべて終了だった。

約1週間の予定の短期出張だったが、非常に良い、しかも興味深いデータがとれたと思う。
これならば、頑固な連中も、首を横には振れまい。
あの、兄さえも・・・

気を抜いているといつの間にか、うつら、うつらしていたらしい
普段は心の奥底に押し留めていた記憶が蘇る。


(『私がこの大陸で戦うのは、祖国や、そこに住まう民、そして皇主陛下、将軍殿下の御為では有るが・・・ それだけでは無いよ。』)

懐かしさを伴う光景。 あれは誰だったか・・・

(『他に何の為だって? ・・・・仲間の為。 部下達や同僚、上官。 彼らが死なない為。
私の弱さ故に、彼等を死地に立たせたくは無い。
・・・死線を共に潜り抜け、苦楽を共にしてきた仲間だ。 彼らの為に私は戦う。 そして・・・』)

そして? そして、何だったか・・・

(『巽。 君の為に。 何よりも、君の為に。 
私がもし、この命を散らす事が有るのなら。それが君の為で有れば、悔いなどもたぬ。』)

あぁ・・・ 私もそうだった。 私もそう思っていた・・・


(『 巽っ! 来るんじゃないっ! 部隊を纏めてここは引けっ! 君は指揮官だっ!』)

いやっ! ・・・いやだっ!! そんな・・・ 貴方がっ!

(『このままでは大隊は全滅するっ! 私の機体は最早、死に体だっ! 脱出は叶わぬっ!
君は先任中隊長として、指揮権を継承しろっ! 部下達をっ! 仲間を犬死さすなっ!』)

いや・・・ いやよ・・・ そんな、あなたが・・・ 死ぬ、なんて・・・

(『・・・無能な大隊長の尻拭いをさせてしまった。すまない・・・』)
(『本城大尉! 巽! 早くっ! 包囲網が完成してしまったら、大隊は全滅だぞっ!』)
(『・・・広江大尉。 本城大尉を頼む。 最初から最後まで、君には頼みっぱなしになったな。』)
(『・・・・大隊長、河惣中佐。 同期の好ってやつです。 お気遣い無く。 ・・・・では、さらばです。』)
(『うん・・・ 武運を。 君達の武運を祈る。』)
(『・・・はっ! 大隊各機! 大隊指揮権は本城大尉が継承! これより攻囲を突破するっ!』)

いやっ! いやっ! まって! まだ生きてるっ! あの人はまだ生きているのよっ!

(『っ! 巽っ! 貴様っ 腑抜けたかっ! ソード02、04! 中隊長機を引っ張っていけっ!』)

まって・・・ まって・・・ おいていかないで・・・

(『・・・・・ここに果てる臣の不明、御許し下さい。 
・・・友よ、さらば。
・・・・・巽。 君は、生き抜け。 死ぬなよ・・・ 死ぬんじゃないぞっ!!!』)

―――――閃光。衝撃。 あぁ、あれは。 S-11が炸裂した・・・・


(『いやぁ~~~っ!!!!』)






(は――――っ!)

飛び起きると、酷く汗をかいていた。 不快感が増す。

(どうして、今更あんな・・・)

顔を手で覆い、河惣 巽少佐は歯を噛みしめる。

この地に来たからか? 
二度と思い出したくない悪夢。 自失し、指揮官としての責務を放棄してしまった悔悟。 友の叱責。
そう言えば。 あの後、基地に辿り着いた後、広江から顔が膨れ上がるほど、殴打されたな。

(悪夢、か・・・)

確かにそうだ。 しかし、最早その悪夢の中でしか、あの方には会えない。

(私は・・・ 壊れたのか? 壊れてしまったのか・・・?)

涙が頬を伝う。 左眼だけ。 私の右眼は最早涙を流さぬ。

(ふふ・・・ 右眼は壊れた私。 左眼は・・・ 過去に縛られた、愚かな女の私。
何が少佐か・・・ 何が、衛士の代弁者たれ、か・・・)


一体、私は何者なのだ。 河惣 巽少佐の自問に、答えは出なかった。






1992年8月17日 1930 黒竜江省 依安基地 第5会議室 兵器行政本部調査委員会仮設本部


「期待以上だな。 いい腕だ・・・」

今日の「機体運用実証試験」は、予想していた以上に良い数値を得る事が出来た。
神楽少尉の近接格闘機動。 周防少尉の近/中距離高速・高機動。 和泉少尉の中遠距離機動砲撃。
92式に習熟し、実戦で揉まれてきた衛士の動きだけは有る。

明日も引き続き好調なデータが取れれば、言う事は無い。 
実証評価確認としては、ほぼ満点だった。

コーヒーを一口飲む。
今や産地が極々限定されるため(流通も悪くなっている)、少佐の俸給では普通なら手が出せない、高級嗜好品だった。
満洲に出立する前日、義姉がやって来て、渡してくれたのだ。

贈呈品だから、気にしないで。 等と言っていたが。 恐らくは兄が手配したのだろう。
全く。 中佐の俸給でも、馬鹿にならない高級品なのだぞ? 甥や姪の養育費も馬鹿にはならないだろうに。
義姉様の気苦労を、少しは察するべきだ、あの兄は・・・

だが、兄は兎も角、義姉様の気遣いを無下にするのは失礼だったから、有難く頂戴した。
帝都に戻れば、一度顔を見せに行こう。 お土産でも持って。
可愛い甥や姪の顔も見たい。 ああ、あの子達も大きくなっただろうな・・・

取り留めも無い事を考えていたら、人が入って来た事に気づくのが遅れた。

「失礼します。河惣少佐。」

「? ああ、周防少尉か。それに神楽少尉。」

「強化装備側のデータをお持ちしました・・・・」

何を見て・・・ ん? ああ、コーヒーか。

「君達も飲むか?」

「えっ!? い、いえっ! そのような高級品を・・・」

「周防。 折角、少佐がご厚意で仰って下さっているのだ。 無下に断るのはかえって失礼と思うが?」

「ほう。良い事を言う。 では神楽少尉。 少し付き合ってもらおうか。」

「はい。 ・・・周防、何をいつまでも突っ立っているのだ?」

「・・・・はぁ、このお嬢が・・・」

「むっ・・・ 」

ふむ。 中々、仲が良いな、この二人は。 確か同期生同士だったか。
私が新任の頃は・・・ ふふ、いつも広江と角付き合わせていたな。

二人分のコーヒーをドロップして淹れてやる。
神楽は実に優雅に。 周防はおっかなびっくりと、飲み始める。

「っ! 美味い・・・・」

「だろう? コロンビア産だ。」

「ほう・・・ これはなかなか・・・」

「俺、本物のコーヒーって、生まれて初めて飲んだよ・・・ 美味いなぁ、コーヒーモドキが飲めなくなるなぁ・・・」

「・・・周防、そもそもの比較対象が悪すぎると思うが?」

「うるせー。 しょうが無いだろ。庶民にゃ、本物のコーヒーなんて、高嶺の花なんだから。」

ふむ。神楽は確か、家格の有る武家の出だったな。
なら、不思議はないか。

「周防少尉、神楽少尉。 君達の御実家は? 御家族はご健在か?」

「はぁ。 俺の家は、今は東京の東外れに有ります。 
親爺・・・ 父は食品加工会社の研究員です。 合成食材の研究が専門ですが。
母は専業主婦で。 上に兄と姉がおります。
兄は海軍で、主計大尉です。艦隊乗組の。 姉は内務省の職員です。中級職ですが。」

ふむ。平均よりは裕福な中流家庭、と言ったところか。
しっかりしたご両親に育てられた息子、と言った感じだな。 この年若い少尉は。
しかし兄弟で軍人とは。 今の御時世、仕方なき事とは言え、ご両親は心配だろうな。

「私の家は、帝都です。 父は城代省に勤務しております。
母は、将軍家出仕の身ですが。
双子の姉と、弟が斯衛に在籍しております。」

こちらは、生粋の譜代武家か。
煌武院家の譜代家臣衆に、確か神楽家が有ったな。 成程。


「あの・・・ 少佐の御家族は?  あ、いえ、失礼しました。不躾でした。」

「・・・構わんよ? 周防少尉。 初めに聞いたのは私だからな。
私の家も、帝都だが・・・ 両親は既に他界した。
家は兄が継いでいてな。 兄嫁と、甥と姪がいる。 可愛い盛りだ。
ま、そう言う訳で、私は独り者用の官舎住まいさ。」

「そうでしたか。 失礼ですが少佐、先ほど中隊長・・・ 広江大尉から伺ったのですが。
少佐はご結婚為されているのですか?」

「ん? 何故だ? 神楽少尉?」

「いえ、実は。広江大尉が少佐の事をお話しされていた時にですが。
大尉が一度、少佐の事を『本城大尉』を言われまして。 その後すぐに『いや、河惣大尉が』と。
姓が変わられたのならば、ご結婚で、と思いました。 
『河惣』と言う姓は、少佐の御婚約者の方とも、お聞きしましたので。 ご結婚されたのかと。 ・・・・失礼でしたでしょうか?」

「いや、構わんよ・・・」

全く、あの雌狐め・・・ 絶対、ワザとだな・・・

「・・・私の姓が変わったのは、確かに婚姻故だ。 今年の初めにな。
それまでは『本城 巽』と言った。」

「じゃぁ、旦那さんは、今は本土に?」

周防少尉。 君のその素直さは、時に残酷だな・・・

「いや。 私の夫。 河惣貴次帝国陸軍准将は・・・ 満洲にいる。」

「「満洲に? 准将閣下!?」」

・・・・面白いな。リアクションが同じだ。

「ああ。 ここから程近い。 北安から北東に20kmほど行ったところか・・・」

そう、あの場所に、今もあの方は眠っている・・・

「「・・・えっ 」」

「そうだ。私の夫は、故・河惣貴次帝国陸軍准将は・・・昨年10月末に、戦死した。
私もその半月後に負傷後送されてな・・・ 傷が癒えた後、夫の家の籍に入った。
形の上では、義母上の養女だが・・・ 私は、妻のつもりだよ・・・」


「「・・・・・・・・」」

しまった。 未だ年若いこの二人には、どうしていいか困る話だったな。
これが広江なら、手厳しい冗談の叩き合いでも出来るのだが・・・
私も、情けない。 若い連中に気を遣わせるとは。

「ま、昔話だ。
それよりどうだ? 君等、92式に乗ってみて。 なかなか良い機体だと、私は思うのだが?」

「あ、はい。そうですね。 今まで搭乗していた撃震とはやはり違います。
何といっても動きの自由度が・・・」

周防少尉が喰いついてきた。 何のかんの言っても、まだまだこの辺は「少年」だな。
微笑ましいものだ。



「ほう。なかなか、戦術機談義に咲いておるようですな。河惣少佐。」

嫌な奴が入って来た。
高宮 青洲(こうみや せいしゅう)少佐。
今回の私の同僚だが、筋金入りの国粋主義者で、米国嫌い。
参謀本部第1部2課(作戦)課員の参謀将校だが、大本営 兵站総監部参謀も兼ねる。
包括会議のメンバーでもあるが、いつも国粋主義的精神論を振りかざす、大馬鹿者だ。

「「っ!敬礼っ!!」」

周防・神楽両少尉が慌てて敬礼する。
新任の彼等にとって、参謀飾緒を付けた参謀本部の参謀将校など、お目にかかった事も無いだろう。

「ああ、いい。楽にしたまえ。
ふむ。 君達は92式の衛士か?」

「「はっ!」」

「では、さぞや機体に習熟しておるのだろう?」

この男・・・ 一体何を言いたい?

周防・神楽の両少尉は顔を見合わせていたが、周防少尉が応答した。

「はっ。 未だ1ヶ月の搭乗歴ですので、習熟したかと言うには及びません。」

「ふむ。 素直な返事だな? では、1ヶ月経って習熟できないとなると。 92式はそのあたり、難しい機体なのかね?」

っ! この男っ!!

「・・・いえ。習熟度に関しましては、小官の錬度に、より原因が。 中隊の他の先任衛士はより習熟しておられます。
寧ろ、以前の搭乗機であった77式よりは、習熟度は早い、と判断しております。」

「むっ・・・ そうか? ふむ。 なら、衛士の習熟度検証も判断せんとならんか。」

「どういう事です? 高宮少佐。 既にスケジュールは決定しております。
これ以上、詰め込むのは無理ですが?」

私は嫌な予感がした。
この、何を考えているのか解らない参謀将校が、何を切り出すのか。
そして、広江が「可愛がっている」彼女の部下達に、何か類が及びはしないか。


「何、問題は有りませんよ。
機動実証データは十分でしょう。 後は・・・ より実践的なデータの検証でしょうな。
ふむ。 丁度、本土から『陽炎』の1個小隊が運用検証試験でこの地に来ている。
異機種間戦闘訓練、どうでしょう? 双方とも、米国製、ないしは米国製がベースの機体。
なかなか良い結果が得られそうですが?」

くそっ! 『陽炎』は所詮、技術習得の為の機体だ。帝国はこれ以上、あの機体をライセンス生産する予定はない。
次期主力戦術機が正式配備されたら、いずれはお払い箱の機体だ。
もし、その機体に不覚をとったとしたら・・・
そもそも、F-15とF-16は、主力機と補完機の関係だ。
F-16がベースの92式では、陽炎には分が悪い・・・

「試験小隊は、帝都防衛第1連隊から引き抜いてきた熟練衛士でしてな。
丁度良い。 熟練衛士に対し、新任衛士が『最新鋭』戦術機でどこまで対応できるか。
ふむ。機体習熟度を測るバロメーターにはなりますかな?
どうかな? 少尉?」


・・・巫山戯るなっ! 帝都防衛第1連隊だとっ!? 富士教導団を除けば、帝国最精鋭部隊ではないかっ!!
如何に実戦で揉まれたとは言え、まだ4か月の経験しかない新任の彼等にっ・・・!!


その時、とんでもない台詞を、とんでもない奴が、唐突に入って来て言い放った。

「面白いお話ですな、少佐殿。 
いやいや、私としては、最近いい気になって来た、ウチのひよっこ共の鼻を。 
第1連隊に叩き折って貰えれば、良い経験になるでしょうな。」

「広江っ!?」

「ん? 確か、119旅団の広江大尉、だったな? 君の部下かね? 彼等は。」

「はっ。第119独立混成機動旅団、第2大隊、第3中隊長・広江直美大尉で有ります。
先程の少佐のお話。是非ともお願いしたい。」

「広江っ! 貴様、何を勝手な事をっ!」

「折角、これ以上無い上等な相手が『教導』してくれるのだ。
部下の錬度向上を鑑みるに、これ以上の幸運はあるまい?」

「・・・ふむ。君等は同期か。 よし、解った。
では明日。午後の枠で対抗戦とする。 1個小隊編成。 広江大尉、君の方の人員編成は一任しよう。」

「了解です。」


実に、楽しみだ。

そう言って、とことん気に喰わない男が去って行った。



「・・・・・」

「何だ? 巽。その不機嫌そうな顔は? 私と違って、折角の花の顔が台無しだぞ?」

「やかましい、この雌狐。 何を企んでいる? よりによって、第1連隊だぞ?
それを、新任達に当てるなど・・・」

「・・・ふん。貴様、記憶力が落ちたか?
言ったはずだぞ? 『私が扱き抜いた部隊』だと。 当然、新任どももだ。
第1連隊だろうが何だろうが。 本土でぬくぬくしている連中とは違うところを見せてやろう。」

「貴様っ・・・!!」

「周防、神楽。あと、長門と伊達を付ける。 第1連隊だとて、遠慮はするな。
糞BETAと同じだ。 完膚なきまでに、叩き潰してこい。」

「「はいっ!」」

「っ!?」

「それと。もしも。もしも、負けたりしたらな・・・ 特別メニューを振舞ってやるぞ?」

「「・・・・っ!! はっ! 完膚なきまでに、叩き潰してきますっ!!!」」

「よし。」

あっはっは。

私は、呵々大笑する自分の友が、何やらとんでもない化け物に思えて仕方が無かった・・・







1992年8月18日 1130 黒竜江省 依安基地 戦術機第5ハンガー


「で? よりによって、帝都防衛第1連隊 『帝国旗(インペリアル・フラッグ)』 の選抜チームと模擬戦、ってか?
直衛。 お前、BETAにやられる前に、連中にやられんなよ?」

各機の整備班に指示を出しながら、草場信一郎整備軍曹「信兄」がニヤニヤしやがる。

ふん、解ってるさ、俺だって。
何せ向こうは、帝国軍各戦術機部隊から引き抜かれてきた、正真正銘の腕っこき達。
俺達は正式任官して未だ4か月のヒヨっ子衛士。
正にBETAに仔犬が向かって行く様なもんだ。 普通はな。

「せやけど、主任。そんなに悲観する事は無いんちゃいますか?
そら、向こうさんは帝国選りすぐりやけど。
直やん達の戦闘機動は、少なくとも帝国戦術機の機動操作マニュアルにはあらしませんで。
そこが、『教科書』を突き詰めた連中と、『命が元手の博打』張って来た連中の違いやないですか?」

俺の機体「119-23B03」の戦術機動プログラムのチェックをかけていた、児玉修平整備伍長「修さん」が振り返って言う。

俺達が今回の模擬戦に先立って、広江大尉から言われた言葉。

『連中を同胞と思うな。 連中はBETAだ。 貴様らが何時も、喰うか喰われるかの、楽しい≪ダンス≫をしている、な。
まさか貴様ら、≪ダンス≫で相手に良い様に舞わせるつもりは、なかろう?』

ああ、そうだ。 今回俺達は、連中をぶち殺す。 BETA相手なら、そうするべきだ。

「・・・・教科書ってのは、理詰めだろ。 なら、『理の外』を見せてやるさ。
戦場の『現実』をさ。 その程度は、俺達にも解る。」

俺はパイプ椅子に座りながら、整備中の愛機を見上げて呟いた。

ほう? と、信兄が珍しげな視線を投げつける。
修さんは無言で整備に戻っている。

ここは戦場だ。 なら、戦場の掟に従う。 内地の上級参謀が何を考えようが、知った事か。

・・・少なくとも、河惣少佐は、俺達前線の衛士の心情を理解してくれる人だ。
その人が、帝国軍戦術機の軍政分野にいるのなら。
俺達は少しくらい、夢を見させて貰っても良い筈だ。
そして、夢を見る為には、少佐の希望も叶えなくてはならない。 等価交換、ってやつだ。

「・・・ま、自分のやれる事、やるべき事は、やるさ。 
92式の配備が全面的に進めば、少なくとも今より、くたばる衛士は減るかもしれないし。」







≪草場整備軍曹≫

一丁前な台詞を残して、直衛がハンガーを出て行った。
何のかんのと不安だったから、ここに来たんだろうけど。
ま、適度に突き放して正解だったか。 ここで甘やかしてちゃ、あいつの為にはならんしな。

「主任。憎まれ役の兄貴分は、大変ですねぇ・・・」

「修平。お前さんも、余り甘やかすなよ?」

「主任が憎まれ役やらへんかったら、ワシがやってましたわ。」

相変わらず、整備の手を休める事無く、それでも真剣な声で言いやがる。
こいつも何だかんだで、直衛を気にかけているって訳か。

おい、直坊。 ここで負けやがってみろ。
整備大隊特製の、冷却オイル風味のボルシチ。 
BETAの内臓ぶちまけた映像、見せながら喰わしてやるからな・・・




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