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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 国連欧州編 翠華語り~March~
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/22 03:38
1996年3月10日 アメリカ合衆国 ニューヨーク州フォート・ドラム


旅団司令部の電話が鳴った。 背後で副官が対応する声が聞こえる。

「はい、第38戦術機甲旅団本部・・・ はっ、はっ お待ち下さい。 ・・・閣下、軍司令部です」

「ん・・・」

窓から見える雪景色を眺めていた旅団長は、短く頷いて副官が回した内線をとる。
受話器を上げた途端にえも言われぬ緊張が走る。 軍司令部からいきなり旅団本部へのホットラインなど。

「旅団長、ライネル准将」

『ジョージか? 君は何時、ケツを上げられる?』

挨拶も前置きも無しのその質問で判った。 声の主は軍司令官だったのだ。

「即応態勢は万全です、40分以内には。 ただ、後は散らかしたままになりますが?」

『君の為に掃除人を雇ってやるよ。 いまからあれこれ持たしたヤツをそちらに走らせる。
30分以内にケツを上げろ、フランスだ。 ライミー(英国野郎)が悲鳴を上げかけておる』

―――フランスか、意外に早かったな。 諸々問題有りと聞いていたが。 いや、それは俺の問題では無い。 政治屋と軍官僚の仕事だ。

「了解しました。 後詰は欧州軍本隊でしょうか?」

ひとつだけ、気になる事を聞いてみる。 自分達の後詰にどの程度の戦力が投入されるのか。
命を張るにしても、それが報われる事に越した事は無い。 部下達への叱咤の意味も違ってくる。

『それは未だ懸案事項だ。 取りあえずは第7軍団。 半月以内に第9軍団と支援部隊をアイスランドまで、1か月以内にブリテン島に展開させる。 司令部もな』

つまり、第7軍だけで手打ちしたと言う事か。 宜しい、その戦力で有れば奮戦維持するだけの価値は有る。
軍司令官との会話を終えた旅団長・ジョージ・ライネル米陸軍准将は、傍らの副官を顧みて一瞬の違和感を覚えながらも指示を出した。

「副官、フランスだ、30分以内に」

「はい、閣下。 至急、各部へ緊急通達を行います」

踵を返して部屋を出て行くその後ろ姿を見ながら、ようやくさっきの違和感の正体に突き当たる。
長く綺麗に波打ったブルネットの髪。 白磁の肌、括れたウエストに形の良いヒップからのライン。 おまけにあの美貌。

(・・・俺の様な古い軍人にとって、ああ言う女性こそが銃後に居てくれるからこそ、戦場で見栄を張り続けられるのだがな。
人手不足とは言え、戦闘部隊に女性将兵を配属したのは、俺の様な古いタイプの軍人にとっては残念でならん・・・)

そんな内心の苦笑を抱きながらも、ライネル准将は次なる戦場を考えていた。
恐らくは、国連軍が最近構築していると言う『大陸の閂』 その支援任務となるか。
最終的にはその『閂』を恒常基地化させて、ブリテン島への最も直接的な脅威―――ドーヴァー海峡からのBETA侵攻を防ぐ事となろう。

その為にはまず、国連軍には何としても俺が戦場に到達するまで、保って貰いたいものだ。
橋頭堡が有ると無いとでは、話が全く違ってくる。 

再び窓の外の雪景色を眺める。 美しい、美しい景色だ。 汚れ無い純白の世界。
しかし、これから赴こうとする世界は、狂気と、死と、破壊と、そして―――BETAに埋め尽くされた世界だった。

















1996年3月15日 2030 北フランス パ・ド・カレー県 カレー前進基地


「お? 珍しい。 アルトマイエル大尉がこの『スピーク・イージー』に来ているぜ?」

カレー基地の『スピーク・イージー(もぐり酒場)』、実際は主計倉庫の一角。 
表向きは歴とした酒保施設と言う登録だが、正規の酒類の他、闇で仕入れた酒も扱う。
軍紀に照らせば立派に軍律違反なのだが、最前線の事とて黙認されているのが通例だった。 利用客は主に下士官兵。 それと不良衛士。

そしてこの基地の『不良衛士』の代表格の3人、ファビオ・レッジェーリ中尉、エドゥアルト・シュナイダー中尉、クリストフ・ウラム中尉が場違いな『珍客』を目撃した。
因みに彼ら3人と『同類』である筈のアスカル・カリム・アルドゥッラー中尉は、最近お見限りだった。
理由は判っている。 だから次回は何としても引っ張ってきて、痛飲ならぬ鯨飲させてやる手筈だった。

「んあ? アルトマイエル大尉? ・・・あ~、クソっ、ホントだよ。 参ったぜ、こりゃあ・・・」

テーブル(実は空の弾薬箱)にグラスを置いて見渡したレッジェーリ中尉が顔を顰める。
見た所随分と酔っているようだ。 今の所この地は小康状態を保っているが、仮にも指揮官がああも酔うと言うのは頂けない。

「だけどな・・・」

横目でその姿を眺めながら、グラスの中の琥珀色の液体を喉に流し込む。 芳香と微かな甘みが口内に広がってゆく様を楽しむ。

「判らんでも無いがよ・・・」

「オベール大尉の事ですかい?」

脇から独り言を聞きつけたエドゥアルト・シュナイダー中尉が、これもビールジョッキ片手にその酔態を眺めながらポツリと呟いた。
普段は何時もと変わらぬ様子だが、最近は独りになる事が多い事は皆が知っている。

「ま、本当に落ち込んでいる時に下手な同情や憐憫ってヤツは、人をかえって苛立たせるだけですからね」

「おう、エドゥアルト。 若ぇのが一端な事言うじゃねぇか?」

「何言ってんですか。 ファビオ、アンタとは2つしか違わない。 俺もクリストフも」

「でも良いんですか? あのままで。 大尉、結構、酔ってますけどねぇ?」

「良いんだよ、あれで」

クリストフ・ウラム中尉の心配そうな声に素っ気なく答えて、レッジェーリ中尉はグラスの中の最後の楽しみを飲み干して言った。

「―――時には我を忘れるほど酔う事も、人間の特権さ。 酒は百薬の長なり」

「確か蒋中尉が言ってましたねぇ。 でも、こうも言ってましたよ? 百薬の長とは言えど、よろずの病は酒より起これり」

「・・・折角、俺様がキメてんだからさ。 ブチ壊すなよ、エドゥアルト・・・」




3人が『スピーク・イージー』から出てきたのはそれから1時間後の事。
兵舎に戻る道すがら、見知った顔に出くわした。 最も、基地内で見知らぬ顔など居ないのだが。

「よう、ギュゼル、翠華、お姫さん方も一杯飲りにいくのかい?」

「まさか。 貴方達と一緒にしないでよ。 ねえ? 翠華?」

「主計事務室に、ちょっとね。 ファビオ達はもうお帰りなの? 早いわね」

―――主計事務室? ・・・ああ、家族への仕送りか。

彼女達は俸給から毎月毎月、家族へいくばかの仕送りを続けている。 
実際問題として故郷を追われた一家にとって、彼女達の仕送りは有り難いものだろうが。
だがそれはまるで、それが家族との繋がりを保つモノの様に、本当に毎月続けている『儀式』のようなものだった。

レッジェーリ中尉はふと、妹の事を思い出した。 ―――そう言えば自分は、仕送りなんて気が向いた時だけだな。
だが、それを恥じるつもりは無い。 人それぞれだ。 自分にとっては生き続ける事。 
生き続ける限り、国連軍軍人を続ける限り、彼の妹は学業に専念できる。 戦場に立たずとも済む。
それが彼にとって妹に対する、唯一無二の繋がりを確信できる事であり、生きる理由だったから。

「ああ、ちょっとな。 楽しく飲む雰囲気でも無くってよ」

「「 え? 」」

「ま、いいやな、俺達の事はよ。 そうそう、後で『スピーク・イージー』を覗いてくれ。 多分アルトマイエル大尉が撃沈している筈さ」

「えっ!? ちょっと、どう言う事!?」

「ちょっと、ファビオ! 私と翠華の2人で大尉をかついで行けって言うのっ!? 女2人に任せっきりで!? ねえ! ファビオ! エドゥアルトにクリストフも!!」

「じゃ、頼んだぜぇ~?」

「スンマセン、宜しくです、クムフィール中尉、蒋中尉」

「なに、そこいらの野郎共に声かければ。 美人2人の頼みを断る野郎共はいませんよ」

「ちょ、ちょっとぉ~!!」

「うへぇ・・・」









結局、あのあと大隊の当直室まで使いをやって、人に来て貰った。 私とギュゼルの2人でなんてね?
脱力した大の男性一人。 流石に重いわよ!

ウチの中隊からフローレスとアナートリィがやってきて、2人で大尉を軽々と運んで行った。 流石は男の子。

「じゃ、俺達はこれで」

「うん、ご苦労様、2人とも。 ありがとうね」

「いえいえ」 「はっ!」

大尉の部屋を、仕方が無いなぁ、といった表情で見ながら苦笑するフローレスと、何故か緊張したような感じのアナートリィを見送って。
さて、私達もこれで戻りましょうか。 ―――でもなんでさっき、アナートリィは緊張していたの?

「そりゃ、年上の美人に憧れるお年頃だからじゃない?」

「・・・それは、『私とギュゼルに』?」

「そ、『私に。 もしかしたら翠華にも』」

―――なんか、ムカつく言い方ね。















1996年3月16日 0715 北フランス パ・ド・カレー県 カレー前進基地 PX


―――朝食、朝ご飯、Breakfast ♪

何事も最初が肝心。 1日の始まりは朝ご飯。 だから私は朝はたっぷり食べる。

ベーコン、卵料理にソーセージ。 マッシュルームソテーと焼きトマト。
プディングにビーンズの煮物に、バターを塗った揚げパンを。 ミルクをたっぷり入れた紅茶を添えて。

合成食材と侮るなかれ、全ては料理人次第。 そしてこのカレーの主計隊の炊事部隊には、なかなか道を解りたる強者がいるの。

「・・・何時も思うけれど、翠華。 貴女、そんなに食べてよく太らないわね?」

ギュゼルが呆れて私のトレーを見ている。
そんな彼女の朝食はシリアルとプレーンヨーグルト。 飲み物にカフェ・オ・レ。

「ギュゼル、ちゃんと食べないと大きくなれないわよ?」

「成長期なんて、お互いとっくの昔の話でしょ!」

「ううん、胸が・・・」

「アンタに言われたくないっ!!」

そう言って突き出されるギュゼルの、E75のEカップバスト。 くぅ、この強敵め。 どうせ私はC70のCカップよ・・・
母国に居た頃は、それなりに密かに自慢だった女性の象徴も。 こっちに来てからは影が薄いのよね。
何しろ欧米成人女性の平均バストサイズはDカップ。 わたしは平均以下・・・


「クムフィール中尉、蒋中尉。 昨夜は・・・ その、煩わせて済まなかった」

不意に背後から躊躇いがちな声に振り向くと――― アルトマイエル大尉だった。

「大尉、おはようございます。 ―――私はもう朝食は済みましたので、こちらの席にどうぞ」

ギュゼルが立ちあがって、自分の席を勧める。
ちょっと待ってよ、私にこの雰囲気押し付けようっていうの? 貴女って人は!!
でも、私の内心の切なる願いを無視して、ギュゼルはあっさりと席を立って出て行ってしまった。
後釜は当然、アルトマイエル大尉であって・・・

「・・・実は昨夜の記憶が曖昧なのだ。 酒場で飲んでいて、途中までは覚えているのだが・・・
気がつけば、自室で寝ていた。 ここに来る途中、レッジェーリ中尉から聞かされてな・・・」

大尉の朝食はライ麦パンにヴルスト(ソーセージ)とハム、それに果物。 コーヒーでなく、麦芽を溶いたミルク。
それをいかにも食欲が無さそうに、フォークでつついている。

それはそうでしょう、昨夜あんなに飲んでいたんだもの。
ぱっと見た限りでも、キルシュヴァッサー(Kirschwasser:サクランボの蒸留酒、シュナップス。 黒い森地方の名産)のボトルが3本倒れていたもの。
あれって、アルコール度数で40度前後も有った筈よ。

「あんなに呑み過ぎたのですから、当然です」

「む・・・ 確かにな。 お陰で未だに頭痛が収まらん・・・」

「大尉。 中国には『酒は百薬の長なり』、と言う言葉が有ります」

「うん?」

「が、その言葉には同時に続きが有りまして。 『百薬の長とは言えど、萬(よろず)の病は酒より起これ』、と。 自重して下さい」

「・・・返す言葉も無い。 『神はこの世を六日間で創り給うた。 そして、第七日目には、二日酔いを与え給うた』、か。 全く・・・」

頭痛と同時に、吐き気もするのか。 顔を顰めながらゆっくり食事を摂る大尉を見ていると、それ以上嫌味を言う気になれなくなってしまう。
最も、半分以上は私自身の居心地の悪さに起因した嫌味なんだけど。 ―――嫌味な女ね、ホント・・・

暫くお互いに無言で食事を摂っていたのだけど。 段々その雰囲気に我慢出来なくなってしまって。

「あの・・・ 私の、私達の取り越し苦労かもしれませんけれど、気を落とさないで下さい」

「ん? 何をだ?」

―――うわっ! しまった! 私ってば、何て事を! 自分で地雷を踏みに行くなんて!!

でも言ってしまった事は仕方が無い。 ここは腹を決めて・・・

「オベール大尉・・・ ニコールの事です。 中隊の皆が心配しています。 いいえ、大隊長も、ウェスター大尉も。 1中隊や3中隊の皆も・・・」

「死なないよ」

「えっ?」

「私は死なない。 心配するな、死ぬ気など無い。 しかし、大隊長―――エイノやロバートからは心配されて声を掛けられていたが・・・
君たちにまで、その様に気を揉ませるとは・・・ 私も、まだまだ若造だな・・・」

力無く苦笑する大尉だったけど、ふと見たその瞳は、光を失っていないように見えた。 少なくとも、光の種火は灯っているように見えた。

「―――彼女と、約束をしたのだ。 ずっと昔に、約束を」

「約束、ですか・・・?」

「―――古い話だ。 1986年の冬、17歳の頃か・・・ 私は生ける屍だった。 生きる価値を見い出せなかった。
そして直前に再会したニコールを疎んじていた。 ―――正直、憎んでさえいたよ、彼女のまっ正直さを」

その頃の話は、フランソワーズ・ウェスター主計中尉―――ロバート・ウェスター大尉の奥様で、ニコールの従妹にあたる女性から以前聞いた。
散々に荒れていた17歳のヴァルター少年は、14歳の幼馴染の少女にさえ、辛く当っていたそうだ。


「色々な事が有った。 いちいち話す事は出来ないが・・・ 戦場で死のうと思っていた。 
再会して1年経った87年のクリスマスの日、彼女から服をプレゼントされた。 服の布地は麻だった。 薄蒼色の細かい縞目が織り込まれていた。 
それは夏に着る服だった。―――夏まで生きていようと思った。 私は18歳、彼女は15歳だった」

目に浮かぶ。 幼馴染の、多分初恋の相手である少年の事を気遣って。
言葉に出来なくとも想いを伝えたくて、想いを伝えようとして、あれこれと悩んで、意を決してそのプレゼントを渡した15歳の少女の顔が。

「そのプレゼントを私に手渡す時、彼女はこう言ったのだ。 
『ヴァルター。 貴方が出来る事、したい事、そして夢見たい事を何でも始めるのよ。 毎日を生きて、生き続けて。 貴方の人生が始まった、あの朝のように』
ああ、私は明け方に産まれたそうだ。 昔、母から聞いたのだが。 ―――もう一度、したい事をして良いのかと思った。 夢見て良いのかと思った。 彼女と共に」

15歳の少女が、18歳の少年に望んだ事。 伝えたかった想い。
夜の闇は永遠に続くのでは無い事を。 やがて地平線が白ばみ、朝靄の中に朝露で濡れた若葉が見え始める頃。
一条の光が地平線を照らす。―――そして世界は照らし出されるのだ。


「・・・正直、生きる事は辛い。 生き続けて、生き抜いていく事は辛い、今の私にとっては、希望が無いのだ・・・」

「―――それでも、生きる事には価値があると思います。
悲しみに沈んでいても、絶望に打ちひしがれていても。 今まで重ねてきた人生には意味があるのだと。
色んな出会い、色んな想い、色んな悲しみ、色んな後悔――― 色んな喜びには意味が有るのだと思います。
大尉、人は、人の生は続いていくものです。 絶望に苦しもうが、深い悲しみに沈みそうになろうが、今もこうして生きているじゃないですか!
それを―――それを、希望が無いと、貴方は仰るのですか?」

思わず大きな声を出した私に、周りの視線が集中する。

「・・・大尉。 貴方が出来る事、したい事、そして夢見られる事を。 再び始めて下さい。
毎日を生きて、生き続けて。 この朝が、貴方の人生が再び始まった朝で有ります事を」

それだけ言うと、私はさっさと朝食のトレーを持って席を立った。

これ以上何か言うと、私自身で何を言い出すか判らなかったから。
私自身、私の内心が判らなくなってきていたから。









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