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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 国連欧州編 翠華語り~December~
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/01 23:21
1995年12月2日 1550 北フランス パ・ド・カレー県 カレー


戦闘は終息しつつあった。

12月の北フランス。 荒れ果てた大地に吹雪が舞い散り、BETAの死骸が散乱している。
空は分厚く黒い雲にすっかり覆われた陰鬱な天気で、海の波濤は白く波立っていた。
かつては欧州の中でも豊かな農業国でもあったフランス。 その姿は最早見る影も無い。

小さな円周を保持した戦術機の小隊が周辺を警戒していた。 
エンブレム・マークから国連欧州軍。 その第1即応戦術機甲師団の第88大隊所属機だと判る。
トーネードⅡIDS-5B。 たび重なる性能向上措置を受け、準第3世代機と言える性能を有するに至った戦術機だ。
米国製戦術機のF-15C、F-16Dに伍して、欧州国連軍の標準装備戦術機ともなっている。

「グラムA02よりグラムリーダー。 グラム各フライト、哨戒完了です。 半径20km圏内に残存BETA無し」

円周に位置したうちの1機、その搭乗衛士であるA02・蒋翠華中尉が状況を報告する。
現在は既に掃討戦に移行しており、そしてその任は他の部隊が充っている。 
今の所、『グラム』中隊を含む第88大隊は、カレー海岸部の周辺警戒のみが任務であった。

『B01よりリーダー。 しかし何ですね、ここ最近の連中の動き。 まるで嫌がらせですぜ』

『全くね・・・ 少数の集団だから、殲滅はそう大して手間じゃないけれど。 それにしてもこの回数は異常ね』

B小隊長のレッジェーリ中尉、C小隊長のクムフィール中尉が網膜スクリーンに現れる。
見ると2個小隊、8機のトーネードⅡが集まって来ていた。 哨戒を終えてランデブーポイントに戻って来たのであろう。 
その2個小隊の指揮官達であるが、その表情には些かの疲れが見え始めている。

『ホントにな。 休むヒマもありゃしねぇ・・・ 機体だってよ、一度完全なオーバーホールが必要だぜ?
そろそろ可動部が悲鳴を上げてきていやがる。 主機や跳躍ユニットも騙し騙しだ』

そんな愚痴が出る程に、ここ最近の緊急出撃回数が多い。 来襲するBETAの規模はさほど大きくなく、光線級が出てくるのは稀であるが。
そろそろ予備機を使い回しての稼働さえ、怪しくなって来ている事は事実だった。

『愚痴を言っても始まらないわよ。 出来る事を、可能な限りベストを尽くす、今はそれしかないでしょう?
ファビオ、ギュゼル。 指揮官からそんな言葉を出さない事ね』

最後に集合したD小隊の小隊長にして中隊副長、オベール中尉がやはり疲労の色が見える美貌を、それでも引き締めて2人の後任小隊長へ苦言する。
お小言役は中隊副長の専売特許。 彼女が普段は温厚な性格の女性であると判っているから尚の事、後任の2人も素直に従うと言うものだ。


≪CPより『グラム』、撤収を開始して下さい。 戦術機母艦のカレー沖到着予定は1600。
英海軍のコマンドウ支援戦術機母艦『インヴィンシブル』、『イラストリアス』の2隻がピックアップします≫

1600時。 ここから噴射跳躍によるNOEで、丁度母艦の進入時間に間に合う。

『よし。 グラムリーダーより各小隊、撤収だ。 B、D小隊先行。 C、A小隊は後退しつつ警戒!』

『『『 了解 』』』

B、D小隊の8機が跳躍ユニットを吹かしながら湾上空へと飛び去る。
その後暫く警戒しつつ歩行後退をしていたA、C小隊も、噴射跳躍で後退、母艦へと向かって飛び去った。

冬に間引き作戦の跡には、BETAの死骸のみが降りしきる雪に覆われ、横たわっていた。
















1995年12月5日 欧州宇宙機関(ESA: European Space Agency) フランス領ギアナ・クールー ギアナ宇宙センター


ESAがEU(欧州連合)の傘下組織になったのは、この5年ばかり前の事である。
当初、欧州の宇宙開発を目的とした民間企業群の共同体で有ったものが、主にハイヴの偵察衛星情報入手という観点から、連合傘下の組織となったのが1990年である。
以来、ESAは欧州連合軍の衛星情報収集・分析組織としての色を強めている。 航空宇宙軍との関係も密接だった。

「・・・H12の周辺密度が高くなっている?」

「ええ。 85年以降のこの数年、結構大人しかったのですがね。 それにH11とH5、H8も騒がしくなっていますよ」

画像分析官の示すモニター情報を見つめ、呻き声を漏らす。 彼はセンターの職員では無い、歴とした欧州連合軍の軍人であった。
情報の示す所―――H12リヨンハイヴ、H11ブダペストハイヴ、H5ミンスクハイヴ、H8ロヴァニエミハイヴ。
この4か所のハイヴ周辺での、BETAの地上密度が高い値を指し示している。 言われずとも判る、この兆候は・・・

「・・・85年の悪夢よ、再び・・・ か?」

1985年の、欧州主要部失陥と、英本土防衛戦。 かろうじて英国本土を守り抜いたものの、欧州は10年経った今なお、大陸反攻に打って出る戦力を回復出来ていない。
そして今の時点で、あの時と同様の大侵攻を受ければどうなる事か―――英本土は失陥するだろう。

「幸いと言いますか、H12はけっこう活発ですが、他のハイヴ周辺はコンディション・イエロー3程度です。
本格的な飽和侵攻になるのは、イエロー9を過ぎてレッドになってから・・・ 今までの統計では、そこまで個体数が増加するのに4~5年かかりますよ。
連中だって、ハイヴ拡張と地上侵攻を同時にする程、無限じゃないですしね」

「拡張の兆候が収まったら、次は侵攻か・・・ で、リヨンのコンディションは?」

「コンディション・イエロー8」

「そろそろ、前哨戦が始まるな・・・」

フランス軍事偵察局(DRM)に属し、欧州連合軍統一情報本部(EUAMID)に出向する身としては、この情報は何はともあれ最優先でベルファストへ伝える必要が有った。
同時に国連軍へはどうすべきか考える―――そして伝達の要無し、と判断した。
何故なら、連中は米国のKHシリーズからの情報を逐一受けられる身だからだ。 米国の偵察衛星は、欧州の大地もしっかり『盗み見』しているのだから。















1995年12月10日 北アイルランド ベルファスト 国連欧州方面軍・陸軍総司令部ビル 第1作戦会議室


「予想されるBETA群の規模は、旅団規模から最大で師団規模。 もっともこれはリヨンの個体群のみの話だな」

英陸軍の中将が、面白くなさそうな表情で呟く。

「リヨンとて、内部で後どれだけの個体群が居るのかによる。 この数年、連中は大人しかったからな、下手をするとその数倍は溢れ出るやもしれん」

より懐疑的な発言は、東ドイツ陸軍の少将だった。

「他の3つのハイヴについては、今は監視レベルを上げる程度で良いのではないかな? 手を広げ過ぎると、防衛線は地中海から北海、スカンジナビアまで広がってしまうぞ」

フランス陸軍の中将が防衛ラインの拡大を危惧し。

「カヴァーしきれんよ、流石に。 第一、そんな戦力など有りはしない」

西ドイツ陸軍の中将が断じる。
その様子を眺めながら、国連軍の少将が発言を求めた。

「リヨンハイヴよりの個体群に対してならば、ピレネーを越えてイベリア半島か、北上して海峡越えか。
スペイン・ポルトガル軍への警報発信、及び海峡沿岸の防衛体制を上げる事で宜しいかと」

「イベリア方面へは、連合軍より発信しよう。 で、海峡沿岸はどうするかね?」

フランス軍の中将が周りを見渡す。
皆が一様に渋い顔だ。 無理はない、海峡沿岸部はイベリア半島と違い、大陸側への橋頭堡を有していない。
常にドーヴァー・コンプレックスは受け身の防衛戦を強いられているのだ。

「・・・カレー付近に来たとしても、モン・サン・ミシェルから側面を突かすのもな。 未だ打撃兵力が足りん。 有効なのは海上戦力か・・・」

「それとて、損害無視での海上戦闘を何時も出来る訳ではあるまい? 海軍に確認せねばならんがね」

東ドイツ軍の少将の呟きに、英陸軍の中将が嘆息する。

「国連軍としては、緊急即応軍団より抽出した兵力をカレーへ展開する案を提示します」

国連軍の少将が、一座の将官達に対し、戦略地図上の1点を指し示して提案する。
場所は―――カレー。 そしてその周辺の2か所。

「カレー、ブーロニュ・シュル・メール、そしてダンケルク。 国連軍が前々から言っている、『大陸の閂(かんぬき)』かね?
しかし、兵力はどうするのかね? 緊急即応軍団の第2師団(米第82戦術機甲師団『オール・アメリカン』)は地中海だ。
第3師団(米第101戦術機甲師団『スクリーミング・イーグル』)は北海。 残るは第1師団だけなのでは?」

「3か所に分散するのかね? それだと1か所あたり1個連隊・・・ 戦術機3個大隊だ、如何にも戦力が不足しよう」

「言っておくが、少将。 今現在の欧州連合軍には、余分な兵力の抽出は無理だぞ?」

―――欧州連合軍、ではなく。 英仏独(両独)軍からは、であろうっ!!

国連欧州方面軍と、欧州連合軍の水面下の仲の悪さは今に始まった事ではないが。
仮にも欧州大陸防衛に関して、こうまであからさまな態度は如何なものか。
苦虫を潰したくなる気分を堪え、何とかその不安要素について説明する。

「欧州連合軍主力へは今回、戦力の抽出依頼をしません。 
戦力は緊急即応軍団第1師団の9個戦術機甲大隊、そして東欧州社会主義同盟から6個戦術機甲大隊。
それに国連軍からの支援部隊を含む、各拠点1個旅団規模の編成で行う予定です」

欧州連合軍主力の腹が痛まず、なお且つ国連軍の裁量で動かせる兵力となると、こうなってしまう。
無論、東欧州社会主義同盟とて『無償で』兵力の供出をする訳ではない。 色々と駆け引きや取引は有ったのだが。


「ふむ・・・ 成程。 彼らにしても祖国奪還への、長い道のりの一歩を踏み出そうとするか。 いや、その献身、貴き哉」

英国軍の中将が、わざとらしく頷く。

―――流石にユーラシア西部の片隅で千数百年来、裏切り、裏切られ、騙し、騙されつつ、血みどろの歴史を織り成してきた欧州の人間。
厚顔さと不遜さ、そしてそれを露にも感じない図々しさ。 自国防衛に対して、他国の人間の血が流れる事には、何の疼痛も感じはしないかの如く。

そして自身もまたその欧州の人間で有り、出るであろう損失は許容できると考えている事に、少しばかりの空虚なおかしみを感じつつ。
第1即応戦術機甲師団長、ヘルマン・オッペルン・フォン・ブロウニコスキー国連軍少将は些か呆れ果てた想いで場を見渡していた。















1995年12月20日 2300 北フランス パ・ド・カレー県 カレー


この1週間ほどで急造の基地群がでっち上げられた。
司令部に兵舎は移動式のプレハブ小屋。 ハンガーは奇跡的にBETAの『喰い残し』で残っていた港湾倉庫群の残骸(その一部)、屋根は応急処置。
通信施設は全て車載の移動式通信・管制車両。 誘導路や滑走路は全て『荒野』

風に雪と土煙りの両方が、寒々しい冬の夜空に舞いあがっている。
すっかり平坦に食い荒らされた大地、 今は良いが春になると起伏が無い分、雪解け水で辺り一面が洪水状態になってしまう。

「・・・なんだって、こんな貧乏籤引かなきゃならんのよ?」

「どのみち、私達国連軍って貧乏籤の引き役じゃない」

「翠華、それを言ってはおしまいよ・・・」

当直中のファビオに陣中見舞い? で夜食の差し入れと。 ギュゼルと2人で顔を出したら、捕まって文句の嵐を聞かされちゃった。
そりゃ、私だって文句の一つも言いたいわよ。 カンタベリーは前線後方基地とはいえ、あと5日でクリスマスなんだから。

大した事は出来ないとはいえ、ささやかながらも皆でお祝いするし。 交替でクリスマス休暇が出る予定『だった』のよね。
それが全部ぶち壊しとなれば。 それもクリスチャンが圧倒的に多い欧州軍ともなれば、恨みたくもなるわね。
私やギュゼルは、宗教的には何の拘りも無いけど。 でも休暇が潰れるのはイヤね。

「この分じゃ、新年のお祝いも台無しになりそうね」

「ムスリムも1月1日は祝日なの?」

「私の祖国ではね。 祝日じゃなくって単なる休日だけど。 翠華は?」

「関係無いね。 でも春節(旧正月)をBETAと一緒に祝う、何て事になったら・・・」

「事になったら?」

「爆竹代わりのG弾、全部のハイヴに放り込んでやるわよっ! 私達、華人にとって最も大切なお祝いの日なんだからね!!」

―――うっ 思わず力んでしまっちゃった。 ギュゼルがちょっと引いちゃってる・・・

「あ、あは。 そ、そうなの・・・ で、いつ頃なの? その『春節』って?」

「中国暦(旧暦)のお正月だから。 新暦(グレゴリオ暦)だと、年によって違うのね。
大体、1月の中旬から2月の中旬頃よ。 2週間位お休みとってお祝いするの」

「2週間・・・ 無理よねぇ・・・」

「・・・そうなんだよ~・・・」


悲しいかな、春節なんてもう何年お祝いしていないだろう? 子供の時以来かなぁ?
とうとう台湾に避難したって手紙に書いてきた私の家族。 あ~あ、皆と一緒に春節を楽しみたいなぁ・・・ 当然そこには彼も居て。

何て事を考えながら、ギュゼルと2人で雑談していたのね。 夜食のサンドイッチ頬張りながら。



「・・・お嬢さん方、その夜食って、俺様のじゃ無かったの・・・?」


―――ファビオが泣いちゃっていた。

















1995年12月24日 1630 北フランス パ・ド・カレー県 カレー内陸15km


BETA群の只中に数機の戦術機が踊り込む。 
短距離地表面噴射滑走で多角機動を行って群れの中から出てきた時には、多数のBETAが体液を撒き散らして行動不能になっていた。

『流石は高機動がウリのMig-29Mだけはある。 回避機動がそのまま斬撃になろうとはな』

「全身、カーボンブレードの塊ですから。 最も正気を疑いますが」

『ははっ! 厳しいな、副官。 しかし有効ではあろう?』

「時と場合に寄ります。 こんな開けた場所で密集戦闘など・・・ 砲戦主体で良い筈です」

『君の祖国も、同様のコンセプトの機体を開発中の筈だが?』

「国の連中の頭の中を、ひっくり返してやりたいモノですわ・・・ っと、ミン・メイ! ティウ!」

『オッケ~! A03、FOX01!』

『はいっ! A04、FOX03!』

ミン・メイが誘導弾を右方向から漏れ出てきたBETA群に撃ち込み、そこからこぼれ出た個体をティウが掃射していく。
あっという間に、一つの群れが制圧された。

『いや、毎度この調子なら文句は無いのだがな!』

私のトーネードⅡの隣に立つ中隊長機から、アルトマイエル大尉の楽しげな笑いが聞こえてくる。
ま、しょうが無いんだけどね、大尉がこんな緊張感無しに見えても。 それだけ今日の戦闘は一方的だって事。

中隊は広域範囲をカヴァーする為に、各小隊単位で散開していた。
私のA小隊は支援装備のまま、協同する友軍の支援攻撃に専念中だった。


カレー仮設基地に所属する私達、国連軍第3即応機動旅団(旧第1即応師団第3連隊+アルファ)は。
来襲した連隊規模のBETA群―――殆ど小型種で、光線級も居ない―――を完全に叩き潰した。
今、目前で友軍の戦術機大隊が片付けた要撃級の群れが最後だった。

急編成で出来た3個機動旅団。 元々の第1師団の3個連隊に、東欧州社会主義同盟から6個大隊を組みこんで、15個大隊。
私達の第3旅団は旧第3連隊の3個大隊(第87、88、89)に、リトアニア軍第1戦術機甲大隊『ヴィリニュス』、ポーランド軍第303戦術機甲大隊『コシチューシコ』が加わって構成される。
装備機は国連軍がトーネードⅡIDS-5B。 リトアニア軍とポーランド軍はMig-29M(稼働時間延長型)

他に第1旅団(ダンケルク基地)には第81、82、83大隊とラトビア軍独立第1戦術機甲大隊『リガ』、ルーマニア軍第8戦術機甲大隊『ドラゴニ・トランシルヴァニア』が。
第2旅団(ブーロニュ・シュル・メール基地)は第84、85、86大隊とエストニア軍第3戦術機甲大隊『フェリン』、ハンガリー軍第4戦術機甲大隊『ベルチェーニ・ラースロー』が。

それが新編成の国連軍即応第1兵団、『ドーヴァーの門番』として急遽編成された訳ね。 何と言うか、英仏独3国は、我関せずって所が腹立つけれども。
東欧諸国軍にしても、欧州での肩身の狭い想いを何とかしたいって訳で、『人身御供』を送ってきたみたいで、イヤね。


『翠華~、他の小隊も集まって来たよ?』

ミン・メイからの通信でようやく自分がむかっ腹を立てて、周りを確認していない事に気づく。 うっ、自己嫌悪・・・

「了解~! グラムB02より各リード、状況報告願います」

『グラムB、殺られた馬鹿はいねぇよ!』

『グラムC、損失機無し。 但しC04が左腕を小破、戦闘行動に支障なし』

―――BとCは大丈夫ね。 ウチのA小隊も損失無しだし、あとはD小隊。 ニコールが下手打つ訳無いし・・・

って、あれ? D小隊からの通信が入らない?


「―――D小隊、D01、状況報告を。 ・・・D01? オベール中尉?」

『・・・こちらD02、アスカル・アルドゥッラー中尉です。 D小隊、損失1機・・・ 小隊長戦死。 ド・オベール中尉、戦死です・・・っ!』


















1995年12月25日 0030 北フランス パ・ド・カレー県 カレー基地


「翠華、D小隊の連中、ちょっと見てきたわ」

兵舎でギュゼルに声をかけられた。
小隊長を失ったD小隊がどれくらい動揺しているか、確認してきたのだろう。 本来は私の役なのにね・・・

「ん、サンキュ。 で、どうだった?」

「見た目は気丈に、ね。 でもちょっと落ち込んでいるかな? 『衛士の流儀』で、あから様にはしていないけどね」

「酷いのは誰だった?」

「パトリツィア。 アスカルもちょっとね」

「パトリツィアはともかく、アスカルめ。 何してんのよアイツ・・・」

「そう言いなさんな。 咄嗟に動けず、自分のエレメント―――パトリツィアを隊長が庇って戦死したんじゃね・・・」


ついさっき、D小隊のアクションレポート(戦闘詳報)が纏まった。 
それによれば、ニコール・・・ ニコール・ド・オベール中尉は、『擬死(Thanatosis:タナトーシス)』にやられそうになったパトリツィアを庇って戦死した。
動物の『擬死』とどう違うのか、まだ解明されないままだけど。 BETAは時折この戦法を使う。

センサーで確認しても、全く活動していない筈の個体が接近した途端に突如、襲いかかってくるのだ。
可能性は0.1%以下とも言われているけれど、無い訳じゃない。 今までこの手段で命を落とした衛士が居るからこそ、報告されている訳だけど・・・

「タナトーシスじゃね・・・ 流石に判らないよ、何もアスカルのせいじゃないと思う」

「ま、ね。 兎に角パトリツィアには沈静薬を投与したわ、軍医に頼んで。 アスカルの方はファビオがお酒持参で見ているから、大丈夫でしょ?」

「クリスマスに、かこつけたな。 アイツってば・・・」

2人して苦笑する。
判らなくもないから、黙認しちゃいましょう。 本当は飲酒制限かかっているんだけどね。


「・・・そう言えば、中隊長は?」

「・・・遺体の傍よ」

ふと思い出す。
幸いと言うか、ニコールの機体は回収された。 戦闘がほぼ終わった時点だったからこそなのだけれど。
基地まで運んで、管制ユニットを開けたのはアルトマイエル大尉だった。
その間、必要な指示以外は全く話さなかった。 管制ユニットを開けて、ニコールを運び出したのも大尉。
事後処理の間、全く取り乱さず。 指示も判断もしっかりしていて。 特にD小隊の面々へは慰労の言葉さえかけていて。

そんな大尉だったけれど。 ニコールの遺体が『遺体袋』に入れられる時、一瞬だけ苦痛の表情をしたのが分かった。
どんな気持ちなのだろう? 最愛の女性が死んだ。 それも自分と同じ戦場で、自分の手が届かなかった場所で。
直ぐに能面のように表情を消した大尉は、何を思っていたのだろう・・・?


「・・・ちょっと見てくるね」

「お勧めできないわよ、私は・・・」

―――それでも。 副官としては気になるし、事後の対応も相談しないといけないし・・・
















「・・・ああ、蒋中尉か・・・」

遺体の安置場所で大尉を見つけて。 その背中の余りに小ささに驚いていたら、逆に見つかってしまった。
そしてその声を聞いて、後悔した。 ―――理由は判らないわ、でも、凄く後悔した。

「あの・・・ お気の毒です・・・」

―――ああ! もう! 何を言っているのよ、私はっ!!

「・・・綺麗なものだ。 綺麗な顔だよ。 とても死んでいるとは思えん。 ―――下半身は完全に潰れてしまっているが」

「大尉・・・」

「声をかければ、直ぐにでも目を覚ましそうだ。 ―――でも、もう眼を覚まさないのだな・・・」

「ッ・・・!」

「物心ついた頃から、ずっと一緒だったよ、彼女とは。 幼い頃は本当に兄妹のように育ってね。 何時の頃からか、愛し合うようになったのは・・・
だがもう、あの懐かしいストラスブールも対岸のケールも無い。 私の家から見えていたド・オベール家も。 
その家の小さな、元気で愛らしい女の子も、もういないのだな・・・」

「たっ・・・ 大尉・・・っ」

「今日はクリスマスか・・・ 『神が人間として産まれてきたこと』を祝う日に、彼女を見送るとは。 はは、何と言う皮肉か・・・」


大尉の背から視線を外す。 ―――ふと、安置場所の正面の壁に目がいく。 
そこには簡単なクロス(十字架)が有った。 小さな、小さなクロスが。

私は怖くなった。 怖くて逃げ出してしまった。
その姿が。 アルトマイエル大尉のその姿が。 一瞬、彼と重なって見えてしまったから。








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