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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/19 21:28
1995年12月15日 1330 合衆国アラスカ州 フォート・ユーコン


―――ビュオオオオォォォォ・・・・・

信じがたい程の猛吹雪。 ブリザードが鳴りやまない。 この3日間ずっとだ。
多分外は一面の白い吹雪で、5m先も見えないだろう。 それより陽の光が全く遮られて、真っ暗だろうな。

―――ガタガタガタ・・・

兵舎の窓が派手にガタガタ悲鳴を上げている。 おい、頼むから割れるなよ? 割れたら冗談じゃすまなくなるからな?
現在外気温マイナス25℃。 この調子だと、夜にはマイナス30℃台に突入するな。

何せ、12月の平均最高気温がマイナス20℃以下という土地柄、これからの季節、マイナス30℃前後は当たり前。 真冬にはマイナス50℃を突破するし。
全くもって、寒いなんて言葉は通り越している。 激痛だよ、激痛! 寒いんじゃなくてさっ!

「くそっ! フェアバンクスの連中が羨ましいぜ!」

周りから震え声の罵声が聞こえる。

「しかしな、向うも気温は似たようなものだぞ? アンカレッジくらい、海に近い街なら海流の影響でもっと温かいがな・・・」

うん。 アンカレッジなら、最高気温はマイナス5℃位まで上がるし、最低気温でもマイナス15℃位しか落ちないしな。

「こんな、バラックのオンボロ兵舎じゃねぇだろ!? 向うはよっ!? ちゃーんとしたご立派な基地に兵舎が有って!
そんでもって、セントラルヒーティングなんかしっかり利いてて! なんだよ、この室内温度、マイナス10℃ってのはよっ!?」

部屋の中にとり受けた寒暖計。 確かに摂氏でマイナス10℃、華氏で14°F。 そら、寒いわ・・・
現に皆、D2B型軍装(野戦略式冬季軍装)にコートを羽織り、私物の手袋なんか付けて震えているし。

ま、やっつけ仕事の簡易兵舎だから、しょうがないと言えばしょうが無いんだけど。 けど、実際にそこで住む者の身にもなって欲しい。
せめて2重構造の断熱素材の建材で建てて欲しかった! せめてダルマストーブは一部屋1個以上は持ってきて欲しかった! 他の部屋なんか冷凍庫だぞ!?

「さ、さむい・・・ もう、だめだ・・・」

「我慢できない・・・ もう、限界・・・」

皆がそろそろ寒さに耐えきれなくなってきた、その時。

「いよぉしっ! 全員、ハンガーまで移動! あそこなら暖房が利いている筈だ!!」

「「「 おお!! 」」」















1350 戦術機ハンガー


「で? 寒くて我慢できずに、こっちに避難してきたってかい? え? 衛士さん達よ?」

「ずず・・・ うう、勘弁して下さいよ、おやっさん。 向う、本気で冷凍庫なんスから・・・」

「せめて、今建築中の本兵舎が完成するまで、頼ンますよぉ~・・・」

「俺ら、戦死じゃなくって、凍死するッス・・・」

皆口々に窮状を訴える相手は、この戦術機ハンガーの主で整備主任将校のルドルフ・バーシュタイン整備大尉。 
旧西ドイツ軍に整備の二等兵として入隊して以来40年、整備一筋でやってきた今年58歳の大ベテラン。 
西ドイツ軍を一昨年、定年退官した後に国連軍に「スカウト」され、引き続き戦術機整備のオーソリティとして活躍中の「おやっさん」だ。

「ったく、最近の若けぇ奴はひ弱なこった・・・ おい、周防。 お前さんもか? え? 隊長さんよ?」

「・・・同じっす・・・ 本気で凍死しそうですんで、頼ンます、おやっさん。 詰所でも良いんで、寝させて下さい・・・」

「しょうがねぇな、詰所の端っこででも、転がっとけ!」

「「「「 サーッ! サンキュー、サーッ!! 」」」」














1530 戦術機ハンガー 整備詰所


「・・・で、兵舎に姿が見えないから探してみれば。 こんな場所で床に転がっていると。 何をしてるのかね? 諸君は?」

「お言葉ですが、中佐。 あの兵舎は耐寒耐久試験の実験場としか思えません・・・
何より、疲労を回復するどころか、より疲労が蓄積されてしまいます。 なので、指揮官命令でこちらに避難させました」

「うむ、確かに防寒態勢に些かの不備が有る事は、認める所であるが・・・」

「「「「 些か!? 」」」」

「・・・多大なる不備が有る事は、認める所ではあるが・・・」

「では、衛士のコンディションに関わる問題ですので、宜しいですねっ!? 中佐!?」

「・・・許可しよう。 ああ、それと。 後で指揮所まで来たまえ、周防中尉」

「・・・? はっ! 了解しました!」















1600 部隊指揮所


「まあ、まだまだ取り掛かりの段階だ。 色々と不備はでる・・・ 工兵隊には突貫で兵舎を完成させろと、せっ突いている所だよ」

出されたコーヒーカップから、湯気を立てている熱いコーヒーを飲んで一息つく。
指揮所はまがりなりにも暖房設備は完備しているし、ちゃんと2重構造建材で建てているから、寒気も染み込まないし。
全く、冗談じゃない。 俺達はここに冬季極寒耐久訓練に来た訳じゃないんだから。

「コヴァルスキィ中佐。 いくら取り掛かりとはいえ、あの兵舎は問題外と思いますが。
それとも嫌がらせですか? 米軍の。 場所で言えば、ソ連軍も1枚かんでいるとか。 欧州連合軍は相も変わらず、冷ややかですし」

建材の提供は米陸軍工兵隊だし、場所の選定にはソ連軍側と最後まで綱引きしたと言うし。
お隣の欧州連合軍の連中は、こっちの窮状を見て見ぬふりだし。

窓から外を見ると。 サーチライトに照らされた真っ黒な世界で、土木作業用重機を動かしながら整地している工兵隊の連中が見える。
このクソ寒い中、本当にご苦労さま・・・

「中尉、いくらなんでもそれは穿ち過ぎだ。 連中もまだまだ余裕は無いのさ。 
その中で最も余裕の無いのが、我が国連軍と言うのも情けない話だが・・・」

「本当にここは、『先進戦術機技術開発計画』の候補地なんですかね?」

「うむ。 少なくともグリーンランド、マダガスカル、モロッコ、西インド諸島・・・ の、いくつかある候補地の一つではある」

「つまり、決定では無いと。 ではどうして、基地造成を?」

「うむ、カリブーの保護団体用のベースを・・・ おい、冗談だ、冗談。 出て行くな、中尉!
ふぅ、別に候補地に残らずとも、この立地条件だ。カムチャツカ・東シベリア戦線への後詰の基地は必要なのだ」

「はぁ、まぁ、そうですが」

「それにだ。 国連軍としてはアイスランド以外にも、寒冷地試験が出来る試験開発センターを持っておきたい。
ここの立地条件からしても、それにはうってつけなのだよ」

そりゃ、まあ。 米国とソ連租借地の接点じゃあな。 取りあえず、米国からは技術と資金を。 ソ連はお客さんってところか?
立地条件で行けば、将来的には統一中華や大東亜連合、それに帝国もお客として見込めるか?

「では、何故衛士が必要なのです? 兎にも角にも、まずは工兵部隊でしょう。 それに兵站部隊。
戦術機甲部隊は、最後の最後なのでは?」

「アピールだよ、アピール。 候補地決定の為のね。 既に実績を作って行く事は悪い事じゃない。
いずれ決定した暁には、各国から選りすぐりの優秀なエリート衛士達が集って来よう。
その時彼等が何を、どう不満に感じるか。 その事前調査も必要な訳さ」

「・・・つまり、その他大勢の、凡庸な十把一絡げな衛士としましては、精々不平不満を言いたてておけ、と?」

「うむ、モルモットとしては、些か金のかかったモルモットだが・・・ お、おい! 中尉! 何だねっ!? この辞表はっ!?
悪かった! 言い方は悪かった! 待遇も改善しよう! だからおい! 戻って来いっ!!」













1996年1月25日 1430 アラスカ 国連軍ユーコン基地(予定地)


今日も今日とて、吹きすさぶブリザード。 もう既に外は真っ暗。 無数のサーチライトに照らされる設営現場。 何故か俺達はそこにいる。

「おい、この爆薬はここで良いのか?」

『あ~、隊長! もうちょっと上に! あ、そうそう、その辺だ!』

爆薬の入った箱を、崖の上部にセットする。 タイマーを設置してそのまま噴射跳躍で退避する。
暫くして轟音。 そして頑固に固かった岩盤が崩れ落ちた。

『よぉし! ドーザーとショベル! ちゃっちゃと片付けるぞっ!』

『へぇ~い・・・』 『うぃ~っす・・・』

何とも気の抜けた返事が返ってくる。 ま、それもしょうがない。 何しろ・・・

『何だよ、何だよ? その生返事はよ?』

『そりゃ、隊長や中尉はイイっすよ。 旧式とはいえ、ちゃ~んとした機体だしね・・・』

『俺たちゃ、衛士ですぜ? 工兵隊じゃねぇっての・・・』

「文句言うな。 機体に乗れるだけマシと思え」

『『 隊長、非道ぇ・・・ 』』

俺ともう一人―――実はイルハン・ユミト・マンスズ中尉―――が搭乗しているのはF-4EファントムⅡ。 だが部下の2機は・・・

『しかし何だな。 旧式のF-4やF-5を工兵隊用に改装したのって、初めて見るな・・・』

「ああ・・・ シュールだ・・・」

両腕をパワーショベルに取り換えたF-5に、ドーザープレートを取り付けたF-4。
確かにこんな極寒のアラスカで、ドーザーやパワーショベルの吹きさらしの運転席で作業するより、余程快適だけど・・・

「米陸軍工兵隊から借りてきたって言っていたが・・・ 米軍はホント、モノ持ちだよな・・・」

『米陸軍工兵隊って言や、国家が後ろ盾の、『世界最大の土木・建築会社』だ。 その位の融通は利くんだろうなぁ・・・』

アメリカの陸軍工兵隊と言うのは、何せ80年前にあのパナマ運河を独力で開通させ、20年前には第2パナマ運河を作った連中だ。
それに帝国の琵琶湖運河浚渫工事にも、共同参加している。 パナマを開通させた技術的ノウハウは貴重だからな。


『隊長~! マンスズ中尉~! サボってないで、手伝って下さいよっ!』

『こっち! こっちに発破仕掛けて下さい!!』

「おう、判った」

『はいよ』


予定では今月中には地均しを完了させるとか。 来月から地中を掘り下げて基礎工事に入る予定・・・ この吹雪の中でか?
と言うか、俺達はずっとこのまま工兵隊か・・・?
















1996年2月10日 1850 国連軍ユーコン『基地』


やっと、やっとの事で、念願の『普通の』兵舎が仕上がった。 本当に長かった・・・
それに基地設営工事自体も、基本となる部分はほぼ完成している。 これでようやくコヴァルスキィ中佐の言う所の『アピール』を開始できる・・・ 筈だが。

「機体が無い」

『『『 はあ!? 』』』

「機体が無い。 あるのは工兵隊の改装機体だけ」

『『『 はあっ!!? 』』』

―――判ってるよ、俺だって。 機体が無きゃ、俺達はただの居候、いや、只の穀潰しだからな。

「あと2、3日待て。 そうすりゃ第1陣が搬入される予定だ。 欧州のトーネードⅡ、ミラージュ2000、Mig-29M。 各々寒冷地耐久試験のオーダーが入っている」

「欧州系だけっすか?」

「サーマート・パヤクァルン少尉、君の祖国からはF-18Eが来る。 どうしてタイ王国・・・ 大東亜連合軍が寒冷地試験するのか知らんが。
フレドリック・ラーション少尉、君の祖国はJA-37ビゲンを持ち込んでくる。 どうしてわざわざ、スウェーデンがアラスカで寒冷地試験をするのか不明だが」

皆、ニヤニヤしている。 当然だ、明らかにその国の運用環境に不要な条件や、立地的に不自然な条件なのだから。
最も他の候補地にも送り込んでいるんだな、これが。

結局のところ、一から十まで独力での戦術機開発が可能な国は合衆国しかない。
その半ばお膝元で行われるで『あろう』、先進戦術機技術開発。 
独力での戦術機開発を目指す国にとっても、独自色を打ち出したい国にとっても、お宝の山になるだろう。

―――とりあえず、唾を付けておけ、そう言う事だ。


「ま、そう言う訳だ。 予定では来週早々から評価試験を開始する。 忙しくなるぞ?」

「工兵隊の助っ人よりはマシだな」

「まともな戦術機にさえ乗れれば・・・」

「この調子だと、本気で工兵隊にスカウトされそうっス」














1996年3月20日 1430 アラスカ州 国連軍ユーコン基地


2機のJA-37・ビゲンが地表面噴射滑走で多角短距離噴射機動を行いながら、ターゲットに向かって一気に距離を詰める。
その先には2機のF-18E・スーパーホーネットが57mm支援砲による中距離牽制砲撃で距離を保とうとしていた。

『くっ! レッド01より02! ロストした! 多分前方10時から11時方向、森の中だ、深いぞ!』

『全く! 我が祖国の機体は、こんな時はホントーに厄介だよな!!』

演習エリアはアラスカならではの大森林地帯。 当然起伏も有れば、山あり谷あり、河も有り。
それにこの季節はまだ『冬』だ。 一昨日降った雪で足場はかなり軟弱だった、砲撃1回毎にバランス補正がかかる始末。
最も噴射滑走を多用している向うは、あまり気にしていないようだが。

『それでも! 盛大に雪が舞いあがってますぜっ! 隊長!!』

一瞬、森の切れ目から姿を現したJA-37、その噴射滑走が巻き上げる氷雪を確認し、その未来想定位置に向かって砲撃を叩き込む。
と、その瞬間、相手の機体が嘘のように『消えて』しまった。

『何ぃ! 消えたぁ!?』

『冗談だろ! ・・・レーダーに感! くそ、峡谷だ! 川底を突進してくるぞ!!』

『1機だけか!? 隊長機だけ!? マンスズ中尉は!?』

『ロスト! 多分反対側、2時方向に廻り込んでくるぞ!!』

『後退だ! 500後退! 左右の川の合流点に高台が有る! 狙い撃ちだ!!』

『了解した! フレドリック、先に行け! 後衛は俺がやる!』

『頼む、サーマート!』


やがて噴射跳躍で500m後方の高台に退いた2機のF-18Eが、左右を警戒しつつ、何時でも狙撃できる体制を取ったその時。

『タリホー! 2時! 02だ! 阻止砲撃!』

『ウィルコ!!』

2機のF-18Eからの猛烈な阻止砲撃が開始される。 元々中距離からの砲撃戦を視野に入れた開発がなされた米軍機がベースだ、その砲撃に情け容赦は無かった。
必死に左右に機体を振って回避軌道を行うJA-37ビゲン。 元より軽快な運動性能が身上の機体ではあるが、ここまで行動範囲が限られるとその回避も限界がある。

『くそっ! ちょこまかと・・・!!』

『焦るな、サーマート! 俺の砲撃を回避した所を狙い撃て!』

『ウィルコ!!』

流石に、時間差で狙撃されるとひとたまりも無かろう。 今までは2機がバラバラのタイミングで砲撃していたが。

『これで終わり・・・って、おい!』

『げっ!? 真正面っ!? 何時の間に!!』

左翼の峡谷を突進している筈の隊長機のJA-37ビゲンが、距離600程の正面の雪原を突進してくる。 舞いあがる氷雪でなかなかロックオンが出来ない!

『ヤバい! 右も川底から上がって来やがった!!』

2方向から高速で迫りくるターゲット。 距離にして400m、接敵時間は2秒そこそこ!

『弾幕射撃だ!』

『無理! ロックオンが外れるっ!!』

当然向うは支援砲の特性上、弾幕射撃にしても突撃砲の比では無く、極めて薄いモノになる事を見越しての突進だ。
状況打開に焦っている内に、貴重な1秒間を失う。

『ッ!!』

『くそっ! 懐に潜り込まれたんじゃ・・・ッ!!』

双方の距離は100mそこそこ。 最早支援砲の発射速度では対応は出来ない。 向うは各機2門の突撃砲から36mmをシャワーのように吐き出し、弾幕射撃を張る。

『くそっ! ・・・うわっ!』

『サーマート!? って、くっそおぉぉ!!』

1機が36mm砲弾に絡め取られると同時に、もう1機も反対側から突進してきたJA-37の36mmの火綱に絡め取られた。


≪レッド02、動力部被弾、大破。 レッド02、管制ユニット大破。 レッド01、02、戦闘行動不能。 演習終了、RTB≫

「ブルー01、了解。 RTB」

『ブルー02、了解! レッド! おら、さっさと基地に帰るぞ!』

『へぇ~い・・・』 『はあ~・・・』

















1996年4月10日 1230 アラスカ 国連軍ユーコン基地


蒼天に大型機の編隊が舞っている。 このユーコン基地に到着する寸前の輸送機編隊だ。
やがて大型輸送機が滑走路に降り立つ。 その腹の中には戦術機が積み込まれている筈だった。

「お~、お~。 これはまた大勢来なすって・・・」

「千客万来ですねぇ・・・」

「で、俺らはこそこそ、空荷の輸送機に便乗して、オサラバすると・・・」


ユーコン基地は『先進戦術機技術開発計画』の本拠地として内定していた。
後は国連の軍事部会での承認が下れば、正式にスタートする予定だった。

「ま、俺達が出来るのはここまでだな。 種は撒いておいたし、そのお陰でユーコンに決定したそうだし。 悪くは無いんじゃないか?」

「そうは言いますけど、周防隊長。 なぁ~んか、悔しいッスよ・・・」

「そうですよ。 なぁ~んも無い凍土のバラックからこの方、苦労ばっかりで。 揚句に正式決定したら、お払い箱なんスから・・・」

サーマート・パヤクァルン少尉と、フレドリック・ラーション少尉の2人が憤懣やるかたない、そんな顔で抗議している。
その横からイルハン・ユミト・マンスズ中尉が口を挟む。

「しょうがねぇさ。 俺も、貴様らも、周防も。 間違っても『エリート様』って柄じゃねぇわな?
最前線で苦労するのが、俺達の分ってヤツだろうさ。 なあ? 直衛?」

「・・・出来れば苦労はしたくないなぁ。 怠けて、楽して、BETAを駆逐出来たらなぁ」

「アメリカ生活9か月で鈍ったな? お前さん」

「誰しも本音だろ?」


4人で乾いた笑みを浮かべ、脱力しながら輸送機を待っていたその時。 
この数か月間の上官であったヤン・コヴァルスキィ中佐が近づいてきた。

「いやはや、ご苦労だったな。 お陰でここも賑わう事になった。 いや、良かった良かった。 これもひとえに君らの苦労の賜物だよ」

「苦労しか有りませんでしたけどね・・・」

「ま、そう言うなよ、周防中尉。 君に関しては、欧州司令部副官部の『推薦』だし。
他の3人もそれぞれの司令部から、『是非に』と推薦されたのだし」

「推薦って・・・ 厄介払いの間違いじゃないのか・・・?」

「ラーション少尉、自覚が有るのかね?」

「いいえっ! 中佐殿!」


まあ、確かに俺の場合、『校長先生』―――ヘンリー・グランドル大佐の差し金だろうな。
NYで色々あって、その後のアラバマでは精彩が無かったと報告されてしまったから。

『忙しくしていれば、余計な事を考えなくてすむ』とか何とか言い出したのだろう。
そう言えば、ベルファスト赴任間もない頃には、大量の書類仕事を押し付けたよな、あの人・・・

イルハンは巻き込まれた被害者か。 後で1杯奢ってやるか。 1杯で済むかどうか判らないけど。
サーマートとフレドリックの2人は、まあ、五月蠅い馬鹿者は暫くブリザードの中で頭を冷やして来い、と言った所か? 腕のいい衛士なんだがな。

「実際の話。 各国の『エリート様』では、立ち上げ時の苦労なんか、耐えられたものじゃないからな」

「中佐?」

「君等はみな、最前線で苦闘し続けた経験者だ。 補給も整備も碌に無い状況で戦わなければならない、そんな戦場を経験している。
寝る場所もまともに無ければ、食事なんて『人間用燃料』で何日も過ごして戦う。 それがどれ程厳しい事か」

―――あれは厳しい。 本当に厳しい。

「実戦経験も、まともに無い米軍のエリート衛士や、特権階級のソ連の開発衛士、欧州や日本のお貴族様に、大東亜連合の上流階級出身者。
そんな連中に、マイナス50℃近い冬のアラスカの極寒の最中、まともな兵舎も無ければ、ハンガーの隅で毛布にくるまって毎晩休むなんて図太い神経、期待できるか?」

「「「「 無理 」」」」

4人そろったユニゾンに、中佐が思わず破顔した。

「それだからこそ、君らだったのさ! ありがとう、感謝する!」


―――ザッ!

4人そろって敬礼する。 中佐もそれは見事な答礼で返してくれた。

ま、雑草は雑草なりの意地が有るさ。 この先、このユーコンがどうなって行こうと。
雪まみれ、泥まみれになって、寒さに震え、ブリザードに右往左往しながら土台を作ったのは、俺達、雑草達だ。 この事実は変わらない。


「ではな。 元気でな」

「中佐も」

「お世話になりました」

輸送機がアイドリングを始めている。 搭乗許可が出たのだ。
4人が揃って輸送機に向かう。 ふと、タラップを上がる寸前に振り返ると、この4カ月程を過ごしたアラスカの豊かな自然が身に入った。
そろそろ冬が終わり、春が近付いている。 雪を冠した山々も、そろそろ雪解けの季節になっているのだろう、見た目が柔らかかった。

何となく立ち止まっていたが、機体クルーからせっつかれて機内に搭乗する。
やがて誘導路から滑走路へと移動した輸送機が、機速を上げて―――離陸した。

やがて眼下に横たわる雄大な景色。 万年雪をいただいた高山。 彼方にマッキンリーが見える。
雪面は所々解け始め、鮮やかな緑が姿を現し始めている。 川はすっかり氷が解けて、陽光を受けキラキラとその水面を輝かしていた。


―――これで、俺のリハビリも終わりだ。

内示だが、ベルファストに戻ればそのまま古巣への復帰命令を受けている。
改編された国連欧州軍・第1緊急即応展開軍団。 その第1即応戦術機甲師団。 
古巣の第88戦術機甲大隊は、その第1師団の第3戦術機甲連隊に組み込まれていた。

―――いよいよ、戦いだ。

この1年と半年、戦場から遠ざかって様々な事を経験してきた。 色々な事を学んできた。
それをどう生かせるか、生かせられるかは一重に俺次第だが。

(『国連軍は、只の戦場馬鹿の将校を必要とはしないのよ』)

そう言えば、ローズマリー・ユーフェミア・マクスウェル少佐から、辞令を手渡された時に少佐が言った言葉だ。
果たして俺はどうなのかな? ま、それはおいおい、俺の行動で判る事になるのか・・・

―――ただの戦場馬鹿じゃ、今まで出会った人達に悪いわな・・・


色々な人の顔が思い浮かぶ。
苦悩を持った人、自己の確信を持った人、希望を持ちたかった人、絶望しか与えられなかった人、色々な『人』達。

―――俺はどんな答えを持っているのだろう。


機体が緩やかに旋回を始めた。 もうユーコンは遥か彼方。 右手にはベーリング海、左手彼方にアラスカ湾が見える。


―――少なくとも、以前よりマシな馬鹿になれてたら良いな・・・


そう思わずにはいられなかった。






















≪飛行開始後、30分≫

≪レディース!・・・じゃねぇ、今回、女は居ねぇや。 ファッキン・アーンド・バスタード野郎ども! サイコーの空の旅をご用意したぜ!
国連欧州軍最高の空のエスコート、≪ドラッグ・シューター≫がお届けするサイコーのひと時、満喫してくれよ!
今後とも、空の旅のご用命は! 第2空輸航空団≪ドラッグ・シューター≫にお任せを! だぜ!!≫


「また、手前ぇかぁ!!」











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作者注:「第2パナマ運河」は実在しません。
実際は2007年に運河拡張計画が着工し、2014年完工予定で工事中です。



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