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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/11 12:38
―――『俺は、殺される』









1995年5月25日 1730 ニューヨーク イースト・ヴィレッジ


辺りは暗くなってきている。 これは早々に用事を済ませて家に帰らないと。 そろそろ本当にイカレた、ヤバい連中が出回って来そうだ。

―――アルファベット・シティ

東はイースト・リバーに接し、北はグラマシー、西はウェスト・ビレッジ、南はロウア・イーストサイドに接する。
そしてそのほぼ中心に位置するトンプキンス・スクエアからイースト・リバーに至る地域が『アルファベット・シティ』と呼ばれる地域である。

治安は極端に悪く、世界的に有名な『イースト・ハーレム』と並ぶ犯罪多発地域である。 麻薬売買、売春行為などの違法行為は日常化している程だ。
犯罪と貧困とに喘ぎ、そして出口の見えない絶望の街、とも言われる。

すでに日は暮れて、薄暗い街灯の灯の隙間から、薄曇りの夜空が見える。 まるで見通せない、今の俺の想いの様だった。


「・・・イヴァーリ、あんた。 本当にこの街に居るのか?」

一人の男の顔を思い浮かべながら。





―――イヴァーリ・カーネ。

元フィンランド共和国陸軍少尉。 国連軍時代は中尉だった。 
俺が93年の10月に欧州へ赴任したばかりの頃、同じ中隊に所属していた男だ。 腕のいい衛士だった。 年は20代も後半だったか。
まだ満州時代さながらガムシャラに戦っていた俺を、当時小隊長だったイヴァーリは事有る毎に諭してくれた―――数発の拳骨と共に。

『こら、小僧。 粋がるなって。 お前ぇなんざ、ちょーっとばっか地獄の入口覗いた、ヒヨコに毛が生えたようなモンなんだぜ?』

くすんだ灰色のアッシュ・ブロンドの髪と同色の瞳に、悪戯っぽい光を宿して。 不精髭だらけのだらしない格好で、俺の肩に手をまわして。
それに何時も酒臭い男だった。 なにしろ結構な酒豪だったからな、あいつは。
そういえば、いつもそのだらけた服装について、オベール中尉から小言を言われていたな。 もっとも中隊長・・・ アルトマイエル大尉は笑って見ているだけだったが。

『いいか? 小僧。 戦争ってなぁ、お祭りよ。 祭りってヤツはなぁ、やる前と、終わった後の方が楽しいものさ。
何でかって? ―――そりゃ、お前、祭中は頭の中、ぶっ飛んでいるからよっ! 何にも考えちゃいねぇやな!!』

そう言って豪快に馬鹿笑いする姿が懐かしい。 俺だけじゃ無く、圭介も、久賀も、揚句はファビオも。 随分感化されたものだ。
素行不良っぽい所は有ったが、戦場じゃこの上なく頼りになる上官で、戦友。 ―――思えば兄貴分のような存在だった。
オベール中尉や趙中尉などは、眉をひそめていたけどな。

『―――祭りの後の楽しさを知っている奴は、少ないんだぜ? 本当の楽しさの前に有る、苦しさや悲惨さを知っている奴は多いがよ・・・
だからよ、小僧ども。 せっかくの人生だ。 おおいに楽しさを味わえや。 それまでに死んじまったら、大馬鹿だぜ?』

そう言っていたイヴァーリは昨年の2月、ペロポネソス半島でのBETAの小規模間引き作戦でドジを踏んで負傷した。―――左足を切断する程の重傷を負ったのだ。
疑似生体移植が行われたが、神経接続が上手くいかず、衛士資格を失った。

『軍務に就いて10年。 負傷退役して、スズメの涙でも年金がつく。 後ろの安楽なアメリカにでも行って、のんびり過ごすわ・・・』

そう言って、歴戦の衛士は欧州の戦場から退場していった。 風の噂では、米国の市民権を得たらしい。
米軍か、国連軍。 どちらかでの軍務を規定年数、最前線で勤めあげれば市民権を交付される。 イヴァーリは合衆国市民になっていた。

そのイヴァーリからの手紙が届いたのが先週の事。 消印は今年の2月。 場所はニューヨークだった。
どうやら、第88大隊から転送されて、欧州の副官部第3室、そしてこのニューヨークへ舞い戻ってきたという訳だ。



―――『俺は、殺される』

その一文だけの手紙。 たったそれだけの手紙。 
居てもたってもいられなくなり、時間を見つけては辺りをうろついていたと言う訳だ。

あいつは生きて、生き抜いて、後は平穏に暮らしている筈だ。 そうしている筈なんだ。
そんな思いが頭をよぎる。 『祭りの後』の楽しみを語っていた陽気で不敵な男。 いつも戦場を生き抜いた後の暮らしを語っていた男。
先の見えない戦場で。 自分だけは死なないのだ、生きて、生き抜いて、その後は安楽に暮してやるんだ。 そう言っていた男。


―――『俺は、殺される』

(―――イヴァーリ。 本当に、アンタなのか・・・?)


やがて目指す先が見えてきた。 薄汚れた街路に元は瀟洒だった筈のアパートが建ち並んでいる。
ふと、人だかりが出来ている。 どうやら目当てのアパートの前のようだが・・・

「おいっ! 下がれ、下がれ!」
「見世物じゃねぇンだ! 下がれってんだ!」

NYPD(ニューヨーク市警)制服警官が、群れ集まった連中を追い払っている。 ―――この辺りだと、9分署の連中か。

「おいっ! アンタもだっ! 下がって、下がって!」

アフリカ系と思われる警官が、アパートに入ろうとした俺達を制止する。

「・・・ここの住民に用が有るんだけどな?」

「ダメダメ、今は駄目だ。 現場検証が終わってからな」

「いつ終わるんだよ、そんなの・・・ じゃ、呼び出すのは構わないだろう?」

「ちっ・・・ ちょっと待ってな。 で? 誰を呼び出すんだ? サージャン(Sergeant:巡査部長)に聞いてやるよ」

「イヴァーリ・カーネ、フィンランド系。 ここの住人だよ」

だが。 その名を出した途端、渋々ながらも対応していたその警官の態度が急変した。

「ちょっと、署まで来てくれないかな? 色々と話を聞きたい」

「・・・どう言う事だ?」

嫌な予感がする。 この手の予感ってヤツは、往々にして良く当るものだ。 当って欲しくも無いけどな・・・

「ここでホトケさんが発見された。 オーヴァードーズ(薬物過剰摂取)でくたばりやがった。
ヤクの売人さ。 ミイラ取りがミイラになりやがった。 名前は―――イヴァーリ・カーネ」












1800 イースト・ビレッジ NYPD(ニューヨーク市警察)第9分署


「いやいや、失敬。 国連軍の中尉さんとは」

東南アジア系と思しき私服刑事が、目の前で苦笑している。 年の頃は30前後か?
ここはNYPD本部の調書室。 あれから任意同行を求められた上に、色々と聞かれたが。 IDを示した所、嫌疑は晴れたようだ。

「しかし、どうしてあんな所へ? アンタのような人間が達居る場所じゃ無かろうに?」

不精髭をこすりながら、いつ洗ったか判らないようなコーヒーカップに口を付けている。そして目の前の灰皿は、吸い殻の山。
よく言うな、軍と警察から喫煙者は永遠に追放出来はしない、と。 それだけ、ストレスが強烈な証拠なんだけど。

「サラマト刑事、それはさっきも言った筈だ。 イヴァーリ・カーネから手紙を貰った。 彼は国連欧州軍時代の戦友なんだ。
それ以上でも、以下でもない。 大体、俺は手紙をもらうまで彼がNYにいる事すら知らなかった」

「成程な? で、偶々訪れたら、イヴァーリの奴はオーヴァードーズでくたばっていたと?」

「それ以外、言い様はない」

―――さっきから、堂々巡りだ。

ハッキリ言ったらどうなんだ? 俺に殺人か、薬物売買の嫌疑が無きにしも非ず、だと。

「いやいや、状況から見てアンタにはその嫌疑は無いよ。 それより、奴の背後関係をだな・・・」

「だからっ! 知らないと言っているっ! 彼とは去年の2月、負傷退役した以降会ってはいないし、音信も無かったっ!」

「会っていない? 証明できるかい?」

―――ああ! くそっ!

「俺は周防直衛国連軍中尉。 以前の所属は国連欧州軍、第1緊急即応展開軍団、第88独立戦術機甲大隊! 俺が前にいた部隊だ! 去年の10月まで在籍した!
大隊指揮官はエイノ・ラウリ・ユーティライネン少佐! 直属上官はヴァルター・クラウス・フォン・アルトマイエル大尉!
それ以降は国連欧州軍総司令部・副官部第3副官室所属! 上官は室長のヘンリー・グランドル大佐!
今は留学中の身だが、所属は変わっていないっ! 不審に思うのなら、欧州軍第1緊急即応展開軍団司令部か、総司令部副官部に問い合わせてくれっ!!」

ううっ! 血圧が上がるっ!!

その時、ドアをノックして制服警官が何やら書類をサラマト刑事に手渡した。
その書類と俺の顔を交互に眺めながら、ようやくの事でニヤリと笑う。

「ははっ! 判ったよ、中尉。 アンタの嫌疑は無しだ」

今にも掴みかからんばかりの俺を、ニヤニヤ眺めながらその刑事はようやくの事で俺の言う事を確認したようだ。

「ま、悪く思わんでくれ。 これも仕事でな。 ・・・で、どうだい? ちょっと外で一杯?」

「・・・職務中じゃないのかよ?」

「5分前に勤務時間は終わったさ、今はオフだ。 ちょっと付き合ってくれないかね? 色々、話も有るんだ」

「俺は無い。 早く家に帰りたいんだけどね?」

「気にするな、明日は日曜日だ。 神様だって、休業日さ」

―――なんて警官だ。

NYの警官って、こんな奴ばっかりかよ? 帝国じゃ、真面目で四角四面な警官像しか思い浮かばなかったけどな・・・
実の所、これから特に用も無い。 明日は日曜だし。 仕方ない・・・

「奢りなら、いいぜ?」

「・・・薄給の警官に集るかよ?」

「誘ったのはそっちだろ?」

しかたねぇな――― そうぼやくサラマト刑事と一緒に分署を出た。
ロウア・イーストサイドの方へ歩く事10分少々。 お目当ての店はこじんまりとしたパブだった。








「なぁ、中尉さんよ。 アンタが知っているイヴァーリ・カーネってな、どんな奴だった?」

席についてビールを1杯飲み干した所で、サラマト刑事が唐突に聞いてきた。

店内は英国のパブに模した内装。 テーブルや床は、程良く飲み倒され、しみ込んで来たアルコールと煙草のヤニが混ざった、くすんだ染み。
BGMがゆったりと流れる―――『アメイジング・グレイス』 “クイーン・オブ・ソウル” “レディ・ソウル”こと、アレサ・フランクリンのゴスペルか。
俺的にはこっちも好きだが、世界的に有名なギリシャ系の歌手、ナナ・ムスクーリのカヴァーの方も良い気がする。

“Amazing grace how sweet the sound, That saved a wretch like me.”(アメイジング グレース 何と美しい響きであろうか 私のような者までも救ってくださる)
“I once was lost but now am found, Was blind but now I see.”(道を踏み外しさまよっていた私を神は救い上げてくださり、今まで見えなかった神の恵みを今は見出すことができる)

「・・・イヴァーリは。 陽気で、強気で、それでいて周りの事も見てくれていた。 
戦場じゃ頼りになる上官で戦友だった。 俺は彼に何度、助けられた事か」

「歴戦の衛士、ってやつか。 確か10年もの軍歴の持ち主だったな。 ま、色々素行問題も有ったようだな、中尉止まりだったと言う事は」

「MPをからかうのが趣味の一つでね。 お陰で当時、部下だった俺も逃げ脚を随分と鍛えられたよ」

2杯目のビールを飲む。 軽いライトビアだから、殆ど水分補給の様なものだ。 暖気が終わったら、ウィスキーでも頼むか・・・


“Twas grace that taught my heart to fear, And grace my fears relieved,”(神の恵みこそが 私の恐れる心を諭し その恐れから私の心を解き放つ)
“How precious did that grace appear, The hour I first believed.”(信じる事を始めたその時の神の恵みのなんと尊いことか)

「ふ、ん・・・ どうやら神様は、道を踏み外した奴を救い上げてくれなかった様だな。
奴の心も、解き放せなかったか・・・」

「何の事だ?」

「押収品だが・・・ ま、読みな」

そう言って、1冊のノートを鞄から取り出して俺に渡す。 ごく普通の市販のノートのようだが・・・
何気なしにページをめくって。 中身を読み始めて気がついた、これは―――

「そうさ―――イヴァーリ・カーネの苦悩の記録・・・ 奴の記した日記さ」

日付は―――昨年の6月頃からだった。 丁度、イベリア半島のアンダルシア・ジブラルタル防衛戦の頃か・・・
そこに記されているのは、紛れもない、一人の人間としての苦しみと恐怖、そして苦悩と畏れだった。

「イヴァーリの奴、PTSDだったのか!?」

―――そんな記憶はないが・・・


“Through many dangers, toils and snares I have already come.(これまで数多くの危機や苦しみ誘惑があったが)
“Tis grace hath brought me safe thus far,And grace will lead me home.”(私を救い導きたもうたのは他でもない神の恵みであった)

「俺も、戦場の恐怖ってヤツは知っている。 歩兵として5年間、最前線で戦ったんだよ・・・」

「アンタが?」

ステイツにも実戦経験者が居てもおかしくはない。 寧ろ、市民権を取得する為に軍に志願入隊して、国連軍へ派遣されるケースが多いのだ。
ふと、サラマト刑事がグラスを置いて神妙な目で俺を見つめていた。

「なあ、俺の名前はジョン・サラマトだ・・・ クニじゃ、ヌーリ・サラマト。 一応、インドシナ難民の出って事だが。 俺はモロ人さ」

サラマト刑事はまるで何かを押し流したいかの様に、グラスの中身を一気に飲み干す。
そんな彼を見て、ふと唐突にその言葉の意味が判った。

「・・・モロ人!? 確かミンダナオ島の少数民族・・・ じゃ、アンタ、フィリピン人じゃないのかっ!?」

―――だったら何故、難民なんだ? フィリピンは未だBETAの侵攻を受けていない。
東南アジアでは数少ない、国土を保っている国だ。 じゃ、何か? 彼は偽装難民・・・!?

「俺の故郷はな、クソッたれな場所だよ。 南部は貧しい、その中でもとびっきりの貧困地帯さ。 ほんの10ドルで人殺しを請け負う奴なんてザラだったさ」

おまけにフィリピン南部、特にミンダナオ島辺りは未だにMILF(モロ・イスラム解放戦線)の勢力が強く、半自治地区の様相だ。
それにより反動的なアブ・サヤフなんかが、イスラム原理主義勢力のジェマ・イスラミアと共闘していて、それこそ朝の挨拶代わりに政府軍と毎日ドンパチやっている筈だ。


“The Lord has promised good to me, His Word my hope secures;”(主は私に約束された主の御言葉は私の望みとなり)
“He will my shield and portion be As long as life endures.”(主は私の盾となり私の一部となった 命の続く限り)

「どこもかしこも、賄賂と不正がまかり通る。 教会だって同じさ。 俺は少数派のカトリックだったがね、まともに教会に行く気も無かったな・・・」

最前線でBETAと戦う事に必死になっていた頃。 俺は世界の他の場所の事なんか考えもしなかった。
そこがどんな場所か、どんな人が住んでいるのか、どんな想いを持っているのか。

「政府からの援助は、地元の有力者がピン撥ねする。 その次に地元の州政府、役所。 俺達の元には1ペソたりとも落ちてこなかったな・・・」


“Yes,when this heart and flesh shall fail,And mortal life shall cease,”(そうだ この心と体が朽ち果て そして限りある命が止むとき)
“I shall possess within the vail,A life of joy and peace.”(私はベールに包まれ喜びと安らぎの命を手に入れるのだ)

「俺がガキの頃さ、近所に難民キャンプが出来た、インドシナから逃げてきた連中さ。 みすぼらしかったよ、着の身着のままでさ。
でもよ、俺達だって同じようなものだったのさ。 何の事はねぇ、面倒な貧乏人は、貧乏な場所に纏めて放り込めってことさ・・・」

―――難民キャンプの待遇の酷さは今に始まった事じゃないが・・・ それがまた、「難民解放戦線」(Refugees Liberation Front:RLF)の温床になっている。

「毎日、毎日、少ない食い物の奪い合いで、殺し合いなんぞ珍しくも無かった。 ガキどもさえ殺し合い、体を売って一切れのパンを得ていた。
考えてみりゃ、地獄だよな。 BETAとの戦争とは違うけどよ、あれも地獄だったさ・・・」


“The earth shall soon dissolve like snow,The sun forbear to shine;”(やがて大地が雪のように解け太陽が輝くのをやめても)
“But God, Who called me here below,Will be forever mine.”(私を召された主は永遠に私のものだ)

「そんな時にな、難民キャンプの方でアメリカのキャンプへの移転希望者が募られた。―――俺はダメ元で志願したよ。 
何だって? ばれないか、だって? はは、係官はアメリカ人だったさ、白人だった。 連中にアジア系の区別なんぞつくものかよ」

「・・・俺も、東南アジア系の区別は正直付かないな」

「はっ! お互い様さ。 俺だって中国人と日本人と韓国人の区別はつかねぇ。
・・・で、俺は晴れて地獄の故郷から脱出した。 アメリカで軍に志願入隊して、目出度く欧州でBETA相手の地獄に逆戻りさ」

「で・・・ 生き残って、市民権を得て除隊して。 今は警官か?」

「そうさ。 安住の地ってやつだ。 まさに『Tis grace hath brought me safe thus far,And grace will lead me home』
はっ! 俺を救い導いた、神の恵みだぁ? 俺はな、俺の悪運の強さで地獄から帰って来たんだよ・・・」


“When we've been there ten thousand years,Bright shining as the sun,”(何万年経とうとも太陽のように光り輝き)
“We've no less days to sing God's praise Than when we'd first begun.”(最初に歌い始めたとき以上に神の恵みを歌い讃え続けることだろう)

「だから俺は・・・ この歌は大嫌いさ。 本当の地獄を知っている奴からすれば、気が知れねぇ・・・
イヴァーリ・カーネは。 奴はどんな地獄を見てきたんだろうな。 戦場で、そして・・・ このビッグアップル(NYの事)でよ・・・」

―――くいっ 

ビールグラスを開けたサラマト刑事―――いや、ヌーリ・サラマトの目は憐れむようであり、同情するようであり、そして怒っているようでもあった。













1995年5月27日 2130 ニューヨーク トライベッカ


朝からの雨が降りやまない。
雨音を聞きながら、俺はここ2日程例の『日記』を読んでいる。

『今日もまたあの悪夢だ。 くそ、どこまで追いかけてくる気なんだ、何時まで追いかけてくる気なんだ。―――1994年9月10日』

『Amazing Grace(素晴らしき恩寵)など、何処かの誰かの上の話だ。 俺には関係ない。 俺には・・・ 恩寵なんて、会った例はない。 くそったれっ!―――1994年10月5日』

『今日もいろんな奴の顔を見た。 懐かしい奴、気に食わない奴、色んな奴らの顔を。 ・・・みな、死人だ。―――1994年11月22日』

『世間はどうして否定するんだ? 俺は戦った! 命がけで戦った! その事を語るのが、どこが悪いって言うんだ?―――1994年12月10日』


戦場と後方、前線国家と後方国家。 温度差が有る事は当然だ。 俺自身、今こうして『後方国家』の中に身を置いている。
だけど・・・ 俺とイヴァーリの立ち位置の差は、俺は相変わらず『国連軍の将校』なのに対して、イヴァーリは『一個の市民』だった事か。

俺が戦場を、戦争を語る事は。 現役の将校、それも戦争当事国出身の国連軍将校、そういうフィルターから見られる訳で。
そこには一般社会と軍、軍人とを繋ぐべく、クッションと言うか、社会的なインターフェースが介在する訳で。

だから俺は違和感を覚えながらも、この社会に身を置けているのだろう。
しかしイヴァーリにはそんなモノは無かった。 彼は物心ついた頃から、母国は戦争をしていた、BETAとの。
そして長じて軍に身を投じ、戦場と戦争以外の事を経験する機会が無かった。

その事が、この国で彼のような存在を受け入れるコミュニティーが無い事に輪をかけたのか。
そしてそのストレス故に、過去の忌わしき記憶―――誰でも、戦場で思い出したくない記憶の三つや四つは持っている―――それを思い出したか。 忘れられなくなったか。


『・・・皆が歌う、『Amazing Grace(素晴らしき恩寵)』と。 皆が歌う、『His Word my hope(主の御言葉は私の望み)』だと・・・』

『―――A life of joy and peace(喜びと安らぎの命)、だと? そんなモノ、一体どこにあると言うのだ。 一体、誰が与えると言うのだ―――あの戦場で。―――1994年12月24日』

―――戦場に無神論者はいない。

よく言われる言葉だが、真理だ。
昔の戦場にせよ、今のBETA大戦にせよ。 最前線で、命がけで戦っている将兵にとって。
砲弾が降り注ぐ塹壕の中。 数万のBETA群が、津波の様に群れ突進してくる防衛線で。
トリガータイミングの一瞬の差で、死ぬか殺すかの刹那。 突撃級を交わし、要撃級を避けながら砲弾を叩き込む一瞬。

誰しも思わず何かに祈る。―――『頼む! 助けてくれ!!』
それが神に対してなのかどうかは、人それぞれだが、俺もそんな経験は無数にあった。 人知の範疇を越える偶然、それに縋るより他に無い状況下では。

イヴァーリとて同じだっただろう。 元々クリスチャンの彼としては、戦場で生き延びた喜びを、神に感謝した事も有っただろう。

何が彼を変えたのかは、判らない。
彼に内心にどのような思いが去来したのかは、判らない。

だが、恐らく彼は絶望したのだろう。 平穏な筈の市民としての生活に、そして神に。

雨がますます強くなってきた。 雨戸を閉じて、カーテンを引いて。 そして、ベッドに潜り込んだ―――正直、やり切れなくなったからだ。









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