<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[7678] 祥子編 南満州7話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/06 00:08
1994年11月14日 1550 山海関 中国軍第4野戦軍 輸送司令団


「急げ! 戦術機甲部隊だけでも、瀋陽防衛線に戻すんだ! 移動手段!? 飛んで行け! 何の為の飛行能力だ!!」

「瀋陽の整備部に緊急電! 『整備屋どもを総動員しておけ!』 とな! 着いたら即時、戦術機は整備に入れっ!」

「82式戦車運搬車(戦車トランスポーター:HY-473)! 数が足りない!? 馬鹿野郎! 戦車を400kmも自走させられるかっ! 戦場に着く頃には、足回りがオシャカだぞ!」

「日本軍から、86式特大型運搬車(戦術機トランスポーター)、88式特大型運搬車(戦車トランスポーター)、各100両、出せるとのことです!」

「日本軍はどうするんだ!?」

「はっ! 『戦域は近いから、このまま自走さす。 遠慮なく持って行け』です!」

「その言葉! 感謝すると伝えろっ! おい、ありったけのトランスポーターをかき集めろ! 戦車用でも、戦術機用でもいい! 兎に角、運べる手段だ!!」

「おい! 野砲はどうする!?」

「203mmはMl-26(最大積載20t)で吊り下げろ! 155mm以下はMl-6(同12t)で大丈夫だ! 空輸団を根こそぎ動員しろっ!」

「自走砲はそのまま、自走さすんだなっ!?」

「そうだ! おい、歩兵部隊の移動手段! 確保したのかっ!?」

「機動歩兵以下は装甲兵員輸送車をかき集めた! 90式に85式! 80式からハンガーで埃をかぶっていた65式まで! 
ポンコツトラックも併せて7000両! 向かわせている! ところで交通整理は誰がやるのだ!? 大渋滞になるぞ!?」

「総司令部に聞け! 機械化歩兵装甲部隊は!? どうした!?」

「輸送船を港湾地区に近づけさせた! 廃墟だが岸壁は残っている! 海上から営口まで持って行く! そこからなら、まだ鉄道輸送網が使える!」

「輸送船!? どこのだ!?」

「国連軍の物資輸送船団だ! 空船を急遽、回航させたっ! 危険手当は国連にツケとけってな!!」


輸送団本部テントの中は、喧騒が渦巻き、怒号が飛び交っている。
思わぬBETA群発見の報告によって急遽、大部隊の配置急転換作業が行われているのだ。

兵器は万能ではない。 戦術機は出撃毎に最低限の機体整備を受けないと、満足な性能を発揮できない。
戦車は100kmも自走させると、足回りを中心に半日は整備に時間を費やすほど、デリケートな工業製品だった。

牽引式の重砲は自らでは動けない。 トラックで牽引するにしても、トラック自体の数が足りていない。
歩く事が商売の歩兵も、1日30km程が目安だった。 それ以上は疲労が蓄積されて、戦闘には使えなくなる。


部隊の規模自体も問題だ。 第4野戦軍の2個軍団、6個師団に3個旅団。 人員は10万人に近い。
それだけの数を急遽、400km彼方の瀋陽防衛線に急ぎ移動さすのだ。
(考えてみて欲しい。 帝都・京都から、副帝都・東京まで、10万人を短時間で移動させる労力を!)

第4野戦軍輸送団本部は、ありとあらゆる手段、伝手を辿って迅速な輸送計画の立案・実行を迫られていた。
兎に角、営口。 あそこまで運べば、今だ軍事鉄道網は瀋陽までなら健在だ。 あとは鉄道のピストン輸送―――人も兵器も同列での―――で運べる。

タイムリミットは本日2000 それまでに移動手段を確保し、計画をでっち上げ、実行に移す。
最低でも明日の夜までには、全部隊を瀋陽へ―――正気の沙汰ではない。
だが出来なければ―――BETAとの最前線が韓国国境線まで下がる事になってしまう。 中国東北部は消滅するのだ。

「急げっ! 俺達の戦いは―――今が正念場だぞっ!!」

団司令の発破は、団本部要員全てが焦燥と共に共有する実感であった。 彼らの戦いは、今まさにその正念場を迎えていた。

















同日 1700 満洲方面攻撃軍司令部 山海関


方面攻撃軍司令官と同時に、『極東絶対防衛線』 防衛司令官である李伯陽上将が、戦略戦域情報デジタルMAPを食い入るように見つめている。
MAPには、現在の戦略状況が表示されていた。


まず北から―――H19・ブラゴエスチェンスクハイブから飽和したBETA群・約3万2000は現在、ハルビン付近に固まっている。

この方面への防衛は、防衛副司令官である夏黎大将(中国軍)が第1野戦軍(第16、第23、第39集団軍=軍団)を率い、ハルビン南方の四平で防衛に当たる。
更には、予備部隊として瀋陽に残してきた韓国軍第11軍団が、急遽北上して指揮下に入る手筈だ。

但し、この方面へはH18・ウランバートルハイブからのBETA群3万2000、その内の半数1万6000が分離して向かっている。
このウランバートルB群は更に、1万のB-1群が瀋陽方面へ。 B-2群6000が四平の西方へ、側面から突進する構えを見せている。
従って、第4野戦軍の戦略予備であった第77集団軍(軍団)が急遽、四平の西方へ移動し迎撃を行う。 北部防衛部隊の柔らかい横腹を守る為に。


中央は、山海関から急速転換する第4野戦軍(第56、第61集団軍)と、韓国軍第5軍団が布陣する。 

この方面へ向かうであろうBETA群は、ウランバートルB-1群の約1万。
但し、機動展開軍団である第61集団軍は戦況如何によっては、第77集団軍の支援に回る予定だった。
(第77集団軍は第4野戦軍中、最も兵力が少ないのだ)


問題は南部であった。

この方面へ向かうと予想されるBETA群は、ウランバートルA群の1万6000に併せて、H14敦煌ハイブから飽和してきたBETA群3万5000のうち、B群の約2万。 
合計3万6000。 これが現在、錫林浩特(シリンホト)から南下して赤峰(チーホン)付近で合流。 一気に南下の気配を見せている。

これに対する防衛部隊は、日本帝国軍大陸派遣軍(第6軍)の内の、第9軍団と第11軍団。
そして国連軍第12軍団(実質、アメリカ太平洋軍第3軍第8軍団)の3個軍団。
BETA群の数に対して、防衛部隊の数の比率が最も不利な防衛戦域である。 そしてここを抜かれれば、瀋陽が北西と南西から挟撃されるのだ。


但し、この南部防衛線は海上支援を最も受けやすい立場では有った。

日本帝国海軍第1艦隊から、第2戦隊(戦艦信濃、美濃)と第3戦隊(戦艦大和、武蔵)の戦艦群4隻。
そして第3艦隊から第1航空戦隊(戦術機母艦大鳳、海鳳)、第2航空戦隊(同飛龍、蒼竜)の母艦戦術機甲部隊。
そして、巡洋艦以下の艦艇群と、中国北洋艦隊、韓国西海艦隊。 これらの支援を常時受ける事が出来た。



「―――後は。 只、力戦有るのみ」

デジタルMAPを見つめていた李上将は、周りに聞こえない程小さく呟き、そして大きく下命した。

「我等は防衛戦を完遂する。 ―――只、完遂有るのみ! 行動始め!!」



―――長い悪夢の夜は、今だ明けてもいない。















1994年11月14日 2200 遼東半島南岸 帝国陸軍第108砲兵旅団 砲兵陣地本部


夜の帳が落ちたその場所には、何とも奇怪なモノが各方向を指向していた。
一見、只の口径の大きいスチールパイプ―――精々、40~50m程の―――にも見える。 
しかし、各所に等間隔で並んで張り出した『枝』のようなスチールパイプは何なのだろうか?


「閣下。 各砲、目標座標の割り振りが完了いたしました」

副官の報告に、指揮官である准将が頷く。

「で。 結局、割り振りは事前通りにかね?」

「はい。 脅威レベル、BETA数、その他。 照らし合わせて、最も支援密度の高い地域を、渤海湾岸沿いに展開する、南部防衛戦線に。
次いで、H19からの圧力を一手に受ける満洲北部防衛戦線に。 瀋陽防衛線と、山東半島防衛戦は最低度としました」

―――ふむ。 12門のうち、4門を赤嶺方面、4門を南満洲北部、各2門を瀋陽方面と山東半島方面か。 まぁ、妥当だろう。


山東半島方面の砲撃目標・済南の北北西に位置する徳州(トーチョウ)まで約700km。

渤海沿岸の南部防衛線支援の攻撃目標・赤峰(チーホン)まで約500km。

瀋陽の第4野戦軍防衛線の支援攻撃目標・巴林左旗(バイリンツオチー)まで約600km。

南満州北部防衛戦への支援攻撃目標・徳恵(トーホイ)まで、約620km。

86式超々長射程砲の最大射程が750km。 どこでも十分に砲撃可能圏内だった。


「既に発射準備は完了しております。 ご指示を」

あとは自分の砲撃開始命令で、この12門が咆哮する。

「よし―――では、始めようか。 射撃開始したまえ」

「はっ! ―――各砲部署! 砲撃始めっ!」


意外に甲高い発射音を残し、12発の381mm砲弾が発射される。 呆気無い程だった。
だが、いましがた発射された砲弾が、只の砲弾では無いという事。 故に、超々長射程と、超高初速を有するこの砲が選ばれたのだ。

重光線級BETAのレーザー照射さえ届かぬ長遠距離射撃と、光線属種の飛翔体認識能力を超す超高速での飛翔。
この2点を満足させうる、現状での唯一の手段で有ったからだ。
















1994年11月14日 2205 赤嶺南方20km 混成打撃戦術機甲大隊 第3中隊


「・・・ッ! 着弾確認!」

LANTIRN(夜間低高度 赤外線航法・目標指示システム)をセットアップさせた網膜投影視界一面に、眩しい世界が広がった。
着弾と同時に、地表付近に超々高温で有る事が一目でわかる、猛烈な照度の光球が発生した直後。 核爆発にも似た巨大なキノコ雲が発生する。

やがて、真後ろから猛然と突風が吹きつける。 機体を膝立て姿勢(ニーリング・ポジション)で維持しておかないと、衝撃で持って行かれそうな勢いだ。
襲い来る衝撃波に機体が震える。 第3(第23)中隊長・綾森祥子中尉は顔を顰めながらも、砲撃評価報告をHQへ行っていた。


『随分、殺れたと思いたいですけれど・・・ 精々、1万弱ってトコですよね?』

秘匿回線から、中隊副長で先任小隊長・伊達愛姫中尉の声が聞こえる。 
少しのタイムラグを置いて、彼女のバストアップ映像が網膜スクリーンに映し出された。 どうやら爆発の影響か、通信干渉が出ているようだった。

「そうね・・・ 本音を言えば、折角使った弾頭だもの。 全滅して欲しい所だけれど。 無理でしょうね。
1万はいかないわ。 精々、6000か・・・ 上手くいって、7000。 それ以上は無い物ねだりね」

今回の出撃では、偵察戦術機甲部隊用の装備である、超望遠観察鏡を装着している。 肩部に台座を装着して、多節アームの先に超倍率センサーを取り付けたタイプだ。
勿論、戦闘時には邪魔なだけなので、パージ出来るようになっている。

その映像情報を確認できるのは、中隊長の綾森中尉と、中隊副長の伊達中尉の2機のみ。
第2小隊長の間宮中尉が観察の間、周辺警戒の指揮を執っている。

やがて、キノコ雲の下から禍々しい、赤黒い津波が湧き出てきた。

『・・・観測データからの推定個体数、約2万9000から3万。 砲撃前の推定個体数は・・・』

「約3万6000だったから。 上出来ね、6000から7000のBETAを削れたわ。 これで随分、戦い易くはなるわね」

『程度問題ですよ・・・ 戦術機甲師団は3個だけですよ? それも定数割れした18師団を含んでです。 機甲師団や、機械化歩兵装甲師団も同数は有るとはいえ。
今回、戦術機は定数割れしていますし。 800機も無いんですから。 向うは、大型種でも3000前後は居ますよ?』

BETA群における大型種の比率は、大概の場合、群れの総数の10%前後という統計が有るのだ。
今回の場合、戦術機1機で少なくとも4体前後の大型種を屠らなければならない。 が、最も―――

「そこは戦術よね。 機甲部隊や機動砲兵部隊と連携すれば、大型種の対応は困難じゃないわ。
寧ろ厄介なのは小型種―――戦車級ね」

恐らく1万以上はいるであろう、戦術機にとって小型種の中の厄介者。 集られれば、瞬く間に装甲を齧り取られ、衛士も喰い殺されてしまう。
戦車級と同数以上と見て良い闘士級BETAも、機械化歩兵装甲部隊以外の歩兵・支援部隊にとっては、厄介極まる存在だった。


「言っても仕方が無いわ。 データを送信し終わったら、さっさと防衛線まで退避するわよ。
こんな所で奇襲を受けた日には、目も当てられないわ。―――間宮?」

『―――周辺警戒、異常無し。 音紋、震動、光学、レーダー、いずれもネガティブです。 少なくとも、周囲10km範囲にBETAは未だ存在せず』

警戒指揮官・間宮怜中尉が警戒情報を報告する。 その間、中隊の各機は休まず各種センサーによる警戒を続けていた。

「了解。 ―――データ送信、完了。 引き上げるわよ。 ≪セラフィム≫、陣形・ダイヤモンド・デルタでNOE。 高度は戦域警戒指定高度(200m)を維持。 行くぞッ!」

『『『『 了解 』』』』

12機の『疾風弐型』が、小隊ごとに菱形のフォーメーションを作る。 
そして第1小隊を先頭に、その右後方300mに第2小隊が、左後方300mに第3小隊が、各々同じ陣形を作り続行する。
咄嗟の場合、どの方向にも即座に対応出来るための陣形だった。


遼東半島南部の帝国陸軍第108砲兵旅団が行った、超遠距離支援砲撃。 
その砲撃に使用されたのは、381mm砲弾での運用を行うタイプの、S-11弾頭弾で有ったのだ。

戦術機に搭載するS-11と比較すると、3倍から3.5倍の大きさである381mm砲弾用S-11弾頭。
その破壊力は『戦略核未満、戦術核以上』とも言われる。 それが、この方面には4発。

既にBETAに喰い荒らされた土地とはいえ、やはり良い気はしない。


「・・・BETAめ。 よくもこんなもの、使わせやがって・・・」


八つ当りは自覚の上で、綾森中尉は普段からは想像できない口調で、業火に焼かれる後方の大地を見つつ、思わず悪態をついた。



















同日 2230 朝陽防衛線 混成打撃戦術機甲大隊 第2(第33)中隊


先遣偵察隊の第3中隊が、赤峰方面のBETA情報を持ち帰ってきた。
それによると、BETA群は約3万程。 これでも先程の『特殊砲撃』で6000から7000のBETAを削ったのだと言う。
その確認の為に、BETA群の20km付近にまで強行接近して、索敵情報を収集してきたのだ、第3中隊は。

「・・・流石は、92年から満洲駐留経験者の多い部隊だな。 腹が据わっている」

野外での中隊のブリーフィング中。 横に座っている市川中尉の小さな呟きが聞こえた。

確かにそうだろう。 あの中隊は・・・ いや、所属連隊である第141戦術機甲連隊自体、歴戦の連中を豊富に抱え込んでいる部隊だ。 
他の連隊指揮官達から見れば、まったくもって垂涎であろう。 


翻って、我が中隊は・・・ 満洲に転出して、未だ2カ月。 その間、大規模なBETAとの戦闘は今回が初めて。
衛士達自身、実戦出撃・戦闘回数自体、10回に満たない者が大半の『若輩部隊』―――所謂、『ジャク』が多い部隊だ。

私の所属する小隊も、小隊長の市川中尉が精々、実戦は3回目か4回目か? 
補充で配属された2人、佐倉大吾少尉と宮本次郎少尉に至っては、1ヵ月半前に訓練校を卒業したばかり。


―――アタマ、痛い・・・


昨日の市川中尉との会話を思い出す。

『神宮寺少尉。 君は小隊先任として、新任の2人、何としても生き残らせるんだ』

いきなりだった。 生き残る事、それ自体は当然の事だ。 BETAとの戦いで、個人としてなす事、それはまず『生き残る事』
そうすれば、次の戦いに臨める。 その為には・・・

『君がこれまで戦って、生き残ってきた事実。 これは動かせない事実だ。 そしてその為に何が必要で、何を成すべきなのかを知っている事も。
だが、新任達はそんな事を何も知らない。 ―――僕自身、危ういけどね。 だが、僕は指揮官だ。
指揮官ならば、他に為すべき事もある。 神宮寺、君に今こうして命令している事もそうだ』

私に新任達を押し付ける事が?

『どのようにして生き残るかを、教える事だよ。 君は先任だ。 当然、君自身の戦訓を後輩に伝えなきゃな。
そして僕は、君をしてそうするように指導する。 小隊長だからね。 言ってみれば、僕は新任教師。 君は学校の上級生。 
戦場と言う『学校』に、入学してきたばかりの新入生の世話を焼く事は、上級生の仕事だよ』

思わず呆気にとられた。 何を言い出すの? この人は・・・?
そして微かにチクリ、と、記憶の中を刺激する。 その原因が何なのか、最初は判らなかった。 だが・・・

『僕には、神宮寺、君の様な実戦経験は無い。 新任の部下に戦場の何たるかを教える程の経験が無い。
だけどその経験を有する者を見極めて、その者を促す事は出来る筈だ。 
君は適任と見た―――これでも、教育者になろうとしていた学徒の端くれだ。 その位は出来る』

教育者、学徒、夢―――戦場で封印していた記憶が蘇る。

『言葉は大切だ、神宮寺。 伝えようとしなければ、誰にも伝わらない。 君は前回の戦場で、行動して見せた。
あの時、言葉が有れば―――そう思わないか? 僕はそう思う。 そう考える。 ―――考えさせられた』

言葉、伝える、伝わる、想い―――わかって。 気づいて。 ―――死なないで。

『あ――― あ、ああ・・・』

『情けない話だが。 君の独断専行を諌められなかった僕の責任だ。 それが何に起因するのか。 考えが及ばなかった。
昨日、第23中隊の伊達中尉と話した時だよ。 彼女に言われた。 『神宮寺少尉は、未だ初陣から帰還していない』 とね・・・
帰還するんだ、神宮寺。 帰還して良いんだ。 今の上官は僕だ。 僕が判断する。 僕が指示を出す。 責任は僕の物だ。
―――神宮寺少尉、帰還しろ』

『き―――きか、ん・・・?』

帰還? 私は戻った。 私は生き残った。 ―――『死の8分』を乗り越えたっ!
帰還? どうして? 私は今こうして、ここにいるのにっ!?








目の前で、神宮寺少尉が動揺している。
昨夜、作戦行動の合間を捕まえて、23中隊の伊達中尉が僕に話しに来た。 その時、彼女に言われた事は・・・ 

『市川中尉。 神宮寺少尉はまだ 『初陣から帰還していない』 のではないでしょうか?』 

最初、正直訳が判らなかった。 彼女は―――神宮寺は、初陣を切り抜け、『死の8分』を乗り越え、更に歴戦して今ここに居る。 なのに?

『例えですよ、例え。 昨日、182連隊の同期と連絡が取れました。 こいつも私同様、92年から図々しく生き残っている奴です。
神宮寺の前の前の部隊で一緒でした。―――聞いてみましたよ、神宮寺がどんな奴だったかを』

流石に歴戦の連中と言うやつは、こんな時にも余裕が有るものだな・・・ などと、場違いな感想を抱いたものだったが。
同時に気になった。 部下がどう思われていたのか。 何せ、今の部隊での評判は非常に悪い・・・

『そいつ曰く、『心が傷ついた子供』 だと。 ま、一般的なPTSDじゃないんですけどね。
確かに腕は良い。 戦場も良く見えている。 戦闘行動に矛盾も無い―――独りで抱え込む所以外は。 そう言っていましたよ』

―――独りで抱え込む・・・?

『まるで、全てを自分の責任で抱え込んでいるかのように。 戦闘でも、指揮官が判断を下し、命令するその前に。
行動をおこす。 結果として成功する事も有れば、失敗する事も有った。 たった数秒のタイムラグが、生死に直結するのが戦場ですからね。
その事に、責任を感じている風では有ったと。 でも、それを伝える術を知らないようだった、と』

―――伝える術を知らない・・・?

『その同期も言っていたし、私もそう思いますが。 神宮寺少尉は未だ、『初陣から帰還していない』 そうなのでしょうね。
―――彼女は、初陣で中隊指揮を課せられていたそうですよ。 訓練校卒業ほやほやの新任で』

―――無茶だ・・・

『その中隊は、BETAの奇襲で大隊本部を失って大混乱。 周りは自分と同じ新任の部下―――ちょっと前まで同じ訓練生だった同期生達。
何をすればいいのか判らず。 誰にも指示を仰げず。 結果として貴重な時間は過ぎて、倒され、死んでいく仲間達。
その無意識の贖罪の念が大きすぎて―――神宮寺少尉は、彼女自身を殺してしまった。 『未だ帰還せず』とは、彼女の精神的な部分の事ですよ』

―――初陣に囚われて。 何も出来なかった自分を責め苛んで。 結局、選んだ道はがむしゃらに戦う事。
それが彼女に自分を見失わせたのか? 何かを伝える事、何かを相談する事、何かを求める事。
そう言った類の事が、死んでいった仲間に対して弁明の様に感じたのか? 後ろめたさを感じたのか?

―――『何も知らずに。 何も出来ないのに、自分達を指揮していたのか? そうして、自分達を死なせたのか?』
そう言われると感じたのか・・・? そんな風に、囚われているのか? だとしたら・・・
だとしたら、神宮寺。 それは間違っている。 そんな風に言う同期生はいない。 君の同期生達は、そんな卑劣漢達だったとでも言うのか?

(それは―――彼らへの冒涜だぞ・・・)

同時に思う。 新任で、初陣で、中隊指揮官。 突然のBETAの奇襲。 部隊の壊滅。 
何故、彼女の当時の上級部隊指揮官達は、適切な助言をしてやらなかったのだ。

例え一言でもいいんだ。 責任は無いと。 いや、軍隊であるからには、責任は必ず付いて回る。 
例え形の上でも中隊長ならば、神宮寺の指揮責任になるのだけれど・・・

それでも、一言で言い、一言で良かったんだ。 『君の責任ではない』 そう言ってやる者はいなかったのか。
そのお陰で彼女は未だに、初陣の戦場に居る。 周りをBETAに囲まれ、上官とは連絡がつかず。 
どうすればいいのか、どうすれば切り抜けられるのか。 必死の形相でその状況と戦っているのだ。 今もなお。


『帰還・・・ させなければ、いけませんね』

『貴官の役目です、市川中尉。 今まで誰もしてこなかった。 こう言うのは些か心苦しくはありますけれど。
―――指揮官の務めです。 全うされますよう』









「赤峰方面のBETA群は、遅くとも明日の夕刻、早ければ明日の昼過ぎには行動を開始するだろう。
概要としては、第9軍団―――第14師団が前面に出て、瀋陽方面への突破を阻止する。
そして、第11軍団―――第18師団と、国連第12軍団―――アメリカ軍第2戦術機甲師団(ヘル・オン・ホイールズ)が、BETAを南西海岸部へ誘引する」

中隊長の説明が続く。 これ程の作戦、初陣の時以来だ。
それでも、まだマシかも知れない。 戦力比ではあの時より幾分余裕が有る。 私自身、もう初陣じゃない―――

(『撤退だ! 中隊長! この数じゃ、保たない!』)
(『うわあぁぁ! 寄るな! 来るな! た、助けてッ うぎゃあああ!』)
(『このッ! くそっ くそっ くそっ!』)
(『畜生! 小さいのが邪魔で、攻撃がッ! うわぁ!』)

「・・・ッ!!」


「渤海湾岸へ誘引した後に、海上の艦隊から艦砲射撃と、母艦戦術機甲部隊の広域制圧攻撃をかける。
要はBETAを囲いの中から出させない事だ。 そして我々、混成打撃戦術機甲大隊の任務は―――」

(『中隊! あ、焦るなっ! 半円防御陣形!』)
(『中隊長! ―――ッ、危ないッ! ・・・うわあぁ!』)

「・・・くッ!!」

―――もう、初陣じゃないッ! 私は・・・ 私は、違うッ!!


「我々、混成打撃戦術機甲大隊の任務は―――光線級を優先的に撃破する事だ」

―――ッ! 光線級!!



『―――神宮寺少尉、帰還しろ』



横に座る市川中尉のあの言葉が。 どうしても脳裏から離れなかった。











前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.036317825317383