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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 祥子編 南満州5話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/28 07:52
1994年11月11日 2230 第221前進基地


―――明日も早いし。 もう休むかな。 

作戦説明が終わり、各級指揮官に対する詳細ブリーフィングが終わった後。 伊達愛姫中尉はそう思い、宿舎への路を歩いていた。
本土の感覚で言えば、もう冬真っ盛りの寒さの満洲。 駐留経験は既に2年を超すが、未だにこの寒さだけはいただけない。
故郷の仙台も冬は寒いが。 いかんせん、彼女は寒がりなのだ。


「伊達中尉」

呼び止められ、ふと振り返ると。 
同世代くらいか、少し年上の中尉―――男で、衛士を示すウィングマークが有る―――がこちらに近づいてきた。 部隊章は・・・ 181連隊だ。

「何か? えっと、確か・・・ 第33中隊の市川中尉、でしたね」

そうだ。 全体指揮官ブリーフィングでの紹介時に見た顔だ。
先日壊滅した、第32中隊の生き残りの一人。 と言う事は、腕は確かなのか。

「先だっては、部下が失礼した。 私自身、帰還後に報告業務で大隊本部へ行っていたので・・・
貴官が高山大尉の所へいらした時には、不在しておりました。 改めて、申し訳無い」

―――ああ、あの乱闘騒ぎか。 と言う事は、この中尉が、『狂犬』の上官と言う事か。

「いえ、非は私の部下にも。 むしろ、こちらの方が挑発したようで。 失礼しました」

当り障りの無い言葉を選んで受け答えする。 その間、何気に市川中尉を無意識に観察していた。

―――何か、今ひとつ頼りないと言うか。 ・・・中尉?

そう、違和感だ。 中尉と言う階級ならば、自分と同期か、最低でも半期後任。 任官して2年は経過している。
陸軍士官学校出身者でも、見習士官(士官候補生)半年、少尉1年半を経験した後の者だが。
眼の前の『中尉』は、どこかしら頼りなさを感じる。
そんな訝しげな雰囲気に気がついたのか、市川中尉はやや自嘲的な笑みで白状する。

「やはり、『本職』の人には判りますか・・・ ええ、自分は訓練校出身でも、士官学校出身でも無い。
所謂『テンプラ中尉』・・・ 『特操』(陸軍衛士特別操縦見習士官)出身です。 昨年9月に少尉任官したばかり。
1年後の今年の9月にもう、中尉ですよ・・・ 実戦経験も殆どありません。 神宮寺少尉の方が余程、歴戦です」


『特操』―――陸軍衛士特別操縦見習士官。 海軍の衛士予備学生と並ぶ、陸軍の予備衛士(予備士官)養成課程。
大学、高専(高等専門学校)卒業生から志願者を募り短期教育を施した後に、衛士少尉へ任官さす。
1年後には中尉に進級。 都合、3年半の軍歴を終えた後に、『娑婆』――― 一般社会に戻る、所謂『リザーブ・オフィサー』

成程、それならやや年長に見えるのも判る。 恐らくは23、4歳くらいか。
それに、『特操』は短期速成教育だ。 実際、戦術機訓練課程での操縦時間は、訓練校出身者より短い。
それに、10代の頃から戦術機の操縦訓練を受ける訓練校出身者と、20代に入ってからの特操とでは、おのずと習熟度に違いが出てくる。

恐らく、言う通り実戦経験も少ないのだろう。 故に、『テンプラ』――― 衣(見た目)は立派に衛士でも、具(実力)が伴わない。
軍内部で良く言われる蔭口の類いだ。 最も、伊達中尉は今まで特操出身者とは面識が無かった為、安直に同調はしていないのだが・・・

―――頼りなげに見えたのは、寧ろその自意識過剰な所よね・・・

指揮官なのだから、多少の『背伸び』は必要だろう。 そんな事は無いと思いたいが、部下の前で今の発言はNGだと思った。


「・・・自分は、学業を修める傍ら、国防の意識を持っておられる方々だと、認識しておりますが。
貴官も、そう思っての事であれば、もっと堂々となされば宜しいかと?」

「・・・いや、失礼した。 自分でも、気は逸るのですが。 いざ実戦となると・・・
前回も、神宮寺が居てくれたお陰で、生き長らえました。 他の部下も・・・ 一人は、どうしようもなかった。
BETAの奇襲を受けて、気がつくとやられていた。 あのままだったら、全滅でした」

「神宮寺少尉の功績だと・・・?」

おや? と思う。
今、この基地の帝国軍―――主に第33中隊で囁かれている風評と、この直属上官の認識は異なるのだろうか?

「地中侵攻奇襲を受けて、半包囲されかけていました。 
残る方位にも、第23中隊―――貴女の隊だ―――に向かうのか、こっちにくるのか、動向不明のBETA群が居た。
あの当時の状況は、いつ全周包囲されてもおかしくなかった。 
そして中隊長は、反転離脱を指示しました。 ―――BETAに直近まで差し込まれた状況で」

―――馬鹿? そんな事をすれば反転したところで、前方のBETA群を突破する前に、後ろから蹂躙されて終わりよ。

「混乱していました。 私自身、中隊長の判断が良いのか、悪いのか。 
考える余裕も無かった。 ただ、命令に従おうとしました。 ―――神宮寺を除いて」

「・・・」

「あいつは、咄嗟に反転を中止して前方に・・・ 接近するBETA群に吶喊をかけました。―――『こいつらを突破する以外、生き残る道は無い』、そう言って。
まだ反転していなかった私は、残ったもう一人の部下と共に、無意識に神宮寺に追従していました。
実際、何度かの実戦で、神宮寺の戦闘を見ていたからでしょうね」

―――おいおい、これは・・・ ちょっと、まってよ・・・

なんだか、話が異なる方向へ進みそうだった。

「当然、中隊長からは命令に従えと。 再三、叱責が飛びましたが。 考えてみれば、当然ですね。 差し込まれた状態で背中を見せれば・・・」

―――当然、死ぬわよ。 何考えてんの? その中隊長・・・

「ほんの僅かの時間差でしたが、明暗を分けました。 
結局、第1、第2小隊―――ああ、我々は第3小隊でした―――も、反転を中止したのですが。
その僅かな時間差で、もうどうしようもなく、BETAに差し込まれていた。 中隊は2分されたんです。
そして―――我々は突破出来ましたが、中隊本隊は・・・ BETA群に呑みこまれた」

―――それじゃ、少なくとも今回に限っては、『死神』の風評は全くの事実無根だわね。

この調子じゃ、今までの『前科』もどうだか。 これは探りを入れてみる価値はあるかな。
ふと、そんな事を思っている自分に気づいて苦笑する。
なにしろ明後日には、久々の大乱痴気騒ぎが始まるのだ。 そんな余裕は無いし、そもそも自分とは縁も所縁も無い、他部隊の衛士の事だ。

が、どうにも気になる。

「・・・失礼ですが。 神宮寺少尉の以前の所属部隊は?」

市川中尉から聞き及んだ部隊には、2つのうち、1つは同期生が居た筈だ。 第18師団だが、連隊は第181じゃ無い。
丁度良い。 その同期生(同じ訓練校出身者だ)も、93年1月の『双極作戦』以来の実戦経験者だ。 未だ図々しく生き残っている奴だった。

何か知っているかもしれない。
そして、歴戦の目で見た姿も確認しておいて損は無いだろう。
それにしても。 それにしても、本当に自分は・・・

―――あ~あ・・・ 私って、何て言うか。 本当に、結構なお節介焼きよねぇ・・・














1994年11月13日 0635 第221前進基地 北北西25km


見事な朝焼けが大地を照らす。 薄紫の空が、一斉に光に包まれる。 雲ひとつない快晴、微風。 気温は8.5℃
微かに聞こえる風の音。 静寂な、そして清冽な朝の光景。 そして・・・


≪砲撃管制『トールハンマー』より、全任務部隊。 攻撃準備射撃、開始――― 今!≫

ややあって、静寂を打ち破るかのように、後方より連続した重低音が鳴り響く。 
―――そして、雷鳴。
砲撃支援の機動砲兵旅団群の野戦重砲が203mm、155mm、127mm砲弾を。 
MLRSが、M26A1・クラスター爆弾搭載型誘導弾を。
一斉に、砲弾と誘導弾の豪雨を作り出す

遥か前方―――7000m程の距離でまず、M26A1がクラスター子弾頭を分離させる。 見た目には爆発したかのようだ。 それが数100発。
特大の花火のように広がった無数の子爆弾が、地上のBETA群に降り注ぐ。 
同時に、各口径砲弾が着弾、その衝撃で広範囲のBETAを吹き飛ばす―――直撃の場合は、射貫していた。

砲弾の中にはVT付キャニスター砲弾・焼夷榴弾もある。
小型種BETAは無数の灼熱したボール弾や、高速で降り注ぐ鋭利な破片に切り刻まれ、焼夷弾の高熱の炎に焼き尽くされていく。

直撃を食らった要撃級の体に特大の穴が開く。 同時に衝撃波が体内を巡り、圧力膨張でその体が内部から弾け飛ぶ。
装甲殻を上面から射貫された突撃級が一瞬、大地に縫い付けられたようにつんのめる。 そこに後続が衝突し、続けて飛来する砲弾に纏めて射貫される。
徹甲弾はその貫通力で、大型種の突撃級・要撃級を特大のミンチに変えていった。


≪前哨観測班より、砲撃管制、オン・ターゲット! 見事に吹き飛んでいる! 効力射を要請する!≫

≪こちら砲撃管制、座標確認。 効力射、10秒前・・・ 5、4、3、2、1、開始!≫

更に大きな重低音と、誘導弾の飛翔音が響き渡る。 試射評価により、効力射(全力砲撃)が開始されたのだ。

全10個機動砲兵旅団のうち、第1陣・4個旅団の保有する野戦重砲・MLRSが一斉に火を噴く。
すると、途端に前方から光帯が発生する。 その数、凡そ30数本。 砲弾や誘導弾の何割かが、その光に絡め取られ、蒸発する。

≪前哨観測班よりHQ、光線級の出現を確認。 繰り返す、光線級を確認。 個体数、約30体。 エリアF7S、座標WNW-51-31≫

≪HQ、了解。 狙撃は可能か?≫

≪ネガティブ。 距離が有る≫

≪HQ、了解した。 引き続き、観測を継続せよ。 砲撃管制『トールハンマー』、砲撃プラン-B≫

≪こちら『トールハンマー』 準備完了まで5分。 完了次第、対砲迫戦を開始する≫

前衛のBETA群だけでは無く、対光線級用の砲撃戦準備が始まった。
心なしか、先程までと降り注ぐ砲弾・誘導弾の数が減少したようだ。 どうやら、1個旅団は対砲迫戦に切り替える算段の様だった。

BETA前衛の突撃級が、射貫され、数を減らしつつも防衛ラインに迫る。 その数、大凡1000体ほど。

≪BETA群、キル・ゾーン突入! 突撃破砕射撃、始めっ!≫

前面と左右両翼に布陣した機甲師団群から、猛然と射撃が加えられる。 BETA群との距離、約3000m。 
この距離なら、厚さ300~400mmの均質圧延鋼板(RHA)を貫徹さす能力を各戦車砲は有している。
帝国陸軍の90式戦車の120mm滑腔砲が、韓国陸軍の88式(K1)戦車の105mmライフル砲が、中国陸軍の90式-Ⅱ戦車の125mm滑腔砲が。
一斉に劣化ウラン弾芯のAPFSDS砲弾を、初速1700m/s以上の速度で撃ち出す。

着弾と同時に、一瞬大穴が空き―――直後に凄まじい勢いで内臓物が吐き出される。
体液を垂れ流し、突撃の惰性で数10mを突き進み、行動を停止する突撃級の群れ。
側面から柔らかい横腹を撃ち抜かれた個体が、地響きを上げて横倒しになる。 そこに後続が突っ込み、密集状態になった場所へ更に砲撃が集中する。

≪砲撃管制より、全任務部隊。 対砲迫戦開始・・・今っ!≫

後方の砲兵旅団群の一部が、数10発のALM砲弾とALM誘導弾を、10秒程の間隔で連続射撃を開始する。
光線級のレーザー照射迎撃が再開された。 最初の砲弾・誘導弾の迎撃でまず、インターバルを置く。
その隙を見計らうかのように、第2陣が降り注ぐ。 途端にレーザー照射が発生するが、第1陣の迎撃光線本数に比較するとかなり少ない。

10数発が着弾し、爆風と爆煙を噴き上げる。

≪前哨観測班より、砲撃管制。 光線級のど真ん中へオン・ターゲット! 10体程吹き飛んだ! いいぞっ! その調子で吹き飛ばせっ!≫

≪砲撃管制、了解。 既に第3射、第4射を発砲。 第5射・・・今っ!≫

重低音が連続して鳴り響く。
相次ぐ短時間連続射撃によって、レーザー照射のインターバルを狙われた光線級BETAの数が減少してゆく。

≪砲撃管制より、各任務部隊。 面制圧射撃は残り10射を継続する!≫


砲撃開始から35分。 その間にも、突撃級や後続の要撃級と言った大型種、戦車級、闘士級と言った小型種が津波のように押し寄せてくるが。
光線級のレーザー照射迎撃と言う『エアカヴァー』を失ったこれらの殆どの個体群は、降り注ぐ重砲弾や誘導弾。
更にはキル・ゾーンに侵入すれば容赦無く殴り付けるかのような戦車砲弾の嵐の中で、次々に行動を停止していった。









同日 0715 第221前進基地 北北西20km 混成打撃第221戦術機甲大隊。


『『『『・・・・・ッ!』』』』

帝国軍2個中隊、中国軍1個中隊の混成打撃第221戦術機甲大隊は基地の北北西、最前線の後方5kmの地点で、面制圧砲撃を見守っていた。
ベテランや中堅以外―――大規模作戦は、これが初めてとなる新任衛士達は、その砲撃の様をある者は茫然と、ある者は畏怖を込めて、そしてある者は微かな期待と共に、見守っている。

―――あの砲撃から生き残れるBETAが、果たしてどれだけ居るんだ?

前方で繰り広げられる、鉄と炎と死の大戦争舞台。 その情景を目の当たりにして彼らは一様に、大なり小なりその様な思いを抱く。 
無理も無いかもしれない。 それほどまでに圧倒的な火力の集中に見えたのだ。
だが、それはあくまで新任の感想。 中堅以上の連中には、異なる視点が存在する。

『・・・やはり、切り札は温存の様ですね』

第3中隊(帝国軍第23中隊)第2小隊長・間宮怜中尉がポツリと呟く。

『連中だって馬鹿じゃ無い。 どうせ、ここぞって局面での地中侵攻。 要塞級の腹の中からお出ましよ。
―――毎度、毎度、腹が立つったら、ありゃしない・・・!』

同じく第3小隊長・伊達愛姫中尉が忌々しげに吐き捨てる。

『それに、丁度良い程度の規模の集団での波状攻撃でしょう。 こちらの疲弊を誘うように。
―――誰でしょうね? 『BETAに戦術・戦略無し』なんて言った馬鹿は・・・?』

自嘲とも、冷笑とも取れる様な笑みと共に、やや忌々しげな口調なのは、第1小隊2番機の押上円中尉。

『確定するだけの物証は乏しいわ。 必ずしも戦術が有るかどうか、確定していないわよ、円?』

『随分と楽観的ね。 貴女らしくないな、怜?』

『悲観的に思い悩むより、生き残る可能性の幅は増えるわ』

同期生の押上中尉の、やや皮肉的な口調に、いつものポーカーフェイスで間宮中尉が答える。

「・・・間宮、押上、そこまで。 伊達、面制圧攻撃終了後に、機甲部隊に呼応して動くわよ、いいわね?」

『了解。 間宮、突撃用意。 押上、右翼支援の振り分け、再確認を』

『『 了解 』』

中隊長・綾森祥子中尉が暗に、それ以上他を不安がらせるな、と口調に滲ませ、指示を出して会話を打ち切らせる。
中隊副長でもある伊達中尉が、中隊長の全体指示を受けて各小隊へ最終確認を行った。


≪CP、セラフィム・マムより『セラフィム』 面制圧砲撃、最終射・・・今! 着弾と同時に、機甲部隊が機動攻勢を開始します!≫

『各中隊、≪ドラゴニュート≫リーダーだ。 我々は第61軍団(中国軍)の先払い役だ。 第331機甲師団と呼応する。
向うの先鋒部隊は第3312機甲連隊。 コードネーム『大嵐(ターラン)』 戦機協同(戦車と戦術機の協同戦闘行動)でいく。
小型種、特に戦車級の接近を許すなッ! ―――よしっ、かかれっ!』


部隊長・周蘇紅大尉の指示と同時に、36機の戦術機―――24機の『疾風弐型』、12機の『殲撃10型』が、一斉に3方向へ噴射跳躍。
楔型隊形(パンツァー・カイル)を組み、交互躍進を中隊規模で行う3個機甲大隊の、各々の側面に展開する。
その後方500mには、機甲師団所属の機械化歩兵装甲部隊が、小型種の浸透に備えて横隊列で追従していた。



「セラフィム・リーダーより各機! 左手は海岸線だ、海軍の哨戒部隊からの報告が無い限りは、無視しろ!
正面からのBETAの突破と浸透を許すな! こちら『セラフィム』! 『大嵐03』、前方の要撃級主体の一群、真北へ捻じ曲げます。 側面攻撃、宜しい?」

『こちら、『大嵐03』、第3機甲大隊だ。 貴隊の協同に期待する! 側面攻撃は任せてくれたまえ。 ―――誘導、宜しく頼む!』

「セラフィム、了解。 こちらこそ、ですわ、『大嵐03』 ―――よしっ 前方2000のBETA群! 方位0-0-0へ釣り上げるぞっ!
陣形・楔壱型(アローヘッド・ワン)! B小隊、突入しろ! A、C小隊! 支援攻撃開始!」

中隊長・綾森中尉が中隊へ攻撃開始命令を指示する。

『B小隊、突入! 突入! 突入! かかれっ!』

中隊長の声が終わらぬうちに、B小隊―――突撃前衛小隊の4機が、前方の要撃級の群れへと吶喊を開始する。

『C小隊! 左翼前方! 戦車級の群れ、殲滅しろっ! 制圧支援、開始っ!』

『C12、FOX01!』 『C09、FOX03!』

B小隊の突入を確認したC小隊が、その側面確保の為の小型種掃討攻撃を開始。 誘導弾と120mmキャニスター弾での近接制圧攻撃をかける。 そして―――

「―――A小隊! 右翼の要撃級へ制圧攻撃、始めぇ!!」

中隊長直率のA小隊は、突入したB小隊の突破支援と、突破口拡張攻撃を開始。
そしてその機動を徐々に、そして急速に真北の方向へ展開して、要撃級の群れを誘導してゆく。

『大嵐03より、セラフィム、その調子・・・ その調子・・・ よぉしっ、今だっ! 指揮官車より各車! ―――撃てぇ!!』

甲高い発射音を残し、125mm滑腔砲から吐き出された高初速戦車砲弾が、要撃級の側面、若しくは後背へと襲いかかる。 
1斉射毎に48発。 次々と命中してゆく。 3斉射が終わる頃、要撃級の群れが急速円旋回で方向を転換、機甲部隊へと突撃を始めた。

「ッ! 中隊、反転! 要撃級が後ろを晒した! 喰い入れよっ 1匹も逃すなっ!」

戦術機甲部隊へ後背を晒した要撃級の群れに、36mm、120mmを浴びせかける。 機甲部隊は急速後退しつつ、125mm滑腔砲から射撃を継続している。

思わぬ前後からの同時攻撃を受ける事になったBETA群が、急激にその行動統制を失い、密集状態になった。
機甲部隊と戦術機甲部隊の両指揮官は、これを好機と捉え、ほぼ同時に指揮下の部隊へ命令する。

「『 ―――殲滅しろっ!! 』」


―――15分後。 大型種BETA群の群れを、機甲部隊と戦術機甲部隊が突破した。
その左右の小型種BETAの群れを機械化歩兵装甲部隊が、突破口拡張戦闘で押し広げてゆく。 典型的な機甲突破が成功した。


『大嵐03より、『セラフィム』 次もこの調子で頼むっ! 熾天使(してんし)の御加護を、だな!』

通信回線から、ドッと歓声が沸く。 『セラフィム』の中隊長、結構な美人らしい―――機甲部隊の情報通の連中が、どこからか仕入れてきていた。

「セラフィムより、『大嵐03』 お任せを。 ―――しかし、御利益はどうでしょうか?」

綾森中尉が苦笑しながら応答する。

―――我ながら。 ちょっと大仰過ぎる部隊コードだったかしら?


『熾天使』―――セラフィム。 5世紀シリアの神学者、偽ディオニシウス・アレオパギタが定めた天使の最上位。

―――寧ろ、BETAにとっての『告死天使(アズライール)』よ。 私達は・・・っ!


同日1200時には、遼河への架橋を工兵隊の手によって完了し、攻撃部隊は1230時、遼河の渡河に成功する。
1350時、作戦第1段階目標の錦州へと進撃を開始した。











同日 1930 錦州郊外 満洲方面攻撃軍司令部


「現在の戦況を要約致しますと。 『全般的に損失は軽微。 成果は甚大』であります」

情報参謀の戦況情報説明が続く。
今日1日の突破戦闘で、作戦発起点の営口から一気に第1段階目標の錦州・朝陽の攻略に成功した。
部隊将兵は、その戦果に士気を高揚させているが。 
上級部隊指揮官―――特に長年、この地でBETA相手に戦い、苦杯を喫してきた者達にとっては。
今のこの状況は、望ましい状況とは言えなかった。

「戦線突破戦力である、中国軍第56機甲軍団、日本軍第9軍団、共に受けた損失は軽微。 蹂躙したBETAの総数は推定で約6000
これは当初、担当戦域でのBETA数の見積もりの約半分近い数字になります。
また、戦線両翼を固める韓国軍第5軍団、国連軍第12軍団、共に目立った接敵報告は有りません。
後方の戦略予備である中国軍第61軍団、日本軍第11軍団からも、同様の報告が上がっております」

あちこちで、唸り声が聞こえる。
こういう状況の場合、過去の戦訓から判断して、BETAはいずれどこかしらで、大規模な地中侵攻による奇襲をかけてくる。
が、それがどこか、それがいつか―――判断がつかない。

「・・・いっその事。 初手から大規模侵攻をかけてくれた方が、まだしも打つ手は判断し易い・・・」

「宮崎さん。 それは些か、他力本願に過ぎやしないかね?」

方面攻撃軍副司令官・宮崎重三郎大将のボヤキに、司令官・李伯陽上将(上級大将)がやや呆れた口調で嗜める。
しかし、宮崎大将の言葉にも頷く所は有る。 BETAの動向の鈍さが気にかかる。 
今の状況を鵜呑みにして楽観的になるには、些か以上に地獄を見過ぎた。 部下を死なせすぎた。


「明日は、渤海湾沿岸部を秦皇島へ向け、進撃する。 念の為、海上への支援要請は緊急度レベルを上げておこう。
いざとなれば、艦砲射撃と母艦戦術機甲部隊の支援展開も早々に要請する―――蛮勇より、臆病者の方が生き残れるものだ」

「それが宜しいでしょうな。 それから、念の為に突破攻勢部隊を入れ替えます。
第56機甲と第9は、明日は予備として第11と第61を前面に出します。 第5と第12は、右翼側面の前衛と後衛警戒に出しましょう」

李上将と宮崎大将が、明日以降の行動大綱を纏める。 それを参謀長以下の司令部スタッフが調整し、各級部隊へ今夜中に下達するのだ。
司令部はそれから深夜まで、各部隊間の調整・確認に人の出入りが途切れる事が無かった。











2230 錦州南西5km 日本帝国軍第18師団第181連隊


「明朝、我々は攻勢第1陣として出撃する」

連隊長のその一声に、連隊の皆が興奮して歓声を上げている。
顔を引き攣らせて大声を上げる奴。 紅潮した顔で、雄叫びを上げる奴。 皆、大攻勢の先陣を切る事に興奮しているのだ。
今日、出番のなかった第1、第2大隊の者が多い。 戦闘を経験した第3大隊の第33中隊の者でも、興奮している者がいる。

そんな中、私は独りその興奮の渦から取り残されていた。 いや、違う。 その興奮に共感出来ないのだ。
彼等は未だ知らないのだろう。 明日、展開されるだろう地獄の情景を。 その生と死の狭間の、滑稽な程に真剣な執着を。




神宮寺まりも少尉は、興奮の渦と言ってよい状況の、連隊仮設ブリーフィング用テントからそっと抜け出し、暫くあても無く周囲を歩き始めた。
判っている、判っているのだ。 この苛立ちをぶつけた所で、隊の誰も理解はしてくれないだろう。
寧ろ、『臆病者!』の一声位は、浴びせかけられるだろうと言う事も。

次第に大きくなる苛立ちに耐えかね、無意識に傍らの木の幹を蹴りつけていた。

「くそっ ―――くそっ! くそっ! くそっ!」

誰に対してなのか。 自分に対してなのか。 はっきりしない苛立ち。―――そして、思い出させる恐怖。
もしかしたら―――そう、もしかしたら。 あの、初陣の時と同じような状況になったら。
自分は生き残れるのか? 部隊はどうなのだ?

「判っていない! 判っていない! ―――判っていない!!」

誰が? 連隊長が、大隊長達が、中隊長達が、小隊長達が、大隊の皆が! ―――そして、自分は? 自分はどうなのだ?
判っているとしたなら。 何故、それを進言しない?

「・・・うっ!」

思考の行き止まりに辿り着き、思わず呻きが出る。

大きく息を吐き出し、夜空を見上げる。

―――ああ、綺麗なんだな、夜空って・・・

何の関係も無い、唐突な思いに思わず苦笑する。
そしてふと、思い出す。―――夜空が綺麗だなんて。 そんな風に感じただなんて、一体何時振りだろう・・・
そんな単純で、素朴な感情さえ無意識に封じていた、この1年ほどの時間だったのか。


「神宮寺」

唐突に背後から声をかけられる。 振り返ってみると、1人の衛士が其処に居た。


「―――小隊長? 市川中尉?」







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