<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[7678] 祥子編 南満州4話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/30 19:03
1994年11月7日 2010 第221前進基地 将校用PX


「ふぅん? そんな事が? ・・・で? 向うの部隊長とは、話はついたの?」

夕食後のPX、その一角。 そろそろ人もまばらになってきたこの時間。 他に居るのは当直明けの連中くらいだった。
所用で連隊本部のある瀋陽に出張していた第23中隊長・綾森祥子中尉が、昨日の『騒動』の顛末報告を受けている。

「向うさん、中隊長戦死でして。 今は大隊付きだかで。 取りあえず、交代補充で来た中隊の中隊長に頭を下げときました。
向うさんも、偉く恐縮されちゃいましたけれど・・・」

そう言うのは、中隊先任小隊長の伊達愛姫中尉。

「そう。 じゃ、後で私の方からも挨拶しておくわね。 御苦労さま、愛姫ちゃん」

「しっかし・・・ 『女の騒動の陰に、ヤツ有り』ですよねぇ? 祥子さん?」

「・・・止めてよ。 今回は別段、そう言う訳じゃないでしょ?」

にひひ、と、訳ありの含み笑いをする部下にして、付き合いの長い年下の『戦友』に、思わず顔をしかめて抗議する。

昨日の連隊本部会議で瀋陽まで行っていたら。 基地に帰りつくと同時に知らされたのが、部下の乱闘騒ぎと、憲兵隊による拘束。 
一瞬脳裏に浮かんだのが、連隊長・大隊長から管理責任について叱責される自分の姿だった事は、この際伏せておこう。


「で。 当人たちは?」

「あちらさんは知りませんが。 仁科は一応、余った体力を十分に使って貰って・・・ 
今は整備班の手伝いさせています。 ―――美園も連帯責任で」

「今日1日で切り上げなさい。 明日からはまた、哨戒シフトに入るから」

「りょ~かい~。 あ、所でどうでした? 連隊の本部会議」

「取り立てては・・・ 通常の各担当戦区情報の報告と、展開ね。 ああ、そう言えば『未確認種』の情報も有ったわ」

「未確認種・・・ ああ。 確か、北部の方で見たとか言う小型種の。 欧州とか、東南アジアでも発見情報が有ったとか?」

ここにきて、BETAの新種の未確認情報が飛び回っていた。
小型種のようだが、姿形を特定できる正確な情報が乏しい為、未だ『未確認種』とされている。

今のところは、光線属種の様な特異な能力は確認されてはいない。 
そういう意味では、戦術機甲部隊にとっては、厄介な相手ではないのだが。


「歩兵部隊がね、ナーバスになっているのよ。 特に、機動歩兵や軽歩兵。 それに支援兵科ね。
情報ではかなり素早い動きをして、捕捉が困難だったという報告も有ったわ」

「それは・・・ 機械化歩兵装甲部隊以外じゃ、厄介ですねぇ」

「支援兵科との共同作戦じゃ発見次第、掃討しなきゃいけないかもね」

「面倒ですよ? その間に大型種に突っ込まれると・・・」

2人して嘆息する。 未だはっきりしない『未確認種』に、これ以上ヤキモキしても始まらない事は確かなのだが。
指揮官としては最低限、事前の方針位は定めておかないといけない。

「新任時代が懐かしいですよぉ・・・ 本当に」

首をすくめる伊達中尉。 確かにそうだ。 新任は兎に角、自分の範疇で責任を果たせば―――戦場では『生き残る』事を果たせばよかった。
今は? 少なくとも小隊。 そして中隊。 階級が上がり、指揮官となって。 権限も大きくなった代わりに、背負う責任の質と量も変わって大きくなった。

「こればかりは、仕方ないわね。 私達だって、今までそうやって庇護されてきたのだもの。 順送りよ」










1994年11月8日 0330 第221前進基地 第181連隊分遣部隊・隊舎


荒れ果てた大地。 剥き出しの土と砂埃。 彼方からは重ねて響き渡る砲声と、爆発音。
キャンセラー越しにも震動が伝わってくる。 死と破壊の戦争音楽。

戦線の側方警戒任務だった部隊。 突然の地中侵攻による奇襲。 上級部隊の壊滅と通信途絶。 降りかかった全責任。
咄嗟の事で、頭が真っ白になる。 先手を打たれ、撃破される『部下』。 禍々しい赤・黒・灰色の『死の悪夢』。

(『撤退だ! 中隊長! この数じゃ、保たない!』)
(『うわあぁぁ! 寄るな! 来るな! た、助けてッ うぎゃあああ!』)
(『このッ! くそっ くそっ くそっ!』)

辛うじて出せた迎撃指示。 

(『畜生! 小さいのが邪魔で、攻撃がッ! うわぁ!』)
(『中隊! あ、焦るなっ! 半円防御陣形!』)

光線級。 狙っていた、自分を。 不意の衝撃、光帯を見た気がした。

(『中隊長! ―――ッ、危ないッ! ・・・うわあぁ!』)

自失―――気がつけば、戦線を離脱していた。 隣には国連軍の戦術機・・・



「うっ、うわあぁぁぁ!!」

夢にうなされ、不意に飛び起きた。 ―――0330時 まだ起床時間には3時間も有る。

「―――はぁ、はぁ、はぁ・・・」

汗が張り付いて気持ちが悪い。 喉がカラカラに乾いている。
両手で顔を覆い、そのまま髪をかき上げ、息を整える。
ベッドから抜け出し、洗面台のコップに給水器から水を注ぐ。 冷水を一気に飲み干した所で、ようやく一息ついた。

ふと、急に寒さを覚える。 兵舎の中は十分な暖房設備は無い。 急造の室内ヒーターは、オフにして久しい。 室温はかなり下がっている。
かいた汗が急速に冷えて、気持ち悪いこと甚だしい。 
それにこのままでは風邪をひきそうだ。 戦地の衛士としては、そんな情けない事だけはしたくない。
慌ててチェスト(小物・物品・衣装入れ)から、代えの下着を一式取り出す。

着替え終わり、ふと暗い室内を見渡す。 
本来は4人部屋だったこの宿舎。 以前は同じ中隊の衛士が3人居た。 今は―――自分独りだけだ。

(―――皆、死んでしまったな・・・)

殺風景な仮の宿。 それでも他に人が居ればまだ良い。 しかし、誰も居ない―――居なくなった。
そして、決まってこんな時にあの夢を見る。 もう、何カ月も・・・

(―――どうすれば、いいの・・・ どうすれば、許されるの・・・)

その術を知らなくて。 その術を見いだせずに。 ただ、がむしゃらに戦い続けた。 その内心の罪悪から逃れたくて。
その結果、更に多くの死を見続ける事となった。 そして、夢にまた一滴の自責を積み重ね続けた。

(―――どうすれば・・・ どうすれば・・・)

夜毎重ね続けてきた自問。 そして決して出口の見えない懊悩。 彼女は―――壊れかけていた。













1994年11月10日 1010 第221前進基地


戦術機が2機、低空をNOEで侵入してくる。
ランウェイの後端で最終旋回をかけ、緩やかな角度で着地する。 そのまま軽く逆噴射制動をかけ、速度を殺して停止した。
誘導員の誘導に従い、主滑走路から誘導路へ向かい、ハンガーへと向かってゆく。


「見なよ、杏。 『疾風』だ、弐型が2機」

仁科葉月少尉がその機種に気づき、傍らの友人を肘でつつく。
もう1人の少尉。 美園杏少尉も、仁科少尉の視線を追って―――『疾風』に気づく。

「・・・18師団の補充ね、あのエンブレム。 ふーん? この間、1個中隊補充で来たよね? 当面は4個小隊編成かな?」

「181連隊も、数が余っている訳じゃないし。 連隊本部付から回したんじゃないの?
ま、あの馬鹿を御せられる指揮官なら、何も言わないけど・・・」

勝手な感想を漏らしていると、不意にハンガーから声をかけられた。

「おおい! そこの2人! ・・・ああ、141の『吶喊コンビ』か。 
丁度良い、このド新人2人、管理棟まで連れて行ってくれ!」

声をかけたのは、整備主任の草場信一郎少尉。 階級は同じだが、向うは軍歴8年目、叩き上げのベテランだ。
未だ任官2年目のヒヨっ子衛士とは、貫禄も実力も比較にならない。

「何ですか? 整備主任、『吶喊コンビ』って・・・ 杏と一緒にしないで下さいよ」

「・・・葉月、喧嘩売ってんのね? 売ってんでしょ?」

「自覚ねぇのか、仁科・・・? まぁ、いいわな。 こいつら、181の新人どもだ。 連れて行ってやれや」

草場少尉が顎で示した先には。 しゃちほこばって緊張している衛士が2人。 見るからにルーキーだ。

(・・・誰よ、こんなカモネギ、前線に送り込んだのは・・・)

これで、また墓標が二つ増える・・・ 急に美園少尉も、仁科少尉も憂鬱な気分に襲われた。

いい加減、上層部も気づけよな―――心の中で吐き捨てる。 


『死の8分』―――BETA大戦初期は確かに、専門教育を受けた衛士の絶対数が少なかった故の数値だったろう。
また、今ほどにはBETAに対する戦訓が、蓄積されていなかった事も起因する。 戦術機の性能も大きな要因だろう。

では、これらの全てにおいて改善がなされた筈の現在でも、十分に通用する『言葉』なのは、何故だ?

―――技量未熟で、精神的な余裕の無い新米程、あっさりと死んでいく。

そして、その空いた数の穴はなかなか埋まらない。 自然、ベテランや中堅にも負担がかかる。
まずは、肉体的に。 そして、その疲労が一定水準を超す頃。 既に精神的疲労もまた、危険水準を超しているのだ。
その先には―――普通なら、回避できる筈の『死』に絡めとられ、中堅も、ベテランでさえも死んでいく。

ユーラシア諸国は致し方が無い。 国土の全て、或いは過半をBETAに浸食され、余裕などと言う言葉の意味さえ失われている。
しかし、少なくとも帝国は・・・ 帝国軍は、今少しの余裕が有る筈だ。 なのに何故、その帝国軍でさえ当てはまる言葉なのか?

―――上層部が、馬鹿だからよ。

前線で戦う衛士の少なからぬ数の者達が、内心で感じている実感。
送られてくる補充は、大抵が新米連中。 つまり、『ワン・ウィーク・パイロット』―――1週間で墓標の立つ衛士。 そう言う訳だ。

本土防衛軍には、少なからぬ数のベテランや中堅を集中配備しているというのに。 大陸派遣軍へは、そんな連中は余り出張ってこない。 
新任の補充にしても、せめて半年くらいは内地で練成してから送り込んでくれば、多少は事情も違ってくる。

所詮は経験と慣れなのだ。 最悪、恐怖で逃げても良い。 そうすれば、また次に出撃する頭数は揃えられる。
が、多くの未熟な新米の場合。 そんな事すら、思い浮かばない。 ただ茫然と、そして恐怖に縛られ、あっけなく倒されていく。

美園少尉と仁科少尉が、暗澹たる気分になったのは、そうした現実をこの1年以上、目の当たりにしてきたからだった。
―――彼女たち自身。 訓練校卒業後、即、最前線の部隊に配属されたクチだったから。


「はぁ・・・ ま、いいですけど。 ―――私は141連隊の美園少尉。 19期A卒」

「私は同じ部隊の、仁科少尉よ。 同じく19期A卒。 で、アンタ達は?」

「はいっ! 佐倉大吾少尉! 20期B卒でありますっ!」

「宮本次郎少尉っ! 20期B卒ですっ!」

「・・・20期の、B卒・・・?」

信じがたいモノを見たような目で、仁科少尉が二人を見る。
美園少尉も、恐る恐ると言った感じで確認する。

「じゃ、アンタ達・・・ 1か月前に卒業して、任官したばかりなの・・・?」

「「はいっ!!」」

話を聞けば。 卒業後、即日第18師団配属。 そして内地の留守部隊へ到着した翌日には、大陸進出の命令を受領。
20日前に瀋陽に到着し、連隊付き勤務を少々した後でいきなり、この第221前進基地への進出を命じられたそうだ。

「・・・馬鹿野郎共がッ」

「は? あの、美園少尉・・・?」

吐き捨てるように呟く先任少尉を、2人の新少尉が不思議そうに見つめる。
その、未だ何も分かっていない、恐らくは純粋に『御国の為』と思って戦地へ赴いたであろう、まだ少年と言っていい2人に。
どう言う言葉を投げればいいのか、2人の先任少尉たちは見つけられなかった。


「・・・付いておいで、案内するから」

「「はいっ!」」

気難しい表情になった2人に、新少尉たちが慌てて付いていく。
そのうち、暫く無言でいた仁科少尉がふと、新少尉達に口を開いた。

「アンタ達―――早々に墓標は立てるなよ?」












1994年11月11日 1630 第221前進基地 衛士ブリーフィングルーム


帝国軍第141連隊第23中隊、同第181連隊第33中隊、中国軍第392連隊第31中隊。
3個中隊の所属衛士40名が、作戦説明を聞いている。

基地司令部の要員が操作するインフォメーション画面を示しながら、統合軍南部防衛線司令部から派遣された参謀少佐が説明中だった。

「今回、南満州外縁部での間引き攻撃のみならず、渤海湾沿岸部の『錦州回廊』の確保、及び山東半島守備隊との連絡回廊の確保を作戦目標とする。
我々の作戦発起点は営口。 第1段階目標は錦州、及び北西の朝陽。 作戦第2段階目標は秦皇島。 作戦最終目標は天津」

場がざわめく。 昨年の『九-六作戦』で失われた失地回復。 
同時に切り捨てざるを得なかった、1000万の民間人犠牲者への贖罪。
旧華北方面軍からの転籍者も多い中国軍衛士達は、特に色めきたった。

ざわめきが収まる頃合いを見て、参謀少佐の説明が続く。

「ここで、南から攻め上がる山東方面軍と合流する。 
向うは黄河南岸の東営を発起点に、第1段階目標・済南。 第2段階目標・石家荘。 最終段階目標を天津とする。
同時に、華中方面軍が南京から攻め上がり、徐州、済南まで進撃する。 ―――『大陸打通作戦』だ」

―――『大陸打通作戦』!!

出来るのか? いや、出来なければ、このままジリ貧に陥るだけだ。 やらなければ!!

「成功すれば、南満州から華南までの陸上支配域を確保出来る。 
我々にとっても、渤海湾の安全確保は急務だ―――遼東半島を、光線級の直接脅威から解放できる」


参加兵力の説明が続く。
南満州からは、中国軍第4野戦軍(=第28軍。 第56機甲軍団、第61軍団基幹。 第77軍団除く)、日本帝国派遣第6軍(第9軍団、第11軍団。 第7軍団除く)、韓国軍第5軍団、国連軍第12軍団。
戦術機甲師団7個、機甲師団6個、機械化歩兵装甲師団6個、機動歩兵師団5個。 機動砲兵旅団10個。

山東半島からは、中国軍第2野戦軍(第31軍)の3個軍団(1個軍団除く)と、韓国軍第21軍団、国連軍第14軍団。
戦術機甲師団5個、機甲師団5個、機械化歩兵装甲師団6個、機動歩兵師団4個。 機動砲兵旅団7個。

華中方面軍からは、中国軍主力の第5野戦軍と、台湾軍第2軍を中核とする華中方面攻撃軍が、一気呵成に北上攻撃をかける。


「尚、この間の防衛線の維持は、残余部隊のみでは不十分。 従って各国海軍部隊、海兵隊部隊の支援を回す。
渤海湾には、中国海軍北洋艦隊、韓国海軍西海艦隊と、日本帝国海軍第3艦隊が展開する」

―――第3艦隊。

確か、艦隊再編で戦術機母艦を集中運用する事になった『機動部隊』 旧第1、第3航空艦隊が合併した・・・

「ただし今回、戦術機母艦は日本海軍の4隻、戦艦も4隻しか居ない。 が、支援砲撃はかなりの威力になる。 『信濃級』と、『大和級』だからな。
遼東半島からの長距離支援砲撃もある。 日本軍が持ち込んだ、あの『化け物列車砲』だ」


―――『化け物列車砲』

1980年。 当時でさえ時代錯誤な、アパルトヘイト政策を実施していた南アフリカ。 
その国に対する火砲製造契約を結んで告訴された、カナダ人弾道学の権威、ジェラルド・ブル博士。
その博士を、日本帝国がカナダ政府に対して政治取引(対貿易最恵国とした)でもって招聘。 

そして彼の理論で作り上げたのが、『86式超々長射程砲』

特徴は、多薬室砲だと言う事。 炸薬燃焼室は、従来の砲では砲尾に一か所だが。 
多薬室砲はこれを砲身の途中に複数設置する事で、弾体(砲弾)の通過にあわせて閉鎖・装薬の点火を行い、ガス膨張の力の殆ど全てを弾体の加速に使用できる。

―――別名、『ムカデ砲』

86式砲は砲口径381mm、砲身長が約50m、最大射程が約750kmと言う、正に『化け物砲』だった。
遼東半島南岸には、この砲を扱う帝国陸軍第108砲兵旅団が展開し、86式12門を運用していた(1門の運用に、砲兵1個中隊を要する)


現在では、日本、欧州連合、オーストラリア、そして米国のローレンス・リバモア国立研究所の協同開発により、
マスドライバーの一種、ライトガスガンとしての研究も進められている。


「作戦開始は2日後、11月13日 0630 作戦総指揮は、統合軍野戦総司令部(済州島)が統括する。
満洲方面軍は、中国軍の李伯陽上将(上級大将)を方面軍総司令官に、日本軍の宮崎重三郎大将を副司令官とする。
諸君らは、本作戦における第一打撃戦力として参加して貰う。 混成打撃大隊だ。 
指揮官は、本作戦中に限り中国軍の周蘇紅大尉。 ―――周大尉!」

「はっ!」

中国軍の周蘇紅大尉が、代わって壇上に上がる。

「只今、混成部隊長の指名を受けました、周蘇紅大尉であります。 非才の身ではあるが、渾身の決意にて本作戦に当たる所存。
各部隊各位におかれては、何卒ご助力を賜りたい。 ・・・続いて、部隊指揮系統を説明する。
部隊長は本職が務める。 次席指揮官・第2中隊長には、日本軍の高山大尉。 三席指揮官・第3中隊長は、同じく日本軍の綾森中尉とする。
高山大尉、綾森中尉、以後、よろしく頼む」

「「 はっ! 」」

「宜しい。 では、作戦行動詳細に入る・・・」











同日 2130 第221前進基地 帝国軍第1戦術機ハンガー


「あ~あ、貧乏籤引いたよねぇ・・・」

「ローテーション交代の前日に、大規模作戦とはねぇ・・・ 参ったよね」

自機の機動制御調整を行いながら、美園少尉と仁科少尉がぼやく。

「でも! 成功すれば、久々の大勝利ですよっ!」

「そうですよ。 ここの所、BETAに押されっぱなしでしたからね。 ここらで一発、かまさないとっ!」

2人とエレメントを組む、摂津大介少尉と、光藤亘少尉が目を輝かせて言う。
確かに、成功すれば久々の大勝利だ。 しかも、東アジア防衛戦略上でも大きな挽回となる。

「・・・お気楽でいいね、アンタらは」

「美園少尉?」

何故か何時ものテンションが無い先任を、訝しげに摂津少尉が見る。

「こんな大規模作戦、去年の9月以来だよ。 あの時どうなったか・・・」

「南満州は、『九-六作戦』だったね。 私達の居た北満州でも、4万からのBETAの大攻勢に晒されたし。 
華中も酷かったね。 マンダレーから遠征してきた4万6千のBETAの猛攻に晒されたわよ」

「で、でも! 今回、H18(ウランバートル)も、H19(ブラゴエスチェンスク)も、BETAは増加傾向を見せていませんよっ!」

「それに、H14(敦煌)、H16(重慶)も、ここのところ大人しいし・・・ 
地上に溢れているBETAの総数は、作戦概要じゃ、戦域全体で4万程でしょう? 
我々の担当戦区では、1万2千か、1万3千程だって・・・ 大丈夫なんじゃないですか?」

摂津少尉と光藤少尉が、事前ブリーフィングでの内容を思い返して、反論する。

「摂津! この馬鹿っ! 教えただろう! BETA相手に、事前情報なんて気休め程度だって! 
そんな事を鵜呑みにする馬鹿は、最前線の将兵には居ないよっ!」

「常に状況は流動的だって、言ったよね、光藤? アンタ、まさか忘れた!?」

「「 い、いえ!! 」」

急に怒り出した先任2人の剣幕に、思わず背筋が伸びる。

―――そう言えば、先任たちは結構な大規模作戦の経験が有ったよな・・・

「いい? 2人とも。 今回の作戦中、一切余計な事を考えるんじゃないよ。 兎に角、私達について来なさいよ?
じゃないと―――死ぬよ、多分」

「お、脅かさないで下さいよ、美園少尉・・・」

「脅しじゃ無い」

「・・・仁科少尉?」

「脅しじゃないよ、杏の言った事は。 これ程の作戦、正直私らでも自信は無い。 
・・・自信は無いけど、生き残らなきゃいけない。 そうよ、生き残らなきゃね。 だから、離れちゃ駄目だからね。 いい?」

「は、はあ・・・」 「わかりました・・・」











そんな光景を、離れた場所から見ていた人物―――神宮寺まりも少尉は、無意識に溜息をつく。

(―――羨ましい)

同期の2人が。 ああいう風に言える、あの2人が。 生き残るべき何かを、持っているのか、見出しているのか。 
この1年、苛まれて。 その揚句、がむしゃらに戦ってきただけの自分とは、随分違うように思える。

未だに思い出す、あの初陣での惨劇。 生き残った後ろめたさ。 私もあの時、皆と一緒に死ぬべきだったのだろうか?
そうすれば、あの夢は見なくてすんだのか。 何時までも見続けると言う事は、やはり皆が責めている事なのだろうか・・・?

―――私は、何の為に戦えばいいのだろう・・・


かつては夢が有った。 希望が有った。 戦う為の情熱が有った。 だが、それさえも一瞬で吹き飛ばされてしまった。


―――何の為に、戦えば・・・


相変わらず、その自問に応えは見い出せなかった。








前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.033757925033569