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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 祥子編 南満州3話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/22 19:19
1994年11月6日 1220 第221前進補給基地 PX


数日前のBETAの中規模襲来以降、基地は比較的穏やかな日々が続いている。
無論、最前線の即応基地故に警戒態勢に緩みは無いが。 
それでも各種情報―――地中設置の各種センサー、定期的なUAV偵察、監視衛星からのハイブ周辺情報。
その各種情報を組み合わせた結果、現状では余程突発的な事態が発生しない限り、BETA群の侵攻は当分無いとの予測が出されていた。

「それでも、間引き攻撃は続くんだけどねぇ~・・・」

昼食時でごった返すPX、その何の装飾も無い、剥き出しの壁に天井、そしてただ単に板に脚を付けただけのテーブルと椅子。
そんな殺風景なPXの中、不味いと評判の―――軍の食事に、味覚を求めてはならない―――基地厨房が出す食事。
その味気ない食事を箸でつつきながら(一部の国連軍以外の、極東各国軍将兵の必須アイテム)、美園杏少尉がぼやく。
彼女達は先日の戦闘から帰投した後も、4日のうちに2回の出撃―――偵察と、掃討任務―――をこなしていた。

「やらなきゃ、ハイブが溢れ返るでしょ。 まったく。 杏、アンタ最近、愚痴が多いよ?」

向かいに陣取って、不平も言わずに黙々と食事を続けていた仁科葉月少尉が、箸を休めて親友に小言を言う。

間引き攻撃―ハイブ飽和―波状侵攻―阻止戦闘。 この、出口の見えないローテーションの様な現状。
彼女達が任官して1年6カ月の間、この単調で凄惨なローテーションの中に身を置いてきた。 正直、精神的に疲れ始めているのだ。

何も、彼女達に限った話では無い。 戦場に身を置く各国の将兵の多くが感じる最初の壁(『死の8分』は、それ以前の話だ)
如何にモチベーションを保つか。 突き詰めれば『何の為に戦うのか?』
大義名分では無い、もっと身近な何か、確固たる何か。 未だそれが見えていないのだ。

「それはそうだけどさ。 ―――あ、そうだ、葉月。 アンタ聞いた?」

「何を?」

「この前の、18師団で壊滅した中隊があったでしょ? あの部隊の生き残りの話よ」

―――ああ、そう言えば、生き残った機体が何機かいたっけ・・・

仁科少尉はそんな事をぼんやりと思い出しながら、食事を進める。

(相変わらず、不味いなぁ、ここの食事は・・・ 瀋陽だったらなぁ。 非番の時には、お店で食事できるのになぁ・・・)

基本的に要塞都市と化した瀋陽では、純然たる『民間人』の数は激減している。
飲食店にせよ、他の店舗にせよ、殆ど全てが軍と何かしらの契約を結んだ、『軍の利用施設』となっている。
それでも、『人間用燃料』と影口を叩かれる軍の食事、それも野戦食に比べれば。 王侯貴族の美味に匹敵するだろう。

(―――馴染みの店の、お気に入りの料理。 あれを早く食べたいなぁ・・・)

知らずに、ぶつぶつと小声で独り言を言いつつ、黙々と食事をする親友を。 気味悪そうな目で見つつ、美園少尉が話を続ける。


「3機、生き残ったんだけどさ。 その内1機は、衛士は半死半生、機体は中破。 
無事だったのは2人だけなんだけどさ。 ―――その内の1人、誰だと思う?」

「知らない」

「・・・葉月、アンタ最近、ノリが悪いよ?  ま、いいか。 そうそう、生き残りの1人ね、私らの同期よ」

「・・・同期? 誰?」

「神宮寺」

「・・・神宮寺まりも?」

「そう。 神宮寺まりも」


―――神宮寺。

ふと、1年以上前に事を思い出す。 確か、昨年の『九-六作戦』の後だったか。
北満州を放棄して南に後退する途中で、国連軍に出向していた周防先任―――今は国連軍の中尉か―――と、ばったり出会った時だ。


(色々と近況報告して。 あと、私と杏が溜め込んでいた鬱憤を、聞いて貰ったりしたな。
確かその時だ、周防さんから神宮寺の名前が出たっけ。 えっと、確かあの時は・・・)


「周防さんからさ、神宮寺の話されたよね、だいぶ前に。 思い出しちゃってさ。 
それに、神宮寺の奴、あれからどうしてたのかなぁ、って」


(そうだ、確か同期の伝手でも使って、気にかけてやれとか、言われていたんだっけ。
神宮寺は初陣で、同期の仲間を5人失っていた。 確か、臨時中隊長をやっていた筈)


「そうか、思い出した。 確か周防さんの部隊が救出したんだ。 
神宮寺と新井、それとあと1人・・・誰だっけ、忘れたな。 ま、いいや」

「葉月。 何、腑抜けてんのよ・・・ 
でさ、あの後、どうしてたんだろうって。 すっかり失念しちゃってたよ。 
今は18師団かぁ・・・ って事は、一旦内地に戻ったのかな?」

「だと思うよ? 負傷していたそうだし。 確かあの時は第9師団だよね。 
あの師団、今は再編で西部軍管区の第3軍団でしょ? 転属になったんじゃないの?」

(西部軍管区か。 確か、94式『不知火』の優先配備部隊よねぇ。 
『疾風弐型』も悪くないけど、正真正銘の第3世代機にも搭乗してみたいなぁ・・・)


そんな事を考えながら、何となしにボーっとしていたらか。 
後ろから声をかけられた2人は、思わず飛び上がりそうになった。

「あんたら・・・ さっき『神宮寺』とか言ってなかったか?」

見ると、同年代くらいの男の衛士が2人、険しい顔でこっちに話しかけている。
階級は少尉。 と言う事は自分達の同期か、或いは後任だ。 半期先任の期が、1か月前に中尉に進級しているのだ。

「言ってたけど・・・ アンタ、誰よ?」

美園少尉が胡散くさそうな顔で聞く。

(部隊章は・・・ 18師団か。 『181TSF.Rg』・・・ 第181戦術機甲連隊。 神宮寺と同じ部隊ね)

仁科少尉が、相手の左肩に張り付けた部隊章を確認する。

「ああ・・・ 俺たちは181連隊の者だ。 補充で今日から駐留する第33中隊だ。
俺は神崎少尉、こっちは高橋少尉。 神宮寺の同期になる。 ・・・訓練校は別だけどな」

「ふぅん? じゃ、あたし達とも同期な訳だ。 で? 神宮寺がどうかした?」

「そっちも同期か。 いや、話し振りから、あいつを知っているのかと思ってな。 ―――あの、『死神』をさ」

「「 死神? 」」

―――神宮寺が? イメージじゃ無いな。 少なくとも、私の中では・・・

「死神って? 神宮寺が? ・・・私達、同じ訓練校の同期の間じゃ、少なくとも彼女は『気が強いけど、思い遣りも有る優等生』なんだけど?」

同じ訓練校出身の美園少尉が、訝しげに問いかける。

「優等生ね・・・ 俺達の部隊の連中に、聞かせてやりたいよ。
あいつは今まで、少なくとも2つの中隊に所属していた。 今年の4月からな。 
―――全て壊滅したよ。 所属中隊は」

「「 なっ!? 」」

「今回だってそうだ。 これで3回目だ。 いつも、無茶な突撃をしやがる・・・ 隊長が制止するのを振り切ってだぞ?
確かに腕は良いさ、それは認める。 ウチの連隊でも、あいつに敵う衛士は少ないよ。
でもな、それでも・・・ 味方を危険に晒すような突撃を。 そんな無茶をした挙句に、部隊が壊滅するんだぞ? 許せるかよッ!!」

神崎少尉が、憤怒の表情で吐き捨てる。
傍らの高橋少尉が、そんな神崎少尉を宥めるように肩に手を置き、続ける。

「俺達だって、仮にも同期生だよ。 悪し様に言いたくは無い。 でもな、あいつの戦場での行動は、異常だよ。
今、部隊であいつが『死神』以外に、なんて呼ばれているか知っているかい・・・?」

「・・・何て呼ばれているの?」

知らず、美園少尉の声もかすれ気味だ。

「・・・『狂犬』さ。 まるで、狂った闘犬の様な奴だよ。 目前のBETAに、何が何でも食らいつく」

「「狂犬・・・」」

荒い息をしていた神崎少尉が、再び激昂する。

「あいつがッ! 今回、あいつが無茶な突撃をしなければッ! 中隊は隣接部隊と合流しようとしていたんだ!
それを、あいつの突撃が台無しにしたッ! お陰であの様だッ! 
あいつがッ! 無茶しなければッ! ・・・あいつだって、死なずに済んだかもしれない・・・ッ!」

(あいつ・・・?)

「こいつの恋人でね・・・ 半期違いの後任少尉だったんだけど。 壊滅した第32中隊に居たんだ。
・・・戦死したよ、4日前の戦闘でね」

悔しそうに顔を歪める神崎少尉をチラリと見て、高橋少尉が説明する。
と、その時。 新たな声が耳に入った。


「・・・他人の戦死の責任まで負わされちゃ、敵わないわよ」

「・・・神宮寺!?」

「お久しぶり、美園。 元気そうね。 そっちは・・・ ああ、確か本校の・・・ 仁科だっけ?」

「え、ええ。 久しぶりね、神宮寺・・・」


―――これが、神宮寺!?

美園少尉も、仁科少尉も、思わず目を疑う。
彼女達の知っている『神宮寺まりも』という人物は。 
負けん気が強くて、気が強い半面。 面倒見が良く、優しい面も見せる、そんな女性だった。
しかし今、目の前に居るのは・・・

「・・・よくも、そんな言葉を吐けるな、『狂犬』・・・!!」

「おい! よせっ! 神崎!」

「あの娘が死んだのは。 あの娘の技量の無さと、判断ミスよ。 
私に責任擦り付けられてもね・・・」

殴りかからんばかりの勢いの神崎少尉を、高橋少尉が何とか押しとどめる。
神宮寺少尉はそんな2人をチラリと見て、すぐに興味が失せたかのように何事も無く、椅子に腰かけて食事を始めた。

「神宮寺。 お前さん、これだけは言っておく。 同期として最後の忠告だ。
いいか? ―――これ以上、勝手な行動を戦場でするなよ。 それこそ、BETAだけじゃ無く、味方から『後ろ弾』喰らうぞ?」

「ご忠告、どうも。 それだけ? 言いたい事は。 ―――だったら、消えてよ。 鬱陶しいったら」

「「「「 ッ! 」」」」

その場の皆が息を飲む。

「・・・ああ、消えてやる。 それと、忘れるな? お前の仲間は、どこにも居ないんだ。
戦場で、それをよぉく、味わえよ・・・」

激昂する神崎少尉とは反対に、青白い顔色になった高橋少尉が、感情の失せた平坦な口調で捨て台詞を残し、その場を離れて行った。
そんな2人の後姿を見ながら、美園少尉が神宮寺少尉に問いかける。

「ちょっと・・・ 神宮寺。 アンタ、何を馬鹿やってんのよ?」

「馬鹿・・・? 馬鹿って?」

「とぼけないでよッ! 何よ、今の遣り取りはッ! アンタ、あの調子じゃ絶対、次の作戦で孤立するよ!?」

「孤立も何も。 中隊は今、2人だけよ。 味方を探しようも無いわね・・・」

問い詰める美園少尉に対して、あくまで関心無さそうな、無表情で淡々と返す神宮寺少尉。
そんな2人を見つつ、仁科少尉が口を挟む。

「杏・・・ 止めときなって。 何言っても無駄よ、今のこいつには・・・」

「葉月!? 何でよッ!?」

「・・・死にたがりに、何言っても無駄って事よ。 そうでしょう? 神宮寺」

皮肉な口調の仁科少尉に、ふと箸を止めた神宮寺少尉が、無表情のまま視線を向ける。
かつての面影など、失せ果てたその瞳。 生気を失った目の色。 代わりに宿るのは、強烈に狂おしい程に、何かを求める色。

見た事が有る。 北満州で、そしてこの南満州で。 帝国軍将兵の中に、中国軍や韓国軍、そして国連軍将兵の中に。
その眼の色を宿した者達は、刹那を狂おしい程に疾走して。 そして消えて行った。


「そんなに、同期を失った事が苦しかった? 5人だっけ? みんな、貴女の指揮の拙さで死んでいったのでしょう?
ああ、だったら、死にたいわねぇ・・・ 一緒に訓練校で切磋琢磨した仲間を。 5人も死なせたんじゃねぇ・・・」

「・・・さま・・・」

「でも、それの巻き添えは勘弁よね? 確かに、さっきの2人の言う通りだわ。
アンタ、『死神』気取りみたいだけど。 確かにそうよね? BETA相手の『死神』じゃなくって、味方にとっての『死神』かぁ・・・」

「きさま・・・ きさま・・・」

「確かに、戦場じゃ誰も近づきたくないわね。 私だったら真っ平御免よ。 例えエレメント組んでても。
さっさと死んで貰いたいものね? そうすれば、皆ハッピーよ。 万事上手く収まるってものね・・・」

「貴様ぁ!!」

不意に神宮寺少尉が激昂し、仁科少尉に飛びかかった。 そのまま2人して倒れ込む。

「貴様ッ! 貴様に、何が判るッ!? 貴様にッ!」

―――ガッ! ゴッ!

馬乗りになった神宮寺少尉が、上から仁科少尉に殴りかかる。
両腕で顔面をガードしながら、それでも仁科少尉の嘲笑は終わらない。

「はんっ! 『死神』気取ってッ! 『狂犬』気取ってッ! それがちょっと図星指されたからって、この有様!?
―――メッキが剥がれたなぁ! 神宮寺!!」

その言葉に、思わず神宮寺少尉の体が硬直する。 それも束の間、更に憤怒を呼び起こした。

「貴様ぁ・・・ 貴様にぃ・・・ 何が判るかぁ!!!」

思わず拳を振り上げる。 慌てて美園少尉がその腕を掴み制止する。

「やっ、やめろっ! 神宮寺! それ以上はやめろっ! ―――野戦憲兵隊の世話になりたいのかっ!?
葉月! お前も変に挑発するのは止せっ! 何考えてんのっ! この馬鹿っ!!」
















1330 第221前進基地 第141連隊第2大隊 第23中隊戦闘指揮所


「で? その『死神』だか、『狂犬』だかが、ムカついたから挑発しました。 
で、殴り合いになりました―――それで、私は憲兵隊分遣指揮官に、頭を下げなきゃいけなかったんだ?」

「はぁ・・・」

戦闘指揮所の一角。 直立不動の仁科葉月少尉を、直属上官の伊達愛姫中尉が簡易チェアに座って見上げている。―――目が据わっていた。

昼時のPXでの騒動。 結局、騒ぎを聞きつけた憲兵隊が駆けつけ、殴り合いをしていた2人が拘束された。
最も、『同期同士の、他愛ない議論の食い違いだ』と、憲兵隊分遣指揮官が鷹揚な処置をしてくれたお陰で、2人の上官が頭を下げる事で落ち着いたが・・・

その頭を下げた1人、第23中隊第3小隊長の伊達愛姫中尉は、目前の部下を睨みつけている。

「このッ 阿呆ッ! 何考えてるッ 仁科! アンタ、もう先任でしょーがッ!!
何時まで青臭い新任気分で居るんだぁ!!」

「~~~ッ! 申し訳ありませんッ!!」

「何でも『申し訳無い』で済むかぁ! お陰で私は、楽しい昼食時をブチ壊されて、良い迷惑だよッ!!」

(――― つまり、食い物の恨み、って事?)

怒鳴られ、叱責されながら。 ふと、上官の言葉に心の中で突っ込んでしまう。 
この上官の『食べ物』に対する情熱は、かなりのものだから。


「あ、あの・・・ 伊達中尉。 この娘も十分反省していると思いますし、そろそろ・・・」

「美園ッ! アンタもその場に居ながらッ! どーしてこうなる前に制止出来なかったッ!?
同期同士でしょうがッ! 何、遠慮してんのよッ!?」

「はっ、はいぃ!!」

思わぬとばっちりを受けた美園杏少尉も、思わず直立不動になる。
『どうして私までっ!』 目でそう、悲鳴を上げていた。

荒れ狂う第3小隊長を見つつ、その場の『空気』と化していた第2小隊長・間宮怜中尉が、そろそろ頃合いかと取りなす。

「ま、伊達中尉。 怒鳴り散らすのは、もうその辺で。 仁科も『十分』反省はしているでしょうし。
あとは・・・ ちょっとばかり、その余った体力でもって、反省の色を形にして貰いましょう」

(―――げっ! 何言いだすのよッ!? この人はッ!)

仁科少尉は思わず、間宮中尉を振り返る。 が、しれっとした顔はまるで突撃級の装甲殻だ。 抗議の視線は全く跳ね返される。
次いで、親友を見る―――が、『こうなっちゃ、無駄でしょ・・・』とばかりに首を振っている。


「中隊長が今日は連隊本部に行ってて不在だからね。 私が代行で言い渡すよ?
―――仁科! 完全装備でランウェイ10周! チンタラ走るんじゃないよッ! 制限時間付きだからねッ!」

「はッ!!」

「美園ッ! アンタも連帯責任ッ! 同じくランウェイ5周!」

「ええっ!?」

「文句あるッ!?」

「はいっ! いいえ、有りませんッ!!」

「じゃ、さっさと走って来いっ!」

「「 了解!! 」」



慌てて指揮所を出て行く2人を眺めた後、伊達中尉が大仰に溜息をつく。

「・・・全くね。 あの娘達もそろそろ、手を煩わせ無くなってきたと、思ってたんだけどねぇ・・・」

「ちょっと、今日の事は違う感じでしたね」

備え付けの給湯器から、コーヒーカップに湯を注いでコーヒーを作っていた間宮中尉が、カップの一つを伊達中尉に手渡しながら呟く。
カップを受け取りながら、伊達中尉は少々真剣な色を目に宿しながら頷いた。

「仁科にしても、美園にしても。 もう、任官して1年と7カ月。 戦場経験も1年以上。
十分、地獄を垣間見てきた連中だしね。 今更、青臭い感情論で殴り合いなんて・・・ って思ってたわよ、私も」

―――はぁ・・・

溜息をつきながら、伊達中尉が間宮中尉を顧みる。
戦場で、感情がささくれ立った将兵同士の、些細な事での乱闘騒ぎはつきものだ。
彼女達とて、そう言った経験のひとつや、ふたつや、みっつ・・・ は、経験が有る。
しかし、大抵は新任時代が多かった。 戦場を経験し、地獄を覗き見て、いつしか考え方もシニカルになってきたのだろうか。

ふと、間宮中尉がひょんな事を言い出した。

「そう言えば・・・ さっき、美園が言っていましたが・・・」

「ん? 何?」

「喧嘩の相手。 確か、18師団の神宮寺少尉でしたか。 以前に周防中尉と関わりが有ったとか」

「はぁ? 直衛と? なんで? 神宮司なんて奴、同じ師団・・・ 他の連隊か大隊に居たっけ?」

思わず、素っ頓狂な声を上げる伊達中尉。
彼女の同期・周防直衛中尉が、『国連軍へ出向』する前の知り合いなら。
北満州駐留時代の第14師団しかない。 他の連隊か、大隊か。 少なくとも同じ大隊にはそんな奴は居なかった。


「いえ、確か去年の9月・・・ 大連の『九-六作戦』の頃だったと聞きましたよ」

「へぇ? あの作戦? 私らは・・・ああ、H19(ブラゴエスチェンスクハイブ)の連中と遊んでたんだっけ・・・」

―――BETA相手に、遊ぶも無いでしょう。

間宮中尉は先任の僚友の言葉に、思わず内心で突っ込みながら、しかし声には出さず頷く。

93年9月、南満州での大規模防衛作戦『九-六』作戦当時、第14師団は北満州にあって、
H19・ブラゴエスチェンスクハイブからの、約4万以上のBETA群の猛攻に忙殺されていた時期だった。

「確かその時、神宮寺少尉は初陣で南満州防衛に参加していたそうで。 ―――所属中隊は壊滅だったそうです。 BETAの奇襲で」

「・・・うわぁ~、それは・・・ トラウマだわね・・・」

「そうですね。 で・・・ その壊滅した中隊の援護に駆け付けたのが、周防中尉の所属した中隊だったそうですよ。
生き残った神宮寺と、あと2人程。 中尉と、僚機とで引きずって後方まで退避させたとか」

「ふぅん? そう言う知り合いね・・・?」

「・・・どう言う、『知り合い』かと?」

「いや、あいつ。 あれでいて、結構手が早いとか、そう言う所あったからね」

「・・・そうなのですか? 知りませんでした」

「ま、それはいいや。 で?」

「・・・美園にしても、仁科にしても。 期間は短いですが、初任当時にお世話になったのが、周防さんですから。
何だかんだ言って、思い入れも有るのでしょうね。 その周防さんが戦場で助けた同期生が。
あたかも『死にたがり』の様な行動を・・・ で、カチンときた。 ―――そんな所では?」

「・・・ガキか? あの娘達も・・・」

思わず頭を抱える。 そして、今はここに居ない同期生に対して、思わず愚痴りたくなってきた。



(―――直衛、アンタ。 地球の反対側に行ってからも騒動のタネ、残してんじゃないわよッ!!)











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