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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 国連米国編 NY2話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/06 00:03
1994年12月24日 1900 NYC・マンハッタン トライベッカ


この界隈は芸術家連中が多い街だそうだが。 生憎と俺にはそんな素養も無ければ、興味も湧かない。―――我ながら、薄っぺらな奴だ。
会場は程良く古い外観の建物の1フロア。 同じ軍人同士と言う事で、それ程肩肘張らずにいいだろう。 そう思っていたら・・・


「お兄さま! はい、美味しいわよ、このお料理!」

「あらあらあら。 お姫様は騎士にベッタリね?」

「もう! エステル、意地悪ね!」


(・・・何故? どうして、この子がここに?)

茫然と椅子に座っている俺に、さっきからジョゼが、あれこれと料理を持ってきてくれているのだが・・・

(・・・それに、マクスウェル少佐に、バレージ中尉とブランシャール少尉も?)

いや、彼女達はある意味、不思議ではない。 これは『軍人同士の』集まりだ。 その意味では不思議ではない。

(―――だけど、警護任務は? どうしたんだ?)


「レセプション・パーティに、ご出席なさっているのよ。 国防総省主宰のね。 
当面は、チェレンコフ曹長を呼び寄せたから、大丈夫よ。 明日以降は、ドロテアも動いて貰うし。」

ドレス姿のマクスウェル少佐が、ミートパイを上品に頬張りながら笑う。 
その横で、これまた妖艶なドレス姿のバレージ中尉が、気だるそうにシェリーグラスを傾けている。

ドロテア・バレージ中尉。 あまり接触が無かったけど、何か気だるそうな雰囲気の妖艶な人だ。
レディの警護には、場違いな気がするけど・・・

「バレージ中尉は、情報関係にお知り合いが多いんですよ。 それに後ろには『優しい巨人』が控えていますから。 大丈夫ですよ、中尉」

『優しい巨人』―――ああ、レオニード・チェレンコフ曹長か。

小柄で童顔、それに「小さな大平原」の為に。 
ジョゼと並ぶと、年の余り変わらない姉妹に見えてしまうブランシャール少尉が、こっちを振り向いて言う。
成程。 情報部門の中の『濡れ仕事』関係の連中に渡りをつけたのか。 直接護衛なら、レオニードが居れば楯にはなる。

で、休暇を貰った(恐らく、無理やり取らされた)3人が、偶々別口で参加していたのだ。 ジョゼを連れて。


「・・・はぁ。 ま、いいか。 ジョゼ、いっぱい楽しむんだよ?」

「うんっ!!」

ま、いいか。 お陰であの子は、この場のマスコットだ。 参加者から可愛がられているようだし。
気分転換にはなるかな。 周りは大人達ばかりと言う事に変わりは無いが。 
ここは少なくとも『お行儀よく、余所行き』の仮面は必要とされない。
あの子の素のままで、楽しめばいいのだから。



「やあ、直衛。 お姫様のご機嫌はどうだい?」

「麗しい様子だよ、オーガスタ。 にしても、随分と幅の広い参加者だな・・・」

上は准将閣下から、下は任官したての少尉まで。 共通項は『コロンビア大学出身の、ROTC任官者』だった。

「実のところ、米軍士官の多くはROTC出身者さ。 
陸軍は52%、海軍(NROTC出身)は42%、航空宇宙軍が38% レザーネック(海兵隊)は11%だけだけどね」

それだけ、大学出の学士将校が多い訳だ。 
いや、中には修士号(大学院修了)や、博士号を持つ尉官や佐官、将官がかなり居る。

(・・・帝国とは、大違いだな)

帝国陸海軍の場合。 将校・士官に対する専門教育は力を入れている。 だが一般的な学問を習得させる事には、全く関心を示さない。 
精々、主計将校が帝大の経済に聴講生として参加するか。 技術将校が工学系の研究室に出向するか程度で。 
俺のような野戦将校が、来年初頭からの『補習教育』のような事を受講する事は無い。  

ROTC。 帝国にも、そういった制度は有るにはある。 陸軍の予備士官学校。 海軍の予備学生制度。
しかし、あくまで軍人の頭数を確保するための手段であって。 
一旦軍に入ってから、修士号だの、博士号だのを取得させる為に再度、大学へ放り込む事はしない。

―――この差は、一体何に繋がるのか・・・


ふと。 場がざわつき始めた事に気がついた。

「ん? どうしたんだろう・・・ ぺトラ?」

「・・・私は、ゲスト。 判る筈、無いです」

「・・・ご尤も」

固まり始めた一団を抜け出したオーガスタが、肩をすくめながら近づいてくる。

「やれやれ、誰だ? 彼を呼んだのは・・・ 衛士連中、直立不動だよ」

「どうした? 誰が来たんだ?」

「衛士訓練課程時代の教官さ。 今はネリス(ネバタ州ネリス基地)の第57戦術機甲戦闘団に居る筈なんだけど・・・ 休暇かな?」

「教官? それに、57thTSF・Regって言えば、確か・・・」

「ああ、そうだ。 その2個大隊のうちの、『第64アグレッサー戦術機甲大隊』 ―――トップガンさ。
丁度先月で『ブルー・フラッグ』が終了したからなぁ」

「USAM(アメリカ陸軍兵器戦術センター)か・・・ 凄腕の衛士なんだな?」

「今回の『ブルー・フラッグ』 参加各国は勿論、どうやら同じネバタの『エリア51』の連中も、やられたらしいね」

「エリア51・・・ グルームレイクの連中か?」

「うん、そうだ。 同じUSAM傘下の、TSFWC(戦術機兵器センター)の連中さ。
どうやら、新型の運用試験しているらしいけど・・・ 流石に、彼等相手じゃね」

「誰なんだ? 名前は?」

「ああ、名前は・・・ 「カーマイケル! カーマイケル中尉か?」 ・・・はっ! そうであります、大尉殿!」

長身、短く刈った金髪の米軍士官が現れ、カーマイケル中尉に声をかける。
見た目は20代後半くらいか。 意志の強さが、目と引き締まった口から顎に表れている。
珍しく、オーガスタが『軍人』をしている。 俺も上級者に対して敬礼をする。

「ん! 久しいな、壮健か? ・・・失礼した、中尉。 私は合衆国陸軍大尉、アルフレッド・ウォーケン。 57thTSF・Reg」

「国連欧州軍、周防直衛中尉であります」

「ふむ・・・ どうやら君は、実戦を潜った衛士だな? 違うか?」

「はっ 実戦経験は、2年半ほどになります」

「だろうな・・・ 目が違う、ここに居るヒヨコとは」

オーガスタを横目で見ながら、ウォーケン大尉が笑う。 オーガスタは冷や汗状態だ。

「2年半か・・・ しかし、未だ目は死んでいないな。 随分悩んだ事だろう。 が、未だ折れてはおらぬ。 部下に欲しい男だ」

「恐縮です」

何だかな、この大尉。 米軍の将校にしては、珍しいタイプなのか? 帝国の衛士と話しているような感じだ。

―――嫌な感じじゃない。 寧ろ、好ましい。


「と、時に大尉、お一人で?」

散々扱かれたクチなのだろう。 オーガスタがやや慌てたように話題を変える。

「む・・・ いや、私はラング中佐のお供だ。 誘われてな。 中佐は客人をお連れしている」

「客人・・・? ああ、今夜はゲストもOKですので。 で、どちらに・・・?」

「うむ、あそこにおられる。 ラング中佐殿!」

窓の傍で話し込んでいた中から、壮年の中佐が振り返る。 『ラング中佐』なのだろう。
30代後半くらいか。 短く刈り上げたグレイの髪が精悍な印象を与える士官が歩み寄ってきた。


「私の部隊長、ジョン・アルベスター・ラング中佐だ」

「ほう? アルの教え子か・・・ どれどれ、未だヒヨコのままか・・・?」

こちらもまた、見た目にも精強さを思わせる印象の士官だった。
二人揃えば・・・ 訓練校の鬼教官と、情け容赦ない主任教導官か。 

第64アグレッサーの事は良く聞く。
現在でも10ヵ数国参加する、大規模な模擬戦競会、ブルー・フラッグ。 ネリスでは年4回。 そしてアラスカでも年2回開催されている。
そこで僚隊である第65アグレッサー戦術機甲大隊と共に、参加各国の戦術機甲部隊の『敵役』を務める部隊だ。
ほとんどの場合、参加各国の『代表チーム』を、『撃破』してしまう凄腕どもだった。

(その片割れの大隊長と、恐らく中隊長か・・・)

多分、彼等は欧州かシベリアでの実戦経験もあるのだろう。 実際、シベリア方面の大半と、欧州方面の半数以上の『国連軍』は、事実上米軍なのだから。
そんな事を考えていたら、ラング中佐の後ろに居る人物に気がつかなかった。

「―――中佐。 君の知り合いかね?」

「はい。 いえ、大佐殿。 ウォーケン大尉の教え子の様で。 と言っても、まだまだヒヨコのようですが」

そう言って、ラング中佐が皆の前に引き合わせた人物が、前に進みだして、そして・・・
その場の大半が敬礼する。 大佐の階級章だった。 但し―――帝国海軍の。


「皆、紹介しよう。 私の『ゲスト』 日本帝国海軍、周防直邦大佐殿だ」

「―――宜しく。 ああ、この場は諸君の宴の場だ。 堅苦しい真似はせずとも良いよ」

―――くそ・・・ 何だって、こんな所で、この人に・・・

「ん? どうしたんだい、直衛? 顔を顰めて?」

―――オーガスタ。 全く間の悪い時に、間の悪い言葉を・・・

「周防中尉。 その表情と態度は、上級者への礼を失するのではないのか?」

―――ウォーケン大尉。 フルネームで察して欲しかった。

一瞬、猛獣が得物を見つけたような光を目に浮かべて。 その海軍大佐殿はいかにも愉快そうにのたまった。

「―――ほう? 直衛。 我が不肖の甥ご殿。 よもや斯様な場所で、家名を下げてはおるまいな?」

―――昔から、憧れと同時に、苦手だったのだ、この人は。 直邦叔父貴は・・・







そこからが、ちょっとばかり大変だった。
あの後すぐに、俺に走り寄ってきたジョゼを見た叔父貴が、『光源氏趣味でも、持ち合わせていたのか?』 などとほざく。

小さなお姫様の後を付いてきたぺトラ・リスキ少尉と、エステル・ブランシャール少尉。
その姿を見ながら、周りと談笑しつつ、挨拶にやってきたブランシャール少佐と、バレージ中尉。
彼女達の姿を見た瞬間の叔父貴の顔には、寒気が走った。 ―――間違いない。 国に帰ったら、兄―――俺の親父に報告する気だ。

判っているくせにニヤケる叔父貴に、何とか現状(?)を説明してから。 
引き続き彼女達にはパーティを楽しんでもらう事にした―――それが最初の趣旨だったし。


「・・・で、叔父貴。 何でまた、ニューヨークに居るんだ? ハワイの米太平洋艦隊司令部ってなら、まだしも判るんだが」

「なら、お前はどうしてニューヨークに居るのだ、直衛?」

「俺は国連軍だ。 今回は、任務がらみの滞在だ」

「お前が国連軍とはな。 世の中、驚きに満ち溢れている。 ―――私の米国滞在も、その驚きの一つなのだがな?」

「答えになっていない・・・」

「聞き分けのない奴だ」

「何でそうなるっ!?」

いきなり、日本語で遣り取りを始めた2人に、少々呆気にとられていた回りだったが。 まず、オーガスタが主宰者の立場を思い出した。


「あ・・・っと。 直衛。 君は、大佐の身内なんだね?」

「うん? ああ、自己紹介がまだだったね、失礼した。 
日本帝国海軍大佐・周防直邦だ。 そこの国連軍中尉・周防直衛は私の兄の、末の息子なのだよ。 私の甥だ」

「そうでしたか。 ・・・ラング中佐殿とは、お知り合いで?」

「ふむ・・・ 実は所用で現在、ワシントンD.Cに赴いていたのだが・・・ どうやら、年明けには帰国する事になりそうでな。
中佐には、米海軍筋の『専門家』の紹介でな。 色々と、意見を聞いていたのだよ。 どうやら、無駄になりそうで申し訳ないが・・・」






2230  NYC・マンハッタン ミッドタウン


そこそこに上等のホテルに、叔父貴は宿泊していた。

あの後。 2100時過ぎに、『流石に子供が起きていて良い時間では無い』―――バレージ中尉がそう主張し、ジョゼとブランシャール少尉を連れて、会場を後にした。
意外に思えたが、離婚歴のある彼女。 実はアイルランドに疎開している実家に預けた子供が居るらしい。 ―――成程、お母さんだったか。

むずがるジョゼを宥めすかせて(色々約束させられて)送り出した後、叔父貴に誘われて宿泊先のホテルまで付いていくことになった。
今は、そのホテルのバーラウンジに居る。

俺と叔父貴、それに「ホスト役」のラング中佐、ウォーケン大尉。 それと。
―――相変わらず、言葉少ないぺトラと、逃げ遅れたオーガスタも一緒だった。


「・・・海軍の、次期主力戦術機?」

「そうだ。 直衛、お前は帝国海軍の現主力戦術機を知っているな?」

「そりゃ・・・ 84式だろ? 『翔鶴』。 F-4系の改修機だ」

「ん・・・ そして、『第1世代機』だ」

叔父貴が、ぽつりと呟いたその言葉の意味を違えた者は、流石にその場には居なかった。 皆、衛士か、衛士出身士官なのだ。

「JIN(日本帝国海軍)は、第3世代戦術機の開発を?」

「今更隠しても、仕方が有るまい? ウォーケン大尉。 帝国の動きは、逐一把握しようとしている貴国だ。 
その程度の情報など、現場へも流れてきているのではないかな?」

「はっ・・・ 失礼しました、大佐。 
では、今回の我が国への訪問は、次期主力戦術機候補の選定で有りますか?」

「いいや。 『フェニックス』の調達価格のネゴ交渉だよ」


あっさり、重要事項を口にした叔父貴を、ラング中佐以外の全員が目を剥いて見据える。

帝国海軍が、『フェニックス』を? ならば、F-14Dでも導入する気か? 
いや、あの機体は生産ラインが先細りしている。 米議会も、調達更新を否決した筈だ。
今や、米海軍の主力戦術機はF/A-18E/F『スーパーホーネット』に移行していくだろうと言う事は、周知の事実だ。

なら、F/A-18E/F『スーパーホーネット』の導入? いや、あの機体は『フェニックス』の運用を行えない。
あのクラスターミサイルは言わば、F-14の専用兵器体系だ。


「当然、不調に終わったがね。 まぁ、クリスマス休暇に押しかけたこちらも、こちらだが。
金儲けの話になった途端に、米海軍の調達価格の数倍のカネを吹っかけてくるのも、どんなものかと思うがね」

「むっ・・・ それは、大変失礼なことを、大佐。 
何せ、議員の中には正道を見ようとせず、己が権益を得る為の代弁の場と心得る、不届き者も」

「・・・面白いね。 ウォーケン大尉。 君のようなタイプの米軍士官は、初めてだよ。
いや、悪く取らないでくれ。 寧ろ、私のような古い人間にとっては、好ましくさえ思えるのだ」

「はっ! ・・・しかし、と言う事は。 貴国海軍の次期主力戦術機は、『フェニックス』の運用を行うことを前提とした、戦術機なのでありましょうか?」

「アル、先走るな。 我々は米国陸軍。 大佐は日本帝国海軍。 如何に同盟国軍同士とはいえ、些かキナ臭い質問だぞ? それは・・・」

ウォーケン大尉の直球的な質問に、ラング中佐がそれとなく制止を入れる。 

まあ、そうだな。 いくら同盟国とはいえ、一国の軍事機密に関する事だ。
叔父貴も、先程の発言は最大級の『失言』だったな。 米軍に、帝国海軍戦術機行政の一端を掴ませるとは。


半ば部外者然とソファに腰掛けて、ウィスキーをチビチビ飲りながら。 俺はそんな情景を眺めながら考えていた。

(・・・単に第1世代機、と言う訳だけじゃ無かろうな。 
去年の9月・・・ あの、『九-六作戦』の遼東湾でかなりの戦術機と衛士を失ったからな、海軍は。
その穴埋めも有るだろうが。 流石に、第1世代改修機では、戦域制圧能力に不安を感じたか・・・)

1年以上前に参加した、南満州の戦闘を思い出す。
あの時は確か、第3航空艦隊が参加していたが。 母艦戦術機機甲部隊の損耗率は70%に達した。 ―――事実上の、『全滅』だ。

『極東絶対防衛線』がかなり南に後退した現在、海軍としては母艦戦術機部隊の再建は急務だが。
相も変らぬ『翔鶴』では、次の戦も目が見えてしまう。 流石に、それは拙い・・・ そう言ったところか。


「いや、構わんよ、ラング中佐。 ・・・そうだ、丁度良い。 ここに居るのは、門外漢の私を除いて皆、衛士だったね。
どうだろうか? ひとつ、後学に教えてくれまいか? 戦術機とは、何たるべきか。 その方向性は、どうあるべきか?」

俺とオーガスタ、ぺトラが思わず顔を合わせる。 ―――何を言い出すんだ、全く。

「・・・米軍、いえ、米陸軍に於いては。 戦術機はあくまで局地的戦域制圧任務、若しくは中距離砲撃支援任務。
その大前提で開発される兵器体系であります。 大佐」

ウォーケン大尉の発言は、予想通りと言うか、予想を逸脱しないと言うか。
米軍戦術機の運用方法、ついては米軍のドクトリンそのものだった。

「では、機動性は重視しない? BETAとの直接戦闘は考慮しない?」

「いえ、そうは申しません。 当然、BETAとの接近戦が生起する状況も、あり得ます故。
その為に戦術機には、接近戦に耐えうる能力の付与も必要となりましょう。 が、それはあくまで『 従 』の事項。
『 主 』は、あくまで機動的な運用能力を有した戦域制圧と、砲撃支援。 その為の高速性能と、機動性能で有ります」

「・・・つまり。 既に陳腐化してしまった航空機、その『戦闘攻撃機』 乃至は 『戦闘爆撃機』 の代用、そう言う事ですか」

満洲で搭乗した経験のあるF-15Cを思い出しながら、つい口に出してしまっていた。
ラング中佐が、面白そうな表情でこちらを見ている。 ウォーケン大尉は、俺が自説へのアンチテーゼでも言いだすのか、そう疑うような顔だ。

「大尉の仰った事も否定はしませんが。 しかしながら、そのような運用や、運用に準じた戦術機開発が許されるのは、米軍だけでしょう」

「君が言いたい事の要約は、こうか? 周防中尉。 『米軍戦術機では、ハイブへの突入戦闘は出来ない』 と?」

「そこまで言い切りません。 が、ユーラシア各国の状況と、ハイブ攻略。 
この2点で論じるのならば。 戦術機への機動力。 取り分け、近接戦闘能力の軽視は危険かと」

「私は、軽視とは言ってはいない。 優先順位の問題だ。 それぞれにドクトリンの違いが有る事は認める所だ。
要は、如何にそのドクトリンに合致した戦術機とするか、そうだろう?」

「大尉の仰る事は、私も理解しております。 が、現実問題として。 ユーラシア、及びその周辺各国が抱える現状では。
戦術機は対BETA戦略・戦術における最重要の『道具』であります。 あらゆる状況で使用せざるを得ない。
何かしらに特化した仕様では、その『状況』に対応する事が出来なくなります」

「全てに対応する仕様を追求した揚句。 中途半端に『そこそこ万能』な戦術機になってしまっては。
それこそ、搭乗する衛士を無駄に潰す事になるぞ、中尉。
寧ろ、各状況に合わせた数種の戦術機、その開発に力を入れた方が・・・」

「それは・・・ッ! この国だからこそ、言える台詞なのです、大尉ッ!」

思わず、声が大きくなる。
ウォーケン大尉の言う主張の、一理有るところは判る。 判るが、そんな真似を出来るのは、この国だけだ。 それが、俺を苛立たせた。


「この国以外の国は・・・ ユーラシアやその周囲の国は、今この瞬間にもBETAとの『殲滅するか、殲滅されるか』の戦いを展開していますッ
それらの国に、大尉の仰るような戦術機開発の余裕など全く無いッ」

「むっ・・・」

「・・・無尽蔵な程の補給に支えられた、豊富な砲撃支援もッ 有力な機甲部隊や、攻撃ヘリ戦力に支援された戦場もッ
そんな『贅沢な』戦争は、出来なかったッ そんな戦場は、経験が無かったッ いつも、いつも、ギリギリの状況での防衛戦でしかなかったッ
・・・我々は、 極東で、 東南アジアで、 インドで、 中東で、 シベリアで、 欧州で、 そんな、ギリギリの戦いをしているのです。
BETAを直接打撃で屠る最も有効な兵器体系が、戦術機しかない状況で。 限られた国家資源と人間を元手に戦うには。 
この国から見れば愚かと思われようとも、より広範な用途を。 
少なくとも、地上とハイブ内部で。 BETAと直接殴り合える能力を求めるより、他に・・・無いッ」


しばし、沈黙が落ちる。 誰しもが、俺がここまで激するとは思っていなかったか。
―――いや、叔父貴とラング中佐。 この2人は面白そうな顔をしているが・・・

「・・・君の意見は、良く判った。 周防中尉。 しかし、しかしだ。 それでも私は、持論を曲げる訳にはいかない」

「何故と。 聞いても無駄でしょうね・・・」

「君も理解はしているだろう。 それが、我が軍のドクトリンなのだ。 欧州や極東各国にそのドクトリンが有るように。
当然、我が国にも国家戦略に基づいたドクトリンが存在する。 米国の戦術機は、そのドクトリンの『映し鏡』なのだ」

「・・・ハイブは、G弾で殲滅せよ」

「―――極論だが。 『それも』、我が国のドクトリンなのだ」


空気が険悪になる。 俺も、ここまで言い切るつもりは無かったのだが。 駄目だ、やはり米軍の方針には、同意しかねる。


「あの、大尉。 直衛も。 何も、そう熱くならなくとも・・・ 状況によって様々に変化が有る事は、何も戦術機の話だけじゃ無い。
それにそれこそ、そんな事の為に、『国連軍』という組織が存在するのじゃないかな?」

「ん? カーマイケル中尉?」
「オーガスタ?」

「こう言う言い方は気が進まないけど・・・ それこそ『適材適所』なのでは?
欧州や極東の軍が得手とする戦い方と、米軍が得手とする戦い方。 この二つを戦場で有機的に融合させうるのが、『国連軍』と言う存在なのでは?
・・・まあ、正直な話。 それが建前だと言う事も、実態が伴っていない事も承知の上での意見だけど」

「・・・戦線の押し上げは、米軍が主力になって。 ハイブへの突入は、その他の国が主力になって、かい・・・?」

「そこまで色分けする気は無いけどね。 でも、どちらかを各々の状況での『主』と『従』。
言い方が悪ければ、『主攻と助攻』に分ける事は出来る筈だろう。
この間言っただろう? 直衛。 『アメリカ人は何も、君達祖国を失った人々、祖国がBETAの脅威に直面している人々を、蔑にする気は無い』 
そしてこうも言ったよ。 『その脅威に対処する支援も厭いはしない』 ―――そうですね? ウォーケン大尉」

「ん・・・ 確かに、君の言うとおりだ。 カーマイケル中尉」
「・・・・」

「だからさ、直衛。 君も、アメリカが全てをG弾使用の大前提で判断していると、思わないで欲しい。
僕には―――言い方が気に障ったら、謝罪するよ―――直衛、君は一方的に『アメリカはG弾第一主義』で全てを考えている。 そう思えている様でならないんだ。
この国は『自由の国』だ。 実態がどうかは、勘弁してくれよ? でも、様々な考え方や、発言や、意志表示の自由が保証されている国だ。
国家のドクトリンの在り方は、今現在この国が置かれている状況によるものだ。 それは不変じゃないし、そこまで頑固じゃないよ」

「・・・流石に、そこまで頑固じゃないつもりだけどね、俺も」

「そうかい? それなら良いんだ。 つまり、戦術機も同じだと言いたいのさ。
忘れているようだから、言っておくけど。 現在の世界中の戦術機の元祖は、米国が生み出したものだよ」

・・・何かで読んだ記憶が有るな。 いや、誰かが言っていた事か?
確か、第2次世界大戦の時の言葉だ、ドイツ軍の。 こう言っていたか。

『米軍は必ずしも精強な軍隊では無い。 しかし、連中の学習能力の高さは脅威だ』

最初はコテンパンにやられたりもするが。 直ぐに問題を修正して、再び殴りかかってくる。 相手を叩きのめすまで。 それは柔軟性の証左か。
この国がG弾の運用を。 G元素の戦争運用の方向性を変換するとは、考えにくいが。
状況によっての戦略修正の可能性は有るかもしれない、そう言う事か。 そしてその時は、よりダイナミックにやる事だろう。

(戦術機の在り方は。 その修正の小枝の様なものか・・・)

今は平行線が続くだろう。 状況がそれを『必要としていない』
しかし、その可能性はあるのか? その可能性は見いだせるのか?

(―――正直判らない。 けど、そのホンの一端ぐらいは、覗かせて貰うとするか・・・)

幸い、9ヵ月の時間を与えられた。 ひとつ、じっくりと見てやろうか。


「・・・性急な結論は、出そうにないな。 抽象論を論じても始まらない。
今は大きく、2つの流れが存在する。 どちらを選ぶかは、都合の良い方を選べ。 そう言う事ですね? ウォーケン大尉」

「・・・日本語で言えば、『玉虫色』の解釈では有るが。 そう言う事だろうな、周防中尉」

「これはまた・・・ 日本語を良くご存じで」

「私は、コロンビア大学で東洋学を学んだよ。 士官学校を卒業した後にね」

―――やっぱり、余裕あるわ、この国は・・・

そして、その柔軟性のホンの一端を垣間見た気がした。



「ふむ。 中々に意気投合した議論のようだね。 そう思わないかね、中佐?」

「そうですな。 異なる文化同士の交流は、斯く有るべし。 ―――いや、男と女も、合さって見ねば判りませんしな?」

「君、些か以上にアメリカ的だよ。 その表現は」


―――喰えない狸親父どもめ・・・ わざと、発言しなかったな?







「・・・戦術機は、小さい方が、好き」

最後の最後まで無言だったぺトラが。 ぼそっと呟いた。

「ビゲン(JA-37)は・・・ 小さくて可愛い・・・」

・・・そう言う問題か? そうなのか? ぺトラ・・・

最も。 彼女の呟きはあまりに小声だったから、隣の俺にしか聞こえなかったようだけど・・・








「知らぬ間に、随分と一端の事を言えるようになったものだな、直衛」

時刻は0030 日付が変わって、12月25日になっていた。 ここは叔父貴が宿泊しているホテルの部屋。

あの後、場が別れて皆が帰路についた。 オーガスタとぺトラも、俺達の部屋へ帰って行った。

『久々に叔父と甥が会えたのだ。 今夜は付き合え』

叔父貴にそう言われて。俺だけ居残ったのだ。 
―――確か、1年半ほど前にも。 そうやって兄貴に酒を付き合わされた事が有ったな。 あれは大連だったか。

「あのな。 俺だって、任官して3年目だ。 2年と9カ月だよ」

「ふん。 まだまだ、ひよっ子中尉風情が、生意気に」

叔父貴はそう言って笑いながら、ボトルごとウィスキーを手渡す。 手酌で飲れってか? まあ、いいけど。

「はいはい。 大佐殿には及びもつきませんよ」

「・・・いや、少しは変わったか。 軍人の顔になってきたな、直衛。 直武の言う通りか」

―――ん? 兄貴がどうしたって?

「この馬鹿者。 ほとんど便りを寄こさなかったらしいな。 
兄貴は何も言わん人だが。 義姉さん・・・ お前の母さんが、心配しておった。 瑞希もだ。
あまり、家族に余計な心配をかけるものではないぞ?」

兄貴、と言うのは俺の親父の事だ。 瑞希と言うのは・・・姉だ。 もう、7年も前に嫁いでいて、息子と娘―――俺の、甥っ子と姪っ子がいる。

「・・・今は、ちゃんと出しているさ。 しょっちゅうと言う訳にもいかないけど、月に一度くらいはね。 で? 兄貴が何か言っていた?」

叔父貴も兄貴も、同じ海軍だ。 どこぞで顔を合わせる事くらいは有るだろう。 陸軍より狭い社会と言われているから。

「お前の『遺書』だ。 心当たりが有るだろう?」

―――あの手紙か・・・ いや、流石に今になって持ち出されるとは。

あの時は丁度、『双極作戦』終結直後だったか。 同期の美濃が戦死して。 それも同じ中隊で、目前での戦死だった。
そして、祥子とあれやこれや有った後で(あ、いや。翠華ともだけど) 我ながら少々、感情的に持て余していた時期では有ったな・・・

「いや、その・・・ 若気の至りと言うか、その・・・ 「馬鹿者」 ・・・はぁ」

一言で断じた後、無言でグラスを傾けていた叔父貴だが。 不意に俺に向きなおって、真剣な顔つきでこう言った。

「戦争なんてな。 将兵は大義名分でやれるもんじゃねぇ。 所詮、殺し合いよ、BETA相手でもな。
どうせなら、好きな女の元に帰りたい。 生きてもう一度、好きな女を抱きたい。 その為に生き抜いてやる。 
―――いいじゃねぇか、それで。 BETAなんぞ、その為のダシだ。 なあ?」

―――表情と言葉が、一致しちゃいない・・・

だけど。 それが俺の知る直邦叔父貴だった。 
今でこそ、統合軍令部のお偉いさんに収まっているようだが。 若い時分は随分暴れん坊の若手士官だったそうだ。
いや、良く親父も言っていたな―――『あいつは、昔から手の付けられん腕白坊主だった』って。


「だからな、直衛。 お前もグジグジ思い込むなよ? らしくねぇわ、お前にそんな深刻さは。
なんて言ったか・・・ ああ、綾森中尉? 綾森祥子中尉か。 いいじゃねぇか、その娘さんに弱音吐いちまえば。
大体男ってな、そう言う事じゃ、女に太刀打ち出来ないものさ・・・」

―――兄貴め。 叔父貴にばらしたか・・・


「はあ・・・ だろうな・・・ そう言や、翠華にも言えるか・・・」

「ん? 翠華? 中国人か? 女の名だな?」

―――まずっ!!

「誰だ? お前がそうそう、女の名を口にするとはな? どこの娘だ? ん? まさか、そっちも手を出したのか?」

思わぬ美味しい得物を見つけたかの如く、食いついてくる。
くそ、こうなったら最後、絶対口を割るまで追求してくるぞ。 この意外と不良な中年は・・・







「時にな、直衛。 さっきの話の続きだが・・・ お前は実際、どうなんだ? 戦術機の在り方については」

散々、昔ながらに絞られ、脅され、あれやこれやで。 祥子と翠華の事を洗い浚い吐かされた後。
脱力してぐったりしている俺に、叔父貴が話を蒸し返してきた。

「どうなんだ、って・・・ さっきも言っただろう?」

もう、何等言い返す気力も無く、ぐったりしていたので適当に流すつもりだったが・・・

「抽象論じゃ無い、現役衛士の声が聞きたい。 お前も知っている事だが、俺の専門は砲術だ。 戦術機なんぞ、門外漢さ」

「それは知っている・・・ じゃ、なんで叔父貴が関わっている?」

海軍にも、戦術機行政に関わる専門家はいるだろうに。 どうして砲術屋の叔父貴が関わっているのか、それが不思議だ。
例えば、有名ドコロでは海軍戦術機部隊の元締。 そう呼ばれる淵田大佐は確か、叔父貴の海兵同期生だったし。
性格は剣呑らしいが、有能では有るらしい、かの『厳田サーカス』の厳田大佐も同期の筈だ。
その二人なら、まだ話は判るんだが・・・

「専門家ってのはな。 なまじ自分の専門に関して言やぁ、冷静な第3者の視点を保てないもんさ。
逆に素人の方が偏見が無い分、客観的な見方が出来る事も有る。 ・・・もっとも、的外れは駄目だがな。
まあ、今回に関して言えば。 海軍じゃ、誘導弾関係は艦政本部の管轄だ。 その中の砲術屋の分野でな。
全く。 俺の専門は、艦の兵装だ。 戦術機の兵装は追浜(海軍技術開発廠・戦術機開発局)に任せておけばいいんだ。 変に縄張り争いしやがって・・・」

―――段々、話が逸れてきたぞ。 拙い、このままだと延々と愚痴に付き合わされそうだ。

「叔父貴。 戦術機ってのは、確かに各国のドクトリンが反映されているけど。 でも『主力』戦術機にはやっぱり、機動力は重要だよ」

ここは、強引にでも話を戻すのが手だ。

「ん・・・? ああ、そうか? それは、何でだ?」

「何でかって? 叔父貴は間近で見たこと有るか? あのBETAの物量! 陸の大津波だぜ!
例え米軍ご自慢の支援砲撃システムでも、完全阻止は不可能だろうね。 そうなったら、いずれ戦術機甲部隊の出番だ」

「ほう・・・? ふん、しかし米軍は機甲部隊の機動運用と、戦術機甲部隊との連携で賄える、そう踏んでいるのではないのか?」

「機甲部隊? ああ、あれは最早、支援砲撃任務にしか使えないよ。 考えてもみな? 戦車は『殆どのBETAより足が遅い』んだぜ?
懐に入り込まれたら、戦車級以上のBETAには、為す術がない」

実際、機甲部隊の戦場での役割は、戦術機甲部隊が掻き回して釣り上げたBETA群を、側面や後背からブチのめすのが仕事だ。
絶対に、BETAとの近接戦に参加して良い兵科では無い。 それならまだ、機械化歩兵装甲部隊の方が生き残る可能性が高い。


「BETAってのはさ。 こっちの思惑通りには動いてくれない。 絶対にだ。 事前の防衛計画なんか、あっという間に崩れる事は珍しくない。
そんな時に、砲撃仕様に特化した戦術機で、近接戦闘なんか出来るかい? 俺は御免こうむるね、そんな機体は・・・」

「なら、お前自身はどう考える? 今までの実戦経験から判断して」

「・・・理想は、砲撃戦能力と、近接機動力を両立した機体だけど。 無理だろうなぁ・・・」

「何故だ?」

「・・・戦艦と空母。 両方の機能を十全に備えた艦を、建造できるかい? 海軍は」

「成程な・・・」



・・・結局、叔父貴との戦術機談議(と言うより、一方的な質問)が終わったのは明け方頃だった。









1995年1月5日 ジョン・F・ケネディ国際空港


空港ロビーで、何をするともなく手持ち無沙汰にしている。
今日、叔父貴が帰国するとかで(他の訪問団は2日前に帰国した)、空港まで付き添いに来たのだ。
大の男二人、そんなにいつまでも会話のネタが有る訳じゃない。 自然、2人してぼーっと椅子に座り込んでいる。

「なぁ、直衛。 お前、いつまで国連軍に居るつもりだ?」

唐突に、叔父貴がそんな事を聞いてきた。

「・・・さぁな。 何時までだろうな。 ひょっとしたら、このままかもな」

「ん? ・・・何でだ?」

「元々・・・ 厄介払いさ、俺は。 知っているんだろう? 1年半前の『民間人虐殺事件』、 あの当時者さ、俺は・・・
陸軍としては、どこか海外の戦場でくたばって欲しい。 そうなってくれたら一番良い。 そう考えているだろうさ・・・」

「・・・なら、海軍にでも来るか? 基地戦術機甲部隊へなら、お前一人押し込めるくらいのコネは俺にも有るぞ?」

―――海軍か。 基地隊なら、陸軍部隊と同じような任務だしな。 違和感は無いかもな・・・

「・・・遠慮しておくよ。 叔父貴、その言葉だけ、受け取っておく」

「何で、そう思う?」

「さてね。 どうだろうね。 ・・・多分、裏切りたくないのかもね」

「何をだ?」

「・・・一緒に戦った戦友。 死んでいった戦友。 見殺しにした味方。 切り捨てた部下。 死を押し付けた同僚。 ・・・俺が殺した連中。 
そんな、色んなものをな。 今までの俺の行いをな、無かった事にして、素知らぬ顔はしたくないのかもな」

「本当に、似合わん事を抜かしおって。 が、それで良い。 それが判っていれば良い。
軍人なんてヤクザ稼業、それを忘れたら、只の畜生さ。 ―――判ってりゃ、それで良い」


搭乗アナウンスが開始される。 そろそろ、時間だ。

「ではな。 達者でやれ」

「ああ。 叔父貴もな」


短い言葉だけ交わして、ちょっとだけニヤリとした笑みを浮かべて。 叔父貴がそのまま搭乗口へと向かう。 一度も振り返らずに。 

その姿がゲートをくぐるまで無言でいた俺も。 見届け終わると歩き始め、ロビーを出ていった。







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