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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 国連欧州編 スコットランド2話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/28 00:28
1994年11月9日 1030 スコットランド グラスゴー北部郊外


引き続き、晴天の秋空。
一昨日の『約束』の通り、今日は朝から『お姫様』のお供で、近隣の森の奥にある湖水までやってきた。
歩いて約1時間程。 ピクニックには丁度良い行程だった。

お目当ての場所は、小さいが透き通った、綺麗な湖水を湛え、鏡のような見事な水面を映し出している。
周りは樹林が生い茂り、秋の紅葉を強めている。 そして、一旦は丘陵地帯へと続く、緑の芝の絨毯だった。


「お兄さま! ぺトラ! 爺や! 早く、早く!」

ジョゼが本当に嬉しそうにはしゃいでいる。
今日のお供は、俺とぺトラ、そしてゲオルグ爺さんだった。

「嬢さま! あんまし、急がんで下され! 年寄りには、キツイですじゃ・・・」

爺さんも流石に、息を切らしている。

「もう! 爺や、だらしないわ。 前はもっと早く、連れて行ってくれたじゃない・・・」

ジョゼが頬を膨らませて抗議する。
白い、レースのフリルがついた長袖のワンピースと、インパネスコート。 
同色のストッキング、クリームイエローの、バレエシューズ風の革靴。 
そして、やはり白色の幅広の帽子。

この子には、良く似合っていた。

俺とぺトラは、動きやすいアランセーターとウールのズボン。 爺さんはいつもの野良着。
11月のスコットランドは、日本の感覚ではもう冬だ。


「ジョゼ! あまり走りまわると危ない。 ゆっくり行こう。 湖は逃げやしないよ」

全く、元気なものだ。 
俺と爺さんとで、念の為の防寒具やら何やら一式、分担して持っている。 
ぺトラはランチと、非常食(と言っても、チョコレートやクッキーだが)

秋の天気は変わり易いし、近場でも雨に打たれたら急速に体温を奪われる。 
俺達は訓練を受けているけど、幼いジョゼや、年寄りのゲオルグ爺さんは用心に越した事は無い。


30分後、ようやくお目当ての場所に辿り着いた。

「綺麗・・・ です」

ぺトラが、ボソッと感想をこぼす。

「でしょう!? 秘密の場所なの! お母さまも、お祖母さまも、大お祖母さまも、知らないのよっ?」

目線で爺さんに確認する。 頷いている所を見ると、どうやら本当のようだ。
しかし、見た目は本当に西洋人形のような愛らしい少女だが。 以外にお転婆な面もあるのだな・・・

湖畔にジョゼとぺトラが近寄って、何やら楽しそうにしている。
余り近づきすぎないように注意してから、芝の上に寝転がった。

晴れ上がった空に、一筋の雲が流れている。 秋の、どこか朱色がかった感じの、感傷的な青空だ。
遠くで鳴いているのは、何の鳥の声だろうか・・・ 今は冬に備えて、森の動物達も忙しい事だろうな。

そんなことをぼんやり考えていたら。 急に眠くなってきた・・・



「・・・さま。 お兄さま・・・ お兄さま!!」

(うわっ!? 何だ?)

顔のすぐ近くに、ジョゼの顔が有った。
サイドで、リボンで括ったツインテールの淡いヘイゼルの髪が、俺の顔に垂れている。

「ジョゼ? ・・・ふわっ・・・ か、髪! くすぐったいって・・・!」

慌てて体を起こすと。 横に座り込んだジョゼと。 傍で昼食の用意をしているぺトラと爺さんがいた。
どうやら1時間近くも、寝こけていたらしい・・・

「もう、お昼よ? お兄さま。 すごく、気持よさそうだったから・・・ 起しちゃ、お気の毒かなって思って」

「中尉・・・ 惰眠、貪りすぎ・・・」

「はっはっは。 気持ち良さそうにしとったんでな。 そのままにしとったわい」

「・・・いや、お恥ずかしい・・・」

ジョゼの相手も。 食事の用意も。 全部ぺトラと爺さん任せにしてしまったとは・・・


「子供の頃、思い出した・・・ 楽しいです」

―――ぺトラ?

「森と、湖・・・ スオミ・・・ フィンランド、似ています」

ああ。 彼女の故郷は。 フィンランドは。 昔から、森と湖の国と言われていた。
そう言えば。 以前にユーティライネン少佐も話していたな。

「ぺトラのお家? 似ているの?」

「うん・・・ ここに、似ている。 だから・・・ 私も、好き」

「うん・・・ うんっ!」


(ああ・・・ そうか。 ぺトラにとっても。 今は『リハビリ』なのか・・・)

彼女も、北欧戦線で戦った衛士だ。 あの『白の地獄』と呼ばれた。


願わくば――― 一瞬の忘却が。 彼女の上にも有りますよう・・・










1994年11月18日 アクロイド邸


(・・・珍しいな?)

その日の書簡を手にした俺は、思わず小首を傾げた。
今まで、英国や米国からは何通来たか判らないが。 今回は日本からだ。 これは、初めてだった。

(誰だ・・・? えっと・・・ 『 Yuko Kouduki 』 ・・・『こうづき ゆうこ』? 誰だ?)

発信は・・・ 帝大か。 『応用量子物理研究室』・・・ うわ、こりゃまた。 
何とも、こ難しそうな名前だこと・・・ どこぞの、偉い学者先生か。 
レディの知り合いの女学者かな。 こ難しそうな小母さんなのだろうな・・・

などと考えながら。 書斎のドアをノックする。

「失礼します。 本日の書簡です、レディ」

「あら、有難う。 中尉。 ・・・あら? まぁ、珍しいわ、彼女から寄こすなんて・・・」

「お知り合いですか?」

「ええ。 4年前の90年にね。 少しの間、日本へ行った事が有って・・・ 学会の発表で。
そこで知り合ったのよ。 ユウコとは・・・」

「その方も、物理学者か何かで?」

「・・・ふふ。 ただの女学生さんだったわ。 でも、その頭脳は、天が与えたもうた才。 まだ、16歳だったわね・・・」

・・・ちょっと待て。 それじゃ、年齢的に俺と同年位・・・!?

「今は・・・ あら、帝大で博士号を取ったのね。 そう・・・」

まて、まて、まて! 博士号!? 20歳で!?
世の中、驚愕に満ち溢れている・・・ どんな女だ!?


俺の驚きなどどこ吹く風。 レディは全く気にせず、手紙(という範疇を超える枚数だが)を読んでいたが。
読み進むうちに、次第に表情が険しくなってきた・・・

「・・・レディ?」

「・・・なんて、こと・・・ッ! ユウコ、貴女はッ!!」

いきなり。 手紙を握りしめて、顔を手で覆い・・・ 嗚咽していた。

「―――レディ!?」








暫くして、落ち着いたが。 表情は冴えなかった。
気付けのつもりで、紅茶にブランデーを少量入れて差し出す。

「・・・ご免なさいね、取り乱して・・・」

「いえ。 それより、大丈夫ですか? 随分、ショックを受けておいででしたが?」

あの驚愕。 恐怖。 そして、嫌悪。 何をして、彼女にそうさせたのか・・・

「この手紙の差出人は・・・ 日本の帝国大学・応用量子物理研究室の・・・ 香月夕呼博士。 弱冠20歳の若さよ」

「・・・はぁ」

「専門は・・・ 広い範囲で、私と同じなの。 量子学ね。 
その縁で、学会で質問を受けて。 それ以来、お手紙の遣り取りをしているのだけれど・・・」

余程、ショックを受ける内容だったのか?

「彼女が。 研究内容についての、所見を求めてきたのよ・・・ その内容が・・・」

「・・・内容が?」

「ある意味。 悪魔的だったわ・・・」

―――悪魔的?


レディが気持ちを落ち着かせるように、カップをすする。
ひと息ついてから、これまた難解な質問を始めた。

「ねぇ、中尉。 貴方、『因果』とは何か? ご存じ?」

「い、因果ですか・・・!?」

いきなりそんな、哲学的な事。 言わないでくれ!

「えっと・・・ 東洋じゃ、『因果応報』とか・・・ 『親の因果が子に報い』とか・・・ まぁ、そんな哲学的と言うか、宗教的と言うか・・・
そんな事じゃないんですか・・・?」

―――全く、自信が無い。


「そうらしいわね。 でも、これって、私の専門分野・・・ 量子学にも、関係が有るのよ」

―――はあ・・・

「因果・・・ 因果律と言うのはね。 簡単に言えば、『過去のあらゆる事柄を原因として、未来の事象が発生する』 よ。 その逆は有り得ない」

「はぁ・・・ でもま、当然なのでは・・・?」

「そうね。 で、その『未来の事象』を発生させる『事柄』ですけど。 これは、様々に分かれるわ。
例えば・・・ そうね。 貴方が林檎を買おうとします。 そして『赤いリンゴを買った⇒美味しかった⇒満足した』と言う、未来の事象と。
『青いリンゴを買った⇒酸っぱかった⇒後悔した』 この異なる事象は。 始まりは同じで、結果が異なるわね?」

「・・・そうですね」

「これは、『シュレーディンガーの猫』と言う実証実験で明確にされた、『エヴェレットの多世界解釈』と言うのですけれど。 量子学的にね。 
つまり、複数の『事柄』は、重ね合って存在していて。 どの方向になるかは、確率的であって、決定的では無い。
つまり、因果律における未来の事象は、蓋然的(確率的)であって、必然的では無いの」

「はあ・・・??」

「それを踏まえた上でね。 量子学上では『物理的領域の、因果律閉包性』という考えが有るわ。
これはね、『どんな物理現象も、物理現象以外の一切の原因を持たない』と言う事なの」

「・・・・・」

益々、判らん・・・

「・・・つまり。 『神の奇跡など、ナンセンスだッ!』と言う、あれよ」

そう言って、クスクスと笑う。 あ、やっと表情が明るくなった。 専門の話だからかな・・・ 正直辛いが、拝聴しよう・・・


「神の奇跡など発生すれば。 閉包性を持った世界の系が崩壊するもの。 
そうなっては最早、その世界は元の世界の系では無くなる・・・
でね、またまたここで、『因果律』が関わるのよ」

―――俺がここで、この難解極まるご高説を拝聴しているのも。 何かの『因果律』のお陰と言う事だろうか・・・??

「本当に、閉じているのかしらね? ・・・ここでもう一つ。 『量子脳力学』が関わるの」

―――いや、もう。 これ以上、関わって欲しくないです・・・

「これはね。 脳の『意識』の問題に、系の持つ量子学的性質が深く関与している。 そう言う事ね」

―――今度は、脳みそですか。 俺の灰色の脳みそは、オーバーヒート寸前ですよ・・・

「あのね? 『クオリア』という言葉が有るわ。 これは『心の哲学』にも関わるのですけれど。
言わば、『意識の現象的側面』――― 体験のようなものね。 本当はもっと難解なのだけど」

―――いえ、簡潔にお願いします・・・

「現在の量子学・・・ 量子力学や、量子脳力学では。 現象的意識、若しくはクオリアは。 物理的領域には還元しない。 そう言われているの。
つまり、人の脳は全て物理的証明で、その働きの全てを実証できる。 『物理的領域の、因果律閉包性』ね」

―――はぁ・・・

「では。 ここで中尉に問題です。 これは大きな矛盾を抱えているわ。 それは、何かしら・・・?」

「はぁ!?」

い、いきなり、そんな事言われてもなぁ!!
ちょ、ちょっと待て! 頭の中を整理しろ! ええっと・・・


「た、確か・・・ 『物理的領域の、因果律閉包性』ってのは、物理現象以外の一切の原因を持たない、ってやつで・・・」

「そうね」

「で、『量子脳力学』でも、同じ事で・・・」

「今のところね」

「で、脳の働きには・・・ えっと、『現象的意識、若しくはクオリア』でしたっけ? それも一切関係なしで・・・」

「うん、うん」

「で、でも、確か・・・ 『クオリア』ってのは・・・ 体験のようなもので・・・」

「それで?」

「って事は・・・ 人間、体験や経験なんか、役に立たないというか・・・ そんな事なしでOK、って訳で・・・」

「じゃあ? どうかしら?」

「つまり、大人だろうが、子供だろうが、赤ん坊だろうが・・・ どんな状況でも、下せる判断は、同じ? 
予め、脳にプログラミング・・・? あ、あり得ない・・・!」

明らかに有り得ないぞッ!? だって、戦場で経験を積んだ将兵と、全く初陣の新兵じゃ、下せる判断が異なるっ!
その差は『経験、体験』だ! 

「つまり、それが矛盾ですか?」

「あら、あら、あら・・・ あっさり、行きつかれてしまったわね。 もう少し、苛めて差し上げたかったのに・・・」

―――ホホホ・・・

上品な笑いと共に、何とも意地の悪いセリフを・・・



「そうね。 『現象判断のパラドックス』よ。 大人の経験を、舐めて貰っては困るわ?」

―――ふぅ。 これで終わりか・・・?

「でね。 ここからが本題」

―――げぇ!!

「香月博士の専門は。 この矛盾を覆す為の『因果律量子論』と言う、ちょっと以上に専門的な分野なの。
・・・例えば。 例えばよ? 中尉。 人間そっくりの、人工の脳を備えた『何か』を作ったとするわ。
見た目も、機能も、人間と全く同じ。 プラス、ちょっとした能力も付随した、ね・・・
その『彼/彼女』は。 人と同じ判断を下せるかしら・・・?」

「・・・先程までの授業内容からですと。 『不可能』と判断します。 
『因果律閉包性』に囚われたとしたら。 『クオリア』と言ったモノが全く『蓄積が無い』からです・・・」

「正解。 これを『哲学的ゾンビ』と言うわ。 ・・・あ、別にオカルト的な意味じゃないですよ?
つまり、先程の『彼/彼女』のような存在の事ね。 人では無いわ・・・」

―――だよな? 見た目は全く同じでも。 経験も体験も無きゃ、全くの赤ん坊だし。

「・・・では、『哲学的ゾンビ』を。 『人間』にするにはどうすべきか・・・」

―――はい?

「強引な持って行き方をすればね、簡単よ。 『人間の因果を含む、クオリアを移植すればいい』 立派に、『人間類似』の存在の出来上がりね・・・」

「人の、因果を含む・・・? クオリアを、移植・・・?」

「・・・器さえあればね。 人間一人、潰せば良いのよ・・・」


―――人体実験、か・・・


「悪魔的よね・・・ その人は、もしかしたら気付かない内に『人間ではない、何か』にされるわ。 元の体は、哀れ『生物学的な死』を迎える・・・
その手法の、研究をしているのよ、彼女は・・・」








1994年11月28日 0910 アクロイド邸


あれ以来―――日本からの書簡を受け取って以来。 レディ・アルテミシアは塞ぎがちになった。
娘のミズ・シルヴィアも、母親のアクロイド夫人も、孫娘のジョゼも。 皆が心配している。

ぺトラも、レディのその様子から、何か重大な事が起こるかもしれない、そう考えたか。
以前より一層、密着しての警護を開始した。

―――俺は、なんとなく察しがついたが。


朝食が終わって、ひと息ついたその時間。
俺はジョゼに、日本の子供たちのお遊びを教えてやっていた。 
ミズ・シルヴィアは、今朝はゆっくりしていて。 俺に教わったあやとりなどしている愛娘を、微笑ましそうに眺めている。


―――不意に、レディの書斎のドアが開かれた。


「シルヴィア。 出立の用意をして頂戴。 ・・・アメリカへ行きます。 皆も一緒に」

「お母様!?」 「・・・お祖母さま・・・」

「時間は有りません。 ・・・中尉、そう言う事ですので。 国連への報告は・・・」

「・・・はっ! 了解しました。 ぺトラ・リスキ少尉。 状況『A-01-C』 秘匿回線コード、『デルタ-タンゴ-チャーリー』 至急信だ、急げ!」

「・・・了解!」


邸内が急に慌ただしくなる。

ぺトラは部屋へ戻り、秘匿回線機能付きの通信機を起動させる。

俺は、外に出て『専門チーム』へ、ハンドシグナルで合図をする。


「・・・お、お祖母さま・・・」

ジョゼの、不安に苛まれたような、泣きそうな顔が。 不憫だった・・・

















孫娘が、泣きそうな顔をしている・・・ ごめんなさいね、お祖母さまを許してね・・・

娘が、孫を抱きしめながら、私を見つめている・・・ ごめんなさい、貴女の愛しい人のお墓の傍には、これ以上居れなくなってしまって・・・

お母様。 今少し、娘の我儘をお許し願えますか・・・?



―――私は、悪魔に魂を売ろう。 どの様な謗りを受けたとて。 私は科学者にしかなれないのだ。

(―――そして、科学者など・・・ 自己の満足の為には。 他の何事も、些事以外の何物でもないわね・・・ そうでしょ? 夕呼・・・)


彼女の理論は、完成しない。
その為には。 それこそ人知を超えた『因果』・・・ 『神の御技の偶然』に、期待するしかないのだ。


そして、あの計画が。 もし彼女の理論を是とするのならば。 それは・・・



(・・・例え。 悪魔に身を売ってでも。 例え、極少数であったとしても。 私は、人類と言う『種』を。 残して見せる・・・)








1994年11月28日 ―――その日は、『グレイ・イレブン』の、より安定的使用法の方向性について、道筋が生れた日と記憶される。

『グレイ・マザー』 又は 『破滅の聖母』 バロネテス・レディ・アルテミシア・アクロイドが、米国への出立を決意した日であったのだ。









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