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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 国連欧州編 スコットランド1話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/27 00:36
1994年11月5日 0630 スコットランド・グラスゴー郊外 アクロイド邸


秋晴れの、良い天気の朝だった。
朝の清涼な空気。 肌寒い季節になったが、頭はすっきりする。
鳥のさえずり、明るい陽光。 木々はすっかり葉を落としてしまったが、緑の芝はまだ何とか残っている。
小さな小川に架かった小橋から覗き込むと、綺麗な流れがせせらぎを奏でている。


こっちに来て以来の日課である、早朝の周辺警戒を兼ねた散歩。 いや、ほとんど朝の散歩だ。
何しろ、同行者は・・・

―――ワンっ ワンっ!

「ああ、判ったってばよ、グレイ」

首輪のリードを外してやる。 途端に、嬉しそうに走り出すコリー犬のグレイ。
犬としては未だ子供の年齢だが。 それだけに返って、あれは本当に遊びたがっているな、と思える。

『対象』警護に着任して半月が経った。 今のところ、特に仕事は無い。
いや、今こうしているのだって、立派な仕事だ。 周囲を、不審者が居ないか、何か不審な点が無いか。 定常的に調べまわっているのだ。

「・・・最も。 お前はそんな事、思ってないだろうなぁ・・・」

無邪気にじゃれついてくるグレイの頭を撫でてやりながら、思わずぼやく。
この、最近図体が大きくなってきた、やんちゃ坊主の仔犬は。 俺の事、自分の従者程度にしか思っていないのじゃないか?


30分ばかり、散歩と言う名の周辺警戒を終えて、屋敷に戻る。
グラスゴー市郊外にある、瀟洒な邸宅。 昔風に言えば、ジェントリーのカントリー・ハウスか。 余り大規模なものではないが。

現在の所有者は、昔と変わらぬアクロイド家。 実は今回の警護対象が、この館の女主人である、レディ・アルテミシア・アクロイド。
バロネテス(Baronetess:女準男爵)で、デイム(Dame)の敬称を有する女性だった。

それだけで、どうして国連が警護対象とするのか?

実はこのレディ。 英国の物理学会では著名な人物だったのだ。 何やら、国連主導で行われる予定のある計画。
その英国計画案と、米国計画案の双方からプロポーズされているらしい。

最近はその為に、各国間でロビー活動の激化は当然の事。 重要人物を、拉致同然に攫って計画に協力する様に強要した、などと。
その活動が過激化している事にも、国際社会で問題視されている。

このレディ・アルテミシア自身が、英国に留まるか、米国へ渡るか。
未だ決断を下していないだけに、その身辺も些かきな臭くなることが予想された。
したがって今回、『国連が』 警護チームを出したのだ。

最も、表に出るのは俺と、ぺトラ・リスキ少尉の2人だけだが。


レディ・アルテミシアは会った限りでは、非常に母性的な、優しい印象の50代女性だった。


グレイを捕まえて、再びリードをつけ直す。 
ゆっくりと歩きながら、広大な(俺のような日本の庶民感覚では)屋敷に戻ると、玄関ホールから小さな人影が飛び出してきた。

「お兄さま! おはようっ! グレイ、良い子にしていたかしら?」

淡いヘイゼルの長い髪と、同色の瞳。 身長は俺の胸辺りも無い。
御当家の御令嬢、ジョセフィン・セシリア・アクロイド嬢。 当年8歳。
グレイがじゃれついて、顔を舐めるのに。 無邪気な笑い声で、抱きしめて笑っている。

何故か、着任当初から懐かれてしまった。 
お陰さまで本来の警護対象である、この少女の祖母、レディ・アルテミシアの直属警護はぺトラこと、ぺトラ・リスキ少尉が専任で行っている。
今の俺の任務は、仔犬のグレイの世話と、この少女のお付き役。 
そして、曾祖母に当たる『大奥様』、アクロイド夫人(レディの母親)の、昔話のお相手。

―――これって、国連軍人の任務なのか?

大いに疑問だった。

「? どうなさったの? お兄さま?」

小さな、小さなレディが不思議そうに見上げる。 
まぁ、いいか。 無邪気に懐かれるのも、悪くは無い。

「いいや? 何でも無いよ。 さ、そろそろ朝食だね。 食堂に行かないと」

グレイを、雑用女中に預けて館内に入る。
昔は100人以上の使用人を使っていたらしいが、そんな事は昔話だ。 今は10人程度の使用人しかいない。

「うんっ! ・・・あ、でも。 またキュロットジュース、飲むのはイヤ・・・」

「好き嫌いはいけないよ、ジョゼ。 大きくなれないぞ?」

「・・・ママみたいに、なれないの?」

「そう。 ジョゼがお母さんみたいになりたいと思うのだったら。 ちゃんと食べて。 よく勉強して。 よく遊んで。 よく寝る事だよ」

「うんっ! でも・・・ お勉強は、どうかなぁ・・・」

「家庭教師の、レディ・グレナムには。 『ジョゼがいっぱい勉強したがっていた』って、言っておくよ?」

「もうっ! お兄さまの意地悪っ!!」

ポカポカと、腰のあたりを叩く、その少女の頭を撫でてやりながら。 食堂の扉を開けた。

「おはよう! お母さま! お祖母さま! 大お祖母さま!」

女ばかり4世代の、アクロイド家の家族が、勢揃いしていた。











11月7日 1330 アクロイド邸


ドアをノックする。

『どうぞ』 

内から、落ち着いた女性の声が返ってきた。

「失礼します、レディ。 本日分の、英国政府、及び米国政府よりの書簡。 それから・・・ 国連より、先だっての調査報告書がまいっております」

開封されていない事を確かめ、封書を手渡す。

「申し訳無いわね、中尉。 何分、昔と違って、使用人の数も減ってしまって・・・」

「お気になさらず。 小官とリスキ少尉の任務は、レディの直接警護です。
失礼ながら、郵便物を用いたテロの可能性も、否定はできません」

「まぁ・・・? そのような事が?」

「・・・大昔。 前大戦が終了して間もない、50年代後半頃には。 毒物を封書に混入させ、時間をかけて対象を暗殺したケースも。
我々は、そのチェックも行います」

付け焼刃の知識だが、昔のKGB(ソ連国家保安委員会)や、旧東欧諸国の諜報機関の『お家芸』だったそうだ。

「・・・では、貴方やMiss・リスキが危険なのでは・・・?」

「御心配無く。 専用の検査装置を持ち込んでおりますので・・・」

半ば本当で、半ば嘘。 検査装置は本当だが、ごく簡易的なものだ。
が、そんな事は本筋じゃない。


「ご予定では、来月早々にはお決めになると伺いました。 ベルファストに行くか、ニューヨークへ行くか。
上官より、そのご予定の確認が出来次第。 至急、連絡をとの事で。 申し訳ありませんが・・・」

それによって、今後の警護スケジュールが変わってくる。

「ええ・・・ 判りました。 それまでには・・・ 「お母さま?」 ・・・あら、シルヴィア」

部屋へ入ってきたのは、レディに良く似た、妙齢の女性。
ミズ・シルヴィア・アクロイド。 レディの一人娘にして、ジョゼの母親。 娘と同じ淡いヘイゼルの髪を、アップに纏めている。

今年33歳。 85年のバトル・オブ・ブリテンで、夫君を失っている。 
今は母親の秘書をしていた。 元英国陸軍中尉の衛士。

「あら、中尉。 ご苦労様です。 ・・・そうだわ、お母さま。 明日の件ですけれども。
グラスゴーまで来て頂けるそうですわ。 お昼過ぎになると」

「そう・・・ 無理を言ってしまいましたね。 改めて、お礼申しあげておかなければ・・・」

確か、戦術機メーカーの人間と会う予定だったな。
様々な分野の専門家を、取り込んでおいたほうが開発もやり易い。 そう言ったところか。
今回は確か、サーグ社だったか。 先週は、ユーロファイタスの人間も来ていた。


「では、明日はグラスゴーですね。 スケジュールに入れておきます」

ついでに、『陰で』警護している、専門チームにも連絡を入れておかないと。

「出発は、1400時 グラスゴーへは、1430.の予定になります。 ミズ?」

「ええ。 判りましたわ。 助かります、中尉」

ミズ・シルヴィアの言葉に思わず苦笑する。 どうやら俺の任務には、『秘書見習い』も含まれたようだった。
そんな事を考えていると、部屋の扉が勢い良く開いたのに驚いてしまった。
見ると、そこには甚くご機嫌斜めの、小さなレディが・・・

「まあ! ジョゼ? はしたないですよ?」

母親に叱責されながらも、頬を膨らませて・・・ 何故、俺を睨みつけているのだ・・・?

「・・・お兄さまの、嘘つき」

―――はっ?

「ジョゼ?」 「ジョセフィン?」

母親と、祖母もまた。 不思議そうに娘を、孫娘を見る。

「今日・・・ 森の向うに、連れて行ってくれるって。 前から、お願いしていたのに・・・」

―――あ、やべ・・・

失念していた。 

森の奥に、小さいが、綺麗な風景の湖水がある。 ジョゼは前々から行きたいと言っていたのだ。
が、小さな少女一人で行かせられる訳もない。 そこで、俺に母親のミズ・シルヴィアが頼んだのだ。 ―――連れていってやってくれないか、と。

彼女も、何かと忙しい。 母親の秘書役だけでは無いようだったし。
俺も、実際の話。 それほど忙しくしている訳じゃ無かったから、つい安請け合いを・・・

―――で、本当は今朝から連れて行ってあげる約束だった。


「あ・・・ す、すまない、ジョゼ。 つい、忙しさで・・・ 「嘘つきっ! お兄さまの、嘘つきっ! キライ!」 ・・・おい!? ジョゼ!」

入ってきた時と同じ・・・ いや、それ以上の勢いで、部屋を出て行ってしまった。









拗ねて飛び出して行ったお姫様を探して、10数分。 
彼女の母親と祖母には、明日のスケジュール確認のみ済ませ、断ってから急遽『捜索』を開始した。
最も、母親と祖母には、娘が、孫娘が大方どこに居そうか辺りはつくようで。 『あそこへ行ってあげて下さいな』と、わざわざ教えてくれたが。

「え~と。 この辺りか・・・ ん?」

屋敷の裏、整えられた庭園を突っ切った先の、ちょっとした林。
見ると。 庭師(以外にも、色々雑用をしている)ジョージ爺さんが居た。
口に指を当てて。 ゼスチャーで『静かに、こっちへ来い』と。

そっと近付く。 爺さんの横まで行き、灌木の陰からそっと覗くと・・・
拗ねて、座り込んでいるジョゼと。 何故か、その横に座り込んでいるぺトラが居た。 話声が聞こえる。


「キライだもの。 嘘つきのお兄さまなんか・・・」
「約束破ったのは・・・ いけない。 でも・・・ わざとじゃ、ないね?」

「そうだけど・・・ 多分、そうだと思うけど・・・」
「覚えてたら・・・ ジョゼとの約束、守った、中尉は。 ・・・そう、思うよ」

「どうして?」
「わざと・・・ 約束、破らない人。 そう、思うよ」

「ぺトラは・・・ お兄さまと仲がいいの? 良く知っているの?」
「余り・・・知らない。 仲間になって、すぐ。 まだ、知らない、よく」

「じゃあ! どうして!? どうして、そう言うの!?」
「・・・中尉、うなされなくなった。 こっち来てから。 ジョゼと、遊んでから」

「・・・うなされない?」
「怖い夢、見なくなった、多分。 前は、見てた、と思う」

「怖い夢? どうして・・・?」
「戦場で。 怖い思い、たくさんしたから。 忘れられなく、なった。 怖い夢、見る。 あれ、怖いよ?」

「じゃ、じゃ、どうして、怖い夢を見なくなったの?」
「さっき、言った・・・ ジョゼと、遊んでいるから・・・ 多分」


―――全く、良く見てやがる。

ああ、そうか。 ぺトラの下宿は。 俺の隣室だ。 こっちに来てからも。
夜、俺ってそんなにうなされていたのか?
時々、不意に飛び起きる事が有った。 悪夢のようなモノを見た気がするが、全く覚えていないのだ、その時には。
隣室にまで、聞こえていたとはね・・・


「・・・・」
「約束、破ったの、ダメ。 でも、ジョゼの事、悪くしてないから・・・ 忙しい? だから、忘れてしまった。 ・・・ダメ?」

「楽しみにしていたの・・・ ずっと、行ってみたかったの。 連れて行ってくれるって、嬉しかったの・・・」
「うん・・・ 嬉しいね」

「お母さまも、お祖母さまも、お忙しいもの。 我儘言っちゃ、いけないんだもの。 ・・・本当に、お兄さまがいるみたいで、嬉しかったの・・・」
「兄姉、いないね。 ジョゼ、ひとりだね・・・」

「・・・すん ・・・くすん・・・」
「じゃ、わがまま、言えば・・・?」

「・・・え?」
「お兄ちゃんに、妹が、わがまま言う。 ・・・凄く、普通」

「いい、のかな? 言っても、いいの・・・?」
「いい、と思うよ? 中尉、うなされなくなった。 そのお礼、しなきゃダメ。 お兄ちゃん、妹のわがまま、聞いてあげなきゃ、ダメだね?」


―――いや、何と言うか。

ぺトラなりに、ジョゼを慰めているのだが。 彼女なりに、気を使ってくれているのだが。
何か、けしかけているぞ? おい・・・
隣のジョージ爺さんも、苦笑している。
全く・・・

ま、いつまでも盗み見では、埒もあかないだろう?


「ジョゼ?」

「お兄さま!?」 「・・・中尉?」

いきなり現れた俺を見て、ジョゼとぺトラが驚いている。 ・・・いや、ぺトラはそうは見えないが。
ぺトラに目線と軽く手振りで謝意を示して、ジョゼに歩み寄る。 そのまましゃがみこんで、彼女と視線を合わせる。

「ごめんな、約束破ってしまって・・・ でも、決してわざとじゃないんだ。 それだけは、分かって欲しいんだよ」
「・・・・・」

いまいち、お姫様は承服し難いかな?

「今度は、約束守るよ。 お礼もしなくちゃ、いけないしね」
「・・・お礼?」

「怖い夢、見なくなったしね。 そのお礼」
「・・・あっ!」

そうだな。 うん、こっちにきてから、ゆっくり眠れるようになった。 全く意識していなかった事だけど。
不慣れな仕事に、振り回されていた事だけじゃ無いな。 この幼い、無邪気で、明るく愛らしい『精神科医』のお陰かもな。


「・・・明後日」
「・・・ん?」
「明後日、連れて行って欲しいの! 約束だから! したから、もう、約束! 破っちゃ、許さないわよ! お兄さま?」

・・・一方的に、約束させられたな・・・
『明日』とは言わなかったな。 俺が、母親や祖母の仕事に付き添う事を、聞いていたのか?
だから、我儘言うのにも。 その辺は我慢したという事か。

「・・・判った。 明後日な。 朝から行こう、お弁当持って。 ・・・おい、ぺトラ。 お前さんもな?」
「中尉・・・ 私は、休日。 その日・・・」

「だから。 皆でピクニック。 悪くないだろう?」
「ぺトラも? 一緒に行くのね?」

珍しく、ぺトラの目が泳いでいる。 が、確定と観念したようだ。

「・・・了解」


ジョゼが嬉しそうにはしゃぎながら、ぺトラの手を引いて屋敷へ戻って行く。 ぺトラの方はいささか困惑気味だが。
そんな2人の姿を見送っていると、ジョージ爺さんに話しかけられた。

「済まんね、お若いの。 嬢さまは、ここじゃ、周りは大人ばかりでの。 なに、お前さんらが大人じゃ無いって訳じゃない。
比較的、年が近い・・・ 甘えられる年だっちゅう事じゃで」

「まあ・・・ 確かに、周りは大人ばかりだな。 あの年頃の子どもには、遊び友達とか、色んな友達がいて当然なんだけどな・・・」

「奥様(レディ・アルテミシア)や、シルヴィア嬢さまも、ご心配なさっとるよ。
お仕事の関係上、嬢さまが学校へ通う環境で無くなってしまっての・・・
大奥様(アクロイド夫人)は、曾孫娘の嬢さまを、可愛がっておいでだからの、嬉しそうじゃが・・・」

先月、著名な生体工学研究者の一家が、何者かに拉致された。
後日解放されたが、その間、研究内容についての詳細な尋問攻めにあったという。
その研究者は、家族の身の危険を懸念して、今後の研究を断念したと言う。

ジョゼが学校へ行かず、家庭教師からマンツーマンで教育を受けているのは。 何も英国上流階級の習いでは無かった。

レディ・アルテミシアの専門は、物理学の中でも量子力学(量子工学)だそうだ。
(一度聞いたが。 俺には全く、理解の範疇外だ。 あと、量子物理学、と言うのも有るらしい)

様々な分野で、応用が効くらしい。 例えば、一瞬で膨大かつ難解な数式を演算してしまう、量子コンピューターとか。
その中でも特に、『量子重力理論』とやらの先駆者らしい。 これが完成すれば、『一般相対理論と、量子工学の統一理論になる』とか何とか。

この理論は、例の国連計画のなかでも、英国案と米国案の双方が『狙って』いるらしい。
英国としては、自国案を採用する為にどうしても国内参加させたい。
米国は、英国内居住の危険性(何しろ、BETAのひしめくユーラシアの目と鼻の先だ)を仄めかせ、自国への移住を迫る。

国連常任理事国のこの2国の、エスカレートを見かねた国連事務総局が。 国連欧州本部に指示を出して『警護』させたのだ。


「俺の任務は、レディの警護ですよ。 
その範囲には、彼女の安全を維持する為の『関係者の保護』も含まれる。
ジョゼのお守役も、その一つだね」


「・・・良い、若者じゃの、お前さんは。 ああ、このまま立ち話も何じゃな。 
どうじゃ? 儂の家に来んかの? なに、お屋敷の敷地内じゃて。 コーヒーの一杯も馳走しよう」









ジョージ爺さんの『家』は。 屋敷の敷地内の外れにある、小さな一軒家だった。

「ま、どうじゃ、一杯。 美味いぞ」

コーヒーを淹れてくれる。 驚いた事に、天然モノだ。

「なに、大奥様からの、下さりモノじゃて。 儂はこっちを飲むがの。 大奥様方は、もっぱらお茶での」

―――こんな、みすぼらしい爺にゃ、勿体ないがの。

そう笑う爺さんを見つつ、さっきから疑問に思っていた事を聞く。

「爺さん。 あんた、生粋の英国人じゃないね?」

「ほう? 何故じゃ?」

「はっきり、確信持てないけど・・・ 発音がさ。 今まで耳にした英国人の発音と、少し違う。
どこかよその言葉の影響が有るみたいだよ」

―――そう、例えば・・・

「ほう? 例えば?」

「例えば。 ドイツ語、だな。 俺の前の部隊長が、ドイツ人だった。 彼の話す英語の発音に、どことなく似ている」

確信的ではないが。 でも、アルトマイエル大尉の英語と。 例えばフランス人のオベール中尉の英語、イタリア人のファビオの英語。
どことなく、感じが違う気がした。 俺の英語の発音が一番下手糞だと、笑われたけどね・・・


「ほう・・・? 耳が良いな。 ふむ。 その通り、儂はドイツ出身じゃよ。
今は、『ジョージ・アルバート』と名乗っておるがね。 元の名は『ゲオルグ・アルベルト』じゃよ」

ゲオルグ・アルベルト―――英語で発音すれば、ジョージ・アルバート。 

「・・・ちょいと、年寄りの昔話に、付き合ってくれんかね?」



それから暫く、ジョージ・・・いや、ゲオルグ爺さんの昔話、いや、身の上話語りを聞いた。

ゲオルグは1920年、第1次世界大戦敗北直後の、ドイツ・バイエルン州の州都・ミュンヘンで生まれたそうだ。
子供の時は、ひもじい記憶しかなかったらしい。 敗戦国ドイツは、膨大な賠償金を課せられ、国内は超々インフレに陥っていた。
13歳の時、かのナチス党が政権第1党を獲得。 当時、ナチスの地盤だったバイエルン地方は興奮したという。 ゲオルグ少年もまた、同じだった。

18歳の時、志願入隊で国防軍(陸軍)入隊。 翌年、陸軍一等兵としてポーランド戦に参加。 第2次世界大戦の勃発だった。
1940年には西方電撃戦にも参加。 ダンケルクの手前まで進撃したという。

「あの時、何でまた進撃中止したのかねぇ・・・?」

今でも、悔しいそうだ。

フランス占領後、暫く部隊はフランスに留まる。 装甲擲弾兵科(今で言う、機械化歩兵装甲部隊か)へ転科して、1941年夏に東部戦線に参加。
以来、かのマンシュタイン将軍指揮下の部隊で、各地を転戦したそうだ。
モスクワ前面の冬、セヴァストポリの酷暑、そしてヴォルガ河の『死の白色』

「ロシアの冬と言うのはの、地獄じゃよ。 生者も死者も問わずに、凍らせるんじゃよ・・・
突っ立ったまま、厳寒に脳髄が生きたまま凍りついて死におった『人間つらら』が、あちこちに突っ立っておったわい・・・」


1944年初頭、その地獄の東部戦線から生還した爺さんが。 次に配属された先は・・・ ノルマンディだったそうだ。
あの『ブラッディ・オマハ』(血まみれのオマハ)と呼ばれた、オハマ・ビーチに展開していた独第352歩兵師団だった。

「あんときゃ、正直生きた心地はしなかったわい・・・ ロシア人の砲撃っちゅうものは、凄まじいがの。
アメリカ人の航空攻撃と、戦艦からの砲撃は・・・ あれ以上じゃったよ」


奮戦したが結局、敗れた。 爺さんはそこで捕虜となり、英国本土へ移送されたそうだ。
こうして。 足かけ5年に渡った、独帝国陸軍ゲオルグ・アルベルト上級曹長の戦争は、終わった。

「戦争は終わったがの・・・ またまた、負けじゃよ。 国に帰っても、子供のころと同じ、ひもじい思いかと思えば、泣けてきての」


まあ、そりゃね。 でも当時、爺さんは25歳か。 働き盛りなのだから、国で頑張れば良かったのじゃないのか?
また、どうして英国に残留したのか?

「はっはっは・・・ なに、簡単じゃよ。 こっちで恋仲の娘が出来ての・・・ で、その娘は元々、このお屋敷で働いておっての。
儂も、ご厄介になる事になったんじゃよ。 46年の事じゃ。 それ以来、48年間。 ここで働いておる」

お嬢さま(レディ・アルテミシア)も、シルヴィア嬢さまも、ジョセフィン嬢さまも。
儂が、赤子の頃や、お小さい頃に、あやして差し上げたものじゃて。

―――1946年・・・ レディ・アルテミシアでさえ、未だ6歳だものな・・・


「女房は、14年前にポックリ逝ってしまっての。 まだ、54歳じゃったよ。
倅が2人おったがの。 2人とも、BETAとの戦争で、戦死しおったわい。 
孫もおらん。 気楽に、天涯孤独じゃわい」

―――ミュンヘンも、どうなった事やら・・・

爺さんの故郷が、BETA勢力下にはいって久しい。 もう、元の姿は留めていない事だろう。

―――最も、44年以降、帰っておらんかったがの。

そう言って、笑う。


「・・・で? どうして俺に、この話を?」

単に、昔話をしたかった訳じゃあるまい?

「ん・・・ お前さん、目がの。 昔の戦友たちに、そっくりじゃて」

「・・・はあ!?」

「儂も、そうじゃったよ・・・ BETAとの戦争がどんなものかは知らんがの」

爺さんの目が、何か遠くを見るような目に変わる。

「・・・無数に飛び交う砲弾。 機関砲弾で体をまっぷだつにされて死ぬ奴。 直撃で肉片すら止めなかった奴。 火炎放射器の炎で、生きながらに焼かれて死んだ奴。

酷暑の最中、傷口が化膿して、蛆を沸かして苦しみながら死んだ奴。 極寒の中、両手両足が、凍傷で腐りおって、その毒で死んだ奴。
戦車にひかれて、頭を潰された奴。 銃剣で滅多刺しになって殺された奴。 ・・・気がふれて、口に咥えたトリガーを引いた奴。

―――無数の死に方を見てきたわい。 無数の死者を見たわい。 何百人、殺したか判らん・・・」

爺さんの独り言が続いた。

「最初はの。 怖さで引き金を引く。 何が何だか、判らんかったのぉ・・・
やがて、慣れてきたら。 何かしら、理由を探したもんじゃ。 
愛国心でも良い、仲間の為でも良い、敵への憎悪でも良い。 後ろめたさかの・・・
じゃがの、それが過ぎるとの・・・」

「過ぎると・・・?」

「堪らなく、面白くなったわい。 敵を倒す事が。 敵を殺す事が」

「・・・ッ!!」

「麻痺した、異常な日常じゃの。 殺し合いが、日常なんじゃよ。 朝起きて、飯を食うのと同じじゃよ。 お互い、顔の判る距離での。
相手の恐怖に強張る顔や、必死に逃げようとする顔がの。 丸見えなんじゃよ。 その顔を、死人の顔に変えていったわい・・・」

―――楽しむ?

「ま、それもつかの間じゃ。 最後には、何も感じなくなったわい。 敵がいるから、引き金を引く。 そこに心の在り方は無かったの。
ほれ、有名な登山家の言葉が有ったの? 『そこに山が有るから』 山に登ると。 それと、同じじゃよ」

「どうして、俺に・・・」

「言ったじゃろ? お前さん、昔の儂らにそっくりの目じゃ。 そうさの・・・ 慣れて、理由を探しておる目じゃのぉ・・・」

「俺も、殺しを楽しむようになる、と・・・?」

「さぁての? BETAは人間とは違うからのぉ・・・ そこら辺は、判らんわい。
じゃがの、こんな儂でも・・・ 儂らでも。 唯一の答えは、持っておったもんじゃて」

―――唯一の答え?

「自分が生きて帰る為にはの。 仲間を守らねばならんて。 仲間を守ればの、自分も守られる事が判るもんじゃて。
仲間の為に戦えばの。 仲間は自分の為に戦うもんじゃて。 それがつまり、生き延びる事じゃて」

―――それは、知っている・・・

「自分の気弱はの、仲間にも伝染するもんじゃて。 それが上のモンなら、テキメンじゃ。 部隊が壊滅しよる。
自分が怖い時にはの、仲間も怖いもんじゃて。 お互い、怖さを助け合っていったもんじゃて・・・」

―――怖さを、助け合う・・・?

「そうじゃろ? 人間一人なんぞ、大したモンじゃないわ。 小さいものよ。 それでも、仲間と大勢で助け合っていけばの。
窮地も、死地も、突破出来たもんじゃて。 儂はの、そうやって、地獄のロシアから帰って来たものよ」

―――大勢で。 助け合って。 人一人は、小さなものだ・・・

「自分の心に、慄いた時もの。 仲間がいれば、我慢出来たもんじゃて。 まっこと、仲間は大切なモノじゃての・・・」






2200 アクロイド邸 客間


昼間の、ゲオルグ爺さんの話を思い返していた。
話の中身には、特に驚かなかった。 俺自身、無数の無残な死を見てきたからだ。

だけど、一つだけ引っかかった事・・・

―――大勢で助け合っていけばの
―――仲間がいれば、我慢出来たもんじゃて

「・・・俺は。 詰まる所、独りでジタバタしていただけか」

結局、最後の最後で、仲間を信用していなかったという事か?
独りで抱え込んで。 それで潰れそうになって。 
人なんて、小さなものだ。 戦場の巨大な理不尽さの前には。
あの時。 シチリア島で感じた虚脱感。 あれは、そう言う事か?


「はは・・・ 馬鹿の見本だな・・・」

仲間の手は、差し伸べられていたのに。 曲がりなりにも、一つの答えは眼の前に有ったのに。
それに気付かず、それを見ようとせず。

「全く・・・ ごめんな、みんな・・・」



―――今度は。 少しはまともな馬鹿になって戻るからさ。 それで、勘弁してくれよ・・・
















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