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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 北満洲編3話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:e178b4cc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/04/04 22:33
1992年 6月28日 中華人民共和国黒竜江省 北安(ペイアン)南方15km



2機のF-4EJ「撃震」が匍匐飛行(NOE)で編隊を組み飛行している。

『今~日も飛ぶ飛ぶ 霞ケ浦にゃ でっかい希~望の 雲が湧く~ っと。』

前方を匍匐飛行(NOE)するリード(長機)から、実に怪しげな歌声が聞こえる。
この哨戒が始まってから既に1時間。 実にその8割は「彼」のオンステージだった。
に、しても・・・

「02より01。何歌ってんですか・・・ 真面目に哨戒して下さいよ・・・」

無駄だとは分かっている。 分かってはいるんだけど、言わずにはおかれない。

『んあっ!?何って、何や?知らんのか? 「予科練の歌」ちゅ~曲やで。一応軍歌や。
軍人が軍歌、歌って悪いんかい?』

ああ言えば、こう言う・・・全く・・・

「歌うな、とは申しません。
ですが、今は対BETA哨戒行動中です。ちょっと位は真面目に・・・ 
それに、その歌、海軍さんの歌ですよ。俺達、陸軍ですよ・・・」

『何や、知っとったんかい。 まぁ、ええがな。そんなん、哨戒中ずぅ~っと、気ぃ張ってても持たへんって。 
それにや、この界隈はあっちゃこっちゃの部隊が重複行動しとるさかいな。 
ワシらが見落としても、余所さんが見つけてくれよるわ。 
ワシらの本命は、あくまで北安北方区域やからなぁ。 
ま、それは次の哨戒3直に任せまひょ。』

あくまで能天気な、いや。脳にBETAが湧いているかの如くの我がリードは、そうのたまった。

「はぁ・・・ まぁ、もうどうでいいっすよ・・・ 10秒後、変針点。方位265。」

『よ~そろ~。』

「そのセリフも、海軍さんですよ・・・」


日本帝国大陸派遣 第3機甲軍団所属の哨戒戦術機甲編隊2機は、緩やかな弧を描いて旋回していく。

右手遥かに忌わしきH19・ブラゴエスチェンスク・ハイブがある筈だ。

いつか必ず、一掃してやる。 
エレメント02の衛士は、未だ少年の面影の残る顔を微かに歪め、小さく呟いた。





1992年 6月28日1525 中華人民共和国黒竜江省 依安基地 仮設将校用PX


「それは、災難だったわね。」
 
くすくす、と噛みしめるように笑っているのが、目の前にいる先任女性衛士の綾森祥子少尉。

「あれは、地獄だよぉ~。もういらないよぉ~・・・」
 
前回の犠牲者で、思い出してもうんざりするのか、げんなりした顔は、隣の同期の女性衛士である伊達愛姫少尉。

「私はまだ聞いたことないけど・・・そんなに酷いの?」
 
やや幼さの残る小顔を傾げて見せるのが、斜め前の先任女性衛士の三瀬麻衣子少尉。

場所は再建途上の依安基地の仮設PX兼MH(Post Exchange:売店Mess Holl:食堂)。
以前の5割増しの規模で急造設置された、巨大な「プレハブ」だ。

俺、こと、日本帝国陸軍衛士少尉の周防直衛は、哨戒任務後の遅めの昼食をとっていた。
そこにやってきたのが、すでに哨戒シフトを終了していた3名の同部隊所属の女性衛士達。

彼女たちは機体の調整チェックを終えて、「おやつタイム」だとか。
で、いつの間にか、我がお脳の香ばしきリード(長機)衛士の話題になったのだが。

「別に、下手とかじゃないんですけど。ただその歌ってのが、もう何十年も前の、マイナーだか、マニアックだかの歌ばっかりで。」

「そうそう。突っ込めば、ボケ倒された揚句に、また始まるし。ほっとけばいつまでもエンドレスだし・・・ 延々聞かされちゃうんですよぉ~~・・・グスッ。」

愛姫が泣き真似をしている。う~ん、お前もこの苦労、分かってくれるか、同志よ。

最後に残していた饅頭(まんじゅう、ではない。マントウ、である)を頬張る。 
うん、ウマい。 

愛姫が、俺を、じぃ~~っと、見ている。 

「やらんぞ?」
「ケチ」

まだ何か食うつもりか、この暴食娘。

実際、こいつの胃袋は底無しだ。下手したら、優に2人前を毎食食う。信じられるか?
身長で160cmに満たないのに、だ。 全く・・・

「ま、まぁ、今度、木伏中尉とエレメント組む事があったら、心構えしておくわ。」(祥子さん)

「そうね。耳栓でも持って行こうかしら?」(三瀬少尉)

「それじゃ、指示が聞こえませんよ・・・」(俺)

「あはは。」(愛姫)




先月の地獄のようなBETA襲撃より1ヶ月程経った。 

方面軍は戦力回復に躍起になっているところだった。
何しろ、満洲全域から投入できる戦力を根こそぎ投入しての、近年にない大規模防衛戦だった。
予備戦力は底をついた。

結果、北満洲・南満州の2個方面軍を統合。
新たに「東アジア統合軍 満洲・沿海州方面軍(軍集団)」に再編。

中国軍の戦略予備兵力、韓国軍の即応第2戦力、極東国連軍第28軍団、大東亜連合北方派遣軍団、ソ連軍沿海州第221軍団、等を統括。

我が帝国軍も、壊滅した前の部隊・第21師団の後釜として、九州の第23師団(熊本)を。
戦力半減となった第16師団、第19師団の後釜に、新設の第52師団(金沢)、第54師団(姫路)を。
機動打撃予備として、独立混成機動第108、第112、第116、第119、第120の5個機動旅団を送り込んできた。

俺達、第22中隊の生き残り5名は、独混(独立混成機動旅団)第119の第2戦術機甲大隊(独混は5個戦術機甲大隊と、3個機甲大隊基幹)
その第23中隊(第2大隊第3中隊)の補充要員として再配属になった。

と言っても、この第2大隊自体が、部隊壊滅であぶれた連中の寄せ集めなんだけど・・・

因みに木伏一平、水嶋美弥の両先任衛士は、6月1日付で中尉に進級し、現在は第23中隊の第2、第3小隊長をしている。(ハッキリ言って、不安だ)

ま、これは先月の激戦を戦い抜いた戦功、という部分もあるけど。
それによって士官序列が上がったのだろう。
中尉達の同期では、一番早い組で、4月1日に中尉に進級しているし。

で、結果。 両中尉は張り切っちゃたりしている訳だ。

特に木伏中尉は、3週間の初級指揮幕僚課程が余程苦痛(或いは退屈)だったのか、先日部隊に復帰して以降、頭の中がブーストしっぱなしだった。 

俺は本気でポジション変更を、中隊長に請願しようかと思っているほどだ。

因みに同じ中隊には、先月の激戦の最後で共に戦った、三瀬麻衣子少尉、源雅人少尉、腐れ縁の同期・長門圭介少尉もいる。

「じゃ、私はちょっと失礼するわね。」 

三瀬少尉が席を立つ。

「逢引きですかぁ~?」「えっ!?源君と?」

「・・・・・愛姫ちゃん? 祥子?・・・・」
 
こ、怖い。満面の笑顔に、眼の底が恐ろしいまでに底光りしている。

「ゴメンナサイ」 

声を震わせ、ゴメンナサイする二人。 
う~ん、この手の人は、怒らさないのが生き残るコツだな。気を付けよう。

「・・・ふぅ。単に中隊の当直交代よ。全く・・・」

「あ、あはは・・」
「ご、ごめんね?麻衣子。」

そう言えばそろそろ1600。午後の2直目か。俺、今日は非直だっけ。

じゃぁ、と三瀬少尉はPXを後にする。

「んじゃ、あたしもそろそろ・・・」
 
愛姫も席を立ちあがる。

「また、暴食の旅か?」
「晩御飯、没収!」
「何ぃ!?」

こいつはやるったら、やる。やってのける。特に「食」が絡むと。

「整備班長と、挙動システムの微調整の打ちあわせだよっ!」

「お前、見境なくぶん回すからなぁ。
システムのフィードバックが追い付かないのもさる事ながら、フレームの金属疲労もなぁ・・・」

「あんたがゆうな。」

「突撃前衛に、転職するか?」

「直衛菌に感染するから、ヤダ。」

「てめっ」

はたから見ても騒がしいやり取りをして、愛姫もPXから出ていく。

残った祥子さんを見ると、あれ?何故かじっとこっちを見ている。

「えっと?祥子さんは?この後は?」
 
我ながら、微妙に情けないセリフだ・・・

「・・・えっ?」 
「・・・・はい?」
 
祥子さんの顔にはちょっぴり失望と、半分驚きと、半分(軽い)お怒りの色。
俺の声色は、モロに焦りの色。

「・・・忘れたんだ。そっか、忘れたのね・・・そうなんだ・・・」

「えっ!?えっと!?」

「そっかぁ・・・ 直衛君にとって、私との約束って、その程度だったのね・・・ふぅ・・」

「そのっ!あ、あのですねっ!・・・・・す、すみませんっ!!・・・・ナンダッタデショウ・・・?」

恥も外聞もない。最早埴輪の顔になっている俺。
周りにいた通信科の将校(女性だ)達が聞き耳を立てて笑っている。くっそぉ~・・・

むっ、と眉間に小さく皺をよせて(これ、ヤバいんだ)胸を張りながら腕を組む祥子さん。
あ、結構胸大きいな。全体的なスタイルも良いもんな。
あ、やべ。強化装備姿が脳裏をよぎる。

「? ・・・ちょっと来なさい。」
「ってて、ちょ、ちょっと? さ、祥・・・綾森少尉!?」

耳を掴まれて引きずられていく、情けない俺。その姿を目撃した連中によって、あらぬ噂をまき散らされようとは・・・ 

『23中の周防は、女房の尻に敷かれてるってさ。』

おい、誰が女房だ、誰が・・・ まぁ、その、将来的には、その、何だな・・・




<<状況開始>>

「くっ!」
突如、何もなかった場所からBETAが飛び出してきた。 スリーパー・ドラフトだ。 
距離約800 個体数、大小合わせて・・・1000か。

『01より02! 早く前進しないと! 後ろから要撃級多数!!』 
01が後方500のBETA群に向け、ALMを発射する。

「02より01! 前方800にスリーパー・ドラフト! BETA1000!
駄目だ! 完全に挟撃された!」

迫りくる戦車級に、36mmの雨をお見舞いする。 ひしゃげ飛ぶBETA群。
が、数が減る様子は全くない。
それどころか、徐々に増えていっている気がする。

「もう前進は不可能だ!
前方との距離が有るうちに、全ALMを後ろに叩き込んで退路を確保しましょう!
一旦引きべきだっ!」

バックステップ‐水平跳躍移動で要撃級の側面に出る。120mmを連射。
うまい具合に2体にずれて命中した。

『でもっ!ようやく第3層まできたのにっ!』

01が支援突撃砲で、後方からの要撃級に大穴をあける。

「無駄ですよっ!
このままじゃ、前後から挟まれて終わりだっ!
後退しますよっ!?」

『・・・・くっ!』

「01!?・・・・・お、おわあぁぁぁ!!」

気がつくと、要撃級2体に左右から挟撃されていた。
後ろは01がいる。 
つまりは、逃げ場がない。

「くっそぉぉぉ!!」 

120mmを連射する。 が、上腕に阻まれて有効打を与えられない。
次の瞬間、他の1体に上腕でコクピットをぶち抜かれた・・・

『02!?・・・えっ?・・きっ、きゃあぁぁ!』

<<状況終了>>





1992年 6月28日1715 中華人民共和国黒竜江省 依安基地 シュミレーターデッキ


『仮想戦闘プログラム・ヴォールク08 終了』


「ふぅ・・・」 網膜スクリーンに映し出されたメッセージを見て、息をつく。

やっぱりヴォールク・データは凄まじい。
今日のはステージ08。つまりは上層部10層までの到達を目的としたものだが。

それに難易度はレベルB+。兵站・通信は完全充足状態だったんだけどな・・・ 
結局・第3層でやられてしまった。

ヴォールク連隊は中階層まで到達したんだよな・・・ 情けない。


「よっ、お疲れさん。」

コクピットから出ると、整備大隊の下士官が声をかけてきた。

草場信一郎陸軍軍曹。23歳。独混119整備大隊の基幹要員だ。

「しっかしまぁ、いくらステージ08、レベルB+ってもよ。
たったの2機で突っ込むのは、どうかと思うぜ?」

呆れた顔でステージデータのチェックをしながら、草場軍曹は言った。

確かにそうだ。
本来なら、中隊規模の戦力でようやくどうか、と言ったところだろう。
それをエレメント(2機編成)だけでなんて、まるで・・・

「相方が女性衛士、ってとこがミソだな? 心中の練習か?え?」

「うるせぇなぁ・・・ 先任命令なんだよ。しょうがないだろ・・・」

「ふぅ~ん? 命令? ほぉ~~お?」 

くっそ、明らかに馬鹿にしてやがる・・・

「何だよ?信兄。その口調は・・・」

「いや?何も? ふぅ~~ん、命令ねぇ? 
俺ぁてっきり、お前に春が来たものとばかり・・・」

「・・・信兄・・・」

「ははは、そう睨むな。
ま、エレメントでやったにしちゃ、良いデータ出してたぜ? ホント。」

ふぅ。何言っても無駄か。 ま、ここで再会したのが運のつきか・・・

草場軍曹は、実は単なる士官・下士官の付き合いではない。
横浜にいた頃に実家が近所で、良く面倒を見てもらっていた兄貴分だった。

稼業が町工場で、徴兵された時に真っ先に整備練習生の課程に放り込まれ。
なんだかんだで、今や整備下士官に納まっている。

そうこうしている内に、隣のシュミレーターから01・綾森祥子少尉が出てきた。 
大分疲労しているようだ。

「お疲れ様です。綾森少尉。」

一応、「公」の場だ。俺とて場は弁える。

「お疲れ様。周防少尉。 
付き合わせてごめんなさい、草場軍曹。」

「いえいえ。美人の御指名なら何時如何様にでも。」 

「・・・・ちくってやる・・・」 
「・・・!?」

俺と信兄との間に、眼に見えぬ火花が一瞬飛ぶ。 
が、祥子さんには何の事か解らない、らしい(当然だ)

「あ・・・と。じゃあ、私たちはこれからシュミレートデータチェックするから・・・ 
軍曹、お疲れ様でした。」

「はっ!お疲れ様です。少尉殿!」 

あくまで、あくまで祥子さんの方にだけ向いて、敬礼しやがる。コンチクショウ。

一応、答礼を送ってシュミレーターデッキを出る。
ドレスルームに隣接したベンチに腰掛け、ふぅ、と息をつく。

「ごめんね。わがまま言って付き合わせちゃって。」

祥子さんがパックの栄養ドリンクを両手に持って、俺に渡しながら言った。

「いや。別に気にしてもいませんけど。丁度いい訓練になったし。」

丁度いいかは疑問だが。
でも、ここのところ哨戒任務が多く、戦闘訓練は少々滞りがちだったし。

「でも、いきなりエレメントで、<ヴォールク・データ>は驚きましたけど?」

「あう・・・ ご、ごめんなさい・・・」

「何でまた?」

「え・・・と・・・」

「何で?」

「・・・・二人だけで・・・」

「・・はい?」

「二人だけで出来るのが、今、調整済のデータで、ヴォールクだけだったのよ・・・」

本当は、低難易度の地上走破データとかが良かったんだけど・・・ だと。はぁ・・・
それってつまり、ピクニックだな・・・



PXから引き出されて連行された先が、シュミレータールームだった。

つまりこうだ。

新中隊になってから、幾度か初顔合わせ同士で組んでシュミレーターをしていた。
お互いの技量・癖・意思の疎通なんかの確認の為だ。 

うちの中隊は、旧22中隊の5人組以外では、全員がばらばらの部隊から集結している。
自然、彼ら初対面組と組んでの訓練が多くなった。 

逆に旧22中隊組のメンツとは殆ど組んで訓練していない状況で。

そんな状況で、3日ほど前にPXで祥子さんがムクレていたんだよな。 

普段なら、そんな感情出す人じゃないけど、先月に逝った佐伯郁美中尉(戦死後1階級特進)の事があって、
まだちょっと精神的に不安定なのかもと思い、誘ってみた訳だ。

『じゃ、次のシュミレーター訓練で、ペア組んでやりましょうか。』 って。

いや、本当に軽い気持ちで言ったんだけどさ。
まさかあんなに嬉しそうにするとは・・・

で、本日。 その約束を失念しておりました。ハイ・・・・


「それなのに、忘れてたなんて・・・ 酷いよ・・・」

「はうっ・・・ すっ、すみませんっ! ここんとこ、忙しくて、つい・・・」

「・・・・つい?」

「あうあうあう・・・」





「何をしているんだ? 貴様等・・・・?」 

中隊長だった・・・・






1992年 6月28日1918 中華人民共和国黒竜江省 依安基地 仮設将校用PX


「それは、貴様が悪い。」

まるで地獄の閻魔様が、亡者の罪状を下すかの如く、即答して頂いているのは、我らが中隊長・広江直美大尉である。

一時期、富士教導団にも所属していたとか言う女傑である。見た目も裏切らない。 

女性にしては長身の178cm。剣道は確か四段で、柔道が三段、銃剣術が四段の猛者。
格闘訓練では散々ボコボコにされたしまった。

胸の隆起は、果たして乳房か筋肉か。 
何しろ、強化装備になった時、腹筋が割れていたぞ・・・

「はぁ・・・」 迂闊な答えは命取りだ。取り敢えずは当たらず触らず・・・

「そうですよねぇ。周防少尉って、優しいんだか、優柔不断何だか、ちょっと解りませんよねぇ。」

と、のたまって下さっていやがるのは、第1小隊の和泉紗雪少尉。
因みに1期先任。

「何事も、誠実にね?」
 
何故に苦笑ですか? 柏崎中尉。 
あ、因みにCP将校の柏崎千華子中尉。3期先任。

うんうん、と相槌を打っている人は、ご存じ爆弾トーク魔・第3小隊長・水嶋美弥中尉。
2期先任。

「でも。この鈍感にそんな高度な技を求めても、失敗は目に見えてますよぉ。」

けたけたけた、と、失礼極まるセリフを吐きやがるのが、同期で第3小隊の伊達愛姫少尉。

「うるせぇ!」 

すぱーんっ!と良い音がする。 
ん? 愛姫の頭を叩いたんだが。

「・・・いったぁ~~~! 何すんのよぅ!」 

あ、ちょっと涙目。
いやいや、こいつの泣きの演技はかなりのモノだ。騙されんぞ。

「あ、あの。周防君。いくら同期でも、相手は女の子なんだし・・・」

おろおろと、取り成そうとしているのが、第1小隊の美濃楓少尉。因みに同期生だ。
見た目も性格も、小動物のような可愛らしさと言うか・・・ よく衛士になったなぁ・・

「愛姫との阿吽の呼吸を、他でも実践すれば良いのではないか? 
貴様と愛姫とのやり取りは、まるで長年連れ添った者同士のようにぴったりだが?」

真顔で、恐ろしい事をほざきやがったのは、同じ小隊の神楽緋色少尉。
同期生。因みに女。

んで、結構な家格の武家の出だったりする。 
何で斯衛ではなくて陸軍なのか? 

答えは「双子の姉が、すでに斯衛に在籍している。」からだそうだが・・・

にしたって、確か山吹だろ?こいつの家の家格は。
蒼は論外、赤は別格としてだ。 実質、名家・名門って言ったら、普通は山吹だぞ? 
勿体ない・・・

「そうねぇ・・・ あの娘も奥手なとこあるから。
本当は相手の男性に積極性が有ればいいのだけれど・・・」 

スミマセン、何気に憐れむような表情が厳しいです。三瀬麻衣子少尉。
因みに1期先任。

つまり、今現在俺は、祥子さんを除く中隊の全女性衛士+女性CPに囲まれている訳だ。
何? 羨ましいって? 代わってやる。 全力で代わってやるぞ? 遠慮は要らない。

「ん?何独り言を言っている?周防?」

「は、いえ。なんでもありません。大尉。」

「ふむ。まあいい・・・ 
兎に角だ、私としては部下のバイタルケアも考慮せねばならん。
綾森が不安定気味なのは、データで確認しているし、その原因も把握しているつもりだ。
その不安定要素を取り除く要因が貴様にあるのなら・・・」

「・・・・あるのなら・・・?」

「抱け。」

「・・・はっ?」

「抱け。」

「えっと・・・」

「同衾しろ、と言っている。」

「あ、あの・・・」

「むっ・・・解りにくいか? では・・・・男と女の関係になれ。」

「あうあうあう・・・」



「つ~まぁ~りぃ~、ぶっちゃけSEXしちゃえ、ってことよん。」
「ま、見て見ぬふりするからさ、夜這いかけちゃえっ!」
「あ、祥子さんの部屋のロック解除コード、教えたげよっか?」

水嶋中尉に、和泉少尉に、愛姫だった・・・ こ、こいつら・・・


「まぁ・・・」 

三瀬少尉。そんな、BETAを見るような眼で、見ないでください・・・

「あらあらあら・・・」 

柏崎中尉。和み系の貴女ですが、この場でその顔は厳しいっす。

「え、えと・・・えっ?ええぇっ!?」 

パニック起こすな、美濃少尉。

「くっ・・・! 何と破廉恥漢かっ・・・!」 

今ここに刃物無くて、本当に良かったよ、神楽少尉・・・



「な、何いってるんですかぁっ!!!!!」

怒号と共に、祥子さん登場。 ああ、本気で逃げ出したい・・・

「いや、な。 貴様の不安定な状態を、周防の協力でだな・・・」

「私はもう大丈夫ですっ。中隊長!」

「むっ・・・そうか・・・?」

「でもぉ、やっぱりチャンスが有ればモノにしたいんじゃないのぉ?」
「・・・紗雪、これからず~っと、木伏中尉とエレメント組む?」
「・・・フルフルフル」

「あはは。んじゃ、祥子が喰わないんなら、私が貰っちゃお~っと。」
「水嶋中尉。先週のお相手と、今週のお相手は違うようですが・・・ 相手はご存じで?」
「あ、あはは・・・・は・・・・」

「え、え~~っと・・・・」
「愛姫ちゃん? 配属当初は、素直ないい娘だったわよね?」
「あ、あはっ・・・い、今でも変わりませんよぉ・・はは」

うおっ、すげぇ。並みいる猛者達を一刀のもとに・・・
等と思いつつ、実は俺はこそこそと、匍匐前進で出口に向かっているのだった。

きっ! と、祥子さんが俺の(情けない)姿を捉えた。
うおっ!? ロックオン?

「っ! 周防少尉っ。ちょっとお話があります。宜しい?」
「えっ・・・は、あの・・・」
「宜しいっ?」
「は、はひっ!」

祥子さんに引っ張られて、PXを出ていく俺。
それを見守る女性陣。

「何だ、すっかり姉さん女房してるじゃない・・・・」
あれなら、ま、いいか。 全員心の中で呟いた。



その後俺は。
「優しさと、優柔不断の境界線と。意思の確立の重要性。」
とやらの、祥子さんの見解を。

共用棟の外れ、と言うか、宿舎棟の裏、と言うか。
その場で正座させられて、延々小1時間程、傾聴させられたのだ・・・ はぁ・・・




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