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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 外伝 海軍戦術機秘話 3話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/21 23:41
1994年12月10日 副帝都 霞が関 帝国海軍軍令部


気温が下がった今日。 副帝都・東京では小雪が舞う寒々とした1日になっていた。
霞が関の軍令部本庁舎。 その第2部長室で、2人の男たちが向かい合っている。

「では。 次期戦術機・実証試験検証の日程をずらす。 こう言う訳かい? 厳田君」

第2部長・松永貞一海軍中将が朴訥な温顔を曇らせ、確認する。

「はい。 機体の方は何とか1ヶ月後の試験には間に合いそうとの事ですが。 いかんせん、統合制御システムの進捗が。
帝国電機は急遽、新技術採用に走った為、あと1カ月はかかるとの連絡が。 光菱も難航しております。
このままでは、器は出来ても、中身が空っぽのままになってしまいます。
思い切って1カ月、日程を後ろ倒しにする予定です」

「・・・過大要求である事は、重々承知の上だったが。 いや、メーカーの諸君も、よく頑張ってくれているのは判っているのだが・・・」

「部長。 ここで焦って、半端な仕上がりの戦術機とするより。 ひとつ、度量を示して彼らメーカーのやりたい事を、やらせてみては如何でしょう?」

「ん・・・」

松永中将は少し考え込む様子を示し。 そして決断した。

「判った。 日程はずらそう。 総長(軍令部総長・井上茂美海軍大将)には、僕の方から報告しておく。 強いては事を仕損じる、とね。
―――しかし。 厳田君。 君も変わったね。 昔なら、メーカーに怒鳴り込んででも、日程は守らしただろうに」

上官の指摘に、厳田大佐が思わず苦笑する。
そうだ。 以前の自分なら、こんな事は絶対に許容しなかっただろう。 
メーカーに乗り込んで、責任者をとことん論破した上に面罵して、期日を守らしただろう。

―――ではなぜ今回は?

基本的に自分は変わってはいない。 今更変えようもないな、この年で。
強いて言えば・・・ 陸軍への当てつけか。

連中の94式『不知火』 あれは確かに良い機体だ。 それは認める。 しかし、多分に無理をしすぎている。
機体設計もそうだし、その結果無くなってしまった発展余裕もそうだ。 あの機体は早晩、発展性の無い凡庸な機体へと成り下がる。

開発開始時期がほぼ同じであって、その間、政治上のゴタゴタでスケジュールの遅れた欧州第3世代機。
その『原型』のデモンストレーションが今年の9月に行われたが。 視察に行った連中の話と報告内容、そして記録映像。
様々に検討した結果、少なくとも94式を上回る機体で有る事は確認できた。 ベースとなった開発データは、帝国からこっそり流したものだが。

云わば、源流は同じなのだ。 それでいて、あの差は何だ?

欧州第3世代機の開発は、ほぼメーカーの独自判断によるところが大きい。 
軍は概略の方向性を示し、あとはメーカーが暴走しないように監視していただけ。

反面、帝国陸軍は開発段階から事細かな介入をしていた。 
その結果、様々に制約を受け、そしてギリギリまで無理をして、突き詰めた設計の機体になったのだ。
一応の要求は満たしたようだが、あれ以上の発展余裕は無かろう。 帝国の技術のみでは。

ふん。 『新国粋主義』? 『新右派思想』? 下らん。 それ程、米国をはじめ欧米諸国が憎いか。 それ程、国内で引き籠りたいのか。


―――結局は、半世紀前に帝国軍自らが大負けした結果の、自業自得ではないか。

現実に目を向けて、自分自身の言葉に酔っている低能共が。 全く、虫酸が走る。
だからか、今回俺がここまで『寛容』なのは。

連中の呆ける顔を見てみたい。 ああ、それとあの『母艦派』の連中も見返してみたい。
何しろ、俺が現場から外されてこんなところで書類仕事をしているのも。 小澤や山口を始めとする、『母艦派』の連中が動いた結果だしな。

良いだろう。 貴様たちの欲する戦術機、送り出してやろう。 そして、俺の主張する戦術機もまた。
その時に言ってやるのだ。 

『なに、固定観念に囚われていては、何事もなし得ませんな』、と。 

連中の母艦運用一辺倒を、せせら笑ってやる。


そんな暗い想念は、極一瞬のうちに脳裏をよぎったものだが。 口にしたのは一言だけ。

「部長。 我々は兵学校でこう教えられたではありませんか? 
『アングルバー(鉄棒)になるな。 フレキシブルワイヤー(鉄索)でなければならない』と。
いやはや。 年をとると、どうにもアングルバーになりがちですなぁ」


―――少々、あざとい言い回しだったか? 流石に温厚な松永さんも、嫌な顔だな。

まあいい。 俺は俺のやりたいようにするまでだ。















1994年12月24日 兵庫県神戸市 河西航空工業甲南製作所 主機試験場


架台に乗せられた主機が、連続運転試験を継続中だった。
甲高い音を立ててかれこれ300時間以上、稼働している。

「現在推力70%。 85%まで上げたのち、100時間連続運転開始予定」

「了解。 推力、上げます。 ・・・75% ・・・80% ・・・85% 試験推力値、確認」

更に駆動音が上昇し、青白い焔を吐きだす。
これより定格最大出力にて連続稼働試験、そしてA/B状態での連続稼働試験が待っていた。
目標は連続稼働時間500時間。 これをクリアしない事には、戦場での『武人の蛮用』に耐えられるものではない。

「試験は順調のようですな」

試験場に隣接するコントロール・ルームに陣取った愛知飛空工業・内原賢吾設計部長は、傍らの河西航空工業・戦術機設計部長、菊原静夫に向かって微笑んだ。

「ええ。 こちらの最大の不安要素は、主機でしたからね。 なにしろ向うさんには、FJ111-IHI-132シリーズが有る。
あのモンスター・パワーユニットでまともに殴りかかられたのでは。 ぞっとしませんよ」

「確かに、そうですが・・・ 聞くところによると、九州航空の折原女史が随分と悩んでいるとか」

「・・・燃費は、最低ですからね」

92式弐型(F/A-92E/F)にも採用されている主機、FJ111-IHI-132シリーズは確かに大出力の優れた主機だ。
しかし、難点もある。 その最大の難点が、燃料消費の多さだった。
その主機を向う(石河嶋・九州JV)が選定するのならば。 余程抜本的な技術確立がなされない限り、アドヴァンテージはこちらに有る。

試験中の主機に目をやる。
原型はF110-GE-129。 92式初期型(F-92J)で使用した主機だ。 FJ111-IHI-132シリーズの原型でもある、ジネラルエレクトロニクス社の開発したパワーユニット。
そして今回、河西は懇意の独・MTUアエロエンジン社から新規開発のRBB205-Mk104を輸入していた。

河西と愛知、両者の技術陣は、その2つの主機を再度徹底的に研究した(RBBシリーズ自体は、以前から河西がMTU社より従来型を入手していた)
その結果誕生したのが、目前の主機だ。 未だ社内名称『AK-1994-2』しかないが。 正式採用の暁には、主機番号も付与される事だろう。

ドライ状態で推力63.5KN、A/B使用で118.5KN。 これで居て、母体の片割れになったRBB205の流れを汲み、小型で推力重量比が大きく、燃費も良好だった。
FJ111-IHI-132に推力でこそ及ばぬものの、陸軍の94式『不知火』のNK9K-Sや、欧州第3世代機用のEJ200sをも、僅かだが上回る。

これには、河西以上に欧州系、特にドイツ系の技術に詳しい愛知の技術陣の協力は不可欠だった。 
小型で高出力、更には低燃費。 帝国の技術力では、未だ到達は出来ない。 入手した2系統の主機は、それこそ宝の山だったのだ。
(しかし、それでもRBB205よりは、大型になっている)


「それに今回は、軍からは余り横槍が入らなかった。 これには助かりましたね」

菊原が本音をこぼす。

「ええ。 陸軍の94式の時には、光菱や富嶽、河崎の連中がノイローゼ気味にまで追い込まれたそうですから。
内心、戦々恐々でしたが、思わぬ肩透かしですね。 何せ、大元があの・・・」

―――あの、小煩い『厳田サーカス』とあっては。 誰しも覚悟しただろう。

それが今回無かった。 概略の方向性は伝えてきたが。 あとはほぼ、フリーハンドだ。 これ程有りがたい事は無かった。


「ところで。 統合管制システムの方はどうなりましたか? 帝国電機と光菱電機。 2社ともそろそろ、スペックを送ってくる予定ですが?」

菊原が、内原に尋ねる。 システム関連の統括は、内原の主管だった。

「ええ。 一昨日、送られて行きました。 ま、仕様書を読んだ限りですが、帝国電機の方でしょうね。
要求仕様を満たしているところは、両者ともに同じですが。 光菱は外形寸法で予定より35%も大きい」

「それじゃ、冷却系の問題も発生しますよ。 機体設計も、見直さなきゃいけない。 今更それは出来ませんね」

「ええ。 反面、帝国電機の方は、外形寸法もこちらの要求値内に納めてきている。
多分、石河嶋と九州も、こっちを採用するんじゃないかな?」

「にしても。 よくあの要求仕様を纏めましたね、帝国電機は・・・」

なにしろ、出したこちらの気が引けて仕方がなかったような代物なのだ。

「何やら、珍しい技術を引っ張ってきたとか何とか・・・ まぁ、我々にとっては、要求通りのシステムが出来ればそれで宜しいじゃないですか」


目前の新しい主機と、斬新と言われる統合制御システム。 無論、機体設計も一工夫も二工夫もしている。
自信は有ったが、相手も92式で共に手を取り合って協業してきた連中だ。 こちらの手の内も、ある程度把握しているだろう。

―――云わば、同門同士の戦いか。

菊原はふと、そんな考えが思い浮かび。 妙に可笑しくなってきた。









1995年1月28日 副帝都・東京 西多摩郡瑞穂町 石河嶋重工瑞穂工場(戦術機事業部主管工場)


煌煌と照らされた格納庫内に鎮座した戦術機。
関係者が見上げる中、九州航空開発部副部長・折原津弥子博士もまた、その一人として感無量の想いで見上げていた。

思えば、随分と無茶な要求を形に出来たものだ。 普通なら、もっと長い年月をかけて開発する代物だ。
しかし、このご時世ではそんな悠長なことは言ってはおれない。 結果として、部下達や石河嶋の社員にも、随分と苦労をかけてきた。
しかし、その苦労も報われるだろう。 自信が有る。 この戦術機。 河西と愛知が繰り出してくる手札には負けない。

「結局、主機の燃費問題は最後まで、抜本解決は出来ませんでしたな・・・」

石河嶋重工戦術機開発部・今河藤助設計主任技師が、傍らで悔しそうに呟く。
彼らの採用した主機、FJ111-IHI-132CⅡ(92式弐型の主機の改良型)では、現行の『翔鶴』の継戦時間の、85%にまで持っていくのが限界だった。
そして恐らく、欧州のRBBシリーズをベースにしているであろう、河西と愛知の主機は。
推力こそ、こちらには及ばないだろうが。 継戦時間は『翔鶴』を上回る事は確実視されていた。

「燃費問題は、最初から向うにアドヴァンテージが有ったからね。 
それより、ここまで引き上げてくれた石河嶋の開発陣を、褒め称えたいわよ。 私は」

今河技師が、些か気恥ずかしそうに、しかしそれでも嬉しさを隠しきれない表情になる。

「・・・継戦能力じゃ、多少劣る事でしょうが。 機動性とパワー。 この2点は譲りませんよ」

「そうね。 こちらも、何も無為無策じゃないってこと、思い知らせてあげましょ」


再び、戦術機を見上げる。 成し得る筈だ。 私たちは必ず、成し得る筈だ。 折原博士は、内心で自らにそう言い聞かせ続けた。













1995年2月5日 横須賀 海軍技術開発廠 追浜基地


「これが、試作4型改2空対地誘導弾か?」

「ああ。 当初は90式より心持ち、小型化しとったが。 流石に威力の面で不足が有るのでは、との意見が出てな。
最終的には全長、全径共に25%程増やして、全長2550mmに。 全径355mmにした。 弾頭重量は1.8倍、54kgまで増加させた。
フェニックス(AIM-54)に比べたら、60%位の長さだな。 直径はほぼ同じ位だが」

「フェニックスはいい。 どうせ、あれは帝国では運用できんよ」

「どういうことだ? 周防」

「貴様も聞いているな? 厳田。 米議会が吹っかけてきた。 1発当たりの調達価格。 
米海軍の調達価格の大凡3倍だ。 足元見おって・・・」

「そんな高価なオモチャ。 コストが合わんな。 年間調達でも、出来て精々、1個飛行隊分程度か。 話にならん。
貴様、年末からこのかた不在だったのは、米国出張の為か?」

厳田大佐が、苦虫をつぶしたような顔の周防大佐に問いかける。

「ああ。 随行でな。 最も、端から無理だろうとは想像していたのだがな。
まぁ、向うもクリスマス休暇中に押しかけられたら、良い気はしない。 
こちらで言えば、正月にいきなり押しかけてきて、仕事のややこしい話を始めたようなものだ」

「そりゃ、確かに迷惑だ。 なんでまた、そんな時期に」

「判っているだろう、貴様も。 戦術機がらみだ。 フェニックスを搭載できるのなら、搭載システムも考慮し直さんとな」

確かにそうだ。 あの搭載システムは、独特の専用システムだしな。
今頃の変更になっては、目も当てられない。

「結局、年末年始の米国旅行か?」

悪意の無いからかいの笑みを浮かべ、厳田大佐が周防大佐を冷やかす。
そんな期友の、珍しい一面にも周防大佐は別段驚いた様子は無い。 誤解される事の多い人物だが、伊達に海兵以来の付き合いでは無いのだ。


「そうだな。 まぁ、珍しいというか、意外な奴と過ごす事になったが」

「ん? 誰だ?」

「甥っ子だよ」

「甥っ子? ああ。 確か、国連軍に居る。 ・・・まて、確か欧州軍じゃなかったのか? どうして米国に居る?」

「何やら、仕事の都合で、という事らしい。 ま、国連欧州軍にしても、頼みの綱は米軍だ。 定常的にご機嫌伺いは必要なのだろう。
―――やたらとナイス(「美女」の海軍スラング)な、女性少佐殿と一緒だったがな」

「ほほう? 相手は1人か?」

「いや。 他にもナイスな女性中尉と、女性少尉が居たな。 あいつは奥手だと思っていたんだが・・・ 兄貴が知ったら、どんな顔をするか」

思い出し笑いをしながら、不意に周防大佐が表情を引き締める。

「で? どうなのだ、この新型の威力は。 
フェニックスに比べて、携帯弾数は増えるだろうが、戦域制圧能力は?
クラスター弾頭に比べれば、劣るのではないか?」

周防大佐の質問に、厳田大佐がやや苦笑気味に答える。

「そりゃ、1発当たりの制圧能力は当然、劣る。 何しろ向うは制圧能力のみを追求した兵器だ。
突撃級なんかの突破阻止能力は、別のモノで行うって寸法だ。 持てる者の特権だ。
が、帝国はそうはいかん。 そんな余裕は無い。 特に台所事情がな」

「ならば、どうする?」

「工夫はした。 遅延信管で起爆さすサーモバリックは、全てが内部に向かって拡散する訳じゃない。 一部は外部へ拡散爆発する。
小型種BETAの制圧に関しては、この相乗効果を狙う。 無論、大型種BETAへの直撃時でも、近辺に居る小型種は吹き飛ばせる。
只の爆風破砕弾頭じゃないんだ、そのくらいの効果は、このサイズでも見込める」

「後は、数か?」

「そうだ。 専用のハードポイント・ラックが要るが。 1基当りで最大9発搭載可能だ。
メーカーへの要求仕様は、最低これを2基搭載可能な事、としている。 合計で18発だ。
想定制圧効果は、フェニックス6発分。 F-14Dの制圧能力に等しい」

「1度の発射でか?」

「そうだ。 初期型は小型の分、搭載弾数が多かった半面、1セルに2発搭載予定で、一斉発射に難が有ったが。
今回はケガの功名だな。 大型化した分、搭載弾数が減って。 逆に1セルに1発となったからな」

―――成程。 それならば、制圧能力には問題がなさそうだ。 しかし、重量はどの位になるのだ? 

「フェニックス程、重くは無いとはいえ。 そこまで搭載してしまえば、機動性は低下するだろう?」

「発射後はデッドウェイトになってしまうが。 ミサイルポッド自体は大した重量じゃない。 
それに、パージも出来る。 実のところ、92式多目的自律誘導弾システム、あれを改装している」

「ほう?」

「あれの格納誘導弾は、垂直発射セルだから、全長が精々1300mm程の小型誘導弾だ。 それを並列16発。 
ユニット自体の全長は、3330mmほどで、断面寸法は約1350mm四方だ。
―――試作4型改2空対地誘導弾を水平発射させるのに、丁度収まりが良い。 1セル1発で、丁度9セルを格納できる寸法だ。
余った長さ分は、発射時の反動緩衝機構を組み込んだ。 
なに、全弾撃ち終わった後は、パージできる。 随分身軽になるさ」


―――それならいいが。

ふと。 周防大佐は昨年末に、甥と話し込んだ時の事を思い出した。
彼の甥は戦術機乗りで有り、その為に今回の事で色々と意見を聞いたものだった。

(『叔父貴。 戦術機ってのは、確かに各国のドクトリンが反映されているけど。 でも『主力』戦術機にはやっぱり、機動力は重要だよ』)

(『何でかって? あのBETAの物量! 例え米軍ご自慢の支援砲撃システムでも、完全阻止は不可能だろうね。
そうなったら、いずれ戦術機甲部隊の出番だ。 機甲部隊? ああ、あれは最早、支援砲撃任務にしか使えないよ』)

(『BETAってのはさ。 こっちの思惑通りには動いてくれない。 絶対にだ。 事前の防衛計画なんか、あっという間に崩れる事は珍しくない。
そんな時に、砲撃仕様に特化した戦術機で、近接戦闘なんか出来るかい? 俺は御免こうむるね、そんな機体は・・・』)

(『理想は、砲撃戦能力と、機動力を両立した機体だけど・・・ 無理だろうなぁ・・・』)


甥の意見は、あくまで陸軍戦術機乗りの立場に立脚したものであったが。
しかし、海軍戦術機甲部隊とて、基地戦術機甲部隊は、陸軍と似たような任務を課せられる。
そういう点では、貴重な意見だった。 彼の甥は2年半に渡って、それこそ極東と欧州の戦場を渡り歩いてきた衛士なのだから。


「・・・機動性が確保出来るのならば、問題無いのではないかな・・・」

ふと、周防大佐が漏らした言葉に、厳田大佐が驚く。
なにしろこの期友は、専門は砲術なのだ。 所謂『大砲屋』だった。 戦術機にそれほど理解が深いとは考えていなかった。

そんな厳田大佐の表情に気づいたのか、周防大佐が少し照れたように言う。

「なに、受け売りだ。 大して判っている訳じゃない」











1995年2月18日 横須賀 海軍技術開発廠 追浜基地


「くっそう! やっぱり機動力は向こうが上なのっ!? この、ちょこまかとっ!」

跳躍ユニットを吹かし、NOEに移った後で主機をA/Bに放り込む。 パワーを生かした離脱で、不意に襲いかかってきた相手を間一髪で振り切る。
距離をとって、再度の突撃。 判っている、真近まで引き付けた後で、急速高機動でまた、交わす腹だろう。

「今度は、そうはいかないわよ、白根!」

長嶺公子少佐が、搭乗する『試作95型2号機』を強引に上空から噴射降下に入れる。
瞬く間に地表が迫ってきた。 

(まだよ・・・ まだよ・・・ まだ、まだ・・・)

神経を研ぎ澄ませ、タイミングを計る。

(・・・よしっ! 今だっ!!)

強引に、後進噴射をかけ急制動を行った。 相手の機体は見切ったつもりなのだろう、咄嗟に横噴射跳躍をかけ、更に噴射跳躍で飛び上がっている。
今まではこの急速機動に、噴射降下中の高速状態で捕捉が追いつかなかった。 ―――しかしっ!

「丸見えだよっ! 白根ぇ!!」

相手―――白根斐乃少佐が搭乗する『試作95型-1号機』の無防備な上昇中の機体を捉えた。
咄嗟にレクチュアルに捉えたその機影に、トリガーを引く。 36mm砲弾が勢い良く吐き出された。 ―――命中!

『くああぁぁ!!』

白根少佐の悲鳴が聞こえる。――― やった! 撃墜!

嬉しさで思わず、機体を上昇させ、アクロをやってしまっていた。


『あ~・・・ 長嶺? 嬉しいんは判るけどなぁ。 流石に、少佐にもなってそれは、無いんとちゃうやろか?』

指揮所に居る淵田大佐から、溜息混じりのお小言が出た。 仕方ない、ブチさんに言われりゃ、しょうがないわね。

「失礼しました、大佐。 メーカー各社さんの気持ちを代弁したつもりなので・・・」

『長嶺。 いい加減にしろ。 貴様、その調子じゃ、『セイレーン』の2代目、他に回すぞ?』

「うわっ、それは勘弁ですよ、千早さん」

前任飛行隊長の千早孝美少佐からも、お小言が入った。 流石にあの人には、同一階級になっても頭が上がらない。

仕方がない。 ここは大人しく陸に戻るか・・・
そう思った時、相手の1号機が寄ってきた。

『お疲れ様、長嶺。 最後の一手は、流石に読めなかったわ。 見事にやられたわね』

「何を言うか、このポーカーフェイス。 大体、白根。 貴様、何回私を墜した?」

『5・・・ いえ、6回?』

「ヘコむなぁ・・・ 私は貴様を3回しか墜していないよ。 はぁ、やっぱり、機動力はそっちが上だね」

『どうかしらね。 用途にもよるんじゃないの? 母艦航空隊の使い方としては、そっちが合ってそうだけど?』

確かに。 一撃離脱にはもってこいの機体だった。 パワーも、スピードも。 低空時の安定性も。
『翔鶴』に乗っていて、不満だった点は全て。 見事に解決されている。 不満は無い。

(・・・最も。 他の見方で言えば、ちょっと難有り、なのよね・・・)

管制塔からアプローチ・コントロールが入る。 2機はそれぞれ指示に従い、滑走路へと最終アプローチに入って行った。







機体を降り、ハンガー脇の衛士ブリーフィングルームに入る。
そこには既に試験飛行を終えて、待機していた部下達が待っていた。

「隊長、お疲れ様です」

鈴木裕三郎大尉が立ち上がって、敬礼する。

「いやぁ、やっと最後に一矢報いましたねぇ」

失礼なことをほざくのは、『トンちゃん』こと、加藤瞬大尉だ。

「ん・・・ 鈴木、アンタもお疲れ様。 母艦発着艦試験、どうだった? 
それと、トンちゃん。 あんたなんか、鴛淵にいい様に、あしらわれたじゃない。 もっぺん、飛行学生からやり直す?」

思わず苦笑する鈴木大尉と、藪蛇をつついた事を後悔する加藤大尉。 この部隊はいつもこんな感じだ。
そんな様子を見た白根少佐が、笑いながら話しかける。

「相変わらずね、ここは。 でも高速離脱戦法を取られたら、正直手の打ちようが無かったわね。
昨日はそれで、鈴木君にいい様にやられっぱなしだったもの。 鴛淵なんか、珍しく悔し泣きしていたわよ?」

「少佐。 悔しかった事は事実ですが。 事実誤認は訂正してください。 私は別に、悔し泣きなどしていません」

上官の軽口に、部下の鴛淵貴那大尉が、端正な顔に眉をひそめる。 実際、彼女の戦術機操縦技術は、同期生の中ではトップクラスだった。

「いやいや、人前では気丈だけどね、鴛淵は。 でも、自室じゃきっと、悔し泣きのひとつもしていたかもね」

そうからかうのは、やはり同期の大野竹義大尉。 彼は今日の試験飛行では、鈴木大尉と共に、母艦発着艦試験を行っていた。


「しかし、どうでしょうね。 実際のところ」

加藤大尉が珍しく、真剣な表情で呟く。

皆それぞれ、2機双方に搭乗している。 そしてそれぞれ各種試験を行ってきたのだ。
実は彼らの前に、技術開発廠の試験飛行隊の試験衛士が、同じテストを繰り返している。
今回はその結果を踏まえて、実戦部隊の衛士が搭乗して、両機の評価を下すという。

「2号機は悪くないよ。 パワーは当然のことながら、速度も、機動性も第3世代機として十二分にある」

大野大尉が、備え付けの椅子に座り込んで答える。

「1号機もね。 確かにパワーの面では2号機に譲るわ。 でも、それを補って余りある機動性を有している。 陸軍の94式と比較しても、能力は上の筈よ」

鴛淵大尉も、自らの感想を言う。

「そりゃ、まぁ。 こっちの方が開発時期は後だしね。 色々と、前例が判っている事だし」

「鈴木。 貴様、それを言ったら身も蓋もない」

鈴木大尉の言に、大野大尉が突っ込みを入れる。


大尉4人の意見を聞きながら、長嶺少佐と白根少佐が目を合わせ、頷く。

「判った。 じゃ、指揮所には私たちの方から報告を入れておく。 4人とも、今日は休んでいいよ」

「お疲れ様。 明日もまた試験が有るわ。 ゆっくり休んでちょうだい」

「了解です」「じゃ、失礼します」「お疲れ様です」「あと、頼みます」

それぞれが挨拶を残して、大尉たちがブリーフィングルームを出る。
いずれ、今晩の全体会議では4人とも出席必須だが。 「ブチさん」への報告は、我々2人で十分だろう。



「・・・でも。 正直、今日の結果で。 有る程度は見えたと思うわ」

通路を並んで歩いていた白根少佐が、ふと漏らす。

「そうね。 何しろ、母艦と基地。 両方の運用を考えるとね・・・」

元々、相容れない仕様を実現しようというのだ。 どこかしらで妥協点は必要だった。














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