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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 国連欧州編 シチリア島最終話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/11 23:15
1994年9月11日 1715 シチリア島北方海域 H部隊戦術機母艦「アーク・ロイヤル」


第2次攻撃隊の、F-4MファントムFGR.2の発艦が続く。

ジェット・ブラスト・リフレクター(JBR)が立ち、カタパルトにロックされたファントムが、主機である2基のR&R・RB-168-25RスペイMk.203を、ミリタリー推力まで上げる。
発艦管制士官の合図に、ブレーキロックを解除。 スチームカタパルトが一気に機体を加速させ、ファントムは空へと飛び立っていく。

H部隊司令官、サー・トーマス・マクライト少将は艦橋からその姿を見つめ、次いでカラブリア半島の方向を見据えた。

「艦砲射撃は、開始したかね?」

「はっ! 『1635、砲撃開始』 先ほど、連絡がございました。 それと、イタリア海軍の『アンドレア・ドリア』と、『ジュゼッペ・ガリバルディ』も、艦載戦術機の全力出撃を開始したとの報告が。
イタリア、ドイツの戦艦群も艦砲射撃を開始しました」

「ふむ・・・ では、改めて『舞台』は我々が、演出して差し上げよう」

「はい。 国連情報部など。 下手に手を出すから、大火傷のようですな」








1720 カラブリア半島 パルミ北方3km フォルゴーレ強襲戦術機甲師団


「師団司令部より通達。 第9戦術機甲連隊、北上せよ。 圧力をかけてBETAを押し上げよ。 
第183戦術機甲連隊、第186戦術機甲連隊、右翼より進出開始せよ」

「第185戦術機甲連隊、アリエテ機械化師団・第32機械化歩兵装甲連隊との連携をとれ。 
第187戦術機甲連隊はアリエテ師団・第3ベルサリエーリ連隊と協同し、海岸線の阻止防衛線を構築せよ」

「艦砲射撃、第7斉射開始。 砲撃任務群、準備完了」

師団司令部内には、ようやくの事で回って来た出番に、全員が闘志を漲らせていた。


「閣下。 軍団司令部より入電。 『プリマの保護は、十全と為せ』 以上です」

「ん・・・ 承知したと伝えろ。 最初から、我々に頭を下げていれば良かったものを。
下手な芝居を打つから、このざまだ」

「国連軍の残存、11機との連絡が入りました。 
何とか無事にメッシーナ海峡を越えて、北岸のバッティに辿り着いた機体が10機。 
負傷した衛士を後送した機体が、メッシーナに1機との報告が」

「やれやれ。 36機が、1/3も残らなかったか。 第3戦術機甲師団も、殆どが壊滅してしまった。
国連め、この代償は大きいぞ・・・?」

師団長がぼやいた時、新たな報告が入る。

「ユーロファイタス国連派遣部隊、所定位置に着きました!」

「よし――― では、存分に舞って貰うとするか」











1725 シチリア島 バッティ仮設避難基地


10機のトーネードⅡが舞い降りていた。
どの機体も、大なり小なり損傷している。 中には跳躍ユニットが片肺の機体も有った。


「・・・い、生きてるの?」

「そうみたいだな・・・」

「もう、こんなのって、ゴメンよ・・・」

10人の衛士達は皆、息も絶え絶えの状態だ。

「みんな・・・ 無事か? 異常は無いか?」

「無し」「不思議と」「大丈夫ですぅ」「異状なし」「平気よ・・・」

「周防。 こちらも、皆無事だ。 何とかな」

「ユスーフ、それは何より・・・ で、ここはどこだ?」

「バッティ仮設避難基地・・・ 只の原っぱだな」


向うから、1台の高機動車が走ってくる。 
やがて戦術機の傍に停車し、1人の佐官が降り立った。

「諸君・・・ 困難な任務、よくぞ遂行してくれた。 それでこそ、我が国連軍の精鋭たちだ」

―――『トロンボーン』 マルキーニの糞野郎・・・

誰かが吐き捨てた。
2人の中尉が前に出る。

「マルキーニ少佐。 第88戦術機甲大隊分遣中隊。 残存6機。 生還7名、内1名重傷。以上!」
「第87戦術機甲大隊分遣中隊。 残存5機。うち1機はメッシーナ基地であります!」

「う、うむ。 ご苦労だった、周防中尉、カシュガリ中尉。
残念ながら、多くの歴戦の勇士が失われた。 しかし今回の作戦は、今後の欧州情勢を鑑みて、非常に有意義であり・・・ 『失礼、少佐』 ・・・ん? なっ!?」

いきなり東洋系の中尉が、滔々と演説を始めた少佐を殴り倒した。

「がはっ! き、貴様っ! 上官に暴行だとっ!? ぐ、軍法会議だっ! ・・・何っ!?」

口の端から血を流して喚く少佐に、今一人の中央アジア系と思しき中尉がまた、拳を叩き込んだ。

「ぐぅ・・・」

そのまま倒れ込み、動かない。 どうやら、失神したようだった。

「お見事」

「君は詰めが甘い」

―――これで、軍法会議かな?
―――営倉入りは、確実だろう。

2人の中尉を、後ろから見つめていた部下達が、盛大に溜息を吐く。


―――どうせなら、自分達の分も残しておいて欲しかったな・・・










1994年9月13日 モロッコ カサブランカ


埠頭に独り、ラハト大佐は佇んでいた。

2日前の『作戦』 その詳細報告をなした後、次の任地を指定された。
これから、この地からの船旅でその場所へ移る。

国連軍統合情報部大佐、ヴィクトリア・ラハト―――そのアンダーカヴァーを有する彼女は、『表向きの上官』への報告を思い返していた。

―――実に滑稽なほど、うろたえおって・・・

所詮、今の寄り合い所帯の国連など、あの程度か。
そして『実際』の自己を思い出す。

『白頭鷲』

彼女が忠誠を誓った対象は。 実のところ様々な『頭』が、その支配をめぐって喰らい合うヒュドラではあるが。
数ある『頭』の欲する事はただ一つ。 ―――支配せよ。

無論、それは彼女が『モサド』(イスラエル諜報特務局)在籍時からの、本来の所属する組織、『カンパニー』とて、同様であった。


「―――そろそろ、出てきてはどうか? 大の男のストーカーなど、気色が悪いぞ?」

「おやおや。 流石は『ラハト大佐』 お見事ですなぁ」

「ちっ・・・ IMI(Imperial Ministry of Information 帝国情報省)も、馬鹿では無いという事か?」

「いえいえ。 我々とて、『カンパニー』とは末長いお付き合いを、してゆきたいモノでして・・・」

「ふん・・・?」

「いや、流石の手腕。 欧州連合と国連欧州軍間の、潜在的な不調和音の醸成。 
これで国連軍内部の、自国軍の影響力増大の下拵えは万全、と言う処ですかな。
それに新戦術機の、欧州独占配備の芽を摘んで尚、泣きつかれた国内企業群への、将来的な『収益』の確保。
あとは・・・おっと、これ以上は言わぬが華」

「・・・消されるには、十分と思うが?」

「まさか、まさか。 私程度、SIS(英情報局)やMAD(独軍事防諜局)、DGSE(仏対外治安総局)などのお歴々に比べれば。
おお、そうそう。 ドネルケバブ(トルコのロースト料理)と言うものは。 羊の肉で焼くのが実に美味いもので」

「・・・?」

「羊と言うのは、実のところ、生後1歳にならない雄の子羊を料理するのが、これまた美味いそうですなぁ。 
いや、幼子を食するとはまた、心痛む事ではありますが・・・」

「・・・何を言いたい?」

「おお、失礼。 そう言えば『大佐』には、10歳そこそこの息子さんが、おありとか? 
いや、私も息子・・・いや、娘のような息子・・・ん? いやいや、息子のような娘、うん、これで良い筈だ。 
兎も角、子を持つ親としては、これまたなんとも・・・」

「・・・貴様?」

「お友達の中では、シュバト・アル=ムハバラート・アル=アスカリッヤ(シリア軍事諜報部)、ムハバラート・アル=アンマ(ヨルダン総合諜報局)あたりは。
今もしきりに、貴女に求愛しておりますな。 いやはや、両国ともに、アラビア半島では散々『魔女』に、出汁にされましたからなぁ・・・」

「・・・貴様ッ!」

「いやいや、ご安心を。 私とて、お子さんが報復対象にされるとか。 その母親共々、砂漠のど真ん中で裸に剝かれて、全身の生皮を剥がされて殺される、などと。
そのような事は望みませんよ。 その後には、BETAの食餌になる事もまた」

―――くそっ! 日本はその無宗教性故か。 ムスリム共とも、比較的友好な関係にあった筈だ。 そう言う事か? くそっ!

「・・・何が望みだ?」

「いえ何。 今後とも『末長いお付き合いを』 如何でしょう?」

――― つまりは、モグラ(ダブルスパイ)になれと? でなくば、ムスリム共に身柄を引き渡す、と言うのか。 私の息子共々っ!!

流石に、冷や汗が出る。 過去に自身が行ってきた『秘密作戦』故に。 
ムスリム共は、自分を嬲り殺せるのなら、この男に最大限の配慮も為そう。


「なに、これまで通りのお付き合いを。 『ヴィクトリア・ラハト大佐』 そうそう、国連監察局の『目』は、潰しておきましたので。 ご安心を」


―――くそっ! またしてもっ! これで完全に『疑惑』を持たれた。
つまり、私は国連情報をも、この男に渡さねばならない。


「鎧衣・・・ この、悪魔め・・・」









1994年9月から11月まで。 地中海方面各所にて、『ユーロファイタス国連派遣部隊』による一連の『デモンストレーション』、その第1期行動が実施された。









1994年9月15日 1300 モロッコ・リーフ自治州 テトゥアン国連軍基地


「・・・シェールソン中尉と、ヴァレンティ中尉は戦死か。
それに、オナスィ少尉、フレッソン少尉、ヴェルマーク少尉も。
グエルフィ少尉は、一命は取り留めたが。 衛士復帰は、不可能だそうだ。
半数を失うとはな・・・」

「申し訳ありません、大隊長。 責任は、残存最上位者の自分に・・・」

「いや、君の責では無い、周防中尉。 詳細は確認した。 
あの状況で、君も、死んだシェールソンも、ヴァレンティも。
君達は良く部隊を指揮した。 過失は無い」

「少佐・・・」

「過失は、統合情報部にこそ有る。 私は第1緊急即応展開軍団司令部に対し、情報部の責任を追及する旨、上申した」

―――上官暴行罪は、それでうやむやか・・・

「周防、抱え込むな。 貴様の責では無い。 大隊長のお言葉、理解しろ」
「その通り。 君は健闘した。 奮闘した。 誰にも、責める理由は無い」

「アルトマイエル大尉・・・ ウェスター大尉・・・」

畜生。 悔しい。 こんなに悔しいなんて―――こんなに、無力さが虚しいなんて。

「今日はゆっくり休め。 ご苦労だった」

「―――はっ! 失礼しますっ!」












「大丈夫だろうか? 彼は。 正直、死人の目だった」

「大丈夫・・・ そう、信じたいですが。 今までも、耐え抜いてきた男です」

「しかし。 まだ若い。 それに少々、心配では有りますよ、ヴァルター。 
もしかしたら、『壊れかけて』きたのかも知れない」

「ヴァルター。 周防の履歴を改めて確認した。 
日本軍時代から約2年半。 ごく短期間の後方休養を除けば、その殆どの軍歴が最前線での張付きだ。
ヴァルター、ロバート。 君等にも経験が有るだろう。 私も有った。 周防は、そろそろ・・・」

「どれ程豪胆でも、どれ程勇敢で優秀でも。 戦場で知らず、神経をすり減らす。 そして、ある日いきなり―――壊れる。 駄目になる。
ええ、エイノ。 身に覚えがありますよ。 君もそうだろう、ロバート」








大隊長室を出て、サロンに向かう途中。 ファビオと、ケン・ヴィーターゼン中尉に呼び止められた。

「ご苦労だったな、直衛・・・」

ファビオの声が、震えている。

「ん・・・ すまんな、2人とも。 君等の部下を、連れ帰れなかった・・・」

戦死したシャルル・フレッソン少尉はケンの。 そして重傷を負い、復帰不可能となったロベルタ・グエルフィ少尉はファビオの。 それぞれ直属の部下だった。

「君が謝る事では無い、周防。 彼等は精一杯戦ったのだろう? その結果の戦死ならば・・・ 寧ろ、よくぞ半分連れ帰ったな」

「ケン・・・ ああ、君の所のシャルルも。 精一杯戦った。 皆が知っている」

「そうか・・・ そうか。 ・・・感謝する、周防中尉」

ケンが何度も頷いて。 そして踵を返して、その場を去って行った。


「・・・ファビオ」

「ロベルタってよ。 頑固で、生真面目で、融通効かなくってよ。 全く、どうして俺の部下にこんな優等生が、なんてよ」

「ん・・・」

「それでも、一生懸命だったよ。 訓練でも、何でも、真面目に取り組んでてよ。 
ま、同郷って事もあってな。 なんとか、無事に生き抜いて欲しいって、思っていたんだよ・・・」

「ファビオ・・・」

「・・・どうして。 どうして、連れ帰ってくれなかったッ! お前なら、何とか出来ただろッ!? どうしてッ!
チクショウ・・・ 俺の手の届かない所じゃ、何も出来やしねぇ・・・ 部下を、初めての部下を・・・ 何も、してやれねぇなんて・・・」

「済まん・・・ ファビオ、済まん・・・」

こんなに。 こんなに無力だなんて。 こんなに悔しいなんて。 こんなに虚しいなんて。
何が「デビル」だ。 何が「エース」だ。 お前なんて、戦場の巨大さに振り回される、ちっぽけな存在じゃないか・・・




「・・・悪かった。 済まん、今言った事、忘れてくれ。
お前だって、地獄で精一杯戦ったんだ。 それをあんな・・・ 本当に、済まない。 直衛」

「ファビオ・・・」

「殴って気が済むなら、そうしてくれ・・・ そうされて当然の、最低の言葉を吐いちまった。 ・・・自分が許せねぇよ」

「いや・・・ そう思うのなら。 残った部下達を、生き残らせろよ。
ロベルタは本当によく戦った。 お前に自慢してやれって。 そう言ってやったんだ。
だから・・・ 彼女の分も、残った部下達を、生き残らせろよ」

「そうか・・・ ホント、済まなかった。 ・・・有難うな」

歩き去っていくファビオの後姿が、やけに小さく見えた。







自室の前に人影があった。

「・・・翠華?」

「直衛・・・ お疲れ様。 大変だったね・・・」

「ん・・・」

彼女の顔も、まともに見られない。 見る気にさえなれない。 それ程、虚脱感が苦しい。

「あ、あの、直衛? 大丈夫?」

「・・・そう見えるか?」

「ッ!! ご、ごめんなさい・・・」

駄目だ、これ以上一緒に居ると・・・ 翠華にでさえ、何を口走るか判らない・・・

「すまん、疲れているんだ。 眠りたい・・・」

「う、うん。 あの、直衛。 気休めじゃない、そうじゃないのだけど・・・ 
何か、話してね? 私に・・・ 何か、話して。 何でも良いから」

「・・・気が向いたら・・・」

―――パタンッ

ドアを閉め、鍵をロックする。 ―――今は、誰とも会いたくない。 誰とも話したくない。

「―――ぐっ!」

慌てて洗面台へ走り寄る。

「・・・げえぇ! ・・・ぐえっ、ええぇっ!」

あっさり、吐いてしまった。
急に力が抜けて、そのままへたり込む。 壁に寄りかかる。 息苦しい。 吐いた反吐を拭う事すら、鬱陶しい。

「はぁ・・・ はぁ・・・ はぁ・・・」

脳裏に浮かぶ光景。
無限に迫りくるBETA。
レーザーの直撃で爆散したユルヴァの機体と、彼女の声。
無残な、醜い重傷の体のアイダ。 
アイダを撃ち殺した、俺。

「・・・ぶっ! げえぇ!!」


―――ドン、ドン、ドン!!

ドアを叩く音が聞こえる。

『・・・ッ! 直衛ッ!? どうしたのっ!? 今の何!? ねぇ、直衛! 開けてっ! 開けてったら! 直衛!!』



―――ああ、うるさい。 だれだよ・・・











1994年9月16日 1000 モロッコ・リーフ自治州 テトゥアン国連軍基地 


「軍医長より連絡がありました。 『戦場疲労症の初期状態に近い』と」

アルトマイエル大尉が報告する。

「 『どれ程正常で、意志の強い人間でも。 身体的・精神的な限界に達して、精神活動が解体する境界域が有る』 確か、指揮幕僚課程の座学で学んだな」

「危険だ。 彼自身も、彼が指揮する事になる小隊も。
それに、エイノ、ヴァルター。 周防だけでは有りません。 中尉の中では、長門と久賀も、周防と同じ軍歴を辿っています。
今は兆候がはっきりしませんが・・・」

ユーティライネン少佐の呟きに、ウェスター大尉が他の懸念要因を指摘する。

「ロバート。 はっきりしてからでは遅い。 長門も、久賀も。 一時に比べて精彩が落ちている。 歴とした兆候だ。
―――痛いな。 死んだ2人の他に、3人。 小隊長を奪われるのは・・・」

「エイノ。 彼等の後釜には。 今現在、小隊長職に就いていない中尉を充てるしかありません。 どうでしょう? ヴァルター」

「ミレーヌ・リュシコヴァ中尉、朱文怜中尉、蒋翠華中尉、ヴェロニカ・リッピ中尉、ギュゼル・サファ・クムフィール中尉、オードリー・シェル中尉。
―――この6名。 
それに、半月後に半期遅れで中尉に進級する者が5人います。
補充を受ければ。 戦力の回復は、十分に可能です。 小隊指揮官もまた然り」

「・・・前線から下げるしか、方法は無いな。
今のままでは、彼等はともかく、彼等に指揮された部隊は、遠からず壊滅する」

「では?」

「転属させよう。 次の作戦が始まる前に。 始まってからでは―――無駄に戦力を潰す訳にもいかん」




部下達が退出した後も。 ユーティライネン少佐はデスクに座ったままだったが、不意に独り言ちた。

「―――ふむ。 甘くなったものだ、私も」

北欧戦線。 最早、後に下がる場所とて無い、極北の戦場。
疲労し、消耗して死んでいく部下たち。 同僚。 上官。
麻痺した感覚。 磨り潰され、使い捨てられていった者達。

或いは。 場所さえ異なれば、彼らは生き残れただろうか。

「甘くなったものだ―――私も」











1994年9月20日 1500 モロッコ・リーフ自治州 テトゥアン国連軍基地
第88独立戦術機甲大隊 第2中隊長室


「転属!?」

中隊長室に呼ばれた俺に待っていたのは。 思いもよらぬ『転属命令』だった。

「そうだ、周防。 ―――はっきり言う。 今の君は、部隊指揮は無理だ。 自覚は、しているな?」

「・・・はっ・・・、しかし・・・」

「私は。 部下の小隊長がこのまま『壊れて』死ぬ事は望まない。 そして、その指揮下の小隊の壊滅もまた同じだ。
―――幸い。 軍医長の見立ては、未だ初期状態らしい。 暫くは第一線から下がれ」

「・・・ッ」

俺は・・・ 最早、用無しか? 無用なのか?

「何も、この先ずっとと言う訳ではないぞ? 前線では、腕の良い衛士は常に不足している。
云わば『リハビリ』だ。 ―――そうそう、楽が出来るかは、保証せんがな」

「・・・大尉?」

「つまりは。 さっさとコンディションを元に戻して、戻って来い。 何時でも、便利使いしてやるぞ?」

―――はは、キツイな。 相変わらず。

「・・・暫く、留守にします」

「貴様の後釜は、クムフィール中尉を充てる。 十分、責を負えるだろう」

「・・・はっ」








中隊長室を出た俺を待っていたのは、ギュゼルにファビオ。
暫く3人無言で廊下を歩く。 ふと、ギュゼルがぽつりと話し始めた。

「・・・さっき。 中隊長に呼ばれたの。 直衛、貴方の後任をするようにって・・・」

「済まん、ギュゼル。 押し付けるな・・・」

「馬鹿。 いちいち、そんなこと気にしないでよ。 それより、しっかりね」

「ん・・・」

後ろめたさと、焦燥感、そして虚脱感。 そして―――安堵感を覚えた事に、思わず自己嫌悪する。

「ま、暫くのんびりして来いや。 あ、そうそう。 第2と第3、入れ替わるってよ」

「えっ?」

「つまりよ。 俺の方がギュゼルより、突撃前衛特性が高いってよ。 だもんで、俺の小隊が第2で突撃前衛。 ギュゼルの小隊が、第3で強襲前衛。
参ったぜ、お前の真似は、死んでも出来やしねぇしな?」

「ファビオ。 何も、直衛の模倣をする必要はないでしょ? 貴方は貴方なのだし」

「って訳でよ。 日本の侍の戦い方じゃなくって、イタリアの騎士の戦いってやつを。 糞BETA共にお見舞いする訳さ」

そう言って。 片目を瞑って不敵な笑みを浮かべる。
・・・ファビオ流の気遣いか。 そう言えば、お前には隊に配備された最初の夜にも、教えられたよな。
―――ありがとう。

「・・・騎士でも。 ドン・ファンじゃないでしょうね・・・」

「はは・・・ 有り得るな」

「おいっ!? お前らなぁ!!」


3人で笑いあった。

―――久しぶりの気がした。 決してそうでは無いのに。 本当に、久しぶりに笑った気がした。


「ん? ・・・おっと。 ギュゼル。俺たちはそろそろ、お暇しようぜ? 姫様のお出ましだ」

「あら。 そうね。 じゃ、直衛。―――戻って来なさいよ。 じゃないと、ポジション無くなるわよ?」

「何だったら、俺たちの『部下』にでもなるかぁ?」

―――馬鹿、それは遠慮する。


ファビオとギュゼルが歩き去ったその先に。 翠華が佇んでいた。

「翠華」

無言で、俯いている。 傍に近寄っても、彼女の視線は俯いたままだ。

「翠華」

「・・・バカ」

馬鹿、か。 ・・・確かにな。

「バカ、馬鹿。 何もかも、独りで溜めこんで。 何も、話してくれないで。 揚句に、こんなに苦しんで・・・
―――私って、何なのよぉ!!!」

―――翠華。

「話してくれなきゃ、解らないっ! 何も言ってくれなきゃ、解らないっ! 私って、何なの!? 直衛の、何なのっ!?
どうして、言ってくれないの!? 話してくれないのっ!? ―――こんなに、こんなに苦しいっ! 苦しいんだって!」

―――済まない。

「私ってッ・・・! 私って、直衛の・・・ なんなのよぉ・・・ うっ、うっ・・・」

彼女を、不安にさせたくなかった。 要らぬ心配をさせたくなかった。
でも、それが―――彼女を不安にさせ、心配させてしまった。

―――また、同じ事を。

祥子の時と同じ。 また、同じ事を繰り返してしまった。
そして揚句が、この様だ・・・


「・・・祥子には、知らせない。 知らせられる訳、無いじゃない・・・ 彼女、心配性だから」

「翠華・・・」

「私が責められるのはいい。 身近にいながら、何をしていたの、って。 謗られてもいい。
でも、彼女に不安を与えることは、駄目。 直衛も心配するし、負担になるわ・・・」

祥子は・・・ 言わないだろうな。 お前に、そんな事は。 俺をひっぱたく位は、十分するだろうけど。


「・・・ひとつだけ、約束して。 もう、こんな事はしないで。 直衛、貴方は・・・ 貴方は、強い。
でも。 強いけど、人なのよ。 普通の、人なの。 そして人は―――誰も、独りでは、立ち続ける事は出来ないわ」

(・・・・・・)

「どんなに強く見える人でも。 どんなに強靭な人でも。 必ず、支えになる何かが有るのよ。 支えになる人が居るのよ。
祥子は、貴方の支えだわ。  私は・・・なりたいの。 直衛、なりたいのよ・・・」 

「・・・翠華」

翠華を抱きしめる。
柔らかい彼女の肢体。 甘い香り。 
―――ああ。 彼女の支えになりたかった。
『死ぬ理由』なんて、得て欲しくなかった。 『生きる理由』を得て欲しかった。
俺がなれるなんて、解らなかった。 でもせめて、支えになりたかった。

でも結局。 支えられていたのは、俺だったのか。 俺がそれに気づかず、支えを外してしまっていたのか。

何時もそうだ。 何かを失って。 何かをしくじって。 初めてそれに気づく。
俺を支えてくれていた人の想いを。 俺を思ってくれていた人の想いを。


「うっ・・・ ぐっ・・・ ご、ごめ・・・ ごめ、ん・・・ ううっ・・・」

気がつけば、翠華に抱きついて泣いていた。 涙が止まらなかった。 どうしても、我慢が出来なかった。

「苦しいって、つらいって。 そう言って、いいのよ、直衛・・・ 私に。 祥子に」










周防が部屋を出るのと相前後して、ニコールが入ってきた。

「責任を感じる? ヴァルター?」

「まさか。 そこまで、責任を負えるものでは無い。 そこまで自惚れてはいないよ、ニコール」

不意に、後ろから抱きついてくる。 いや、包み込むように。

「・・・優しい、嘘つきさん。 貴方は、彼を気にかけていたわ。 誰よりも、成長する姿を喜んでいた。
最初から? いいえ、そうでは無いわね。 でも、彼を信頼していたわ。 彼がいたから、貴方は指揮に専念できたのよ?」

「・・・言い返せないところは、少し悔しいな」

言い返せるものですか。 そう言って、彼女が微笑む。

「気付いて欲しいわ、彼にも」

「ん?」

「男が、女を包み護るのなら。 女は、男を支え護るのよ」

―――そうだな。

ニコールの手を握る。
人は。 決して独りでは、成り立てないものなのだ。 










1994年9月25日 0900 モロッコ・リーフ自治州 テトゥアン国連軍基地


出立の日。 部隊の仲間が見送りに来てくれた。

「元気でやれよ? あと、さっさと戻ってこいよ。 じゃねぇと、本当に俺の『部下』って事になりかねないぜぇ?」

「その時は、実力で奪い返す」

はははっ! ファビオが大笑いする。


「留守中は、私が扱いておくから。 帰ってきてから、だらけ具合を確認して頂戴」

「「 えっ!? ク、クムフィール中尉!? 」」

「安心して、任せるよ。 ギュゼル。 ・・・アリッサ、フローラ。 しっかりな」

「はいっ! 隊長が帰ってきた時には、ビックリさせてやりますよっ!」

「アリッサ、今はクムフィール中尉が隊長だよ・・・ 『アンタって、細かい男ねっ!?』 ・・・はあ。 
それと周防中尉、次は絶対に『フローレス』って、呼ばせてみせますっ!」

「ははっ、その意気だ。 2人とも。 精々、吃驚させてくれ」

「「はいっ!」」


「ふぅ・・・ 流石に、やかましい連中が減ると。 ちょっとばかり・・・ 静かになるわね?」

「素直じゃないね? ヴェロニカ。 寂しいって、言えばいいのに・・・」

「ちょっと!? ミン・メイ! 私はねぇ!!」

「はいはい・・・ じゃ、ね。 元気でね。 みんな、いつでも待ってるよ」

「ああ、ミン・メイ。 戻ってくるよ。 ヴェロニカ、暫く寂しいだろうけど、我慢してくれ」

「~~~っ! 私はッ! 別にッ!」


「しっかりね、周防中尉」

「また、戻ってきて下さいね」

「ええ、趙中尉、朱中尉。 お世話になりました。 ・・・また、早いうちにお世話になるよう、頑張ります」


そろそろ、時間だ。

「・・・翠華、あの子、どうしても見送りにはいかないって・・・ 言い出したら、強情なんだから」

朱中尉が、溜息をつく。

「大丈夫ですよ。 ・・・また、戻ってきます。 そしたら、また会えますから」


皆に別れの言葉を告げて、衛門を出る。

―――圭介と久賀が居た。

「よう。 名残は惜しんだか?」
「随分、長かったな」

「お前らと違って。 俺は情が篤いんでね。 名残を惜しんでくれる人が多いのさ」

「ぬかせ。 ―――って、お前、今度は何処に?  俺は北アイルランドのベルファスト。
久賀は何と、アイスランドのレイキャビクだ」

何と、圭介の転任地は北アイルランドのベルファスト郊外にある、国連軍衛士訓練校。 そこの戦術機課程の教官職を拝命していた。

久賀はアイスランドの国連欧州軍技術廠・試験運用実証団。 早い話が、試験・開発衛士をする事になった。

「圭介、教官って。 実用課程の指導教官?」

「ああ。 基礎課程から上がってきた卵たちを、扱きまくる役」

「サドの長門には、うってつけだな」

基礎課程が、主に下士官の指導教員の元。 軍人としての『基礎』を叩き込まれるのに対し。
戦術機実用課程は、将校の衛士教官がこれでもか、とばかりに戦術機のイロハを叩き込む。


「でも、久賀が開発部隊ねぇ・・・」

「寧ろ、壊れて問題個所が判明する事に、期待されたんじゃないか?」

「うるせぇ」

欧州軍の開発試験部隊は、レイキャビークとスペイン領カナリア諸島のラス・パルマス。
いずれかを行ったり来たり、と聞いたことが有る。
ま、結構慎重かと思えば、思いっきり戦闘機動で振り回す事のある久賀には、合っているのかもな。


「で? 直衛。 お前は?」

「ん・・・ 実は、よく判らない」

「はぁ!?」 「なんで?」

「辞令書には、『欧州軍総司令部・副官部に出頭』 これしかないんだよ。
どんな仕事をするのか、何も判らない」

ゼスチャーで「お手上げ」と。


「・・・こいつが、副官なんて出来る訳もないし」

「明日にでもBETAを滅ぼす方が、確率的に高いな」

―――うるさい。

「でも正直。 不安だよなぁ・・・」









窓の外に、彼の姿が見える。
思わず、涙が出そうになる。

―――いけない。 我慢するはずでしょ!?

うん。 我慢する。 我慢できる。


「行ったわね」

「オベール中尉・・・?」

ふと、彼女が私の両肩に手を置く。

「終わりじゃないのよ? これは、始まりなの。 翠華、貴女と。 彼と。 そして、極東にいる彼女にとってもね?」

「うっ・・・ うぅ・・・」

「我慢することは無いわ。 貴女、立派に送り出したじゃない、ね? 翠華・・・」

「ふっ・・・ ひっく・・・ ふぅ・・・うっく・・・」




視界がぼやける。 イヤだ。 彼の姿が、ぼやけてしまう。 見ていたいのに。 ちゃんと、最後まで見ていたいのに。



「ひっく・・・ うっ・・・ うっ・・・くぅ・・・」











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